恋姫OROCHI(仮) 参章・壱ノ玖 〜前門の虎、後門の龍〜
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何とか越後を抜け出した于吉。

その数は、ほぼ半分に減っていた。

自軍の有様を見て、ギリッと奥歯を強く噛み締める。

孫伯符と周公瑾にしてやられた。

于吉の内側に、蒼い怒りが沸々と沸いてくる。

 

「このままでは済ませませんよ。北上し、呉の本拠、建業を狙います!」

 

孫伯符と周公瑾が多数の兵を連れ立って、春日山城に来ていた。

陸伯言以外の将は城を出ているし、把握していた兵数からすれば、建業に残る兵は僅か。

行き掛けの駄賃とばかりに、干吉は矛先を建業に変え、兵を北上させた。

 

 

 

 

 

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「ば、馬鹿な……」

 

于吉の目に飛び込んできたのは、地平線に林立した旗と槍。

その中に一際高くはためくは、間違うことなき、孫家の牙門旗だった。

 

 

 

――――

――

 

 

 

孫家の牙門旗の下には、当然の如く蓮華がいた。

その傍らには剣丞、詩乃もいた。

 

彼らは雪蓮たちと入れ違うようにして、隠れ家のあった越後から建業に赴き、穏と合流。

敵の来訪を予測し、越後の北東、建業の南方に陣を張っていたのだ。

しかし実際の兵は約二千ほど。于吉の目算はそう外れていなかった。

偽兵を用いて、嵩を増やして見せているが、直接矛を交えればこちらも無事では済まない数だ。

だが、その心配はなかった。

 

 

 

 

 

「は〜い♪ここから先は通行止めですよ〜?」

「みんな!今だ!」

 

前線にいる穏と翠の合図で、横一列に並んだ兵が、一斉に火矢を放った。

その先には敵の進路を塞ぐように置かれた、大量に油を含ませている藁束がある。

それに火矢が刺さると、ゴゥ!と音を立てて、炎の壁が出来上がった。

孫家の、というより陸遜のお家芸、火計である。

 

「今日は朱里ちゃんもいませんから、北風しか吹きませんよ〜?」

 

炎は北風に煽られ、炎の波となって敵陣に襲い掛かるのだった。

 

 

 

 

 

「すげぇ…」

 

剣丞は少し離れた蓮華の本陣から、火計を見ていた。

視界を埋め尽くさんばかりの炎。

それによって敵の姿は見えなくなっていた。

 

「これが、音に聞く陸伯言の火計……よもや、この目で見る日が来ようとは…」

 

剣丞の隣では詩乃が感激に打ち震えている。

有名な穏の火計が見られたのが嬉しいようだ。

 

「これで、こちらは大丈夫でしょうね」

 

蓮華はにっこりと微笑むのだった。

 

 

 

 

 

「成功ですね〜」

「あぁ。もし火を抜けてきたら、あたしが槍の錆にしてくれるぜ!」

 

ブゥンと翠が自慢の銀閃を一つ頭上で回して振り下ろす。

万が一、この炎を越えて迫りくる敵がいても、消耗した敵兵ならこの数の兵と翠でも充分に対応できる。

 

かくして、于吉の北上は食い止められたのだった。

 

 

 

 

 

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「ちっ…」

 

建業からの別働隊が動いていたようだ。

牙門旗や兵数の疑問は残るが、どちらにせよ、火勢が弱まるまで北上は難しい。

かと言って、このまま踏み止まっていれば、いずれ孫呉の本隊に後背を襲われかねない。

戦果を上げられないのは歯痒いが、ここは退くしかなかった。

 

「やむを得ませんね…総員反転!南から退却します」

 

ここからだと西には太湖という大きな湖があるため、退き口は必然的に南方となる。

しかし…

 

「あ…あれは?」

 

しばらく行くと、そこには謎の部隊が展開していた。

孫呉の部隊が回り込んだにしては早過ぎる。だとしたら、いったいどこの部隊だというのか…

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 

 

 

「長尾の御旗、掲げーーっす!!」

 

呆然としている于吉の耳に、何者かの大声が届く。

と、前方の部隊から大きな旗が上がる。

 

そこには『毘』と大書されていた。

 

「越後が英傑、長尾景虎。その守護を務めるは、武名名高き毘沙門天の旗」

「我らに毘沙門天に加護あらんことを!」

「も一つ掲げーーっす!!」

 

もう一つ『龍』と書かれた旗が揚げられた。

 

「大日大聖、懸かり乱れ龍の旗」

「我らに不動明王の加護あらんことを!」

「毘沙門天よ!不動明王よ!この異国の地での我らの戦い、しかと照覧あれ!!」

 

驚きべき事に、それは春日山城で散ったと思われた、長尾の兵だった。

 

 

 

 

 

春日山の城兵は逃散したのではなく、逃亡に見せかけて堂々と城を抜け出していた。

そして、事前に城を抜けて潜伏していた美空率いる本隊と越後南部で合流。

春日山で孫呉軍と于吉軍が戦っている最中、悠々と越後を脱出し、南方で待ち構えていたわけだ。

 

 

 

「よくも私たちの可愛い娘を拐かし、虚仮にしてくれたわね!」

 

憎き敵を前にし、怒髪天を突く美空。

 

「柘榴ーーっ!!」

「おいっす!皆のものー!!突撃っすーー!!!」

 

長尾勢約八千が、火の玉の如く白装束に襲い掛かる。

 

「ちっ…」

 

圧倒的な長尾勢の圧力に、どんどんと後退を余儀なくされる于吉。

随時、傀儡を呼び出してはいるが、物の数にならない。

一息で千も万も作り出せるわけではないのだ。

 

こうなったら湖を渡って逃げるしか…

 

于吉の脳裏にそんなことが過ぎった、その時

 

ジャーン!ジャーン!!

 

太湖からドラの音が響いてきた。

信じられないといった表情でそちらに目を向ける。

すると、そこには『甘』旗と『黄』旗が掲げられた軍船数隻が、太湖上に浮かんでいた。

 

 

 

蓮華たちが建業に向かうのと同時に、思春・祭の二人は太湖に展開している水軍に合流。

急ぎ、簡易的な艦隊を編成し、湖上を封鎖したのだった。

 

 

 

「馬鹿な……」

 

これで完全に退路を絶たれた。

水軍の登場で長尾勢はいったん退いて距離をとり、ほぼ同時に北と西からそれぞれ、孫呉の牙門旗が現れた。

五百余りにまで数を減らした于吉軍は、于吉を中心に円陣を敷くが、それもほんのささやかな抵抗。

干吉は文字通り、袋の鼠となった。

 

 

 

 

 

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――――

――

 

 

 

「あはっ♪無様なものね。さぁ!存分にぶっ潰してやりましょうか!!」

 

配置もそこそこに、突撃を仕掛けようとする雪蓮。

その前に…

 

「お待ち下さい!」

 

シュッ、という風切り音と共に明命が姿が現した。

 

「ちょっと、なによ明命!邪魔するの?これからが良いところなのよ!」

「も、申し訳ありません雪蓮さま。ただその…これ以上近付かれると危険との事ですので…」

「危険?あの程度の敵なんて、物の数でもないわよ」

「いえ、そういうことではなくて、ですね…」

 

 

 

――――

――

 

 

 

北方。蓮華の本陣には、湖衣が姿を現していた。

彼女はずっと独立して、戦場の中ほどから金神千里で戦場の分析を行っていたのだ。

それを逐一、小波に報告。

句伝無量を通じて、各地の部隊にその情報を伝えるという、司令塔の役目を担っていた。

 

「剣丞さま」

「湖衣、お疲れ様」

「はい」

「とどめは、やっぱり美空?」

「はい。ですので、これ以上は近付かぬようにと」

「分かった。蓮華姉ちゃん、これ以上は敵に近付かないようにしてくれる?」

「それはいいけど……剣丞、一体何が始まるというの?」

 

剣丞と湖衣の間で短く交わされる言葉からは話の見えない蓮華が、首を傾げながら尋ねる。

敵を一気に殲滅する良い機会なのに、これ以上近付かぬように、というのは腑に落ちない。

 

「うん。湖衣たちの時代の武将は、それぞれお家流って技があってね。例えばこの湖衣は戦場を遠くまで見渡せる能力。他にも味方の力を上げたり、直接敵を攻撃したりと色々な技があるけれど、中でも強力な技の一つが、いま南側に陣を構えている美空のお家流なんだ」

 

 

 

――――

――

 

 

 

『…美空さま。お味方、完全に安全地帯で進軍を止めたとのことです』

 

味方の陣へ行った明命と湖衣から連絡を受け、美空に報告する小波。

 

「よしっ!それじゃあ……行くわよ!私のかわいい妹達!!」

 

美空が一人、戦場に大きく進み出る。

その周りには、五つの光が寄り添っていた。

 

「我らが誇りを穢し、卑劣の限りを尽くす外道の衆が、我が光に触れること能わず!

 我らは御仏の子なり。ひとえに如来大悲の本誓を仰いで、不二の浄信に安住し、菩薩利他の行業を励みて、法身慧命を相続し奉らんっ!!

 おん さんまやさとばん…おん さんまやさとばん、おん さんまやさとばん!」

 

美空が題目と真言を唱えると、五つの光はふわりと宙を飛び、戦場を囲むように広がる。

 

「我らに仇為すを滅するため、護法五神に三昧耶形を降ろす!顕現せよ!天の力!!」

 

五つの光と美空自身が白く光る氣で繋がり、白装束の足元に巨大な六芒星が描かれると、その中の氣の濃度が、爆発的に増大する。

 

「不味い……これはっ!」

 

中央の干吉は肌で危険を感じる。

そして――――

 

「三昧耶曼荼羅っ!!」

「転っ!!」

 

ゴウッ!と音を立てて、清浄なる光が地面から立ち上る。

強烈な氣の力によって、中の白装束たちは跡形もなく『消滅』した。

 

 

 

――――

――

 

 

 

「す、凄い……」

 

遠目に見ていた蓮華は、思わず声を漏らす。

多くの修羅場を潜ってきた彼女をして、それは驚愕の光景だった。

 

 

 

――――

――

 

 

 

「何よ、これ……春蘭以上の反則じゃない……」

 

雪蓮は呆れ半分の声を出した。

 

拳に乗せるという、凪のような氣の運用ならともかく、先の天下一品武道会の春蘭の技すら超える大技に、最早呆れるしかない。

時代が進んでいるとはいえ、雪蓮は大いなる不条理を感じた。

 

「…私も何か一つくらい、練習した方がいいのかしら?」

 

 

 

 

 

孫呉と長尾が手を組み、敵の企みを完膚なきまでに看破し、完勝したこの戦い。

最後に残ったのは、雪蓮の物騒な呟きがやけに大きく聞こえるほどの、水を打ったような静けさだった。

 

 

 

 

 

説明
どうも、DTKです。
お目に留めて頂き、またご愛読頂き、ありがとうございますm(_ _)m
恋姫†無双と戦国†恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI、61本目です。

今回で、リアルタイム的にも話数的にも、長きに渡った孫呉・長尾編終結です。
いえ、終わるのは実戦だけですが…


前段階をお忘れの方は、お手数ですが投稿作品一覧より戻って頂ければと思います。

なお、実際の地形や距離とは異なった表現があります。
その辺、お含み置き頂ければと思いますm(_ _)m
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コメント
センリさん>まさにお言葉通りですねwしかし于吉たち負けすぎだなぁ〜(他人事(DTK)
hachidoriさん>お家流覚えさせてドラゴンボ○ルみたいな恋姫も面白いかもw(DTK)
いたさん>ありがとうございます!戦国三国合わせてもトップクラスの強国でしたので連携さえ出来れば楽チンでした^^(DTK)
呉越で取り囲んで最後、美空のお家流とは・・・因果応報とは正にこの事だw(センリ)
雪蓮はじめ一部の三国勢はその気になれば本当にお家流を習得できそうで怖いw(hachidori)
おお………素晴らしい策でした。兵の運用が要ですね! (いた)
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