F-ZERO GX(?) Soultwin 〜魂の双子〜
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 ……夢を見ている……

 そう、夢を見ている……

 

 ……夢を見ている……

 ……ずっとずっと、同じ夢を見ている……

 

 少なくとも、本人はそう思っている筈だ。

 

 ……夢を見ている……

 

「そう……夢のままなら、良かったんだがな」

 俺は思わず独り言を呟く。

 

 ……このまま夢で終わってくれる事を願っていた。

 でも残念ながら、事はそう上手くは動いてはくれなかったようだ。

 

 そう、このまま、ただボンヤリと、夢だと認識してくれていれば良かったのだが……

 

「まずいな、これは……」

 

 俺は思わず頭を抱える。

 夢のままで終わらないとしたら、俺が出て行くより他に無い。

 

 それは最後の手段にしたかったが……

 このままだと、その最後の手段に出るしかないような感じだ。

 

「ふぅ……」

 事の顛末に思わずため息が漏れる。

 しかし、夢を見ている本人はある意味被害者で、責められないしな……

 

 俺はそのままゆっくりと息を吐きながら、逆光に晒されているコース上に視線を落とす。

 

 いつもと変わりのない光景だ。

 

 数台のマシンが練習と称してフリー走行を行っている午後の昼下がり。

 特におかしな事はない……

 そう、見た目はな。

 

 異変なんて、そうそう目に見えて発生するものじゃない……少なくても、俺の管轄では。

 俺はあごに手を当てて思案を巡らせながら、ある一人のパイロットに視線をやる。

 

 ちなみに、俺の名前はフェニックス。

 時空警察官として、29世紀の未来から、ここ、26世紀にタイムワープして来た。

 その理由は、とある時空犯罪者の監視及び逮捕。

 個人的にはぶっ殺しても構わないと思っているが、今回その話は置いておく。

 

 何故なら、俺が今悩んでいるのは、それとは関係の無い全くの別件だからだ。

 

 俺は腕を組み、しばし考えた後、彼に声を掛けようと意を決する。

 先程から視線を投げかけていた相手に。

 このまま考えてばかりいても仕方がないからな。

 

 QQQの見立てもある……恐らく、俺達の嫌な予感は当たっていると思う。

 

「やぁ」

 俺は軽く片手を上げ、その相手に挨拶をする。

 その相手とは……ジェームズ・マクラウドと呼ばれる一人の男。

 歳の頃は32。俺より6つ年上。

 緑色のインナーに白いジャケット、黒い手袋と言った趣だ。

 個性派揃いのF-ZEROパイロットの中ではもの静かでシックな人だ。

 俺と彼は特別仲が良い…と言う訳ではないが、同じパイロットとして一応顔なじみではある。

 

「…………あ、あぁ…………」

 そんな俺の挨拶に対して、相手からは少し間伸びた返事が帰って来る。

 濃い色のサングラスをしている為表情は分からないが、恐らくボンヤリしていたのではないかと思う。

 ボンヤリして集中出来ないから、恐らく走るのをやめて休憩でも取っていたのだろう。

 

「……どうした?何か私に用か?」

 社交辞令的にジムからこう返されるが、俺には回りくどい会話をする気は無かった。

 だから単刀直入に聞いてみる。

「あ、いや、最近ボーっとしている事が多いなと思ってな……夢見でも悪いとか?」

「いやまぁ……そうだなぁ」

 彼は頭を軽く抱えながら、俺の問いに一応肯定の返事をする。

 

 やっぱりな……

 

 俺は声には出さず、心の中でそう呟く。

 何故なら、ある程度察しはついていたからだ。

 

「ずっと同じ夢で気味が悪いとか、そんな感じだろ?」

「うーん……君は何でそんなに鋭いんだ?」

 

 その問いに俺は少し返事に詰まる。まさか全部察してましたと言う訳にもいかない、気味悪がられるのがオチだ。

 だが、俺のそんな対応を他所にジムは軽くため息をつき、それから事の顛末を話し始める。

 

「お前の言う通り……最近は変な夢ばかり見るようになった。

 毎回同じような内容で、どこぞやの宇宙空間に放り出されて、途方も無い長い時間彷徨い歩いている感じなんだ。

 疲弊している筈なんだが、そんな事より何故かずっと息子の事が気がかりで、必死に『助けなければならない』と思っている。

 ただ単に助けたいと思うだけではなく、強い憔悴感に苛まれているんだ。

 一刻の猶予も無く、息子を救う為なら、この世界を滅ぼしてもいいと思う程の、憎悪にも似た強い思い。

 どうも私自身、最近はその強い感情に引っ張られている感じなんだ」

 

 彼は空を仰ぎ見ながら、そう一気に語った。

 

「しかし、私の息子はそんな危機的状況にはない筈なのだが……その夢が何故か気になって仕方がないんだ。

 最近では同じような白昼夢を見る事もあるくらいだよ」

 今度は手のひらを見ながら、彼はポツリと呟く。

 

 俺は顎に手を当てながら、黙って彼の話を聞いていた。

 

 確かにジムには息子は一人いるが、確か今は平和な別の惑星で暮らしていて、そんな危機的状況には置かれていない筈だ。

 

 なのに、夢の中の感情に引っ張られて危機感を感じている……

 

 そうだな……きっと“そう言う事”なのだろう。

 

 俺は俺の中で勝手に確信していた。

 間違いない、俺達の嫌な予感はほぼ100%的中している。

 そうなると……そう、やるしかないな……

 

 俺は心の中でため息をつくと、それを表に出す事無く、彼に話かける。

「その夢のせいで、実際まともに寝てないんじゃないか?」

「ん?……そうかも知れないな……」

 そして今度は彼が軽くため息をつく。

 

 恐らく、本人にも分からない深層意識下で随分疲弊している筈だ。

 じゃなければ、白昼夢を見る程にはなっていない筈だから。

 

「なら少し休んで行けば……」

 俺はそう言いながら半ば強引に彼の手を引き、医務室へと歩き出す。

 なに、ベッドの一つくらい空いてるだろう。

「いやあの別にそこまでしなくても……」

「いや……寝ててもらわないと俺的に不都合があるんで……」

「は?不都合ってな……ぐふっ!!!」

 

 ジムがその台詞を最後まで言う事はなかった。

 何故なら俺が不意に振り向き、彼の腹部を思いっきし殴って気絶させてしまったからだ。

 

「…………アノ…………」

 俺が気絶したジムを抱えて医務室に入ると、先に待っていたQQQが呆れた声で言った。

「少シハ手段ヲ選ンデ下サイ……」

「いや、こうでもしないと意識失わせる事は無理だって……手っ取り早い方が、お互いにいいだろ?」

 そう言いながら、俺はジムをベッドに寝かしつける。

 

 医務室の担当者は席を外しているらしく、部屋には誰もいなかった。

 まあ、その方が好きに出来る分都合が良い。

 レースのある日はともかく、無い日は割とアバウトな管理しかしてないみたいだしな。

 なに、ちょっとベッドを借りるだけの話だ。後の事は俺達の方でやる。

 

 じゃあ、行こうか。

 俺はベッドの側の椅子に座り、ナビゲーションロボのQQQに目配せする。

 導入部分はQQQがやってくれる筈だ。

「ボクニ出来ル事ハ、意識ヲ飛バス事ダケデス。

 ソノ後ノ事ハ、そちらデ何トカシテ下サイ」

「ああ……分かってるよ」

 

 QQQは右手に俺の手を、左手にジムの手を取ると、唸るような独特の機械音を上げる。

 その音を聞きながら、俺の意識も溶けてゆく。

 溶けて、ある部分に融合してゆく。

 ゆっくりと、しかし確実に。

 

「イッテラッシャイマセ」

 そうして気を失った二人の男と稼働中の一体のロボットだけが、その部屋に取り残される事となった。

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 始めに感じたのは、強烈な熱と痛み、そして光。

 これは異物が本体に入り込む時の摩擦みたいなものだ。

 耐えられない訳ではないが、何度経験しても慣れない感覚ではある。

 

 異物はそう……俺自身。

 俺はQQQの空間転送装置の力を借りて、ジムの深層意識の奥深くに侵入しようとしていた。

 この装置を使うには、入られる側は意識を失っている必要がある。

 意識がある者の中に侵入すると言う事は、麻酔を打たずに手術するのと同様に相手に苦痛を伴わせ、正気を失わせてしまう可能性が高いからだ。

 

 そこまでして俺達がジムの深層意識に潜り込んだのには理由がある。

 

 例の夢……白昼夢まで見るようになったと言う、あの夢……

 

 出来れば夢のままでいてもらいたかった。

 

 だが、その夢からは深層意識を浸食し、本体を乗っ取ろうとする“悪意”を俺達は感じ取っていた。

 ジムの深層意識……その容量の不自然な広がりをQQQは察知していた。

 職業柄、俺達は時空等の目に見えない領域の数値の変化には敏感だったりする。

 

 要するに、変化に気付いた以上、放置する事が出来なかった。

 それがどんなに危険が伴う作業だったとしても、やり遂げなければならない……そう、思った。

 

 さもなければ、その“悪意”からジムを救う事が出来ない……

 

 ジムの意識の中を俺は飛んで行く。

 走馬灯のように色々な感情が浮かんでいるのが見えるが、そんな事を気にしている場合ではない。

 一切合切を無視し、深層意識の一番奥……本人でも認識出来ないような“無意識”の領域を目指す。

 

 そうして、一際暗い空間に俺は飛び込んで行く……

 ややあって、俺はその空間を切り裂くように飛来し、そして、着地する。

 

 薄暗い空間。

 足元には灰色の雲が暑く積み重なっているかのように広がっている。

 ここが……俺が目指していた深層意識の奥深く……無意識の領域。

 奥深くに立ち入ると言う事は、それだけマシンスペックも使うと言う事。QQQの転送装置がどこまで持つか……その前に全ての事に蹴りをつけなければならない。

 

 無意識……意識が無い。

 だから、異物が入り込んだとしても普通は気付かない。

 

 辛うじて……意識が無くなる睡眠時に、夢というボンヤリとした形になって現れたのだろう。

 

 その異物の正体を調べようと、俺はジムの無意識の領域を歩き始める。

 そして数分もしないうちに……その“違和感”の原因をあっさりと見つけ出したのだ。

 

「……誰だ……?」

 誰もいない筈の空間で……無意識の領域で……俺と同じ“意識”を持つ者の気配を感じ取ったのだ。

 

 “そいつ”は最初、俺に対して背を向けていたが、俺の声を聞いてこちらにゆっくりと向かい直る。

「……あ……」

 そいつの姿を見て、俺は思わず息を飲んだ。

 

 緑色のインナーに白いジャケット、そして、黒い手袋とサングラス……

 

 細かいデザインは違ったが、あのジムとそっくりだったからだ。

 ただ、俺の知っているジムは人間だが、こちらは……

 

 獣人だった。

 

 別にこの世界では、全宇宙と交流を取る時代に入っている……異星人として、獣人自体は珍しくも何ともない。

 長く太く伸びたその尻尾の特徴から考えて狐と思って間違いないだろう。

 

 限りなくジムにそっくりのその狐……

「……ソウルツイン、か……」

 俺は相手に聞こえない程の小声でポツリと呟く。

 

 噂には聞いた事がある……だが、実際に会うのはこれが初めてだ。

 

 この宇宙では、自分と全く同じ因子を持つ存在が生まれる確立は限りなくゼロに近い確立だ。

 

 だが、全くのゼロじゃない。

 

 その全くのゼロじゃない存在が、魂の双子、ソウルツインと呼ばれる存在……

 

 しかし、ソウルツインが生まれたとしても、全く別々の宇宙で、全く別々の人生を送り、そして、互いの事に全く気付かずに他界するのが普通だ。

 

 だが、何かの拍子で出会ってしまった時……その分離した魂は一つになる事を望むと言われている。どこまで本当かは知らないがな……

 

 ジムのソウルツインか……

 

「ジェームズ・マクラウド」

「……!?」

 俺は試しに相手の名前を呼んでみた。

 まさかとは思ったが、若干動揺した所を見るに、どうやら人間の方と同姓同名のようだ。

「何故、私の名前を……?」

「そんな事より、一体お前は何をしに来たんだ?」

 

「……なら逆に問うが、他人であるお前は何をしにここに来たんだ?」

 そう問いかける声は、心無しか人間の方のジムに似ている……ような気がする。

 

「俺はあんたを、この空間から引き離しに来た」

 俺は単刀直入にそう切り出した。

 

「“嫌だ”と言ったら?」

「実力行使」

 俺は一言でバッサリと切り捨てる。

 さっきも言ったが、俺は回りくどい会話をする気は無い。

 相手の出方によっては、本当に実力で引き離すつもりだった。

 

 それより……

 

「何故“嫌だ”と言うんだ?何故“それ”を拒むんだ?」

 

 俺はそう問いかける。

 何故なら、狐さんが即答した、嫌だと言うその一言が妙に引っ掛かったからだ。

 

 最初は互いの魂に呼び寄せられるように、相手は無意識のうちにここに訪れたのだろうと俺は考えていた。

 だが、立ち退いて欲しいと言う俺の欲求を無視してまで、相手はここに留まろうとしている……

 

 だとしたら、意図的に、目的を持ってここに来た事になる。

 

 その目的は何か…その意図は何か……

 いや、意図や目的があったとしても、お前には立ち退いてもらわねばならない。

 人間の方のジムを見殺しにする訳にはいかない。

 

「もう一度問う。お前は、何をしにここに来たんだ?」

 俺は更に問いかける。

 だが、どんな問いを投げかけても、相手は答えようとしなかった。

 ただ、俺の出方を伺うようにこちらを見据えるだけだ。

 

 答えないものは仕方がない。俺は一方的に話を続ける。

「無意識の領域に入るには、お前自身も肉体から意識を切り離さなければならない。

 俺達はテクノロジーを駆使してその状況を作り出しているが、お前はそうじゃない。

 頭を打って意識を失ったか、または意識を失う程、肉体のダメージが酷い状況に置かれたとか……ともかく、意識不明の状態になった時に、偶然この“無意識の領域”を見つけた……そうだろう?」

 

 ジムが見た夢は……この領域に踏み込んだ狐さんの記憶か意思の何かだろう。

 その二つが混じり合う事で、夢と言う形でシグナルが現れたんだ。

 

「目的は何だ?

 “息子を救う”……それが目的か?

 その為には手段を問わない……そうだな?

 見えて来たぞ…お前の目的……

 使えなくなった己の肉体を捨て去り、この“領域”を乗っ取り、その“肉体”、“意識”を乗っ取る……

 そしてその肉体を使って息子を救いに行くのだろう?

 そうじゃないか?」

 俺は一気にそう畳み掛ける。

 

 静かで何もない空間に、俺の声だけが響き渡る。

 

「……よく喋る男だ」

 長々と俺が話した後、やっと一言、相手がそう返してくる。

 

「……もし、そうだとしたら?どうすると言うんだ」

「さっきも言ったが実力行使、全力で止めに入らせてもらう」

 相手の問いに俺はそう言うと同時に銃を手にし、相手に銃口を向ける。

 

「しかし、お前は何故こんな危険を犯してまで“この男”をかばうのだ?」

 更なる相手の問いに、俺はこう答える。

「……一応知っている仲だからな」

 

 今回俺は時空警察官としてではなく、あくまで一人の知り合いとしてここに来た。

 

 深層意識を乗っ取られたら、それと同時に表層の意識までも乗っ取られてしまう。

 全ての意識が乗っ取られると、誰にも知られる事なく、人間のジェームズ・マクラウドの意識は消えて無くなってしまう。

 

 それは“死体無き殺人”と呼ばれる状態だ。

 

 流石に一人の人間の意識が消されるかも知れないと言う状況を、俺達は黙って見過ごす事は出来なかった。

 だから俺はここに来た。警察官の職務としてではなく、あくまで一人の人間を救う為に。

 

 俺が銃口を向けたのを確認すると、狐さんの方も腰のホルスターにある銃を抜く。

 人間のジムも本業は傭兵だから、多分こっちのジムさんもそうなのだろう。

 銃を抜くその動きに隙は一切無い。

 

 面倒くさい事になりそうだ。

 

 そうは思ったが、今更銃を下ろす事は出来ない。

 

 周囲に身を隠すようなものは何も無い。

 だから、身動きを取る事がお互いに出来なかった。

 何故なら、僅かな隙が致命的な事態を発生させる事は分かっていたからだ。

 

 互いに戦闘慣れしている以上、逆に身動きが取れないのだ。

 

「……君は一つ、大切な事を見落としていないか……?」

「……!?」

 そんな緊迫した静寂を破るかのように、相手が話かけてくる。

 俺は銃口を相手に向けたまま、敢えて黙って話を聴く。

 

「この領域は私が今まさに浸食している領域……

 つまり、私の思い通りになる世界でもあるんだぞ?」

「……何……?」

 俺はいぶかしげな表情を浮かべる……より前に、相手の言葉の意味を飲み込む。

 俺の足元のモコモコした雲みたいなものが急速に伸び、俺を飲み込もうと勢いよく迫ってくる!!

「……くっ……」

 俺は銃を何度か発砲し、飛びかかって来た雲のような物体を全て払いのける。

 

 くそっ、俺が思っていた以上に相手の意識の浸食は進んでいたようだ。

 しかし、今はそんな事を考えてる場合ではない。

 何故なら、雲の間から、相手が銃口をこちらに向けているのが見えたからだ。

 

 その動きを察知し、俺と相手が引き金を引いたのは、恐らく殆ど同時だったと思われる。

 

 ズドン!!

 

 双方の銃口から、独特の炸裂音が響き渡る。

 

 そして、お互い銃の扱いに慣れた分際だった故に……

 

 本当に正確に……

 

 互いの左胸に銃弾が突き刺さる……

 

「……くっ!!」

 視界に鮮血が走る。

 ぐふっ……息が詰まる……

 

 激しい痛みに耐えきれず、俺は左胸を押さえながら倒れ込んだ。

 

 互いに正確に左胸を打ち抜いた……

 心臓を打ち抜かれては死んでしまう。

 普通に考えればそうだろう。

 

 だが、ここは深層意識の中……肉体を切り離し、意識だけの状態で俺はここに飛んで来た……

 

 そう、意識だけの存在で肉体が無いのだから、心臓を打ち抜かれても死なないのだ。

 但し、打たれたショックで死んでしまう事もあるから、完全に安全とは言えないのだが。

 

 俺は時空警察官として特殊な訓練を受けている……そんな事でショック死なんてしないように……

 だが、痛みは伴う……激痛で身動きが取れなくなるこの状態はちょっと避けたかったのだが……

 

 まあ、幸いと言うか何と言うか……相手も同じ状態の筈……すぐには動けない筈……

 痛みで混乱する頭の中で、その単語だけが馬鹿みたいにぐるぐると回っていた。

 

 それから何分か経過した後、俺は胸を押さえながらヨタヨタと立ち上がる……

 相手も同じような状態でヨタヨタと立ち上がり、再びこちらに銃口を向けて来る……

 

 残念な事に、どうやら、相手はあくまで引くつもりは無いらしい。

 本当なら、この一撃を加えた時に引いてもらいたかったのだが……

 

 あまりやりたくないが、このままだと……本当の実力行使……相手の意識を“削除”する以外に方法は無いのか……?

 決断を下すしかないのかと、思っていた矢先……

 

 けたたましいアラート音が頭の中で響き渡る!!

 う……うぇ!?と、思わず変な声が漏れそうになる。

 このアラート音はQQQからの警告音だ。

 恐らく……

「転送装置が時間の限界を超えてるんだな…?」

『分カッテイルンデシタラ、今スグ蹴リヲツケテ下サイ……コノママダト意識ガ消エテ肉体ニ戻レナクナリマスヨ』

「それって平たく言うと死ぬって事だよな……」

 大して長い時間はいられないとは思っていたが、まさかこんなに短いとは……

 

 何をするにも時間が足りなかった。

 相手を説得するのも無理だが、相手の“消去”も無理な残り時間だった。

 

 だが、ジムの意識を保護する為には、狐さんの方をこのままにする訳にもいかず……

 

「仕方がない……」

 俺はポツリと呟きながら大きくため息をつく。

 息を整える。

 それから痛みを堪えてすくっと立ち上がり、相手と向き合う。

 

「次善の策は取らせてもらうぞ!!」

 

 俺はそう言うと、狐さんの周囲に「KEEP OUT」と書かれた黄色いテープを張り巡らせる。

 

 時空警察お手製の特別品だ。

 周囲に結界を貼り、その行く手を遮る。

 本当なら完全に引き離してしまうのが良かったのだが、それが出来ない以上、これ以上の侵入を防ぐより他に無い。

 

 なぁに、狐さんには解除する所はおろか、手を触れる事も出来ない筈だ。

 

 そうして、その結界を張った直後……

 俺の意識はQQQの手により強引にジムの深層意識から引き離される。

 再び、様々な感情の海を乗り越えた後、俺の意識はサーキットの医務室に戻ってくる事が出来たのだ。

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 俺が目を覚まして暫く後……

 

 うぅ…と唸りながら、ジムが不機嫌そうに目を覚ました。

 

「……痛ぇなぁお前何してくれるんだよ……

 ……と言うか大丈夫か??顔色悪すぎるんだが?」

 

 どうやら殴られた事を怒りたかったようだが、俺の尋常じゃない様子を見て躊躇したらしい。

 俺の方はと言うと、顔色は悪いわ身体は震えるわ冷や汗かいてるわ左胸を押さえてぜーぜー言ってるわ……

 お世辞にも万全とは言い難い状態だったからな。

 

「…ゆ、ゆ、夢見がちょっと…悪かった、だけ…だ……」

 俺は何とかそう返す。

 そりゃそうだ、嘘はついてない。

 心臓を打ち抜かれても目を覚ます事を許されず、深層意識の中で暫くもんどりうっていたのだから。ちょっとした拷問って感じだ。

 

「夢見が悪い所の騒ぎじゃないだろうその様子は……ほら、ベッド譲ってやるから」

「いや、別にいいいいいいいい……」

 俺は断ったが、ジムの手によって半ば強引にベッドに押し込まれ、布団をかぶせられて横にさせられてしまう。

 入れ替わりでジムは立ち上がり……

「じゃあ君、看病頼むよ」

『ハイ、分カリマシタ』

 QQQにそう声をかけ、医務室から出て行った。

 

 こうして俺達の戦いは、誰にも気付かれる事なく始まり、そして、静かに終息していったのだ。

 

 ジムの手前「大丈夫だ」とは言ったものの、深層意識内で負ったダメージは思っていた以上に深く、本当の事を言うと、あまり大丈夫ではなかった。

 寝かされたのもいい機会だから、このままゆっくり休んでいこうと俺はメットを外して本格的に横になる。

 

 横になりながら、俺は色々考えていた。

 

 狐さんの意識を完全に引き剥がしたかったが、出来なかった……

 でも結界は張ったから、あれ以上の手出しは出来ない筈だ。

 完全に引き剥がせなかった以上、人間の方のジムは、たまぁに夢で『息子を救わねばならない』的な強迫観念に駆られるかも知れないが、どうせ夢の話と言う事で本人が処理してくれるだろう。

 

 人の意識を乗っ取ってまで息子を救いたいと思っていた狐さんは今後どうなるのだろう?

 

 手段を選ばずに息子を救いたいと思う気持ち……それは分からないでもない。

 大切な者の為なら、それ以外の気持ちはどうでもいい……それは少し極端だが、分からなくもない。

 

 だが、その為に人を一人殺してしまっていいとは俺は思えない……

 

「…あの人は……あ、人じゃないのか。狐の方のジムは大丈夫なんだろうか……」

 人間の方の深層意識の方に潜り込んでいたと言う事は、肉体から意識を切り離されている状態だと言う事。

 その肉体が無事なのかどうか……俺にはそこが引っ掛かっていた。

 

 人の肉体をわざわざ欲しがると言う事は、彼の肉体は無事と言える状態ではないのかも知れない。

 

 問答無用で狐さんの方の意識を消す事も、俺達の力……QQQのプログラムを持ってすれば不可能な事ではなかった。

 

 だが俺は、敢えてその方法を取らなかった。

 

 誰も傷つけたくなかったからだ。

 

 だから狐さんの方も生きていて欲しい、そう思うのだが……

 

「大丈夫ナンジャナイデスカ」

 俺の意思をくべたようにQQQが答える。

「深層意識デ、アレダケノだめーじヲ負ッテモ尚、彼ハ死ナナカッタンデスカラ。

 ソレダケノ精神力ヲオ持チナラ、キット生キテイル事デショウ」

 

 そうだな……

 

 俺は心の中でそう答える。

 

 楽天的だと言われるかも知れない。だが、俺はそう信じたい。

 みんな無事なのだと。

 みんな生きているのだと。

 

〜Fin〜

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★奥付と言うか蛇足★

 初めましてこんばんわ、がぇにと言う者です。

 今回は拙い小説にお付き合いありがとうございます♪

 

 狐と人間のジムパパの小説を書くのは実はこれが2回目なんですね。

 

 昔書いた小説は……当時はGXがまだ発表されてなくてフェニもいなかった頃ですが(お前いくつだと言うツッコミは不可w)あの頃は双子じゃなくて、同一人物と言うか、狐パパが行方不明になった後、色々あって中途半端に狐の意識と記憶を持って人間に転生したと言う内容のお話でした。

 

 今回はソウルツインと言う事で、魂の双子として書いてみましたがいかがでしょうか?

 

 実はこのネーム、当初はスタフォの方で発表する予定でした(その時の主人公はフォックスで、フェニも一応出番がありました)が色々あって断念し、F-ZERO寄りの世界観にする事で今回発表させて頂きました。

 

 狐パパの扱いが一歩間違うと悪役のようですが、これ、わざとこうしてます。

 あるキャラの立場では正義でも、ある立場では悪となる。

 そう言った意味では、今回の小説は本当の意味での悪役は存在しないと言った感じです。

 

 では、今回はこの辺で失礼します。また何か機会がありましたら宜しくお願いいたします。

 

 2015.10.20 by GAeNI

説明
元々マンガ用のプロットを無理矢理小説化したので短いですw

一応F-ZERO GXの小説ですが、レース全然やってませんしジムパパとフェニしか出番がありませんw
スタフォも知っていると理解しやすいかも知れませんが、殆どオリジナルのSF小説です。

要するに1.5次創作です。元ネタ知らなくても多分読めます。
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