武装神姫 BOMA
[全1ページ]

 

 ーPROLOGー

 

 暗闇の中に1人の青年が佇んでおり、彼の前にほんの少し輝く光があった。

「さぁ、目覚めるのです」

 聡明な女性の声が突然聞こえ、青年は辺りを見回す。

「誰だ?」

「私は貴方のそばに居ますよ」

 目の前にある光、それが声の主とわかった青年は目を光の方に向ける。

「さぁ、目を覚ますのです…時が来ました」

「時?」

 一体なんの事なのだろうか? 彼は全く理解できないでいた。

 彼は光に向かって質問をする。

「アンタは一体何者なんだ? なぜここんところ俺の夢にばかり出てくる?」

 しかし、彼の質問にこの光は答える気もなく押し付けるように言う。

「世界が……闇に覆われようとしています、このままでは世界は争いの絶えない修羅の世界になってしまいます」

 いきなり大げさな話を彼は飲み込めず、眉を寄せる。

 そんな彼を気にかけず、光は話を続けた。

「さぁ目覚めるのです、そして闇から世界を守れるのは貴方しか居ないのです!」

 その言葉と同時に光が急激に強まり、目を思わず瞑る。

「待て! どういうことだ!? 話が見えないぞ!」

 彼はは押し付けるように言われた話を納得できず、叫んだ。

 だがその叫びも虚しく響きながらさらに光が強まる。

「さぁ、目覚めるのです! 勇四郎!」

「待ってくれ! アンタは一体……」

 彼が言いかけたその時、どこからか光の声とは違う『少女』の声が聞こえてきた。

「……郎……四郎……」

「勇四郎、起きて! 早く起きないと遅刻しちゃうわよ!?」

 少女の声に導かれて彼は目をあけた。

 

 

 光が、目に差し込んでくる。

「……あ、ああ……」

(またこれか……)

 このような夢は今回が初めてではなかった、数日前こんな夢ばかりを彼は見ていた。

 そして光は夢に出てくる度に同じ言葉を繰り返し言ってきたのだ。

 なぜ最近になってこの様な夢を見るようになったのか、何かの予兆か、それとも…。

 虚ろな目になって悩む彼の耳に先程の女の子の声が再び耳に突き刺さる。

「今日は夏休み前日の終業式!長いおやすみ前だからって浮かれちゃダメよ勇四郎!」

 寝ぼけながら勇四郎と呼ばれている青年はその声が発せられた方向に目を向ける。

 そこには机の上に立つ水色の髪をおろし、翠色の目を持つ小さな女の子の人形が動いていた、そして女の子の人形が再び語りかける。

「終業式に遅刻だなんて洒落にもならないわよ?さぁ、早く起きて!」

「……わぁってるさシルヴィー……俺は今、妙に不機嫌なんだ、あまりうるさくしないでくれ」

 青年の名は『花房 勇四郎(はなぶさ ゆうしろう)』、栃木県の統合された区域『ネオ・オオタワラシティ』の辺境にある神社に住む高校1年生。

「ほら、早く着替えて朝ごはん食べましょ!」

勇四郎に語りかける水色髪の人形は『シルヴィー』、’神姫’と呼ばれる体長15センチ程度の’ロボット’。

「ああ、今起きる」

 勇四郎は布団から出て寝間着から制服へと着替えを始めた。

 

「おはよう勇四郎、よく眠れた?」

 居間に入ってきた勇四郎に漆黒の長い髪を下ろした麗しい女性がそう語りかけてきた。

 彼女は勇四郎の母、『花房 麗華(はなぶさ れいか)』。

 勇四郎が住んでいるこの神社の巫女でもある。

「おはよう母さん、最近は夢を見るほどよく寝れてる」

 最近見る夢を皮肉りながら勇四郎が返事をする。

 シルヴィーも勇四郎に続けて朝の挨拶をした。

 眠たそうな勇四郎に麗華が諭す。

「明日からは夏休み、今日を乗り切れば気楽になれるわ」

「そうよ、明日からは夏休みなんだから、頑張って!」

 シルヴィーも麗華に合わせるように励ましたが勇四郎はそれでいい気分にはなれなかった。

 あの『夢』がどうしても気になって仕方がない。

 励ましを否定するように勇四郎は呟いた。

「……いい夏休みになるといいがな」

 最近よく見るあの『夢』がどうしても気になり、思わずぼやいてしまった。

「どうかしたの?もしかしてどこか具合が悪いの?」

「いや……なんでもない」

 心配するシルヴィーに勇四郎はお茶を濁す。

 麗華はその言葉を気にしながらも何も言わず、作った朝食をテーブルの前に座った勇四郎の前に差し出す。

「さ、これ食べて今日も元気に行ってきなさい」

 差し出された朝食に手を合わせ、勇四郎は朝食を食べ始めた。

 

 玄関で座って靴を履く勇四郎に麗華が「頑張りなさい」エールを送る。

 おもいっきり肩を叩く母に息子は意気込んで応えた。

「ああ、行ってくる!」

 彼はシルヴィーを胸ポケットに入れて立ち上がり、玄関の戸を開けて外に出た。

 外に出た途端、夏の眩しい朝日が目に差し込んでくる。

 寝起きの目には刺激が強く、思わず目を細めて眩しさを抑える。

「相変わらず夏の日差しは眩しいもんだな」

「鮮やかな季節を感じられるのは平和な証拠よ」

 文句を言う勇四郎にシルヴィーがフォローした。

 その言葉に気持ちを改めた勇四郎は「そうだな」と呟く。

 玄関から少し歩くと下に向かって伸びる長い階段がある。

 そこからやや横に行くと勇四郎が住む町を見渡せる絶景ポイントがあった。

「まだもうちょっと時間がある、たまには見渡してみるのも悪くないな」

 勇四郎がそう言うと彼はそのポイントに向かって歩き始める。

 いつもは遅刻ギリギリでこの絶景を見渡す余裕が無かったのだが今回は珍しく時間に余裕があり、改めてこの町を見渡すいい機会だった。

 勇四郎はその絶景ポイントの高台へ上がり、そして遠くを見つめて思いを馳せる。

 幼いころ見た風景とはだいぶ変わっている事に色々な感情が浮ぶ。

 幼いころは無かった建造物、森林があった場所は観光目的による開発のために伐採されて建造物は彼の幼いころよりも大きく広がっている。

 なにより、栃木県内の大田原周辺の地区を統合して生まれ変わったこの『ネオ・オオタワラシティ』に対して勇四郎は新しさに対する喜びと寂しさを感じた。

「この町もだいぶ変わったな」

「そうね、コレが人類の発展ってものなのね、この先どうなっていくのかしら?」

「さぁな……俺にはわからん」

 二人はこの町の未来を案じながら時間が許す限り高台から町を見渡した。

 

 時は西暦2042年、世界大戦もエイリアンの侵略もなく、世界は当たり前のように続いていた。

 科学は平和に発展を続け、技術がさらなる進歩を遂げ、ロボットが日常にとけこみ、色んな場面で活躍していた。

 技術の可能性と危険性を顧みないかのように文明は大いに進歩していた。

 そのなかで神姫と呼ばれる全高15cm程度の小型ロボットが人気を博していた。

 そしてその神姫に様々な武装を施して戦わせる、通称『武装神姫』に人々は熱狂していた。

 名誉の為に、強さの証明の為に、あるいはただ勝利の為に人々は神姫を戦わせた。

 闘争本能を剥き出しに…人々は神姫を代理人として戦わせた。

 この物語は平和に暮らす青年『花房 勇四郎』とその神姫『シルヴィー』の物語である。

 

「……さて、そろそろ行くか」

「うん、そろそろね」

 町を見渡していた二人だったが時間が訪れ、高台から離れようとした。

 しかしその時、勇四郎の目に下に長く続く階段の一番下にいる着物姿の金髪の女性の姿が入ってきた……。

 

 ACT1に続く。

 

説明
武装神姫の二次創作小説です。
かなりぶっ飛んでるので閲覧注意です。
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