「F」の日常。 第五話「掟と試練と。」
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正午に近づき活気で溢れる市場の一角に青年クリエは立っていた。

足元には青黒いこぶし大の玉が並べられた風呂敷が敷かれ、その横に立っている彼は「商売のススメ」と書かれた怪しげな本をパラパラとめくっている。

一通り読み終えた所で本をパタンと閉じ彼はこう呟く。

「よし、ミーナさんの弟さんの部屋の本棚にあるやつを読んだから予習はバッチリだ!」小さく気合いを入れて本の記述『まずは派手なパフォーマンスで人の気を引くべし』を思い出していた。

 

「とにかく目立てばいいんだな!それなら…」

そう言っておもむろに玉の一つを地面に叩きつける。

するとしばらくしてドンと大きく一発。続いてパラパラと音を立て数発の爆発が起こった。

彼の想定では青白い光の花火が上がるはずだったが、残念ながら昼間の明るい空の下ではよく分からなかった。

しかし、大きい音を立てたので道行く人の目を引くことには成功したようだ。

気を良くしたクリエはその勢いに乗るべく声を張り上げた。

「さあさ!お立ち会い!ただいまお目にかけましたのは…」

全てを言い終える前に彼は肩をちょんちょんと突つかれるのを感じた。

振り向くとそこには毛の無い猪の様な男が立っていた。クリエと因縁浅からぬ種族‥「ボゴ族」である。

「ちょいと兄ちゃん、見かけない顔だけどアンタ誰に断って商売してるんだい?」

少し困っているようなトーンでその男は話しかける。

 

話を聞いていたクリエは本の中にあった記述『みかじめ料を要求する輩も出てきますがそういった連中には毅然とした態度で接しましょう』を思い出していた。

「よし、ここは強気でいかなくちゃ…」と心の中でクリエは呟く。そして声を出す。

 

「みかじめ料とは穏やかじゃないねぇ。お兄さん方」

戦士であり同居人でもあるブライアンの口調を真似たどすを効かせたつもりの声だ。

「最もこっちはそんな理不尽な要求聞くつもりはないけどな」

 

勿論付け焼き刃のすごみでは怯むはずもなく呆れた様子で男は答える。

「いや、そういう態度じゃ困るんだよ…」

「へえ…。あくまで『もめ事』を起こしたいようだね…。俺は好きじゃないんだがな」

「そうじゃなくて!」

ゴボ族の男は声を荒げる。

「許可証はあるのかって聞いてるんだよ!」

「へ?許可証…?」呆気に取られて間抜けな声を出すクリエ。

そこに馬頭の男があわてて駆け寄って来る。ブライアンだ。

「すまねえ!コイツはトアからこの街に出てきたばかりなんだ!」

頭を下げながらクリエの頭を掴み強引に頭を下げさせる。

「そうかい。この兄ちゃんデク…じゃなかったトアから来たのか。仕方ねえな。それじゃあ、後はまかせたぜバトゥの旦那」

そう言って男は自分の店へと戻って行った。その様子を見ながらブライアンはふう、と溜め息をつく。

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活気に溢れる通りを二人は無言で歩く。沈黙に堪えかねたクリエが話を切り出す。

「そ、それでさ」

「?」

「許可証っていうのは一体なんなのさ」

「ああ、それの事か。この街で商売をするには商店ギルドが発行する『商店許可証』が必要なんだ」

それを聞いたクリエは「商売のススメ」を取り出して答える。

「ん?ああ、それはここじゃあ常識だからな。それで書いてないんだろう。…それにしてもいい加減な本だなこれ」

パラパラとページを捲りながらブライアンが答える。

「ふーん、じゃあその『許可証』って奴を取れば商売できるんだな!」

クリエは少し元気を出したようだがブライアンが口を挟む。

「まあ、待て。許可を貰うには『立会人』と『推薦人』がいるんだ。」

「何それ?」

「なんというか…商売をしてもいい人間であることを保証する人みたいなもんだ。立会人は俺でもいいが推薦人は既に商店を開いている人間じゃないといけない」

「そんなぁ…ここに来たばかりで知り合いも少ないのに」

「まあ、心配すんな。商店ならなんでもいいんだ。ミーナさんに頼めばいいさ」

そういって二人は店の方へと歩き出した。

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店の中は活気に溢れまさにかき入れ時といった感じだ。

中では猫頭の「マオ族」の女店主ミーナが一人で切り盛りしている。

明らかに不機嫌な様子を察知したブライアンは少し遠くで立ち止まりクリエに一人で行くよう促した。

戸惑いながらもミーナの方へと向かうクリエだったが実際にミーナに対峙して初めてブライアンの行動の意味を理解した。

とはいえここまで来て引き下がる訳にもいかないので言葉を紡ぐ。

「や、やぁミーナさん」

「ああ、あんたかい。ブライアンは見なかったかい?」

「い、いや…。どうかしたの?」

「どうもこうもないよ!あいつお使いに出てそれっきり帰って来ないんだよ!‥ったくこの忙しい時にどこほっつき歩いてんだか」

「へー、そうなんだ。と、所で頼みたい事があるんだけど…」

「後にしてくれ!見ての通りこっちは手が放せないんだよ!!」

取り付く島もない様子だ。クリエは仕方なくブライアンの元に戻る。

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「やあ、どうだった?‥って聞く必要もないか」

「酷いじゃないか!分かってて行かせるなんて!」

「もしかしたら…って思ったんだけどな。やっぱり無理だったか」

あまり悪びれている様子はない。クリエはそれ以上問い詰めるのを諦めて話題を変える。

「…所でミーナさん怒ってたけどどうすんのさ?」

「ほとぼりが冷めるまで待つかな。さしあたり『掲示板』でも見るか」

「掲示板…?」

「この街の困り事が書かれた物さ。俺みたいなフリーランサーは傭兵の依頼とかをこれと新聞で見つけるんだ」

「ふーん。じゃあ僕もそこで募集すれば…」

「そんな金ないだろ。まあ『割と暇で既に商店を出してる』奴なんてそういないんだから気長に待つことだな」

一刻も早く商売をしたいクリエはその提案には賛同出来なかった。

しかしどうすれば…と考えていた所一つだけ心当たりがあるのを思い出した。

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夕暮れ時で落ち着いてきた街の中心部に三人の男が立っていた。男の一人は不機嫌な様子である。

「こう見えて俺っちだって忙しいのになんだって呼びつけたんだい」

むすっとした表情で蛇みたいな外見の少年「アニス」が話す。

「ごめんよ。君以外に心当たりが無くて…」

「それにしてもアンタが((魔法機工士|アーティシャン))とはねえ…。人は見かけによらないというかなんというか」

「すごいだろ!と言ってもまだ作れるものはそんなにないんだけどね」

そんな掛け合いを見ていたブライアンが口を挿む。

「無駄口はいいからさっさと要件を済ませようぜ」

それに対してクリエが応える。

「そ、そうだな。とりあえず許可証をもらわないと…」

そう言って街の仰星の中枢である『開拓府』の方へ歩き出すクリエ。その様子を見て二人が同時に声を出す。

「おいおい!ギルドはそっちじゃないぜ!」

「ふぇ?どういう事?」間の抜けた感じでクリエが答える。

「ああ、アンタまだここに来てそんなに経ってないんだっけ」と言ってアニスが言葉を続ける。

「商店ギルドは『開拓府』とは独立した組織なのさ!さあ行こうか!我らワーム族が誇る信頼と安心の商店ギルドへ!」

そう言ってアニスはにょろにょろと歩を進める。その先には町の中枢である『開拓府』以上の大きさを持つ建物が建っていた。

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建物は巨大だったが実際に中に入ってみると一フロアは外見程の広さは無い。印象としては外見の半分程度だろう。とりあえず受付に行くとギルドマスターに会う必要があるらしい。15階上に控えているその人に。

長い長いスロープを登りながら部屋の様子を見ているとどこもワーム族に他の種族が少し混じった割合でせわしなく働いている。

そして登りながらクリエは思っている疑問を口にする。

「さっきアニスが『ワームが誇る』って言ってたけどそれどういう事?」

「このギルドは殆どがワームで構成されているからな。商売、特に商品の仕入れに関しては行動範囲の広いワームには敵わないんだ。だから有力な商人から選ばれるこのギルドは必然的にワームが多くなるのさ」

とブライアンが答える。

クリエは質問を続ける。

「なあ、この建物もっと大きい気がしたけどなんか部屋が外観に対して部屋が狭くないか?」

「それは最上階に行ってみれば分かるさ」

今度はアニスが答える。

「なあ――」

「疲れるからいい加減黙れ」

ブライアンが質問を遮る。

「――どうしてこの建物はスロープなんだい?歩く距離が長くなるじゃないか」

その質問に対してアニスが息を切らしながら答える。

「それは、階段だと俺っち達ワームが登り難いからさ。ハアハア…。さ、無駄話はそれくらいにして登り切ろうぜ」

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最上階も他のフロアと同じ広さで赤いカーペットが敷かれた空間に数人のワームを始めとした人間がいた。

違う所と言えば奥側の壁が無くその先に開けた空間が広がっている所位か。

賑やかだったこれまでとうって変わった厳かな雰囲気にクリエも思わず緊張した面持ちになっていた。ブライアンもどうやら緊張している様だ。

そんな二人を見てアニスがひっそりとした声で話しかける。

(そんなに硬くなる必要はないぜ。お二人さん。‥と言っても俺っちもここに来る時は緊張するケドな)

部屋を進んで行くと奥の方で重厚な前掛けをした威厳のあるワームの男がいた。

アニスとブライアンはその男の前で立ち止まり、アニスは姿勢を正し、ブライアンは跪いた。クリエもブライアンに倣う。

眼前に現れた三人に気付いたその男は余裕のある口調でこう話しかける。

「ほぉ…珍しい客人を連れておるな。若いの、そなたの用件はなんだ。」

「は、はい!ほ、本日はこちらにおります少年の『商店許可』の推薦の為に来た次第であります!!」

先程はああ言ったものの、やはりアニスも緊張している様だ。

「緊張せんでも宜しい。ひとまずは申請書を預かろうか」

その返答を聞いたアニスは書類をその男に差し出す。

落ち着いた知り様子でしばらく書類を読んでいた彼は次第に顔つきが厳しくなった。そして言葉を発する。

「クリエと言ったか、トアの少年よ。この書類には『取り扱い品目:魔法石』とあるが間違いはないか?」

その言葉を聞き場の空気が張りつめたものとなった。

その空気を感じたクリエは弱気な口調で答える。

「は、はい…。『結晶化』の仕方とか基本的なマナの扱い方は教わったので…」

「…なるほど。それならば知っておると思うが魔法石はこの街の発展に大いに貢献するだけの力を持つ。と、同時に扱いを間違えると危険な物だ」

「はい…」

「故にギルドとは独立した存在であるアーティシャンではあるがこれを商材として取り扱うとなるとこちらも看過出来ないのだ。…それは理解してくれるかな?」

「はい。ではどうすれば…?」

「ちょっとした試験を受けて貰おうか」

そう言いながら男は右の方を見る。その視線に気付いた壁に寄りかかって立っていた別の男がゆっくりと歩き出す。

その気配に気付いた様子もなくクリエは尋ねる。

「試験…とは一体?」

その質問に歩いて来た男が代わりに答える。

「なぁに…。至極簡単な事さ」

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歩いて来た男は山犬の頭を持ちしなやかな黒毛を持っていた。

その男は寒々とした青色の結晶で出来た剣を手にしていた。

「この『魔法剣』を破壊する。お前ならできるはずさ」

そう言った後に言葉を続ける。

「最も俺は殺す気でかかるけどなぁ!!」

そう言ってクリエの方に向かって行った男は名乗りを上げる。

「『ヌビス族の戦士スパイク』全力で行くぜぇ!!」

そう言って駆け出し、剣を降り下ろす。

クリエは戸惑いながらも斬撃を間一髪の所でかわした。が、次の瞬間肩の辺りに刺すような痛みを感じた。

「…!!」

まさか斬られたのかと肩の方に目をやるが特に変わった所はない。

「落ち着け!低温を痛みとして認識しただけだ!!問題ない!…ったくしょうがねえな」

そう言いながら地面に置いた剣に手をかけようとするブライアン。しかし威厳のある男がそれを阻まんと声を上げる。

「手を出す事はならんぞ!バトゥの客人よ!!」

剣を地面に置き不満気に鼻を鳴らしてブライアンが言い返す。

「だ、だがあいつは…」

スパイクが言葉を遮る。

「子どもだから?戦士じゃないから?そんな言い訳は自然界では通用しないぜぇ!?」

と言いながらも淡々と剣を振るう。剣が体を掠める度に体の芯まで届くような冷気が刺さる。

ブライアンは問題ないと言ったがこれを何度も受ける訳にはいかないとクリエは下がって距離を取る。

 

「ほう…距離を取って様子を見るか。悪くない判断だが解決にはならんぞ」

安い挑発だがもっともな言い分である。

しばらく相手の動きを観察した後クリエは意を決して距離を詰める。

「と言っても叩いた位じゃコイツは壊せねぇけどなぁ!」

「言われなくてもぉぉぉ!」

分かっている事だった。それでも距離を詰めたのには一つだけ手があったからだ。

大振りをして体勢を崩した所を見逃さずに懐へ飛び込み刃を掴む。

そしてそこに念を込めようとするが、剣より発せられた冷気に当てられ思わず手を引っ込めてしまった。

「『接触干渉』か。しかしそれも来るのが分かればこちらの有利になるぞ」

にやりと笑いを浮かべてスパイクが言葉を続ける。

「さぁどうする!?近付いても駄目だったぜぇ!!」

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二人の戦いを見ていたアニスはブライアンに不安気に尋ねる。

「おい旦那…あいつ大丈夫なのかい?」

「うーん、不味いな…。完全に相手のペースにのまれてやがる」

「と、とにかく落ち着いて頑張れー!」

アニスの声援にスパイクが反応する。

「『頑張れ』だぁ?もうコイツは頑張ったんだよ。」

クリエの方に向き直って言葉を続ける。

「お前。全力を尽くしたんだよなぁ?出来ること全てやったんだよなぁ?だったら……」

スパイクは間をおいて囁く様に言葉を結んだ。

「…止めちまえよ」

「…!?」

突然の言葉にクリエは動揺した。

スパイクは動揺するクリエを気にする事なくさらに囁き続ける。

「負けを認めて引き下がるんだよ。出来ることは全部したんだろ?お前はよくやった。大丈夫、誰も逃げたとは思わないさ。俺が思わさせはしない。どうだ簡単だろ?」

 

自分から負けを選択させる。

そうする事で心まで折ろうとするやり方にえげつなさを感じながらもブライアンはただ見ている事しかできなかった。

隣ではアニスがおろおろとした様子で二人を見守っている。

クリエはうなだれた様子で何か呟いている。

「…」

「あん?」

「…ない」

「聞こえねぇ!はっきり言えよ!そして楽になっちまえよ!」

スパイクの言葉に反応するかの様に拳に力を入れキッと顔を上げこう叫んだ。

 

「僕はまだ全て出しきっちゃいない!!だから…僕は逃げない!!」

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力強く言い放ったクリエの様子を見てアニスとブライアンは喜びの表情でお互いを見合せる。

 

スパイクは笑いを浮かべで叫ぶ。

「言ってくれるじゃねぇか!ここで折れねぇなんて見上げたもんだ!」

魔法剣を構えてから言葉を続ける。

「そういう奴を叩きのめせるなんてゾクゾクしてきやがる!こっからは手加減しないぜぇ!!」

スパイクが剣を振ると切っ先の延長線上に刃状の青い光がクリエ目掛けて飛んで行く。

クリエは身をかわすがツナギの袖先が光の刃に触れてしまう。するとツナギには鋭利に切り裂かれた跡が残っていた。

今度こそ当たれば危ない。

 

状況は先ほどより切迫している。

しかしクリエに焦りはなかった。一度頭に登った血が引いた事で本人も驚くほど落ち着いていた。

やるべき事は分かってる。クリエは前日のブライアンと『魔人』との戦いを思い出していた。

「あれと同じ様にやればいける筈。でも…」

剣閃をかわしながら辺りを見回す。

「クッ…こんな街中に『マナ溜り』なんて無いか…」

その様子を攻撃を続けながら見ていたスパイクが口を開く。

「威勢の割りに防戦一方じゃねぇか。つまんねぇな!」

「…」

反応の薄いクリエにこれ以上の挑発は無意味と判断したスパイクはつまらなそうに話す。

「もう潮時か…。イルマのガキ!一つだけ良いことを教えてやろう。『マナ』と『現象』は表裏一体だ。『マナ』は一方的に『現象』を起こす訳じゃねぇ。これが何を意味するか分かるか?」

 

その言葉を聞いたブライアンはハッとする。

遊んでいるかの様な攻撃の仕方。

挑発からの心の揺さぶり。

一見殺しにかかっているようでクリエの死角の一点を必ず通る様に計算された剣閃。

そしてこのメッセージ。

それら全てがブライアンの中で繋がった。

この男はクリエをふるい落とす為に『試験』をしている訳じゃない。

 

ブライアンは目を閉じ、耳を澄ませる。

「旦那?一体何を…」

そう問いかけようとしたアニスをジェスチャーで制止し、しばらく目を閉じたままで佇む。

そしてカッと目を開きクリエに向かって叫ぶ。

「クリエ落ち着け!そして周りをよく『視る』んだ!まだお前が見てない所があるだろ!」

「客人!!」

威厳のある男が叫ぶ。

「おっと、俺は手を出した訳じゃないぜ」

怯むことなくブライアンは言い返す。

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ブライアンの言葉を聞いたクリエは無茶を言うなよ。と心の中で思っていた。

休むことなく続けられる攻撃。魔法を使うには相当精神を削るにも関わらず連発する程の手練れから後ろを振り向くだけの隙を作るのは難しい。

その心の中を見透かしていたかの様にブライアンが叫ぶ。

「どうした!?『全部出しきるまで逃げない』んだろ!?だったら一か八かでも全力を尽くせよ!」

「そうだったな!じゃあ一か八かやってみるよ!」

そう言ってツナギのポケットから『花火玉』を取り出す。

「おいおい花火でどうするつもりなんだよ」

そう言うブライアンに対してクリエが答える。

「確かにコイツは花火として作ったけど一応『魔法の道具』なんだ。まあ見てなよ」

そう言うとクリエは花火玉を強く握りしめ念を込める。

そして手に持っていた花火玉を宙に投げると次の瞬間すさまじい閃光が発せられる。

その場に居た一同の目が眩む。

光が収まり、視力が戻った時見たものは『魔法石』を手に持ったクリエだった。

「あの短時間に魔法石を作るとはな」

感心した様子のスパイクに対してクリエが答える。

「魔法剣の均衡を崩すのに純度は関係ないからね。マナを集めるのに集中出来たよ」

そう言って手にした魔法石をスパイクの魔法剣に向かって投げつける。魔法石が当たった魔法剣は光を放ちながら消えていった。

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「さぁて、と。余計な茶々が入っちまったが一応奴は『試験』の条件はクリアしたぜ。どうするよ旦那?」

「ふむ‥。ならば後はマスターに任せるかな」

スパイクに対し威厳のある男が答えた。

「…?あなたがギルドマスターではないの?」

クリエが尋ねる。

「ほほ…私はマスターの補佐にすぎんよ。では呼ぶかの」

そう言いながら横に控えるワームに目配せをする。

そして控えていたワームが角笛を吹く。すると部屋の奥の空間に部屋の大きさと同じ位の頭を持った巨大なワームが現れた。

 

「貴方が新たなアーティシャンですか…。私はこのギルドを管理する者ミズガルと申します」

巨大な目がクリエを見つめる。クリエは文字通り『蛇に睨まれた蛙』のような状態になっていた。

「それでこの人をどう思いましたか?」

「好奇心が強い様ですな。もしかしたら大きな発明をするかもしれませんな」

威厳のある男が答える。

「戦いの場に出しても良いだろう。余裕の無さは経験が補うだろう」

スパイクが答える。

「なるほど…。ではそこに控えるワームの少年よ。推薦人という事はパートナー契約となります。。パートナーとして契約出来るアーティシャンは一人だがそれでもいいですか?」

少しも間を置いて元気よくアニスが答える。

「はい!俺っち・・じゃない僕はこの少年をパートナーとします!」

「よろしい。パートナーとなるアーティシャンを探すのも商人の課題なのに貴方は運が良いようですね」

そう言った後間を開けてミズガルが話す。

 

「なるほど。トアの生まれですか…」

間をおいて出たその言葉を聞いてクリエはドキッとする。

その様子を見透かすようにミズカルが言葉を紡ぐ。

「いえ…。貴方の過去は問いません。トアから出てくれば何かと戸惑う事は多いでしょう。ですが貴方はこの瞬間『トアの客人』から『イルマの同志』になりました。くれぐれもギルドの名に泥を塗る事ないよう」

「‥分かりました!頑張ります!!」

クリエは元気よく答える。

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全てが終わった後の街はすっかり日が落ちて晩餐の賑わいで溢れていた。

「ありがとう。君がいなかったらどうなってた事か・・」

クリエはアニスに手を突き出す。

その手に髭を合わせアニスが話す。

「良いって事よ。それより『俺っちを無理矢理呼びつけた』のは貸しにしとくかんな」

「え‥?なんの事?」

状況を呑み込めないクリエに対しブライアンが肩をポンと叩きながら説明する。

「あ−あ…。ワームに貸しを作ると高くつくぜ。せいぜい頑張りな・・」

「え?それってどういう事なんだよぉぉ!!」

クリエの叫びが街にこだました。

 

説明
「F」‥フロンティアな世界観の日常を描いた作品です。

エピソードリスト→ http://www.tinami.com/mycollection/21884
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