艦隊 真・恋姫無双 83話目 |
【 従う者 の件 】
? 司隷 洛陽 郊外の原野 にて ?
この日も、月が隠れる曇り空。
季節的には、夏らしい季節に入っているらしく……辺りが些か蒸し暑かった。
そんな真っ暗な原野に見えるのは、妖しく光る篝火。 風の動きで左右に揺らぎ、まるで誘うかのように見えた。
一刀達は、篝火を目印として、道なき道を踏みしめながら歩を進める。
一歩足を踏み入れれば、名も知れぬ草花を踏みつけ、二歩を進めば、その度に独特の青臭い匂いが鼻腔へと漂う。
ちょうど成長の適した時期な為で瑞々しい為か、それとも……神経過敏で感覚が鋭くなっている為か……判断がつかない。
しかし、この匂いも……後少しで血生臭い死臭に替わる事だろう。 その臭いの元が一刀達になるか、白波賊のなるかは……まだ定かでない。 ただ、この原野が……死屍累々と化した荒涼な戦場跡になる事は、間違いなかった。
★☆☆
??「皆さん……気を付けて下さい! 人影が全然見えないのに………万の軍勢に囲まれているような……そんな濃厚な殺気を感じますっ!!」
一刀達の前では、宛ら(さながら)忍者のような装束姿の少女が一人、道案内と護衛を兼ねて、先へ先へと進んで行く。
彼女の名は──姓は周、名は泰、字は幼平、真名は明命。
言わずと知れた──孫策軍の一翼を担う将である。
ーーー
―――
──今から約30分程前
一刀達が準備を整え、洛陽から出るため都城へと正門に近寄ると、二人の少女が待っていた。
白蓮『…………やはり、お前達だけで行くのか?』
明命『……………………』
一刀『王允殿の目が、どこにあるか分からないからね。 白蓮が手伝ってくれるのは嬉しいけど……君にも迷惑が掛かる………』
白蓮『掛ければいいじゃないか!! お前には返せない程の恩を貰ったんだ! だから、今度は私が───』
一刀『それは、厳密に言えば俺じゃない! 全部《北郷さん》の御蔭じゃないか! それなのに……ただの北郷さん似の俺が、その余徳を受け入れるのは困るんだ! だから……俺達だけで行かせてくれ!』
明命『………………!』
白蓮『まったく………頑固な奴だよ。 一応言っておくけどな? 私や他の記憶のある者は、全員お前を心配してるんだ! 前の世界を『北郷一刀』を重ているのも事実だけど、お前自身を気に入って力を貸そうとしてるんだ!』
一刀『それは、俺の記憶に北郷さんの行動が…………』
白蓮『アイツは、北郷は……どちらかと言えば普通の少年だったよ。 大器晩成っていう言葉が合う男だった。 でも、一刀……お前は北郷の優しさを持ち、尚且つ英邁闊達が見て取れる! 北郷を既に超えている御遣いなんだ!』
一刀『………………………』
白蓮『これだけ言っても分からないじゃあ仕方ない。 取り敢えず、この娘だけでも手許に置いてくれ。 この娘は隠密に優れた将だから、連れて行ってもらえば、必ず役に立ってくれる筈だ!』
一刀『いや、だから───』
白蓮『それに、だいたい道案内役も居ないのに、どうやって行く気だったんだ? 確かに篝火が目印になるから、目的地まで行けるけどさ……真っ暗な道無き場所を明かり付けて、堂々と敵の所まで行く気か? 』
一刀『そ、それは───!?』
白蓮『それじゃ………明命、 一刀達の事……頼むよ。 それと、お前も……………絶対に死ぬなよ?』
明命『────はいっ!』
―――
ーーー
一刀「…………………………」
明命の様子を危惧する一刀の様子は、端から見てもよく分かる。
その様子を伺って、加賀が一刀の隣に並び、心配そうな口調で尋ねる。
加賀「……良かったの? 紫苑や雛里にさえ………本当の『理由』を話さないまま、此方へ来ているのに……この者を連れて行くなんて?」
一刀「───正直、こればかりは……ね。 先の夜戦、もしかすると……『深海棲艦』が手を貸している可能性があるなんて……言えないよ。 その事を話せば……有無を言わさず、この戦いに参加しようとするだろう」
加賀「そうね………その心意気は嬉しいけど、足手纏いはいらないわ。 参戦して深海棲艦を相手にしたいなら、安全な場所で実態を観察してからじゃないと……。 この娘も、案内が終わったら、直ぐに引き返させた方がいいわ」
加賀は、そう言った後……少しの間だけ口を噤み(つぐみ)……また、思い出したかのように一刀へ問い質した。
加賀「一刀提督……貴方は怖くない? 貴方は指揮官であるけど──普通の人。 私達艦娘とは、攻撃力、耐久力、回避能力等が全然違う。 前の世界と同じように……鎮守府で指揮をとった方が、安全じゃないかしら………?」
一刀「鎮守府に居ても……殺られる時は殺られる。 ならば、陣頭指揮を取り、君達の安全を出来る限り護るのも、提督、司令官と呼ばれる俺の役目だと思うんだ。 この気持ちは、誰に言われても──変わらない!」
一刀は、真剣な顔で最後の言葉を言い切り、前方を見つめる。 その後……懐より天龍の眼帯を取りだし、顔に装着した。
怪訝に眼差しを向ける加賀に、自分の顔を見せて真面目な口調で語る一刀。
一刀「だけどね………相手から一方的に怯えさせられてばかりじゃあ……少し悔しいじゃないか。 せめて、顔だけでも迫力を出さないとな! だから、天龍から眼帯を借りたんだ。 どうだい? ふふふ………怖いか?」
加賀「……………あの……い、いえ。 なんでもないわ…………」
そう言って、加賀は一刀に背を向ける。
…………………その肩は、小刻みに震えていた。
◆◇◆
【 不惑 の件 】
? 洛陽 郊外の原野 にて ?
明命「あそこに居る者が白波賊ですよ………ゆっくり近付いて下さい……」
明命が小声で指差す場所より、一里(約400b)ほど離れた所で、様子を伺う一刀達。
距離的には、かなり離れているのだが………風下に居る為、時おり優雅な音色、大勢の騒ぐ声が風に乗って聞こえ、篝火によって作り出される戯けた影が、複数に別れて……草木の上で動き回っている。
この周辺には……人家などは無い。 近くの集落まで三里(約1.4`)も離れている広大な原野。 勿論、何か催しが開かれている訳でも無いのである。
遠目で確認できるのは、黄色の頭巾を被った約50名程の男達。
その者達は、篝火を四方に設置し、酒を交えながら談笑していた。
★☆☆
一刀「アイツらが………そうか……」
体を臥せてから、相手の様子を伺う一刀。
因みに一刀の顔は、眼帯を装着したままである。
気が付いた川内や夕立が、笑いを噛み殺すため非常に苦労していたり、如月が顔を赤く染めつつ一刀を眺めたり、菊月が一刀の顔を見て固まって、恍惚の表情で『隻眼こそ至高の武人……いや、司令ゆえか……』などと呟く。
ただ、慣れぬ隻眼で足元が危ういため、鳳翔や磯風が左右を固めて補助してくれるので、何とか此処まで無事に来れた。
そのため、磯風が『司令……人の趣味に水を差す気はない。 だがな、他の者に迷惑かけてまでするのは……どうだろうか?』と嫌味を言われる始末。
この急な眼帯を装着する一刀の姿を見て、理由を知らぬ者は疑問に思って問い掛けるのだが……一刀は笑って答えなかった。
そんな質問を全部聞き流し、一刀は傍で控える明命へ急に尋ねる。
一刀「一つ聞きたいけど、今見えているアイツら……間違いなく白波賊だと言えるのは……なぜだい?」
明命「はい! 先ずは、身体的特徴である『黄色の布』を巻いている事です。 それに……この場所は、先の戦いで亡くなられた何苗様達が……襲撃を受けた場所なんですよ。 そんな場所で、宴を開く酔狂な者が居ますでしょうか?」
一刀は、この言葉を聞き……納得した。
―――
この場所は、官軍が襲撃されて、陰惨な遺体が転がっていた所。しかも、ほんの一週間前に遭った出来事だ。 それなのに……そんな場所で、酒を酌み交わそうなどと考える者が居るのだろうか?
百歩譲り、もし存在していても、今は被害に遭った王允が血眼で犯人を探している。 こんな所を見られたら、直ぐに判り一刀達のような軍勢を派遣されてしまう。 艱難辛苦の日々に、更なる負担を背負う民など居る筈が無い。
更に言えば、白波賊が何苗達を殺害するために、何らかの罠を使った可能性が高いのだ。 それなのに、この場所で宴を開くのは、余りにも無謀だと言えるだろう。
下手に仕掛けた罠へと触れれば、最悪死が待っている。 何苗達の様子をみれば、納得いく話だ。 しかも、そんな物が何処に仕掛けてあるのか分からない。 普通の民や洛陽の高官でも、場所を変えて行うのは決定的だ。
それなのに、実際……宴は開かれている。
それは…………仕掛けた場所を知っている──つまり、仕掛けた者だけである。
一刀は、小声で命令を発し配置を命じた。
ーーー
『赤城、加賀、扶桑、山城、瑞穂』を後方へ。
右側に『川内、那珂』を移動させ、左側に『神通、夕立』を向かわせた。
中央に『不知火、島風、菊月、如月』と配置。
ーーー
鶴翼之囲(かくよくのかこみ)という敵を包囲する陣形を作り出し、準備を行う。 一刀の考えでは、前衛で白波賊を包囲捕縛、後衛で深海棲艦が現れた時対抗しようとしていたのだ。
皆が一刀の命令に従い、静かに素早く動き出し、その真ん中に磯風と鳳翔を護衛として従わせ、一刀が指揮を取る。
赤城達は、辺りを油断なく確認し、他に異常が無いか見渡す。
川内は嬉々として那珂と共に向かい、神通は探照灯の準備、夕立も艤装を点検して配置に就く。 そして、他の者達も密かに持ち場へと急いだ。
その準備の間、明命に向き合い一礼をして、一刀は小声で案内役の礼を述べた。 磯風、鳳翔も……後ろで待機しつつ礼を行う。
一刀「(………ありがとう、充分役目を果たして貰ったよ。 さて、ここからは俺達の戦い。 後の事は任せて、君は早く──洛陽に戻って欲しいんだ!)」
明命「…………………」
一刀「(今度の戦いは、君の予想を上回る戦いになるかも知れない。 俺達にしか対抗出来ない敵『………深海棲艦の事……ですか?』──!?)」
磯風「(───むっ? その名を出すと言う事は………誰より聞いたか尋ねなければならんな!?)」
鳳翔「(磯風さん、静かに! 凡そ判断はついていますけど……念の為に教えて貰えませんか? どなたの教示なのか……)」
一刀の言葉を黙って聞いていた明命が、口を開いて答える。
明命「(深海棲艦の話は、于吉さんより聞いています! どんなに強大な相手か、どんなに恐ろしい相手なのか、私の力が如何に無力だという事も! だけど、私は……この場を立ち去る訳には──いかないんです!)」
一刀「(しかし、君の主は孫伯符殿……俺達に忠を尽くす事も無い。 金剛達より報告は貰っているが、義理立てする必要も無いんだよ。 寧ろ、俺達の後始末を頼んだ様なもの。 だから、気にせず……此処から立ち去るんだ!)」
明命「(私は周公瑾様より、一刀様を護衛するようにと厳命されています。 貴方の無事の姿を……御覧頂かないい限り、私の役目は終わりません!)」
磯風「(うむ、武人としての矜持は見事だな! 司令も公私を区別して、任務を全うす────)」
明命「(…………貴方は……覚えていないでしょうが、私は……今もハッキリと覚えています! 貴方に……優しく情けを頂いた事…………)」
とんでもない爆弾発言が発せられた為、磯風と鳳翔が言葉を失う!
磯風「(───な、何んだと!?)」
鳳翔「(…………提督?)」
一刀「(いや、俺じゃない! 北郷さん、北郷さんだって!!)」
注視される一刀は、慌てて自分じゃない事を不定するが、明命の告白は続く。
明命「(一刀様は……私を褒めてくれる時、頭を何時も優しく撫でてくれました。 任務を無事に終え、帰宅の途に着く 度に私を強く抱きしめ、泣きながら無事を喜んでくれたり。 他にも……沢山あるけど……全て……大切な想い出)」
磯風「(司令よ……この者との扱いの差はなんだ? この磯風、自ら腕を奮い、司令に召し上がって貰う手料理を持参するのに………いつも必ず、何処かへ雲隠れするわ、用事が出来たと抜かしては席を外すのだ!?)」
一刀「(ま、待てぇ! 今の話は俺じゃなく───」
磯風「(この磯風、厨房を戦場と心得、日夜を問わず修業に励み鍛え上げた料理の腕は、司令の胃袋を陥落させる為! その成果が……これでは……! 折角の料理が、全部無駄になってしまうではないか!!?)」
一刀「(いや、磯風の料理は…………鳳翔! 磯風が作る料理の監督……お願いしたいんだが………)」
鳳翔「(………善処は致しますよ………善処はね……)」
明命の告白により、些か混乱が起きたが、明命の更なる問いにより直に鎮静化。 しかし、磯風の機嫌は当分治りそうにない。 幾ら鳳翔さんと言えども、出来る物と出来ない物があるのだ!
明命「(あ、あの──私の話……聞いています?)」
一刀「(コホン! き、聞いてるよ! ………そうか、君にも……記憶が?)」
明命「(はい、私には今も一刀様との記憶があります。 だから、冥琳様……いえ、周公瑾様は、私を護衛へと命じ馳せ参じさせたのです。 お願いします、どうか……最後まで貴方を護らせて下さい!!)」
一刀「(………言っておくけど、俺は君の知っている『北郷一刀』じゃない。 俺は別人、名ばかりの北郷一刀だ! 君の大事な人とは違うんだよっ!?)」
明命「(そうですね、確かにそうです。 しかし、私は……貴方を護る事に……些かも迷いなんか……ありません! 私は………自分自身を納得させる為に、貴方の側に来たのですから!)」
一刀「(…………理由を聞かして貰っても……いいかい?)」
明命「( ………于吉さんは、貴方の事を『別世界の北郷一刀』……つまり、私や蓮華様達が愛した『旦那様』と同じだとも言ってたんですよ! 旦那様の魂を受け継いだのは……貴方だと!)」
ーー
一刀「(于吉……そうか! 孫策軍なら……事情を知っていて当然……な、なんだい? その目は………!)」
磯風「(…………ふっ、何でもない、些細な事だ。 どうやら……料理を本気で鳳翔に習わなければと、今更ながら痛感している………)」
鳳翔「(……………………)」
ーー
明命「(だから、封印されている記憶が解ければ、何れ……全部の記憶が甦るとも聞いています!)」
一刀「(………………………)」
明命「(ですが……私は直に触れてみたいのです! 蓮華様達が感じられました……貴方の中に存在する『一刀様』へ! お願いします……戦いが終わるまで……どうか御一緒させて下さい!!)」
「「「…………………」」」
そうこうしている内に、艦娘達より陣形の編成が出来たと報告が来たため、既に明命を逃す間もない。
こうなれば……やむを得ず認めるしかない。
逃がす事を諦めた一刀は、明命に自分の護衛を任すわけになるのだが、『大事な君の命だ! 俺の命は二の次に考えるように!』と釘を刺すことを忘れない。 明命は……目を丸くしながら、大輪の花のような笑顔を見せて承諾した。
磯風と鳳翔も、顔を見合せ……仕方が無いと肩を竦めて、明命の護衛を許す。
されど、ここは戦場。
何時、如何なる事が起こるか分からない場所。
明命の笑顔に一瞬だけ心を奪われるが、直ぐに一刀は表情を引き締める。
相手は、小で大で制する智謀の軍勢。 侮れば、自分達でさえ負ける可能性がある。 一刀は包囲網を縮める為、手を少し上に上げて、前へ出る合図を出して、前衛の者達と共に相手に近付いた。
策としては、一刀達が正面より挑みかかり、敵の注意を正面に集中させ、その隙に左右の川内、神通からの挟撃を仕掛ける戦術。
艦娘の力を持ってすれば、敵に大打撃を与えるぐらい……容易い事だった。
◆◇◆
【 新たな敵影 の件 】
? 洛陽 怪しい宴会場 にて ?
一刀達は、宴を行っている場所に近付くと──可能な限り用心深く、歩を進めていた。 従うのは不知火、島風、菊月、如月、磯風、鳳翔、そして明命。
『敵を探るのなら任せて下さい!』と自信満々に答える明命を先に行かせ、一刀達一行は、樹木に隠れ身を伏せながら………目的地に少しずつ向かって行く。
そして、明命が宴の場所まで肉薄して、動静を確認した際……事態は予想外の事が起きていた!
明命『────!!』
明命より、切羽詰まった『集合』の合図が出され、一刀達が急いで近付く!
────そこは、確かに宴の席で間違いなかった。
三隅に高さ2m近い篝火が焚かれ、周辺を照らしている。 しかし、不思議な事に………見張り役が誰も居ない。
辺りには、多数の空の酒壺と杯が散乱、酒の肴らしき乾物が所々に置かれた状態。 その周辺には、泥酔した酔客が寝そべっていたり、騒いでいた。
黄色の布を被り騒ぐ者達は、乾杯の声を何度も上げて酒を酌み交わす者、酔ってフラフラと歩き、足元が覚束無い者が徘徊する。
また、篝火の周辺には、顔を赤くした酔客数人が、黒の敷物を被り眠っている。 ピヨピヨピヨと……どこかの漫画のような擬音の鼾を出しながら。
─────『…………これって…… 普通の宴会場と同じ………?』
誰とも無しに、そんな声が漏れてしまう。
一刀や艦娘達の予想では───
『この場所に、足を踏み込めば……左右から数十の伏兵が襲いかかる!』
『もしかしたら、更なる手の込んだ攻撃でも行うのか!』
な〜んて覚悟を定めていたもの……その思惑は完全に外された。
一刀は、それでも周辺を注意深く確認させる。
戦場での油断は死を招く、何らかの罠が無いか確認する事は当然だった。
鳳翔「酒は………かなり強い白酒ですね。 これなら、短時間で酔う事も納得できますが………」
鳳翔が、酒壺に残っていた酒の薫りを確かめると、その種類等を予測して一刀に伝えた。 周りの艦娘達も、周辺の状況に目を配るが……おかしな所は無い。
一刀「…………………………」
辺りを見渡しても、篝火の照らしだされる者は、十数人の酔っ払い居るだけだけで、正気な者は一切合切見当たらない。
他に見渡しても………寝言で女の名を叫ぶ者、鼾を響かせて仰向けやら俯せにして眠る者、歯軋りをして五月蠅い者………と酔客ばかり。
本来なら、一刀達が敵に仕掛ける予定で訪れたのだが、御覧のような状況で些か拍子抜け。 しかも、見張りの兵も居らず、緊張感が全く感じられ無い様子に、ただただ唖然とするしかなかった。
――
島風「にひひひっ! 提督、これなら楽勝だねぇ! でも、残念だなぁ……連装砲ちゃんに、私のすごぉ〜い活躍振りを見せてあげられないなんて〜!!」
磯風「…………しかし、嫌な感じだ。 数倍の敵を撃ち破る強者共が、このような失態を見せるとは考えられん!」
不知火「確かに……油断大敵ですね。 最後の最後まで、気を引き締めて掛からねばなりません。 沈められた後で悔やんでも……仕方がありませんから」
如月「そうよねぇ………うん、気を付けましょう!」
菊月「私も、再び……恥も亡き骸も……晒し者にするなど、ごめんだ!」
鳳翔「…………………」
――
明命「…………………一刀様」
一刀「言いたい事は分かるよ。 大丈夫、皆、分かっているから………」
明命「……………………」
――
同時に、一刀達が敵に当たれば、タイミングを合わせて挟撃する予定だった川内や神通も、遠くより、この有り様を見て戸惑いを隠せない。
と言うか……川内の不満が高まる。 楽しみにしていた夜戦が、酔っ払いの痴態を見守るだけになるため……苛立ちを覚えてしまう!
――
川内「もぉおおおーっ! 何で夜戦が出来なくて、代わりに酔っ払いの観戦なんかしないといけないのよぉ!!」
那珂「ええぇ〜っ! 那珂ちゃんの姿を見る前に轟沈!? そんなぁ〜折角スタンバイしてたのにぃ───!!」
――
神通「念の為……探照灯と照明弾の準備をしとかなきゃ………」
夕立「私の活躍………提督さんに見せて上げたかったな〜!」
―――
―――
ここまで来れば、他の軍なら隙の一つや二つ見せるかも知れない。
だが、戦場経験豊富の艦娘達達に、隙は無い。
口々に注意するように言い合い、警戒の念を高めて行動。 一刀から言われるまでもなく、自分達の理念で、隙を消していったのだ。
それは───自分達の遠い記憶にある『轟沈』した時の様子。
その辛い記憶を戒めにして、戦いに挑んでいるからである!
………一部の艦娘が、慢心しているように見えるが………あれで普通。 逆に警戒なんかしていると、動きに精彩が欠けてしまう恐れが考えられるから。
そんな中、一刀は、自分の傍にいる艦娘達に、酔客達を捕縛するよう準備させた。
この騒ぎの連中の正体が判断出来ないが、何らかの事情を知っている筈。 捕縛して事情を聞き、白波賊との関係を探る為。
だが───四隅にある篝火の内、既に消えていた篝火の傍から、声が聞こえてきた。 まるで、一刀達が罠に掛かったような言葉を投げ掛けてきたのだ。
――
胡才「ヒャハハハハハッ!! 李楽よぉ! 待ちに待った大物が……ヒック! へへ……釣れたようだぜぇ!! これで、俺の賭けが成立だぁ! 帰ったら十金……ヒック! し、しし………支払って貰うからよぉぉぉ!」
李楽「うぐ……先までは……雑魚ばかりだったから……油断を。 いや、雑魚の御蔭で御遣いが……釣れたのか。 正しく『雑魚で鯛を釣る』………コジキの通り………だった。 無念…………ゴホッゴホッ!」
韓暹「野郎ばかりで華がなかったが………今回は美少女ばかりとは! グハハハハッ! 久しぶりにやる気がでるわい!!」
――
篝火が消えて、辺りが見えない場所に、三人の男が車座になり、酒を飲み交わす。 明らかに、そこらに居る者達より身なりが良く、態度に卑屈さが無い。 それに………かなり上の地位の者だと思われる、風格も漂わせている。
しかも、尋常で無いのは、賭け事をしているようだが、賭け事の対象が『此処を攻める者が一刀達か別人なのか?』という、人を食ったような内容である。
その言葉に驚いた一刀と艦娘達は、直ぐに身構え……相手の行動に備えた。
★☆☆
李楽「白い服装を纏った……奇跡を起こす天からの遣い……。 貴様だな……『北郷一刀』は………?」
一刀「………だとしたら……どうする?」
韓暹「楊奉様に楯突き、漢王朝を打倒せんと邪魔する貴様を殺すのさ! その後、顔の肉を剥ぎ取り……頭骨を加工して金箔を塗り、酒を呑む杯にしてやるよ! くくくっ───楊奉様がお喜びする顔……目に浮かぶわい!!」
李楽「至極簡単な事………全員………殺す!」
胡才「あぁあああ〜? 男も女も手足の腱を切り、慰め者にした上で殺すんだよ! その方が実用的だし〜こいつらの苦悶のが見えて楽しめるだろうがぁ!? 李楽は、真面目過ぎるのさ!!」
三者三様の言葉だが……共通して『一刀達を害す』と言っている事が理解でき、一刀は拳を握りしめ………隻眼に怒りの焔を宿らせる。
一刀「………そうか。 ならば、今一度問う。 お前達は、白波賊『楊奉』の配下でいいんだな?」
韓暹「一の頭目『韓暹』……色男さんよ、お前が死んだ後、周りの女共は任せな! 俺の熱い抱擁を受けて、共に旅立たせてやる!」
李楽「二の頭目『李楽』……面白い……コジキ曰く『天に唾棄すれば、人に当り怒らせる』という。 天の怒り……見せてみるがいい……ゴホッ!」
胡才「三の頭目『胡才』っていうんだが………知ってか? 知らねだろうから教えてやんよぉ! 俺達が名前を名乗るのは、相手が死ぬ事が確定している時だけさ。 冥土の土産代りに、彼の世で広めてくれよ!」
そう三人が応え、李楽が薄笑いを浮かべながら………叫ぶ!
李楽「さて、我が策……『酔客兇搏の陣』………貴様らに見切れるか!」
李楽の声が上がると、今まで泥酔して歩いて居た者、賑やかに呑んで居た者達が、急に殺気を放ち……『酔歩』(千鳥足)で一刀達を取り囲む。
寝て居た者は『鯉魚打挺 』(仰向けの状態で、背と両手の力を使い飛び跳ねて起き上がる中国拳法の技)で起き上がり、その戦列に加わった。
皆が皆、両手は『杯手』(拳を握り、人差指と親指だけ伸ばした後、湾曲化する。 酒を呑む杯を持つ動作から。 別名 月牙叉手)を作り、足をヨタヨタともたつかせながらも、一歩一歩迫り来る。
――
一刀「……………酔拳か?」
李楽「……ほう、分かるか? だが……この拳は……酔拳と一味違う。 『暗中酔妖拳』……この魔拳の怖さ……特と思い知るがいい!」
鳳翔「………酔客の真似で相手を油断させ、群狼のように襲う方法なんて。 魔拳など大層な呼び方ですが、ただの集団戦! そのようなお粗末な技で、提督や私達を倒す事など不可能ですよ!?」
李楽「………我らを侮るな。 お前達の行動は……洛陽に潜入している者により……分かっている。 ───此処が……貴様らの終焉の地だ! ゴホッ!」
如月「酒の力を借りて、女の子を襲うなんて……だらし無い男ね! この変態、アンタ達なんて……如月が別の意味で相手してあげる!」
韓暹「ふん! 何度でもほざけ! お前を捕縛したら、この俺が真っ先に相手をしてやる! それにな……俺達は、貴様ら天の技に対する対抗策もあるんだ! 」
不知火「不知火達の攻撃が遮られる………そんな戯れ言など聞く気になりません! その思い上がり、実際に見せてから証明なさい!!」
胡才「戯れ言かどうかは………この虎口を逃れてから、ほざきやがれぇ!!」
島風「へーんだ! 私には誰も追い付けないよぉ!」
菊月「面白い! …………ならば、本気で行く! 存分に後悔するがいい!」
ーー
一刀達の回りには、数十人の魔拳を使う者が取り囲み、虎視眈々と隙を窺う。
白波賊の李楽は、篝火を一つだけにするように命じて、他の灯りを消させる。
韓暹、胡才は、笑いながら一刀達の様子を眺めている。
しかし、一刀達も動じる事なく………迎え撃つ態勢を取る。
かの大戦で……過酷な日々を送り、そして様々な最後を迎えた軍艦の化身である艦娘達は、輪形陣を構築、一刀を守りつつ反撃の機会を狙う!
―――
―――
――
鬼灯「始まったわね……………」
??「…………………」
そんな中………宴の場所より少し離れた所に………影が二つ。
艦娘達の様子を窺い、状況を静観する者達が居たのだ。
一人は、白波賊に手を貸す元何進配下『鬼灯』、もう一人は………白いワンピース状の服を着用した女。 気のせいか、白いボール状の物が浮いている。
??「ノコノコト……マタ……来タノ? ……フフ……フ……」
鬼灯「………いいこと? 今度の相手は艦娘達。 前の戦みたいに人ばかりではないわ。 貴女の攻撃一発での轟沈は、まず無理と考えなさい! ……戦艦を後方支援に廻している筈。 そこを狙い……戦艦共を無効化、可能ならば轟沈させない!」
??「任セルガイイ。 慢心……ソレガ命取リニナルコト……思イ知ラセテ……ヤルワ! 後ノ働キハ……期待シテイルゾ?」
鬼灯「砲筒も返して貰ったから……私も攻撃できるわ。 安心なさい」
??「フッ………………」
宴で篝火が同時に二つ消えるのを見て、白波賊と艦娘達の戦いが開始された事を知った二人は、それぞれの行動を起こす。
かの白服の女は、少年が詠に証言した『お化け』の一人であり、艦娘達の敵である深海棲艦の一隻であった。
ーーーー
あとがき
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
今回も公私ともに忙しくて、構想が浮かばず……結構時間が掛かってしまいました。 次回は、もう少し早く投稿したいと思っています。
この戦いの話に区切がつけば、義輝記に着手したいと考えていますので、それまで楽しみにされている方がいらっしゃれば、もう暫くお待ち下さい。
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白波賊戦……緒戦です。 | ||
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コメント | ||
耶蜘蛛提督 感想、コメントありがとうございます! お気付きの通り……その意図で装着させました。 なるべく理由が分からないように誤魔化して書きましたが……気付かれるとは流石です!(いた) いつも楽しく拝見しております 夜戦だから眼帯は暗反応対策かな?(耶蜘蛛) スネーク提督 コメントありがとうございます! 別に遊びでやっている訳ではなく……ある行動の為です。(いた) ( ▼ω・)隻眼…眼帯…(スネーク) |
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