リリカルST 第7話 |
「みんなー、集合!」
早朝訓練でボロボロになり、朝ご飯をヨロヨロと食べグッタリしている私達に、急に招集がかかる。ドローン相手の訓練なら余裕なのだが、こと相手がなのはさんに変わるだけで、難易度がイージーからベリーハードに変貌する。
全く困ったものよね。なのはさん相手にクリーンヒットさせないと訓練終了にならないなんて。まず当たらない。当たっても防御を貫けない。そしてもちろん、なのはさんの魔弾が容赦無く襲い掛かる。魔法戦はまだまだハンパな私には勝ち目がない。
ほんと、どうしろってのよ…
私以外はフラフラとは言え、タラタラ歩いているとバスターを喰らいかねないので、キビキビとした動作でなのはさんに近寄る。
ん?私はフラフラじゃないのかって?鍛え方が違うのよ。スタミナだけならかなりあると自負しているわ。
なのはさんの側に行くと、そこにはメガネをかけた女性も一緒にいた。
確かこの人は…
「お!みんなきたねー!」
「フィニーノ一等陸士?」
ロングアーチ所属のメカニック、シャリオ・フィニーノ一等陸士だ。デバイスマイスターの資格持ちで、あのフェイトさんの補佐も担当している事から、かなり多才な方だと伺っている。エリオやキャロの話にも、何度か聞いた事あったっけ。凄く気さくな良い人だって。
「あー!ティアナちゃーん!フィニーノ一等陸士なんて堅苦しいよー!シャーリーって呼んで?」
「あ、はい、シャーリーさん」
うわぁ、人懐こい笑顔だなぁ。なんと言うか、憎めないわね
「シャーリーさん、どうかしたんですか?」
スバルが尋ねる。だけどスバルの視線は、尋ねた相手ではなく、その人が持っているものに集中していた
「ふふん!もうわかってるくせにー!ジャジャーン!みんなの新デバイス完成しましたー!」
シャーリーさんはアクセサリーのような物をバンと取り出して見せた。それに対し、私達から感嘆の声が出る。
「いやぁ、みんなの個人データ見ながら調整するのに苦労したよぉ。でも、スバルとティアナのデバイスがそろそろ危なそうだったから、早く仕上げないとって思ってね」
確かに、スバルのローラーや私のアンカーガンはそろそろガタが来ていた。咲希さんと共同開発した銃はデバイスではないから、ちょうど新しい物が欲しかったところだ。
「僕とキャロの新デバイスはないんですか?」
そう言えば、エリオとキャロは今もデバイスを持っている。この二人だけないのかしら?
「ノンノン!実はもう調整済みなのだよ!その証拠に、二人のデバイスは出力制限が掛けられているからね」
「え!?あれで制限が掛けられていたんですか?」
ちなみにエリオのストラーダ、この前エリオが全力で使ったら、ミサイル並みの突進力と破壊力を叩き出していた。ビルは悠々と貫通出来るのに、なのはさんはそれを片手で受け止める辺り、なのはさんも可笑しいわね。
「うん!三段階くらいに分けて制限したよー!一段階目では大体…そうだなぁ、使う人が使えば小さな町一つは焦土に出来るかな?」
制…限……?それは本当に制限が掛けられているのかしら?
「ち、ちなみに二段階目は…」
恐る恐る聞いてみる。するといい笑顔で…
「管理局の最新鋭戦艦くらいなら、チーズみたいにスライスできるかな?」
ちなみに、管理局の戦艦はどれも最低限、 ミサイルくらいならモノともしない強度を誇っている。それをチーズみたいにスライス?なんの冗談なのかしら…
「三段階目まで行くと、星一つ壊せても可笑しくないんじゃないかな」
「聞いてないですし、それそんな笑顔で言っていい内容じゃないですよ!?あなた管理局員ですよね!?そんなあなたが真っ先に危険物作ってどうするんですか!?」
「ほら、強大な悪に対して正義を貫くには、それ以上に大きな力を持たないとダメじゃない?だからデバイス作成に妥協しなかった。みんなを守るために」
私のツッコミに対して至極真面目に返されたが、そんな良い話でもない。というか、このデバイスがそんな危険物だと思うと、使うの躊躇っちゃうわね
「……あの、まだしばらく、自作のデバイスで…」
私はデバイスについて交渉しようとする。でないと、これで人を殺してしまったら笑えなくなる。いくら非殺傷設定があるにしても、こんな星を破壊する武器なんて持ちたくない。
だと言うのに…
ビー!ビー!
「!?アラート!?」
無慈悲にも、突然鳴り響く警報に掻き消されてしまった
『なのは隊長、フェイト隊長、グリフィス君!こちら、はやて。レリックらしき物の反応があった。対象は山岳地帯のリニアレールで移動中。内部にはガジェットが侵入して、列車のコントロールを奪われたらしい。至急、現場に急行、鎮圧を頼んでもええか?』
通信で八神部隊長から指示が出る。それに対し、なのはさんもみんなも二つ返事で了承した。
『えぇ返事や!ほなら行くでぇ!機動六課フォワード部隊、出動!」
私達の初ミッションが始まった。
「あ、ところでデバイスは…」
「ぶっつけ本番になるけど、みんななら大丈夫だよね!」
色々破壊しないように気をつけよう…
「新人ども!もうすぐ現場に着くぜ!心の準備はいいか?」
ヘリパイロットのヴァイス陸曹から声が掛かる。彼のすぐ近くにはスナイパーライフル型の魔銃が置かれている。
「ヴァイス陸曹も戦闘に?」
「いんや、俺は後方支援だ。ヘリをオートパイロットにして、後ろからコソコソやってるぜ」
「ヴァイス陸曹、エース級のスナイパーだから、みんな後ろは安心していいよ」
なのはさんの言葉を聞いて、改めてこの部隊の異質さを感じる。ヘリパイロットがエース級のスナイパーだなんて、普通ならガンガン前線に立つでしょうに。
「キャロ、大丈夫?」
スバルは何処となく震えているキャロを気に掛けていた。キャロは下を向いて何かをブツブツ呟いている。そのか細い声に耳を傾けると…
「ふふ…ふふふ…ようやく実戦……敵は全て壊す……破壊しつくす……どうやって壊す?…踏み躙る?…焼き尽くす?…ミンチにする?…あは…あはははは…早く着かないかなぁ……」
うわぁ…この子ヤバいよ…目がイっちゃってるわよ…
「え、エリオ…キャロっていつもこんな感じなの?」
エリオに聞いてみる。するとエリオは遠い目で悟ったかのようにフッと笑った
「キャロ、普段はやる気ないんですけど、こと実戦となると、バーサーカーになると言うか…ぶっちゃけ狂ってます」
おぉう…それで確かレアスキル持ちなのよね?管理局はこの子を捕まえるべきなのじゃ…あ、この子が管理局員だった…
「ほんと、それに比べて私って普通ね。こんな異質な部隊でやっていけるのかしら」
そんな事を呟いてみる。それを聞いた周りの人がみんなして「え…?」みたいな反応したけど、きっと気のせいだろう
「さて、みんなおさらいだよ。今回の任務は敵性ガジェットの殲滅、暴走列車の停止、そしてレリックの回収。この三つです」
目的地を目前に控えたところで、なのはさんによる簡易的なブリーフィングが始まる。私達はそれを真剣な面持ちで聞き始めた。
「戦闘空域にも既に多数のガジェットが確認されています。これを私達隊長陣が引き受け、その間にみんなに列車内部へと侵入するという流れです」
空を抑えている間に内部を制圧か。空戦支援と言うだけなら、これ以上のモノはないわね。
「それと、一つ注意事項です。このミッションは時間制限付きです。このまま列車が暴走したままだと、いずれ先頭を走っている別の列車と衝突します。中には乗客の他に化学薬品も積まれていると報告を受けています。さぁ、ここまで言えば、もうわかるよね?」
その言葉に、私達はゾッとした。もし、列車同士が衝突してその化学薬品とやらが漏れたら…仮にそれがガスを発生したとしたら…
何よこれ…ファーストミッションの癖に、危険度高すぎやしない?
「最悪、時間切れと判断した場合、隊長陣による列車の破壊を決行します。その場合、レリックもろとも破壊してしまう可能性があるのでミッションは失敗になります。出来れば、私も初ミッションは成功させたい。だから、みんなには頑張って欲しい。行けるかな?」
初ミッションは成功させたい。その言葉は、思いは、きっとこの場にいる誰もが抱いているものだ。だからこそ私達は、なのはさんの言葉に対して…
『はい!』
と、強く答えた。
必ず成功してみせる。こんなところで躓いてなんていられない。それに何より…
「ちなみに時間切れだった時に私達が列車内部にいた場合…」
「あ、もろとも吹っ飛ばすよ?大丈夫!非殺傷設定だから!」
殲滅攻撃なんて食らいたくない…
ヘリのハッチが開き、暴走する列車を見下ろす。
なのはさんは既に戦闘空域に飛び立つ、戦っている。見ればフェイト隊長の姿もあった。ピンクと金色の光が空を舞う中、私達もセットアップし、状況を開始した。
列車には多数のガジェットが張り付いている。それらが、私達が列車に降り立った瞬間にこちらを振り向く。
なるほど、敵性対象は排除する様に設定されているみたいね。
だけど…
「退きなさい機械風情が!じゃないと…じゃないとバスター食らっちゃうでしょ!」
私とスバルは一気に駆け出し、直線上にいるガジェットを薙ぎ払っていく。
「うふふ!あははは!行くよフリード!全てを燃やし尽くしちゃえ!」
列車と並走するように、巨大化したフリードリヒに跨るキャロとエリオ。キャロは狂気に満ちた笑顔で、エリオは青ざめてガジェットと交戦し始めた。
「エリオ!キャロ!外は任せたわよ!私とスバルで中を突破する!」
「了解です!」
「キャハハハ!早くしないと、私が全て殺っつけちゃいますよー!」
エリオ、キャロ、交戦確認。私はスバルと目を合わせ、頷いた。
「行くよマッハキャリバー!」
「クロスミラージュ、お手柔らかにね」
デバイスを機動させると、2丁拳銃が現れた。これが、私の新しい力。危ない力…
「えぇい!やってやるわよ!じゃないとバスター食らう!」
スバルと共に中に突入し、敵を撃ち、殴り、蹴り、放り投げ、バラバラにしていく。
なのはさんの教導の賜物なのか、敵の攻撃がまるで怖くない。当たったとしても、なのはさんほどの威力がない分、ほとんど傷もない。スバルに至っては…
「足りない…足りないんだよー!お前らの攻撃じゃ、なのはさんの百万分の一にも満たないんだよ!それに…それに!全っ然気持ち良くない!」
最近どうも、スバルがなのはさんの砲撃を受ける度に恍惚とした表情をしていたが、これはやっぱり、開いちゃいけない扉を開いたみたいね。
「ほんと、私以外ってどこかおかしな人ばかりね。邪魔!」
目の前に迫ってきたガジェットに拳を突き刺す。拳は鉄を貫き、中枢に辿り着く。そのまま拳を引き抜く時にケーブルを何本かブチ抜いて蹴飛ばした。ガジェットは窓を突き破り、爆発四散した。
「スバルはこのままガジェットの殲滅!私は車両のコントロールを奪還しにいくわ!」
「了解!そっちは任せたよ、ティア!」
「あんたもしっかりやりなさいよ、スバル!」
私とスバルは別方向に駆け出した。後方から聞こえる爆発音を背に、私は疾風の如く走り抜ける。その途中にいたガジェットはクロスミラージュの射撃で吹き飛ばしていった。
クロスミラージュの弾丸、私が使っても中々の威力ね。軽度のAMFならモノともしない。それに、魔力の身体能力補助まで優秀ね。体がいつも以上に軽いお陰で、あっという間に制御室まで辿り着けた。
「あんまりあんたに頼りきりだと、弱くなりそうね」
『いえ、それはないかと…』
クロスミラージュに語り掛けると、しっかりと反応も返ってくる。フォローもできるなんて、ほんと、良い子ね。
「さて、暴走の原因は…これかしらね?」
操作盤に刺さったデバイスらしき物を引き抜く。そして中身を覗くと、遠隔操作されていた跡が見つかった。
ガジェットがこの列車を暴走させていたのか、はたまた誰かが他所で操っていたのか。いずれにしろ、その誰かもレリックを狙っていたのは明らかだ。こんな大量のガジェットを用意するなんて、それだけ重要なのかしら?
「まぁわからないわね。どちらにしても…」
私なら、ここで起きた事を何らかの形で監視し、記録する。例えば、近くに配置されている監視カメラ。アレをハッキングして覗くわね。
「……フフ」
私は監視カメラを銃で撃ち抜いた。
どこかで覗いている変態野郎さん?もし会う事があれば、その時は今の弾丸があなたを貫くわ。
そう、挑発するかの様に笑い、監視カメラを破壊した。
「こちらスターズ4、列車のコントロールを確保。じきに止まります」
『こちらスターズ3、内部のガジェットの破壊、及びレリックを確保しました!』
『ライトニング3、ならびに4、列車に張り付いていたガジェットの殲滅、終了しました』
各々報告を済ませていく。聞く限り、最良の結果としか思えない。まさに完全勝利というやつだろう。誰かが傷つく事も、デバイスが暴走する事もなく終わった。何気にデバイスは不安だったけど、やっぱり最新型だから、キチンと制御はしやすく設定されてるみたいね。
ほんと、良かったわ…
『みんなお疲れさんや!大成功やで!こりゃ、この後お祝いせなアカンな!』
八神部隊長からお褒めの言葉をもらう。かなり上機嫌な辺り、期待には応えられたようだ
『スバルとティアはそのままレリックの護送をお願いするわ。エリオとキャロで現場の警戒。地元の管理局が来るまで待機な。その間に、私が飛び切り美味しい店予約しとくよー』
そう言って、八神部隊長からの通信が切れた。それを確認して、私は手近にあった椅子に座り込み、大きく息を吐いた。
初めてのミッション。私でも100点満点の結果だ。だけど、これで満足しちゃいけない。こんな簡単なミッションに苦戦するのもおかしな話なのだ。だから、さりに気を引き締める。勝って兜の緒を締めよ。そんな諺が地球にはあるんだから、その言葉通り、これからも油断せず、励んでいこう。
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Tサイド サブタイトル:ファーストアラート |
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