神次元の外れ者(55)
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『他が為我がため彼の為に』

 

「ちょっ!ちょっと待ちなさいプルルート!」

「休憩!休憩しよう!そしたら後で自分でやるから!」

「そうですわ!もう誰がメインだとか言いませんから!」

「あぁ……もう何を言っているのかしらぁ……今やぁっと乗って来た所でしょぉ……?なのに終わるわけないじゃなぁい!!!」

調教の悲鳴と雷鳴が聞こえる中、俺は自分の中の携帯電話が震えているのに気付いた

取り出すと何故か「アノネデス」と表示されていた……アドレス教えてねぇんだが

とはいえ、このまま待つのも暇なので電話に出た。

……まーた何か企んでるんじゃねぇだろうな?

「……何だ?またアホ姫の差し金か?」

「んもぅ、違うわよ。まだ疑ってるの?」

「当たり前だ、七賢人は女神とか〜な〜り深くつながってるからな、友好的な意味で」

「失礼しちゃうわね、ボウヤを心配してわざわざハッキングしてまで様子を見にきたって言うのに」

「は?何でお前に心配されにゃならんのだ、お前はノワールさんにゾッコンだろ」

「……アナタ、マシナリーシフトってご存知?」

聞き慣れない言葉に俺は首を傾げた。直訳すると機械的に移行……という事になるが

その様子を電話越しに察したアノネデスは「やっぱりね」と言った。

「単刀直入に言うと……アナタは組織に除名されて処分されたのよ?」

「は?何言ってんだよ、俺生きてるし、ピンピンしてるし、デタラメ言って寝返らせる作戦か?」

「事実よ、女神に情が移りすぎた貴方は、全ての人神に仕込まれているマシナリーシフトの自爆装置によって自爆した……筈だった」

わけわからん事を言われてキレて通話を切ろうとしたが切れない……

「あらごめんなさいね、貴方に短気を起こされるわけにはいかないから」

「……そんなに暇なら準備運動がてらてめぇの秘密基地を潰したって良いんだぜぇ……(ピクピク」

「あらやだ怖ぁい?でも今は、人生の先輩のアドバイスと思って聞きなさい、これからの話を……」

これまで聞いたことのなかった、アノネデスのトーンを落とした声……冗談でないって事だろうがまさかそんな……

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……暗い……眠い……このままでいたい

手も足も見えないどころか感覚が全くない、目の前には黒一色しか見えない。

俺……どうなったんだっけ?何してたんだっけ?全部夢だったのかな?

目覚めた事も、出会った事も、してきたことも、起こった事も全部俺の夢で、これが現実なのかな?

いや、そんな筈はない、そんな事はない……けど、この視界全てに在る黒を前にするとそんな事を思ってしまう。

あれ、まさか俺……死んだのか?じゃあここはあの世なのか?じゃあ俺はもうこのまま……

 

「いやまだ終わってないから、と言うかこんな所で諦めないでくれるかな?ここまでして付き合ってあげてるんだから」

「……え?」

 

全てを諦めかけた時、聞き覚えのある声を聞いた。だが右を向いても左を向いても誰もいない……幻聴だったか。

しかし何でクリエの声がしたんだろう、あのクラトスという男、興味を持たない者を襲うとは思えないが……

 

……ふにっ

 

……!?何だろう、さっきまで感じ無かった筈の【触覚】が……復活した?と言うか今、背中に何が当たってるんだ?

一点だけ中途半端な硬さで、その周りは柔らかくて……なんだろうか。あ、もしかして新手のモンスターか何かか?

そう思ったら感触が離れて……まさかあの世ではこういうマッサージが流行っているのでは……

 

ベシッ!!

 

あ痛ッ!?なんだ?頭が痛い……叩かれた?何処から?後ろから?ってあれ?【手が視える】……そうか、俺は今まで目を閉じていたのか。

という事は、振り向けば誰かいるのかな……?そう思って振り向いたら、怒りで身を震わせ涙目で、顔を真っ赤にしてにらみつけるクリエがいた。

 

「……やっと気づいたと思ったら何その反応……ちょっと悪戯しようかと思ったのに全っ然気付かないし、あの世で流行りのマッサージ?新手のモンスター?幻聴……?」

「えっと……お前も死んだのか」

「見知らぬ土地の再会の一言がそれとか!そこは嘘でも『ここはどこだ』とか『なんでここに』とかいう所じゃないの!?何でそんな普通に『お前も死んだのか』って受け入れてんのよ!?というかまだお互い死んでないし!」

「……はい?」

「勝手に諦めないでよ!意識の奥底まで遠路はるばるやって来た私が馬鹿みたいじゃない!って言うか何!?なんでそんな平然としていられるの!?どうしてそんなにあっさり諦められるの!?どうして……(ぐすっ」

「……(涙……?)」

「どうしてそんなに……そんなに……そんなに……簡単に死んだなんて思えるのよぉ……」

「そう言われても、どうする事も出来ないなら仕方ないんじゃないのか?実際目の前には何もないし、このままだとお前だって……」

「そこは『ごめん』っていう所でしょうが!!少しは空気読めこのバカ!それにここは、君の心の奥底であって、深層意識の中であって、あの世じゃないの、まだ向こうに帰れるの」

 

そのまま泣きっぱなしのクリエの話を聞くに、俺はどうやら死の一歩手前にあるらしく、身体は【まだ動いている】以上、死んではいないらしい。

そしてここから出るには強い想いが必要らしいが、記憶捜しではイマイチなようだ。

 

「結局どうすればいいんだ……」

「ここは深層意識の中だよ?ちょっとイメージすれば覚えてない記憶とか引き出し放題なんだから、何か強い動機になる((記憶|モノ))を引き出せばいいんだよ」

 

と言われたので、早速引き出してみたのだが……何だろう、イマイチぱっとしないものばっかりだ。

感覚共有で同じ記憶を見ていたクリエ曰く「君ってさ……イマイチぱっとしない人生を送って来たんだね」との事。

このままだと本当に死んでしまうとのことだが……どうすればいいか

時間だって無限にあるわけじゃない、かと言ってもこのままではクリエにもどんな事が起きるか……

 

「……クリエだけでも戻ってくれ、俺はこのまま探しているから」

「そんな事言って……自分のタイムリミット気にして私だけでも助けようとしてるのは分かってますからね、何度感覚共有してると思ってるのさ」

「しかしこのままだと……」

「……私のこの力は、一旦肉体から離れないと使えないんだ。そしてその為には自分で自分を……」

「えっ!?」

 

初耳だった……まさかクリエがそこまでして……!!

一体何が彼女をそうさせるのだろうか、何が彼女を突き動かしているのか、何が彼女を……

 

「……そんなの、私だって知らないよ」

「えっ!?」

「感覚共有を何度もするとね、仕草や表情で考えてる事がわかっちゃうんだ」

「そうなのか……」

「嘘……君ってあんまり私とおしゃべりしないからさ、同行している間に君を観察して、クセとか仕草とか顔の動きとか目の動きとかを研究してた」

 

確かに性格や思考、果ては生態系に至るまでの事は、仕草や癖で大体の事は読み取れるものだ。

だが短期間にそれを把握するには相当な洞察力と推理力、そして暇な時間すら費やして努力、研究でもしないとならない。しかし……

 

「なんでそこまで……?」

「君が以前の自分の事を知りたいのと同じように、私も君の事を知りたくなったのさ。もしかすると私は君の事……あ」

「何だ?」

「そろそろ肉体とのリンクが切れそう……」

「そんな悠長な事言ってる場合か!早く戻らないと!」

「……あ、あっれー?なーんかいつも以上に焦ってる〜ぅ?私は別に良いんだけどナ〜♪だってここなら君がどこ行っても面倒みれるし☆」

「ふざけてる場合か!君だって本当は死にたくない筈だろ!それをわざわざ俺の為に何て……!」

「……やっぱり自分の事が軽薄な分、他人の事を気にするんだね、わっかりやす」

 

……そう言えば確かに、俺、こんなに声を荒げた事あんまりない……

クリエはにっこり笑ったと思えばふっと力なく倒れ込み、俺は慌てて受け止める。

するとクリエは俺の頬にそっと手を添えて囁いた

 

「そんなに私が死ぬのがいやなら……私の為にここから出てよ」

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