艦隊 真・恋姫無双 79話目
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【 唐突な昇任 にて 】

 

? 洛陽 都城内 謁見の間 にて ?

 

何進「うむ、皆の意見は良く分かった! この事は、賊討伐において有益な情報となろう! ──本日は、これにて終了。 後に陛下から、討伐の仕度金を下賜される為、皆の奮起する働きを期待する!!」

 

「「「「───はっ!」」」」

 

こうして、討伐の相談は、各地で動く賊の水面下の動きに終始して終わる。

 

されど、今回の賊は今までより大規模な兵を運用する事を、曹操軍の御蔭で理解できたのは不幸中の幸い。 これからは、情報を吟味して対応を迫らないと、討伐されるのが……自分達の方になりかねないからだ!

 

数多くの戦術、鮮やかな奇策妙計、小が大を制すのは実に痛快な話だが、実際の戦いにおいては、物量が多いが有利。 かの日ノ本では……織田信長が後半生に多様、近代でも実例はあるが……作者より提督諸兄が御存知かと思う。

 

ーーー

 

その後、謁見の間より諸侯が退室した後、劉辯は密かに『ある人物』へ使者を遣わした。 無論……目的の相手は、天の御遣い『北郷一刀』 である。

 

★☆☆

 

? 北郷一刀 控え室 にて ?

 

一刀「失礼だけど……私と誰かをお間違えでは……?」

 

女官「いいえ、陛下は確かに北郷様へと。 そして必ず……この竹簡の返事を頂くようにとの仰せでございます!」

 

ここは、都城内の一室。

 

かなり広い部屋で、畳二十畳ぐらいある。 前は十常侍達の溜り場であったが、全員処刑されて使用する者が居ない為、一刀達が利用させて貰っていた。

 

★☆★

 

現在、一刀に付き従う者は───

 

恋姫では──『紫苑』『雛里』

 

艦娘は── 正規空母『赤城』『加賀』、軽空母『翔鳳』

 

戦艦『扶桑』、航空戦艦『山城』

 

軽巡洋艦『川内』『神通』『那珂』

 

水上機母艦『瑞穂』

 

駆逐艦『如月』『菊月』『夕立』『不知火』『島風』『磯風』

 

今回の付き従う艦娘や恋姫は、一部を除いて全員交代している。

 

艦娘は補給と整備、恋姫は仕事の都合や休息………これらを調整しなければ、十全の活躍など当然出来ない。 それに、交代制にしないと──贔屓とか狡いとか苦情が重なるともいう。 一刀と居られないのが不満らしいのだが……?

 

そして、此処には居ない深海棲艦『港湾棲姫』は、成都で留守居にならず、一刀と共に洛陽入りして、別の場所へ訪ねている。

 

先の騒動で北方棲姫との交わした約束──『洛陽ニ来ル時ハ、必ズオ姉チャン(港湾棲姫)ヲ連レテ来イ!』──が条件だったからである。

 

★☆★

 

一刀は首を傾げながら、女官から渡された竹簡を貰うと確認した。

 

厳重に紐で封をされた竹簡には、確かに『北郷一刀』と記載している《検》(宛名札)が付いている。 余程、中身が重要な内容だと判断できる竹簡である。

 

『何だろう?』と不審に思いながら、紐を解いて中身を確認する一刀。

 

一刀「───雛里、紫苑! 二人とも確認してくれ!!」

 

雛里「は、はいっ! えっ?───あ、あわわわっ!?」

 

紫苑「これは──!?」

 

一刀は内容を一瞥後、慌てて側に控えていた雛里と紫苑に見せた! 一刀が読んだ三国志の中で、誰かが任官していた官職。

 

誰とは忘れたが、嫌な予感がするので、この時代の二人に確認を頼むつもりで渡すと───二人とも固まる!

 

その内容とは……『《太師》の官職を引き受けて頂きませんか?』との要請であり、しかも『私室にて話を交えたい』と書かれている。

 

太師とは──太師・太保・太傅と言われる皇帝の教育係、相談役の事。

 

3つの官職の中で太師が最も高いが、実質的権限など特に無い。 だが、名目上では三公九卿を越える役職! 史実の董卓が、有名無実な官職であった『太師』を任官、好き放題行って後漢衰退を早めたのは、実によく知られている。

 

つまり……麗羽が自慢話する『四世三公の名門』の『三公』より『偉い役職』を、皇帝より内密に打診されている……という話なのである!

 

我に戻った二人より内容の重大さを聞いて、一刀は女官に再度問い直すが、やはり返答は同じ。 それどころか『応諾を得れば、丁重に御遣い様を御案内するように』と、劉辯皇帝から言付けられているという。

 

 

◆◇◆

 

【 喧々囂々 の件 】

 

? 北郷一刀 控え室 にて ?

 

一刀は、女官に半刻(一時間)後に再度来て貰うよう頼み、仲間内で話し合いを始めた。

 

ーーー

 

一刀「──俺としては、この官職を受ける訳にはいかない。 辞退しておきたいと思うんだ! 」

 

雛里「でも、ご主人様! この官職は名誉職ですから、一旦お受けして辞退するだけでも、周りの反応が違ってきます! ご主人様の目的達成には、このような物も必要な事だと思うんでしゅっ!」

 

一刀「………うん、確かに有効な官職になるとは思うよ……」

 

紫苑「それが分かっておいでながら、御辞退する理由がある訳……ですね?」

 

一刀「ああ……天の御遣いと名乗っている者が、漢王朝の中枢に入る事……即ち災いの元になると考えている。 本来、天は平等の立場……そこを突いて、更なる煽動を『誰か』が起こす可能性があるからなんだ!」

 

紫苑「誰か……ですか? 可能性があるのでしたら……今回の蜂起の黒幕である楊奉という元執金吾の事を?」

 

雛里「……それもありましゅ! ですが、ご主人様は……わざと明確な名前を挙げていませんので、その者以外にまだ居ると懸念されている御様子なんです! え〜と、あわわわっ…… つまりですよ……つまり──」

 

紫苑「では、もしかして──この漢王朝内部からも、御自身を狙う者が現れると? そんな……ありえませんわ! 漢王朝を守護する一刀様に対して、そのような天に唾棄するような行為を……!!」

 

不知火「人と言うものは、結構……傲慢不遜なんですよ。 喉元過ぎれなんとやら、畏れていた事を忘れ、愚かだと知っているのにも関わらず……再度繰り返す。 不知火だけではなく、他の艦娘も……大なれ小なれ体験しています」

 

紫苑「そんな…………」

 

一刀「ありがとう……不知火。 言いづらい事を話してくれて……」

 

不知火「私は真実を話したまでです。 司令を擁護するために口出しした訳ではありません。 勘違いされませんように!」

 

一刀「分かったよ。 俺がそう思っただけだ……ただの独り言として、受け取ってくれ! …………ありがとう」

 

不知火「……………」

 

一刀「さて、話を戻そう。 俺は、この話を辞退させて貰うが、わざわざ内密の話に持ち込んだ事が気になる。 だから、俺が直接向かい……陛下と話そうと思う。 何か困った事があるのなら、相談に乗るのも俺の役目だ!」

 

『───────!?』

 

ーー

 

その発言を聞いた者達は、先程より一段と騒がしくなる!

 

ーー

 

加賀「しかし、提督! 洛陽に訪れた者の話に因れば、陛下の御母堂が執金吾なる者と手を結び、提督達を危険に陥れたと聞きました。 せめて、私達の中で、数人連れて行かれるのが無難かと!」

 

磯風「うむ、『男子家を出ずれば七人の敵あり』とも言う。 司令を護衛するのも私の役目だ! 共に向かわせて頂うぞ!」

 

不知火「ですが……国の皇帝陛下となれば、武器の携帯など禁止される筈。 そのような場所で、素手の対処できる仲間が私達の中に居ると? ……残念ながら、不知火は無理ですね………」

 

赤城「じゃあ──鳳翔さんを推薦します! 鳳翔さんなら、素手で私を捕まえて『赤城さん……後でお話しがありますので』───ひいぃぃぃっ!!」

 

鳳翔「ですが……そうですね。 私で宜しければ、提督の側に控えさせて頂きます……」

 

紫苑「ならば……私も。 これでも、接近戦で遅れを取った事などないんですよ? 弓が壊れれば、最悪……素手になる可能性もありますから──」

 

雛里「そ、そうでしゅ! 紫苑さんは礼儀作法も心得ています! そのような場所だからこそ、お連れした方が宜しいと思います!!」

 

瑞穂「僭越ながら……瑞穂も……提督と共に参りたいと思います。 はい、このくらいの事しか、瑞穂には出来ませんので……」

 

如月「ふ〜ん、何となく……付いて行った方が良いみたい。 司令官、如月も寄り添わせて貰うわね。 言っておくけど……嫌なんて言わせないわよ?」

 

川内「夜戦が関係ないんじゃ……私は待ってるよ。 その代わり、夜戦とかになったら、絶対出撃させて貰うからね!」

 

神通「わ、私では……お役に立つ事も……なさそうですから」

 

那珂「う〜ん、観客が少ないとテンションが下がっちゃうから〜ゴメンね?」

 

菊月「悪いが、武骨な私に取って不向きな任務だ。 こ、子供だからでは無い! こ、こういう華やかな場所は………落ち着かないだけだ……」

 

夕立「じゃあ、夕立も! え〜っ、人数が多すぎるから駄目ぇ!? …………残念だぽーい!」

 

島風「ええーっ!? 人数制限、しまかぜも待機ぃ!? 幾ら私が早いのが好きだからって、結論出すのが早すぎるよぉぉぉ!!」

 

扶桑「山城、提督へ私達の意見を言う前に……止められてしまったわ!」

 

山城「ああ………やはり不幸………」

 

ーー

 

一刀が『大丈夫だから』と言うが、『慢心は駄目!』『ここは譲れません!』と反対する者が相次ぎ、護衛ということで『磯風』『鳳翔』『如月』『紫苑』『瑞穂』の5人が付いて行く事になった。

 

ーーー

 

一刀としては、霊帝(劉宏)との約束もあり、何度も姉妹達を庇い助けたから親近感、 持ち前の『困っているなら助けたい』という性格だから、特別な想いなどは無い。

 

しかし、他の仲間、特に艦娘達には……先に行き騒動を体験した仲間たちより一連の騒動を伝え聞いているので、余計にイメージが悪いのもある。

 

ただ、劉辯皇帝の淡い恋心が、艦娘側の電探に掛かったとか、恋姫側の第六感が感づいた可能性もなきにしもあらず。

 

恋敵は、下手をすると──三桁になるかもしれないのだから。

 

そんな想いと裏腹に──歴史が刻まれる。

 

洛陽に現れ、様々な客との涙あり笑いありの名店『居酒屋 鳳翔』が誕生する切っ掛けになるとは、誰も思いつかなかった。

 

 

◆◇◆

 

【 黄巾の始動 の件 】

 

? 司隷河東郡 白波谷 屋敷 にて ?

 

韓暹「これは──大頭目、お帰りなさいまし! 今回、連絡が無いままの急なお帰り、いったいどうしたんでぇ?」

 

楊奉「………してやられたよ」

 

李楽「…………?」

楊奉「あの天の御遣いを標榜する『北郷一刀』に、まんまとしてやられた! 俺の策略を、ああも簡単に返してくるとは……正直……侮った!!」

 

胡才「頭、何の冗談………」

 

韓暹「いや、冗談じゃねえだろう! 見てみろよ、隣の女を! あの何進の腹心で名高い将が居るじゃねえか!? それに、大頭目が抱える女も、どっかで見た事があると思えば、美人で有名な肉屋の成り上がりだ!!」

 

3人の頭目は、自分達の頭目、敵対していた鬼灯、その上に立つ何皇后の関係に分からず、ただただ唖然とする!

 

楊奉「てめらぁ、ぼさっとしてないで、この方を寝台で寝かせろ! そして医者を呼べ! 大事な客人だ、丁重に扱ってやれ!!」

 

「「「 ───はっ、はい! 」」」

 

楊奉は、3人を怒鳴りつけて何皇后を預け、治療を開始するように命じる。

 

そして、3人の立ち去った後、先程まで3人が座っていた場所に座り、鬼灯をも空いている席を勧めた。

 

注いであった椀の酒を外に捨てると、円卓に置いてあった酒壷を取り改めて注ぎ直す。 そして鬼灯に椀を渡した後で、楊奉は一杯目を手早く飲み干すと、二杯目を注ぎ込んだ。

 

楊奉「ふう! 何皇后は──どうやら一命を取り止めたようだ。 あの流れの医者が適切な治療を行った結果だな。 口止めに殺そうと思ったが、相方の気持ち悪い大男に隙が無いから、見逃すしかなかった……」

 

鬼灯「おかしな真似をしなくて正解よ。 あの者は、私達の天敵! 私と仲間達が挑んでも、互角に戦えられるかわからないわ」

 

楊奉「人は見掛けに寄らないか。 いや、それを言うなら──俺もお前もそうだな? 変り身の早い謎の美女と元執金吾の俺。 全く良い組合せだ!」

 

楊奉は、軽く戯言を呟く。 鬼灯も一口呑み、味が好みだったのか……三口程で呑み干した。 楊奉は笑いながら、更に酒を注ぐ。

 

楊奉「なかなかイケる口だな。 普段から呑んでるのかい?」

 

鬼灯「味にも依るわ。 だけど今回……初めてよ? 男と一緒に、呑みながら会話するなんて……なかった。 付き合う者も、付き合せようと思う者も居なかったからかしらね?」

 

楊奉「こんな美人を遠巻きに眺めて、酒の肴にして呑んでたか? 風流だか価値を知らんのか分からんが……馬鹿な奴等だ。 勿体無い事をするよ」

 

鬼灯「………思ったより口が軽い男だわ。 それとも……何か嬉しい事でもあったの? もし、私を仲間に入れたから嬉しい……なんて歯が浮くお世辞なんて御免だわ! ───そろそろ、本題に戻るわよ?」

 

楊奉「あの相方の姿を忘れたい為だ……って言ったら、信じてくれるかい? アンタみたいな美人と酒を呑み交わすが、忘れやすいんだよ!」

 

初めの頃は、かなり警戒していたのだが、鬼灯から渡された砲筒、自分達の為に逃走用経路の準備、その策の手助けを行ってくれた為、現在は……かなり打ち解けていた。

 

鬼灯「───今回は、運が良かっただけ。 何進の事も何皇后の事も、知らされていなかった様子だわ。 知られていれば、あの場で容易く捕縛されていたでしょうにね。 それで……これからの計画はどうするの?」

 

楊奉「ふん、簡単な事だ! 大陸の覇権を握るため軍勢を募り、漢王朝の打倒を目指す! この俺が、漢王朝に成り代わり新しい国を興すんだ!!」

 

鬼灯「今の状態───で?」

 

鬼灯が間髪を容れず(かんはつをいれず)に質問をした。 楊奉は、赤くなった顔を悔しそうに歪めながら、正直に答える。

 

楊奉「本当は──もう数年欲しい。 漢王朝の屋体骨を腐らせて、完全に乗っ取ってしまた時に実行したかったんだが……邪魔者が現れたからな! 北郷一刀──奴が軍勢を率いて現れなければ、計画は順調に進めた筈なのに!!」

 

鬼灯「……生半可な手だと、簡単に逆転されるわよ? 北郷一刀とその仲間達に寄ってね。 それに、この世界の主要な諸侯も彼の仲間として手を結ぼうとしているわ。 その智謀や武力も──楊奉、貴方に匹敵するかも?」

 

楊奉「買い被り過ぎだ……! 奴等にそんな力があれば、漢王朝が……このような事態に成らなかった。 何皇后──『何思』が、こんな辛いめに合わなかったんだっ!!」

 

楊奉は、声を荒げて両手を拳に変え、円卓を猛烈に叩く!

 

円卓上の酒壷が躍りだし、椀の中身が溢れるが……そんな様子には目もくれず楊奉は息を乱し、鬼灯の顔を見詰める!

 

その様子を見て……鬼灯は笑顔になりつつ、顔を楊奉に近付けて答えた。

 

鬼灯「…………面白いわね。 血も涙も無いような貴方から、そんな苦悶の表情と呪詛の言葉を吐き出すなんてぇ。 人の嘆く様は……非常に美しく、溜飲が下がるわ〜。 もっともっと見てみたい、大事な者を失う様子をねぇ?」

 

楊奉「貴様の手など借りん! これは漢王朝、いや──北郷と俺との戦い! 奴に勝たねば、漢王朝さえ葬る事など……夢のまた夢!!」

 

鬼灯「まだ、分からない? 貴方の計画では、幾ら立てても破られるだけ。 かといって、私の策略も……劉焉の力を利用さえしても阻まれた。 ならば、今度は二人で併せた大作戦で、大陸全土を戦乱に巻き込むのよ!!」

 

楊奉「大陸全土を──か? そんな事!?」

 

鬼灯「───可能よ。 こちらも準備を進めている物があるのよ! それを使えば、大陸全土を巻き込む事は容易い。 そして、貴方が仕掛けようとしている計画を実行すれば──この世は、戦乱の世に生まれ変わる!」

 

楊奉「なぜ、そこまで言い切れる? 相手には、あの何進さえ付いてるんだぞ? 気付かれば……直ぐに潰されること──」

 

鬼灯「その何進が──この謀に一枚噛んでるとしたら?」

 

楊奉「──何だとっ!?」

 

鬼灯の思いも掛けない言葉に楊奉は聞き直す! 鬼灯の顔は──『どう?』と言わんばかりな笑顔で、楊奉を見る。

 

───深海棲艦『南方棲戦鬼』のキャラ絵のようなドヤ顔で。

 

 

◆◇◆

 

【 同盟設立 の件 】

 

? 洛陽 都城内 別室 にて ?

 

討伐に関わる会議が終わり、都城内にある各控え室へと案内される諸侯。

 

そんな中、桂花が春蘭に話したい事があるから、後で──この部屋に来て欲しいと言ってきた。 桂花が何進に頼み借りた部屋に……である。

 

見たところ──かなり大きい部屋で、数十人が入れそうな広い間取り。

 

『こんな大きな部屋に、なぜ二人だけで話さなければならないのだ?』

 

そう思った春蘭は、桂花に問い掛けた。

 

春蘭「この場で話せば良いではないか?」

 

桂花「記憶に関わる事だから、華琳さまの前で話せないのよ! 季衣や流琉は親衛隊の役目で、華琳さまから離れられないし……アンタしか呼べないのが残念だけど、とっても重大な事なの! ──いい? 絶体に来なさいよねっ!?」

 

そう珍しく懇願?されて、部屋の前に訪れた春蘭は、一息軽く吸い込みと──扉を勢いよく開けて、戦場に居る時のように大音声で呼掛けた!

 

春蘭「桂花ぁ! 桂花ぁぁぁ!!」

 

桂花「何よ、いきなり大声出して飛び込んで来てぇ! あれ程『のっく』をしなさいって言ってるでしょう! いったい何回言わせれば理解できるの!?」

 

桂花が春蘭に向かい怒鳴り立てる!

 

ここまでは、春蘭の予想通りの展開。 伊達に数十年の間、やり取りした関係ではない。 この辺は、毎回変わらずのパターンだったから。

 

───違うのは、桂花は『誰か』と話をしていた事。

 

『私(春蘭)を呼び寄せたのは、二人で話をするつもりではなかったのか?』

 

そう思って、頭の中をクルクルと思考を回転させる春蘭に、その者が声を掛けてきた。

 

冥琳「──相変わらず元気だな? 昔と変わらない魏武の大剣の姿を見て、安心したよ。 覚えているか? 孫呉の周公瑾だ! 前の記憶があるなら、真名で呼んで貰ってもいい。 寧ろ、呼んで貰いたい!」

 

春蘭「───なっ!?」

 

驚く春蘭だが、その場に居たのは冥琳だけでは──ない!!

 

ーー

 

詠「ふん! この鳥頭が私達の真名を言える訳ないじゃない! 良いわよ……覚えているのなら、ボクの真名で呼んでみなさいよ! アンタが覚えているんだったらねぇ?」

 

月「詠ちゃん………駄目だよ。 夏侯元譲さん、貴女が私達の事を覚えておいでなら、どうぞ……真名でお呼び下さい……」

 

恋「……大丈夫、必ず呼んでくれる。 恋も許す……真名、呼んで欲しいから……!」

 

ねね「覚えているなら、早く呼んでみるのですぞ! 恋殿の期待を裏切るなら、ちんきゅ空中三角蹴りを見舞わしてやるのです!!」

 

ーー

 

星「──話は桂花より聞いている。 覚えているとの事だったが……真実か確かめたい。 本当ならば……私の真名を是非とも呼んで貰いたいのだ!」

 

翠「全く、何を呆けた顔してるんだぁ? 此処に居る奴等は、全員記憶がある奴ばっかりだ! だから、真名で呼んで欲しいって頼んでるだよ! しゅ──」

 

蒲公英「わぁ──っ! お姉様が真名を言ってどうするの! もう、どうしようもない猪なんだからぁ!!」

 

思春「───仕方あるまい。 生まれ付きの性格なら、矯正するには時期が遅い。 夏侯元譲、何をしている? 早く我らの真名を言わねば、お前も馬鹿呼ばわりされるて、仕える君主に愛想を尽かされも知らんぞ?」

 

明命「思春殿、そんな事を言っては可哀相ですよ! ……でも、落ち込んだ後で酒を呑まれ、お猫さまに代わった状態も見てみたいですね〜? ああ──冗談です、冗談ぅ! そんな露骨に後退しないで下さいっ!!」

 

白蓮「私の事も───いや、いいんだ。 変に期待すると後で裏切られる結果になる。 私がお前を覚えている。 それだけ知って貰えば…………」

 

ーー

 

春蘭「お前たち……も………『やっとー、逢えましたね〜』──!?」

 

風「お久しぶりですぅ! 本日も、おでこの輝きが一段と光り、魏に夏侯元譲ありと、直ぐに分かってしまいますねぇ? 」

 

稟「長い間……ご無沙汰でした。 桂花とは先月会って、話を伺っておりました。 皆も元気なんですね? そして──か、か、かかか──ぶはっ!?」

 

風「ああ……稟ちゃん、無理なんかするからですよ〜? 今、鼻血を止めますからねぇ、後ろに回りましてぇ……トントン、トントン、トォントン!!」

 

春蘭「風、稟──何で貴様らがぁ華琳さまの下へ駆け付けないのだ! どういう事だ、言え! 早く言え、直ぐ言え、簡単詳細短めに説明しろぉぉぉ!!」

 

風「幾ら風でも、ここまで絡んだ運命を、簡単に説明するのは無理ですよー! 稟ちゃん、ハイタッチ!」

 

稟「───ほあっ!?」

 

春蘭「説明しろ──稟『ぶはーっ!』ぐぅ! ──うおっ! 大量の鼻血が私に降りかかって来たぁあああっ!!!」

 

月「──大変! 詠ちゃん、急いで要らない大量の布切れを用意するように頼んでぇ! それと、大根の切れ端があれば沢山持ってきて貰って!」

 

詠「──分かったわ!」

 

ーーー

ーーー

ーー

 

桂花「──月、ありがとう。 危うく……ここの部屋の家具類、弁償する事になっていたわ。 支度金だけでも足りたかどうか……」

 

春蘭「おいっ! 今のは私が悪いのかぁあああっ!!」

 

風「鼻血を出して倒れる稟ちゃん、そして怒鳴りながら稟ちゃんに掴み掛かる春蘭さまー! 傍目から見れば、悪者になりますね〜?」

 

冥琳「幾らなんでも言い過ぎだ。 風にも罪がある……私達の方でも半分持とう。 しかし、こうも見事に……あの大量の血が、跡形もなく拭き取られてるとは……。 月や詠のメイドとやらの力量、推し量るべきだな!」

 

月「そんな……久しぶりに行うので、若干手際が悪くて……」

 

詠「まあ……月とボクは専門だったからね。 よくアイツが……愛紗にボコられるわ、ねねのちんきゅキックの餌食になって、流血が多かったし。 そ、それに……寝台の布団に……たまに付いて処理する事も………………」

 

月「詠ちゃん───それ以上の発言は禁止!」

 

詠「う、うん! わ、分かったわ!!」

 

ーーー

 

騒動が終わり──春蘭が全員の真名を言い当て、皆が喜んだ後──冥琳が改めて春蘭に話を始める。

 

冥琳「先月は、あの騒動で互いに紹介出来なかった。 だが、今回の召集で殆どの者が集まる事を知った桂花が、この場を造りあげたのだ! 軍師は、あの時に紹介は済ましたのだが、武官となれば離れるのは難しいからな」

 

桂花「これからの戦いは、前の何も知らない状態より、遥かに大変な戦いになると思うの。 だから、私達も記憶がある者同士、水面下で同盟を結び、何かあった場合は互いに助け合いたい……って考えたのよ!」

 

冥琳「私は──その意見を聞き、自分の不明を恥じたさ。 北郷と……どう手を結ぶか考えていたばかりだったのだが、桂花の言葉で、本来の私達の役割りに気付いたのだ。 記憶を持つ者として───!!」

 

春蘭「…………」

 

冥琳「今の私達は、前の世界での出来事を踏まえ、如何に回避し、大陸、そして民や私達の平和を目指す事だったと! それが、前の記憶を持つ私達の真の役目ではないかと──考えたのだ!」

 

春蘭「…………………」

 

桂花「そんな難しい事を言ったって、分かる訳ないじゃない! 相手はあの春蘭よ? 幾ら私が勉強を教えても、一刻もせず忘れちゃう鳥頭なんだから?」

 

春蘭「………ば、馬鹿にするな! それが、私達の為、華琳さまの為だという事ぐらい分かる。 それに………桂花。 お前は──北郷が消えるのを阻止する為に、動いたんだろう。 二度とあのような事が起こらないように!」

 

桂花「───な、何で! そんな事!?」

 

春蘭「私だって……悲しんだ者だ! 待っていた者の一人だぞ!? それくらい分かって当然だ!! それに、何十年……共に華琳さまを支えてきたんだ!!」

 

桂花「───!」

 

春蘭「季衣と流琉からには、私から伝えておく。 ………難しい話は、桂花に振るからな。 わ、私に期待をするなよ!?」

 

桂花「───分かったわ! 季衣たちの事……お願いね!」

 

春蘭「──稟、風。 お前たちも……思えば、私より長く華琳さまにお仕えしたようだな。 そのお前たちが──華琳さまに仕えず孫呉にいる。 正直……理由が分からん。 しかし──魏や華琳さまへの忠誠は変わらないと見た!!」

 

「「─────!」」

 

春蘭「幾ら……馬鹿な私が考えても……お前たちの真意など理解など出来ないだろう。 だけど、いつの日か……戻ってこい! 華琳さまも……記憶が戻れば──お前たちを喜んで迎えてくれるだろう! ──だから、死ぬなよ!!」

 

風「…………はい!」

 

稟「───必ず!」

 

春蘭「今も、夢を見ているようだが……分かった! 冥琳、そして此処に居る者達よ! 私の名前は姓は夏侯、名は惇、字は元譲! 真名は『春蘭』だ! 確かに今一度、我が真名を預けるぞ! ────よろしく頼む!!」

 

『─────!!』

 

ーーーーー

ーーーーー

 

こうして、恋姫たちでは、記憶ある者の同盟が密かに結ばれた。 他にも事情があり参加出来なかった者、もしかすると記憶が蘇った者には、その国の代表が連絡するようにと、取り決めが行われる。

 

北郷側の恋姫には、後に明命が直接会って事を説明する事になった。

 

ーー

 

明命「今は一刀さま側も忙しい様子! ならば、益州に帰られた後……わ、私が直接向かい、話をしてきたいと思います!」

 

冥琳「確かに、思春には何回も益州に向かわせたから……今度は明命に頼もうと思っていたが。 ───大丈夫か?」

 

明命「──はいっ、 大丈夫です! お知り合いになった艦娘の金剛さん達や雛里さまとも面識もありますので!!」

 

冥琳「──では、その時になったら頼む!」

 

明命「──はいっ!!」

 

ーー

 

これは、明命自身の願いである──『北郷一刀』を自分自身で確かめたいという──希望を叶えるための布石の一環でもあった。

 

明命『私は……貴方を……確かめさせて頂きます! 私の愛した一刀さまと──同じ方かどうかを!!』

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

ーーーーー

 

あとがき

 

最期まで読んでいただき、ありがとうございます!

 

前に書いた『居酒屋 鳳翔』に繋ぐ話に入りましたが、やはり……ちぐはぐ部分が出てきました。 台詞の一部で『時』だけ変える予定です。

 

次回の投稿は、二週間近くになるかも。

 

また、その時は……どうぞご覧下さい。

 

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コメント
スネーク提督 コメントありがとうございます! そのうち……嫌でも思い出します。 白蓮の下に行った貂蝉の存在が………(いた)
白蓮大丈夫かなぁ…春蘭の頭にはまったく残ってない様な気がする…(スネーク)
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