それは不思議な出会いだった2 〜完結〜
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IS学園に転入した俺は、1年3組に案内された。流石女性だけが乗ることができるISの学園、男は俺と窓側の最奥に2人並んで座っている計3人だけだ。

あの二人は確かTVで見た覚えがある。俺よりも先に転入していたのか。

俺自身、政府の調査が入ったのが前の高校の入学式の時という遅い時期だったから、新生活に向けて新たに契約していたアパートの解約や荷造りなどでいろいろと時間をくってしまいIS学園の入学式には間に合わなかったが、なるべく早くしたつもりだったのに。

ずいぶんと荷物が少なかったのか、片付けとかが得意なのか。

後者だったら羨ましい限りだ。俺はめんどくさがりで片付けは苦手な方だからなぁ。

それはそうと俺は担任の……まぁ、名前なんてどうでもいいや、先生でいい。なんとも男を見下したような先生で、初対面から「気怠そうで、だらしのない顔だ。昨今の軟弱な男そのものだな」などと言われた。

 

(……大きなお世話だ。気怠そうで呆っとしたような顔なのは生まれつきだっつうの)

 

その先生から窓際に並んでいる男性生徒2人の前に座るように言われた。

男が少ない中、先生なりの配慮なのかと思ったし実際そのようだが、「さびしくないように一緒の方がいいだろ?」と鼻で笑って言っていたことから明らかに馬鹿にしているようだった。

……まぁ、女子に囲まれて男一人なんてのよりは何倍も気が楽なので文句を言うつもりもないが、やっぱりこの先生は嫌いだ。

その後、簡単に自己紹介をした後に授業が始まったが、先週くらいまで普通科の高校に受験するために勉強していたのだ。ISに関することなどわかるわけがない。

一応分厚いテキストをパラッと目を通してはいるが、やはり専門用語ばかりのテキストなど頭に入るはずもなくほとんど覚えられていない。

魔法のことは自分の興味のあることだからか寝る間も惜しんで熱心に練習していたから、早い段階で簡単な術式は習得することはできたというのに……。

さらに、授業についていけてない俺を集中して当てて問題を出してくる始末。

もちろん答えられない俺に、嘲笑って「こんな基礎もわからないのか」という教師。

 

(……この陰険年増教師が。婚期来るな、一生来るな! 嫁ぎ遅れろ!)

 

婚期が来ないようにする魔法があったらどれだけよかったことか。今度裕野さんにそういう魔法を作れないか聞いてみよう。

 

辛く苦しい戦い(授業)が終わった次の休み時間。

グダーッと机に体を倒している俺に、後ろから声がかかる。

 

「災難だったなぁ、高村。まぁ、俺たちも転入した初めは同じ扱い受けたけどな」

 

「まぁ、最初だけだ。あの陰険女とて教師。流石に毎度授業であんなことはしてこない。

言ってみれば警告のようなものだろう。俺たち男が大きな顔をしないようにというな」

 

そういってくるのは同じ男性IS操縦者の二人。

……確か本郷和義に式守一斉だったか。

 

「……それは朗報だ。毎回あんなことされてたら、ストレスで学校を破壊しそうだ」

 

「ハハハッ! そうだよなぁ! 俺も最初の頃何度もそう思ったよ! だけど、流石に教師陣もIS使ってくるからなぁ。

盗んだバイクで走り出すような不良行為なんてやらかしたら、一発で這い蹲らせられるよ」

 

「認めたくないものだが、あんなのでもIS学園の教師を任されている身。織斑千冬ほど規格外ではないが実力は相応だ。

かくいう俺は、入学試験時にあの陰険女に当たってな。ほとんど一方的な展開だった。

……くっ! 転生の時に何かしら能力を授かっていれば、あんな女に遅れはとらなかったものを!」

 

昔の不良みたいに学校内をバイクで走って窓ガラス割るレベルの破壊ととられたようだ。

一番威力の高い魔法を使えば文字通り学校を破壊させることも可能なのだが、これは言わない方がいいのだろうか。

特に裕野さんからは情報の開示に関しては何も言われてないけど、悪目立ちも面倒だしあまりおおっぴらにしない方針で行くか。

 

「……(ていうか、転生?)」

 

「ったく、無いものをいつまでも言ってるなよ。俺だって内心はそう思ってはいるけど、割り切って生きようって考えてるんだから。

ていうか、声が少し大きいぞ。変な奴に見られる」

 

「あぁ、そうだったな。これは一般人には知る故もないことだ」

 

「……(ごめん、俺も知らないんだけど)」

 

すでに女子から遠巻きに見られてるのだが、それは……。

何やらこの二人の間で共通の話題ではあるようだ。いわゆる少し遅めの厨二病というやつだろうか?

……考えてみれば俺の魔法も、下手をすれば厨二病の仲間入りしそうな話題ではあるか。

悪い奴らではないようだし、生暖かい目で見守りながら付き合っていくか。

 

そういえば、俺が入学試験した時に相手をしたのは山田先生とか言ったな。

ここの担任の教師とは違い、優しくほんわかしていてどこか天然が入ってるような先生だった。

なんというか強そうには見えず戦いといった物とは無縁そうな人のように見えたが、流石はIS学園の教師。そん外見とは裏腹にISでの戦闘は確かに強かった。

試合が開始して、こちらの攻撃を全ていなしてあっという間にKOさせられてしまった。まさに大人と子供くらいの力量差といったところか。

……まぁ、ISなんて最初の検査の時以来乗ってなかったから、そんな俺が勝てるわけないのだが。

というか、ほとんどの生徒が俺と条件は同じはずだ。

ISのコア自体数が限られているし、ISに乗れる場所など軍関係やコアを所持している企業を除けば日本ではIS学園くらいのもの。

多少は手加減もしているだろうが、仮にもISに関してはプロフェッショナルな教師陣。

そんな人たちに勝てる奴なんて、ずっと前からISに乗る機会の多い国家の代表候補性くらいなものだろう。

そのため、試験で仮に教師に負けたとしても恥でもなんでもない。わざわざ負けたことを公表する気もないが、仮に周りに知られたとしても仕方ないことだと受け入れられる内容だ。

それを恥だとか、自身が勝ったことを大々的に言ってくる奴はどれほど自尊心が高い奴なのだろうか。

 

(……あぁ、うちの担任がそうだったな)

 

最初の自己紹介の時に俺が試験で負けたことを言う必要もないのに、わざわざ「試験を見ていたが、目も当てられないくらい無様な負け試合だったなぁ?」などと言ってくれちゃったわけだ。

……マジで不幸が訪れろ。道歩いてる時にカラスの糞に当たっちまえ!

 

(……まったく)

 

「……できれば、山田先生が担任だったらよかったのに」

 

ふと出た言葉。

それに二人は反応してくる。

 

「あぁ、だよなぁ。IS学園と言ったら山田先生がいるクラスだろうに」

 

「定番と言えば定番だな。まったく、あのクラスに入ることができた男どもには不覚にも嫉妬の感情を覚える」

 

あれ、山田先生って結構有名人だったのか?

まぁ、入学してから話をしたことがあるのかもしれないな。

山田先生はたぶん間違いなくIS学園の中でも上位に位置する良識人だろうし、この二人もやはり山田先生のクラスに入りたいと思っていたのだろう。

それなのに、クラスの担任があの陰険年増教師と来たものだ。

 

「ま、別に朝から晩まであの先生と顔を突き合わせてるわけでもなし。卒業まで長いんだ、いいことだっていろいろあるだろうさ」

 

まぁ、俺の場合だともっと早い段階で学校から去る可能性もあるが。

ISとの模擬戦が行われる日。

それがいつかはわからないが、裕野さんが言うにはその日を境に世界の在り方が多少なりとも変化を見せる可能性があるという。良くも悪くも。

そうなれば、俺も魔法の研究のため学校を去ることができる可能性があるのだ。

俺としても、できるならば早いところ魔法の研究を続けたいため、模擬戦が行われる日が今から待ち遠しい。

……まぁ、可能性の話でしかないし、最悪卒業までの三年間IS学園に通い続けることにもなりかねないわけだけど。

 

(……それはマジで憂鬱だな)

 

これから先を悪い方向に予想してしまい、若干ナイーブになってしまった。

 

「そうだな。夢にまで見たIS学園に入れただけでも、もうけものって考えないとな」

 

「この世界に介入できるほどの力はないが、それでもこの世界を俺たちなりに楽しむことはできる。

奇跡的にも廻ってきたこの人生、十分に謳歌しようではないか!」

 

「……そうだねー(棒」

 

どこか厨二な雰囲気が香る発言に苦笑しながらも、この二人と一緒に学園生活を送るのも悪くないと思えてしまう俺がいる。

模擬戦がいつ行われるのか、その後どうなるのかわからないが、その時が来るまで俺もこいつらと一緒に学園生活を謳歌するのもいいかもしれないな。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

放課後。

食堂で本郷達と食事を終えた俺はあてがわれた部屋に来ていた。

男の人数や部屋の関係上なのか、あてがわれた部屋はちょうど個室であったようだ。

 

(……あれ、男の数は8人だし、別に余りはないよな?)

 

男が偶数なのに、わざわざ女と一緒の部屋に割り当てられたわけでもないだろうし。

不思議に思うが、学校側の都合なんて俺にわかるわけもない。早々に考えるのをやめた。

鞄を机の上にポイッと放り投げ、俺は備え付けられたベッドにダイブする。

中々いいベッドのようで、ふかふかで気持ちがいい。

 

「……あー、疲れたー」

 

今日一日座学ばかりではあったが、精神的に疲労が半端ない。

学び始めたばかりのわからないことばかりで、しかも俺としては興味の持てない内容。

授業中も上の空になりがちで、全然頭に入ってこない。そんな時を狙ってか、時々俺に当ててくる先生。

答えられないと「これだから男は」と、わけのわからない罵倒をされる。

なぜ俺が怒られてるのに、男がどうのこうのって話になるんだろうか。

なんにしろ、体を動かしたわけでもないのに、疲労感が半端ない。

少しでもISの勉強をして皆に追いつくようにと先生には言われてるが、今はそんなことをする気分も余裕も持てない。

俺自身、不真面目すぎると他の男性にも影響が出そうなので、平均点がとれるくらいには勉強をしておこうかとも思うが、それも明日以降に期待ということで。

今日はもう寝させてもらおう。風呂に入る気力もないし、早朝に起きて入ることにしよう。

 

「……おっと、忘れるところだった」

 

いい感じに睡魔に襲われていた俺は日課を思い出して、部屋に運び込まれていた荷解きが終わっていない段ボールを漁る。

中から取り出したのは、一見日差し避けのバイザーのように見えるが、所々に細いケーブルが出ている。

どんなものかというと、簡単に言えば睡眠学習装置のようなものだ

もちろん一般的に出回っているような、聞いて覚えるとかそういった睡眠学習装置ではない。

これは寝ている間に見る夢の指向性を誘導して、特定の夢を見るようにするといった代物だ。

裕野さんが作成したもので魔法技術と科学技術の両方で作られている、かなりハイテクな装置なのだ。

これをしばらく前に裕野さんに渡されて、夜寝る時には使うようにしている。

いつか迎える模擬戦に向けての訓練として、裕野さんが設定したいろんな魔法使いと戦っていくというものだ。

これを使うことによって、いろんな戦闘スタイルの魔法使いとの経験が詰めるという寸法だ。

ISとの模擬戦が当初の目標なのだがそもそも誰と、どんな機体と戦うかわからないし俺自身の戦闘経験自体も少ない。

魔法使いとISとではいろいろと違うが、それでもISとは比べる必要もないくらい多くの戦闘スタイルが魔法使いにはある。

様々なスタイルの魔法使いと戦うことでより多くの戦闘を経験し、その場に合わせて臨機応変に対応できるような柔軟性を磨くことも目的には含まれているらしい。

それでもたかが夢、そう思うかもしれない。しかしただの夢と侮るなかれ。これを使っている状態で夢の中で魔法を使うと、実際に起きている時に自分が使っているのと同じ感覚なくらいに現実的で、しかも痛みまである。

組み込まれた魔法の影響なのか、激しく運動するとリアルでもかなりの筋肉痛がすることもある。

夢の中である一定以上の痛みは感じないようにはなっているそうだが、本当に夢なのかと毎度のことながら疑ってしまうほどリアルだ。

そして、今まで使ってきて分かったが、魔法は術式を覚えることも大切だが、感覚的なものもかなり重要だったりする。初めて空を飛んだ時など、それを身を持って体感したものだ。

夢でとことん戦って魔法を使うことに感覚的に慣れることで、現実での魔法行使を容易にすることができる。

裕野さんの研究所にいた時は裕野さんと模擬戦をしたこともあるが、ここではそうもいかないためこれはかなり重宝する。

実際、裕野さんが設定した夢で戦う相手はみんなかなり強く、そして戦い方がうまい。

俺も魔法を覚えた頃よりはだいぶ上達したと思うが、やはりまだまだだと実感する。

 

……ちなみに、その設定されていた相手はあの“魔法少女リリカルなのは”に出てくるキャラクターだったりする。

最初の頃、一人のリリなのファンとして興味本位でベルカの騎士として描かれ近接戦最強クラスと目される烈火の将シグナムと戦ってみたが、一瞬で近接戦闘に持ち込まれて杖ごと切り捨てられてジ・エンド。

……これは無理だ、今の俺じゃどうあがいても勝てるわけがない。

そう思って一ランク落したつもりで鉄槌の騎士ヴィータと戦ってみたら、一瞬で近づかれてボールのように打ち上げられてホームラン。

少し頭にきて後方支援担当として描かれていた湖の騎士シャマルと戦ったら、開始早々空間を跳ばれてどこか見えないところから旅の鏡越しにリンカーコア抜かれてダウン

最後に盾の守護獣ザフィーラと戦ったら一瞬で近づかれてフルボッコ。ギリギリでプロテクションが間に合ってもプロテクトブレイクされてやはりフルボッコ。

……魔法が使えるからと調子に乗って、少しでもいい勝負ができるんじゃないかと付け上がった結果がこれだよ。彼女たちは歴戦の勇士、様々な魔導師や人外と戦い抜いてきた戦闘のプロ。俺のように一般人に毛が生えた程度の人間など、足元にも及ぶはずがありませんよね、ほんとスンマセンでした!

身をわきまえた俺はまだ空中戦闘がおぼつかないため、まずは武装隊の中の陸士部隊との戦闘で戦いの感覚をつかむことにしたのだ。

 

毎晩戦い続けてきたため、今では航空部隊の隊長クラスといい勝負ができるようになってきたところだ。

……大体ランク的にはAランク相当らしいから、Sランクのシグナムさんとまともにやりあえるようになるのはだいぶ先のことだろうな。

とりあえず、まずはお馴染みの航空部隊隊長さんをまともに倒せるようになってからだ。

そう決意を新たにして、俺はベッドに横になると装置を装着して起動する。

備え付けられた睡眠誘導の魔法が発動し、俺はゆっくりと眠りの中へ落ちていった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

学園に転入してから3ヶ月ほど経った。

学園生活に慣れて、勉強の方もそこそこついていけるようになってきた。

まぁ、あの担任の先生の陰険さは相変わらずで、まだ習ってないところを「予習してればこれくらいはわかるはずだが?」などと俺たち男性陣に言ってきたりするが。

……ほんと嫁ぎ遅れて売れ残ればいいのに、あの先生。

ちなみに、以前裕野さんに婚期が来ないようにする魔法はないのか聞いたら、「それはもう魔法じゃなくて呪術とか呪いの部類じゃないかな」と苦笑いを浮かべて言っていた。

魔法ではそういうことができる物はないらしい。心底残念だ。

 

さて、この3ヶ月の間、他のクラスでクラス代表戦だとか、新たに現れた男性IS操縦者が転入してきたとか、ISの学年別トーナメントだとか色々とイベントっぽいものが起きたが。

まぁ、特筆することもないだろう。

だって、クラス代表決定戦なんてよそのクラスのことだし、そもそも自分のクラス代表自体も誰がなろうと興味なかったし。むしろ変にでしゃばるとまたあの先生がうるさそうだからと、基本的に俺たち3組の男性陣は事の成り行きを見守っているだけだったし。

厨二気味な二人が代表になりたいと名乗り出なかったのは少し以外ではあったが、まぁ、やはりあの先生がネックだし、妥当なところだろうかな。

クラスの女子も空気を読んでくれたのか、自薦他薦問わないという先生の物言いに俺たちを面白半分で推薦することもなかったし、穏便にクラス代表も決まったことには安心した。

新しく男性の操縦者が現われたことも、俺たちという実例がいたんだし今更一人増えたところで「へぇ、そうなんだ」程度なものだ。

……何やら二人が「あざとイン来た!」「ボクッ娘来た!」「「これで勝つる!!!」」とか言ってたけど、何のことだったのだろうか?

学年別トーナメントは学生は強制参加らしく、例年と違ってタッグ戦ということのため二人のどちらかと出ようかと思ったら二人がいつの間にかタッグを組んでたし。誰か探すのも面倒だから、最後のあまり同士の抽選で決まった知らない女の子と組んで出たら一回戦で負けたし。

……ISって、ほとんど自分の手足みたいに動くっていうのを売り文句にしてるけど、俺としてはなんか微妙な感覚で慣れないんだよな。

ISの適正ランクが低いからかもしれないけど、どうにも俺にはISは向いてないらしい。

まぁ、ISより魔法な俺にしたらどうでもいいことだけど。

ただ、一緒に組んでいた女の子は中々強く、頑張っていたのだが不慣れな俺があまり役に立たなくて最初に撃沈。その次に2対1に持ち込まれて組んだ女の子もあえなく撃沈。

そんな結果でトーナメントが終わり、組んだ女の子が少し落ち込んでいたのが心残りではあった。

来年にはもっとうまい人と組んで、上位入賞を目指してほしいものだ。

あぁ、これには少し特筆することはあったか。なんか、よくわからないロボット? が決勝戦の時に乱入してきたらしいのだ。

らしいというのは、トーナメントが終わった俺は女の子と別れてそっと自室に戻ってきていたから実際にはその光景を見ていないのだ。

俺も男だし、ISという俺の興味から外れたものでも自分が行う戦闘で熱くならないはずはない。その戦闘で不完全燃焼だった俺は、部屋に戻ってきて装置を使って夢の中で訓練を行っていた。

夢から覚めたら全てが終わった後。夕食の時に本郷達から事の次第を聞いたのだ。

被害は出たのか聞くと、最初の男性IS操縦者の織斑一夏とまたまた転入してきた女の子、黒ウサギちゃん?(本郷達談)が軽傷程度で済んだらしいため、とりあえず一安心といったところだ。

 

そんな色々とあった当人達にとっては濃密な、そしてほぼ輪の外にいた俺にとってはなんてことのない3ヶ月が過ぎてさらに少し経ったある日。

裕野さんから一本の電話が入った。

 

……ようやく、というべきか、もう、というべきか。ついにこの日が来た。

魔法の存在とその真価が披露される模擬試合の対戦相手が決定されたのだ。

その相手の名前は織斑一夏。女性しか乗ることのできないとされていたISの常識を翻した、史上初の男性IS操縦者だ。

そのことを裕野さんは、一種の宣伝のような物だろうと言っていた。

織斑一夏は男性の操縦者の中では確かにISの適正ランクが高くはあるが、ISの搭乗時間は少なく力量としても彼以上に強い人物はいる。

そんな中で彼が対戦相手として選ばれた理由は、史上初の男性IS操縦者であることに加えて、世界最強のIS操縦者であるブリュンヒルデ、織斑千冬の弟であるからという。

その試合は各国のお偉方も見るし、TV中継で全国に放送されるお祭りのような状態なのだ。

世間では魔法など御伽話の存在と考えているだろうし、政界の代表者も世間も対して期待なんてしてはいないだろう。

今回の主役はどちらかと言えば、世間で注目を浴びている織斑一夏の方なのだ。

史上初の男性IS操縦者であり、世界最強のIS操縦者であるブリュンヒルデの弟の実力を見てみたいと思うのは、ある意味自然といえるかもしれない。

しかし、もし織斑一夏の実力が大したことがなかったら、「やはり男なんて」「ブリュンヒルデの弟でも男は男」という女尊男卑の風潮がより一層強いものとなってしまう可能性もある。

そう考えた政界人が、今まで織斑一夏の試合シーンを撮影させてほしいといったTV局からの打診を受け流し続けていたのだ。

 

そんな中で、今回の魔法という御伽話の存在の出現。

そんな非現実的なもの、どうせ大した存在じゃないのだろうが、それと同時に織斑一夏との当て馬として対戦相手にするにはうってつけと考えたのだろう。

一般人だとISの試合なんてそうそうお目に掛かれるものではない。

ISの戦闘速度は搭乗者によってまちまちだが、それでも直線距離の速度は自動車等とは比べるまでもなく速い。

そんな速度で織斑一夏が仮に拙い攻撃をしたとしても、一般人にはとてつもなく速い攻撃をしているように映るだろう。

それで俺が負ければ、そんなすごいISを操ることができる織斑一夏は尊敬されるだろうし、関接的にそんなことができる男の尊厳を保つことができるかもしれない。

逆に俺が勝てば、そんなすごいISを凌駕する力を行使する俺、ひいてはそんな男は尊敬されるかもしれないし、ISと同等かそれ以上かもしれない新しい力を研究していくことができるかもしれない。

俺の方の勝った場合がいろいろと“かもしれない”が多いが、それらは本当に予測の範囲でしかないため、なんとも言えないことだ。

とりあえず、どっちが勝つにしろ負けるにしろ、多少なりともメリットは考えられるということだ。

……まぁ、魔法という男でも使える力が世に出回ると、今まで大きい顔をしていた女にとってはいい気はしないだろうが。

それでも織斑一夏の存在を明るみにしたいという声も大きく、「魔法など」といまだに信じていない者も多いようで、今回の試合を女性側から反対する意見はあまり出ていなかったようだ。

なんにしろ、全国から見世物にされるだろう織斑一夏には同情の念が湧いてくる。最初から期待値が底辺な俺としては、まだ気楽なものだ。

まぁ、それでも裕野さんの悲願、魔法の存在とその真価を世間に認めてさせるためには、俺が勝った方がいいというのも事実。

同情はするが、負けられる戦いじゃない。

 

(……絶対に勝たせてもらうぞ、織斑一夏)

 

対戦相手との戦闘を考えるとだんだんと気が高ぶってくる。

 

だが調子には乗らない。

夢の世界とはいえ、調子に乗って無謀にも格上の相手と戦って、一瞬で負けたのを今でも覚えてる。

 

油断もしない。

夢の世界とはいえ、外見が小さいからと油断をして手痛い目にあったこともある。

 

躊躇もしない。

俺が使う魔法はものによっては派手で客観的にみて恐ろしく映るかもしれないが、非殺傷設定が施されている。これにより相手が死ぬことはとりあえずない。

それに相手にはIS特有の絶対防御が備わっている。

威力の大きい一撃を当てれば、それを構成するエネルギーを削りきることもできるだろうが、絶対防御とは別に搭乗者を守る機構もISには備わっている。

むしろ危ないのは俺の方かもしれない。ISの攻撃はこちらとは違い非殺傷などという機能はついてないのだ。

一応こちらにはバリアジャケットがあるし、戦車の砲弾を受けても死なないくらいには頑丈だと裕野さんに聞いてはいるが、ISには砲弾クラスの攻撃力を上回るものもある。

少しでも躊躇してしまえばこちらの方が痛い目を見てしまうだろう。

これも、夢の世界で経験したことだ。とどめを刺すことに躊躇してしまうと、一瞬で形勢が逆転してしまう。

 

今までの失敗を含めたいろいろな経験を活かして、何が何でも勝ちをもぎ取ってやる。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

試合当日。開始前に裕野さんに激励を受け、気合を入れ直して試合に臨んだ。

調子には乗っていなかったつもりだ。油断もしていなかった。相手への攻撃も躊躇していない。

……それでも俺は今、試合会場の壁にめり込み、意識が朦朧としている有り様だった。

 

俺と織斑一夏はほぼ、互角といっていい試合をしていた。

流石は最先端技術の粋が詰まったISといったところか、俺が訓練をしていなかったらあっという間に負けていたかもしれないほどの機動力だ。

それでも織斑一夏自身はまだまだ未熟なのか、夢の中で戦った歴戦の戦士、ヴォルケンリッターの面々とは比べるまでもなく弱かった。

織斑一夏は剣を使っていたが、その太刀筋はシグナムさんよりは遅いし、スピードも十分に目で追えるレベルだった。

これも今までの訓練の賜物といったところだろう。

……それでも、最後の最後で俺は一手ミスをしてしまった。

そのミスは、とっさの瞬間にプロテクションで相手の一太刀を受けてしまったこと。

どういうわけかわからないが織斑一夏の剣、というかその能力の零落白夜とかいったか。

それはISの放つエネルギー性質のものを無効化するという、ISにとって天敵とも呼べるような代物だ。

しかし、俺が使うのは魔力であって、ISが使っているようなエネルギーなんてない。

だというのに、俺の魔力で構成されたディバインシューターをなぜか斬り裂くし、ショートバスターを受け止めるしと、わけがわからない。

一応、“無効化”ではなく魔力の構成に干渉して、その構成を緩くし斬撃で削っているような感触を感じたためもっと高威力の砲撃魔法、ディバインバスターレベルならば押し切れるとは思う。

まぁ、相手も果敢に攻撃してくるから中々チャージタイムが取れないのだが。

それでも、勝つ方法ならば他にもある。

砲撃のチャージタイムが取れないならば、砲撃はすっぱり諦めればいい。

俺は威力は劣るが精密性が優れているアクセルシューターに切り替え、四方八方から相手を狙って攻撃する。

先程の威力重視のディバインシューターとはうって変わり、素早く縦横無尽に空を駆けるアクセルシューターに対処ができず徐々にシールドエネルギーを減らしていく織斑一夏。

このままいけば、そう遠くないうちにISを動かすためのエネルギーが底をつき、俺の勝利に繋るはずだ。

……驚くべきは織斑一夏の戦闘に関するセンスの高さといったところか。

最初はアクセルシューターの動きについてこれずにシールドエネルギーを削られていたが、その動きにも少しずつ慣れてきた様で剣で受けとめてきた。

そしてシューターの動きを先読みして動き、次第に掠らせることすら困難になっていった。

最初のころとは比べ物にならない動きの良さ。織斑一夏はこの戦闘中の短い間に、これほどまでに成長したというのか。

だとしたら、なんという成長の速さか。流石は世界最強のIS使いの弟というべきか。

これ以上成長されたら手が出せなくなってしまう。そう焦り始めたところの隙を突かれ、瞬間加速で間を詰められてしまった。

迫りくる斬撃。この時、俺は避けなくてはいけなかったのだ。それなのに、とっさの瞬間に自分を守ることを優先してプロテクションを張ってしまった。

自分の間違いに気づいた時には、もう後の祭り。

とっさのことで魔力もあまり込めることのできなかった障壁は、数瞬の拮抗もすることができなかった。

織斑一夏の斬撃はプロテクション諸共俺を斬り裂き、そのまま壁まで吹き飛ばされてしまった。

 

あの威力の斬撃を受けて今もこうして生きていられるのは、強固に作り上げられたバリアジャケットのおかげといったところか。

それでも、斬り裂かれて構成が半壊してしまったバリアジャケットでは、壁に衝突した時の衝撃を緩和しきることはできなかったようだ。

薄らいでいく意識の中で俺の視界に、自分の勝利を確信したような表情を浮かべている織斑一夏が見えた。

それを見て、俺の中に浮かんできたのは『悔しい』という感情だった。

それは俺とて男の子なわけで、勝負に負けて悔しくないわけがない。ただ、それだけではない。この魔法という力は、俺にとってはかけがえのないもの、特別なものなのだ。

生まれてから今までで、何もやる気が出せずに適当に生きてきて、必要最低限の結果が出せればそれでいいという半端な気持ちでやってきて、本気で心動かされるような出来事などなかった。

そんな俺が、初めて感動して本気で力を入れて取り組んだこと。

この力があったから裕野さんに出会うことができて、魔法という存在に触れることができて、一緒に研究をして、うまく使えるように頑張って頑張って何度も練習して、そしてその頑張りを裕野さんに認めてもらえて。

まだ魔法に触れて一年程ではあるが、それでもこれまで生きてきた中でとても濃厚な一年であったと胸を張って言える。この出会いが、味気ない灰色だった俺の世界を色鮮やかな世界に変えてくれた。

それだけ魔法というものは俺にとって特別な存在なのだ。

それなのに、今俺は負けようとしている。この魔法という力を使った真剣勝負で、俺がその真価を出し切れていないせいで、負けようとしている。

裕野さんは以前、「君の魔法の才能はとても高い。もっと練習を重ねていけば、やりようによってはかのブリュンヒルデにだって勝つことは可能だろう」ということを言っていた。

悔しくないわけがない。目の前のあいつは最近になってISに乗ったというのに、これほどの力を持っている。

それだけ才能豊かだったということなのかもしれないが、それでも同じように才能を認めてもらえて、たくさんの訓練を積んできたというのに、かのブリュンヒルデに遠く及ばず代表候補生でもないあいつにこんな様を見せてしまっていることが悔しくてたまらない。

……いや、そんなものは言い訳だ、ただの八つ当たりだ。そしてあいつに対しての侮辱だ。

ブリュンヒルデに勝てる可能性がある? あいつは代表候補性でもない? 

違う。今、俺が本当に悔しいと思っているのは、どうしようもなく憤りを感じているのは、俺自身の非力さだ。

 

(……負けたく、ない!)

 

力の入らない体がもどかしく、歯を強くかみ締める。

負けたくない。男だからという理由ではない、負けることが悔しいからという理由でもない。

今の俺の中には、今まであった「裕野さんの悲願の成就のために負けたくない」という思いとは別に、「自分が本気で好きになった魔法を使った勝負では、誰にも負けたくない」という、強い思いが芽生えていた。

だから……!

 

【もう少しだけ頑張らないと、だね】

 

……え?

その時、俺は試合会場ではない別の場所に立っていた。

波の音が聞こえ、潮の香りがする。周りを見ると何処かはわからないが、海が一望できる広い公園がそこにあった。

 

「……ど、どこだ、ここは?」

 

さっきまで俺は試合会場にいたはずだ。

それなのに、今は見たこともないどこかの臨海公園。

あの時の状況は意識を失う寸前だったのだ。俺はすでに気絶して、夢でも見てるのだろうか?

 

(……まて、“見たことがない”? 本当にか?)

 

なぜかはわからない。今まで修学旅行でも家族旅行でもこのような場所には来たことはないはずだ。俺の思い出せる範囲では間違いない。

では、この不思議な感覚はなんだというのだ? 

見たことないはずなのに、見たことがあるようなこの既視感。

来たこともないはずなのに、感じるこの懐かしさ。

これは……。

 

【わかるはずだよ? その感覚がなんなのか】

 

俺は「え?」と、声のする方を向く。

そこにいたのは、俺が着ているバリアジャケットと酷似している、白を基調としたバリアジャケットを身に着けた一人の女性。

それは裕野さんが案を出して作家の人が執筆している魔法少女リリカルなのはの第三部作、“魔法少女リリカルなのはStrikerS”に登場する主人公、高町なのはの姿だった。

装置を使って夢の中でも戦ったこともあるので、見間違うはずがない。

裕野さんに装置をもらってまだ間もない時、俺と戦闘スタイルが似ているため参考にしようと選択したのだが、その力はまさしくシグナムさんたちクラス。

開始直後に魔力弾ブチ込むのとほぼ同時にバインドされて高威力の砲撃という超高速コンボをかまされた。

的確かつ早すぎる彼女の戦いは、当時の弱すぎる俺では逆に参考にならないレベルであったため、若干のトラウマを刻み込むと同時に早々に断念したのを覚えている。

そんな畏れと同時に、魔導師の高みにいる者として尊敬もしていた彼女が、今俺の目の前に立っていた。

 

「あ、あんたは、高町なのは? なんでここに」

 

【それもわかるはずだよ。今ならきっと】

 

「な、何を言って……」

 

【思い出して。貴方(わたし)が誰なのか、私(あなた)が誰なのか】

 

「え、あ……あぁ――――――」

 

わけがわからない。いきなり目の前には漫画の登場人物が現れて、いきなりわけのわからないことを言い出してきて。

それでも、なぜかわからないが彼女の言葉はすんなりと俺の中にしみこんできて、自然と俺は思考をめぐらせていた。

そして、俺の中に様々な情景が溢れていった。

それは俺も何度も見て慣れ親しんでいた魔法少女リリカルなのはのストーリー。

魔法と出会い空を飛ぶことの楽しさを知った。魔法に関わる様々な人と出会った。魔法に関わる様々な事件に遭遇した。そして魔法をきっかけに大切な友達が出来きた。

そんな一人の少女の物語。

ただ、それは漫画を読んでいる時のような第三者的な視点ではなかった。

もっと身近なもので、今まで以上に懐かしいという気持ちが強い。

それはまるで、“自分が経験してきた”ことのような、そんな不思議な感覚。

……きっかけは、いくつもあったのだ。漫画を通して魔法少女リリカルなのはの世界を知って、魔法に触れて、空を飛ぶことの楽しさを知って、夢の中で“みんな”と戦って、そして今までは曖昧だった自分の中にある強い思いを感じて。

 

「……そうか、そういうことか」

 

【思い出した?】

 

「あぁ、あんたは」

 

【そう、貴方は】

 

「俺なんだな」【私なんだよ】

 

今ここに、前世(高町なのは)と今生(高村直人)の二つの魂が交差する。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

side 織斑一夏

 

シュッ

 

「っ!?」

 

避けられたのは偶然だった。

誘導性もなく、ただ速度だけを求めた一発の魔力弾は反対側の壁にぶつかり破裂した。

ただ早いだけの魔力弾でしかないが、それ故にとっさに避けることは難しい。さらには試合終了と勝手に決めつけて油断し相手に背を向けていたところの一撃。

白式が発したアラートとさっきまでの試合で磨かれた感覚のおかげで、間一髪で絶対防御をかする程度ですんだというところだ。

一夏は直人を正面に見据えて再び得物を構える。

零落白夜による一撃は間違いなく直人の防御を切り裂き、そのまま壁側まで叩きつけた。

魔法について調査を行ったらしい姉である千冬に聞いたところ、直人の魔法という物には確かにISの絶対防御のような強固な防壁はあるが、ISに搭載されているようないざという時に搭乗者を危険から守る機構はついていないという。

零落白夜の一撃は直人がとっさに張ったシールドと最初から身に着けていたバリアジャケットという防護服を斬り裂いた。そんなボロボロの状態では、ISが繰り出す高威力の攻撃を受けて壁に叩きつけられれば人体に対する衝撃は途轍もないだろう。

……だからこそ油断した。

直人を信じて見守っていた裕野ですら、直人が叩きつけられたところを見た瞬間から直人の敗北を考えた。

観客席にいる生徒達や教師陣も、来賓席にいる賓客もみな同じ考えに行きついていたはずだ。

かくいう織斑千冬も、試合終了と判断しその旨を審判役の者に進言しようとしていた。

だからこそ、一夏がしてしまったこの油断は仕方のないことだったのかもしれない。

 

「……おかしいな、まだ試合は終わってないはずだろ?」

 

ただ一人、壁に叩きつけられた張本人である直人以外は、直人の敗北を予想していたのだから。

 

「油断して相手に背中を向けて。試合だったとしても油断してたら、それが命取りになるんだぜ?」

 

壁に背を預けていた直人はゆっくりと、だがしっかりとその場で立ち上がり一夏を見据える。

頭部から一筋血が流れているが直人に気にした様子はない。

うっすらと開いている瞳を流れてきた血が通過する。

それを拭うこともせず、直人はただ油断なく相手を見据える。

そんな直人の姿を見て、一夏の中に言葉にしがたい感情が広がった。

何かが違うと、一夏の本能がそう告げている。いうなれば雰囲気。

そう、先ほどまで一夏が戦っていた人物と同じはずなのに、どこか別人のように雰囲気が変わっているように感じられた。

……それは例えるならば自身の姉、織斑千冬と昔剣道場で対峙した時のような、そんな気圧されるような雰囲気。

直人は一瞬のうちにバリアジャケットを再展開し、最初のように新品同様の白を基調とした服を身に纏う。

 

「さぁ」

 

人差し指を一夏の方へと向けるとその足元に魔法陣が展開され、同時に指先に桃色の光が収束し複数の魔力球を形成していく。

今まで以上に収束の速度は速く、今まで以上に力が凝縮されていくのが感じられた。

 

「ここからが、本番だぜ?」

 

「……えっ?」

 

(……あ、あれは)

 

そういう直人の背後に一瞬、直人と似たバリアジャケットを身に纏った一人の女性の姿を一夏は幻視した。

 

「【クロスファイヤー……シュート!】」

 

自分に向かって繰り出される砲撃に対応するため一夏は動く。

一瞬で目の前に迫ってきた砲撃を斬り裂こうとするが、腕に伝わってくる衝撃が今までとは段違いなこと驚く。

 

(くっ! お、重い!)

 

それは、気を緩めればその瞬間に吹き飛ばされてしまいかねないほどに。

一夏は一瞬の判断で斬り裂こうとするのを諦めた。

刀身を若干ずらすと同時に、自身も砲撃の射線から外れる。

 

(正面から受けきれないなら、受け流せばいい!)

 

そのまま砲撃をかいくぐって相手に斬り込んでやる。

 

「うぉ!?」

 

……そう思い相手の砲撃を受け流そうとした結果、力を逸らしきることができず弾き飛ばされてしまった。

空中で錐揉みをしながらなんとかバランスを取る。

 

……追撃は、なかった。

直人を見ると、彼はこちらをただまっすぐ見すえていた。

 

(……いったい、どこにこんな力が)

 

うっすらと冷や汗が流れる。

相手はいつ気を失ってもおかしくないほどに、もうボロボロの状態。

しかし、相手から放たれる気迫は、魔法の力は開始時よりもはるかに強い。

油断なんてできない。そんなことをすれば一瞬で負ける。一夏は本能的にそう感じた。

 

(……負けたくないな)

 

ボロボロになりながらも、強い意志を持って自分の勝利を信じて戦い続ける直人。

そんな直人の姿を見て、一夏は一人の男として素直にかっこいいと思った。そして同時に負けたくないとも。

 

(……あいつに、直人に負けたくないな!)

 

強くそう思った。

知らず知らず、心が熱く高ぶっていくのがわかる。

 

――――――力を欲しますか?――――――

 

そんな時、どこからともなく不思議な声が聞こえてくる。

しかし、一夏はそれが自分のISの声なのだと感じた。

 

“ISには意思がある”

 

何処かは忘れたが、依然何処かで聞いたことがある。

これが、自分のISに宿っている意思なのではないか、そう思った。

 

(……あぁ)

 

その声に一夏は頷く。

 

――――――なんのために?――――――

 

なんのため、か。

……そんなの、決まっている。

 

(あいつに、直人に勝ちたい。全力を尽くして戦うあいつに俺も応えたい!)

 

それが一夏の思い。

今この瞬間、何よりも強く感じている心からの叫び。

 

――――――そうですか――――――

 

【――――――第二形態移行――――――完了――――――】

 

そんな一夏の思いに応えたのか、一夏のIS白式は第一次形態移行をした時と同様にその姿を変えた。

より強く、より早く、高い性能の機体へと。

 

「……これが、第二形態」

 

その存在感は、今の直人に負けず劣らずの力強さを感じさせる。

 

【――――――第二形態、多機能武装腕“雪羅”――――――】

 

「……よし。いくぜ!」

 

新しく現れた4機のウィングスラスターを一杯まで噴かせて瞬間加速を行い、一気に直人に近づく。

ボロボロだからと油断などしない。躊躇もしない。

自身と新しい白式の全力で直人を倒す。

 

そんな一夏を見た直人も、フラッシュムーブを使った高速飛行で一気に一夏に近づく。

巨大なエネルギーの爪と化した一夏の零落白夜と、強大な魔力が込められた直人の杖が交差する。

会場全体に響き渡るような大きな衝撃に、皆が一様に身をすくめる。

そんな中でただ二人、一夏と直人だけは互いに笑みを浮かべていた。

この瞬間を心から楽しんでいるかのように。

 

 

 

今この時、二人の本当の戦いが始まったのだ。

 

 

 

 

説明
前回の更新から1年以上も時間が空いている。
多分もう誰も見ていないだろうなぁと思いながらも、ひっそりと投下します。

TINAMIに3年前に再投下、なろうにいた時からだと既に4年くらい前の作品になるのかなぁ。
”それは不思議な出会いだった”の続編であり、完結編でもあります。
個人的に、以前から書きたいなぁとは思っておりちまちま書いていたのですが、結局ここまで長くかかってしまった。(遠い目
個人的に書きたいところを選んで書いていたので、いろいろとイベントや出来事、描写などが省かれていたりするので、物足りなく感じるかもしれませんがどうかご容赦を。

こんな作品でも、見ていただける方がいましたら、望外の喜びでございます。
それでは、本編の方をどうぞ。


前回:http://www.tinami.com/view/481856
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