リリカルST 第8話
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「おう……おう……わかった。20時で良いんだな?用意しとくよ。お疲れさん」

 

ここはミッドのとあるカフェ、喫茶店【晋】。

いきなりですが、今日は忙しくなりそうです

 

「今の電話、はやてさんですか?」

 

俺が電話の受話器を置いたところで、レーゲンが話しかけてきた。

アギトも気になったのか、ゆっくりとこちらに近づいてきた

 

「あぁ。今日の夜に新人連れてうちに来るらしい。機動六課の初任務解決記念だとよ」

 

今しがた暴走列車を止めてきたと、はやてが嬉々として語ってくれた。

初任務だったらしいが、何の問題もなく迅速に解決できたみたいで良かった

 

「へぇ、はやての部隊もやるじゃねぇか!」

 

「凄いですね!これは僕らも、今日は張り切ってお祝いの準備をしないと!」

 

レーゲンの言うとおりだな。

今晩は店貸切にして、あいつらを祝ってやるか

 

「そうと決まれば、料理の準備だな。レーゲン、アギト、俺は基本的に厨房にいるから、表はお前らで対応しろ。どうしても必要な時は呼んでくれ。わかったな?」

 

「おう!こっちは任せろ!」

 

「了解です、オーナー!」

 

さて、何を作ろうかなぁ

 

 

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ティア視点

 

 

 

「ふんふふん♪」

 

「ん?ずいぶんご機嫌ね、スバル」

 

私達は現在、ミッドのとある飲食店に向かっている。初任務成功のお祝いだとか。なんでもその店、あの八神部隊長が懇意にしているらしい

 

「えへへ!今から行くお店、あのなのはさん達の故郷の料理を出してくれるんだって!すっごい楽しみ!」

 

スバルが目を輝かせて言った。ホントにこの子は、色気より食い気よね。それにしても…

 

「それって、第97管理外世界よね?スバルは食べた事なかったっけ?」

 

第97管理外世界、現地の言葉で言えば地球。なのはさん達が管理局に勤めてからは、結構名の知れた世界である。サブカルチャーや食べ物に関してはかなり質が高いと聞くけど。

 

「あるにはあるけど、今から行く所は地球出身の人が経営してるんだって。つまりは本場の味!お父さんは行った事あるらしいけど、凄く美味しかったんだって!」

 

何てことを、子どものようにはしゃぎながら言うスバルに、私は思わずため息をついてしまった。

 

「エリキャロの二人は、地球の料理を食べた事あるのかしら?」

 

「はい、フェイトさんに連れられて何度か。とても美味しいですよ」

 

「僕もあります!僕にとっての地球の味は士希さんの味なので、とても美味しかったです!」

 

「確かに!士希さんの料理は美味しいよね!」

 

「あ、そっか。それは贅沢ね」

 

エリキャロと私の共通の知り合い、東士希。

私の師匠であり姉貴分である東咲希さんの双子の弟。

私自身は会った事ないが、咲希さん曰く、私に生活費を送ってくれていたのは士希さんなんだとか。咲希さんの計らいで会う事は出来なかったけど、いつか会ってみたいなぁ…

 

「お前ら、着いたぞ!」

 

ヴァイス陸曹が運転していたバンが止まる。どうやら目的地に着いたようだ。

 

良い所。海が見えて、波の音が聞こえて、とても落ち着く

 

「はーい!みんな入ってってやー!」

 

八神部隊長の声にハッとし、海を見ていた私は慌てて店に向かう。

なになに、喫茶店…【晋】!?こ、ここって…

 

「いらっしゃいませ!お好きな席へお座りください!」

 

「いらっしゃい!うわぁ、エリオ、キャロ!久しぶりだね!」

 

「いらっしゃい。ふふ、君がティアナちゃんか。はじめまして。いつも姉が世話になってる」

 

店の従業員らしき人物は三人いた。

一人は赤毛の女の子で、一人は銀髪の男の子、そしてもう一人は、黒髪で、整った顔立ち、とてもガタイの良い男性。

 

一目見てわかった。

性別も体格も違うのに、やっぱり何処か似ている。まさか、考えていたら会えるなんて…

 

「は、はじめまして!ティ、ティアナ・ランスター二等陸士です!あの!今まで本当に、ありがとうございました!」

 

私はやっと、会いたい人に会えた

 

 

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「ほな!フォワードメンバーお疲れ様!今日は面倒い書類仕事は忘れて、食べて飲んで英気を養ってください!では、かんぱい!」

 

『かんぱーい!』

 

グラスが重なる音が響き、みんなが好きなように飲食や雑談を楽しみ始めた。

隊長達は隊長達で、私達は私達でかたまって食べる事になった

 

「!?お、美味しー!!なにこれ!?すっごく美味しい!」

 

「はむ!ガツガツ!モグモグ!」

 

スバルとエリオが凄い量を皿に乗せ、凄い勢いで食べている。

私はそんな光景に若干引きつつも、肉の角煮を一口…

 

「!?美味しい…」

 

角煮はとても柔らかく、とても味が染みていて美味しかった。

間違いなくこれは、咲希さんと同じ味付けだ

 

「気に入ったか?」

 

士希さんがカウンター越しに話しかけてきた。

その声に、私はドキリとする。

なんだろう、この気持ち。そわそわして、落ち着かない…

 

「あ、はい。あの、とても、美味しいです」

 

何故か口から出る言葉も拙い。

いったい、どうしてしまったんだろう?

 

「ふふ、そりゃ良かった。それにしても、立派なお嬢さんに育ってくれたようで、本当に良かったよ。あの姉、急に金用意しろだなんて言うからさ。何事かと思ったよ」

 

「その件は、本当にありがとうございました。身寄りのない私に、あんな大金。少しずつ、返していきますので!」

 

「いいよいいよ、気にしなくて。それより、機動六課で活躍してくれる方が、俺は嬉しいかな。一応俺、六課のスポンサーだし」

 

そう言って、士希さんは笑顔で頭を撫でてくれた。

こういうところも、そっくりだなぁ。なんか、咲希さんをそのまま男にしたみたい

 

「ちょっとええか?」

 

部隊長の声にビクリとする。

見れば士希さんも微妙に笑顔を引きつっていた

 

「ど、どうした、はやて?」

 

「べーつにー。ただちょっと、ティアナとお話したくなってなぁ」

 

私とお話?ていうか八神部隊長、少し機嫌悪い?

 

「えと、なんでしょう?」

 

「いやなに、なんでティアナは、あの咲希と知り合いなんかなぁって」

 

部隊長は咲希さんについて聞いてきた。

見れば、他の隊長達やエリキャロも興味津々のようだった

 

「あ、あの、話すのはいいのですが、ただ、口外だけはしないと約束できますか?」

 

私がそう言うと、周りは少し戸惑いつつも、首を縦に振ってくれた

 

「では…私と咲希さんが出会ったのは私が10歳の時、もう6年も前の事です………」

 

私はあの日の事を思い出す。

大切だったたった一人の家族を失い、かけがえのない姉が出来たあの日の事を…

 

 

 

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6年前

 

 

 

雨が降っている

 

目の前には小さなお墓

 

周りには、黒い服や管理局の制服を着た大人達

 

でも、私はひとりぼっち

 

「お兄ちゃん…」

 

大好きだった、たった一人の家族、兄のティーダ・ランスターが死んだ。

 

その事を聞いた私は、イマイチ理解できなかった。いや、したくなかった。認めたくなかった。お兄ちゃんにもう会えないなんて…

 

お兄ちゃんは、親のいない私にとって親にも代わる存在だった。

 

男手一つで育ててくれたお兄ちゃんは、管理局に入局後も変わらず私の面倒を見てくれた。仕事で忙しいはずなのに、いつも私を優先してくれた。

 

優しいお兄ちゃんだった。本当に大好きだった。

 

なのに…

 

雨が降っている。

 

雨は私の頬をつたい、流れていく。

 

私の頬に流れる雨は、止まりそうになかった

 

「ふん、使えない男だ」

 

割腹のいい男が墓を見て嘲笑すると、男はさらに何かを話し始めた。

 

正直、なんと言っていたかは覚えていない。ただ、お兄ちゃんの事を悪く言っていることはわかる。時折、使えないだの、愚かだの、才能がないだの、そう言った単語が聞こえたからだ。

 

なんで、この男は死んだ人を悪く言うの?

 

なんでこの人達は、私のお兄ちゃんの悪口を言うの?

 

きっと、悪口を言っていた男の階級が高かったのだろう。周りは男の言葉を聞き、それに合わせて相づちをうつだけだった。この場の誰もが、あいつの暴言を止めようとしなかった

 

理不尽だ。

 

何故こんなクズが生きていて、優しいお兄ちゃんが死んだんだ。お兄ちゃんはあんなにも頑張っていた。きっと生きていれば、お兄ちゃんが目指していた執務官にもなれたはずだ。

 

なのにこいつは…

 

私の中で、何か黒いものが芽生えようとしていた。

 

どうすればこいつらを見返す事ができるだろうか。

 

どうすれば、こいつらの頭を地につけることができるだろうか

 

そんな事を考えていると、私はさらに黒いモノを見てしまった。いや、黒だなんて生易しいものじゃない。あれは…そう、漆黒だった。

 

 

「すいませーん。この辺にゴミ箱ってないですかー?」

 

 

その声に、この場にいた全員が振り向いた。

 

声の主は女性で、見たこともないような民族衣装を着ている。女性は柔和な笑みを浮かべ、ゆっくりと近づいてきた

 

「あの、ゴミ箱ならそこに」

 

墓参りに来ていた人が、ゴミ箱のある場所を指す。それを確認した女性は、とても楽しそうに笑い始めた。

 

「いやー!よかったよかった!いやね、ちょっと大きめのゴミを見つけちゃったんで、どこに捨てようか困ってたんだよ!」

 

「大きめの、ゴミ?」

 

「あぁ。そこにいる、ブタ野郎さ!」

 

女性は凄い速さで兄の悪口を言っていた男に近付き、鼻っ柱を思いっきり殴った

 

「ぐへぇ!き、貴様!何をする!?わしを誰だと思っているのだ!?」

 

男は倒れ込み、鼻を抑えながら女性を睨みつける。

 

対する女性は、先程までの楽しそうな表情は消え失せ、とても冷酷な眼で男を見下ろしていた。

 

「あぁ?知るかよ。あんたと私は初対面だろ。そんな事もわかんねぇのか?バカですかー?」

 

「クッ!貴様!!」

 

男が怒りをあらわにすると、周りにいた管理局員が杖を構え始めた。

 

私は他の管理局員に連れられ、遠くに離されてしまった

 

「私はな、現場にも出ねぇで、うちに引きこもって人の悪口しか言えねぇブタ野郎が大嫌いなんだ。テメェは、この死んだ奴の仕事を評価出来ねぇのかよ?私はこいつがどんな奴か知らねぇけどな、こいつが管理局で、平和の為に戦って死んだ事くらいはわかんだよ」

 

女性はこちらをチラリと見て言った。

そしてさらに言葉を続ける

 

「少なくとも、権力を傘にして何もしねぇテメェより、勇敢に戦って死んだであろうこいつの方がよっぽど立派だ。本当に死ぬべきだったのは、テメェだクソ野郎」

 

女性は底冷えするような低い声で言い放った。

男は怒りを隠そうともせず、女性の前に立ちはだかった

 

「餓鬼が…ずいぶんと言ってくれたな。わしに楯突いて、無事でいられると思うなよ!?」

 

「餓鬼、ねぇ。確かに私はまだ子どもだ。だから、自分が悪と思った事は悪と言う。許せないなら殴る。話し合いすらする気はねぇ。だけどなぁ、『餓』の文字は余分だったなぁ」

 

「減らず口を…お前達、こいつをひっ捕らえよ!相手は暴行を犯した犯罪者だ!状況によっては殺害を許可する!」

 

男がそう言うと、女性は歪んだ笑みを見せた。それと同時に、黒いモノが発せられた

 

「殺害?この私を?ハッ!温室育ちのブタ野郎に、私が殺せるかよ!いいぜテメェら!本物の恐怖ってのを、見せてやるよ!!」

 

女性がそう吐き捨てると、戦闘が開始された。いや、それは戦闘というには一方的過ぎた。

 

女性は杖から発射される魔弾を素手で叩き落とし、次々に管理局員を殴り倒して行く。およそ、拳を当てて出るような音とは思えない爆音や、骨の折れる音が聞こえる。

 

怖いと思った。

人がどんどん傷ついて行くから。

あの人の雰囲気が、今まで感じたこともないようなものだったから。

 

確かにあの人は、鬼だと思った。

だけど私は、この光景から目が離せなかった。傷つく彼らを見て、胸がスッとする私がいたからだ

 

「さぁ、テメェで最後だな、ブタ野郎」

 

程なくして、女性は割腹のいい男一人を残し、全員を素手で制圧してしまった。その人の拳や体には、管理局員の返り血で染まっていた

 

「ま、待て!何が望みなのだ?金ならあるぞ?」

 

男は見苦しく、命乞いを始めた。

その光景を見て、私はこいつを哀れだと思った。

私でもわかるし、私ならそうする。

こいつに助かる未来はない

 

「………」

 

女性は男を無言で追い詰めて行く。

男はにじり寄ってくる女性から逃げるように後ろに下がって行き、やがて木にぶつかり、逃げ場を無くした。

それを確認した女性はニヤッと笑い、拳を思い切り振りかぶった

 

「ヒィッ!」

 

 

ドゴォン

 

 

凄まじい轟音が鳴り響く。

私はどうなったのかを確認すると、不思議な光景が広がっていた。

女性は、男を殴るのではなく、男の後ろにある木を殴っていたのだ

 

「いいぜ、見逃してやるよ。私はもう、お前に何もしないし、何もいらない。もう十分、スッとしたからな」

 

女性が木から拳を引き抜くと、男は気が抜けたのかズルズルと膝を崩して行った。

男の顔は恐怖に歪んでいた。 それと同時に、憎悪にも…

 

女性は私に近づいてきた。

女性が近づいてくると、先程まで私の近くにいた管理局員は一目散に逃げて行った。みっともない悲鳴を上げて…

 

「よ!怖くなかったか嬢ちゃん?」

 

女性は先程までとは打って変わって、とても優しい笑顔を向けて来た。

私は声が出なかった。

なんと言っていいのか、わからなかったからだ。

だけど、私の視界には、男が立ち上がって女性に銃を突きつけている光景が入っていた

 

「死ねぇぇぇ!!」

 

「あぶな」

 

私が全てを言い終わる前に、女性は私の唇に人差し指を当ててウインクした。

すると…

 

 

ドシーン!

 

 

男の後ろにあった木が、男に向かって倒れたのだ。

男は汚い悲鳴を上げて潰された

 

「おーおー、ツイてねぇなぁ、あのブタ野郎。たまたま木が倒れて巻き込まれるなんて。な?」

 

女性はこちらを見てニカッと笑った。女性はきっと、こうなることを見越していたに違いない。

 

酷いと思った。でも嬉しいとも思った。私や、他の周りの大人達には出来ないことを、彼女はやってのけたから

 

 

 

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それから女性は、私を連れてひと気のない公園へとやって来た。

 

まだ雨は降っているのに、女性は傘をささない。でも、女性が濡れることはなかった

 

「それ、どうなってるんですか?」

 

私は聞いてみる。

すると女性は、私の手を握って来た

 

「ほい、これでお前も濡れないぞ」

 

私はわけがわからないままだったが、傘を下げてみた。

確かに、濡れない

 

「これな、私らの周りに氣を張って、雨を弾いているんだ。すげぇだろ?」

 

氣?魔法じゃなくて氣?氣ってなんだ?

 

「私は東咲希ってんだ。たまたまあそこを通りかかった時に、泣いてるお前を見かけたからあんな事したけど、よかったか?」

 

この人は、私のために戦ってくれたんだ…

 

「私は…嬉しかったです。あそこに眠っている人は、私の兄で、あの人達は、兄を笑って…」

 

再び涙が込み上げてくる。

あいつらがボコボコにされたことにはスッとしたが、かと言って兄が帰ってくるわけじゃない。

私は、独りになってしまったのだ…

 

「お前、親は?」

 

首を横に振る

 

「親族は?」

 

首を横に振る

 

「そっか……なぁ、もしよかったらなんだけどさ、お前、私の妹にならないか?」

 

首を横に……ん?

 

「はい?」

 

何を言っているんだ、この人は?

 

「お前、天涯孤独になっちまったんだろ?ならうちに来いよ。うちには訳ありな人間ばかりだしさ」

 

「……同情、ですか?」

 

私がそう言うと、咲希さんはため息を吐いた

 

「ちょっと違うな。私はな、お前みたいな可愛い子の涙を見たくないんだよ。だから、お前の涙を止めるためなら、なんだってしてあげる」

 

私より少し年上なだけの咲希さんの声は、妙に色っぽくて。

私の目尻に浮かぶ涙を指で拭き取る仕草に、私はドキドキして。

そして咲希さんの有無を言わさない力強い言葉に、不思議と私はついて行きたいと思ってしまった

 

「名前は?」

 

「ティアナ……ランスター……」

 

咲希さんは命令した訳じゃない。

だけど私は、素直に咲希さんに名前を教える。教えたくなってしまった

 

「ティア…私の妹になれ」

 

耳元で囁かれる。

私は何故かクラクラとしてしまう。

まともな思考が働かなくなりそうになる。

だけど私は…

 

「私は…この世界で、やりたいことがあります…」

 

「!?ほぅ」

 

咲希さんは少し驚いた表情を見せる。

そして続けろと言わんばかりに、私をジッと見つめてくる

 

「私は、お兄ちゃん…ティーダ・ランスターの夢だった執務官を目指したい。お兄ちゃんを笑った人達に、お兄ちゃんの、ランスターの銃に撃ち抜けないものはないって証明したい!そしていつか、お兄ちゃんを笑った人達を見返してやりたい!」

 

私は、お兄ちゃんの夢を継ぎたいと思った。

そうする事で、ランスターの力を証明できると思ったから。

間違っていなかったと、思い知らせてやりたいから

 

「……ふふ、良い眼だ」

 

咲希さんは私を見てとても嬉しそうに微笑んだ

 

「なら、私ももう一度言おう。ティア、私の妹になれ!私はお前を気に入った!」

 

私は咲希さんに抱きつかれてしまった。

す、凄い力だ。でも不思議と、振りほどきたくはならない

 

「ですから私…」

 

「ティア、私はお前の姉として、お前の夢を応援したい!」

 

え?

 

「ど、どういう事ですか?」

 

「私がお前の面倒を見てやると言っているんだ。衣食住、支援出来ることがあるなら全部用意してやる!」

 

「え、えぇ!?」

 

咲希さんは何やらとんでもないことをしようとしてくれている

 

「そうと決まれば、まずは金の工面だな。その辺は士希に任せりゃすぐかな」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!流石にそれはやり過ぎじゃ…」

 

「あぁ?家族の夢の為に何かすることが、いけない事なのか?」

 

「でも私は、あなたの家族じゃ…」

 

「だから言ってるだろ?妹になれって。ていうか、私の中では既にお前は妹だから。お前が嫌って言っても勝手に妹扱いして、勝手に支援するから」

 

め、めちゃくちゃだこの人…でも、うん、なんか嬉しい…

 

「お、流石父様だ。ミッドの口座が凄い金額。これくらいありゃ、当分は問題ないか?」

 

咲希さんは通帳を見せてくれた。

ゼロがいっぱいだった。

いち、じゅう、ひゃく………は?

 

「なんですかこの大金!?当分どころじゃないですよ!?」

 

通帳の残高があり得ない数字を表記していました

 

「そうなのか?なら早速、私とティアの新居を探しに行こうか」

 

「へ?って、えぇぇぇ!?」

 

私は咲希さんにお姫様抱っこされてしまいました。

 

咲希さんはとても強引な人だ。

それこそ、止みそうになかった雨を無理矢理晴らしてしまうほどに

 

 

 

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それから私と咲希さんは、新しいマンションを借りて、三ヶ月ほど一緒に住むことになった。

 

強引かつ何かと破天荒な咲希さんに、戸惑う事は多々あったけど、それでもとても楽しい日々だった。

 

遊んで、学んで、食べて、寝て…

 

もし、私が兄の夢を継ごうと思わなかったら、きっと咲希さんの世界に行っていたに違いない。

 

そう思うほど、私は咲希さんを好きになった

 

しかし、私に目標があるように、咲希さんにも目標がある。別れは必然とやってきた

 

「私、咲希さんと離れたくない…」

 

私は子どものように駄々をこねてしまう。

咲希さんがいなくなるなんて、寂しくて、悲しくて、苦しかった

 

「私も、離れたくないよ。でも、私もお前も今はまだ夢の途中なんだ。お互い、それだけは譲れないだろ?なら、少しだけ我慢しよう」

 

咲希さんは苦笑を浮かべて言ってきた。

 

そんな咲希さんに、私は抱きつく。

そして抱きついて気付く。

咲希さんの体は、少し震えていた

 

「……咲希さん?」

 

抱きついたまま、咲希さんの顔を見上げると、咲希さんは困った様に目を逸らした

 

「あー…あはは、ダメだよティア。私はお姉ちゃんだから、妹の前では泣いちゃいけないんだ。なのに、そんな顔で抱きつかれたら、我慢できなくなるだろ…」

 

咲希さんも私を抱きしめてくれた。

顔は見えない。きっと、見せたくなかったのだろう。

咲希さんは、私の前では強い女性でありたいと思っているから

 

「ティア…必ずまた、会いに行くから。それまで、ティアは我慢できる?」

 

「……はい」

 

「そっか。ティアはやっぱり、強い子だね。私ももっとしっかりしなきゃな」

 

咲希さんは少し離れて、笑顔を見せてくれた。

私もしっかりと笑う。

ちゃんと、笑顔で送らなきゃ

 

「じゃあティア、そろそろ行くよ。向こうについたら、連絡する」

 

「はい…待ってます」

 

「ん。ティア、これだけは忘れるなよ。例え世界が違っても、私とティアは繋がっている。お前は独りじゃない。お前の家族は、ちゃんといる」

 

咲希さんは自身の胸に拳を当てて言ってくれた。

その言葉に、私は嬉しくなる。

血の繋がりはないはずなのに、咲希さんの言うとおり繋がりを感じるからだ。

私はもう、独りじゃない

 

「咲希さん、本当に、ありがとうございました!私、いつか執務官になって、必ず咲希さんの世界に行きますから!」

 

咲希さんは少し驚き、やがて嬉しそうに微笑んで行ってしまった。

 

正直に言えば、泣きたくなるほど悲しかった。

でもきっと、それは咲希さんもだった。

咲希さんの後ろ姿が、泣きそうだったから。

だから私は、泣かないように我慢して、最後まで咲希さんを見送った

 

 

 

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現在

 

 

 

「…と言うことがありまして。それからも、咲希さんは何かと私を気にかけてくれて、何度も遊びに来てくれました」

 

私は咲希さんとの思い出を語った。

スバルには既に話していたため、静かに私を見守っているようだった。

エリキャロやレーゲン、アギトは少し涙ぐんでいるように見える。

他の人は……あれ?なんか、微妙な顔してる?

 

「ね、ねぇフェイトちゃん、6年前ってアレだよね?」

 

「あ、あはは…ど、どうしよっか…」

 

「まさか、身内に犯罪者がいたとは…いや、あいつならやりかねない…」

 

「いや、あんたも元犯罪者やでな」

 

なのはさんとフェイトさんは困った顔で、士希さんは頭を抱えていた

 

「え?え?な、なにか問題がありました?」

 

私が聞くと、八神部隊長が苦笑いで視線逸らし、話し始めた

 

「あー、うん。いやな、ティアナの話はすっごいハートフルって言うか、正直咲希を見直したのもあるんやけど…ただ、咲希がやってしまったことは、ちょっと見過ごせへんって言うか…」

 

あ、そうかあの事か

 

「えぇ。だから私、最初に言いましたよね?他言無用でお願いしますって」

 

「あ、これもうあいつの影響だわ」

 

隊長陣はみんな黙ってしまった。

約束した手前もあるし、仲間だし、と言った感じの様子だ

 

「なぁ、ティアナは咲希が第一級のお尋ね者になってるって、理解してる?」

 

「はい。そりゃあ、当時のお偉いさんを重症にしてしまったんですからね。しかも、あの場にいた管理局員18人全員を倒してしまった。十分ヤバい人ですよね」

 

その事を知った私は、咲希さんに慌てて連絡したんだよなぁ。

でも、咲希さんは凄く喜んでいたっけ。

だって…

 

「はぁ…幸いなんは、咲希の写真が出回ってなかったことか。じゃなかったら、今頃塀の中やな」

 

「あはは!咲希さんが簡単に捕まるわけないじゃないですか!それに、咲希さんを捕まえるのは私です。そう、約束しましたから」

 

咲希さんは言ってくれた。

「私は犯罪者で、ティアは執務官か。なら、ティアが執務官になれたら、私を捕まえに来い。そんであのブタ野郎を一緒に見返してやろうぜ。お前が捕まえられなかった奴を、ランスターが捕まえてやったぞってな!」

 

咲希さんはめちゃくちゃで、鬼のように強くて、人たらしなところがあるけど、とても優しくて、私の事をとても大事にしてくれる、私の自慢の姉だ

 

 

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士希視点

 

 

 

ティアナから過去の話を聞き、しばらくしてから六課の初任務解決記念会は幕を閉じた。八神家以外は皆、六課の隊舎に戻って行き、八神家は久しぶりの自宅でゆっくりと眠りについた。

 

俺はその後も店に戻り、後片付けをしていく。と言っても、ほとんど片付いているから、最後にやり残しがないかチェックするくらいだが。

 

「それにしても、咲希もええとこあるんやね」

 

不意に、カウンター席に座っていたはやてが、俺の仕事を眺めつつ言った。そんな言葉に、俺は思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 

「そうだな。あいつは、狭いんだよ。自分の家族にしか、大切なものにしか興味がない。家族とそれ以外。その二つでしか区切ってない。家族は何があっても大切にする代わりに、他人は容赦無く切り捨てる。だけど、そんなあいつが、他人に興味を持った。案外、初めての事なのかもしれないな」

 

それがどれ程凄い事なのか、あいつに認められたティアナはわかっているのだろうか。それに、あいつはティアナに何を視たのだろうか。あいつがそれ程までに気にかかる魅力が、ティアナにあったのだろうか

 

「ふーん。ところで、士希的にティアナはどうやったん?えらい、仲良うしてたみたいやけど」

 

はやてにジト目で睨まれる。どうやら何か、はやての地雷原に飛び込んでしまった様だ

 

「どうも何も、ルネ同様、あの子が曲がらずに育ってくれて良かったってくらいだ。それ以外は何もない。可愛らしい子ではあるけど、俺ははやてが一番だよ」

 

そう言うと、はやては顔を赤らめ、満足気に笑った。その様が、とても可愛らしくて、俺も熱くなってしまう

 

「ふふん!私も士希が一番やで!」

 

はやての隣の席に座ると、コテンと頭を肩に置いてきた。肩から感じるはやての温度が、とても心地いい

 

「なぁ、今日は帰らなくていいのか?」

 

「ん、明日の9時に六課隊舎に戻れたらええよ」

 

「そっか。なら…」

 

「ん…」

 

夜は静かに更けていく

 

 

 

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あとがき

 

 

 

 

皆さんこんにちは、桐生キラです!

 

 

 

あとがきを書くのも久しぶりなもので、気付けばもう秋でした。

 

月二話で更新していると、こんなにも進みが悪いものなのですね(笑)

 

ほんと、一日中家に引きこもっていたいです(笑)

 

 

 

というわけで、ここまでが第1章です。

 

ティアナや他の六課メンバーが若干魔改造されているせいで、スカリエッティサイドは原作よりハードなモードを強制されています(笑)

でも、スカリエッティなら大丈夫ですよね(笑)

 

今後も無双系六課メンバーのご活躍に期待してください。

 

 

 

次回からは第2章、オルセア過去編とアグスタ編です。

 

なかなか時間が取れず、集中して書けませんが、なんとか隙みて更新しようと思いますので、その都度お付き合いしてくださると幸いです!

 

それでは、また次回にお会いしましょう!

 

 

 

 

説明
ST共通サイド
サブタイトル:祝いと出会いとティアナの過去
ここまでが第1章です
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コメント
話が飛んだと思ったけど前回のを読み忘れただけか。普通にスルーしてた。最近ははやり忙しいですか?これからも更新頑張ってください。(ohatiyo)
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リリカルなのは オリキャラ ティアナ 八神はやて 

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