リリカルなのはZ 第十九話 スマイル |
「このっ、おっ、おっ、ばっ、かっ、どっ、もっ、がっ!」
ゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴン!
「ぬあっ」「にゃっ」「あうっ」「はうっ」「うっ」「あたっ」「ふにゃんっ」
使徒との戦いが自衛隊とNERV.管理局にグランツ研究所の合同作戦による勝利で幕が下りてしばらくしてその作戦場所。大型のDエクストラクター配置された場所に元からいたディアーチェ達とアミタ・キリエ達の頭上に高志の拳骨が落ちた。
どれもこれも離れた場所で見ていたシンジやフェイトの耳にも届くほど音を立てた。
七人の少女達は全員痛みで涙目になって高志を睨もうとしたが高志の剣幕がそれ以上に恐ろしかった。シンジ達からは見えないが相当に恐ろしい顔をしているに違いない。その証拠に夕日で伸びた彼の影がガンレオンのマグナモードの形になっていたから。
「この大バカ娘どもが!アミタにキリエもそうだ!五号機と六号機は未だに調整中だというのに使用しやがってもし使用中に起動停止なんて起こしたらどうする!空を飛んでいる時に故障したらどうする!」
「ううっ、だからって殴ることはないでしょぉ」
「そうですよっ、あの時は人命救助の銘をうってプレシアさんやお父さんからも許可を・・・」
怒られている少女達の中でも最年長のアミタがキリエの訴えを援護するように理由付けをしようとしたがそれをかき消すように高志の怒号が響く!
「だからお前等は馬鹿なんだ!わざわざ空を飛ぶ事はない!何のための身体機能の上昇が付加されていると思っているんだ!地上からでも最低でもビルの屋上から声掛け!そんでもってD・エクストラクターで空中モニターを表示させて道案内をすればいいだろうが!わざわざ危険な空に躍り出ることはない!」
「・・・はい」
「ごもっともです」
救助に向かった奴等が二次災害でやられました。なんて、シャレにならない。
まずは自己の退路を確保するのが大事だと、高志は二人によく言い聞かせた。そして、怒った表情そのままでゆっくりとディアーチェ達を睨む。
「だ〜が、なによりも、許せんのはお前等だぁ、ディアーチェぇえええっ」
「ひぃっ」
ここまで怒っている高志を見るのは初めてだったディアーチェは怖さのあまりに悲鳴を上げた。
助けを求めてあちこちに目配りをしているが、自分を含め、D・エクストラクター組は高志に怯えている為援護は無理。研究所に連絡を入れているアリシアも高志同様に怒っているのか視線が冷たい気がする。
「七号機は五、六と違って大きなエネルギーを扱う事は出来る。だけどそれは同時に暴走の要素もある。チヴィットやチビレオンの整備をお前達は何度もしてきたから知らなかったとは言わさんぞぉ?」
「で、でも、あれを起動させないとあの怪物を倒すことなんて出来なかったんだよ」
「そ、そうです。あのバリアを破るにはそれ相応の」
「暴走したらそこに住んでいる人達を巻き込んでこの町一帯が更地になるだろうがな!」
あまりの怖さに言い訳をしようとしたがレヴィとユーリにも強く言いきる。
人の感情をエネルギーに変えるD・エクストラクターだが、元来『次元力』というスフィアの力で抽出した力としか認識できていない。そもそもスフィア自体がよくわからないもの。アリシアと同化した『傷だらけの獅子』。リニスの体を作り出している『揺れる天秤』も意思の疎通は出来てはいたが、この世界に転移する前に融合をしたためかそれも出来ない。
『傷だらけの獅子』のスフィアの意志はいつでも自分達を優先してくれたが、『揺れる天秤』は自分に選択を迫った。そんな複雑怪奇な物の模造品とはいえ意図的に暴走をさせることは可能な代物だ。それをポンと明け渡すプレシアにも問題があるが、まずは目の前の少女達にD・エクストラクターの危険性を拳骨付きで、文字通り骨身にしみるほど教えた後、D・エクストラクター七号機を扱った紫天娘達をまとめて抱きしめた。
「・・・全く、無茶しやがって」
紫天娘達は高志から見ればまだまだ子どもだ。そんな少女達が死地から生還した事を実感するために抱きしめた。ついでに『傷だらけの獅子』のリアクターでもあるので、彼女達に『スティグマ』が刻まれていないかの確認として抱きしめた。
その光景を見ていたシンジとフェイトは自分と彼女達の違いに気が付いた。
『スティグマ』はスフィアを持つ人間とそれに関係している人。魂に刻まれ、スフィアをめぐる戦いに巻き込まれる呪いのような物だと考えている。
それが彼女達に刻まれていない事を感じた高志は二重の意味で四人を解放する。
(あんな風に僕の事を心配してくれる人はいない・・・)
(あの人は本当にあの子達の事を心配して・・・。戦場に出すことを嫌がっていたんだ)
状況は違えど、シンジとフェイトは『戦うな』と心配している人の姿を見た。
「今度からアレを使う時は俺とアリシア。もしくはリニスが隣にいるとき以外に使うなよ!」
「・・・え?」
D・エクストラクターが暴走した時、『傷だらけの獅子』もしくは『揺れる天秤』を持つ高志とアリシア。もしくはリニスのどちらかがいれば止めることが出来るのだが、高志は後になってこれが失言だという事に気が付くことになる。
「うう。わかったのだ」
「はいぃ。反省します」
「うん。今度からタカかリニスがいる時しか使わないよ」
「私は反省していません。ですので、もう一度拳骨とハグを」
四者四様の反省。シュテルは反省していないようにも見えたが高志はシュテルの左右のこめかみに拳をつけてぐりぐりと押し付ける。
その後、シュテルへの追加お仕置きを終えた高志は棒立ちになっていたシンジとフェイトの傍まで近づいていき、そして頭を深々と下げた。
「すまない!力が及ばずお前達の手まで借りることになってしまって、本当にすまない!」
「え?」
「あ、あの?」
「そして、ありがとう。お前達がいなければ使徒の攻撃であの四人が。射線上にいた自衛隊がやられていた。本当にありがとう」
「そ、そんな。高志さんがそんな風に言う事ないですよ」
「そ、そうだよ。じゃなくて、そうですよ。貴方は一番最前線に出て戦ってきたじゃないですか」
「それでもだ。いや、だからこそだ。お前達が戦場に出ることで日常生活に影響をおよばさないわけがないっ。それを阻止できなくて本当にすまない!」
ああ、そうだ。彼は言ったじゃないか。子どもが戦場に出るなとグランツ研究所の少女達に。そして、自分達にも。
それは高志だけではない。
コクボウガーと二機のランボルト。それらに特殊装甲板を貸し出した研究所の職員たち。彼等もまた子どもである自分達に自分達の力不足を恥じ、助けてくれたことに感謝していた。
「それに関しては我々も同じ思いだ。力が及ばず、本当にすまない。そして、ありがとう。君達のおかげで我々を引いては町の住人達を救う事が出来た。改めて礼を言いたい。総員、勇気ある少年少女に敬礼!」
高志の後ろから足並みそろえてやってきた自衛隊員からも最敬礼をされたシンジとフェイト。そして、その後は高志やアリシア。ディアーチェ達にも最敬礼を行った自衛隊員達は今回の少年少女達の無謀とも取れる勇気ある行動に敬礼を送ると使徒の攻撃と使徒への攻撃で焼け焦げた町の整備に即座に乗り上げる。
ガンレオンの傍でグランツ研究所に連絡を入れていたアリシアも戦場となった復興作業に彼女も同伴する予定だ。なにせ、ガンレオンの中で背が大きくなったり小さくなったりする彼女の体はその変化があっても『たぶん大丈夫』と思われるガンレオンの傍に置いた方がいいと考えた。
そんな高志とアリシアをシンジは呼び止めた。何度も助けてありがとうと伝えた。
感謝するのはこちらの方だとお互いに遠慮し合っていたが、高志はふと思い直し、シンジの頭をわしわしと撫でた後、ヒートスマイルをシンジに向けてこう言った。
「よくやったな、シンジ。それでこそ男だ!」
「暑苦しいっ」と、思わずフェイトが言葉を零したが、それは遠目に見ていたシグナム同様だった、だが、それを至近距離で見たシンジはというと何とも言えない表情で撤収していく高志達の背中を見ているだけだった。
しばらくの間棒立ちだったシンジを心配したのかレイが彼の傍に駆け寄る。
「・・・碇君、大丈夫?」
「なんて、言えばいいのかな。ああいう人が『男』ってやつなのかな?」
シンジの何とも言えない気配を感じたレイの言葉にシンジはポツポツと言葉を零した。
「嬉しいのに恥ずかしくて、嫌じゃないのにそれを顔に出したくないんだ。こんな時、どうすればいいのか分からないんだ」
シンジの嘘偽りのない言葉を聞いたレイは静かに微笑みを浮かべこう言った。
「笑えばいいんじゃないかしら」
「・・・。うん」
碇シンジはこの町に来て、エヴァに乗って初めて心から良かった。と、笑みを浮かべるのであった。
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