3話「黒き皇子の侵略」 |
その晩、リーラ城の謁見の間では王子ジェリーダが父である国王モーリスの叱咤を受けていた。
その傍らに王妃リアーヌと側近ユーリスの姿があり2人のやり取りをただ黙って見ている。
延々と昼間にレイナに取った態度やら遊びまわっていた事やら…ジェリーダは耳にたこができる程そんな事ばかり言われうんざりし始めていた頃の事だった。
「陛下!!!」
突如、血相を変えた兵士が息を切らしながら入って来る。
「どうした?そんなに……」
「ドゥルと思われる軍勢が攻め込んで来ました!!!!」
その場にいた4人が絶句する。
「どういう事ですの!?ドゥルなんて遥か遠くの国の筈…」
ユーリスが誰となく驚愕しながら尋ねる。
「確かにドゥルはここより西の大陸に位置する国だが…海路を使えばそう遠くではないという事か…!!」
ひたすら冷静を装うモーリス。戦う力を持たないものの、この国の頂点に立つ者として指揮をとらなければならない事は理解していた。
「女子供を安全な所へ!!」
「はっ!!」
モーリスは兵に指示を出し、自らも兵を集めるべく立ち上がった。
「ジェリーダ、ユーリス、貴方達も逃げなさい」
リアーヌが呆然と立ち尽くしている2人を振り返る。
「父上……母……上……?」
まだ状況を把握しきれずにいるジェリーダ。その頭の中は完全に真っ白になっていた。
その頃、サウスリーラの町にもドゥルの軍勢が攻めて来ていた。この町には魔物が入って来ないよう見張る程度の兵力しかなく町は瞬く間にドゥル兵により占領されてしまった。
ただ、よほど抵抗しない限り殺されるような事は今のところはない。
「一体どうなってんだよ…」
宿屋の一室、「話がしたい」とレイナがガイの部屋に来ていて2人共に窓から外の様子を眺めていた。
「ここにドゥルが攻め込んで来たという事は…リーラ城に本隊が来てるんじゃねぇのか!?」
ガイがレイナの方に顔を向ける。彼女はもう既にその可能性を頭に入れていたのかすぐに頷いた。
「とにかくこの町から脱出しなくちゃ…私達が加勢した所で何が変わるかわからないけどね」
当然だが町の出入り口はドゥル兵に固められてここから外に出る事は不可能となっている。
「でもどうするんだ?まさか出入り口から強行突破するとか言わねぇだろうな?」
「ガイじゃあるまいし、そんな事するわけないでしょう?ここでうだうだ考えていても仕方ないわ。外に出てみましょう」
宿から外に出るとそこはドゥルの黒い鎧を纏った兵士達が我が物顔でうろついていた。
「出入り口は十数人の兵…町を囲っている壁は高さ10メートル以上…それに加え町をうろついている兵の事も考えると何か行動する事さえ困難な状況…思ったより厄介ね」
レイナが腕を組み、眉間に皺を寄せながら周囲を見渡す。
「流石にあの壁は越えられそうにねぇな。昔お前の魔法でケツに火ぃつけられた時結構ジャンプしたけどあの時の飛距離の比じゃねぇや」
「ああ、私のスカートをめくろうとした時の?あれは自業自得でしょ」
「いや、あれは不可抗力で…!!」
完全に場にそぐわない言い争いが白熱しそうになったその時だった。
「どこに目ぇつけてやがるこのクソガキ!!!」
男の怒鳴る声。ガイとレイナが声のする方を向くとそこにはドゥル兵と、その前に怯えながら小さな白い猫を抱いて立っている男の子の姿があった。
「ご、ごめんなさい…この子が家を出ちゃって…追いかけてたらつい…」
10歳にも満たないだろうその男の子は涙目でただただ兵に頭を下げるばかりだった。
「テメエがぶつかるから壁にぶつかって鎧に傷がついちまったじゃねぇか!!!覚悟はできてんだろうなぁ…」
「ひっ…!!」
兵が腰から剣を抜き、振り上げる。しかしその剣が男の子を斬りつける事はなかった。
「何だテメエは!!!」
ガイが駆け寄り兵の攻撃を自らの剣で防いだのだ。
「世界一の軍事大国ドゥルの剣ってのは無抵抗の子供を斬るためにあるのかい?」
「何だとっ…!?テメエ愚弄すんのか!?」
「だったら武器を持つ奴と一戦交えてみろよ。俺でよかったら相手になるぜ?」
鍔迫り合いを続けるガイと兵の間にレイナが割って入る。
「申し訳ありません!どうか主人の無礼をお許し下さい!!お酒が入っているのです!!」
「何言ってるレイ……むぐ!」
そう言いかけるガイの口をレイナは咄嗟に押さえた。
「どうか、その寛大なお心でお許し頂けないでしょうか?ドゥルの皇子はとても気高きお方、その部下である貴方様がこのような振る舞いなどあってはならない事ではありませんか?」
レイナが苦笑しながら兵を説得すると
「…確かにあのお方の顔に泥は塗れねぇな…わかったよ。次からは気をつけろよ」
兵は剣を鞘にしまい、舌打ちと共に去って行った。その姿が見えなくなるのを確認してレイナは演技が上手くいった事に対しふぅ、と安堵の息をついた。
「まったく…穏便に片付けなさいよ。目をつけられたら脱出どころじゃなくなるわよ」
「だってよぉ、許せねぇじゃねえか…」
ガイが困った様子で言葉を返すとレイナは仕方ないわね、と言いたげに苦笑した。それが彼のいいところだと認識しているのだ。
「あの…助けてくれてありがとうございます」
男の子が2人の前に寄り、ぺこりと頭を下げる。
「こんな夜に子供が1人で出歩いちゃ危ねぇだろ?」
ガイは男の子の頭を軽く小突いた。
「ごめんなさい…気をつけます」
しゅん、と項垂れる男の子だがすぐに立ち直り2人の顔を見上げた。
「そうだ、お礼しなくちゃ!ぼくの家まで来てください!」
猫を肩に乗せ、ガイとレイナの手を引いて町の北へと走り出した。その先には男の子の家がある。ルーヴル家よりも大きな屋敷だった。どうやら金持ちの家の子供らしい。
「ぼくの家では助けてもらったら何かお礼をする決まりになってるんです!お父さんもお母さんもきっと喜んでくれると思いますよ!?」
思わず顔を見合わせるガイとレイナ。両者ともいくらなんでも見ず知らずの相手にそこまで…と思っている。しかしガイはすぐにこう思った。『この子の爪の垢をあの王子に煎じて飲ませてやりたい』と。
更に驚いた事にこの男の子の両親もかなり良心的ですぐに余所者である2人を受け入れ歓迎した。
「息子を助けて頂き感謝の言葉もございません」
深々と頭を下げるふくよかな中年男性はこの子の父親である。
「何かお礼を差し上げたいのですが…何か力になれる事はありませんでしょうか?」
煌びやかな服装の若い女性―母親が続いて頭を下げた。
「ええと…」
ガイとレイナは『ジェリーダ王子の婚約者』という言葉を使わずこの町を出てリーラ城まで行かなければならない事を説明した。
「まぁ、それでしたら地下道をお使い下さいまし!」
母親が手をぱちんと叩いて明るい表情を見せる。
「???」
恐ろしく良心的な家族に案内されたのは屋敷のダイニングにある暖炉だった。
「実はこの下は洞窟になっていて町の壁の外側に通じているのです。我々の先祖が緊急時の脱出用にと作ったと言われていますが兵に気づかれてしまうため我々は使う事ができないのです」
不安げな表情を見せる父親。
「どうかここをお使い下さい…そしてまた頼みごとをするようで申し訳ないのですが…リーラをお救い下さいまし」
母親に深く頭をさげられ、ガイとレイナは強く頷いた。
「もとよりそのつもりで脱出するんだ。任せてくれって安易にゃ言えねぇがやれるだけはやってみるさ」
「助かりましたわ。こちらこそ感謝致します」
2人はこの家族に一礼すると暖炉の中に飛び込んだ。
夜の森は真っ暗で一切の明かりもない。どこへ進めばいいのかわからない。ただ『離れなければ』ならなかった。
「はぁ…はぁ…何でこんな事に……!!」
城を逃げ出したジェリーダは1人、ただがむしゃらに走っていた。今の彼の脳裏には先ほどまでの光景が焼き付けられている。
数分前、ユーリスと共に城から逃げていたのだが馬に乗った兵の速度ですぐに追いつかれてしまったのだ。
「ジェリーダ様!ここはわたくしに任せて先にお逃げ下さい!」
「な…何言ってんだよ……」
「わたくしは大丈夫です!攻撃魔法も多少使えます!!!貴方を失ってしまえばリーラは本当に終わってしまいますわ!!!」
失いたくないのに…気づけば足が勝手に動いてしまった。家族を置いて、自分を慕ってくれる友達を置いて自分だけ逃げ出してしまった。
「嫌だ…死にたくないっ……!!!」
1人になるにつれジェリーダの心の中では大切な人達を失った悲しみより自分が殺されるかもしれない恐怖の方が勝ってくる。「怖い、死にたくない」呪文のように繰り返しながらただ遠くへ逃げる。しかし現実とは残酷なものだった。後方から馬の走る音が耳に入る。そして次の瞬間、ジェリーダは右下腹部に激しい痛みが走りその場に倒れた。
「ううっ……」
痛む箇所を押さえるとその押さえた手が真っ赤に染まる。白い法衣も赤く染まりそれが自身の血である事に気付くのに時間はかからなかった。しかしそれがジェリーダを更なる恐怖に誘う。前方の木に傷の原因となった矢が刺さっていた。後ろから矢で射抜かれたのだ。
「い…痛い…っ……!!」
ジェリーダはぼろぼろに涙を流しながら地を這いながらそれでも逃げようとする。
「おやおやいけませんねぇ王子…もうお諦め下さい…?」
ドゥル兵が馬から降り、槍を手に取るとジェリーダの右足、膝の裏をめがけて突き刺した。
「うあああああああああっ!!!!!!!!!」
刺された足を中心に全身に電撃が迸るような痛みが走る。叫ばずにいられない程の激痛。
「あぁっ…うぅ…い……たい……!!」
痛みと恐怖に完全に支配されたジェリーダの思考は停止してしまっていた。もう逃げる事すらままならない。
「貴方の首をあのお方の所に持ち帰らなければならないのですよ…もう楽になりたいだろう?」
兵が槍を振り上げているのを見ていてもジェリーダの視界は涙で全てがぼやけてしか見えない。もうダメだ…殺される、死にたくない……。
「あちぃっ!!!」
突如、兵の槍を持つ手元が燃え上がる。慌ててその火を叩いて消す兵。
「!!?」
ジェリーダは我に返り法衣の袖で涙を拭うと次に視界に入ったのは自分と兵の間に立ちはだかるガイの後姿だった。後ろを振り返るとロッドを前方に向けて立つレイナの姿がある。先ほどの火は彼女の魔法によるものだった。
「何でこんな所に王子がいるのかは謎だが…」
「間一髪ってところね」
ガイとレイナは真剣な面持ちで兵と対峙していた。
「アンタら…何で……」
意外な人物を前にジェリーダは困惑する。
「王子…お怪我は…あるようですね」
レイナがジェリーダの前にしゃがみこみその身体を起こさせる。
「……て………助け……て……!!!」
嫌いな奴でもいい、憎たらしい奴でもいい、とにかく助けてほしい。ジェリーダはその想い一つで散々憎まれ口を叩いた2人にぼろぼろに泣きながら懇願した。
「勿論です。私達はそのためにここまで来たのです。ガイ!」
「おう!!」
レイナの指示によりガイは剣を抜いて兵と対峙する。
「彼が敵を引きつけている間に治療を。治癒魔法は使えますね?」
「あ、ああ…」
ジェリーダはまず血が流れている右足の傷に触れないようにそっと右手を当てた。手から白く暖かな光が発生し、次第に足の痛みは和らいでいく。足の傷が完全に癒えると次に下腹部の治癒に取り掛かった。
その時間もガイが兵を相手にして稼いでいるため無事完了できたのだ。
「こいつ、強いな…」
ガイにはわかっていた。今戦っている相手が辺境の魔物と違い正規の軍のもとで鍛えられた軍人であるため苦戦を強いられるだろう事を。
実際この兵の動きには無駄がなかった。右手に持つ槍はガイの使用している剣よりも遥かにリーチが長くこちらの動きを的確に読んで攻撃を繰り出して来るのだ。
「でもあれだけの鎧を纏っていればその分素早さはこちらに分がある筈…」
戦いの様子をじっと観察しているレイナだがある事に気づいた。
「ガイ!彼の弱点は攻撃の直後よ!」
兵の槍による突きを間一髪のところで避けたガイがレイナの言う事が何を意味するのかすぐに察した。兵は素早い攻撃を繰り出した後は槍を一旦引っ込めるためそこに隙ができるのだ。それを見逃さなかったガイは素早く兵の懐に潜り込み頑丈そうな鎧の胸部をめがけて斬りつけた。
「ぐっ…!?」
兵は吹き飛ばされ、後の大樹に背中から激突しその衝撃のせいか気を失った。おそらく死んではいないだろう。
「よし!今のうちに逃げるぞ!!」
ガイが冷静に全てを見ていたレイナとただただ口をぽかんとあけたまま呆けているジェリーダの方に向き返った時、
「随分遅いと思って来てみれば…」
馬の足音と共に北の方角から低い声と共に現れる黒い影。
「!!!!!」
その姿を確認するや、ジェリーダの顔は青ざめ全身が激しく震えだした。
「ひ…!!」
黒い馬に乗る黒い甲冑に身を包んだ土気色の肌を持つ若い男の姿。ガイと同じ青い髪と銀色の瞳。
その眼光は見る者を震え上がらせる程鋭い。
「おい!!逃げるぞ!?逃げるんだよ!!!!コイツには誰も勝てない!!!ここにいたら皆殺される!!!!」
ジェリーダは完全に我を失い震えたままの手でレイナの白いマントをぎゅっと掴んだ。ガイにもレイナにもこの男が只者でない事はすぐに見て取れた。
「こんな無能な王子に何かができるとは思えんが…リーラ王家の人間である以上始末しなければならない…」
男が冷徹にジェリーダを見下す。
「う…あぁ…!!」
王子のこの怯えよう…コイツが直接何かしたのか…?考えを張り巡らせているガイだが、その後にレイナが口を開く。
「貴方が…ドゥルのクルティス皇子?」
「おいマジかよレイナ…そりゃあ敵の親玉じゃねーか…」
洒落にならない…そう心の中で呟き苦笑するガイ。
「わかってんなら逃げろよ!!!!お前らだって知ってんだろ!?ドゥルの皇子クルティスは冷酷無比の黒騎士で人の命なんか虫ケラ同然に扱う血も涙もない氷のような野郎だって…!!父上も母上もコイツが殺した!!!その時顔色ひとつ変えなかったんだ!!!!」
ジェリーダがレイナのマントを掴んだまま必死に促す。
「じゃあまさかアイツの顔についてるのは…!!」
ガイが男―皇子クルティスの顔を指差す。その頬には赤い液体のようなものが点々とついている。
「そうだよ…あれは父上の血だ…アイツが父上をその槍で貫いた時の返り血なんだよ!!!」
我を失いながら説明を続けるジェリーダの青い瞳は再度涙を湛えていた。確かにこの場は逃げるしかない事はガイもレイナもわかっている。しかしこの隙が一切感じられない男を相手にそれができるのかは両者とも自信はなかった。
「…………」
クルティスの乗る馬は静かに歩き出す。
「ひ……ひぃっ!!」
ジェリーダは情けない声を上げレイナの背中に隠れたが、クルティスはそれを完全に無視して馬をガイの前まで歩かせた。
「な……何だよ……?」
『お前なんか…お前さえいなければ……』
クルティスの脳裏で憎しみに声を震わせる幼い少年のシルエットが映る。
「人違いなら許せ」
そして右手に持つ先端が赤く染まった槍を振り上げ、ガイの頭に狙いを定め素早く突き刺そうと振り下ろす。
「ちっ……!!」
ガイはそれを後に飛び跳ねて回避するも免れたのは直撃だけだった。完全には避けきれず左肩への刺突を許してしまったのだ。
「な…何で俺じゃなくてアイツを狙うんだ…?」
隠れていたジェリーダがレイナの背中の後から顔を出して驚きながら頭上に疑問符を浮かべる。
「な…何なんだよコイツ……!!!」
次々とガイへ素早い槍さばきで攻撃を繰り返すクルティス。ガイはそれに対し致命傷を避けるだけで精一杯だった。反撃もままならず完全な回避は難しく決して浅くはない刺し傷が増えていく。
レイナは考えていた。このクルティスがガイを狙う理由を。
王子を確実に仕留めるためにまず邪魔なガイから殺してしまおうという考えにしてはあまりにも彼に執着したように攻撃を続けている。それにそうだとすれば遠距離から魔法を使う自分がガイを殺すのを阻止すると考えるのでは?ならば先に狙われるのは自分の筈…
いえ、違う……!
今考えるのはそこではない!何にせよ自分を完全に無視している今がチャンスなんだ…その結論に達した時レイナは再度ロッドに炎を宿した。
「ガイ!!横に飛んで!!!」
「お、おう!!!」
そのタイミングでガイはクルティスの槍を持たない左手側に飛んだ。
「!!」
次の瞬間、クルティスの黒い馬の足元に炎を飛ばす。馬は前足を上げてひひぃんと大きな悲鳴を上げるとそこに一瞬の隙ができた。
「逃げるわよ!!!ついて来て!!!」
レイナの合図と共に3人はその場から全力で走り出した。
「…………」
クルティスは逃げる3人を追う事はなく、ただその後姿が小さくなって行くのを冷徹な眼差しで見つめていた。特にガイの後姿を。
馬車1台分がぎりぎり通れる広い道を避けて獣道と読んでも過言ではない程の狭い木々の間を縫うように逃げるガイ、レイナ、ジェリーダ。しばらく走った先で息を切らし足を止めた。
「はぁ…はぁ…奴ら…追って来ねぇな…」
「そりゃそうよ。あの馬じゃこの狭い所には入っては来れないわ。馬から下りたとしてもあの鎧じゃ思うように後を追う事はできない。クルティス皇子もそう考えてすぐに追う事は諦める筈よ」
「レイナさん…そこまで考えて誘導なさっていたんですね…」
ガイは息を切らせながら感服し、その場にへたりと座り込んだ。
「ちょっと、そんな所でへたり込んでる暇はないでしょ?サウスリーラにも戻れないし、ルーヴルに帰りましょう…王子、それでいいです……か…」
レイナがガイを宥めた後ジェリーダの方を振り返るが、彼は蹲りただただその小さな身体を震わせているばかりだった。それも仕方ない、先ほどの話を聞く限りだとジェリーダは目の前で両親をあのクルティスという皇子に殺され、更に自分も命を狙われている。それがどれほどの恐怖を伴うものなのかガイもレイナも想像はできなかった。
「王子、とりあえずルーヴルまで逃げましょう。そうすれば少しは安全ですわ」
「………うん」
レイナが優しく声をかけ、手を差し伸べるとジェリーダは涙を拭いその手に縋るようにしがみつき立ち上がった。ガイはその様子を複雑な気持ちで見守っていた。
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