真・恋姫無双〜魏・外史伝20 |
第九章〜悪意の矛先・後編〜
「でやああああーーーっ!!!」
ザシュッ!!!
「ぐわぁっ!?」
「くそ・・・、一体何なのだ、こ奴等は!?」
「分からん・・・。少なくとも、仲間ではない事は間違いなかろうさ。」
そんな会話を交わしつつ、二人は互いに背を預けあう。
ここは、街の約一里手前の林道・・・、愛紗、星が率いる騎馬隊は、突然謎の奇襲を受けていた。
仕方なく、この場で戦闘を開始したのであったが、慣れない暗闇の中での戦闘もあって、皆々上手く
戦えていないのが現状であった・・・。
「いかんな・・・。我等の多くは暗闇での戦闘に慣れておらぬ。このまま長引けは全滅しかねないな。」
「ならば、どうすれば・・・。」
「私としては、辺りの木々草々に燃やして・・・。」
「却下だ!」
「何故だ?火計になると同時に、明りにもなって・・・まさに一石二鳥ではないか?」
「その理屈はおかしいだろうがっ!?」
「では、愛紗・・・お前に何かいい案があるのか?」
「そ、それは・・・。」
その時、草むらから人影が二人に飛びかかって来た。
「おっと!」
「くっ!」
それにいち早く気づいた二人は、さっと横に回避する。
「はああっ!!」
「でやあっ!!」
ビュンッ!!ビュンッ!!
そして、すかさず反撃に移る。その息の合った連携に敵は一蹴された。
「ぐあ・・・っ!」
その一方でまた一人、部下が倒れる。確実にこちらの戦力が削がれつつあった・・・。
「やれやれ・・・、これではいつになったら蒲公英達と合流できるのやら・・・。」
この現状に、いつも余裕の表情を崩さない星の顔に苦の色が滲み出ていた。
ザシュッ!!!
「くぎゃあっ!!」
蜀軍の兵士がそのまま崩れさる・・・。
「はあぁ・・・、はあぁ・・・、はあぁ・・・。」
肩で息をしながら、その亡骸を見る姜維。
その目には、情けや憐みの感情は一切なかった。
「これで、全員のようだな?」
「ええ。どうやらそのようですね。」
そう言って、党員達は周囲を見渡す。そこに自分達以外の人影はなかった・・・。
「なぁ、そろそろ戻った方が良くないか?蜀軍の兵士達が避難所を襲われていたりしたら・・・。」
「・・・そうだな。ここでだいぶ時間を使ってしまったからな。早く消火に戻った方がいいだろう。」
「姜維、聞こえたか!?戻るぞ!!」
「・・・、あ、はい!今・・・行きます!!」
党員の一人に呼びかけられた姜維は、はっと我に返る。彼の目は、獣の眼からいつもの彼の優しい目
へと戻っていた。そして、仲間と一緒に避難所へ戻ろうとした。
「ヒヒーーン!!」
どこからともなく、馬の鳴き声が聞こえてきた。
「?」
姜維は周囲を見渡す。すると、燃え盛る家々の間を凄まじい勢いで駆け抜けて来る馬を見つけた。
「な、何でこんな所に馬が!?」
困惑する姜維に構う事無く、馬は彼の方に向かって飛び跳ねた。
すると、今度は馬の背中から勢いよく小さい何かが飛びかかって来た。
「てぇりゃああああーーー!!!」
「うわあああっ!!!」
勢いよく飛びかかって来たそれが、姜維の胸に激突する。その衝撃に、耐えられず姜維は後ろに
尻餅をついてしまった。一方で、それは宙で一回転、二回転と軽やかに舞いながら地面に降り立った。
それは、幼いながら蜀の武将の一人として活躍する、馬岱こと蒲公英であった。
「ふざけやがって!・・・不意打ちはねぇだろ!?」
「そんな事より、あなた達・・・正和党だよね?」
「・・・それがどうした?」
「やっぱり!あの話は本当みたいね!」
「何の事だ!」
「トボケないでよ!街に火を付けたのはあんた達だって言うのは、たんぽぽ達は知ってるんだから!!」
「何!?ふざけるな!俺達が街に着いた時には、すでに火の海だったんだ!!」
「言い訳なんて無駄だよ!あんた達が、家に火を付けているのを見たって、街の人が言ってたんだから!」
「な、何・・・そんな馬鹿な!?」
「馬鹿はどっちよ!火をつけるだけじゃなく、この街の人達や兵達を殺しておいて!
それで言い逃れようなんて、男として恰好悪いったらないって!」
「!?何言ってやがんだ!!自分達が先にやっておいて白々しいぜ!」
「無駄だ、姜維!この状況を見てはどんな言い訳をしようが無意味だ!」
そう言われ、姜維は自分達の周囲を見渡す。そこには、この街の人、蜀の兵であった亡骸が
横たわっていた。そこに自分達のような、武器を携えた人間がいれば、誰がどう見てもその人間達が
彼等をやったようにしか見えない。ましてや、蜀の武将であるならば、このまま黙って自分達を逃がすはずもない。
「まずいな・・・。姜維、ここは逃げるぞ!」
「は、はい!」
党員に言われ、姜維は撤退する党員達と同じ道へと駆けだした時であった。
「なっ!?」
彼の目の前の道を遮るかの様に、火で燃え盛った一軒の家が倒壊した。
倒壊した家のせいで、姜維は党員の仲間達と分断されてしまった。
「余所見なんてしてんじゃないよー!!」
「のわっ!?」
後ろから少女がその手に持った槍で襲いかかって来た。
ビュンッ!!!
不意打ちも甚だしいその攻撃をかろうじてかわす。
姜維はすかさず距離を取った。
「ちぇ、外したか・・・。」
舌打ちしながら、その少女は彼に槍先を向ける。
「くそ・・・!」
「ま、いっか。あなただけでも捕まえちゃえば、たんぽぽ的には問題無いし。」
「ふざけんなよ・・・!」
姜維は足もとに落ちていた自分の大剣を拾うと、剣先を蒲公英に向けた。
「そうやって、自分達がした事を棚に上げるその捻くれた考えが・・・余計に腹が立つんだよ!!」
少女に向かって、剣を振り落とす。が、蒲公英はその剣の軌道を見切っているのか。
難なく交わし、そして剣は空を切った。
「くそ!小さい分、素早しっこいなぁっ!」
「何ですってぇ!!だれの胸が洗濯板よ!」
今度は少蒲公英が槍を彼に向かって振り落とした。姜維はその一撃を剣の腹の部分で受け止めた。
「そこまで言ってねぇよー。」
槍の柄の部分をはじき飛ばすと、蒲公英はその反動を使って、宙で一回転しながら地面に降りた。
姜維はその瞬間を逃さず、まだ構えてもいない彼女に横薙ぎの一撃を放つ。
ビュンッ!!!
「ふん!そんな猪みたいにただ突っ込んで来るだけの攻撃なんか当たりっこないよ!」
蒲公英の隙を狙ったはずの一撃は、またしても空を切った。それより、姜維は剣の振りわされる形で
体勢を崩してしまった。そして、それを逃すような馬岱では無かった。
「うがっ!!」
蒲公英が放った一撃が姜維の背中を叩きつける。それによって、姜維はそのまま前のめりに倒れた。
「ほら、あんた。もう観念してたんぽぽに捕まりなよー。」
姜維は後ろを振り向くと、そこには子憎たらしいほどの余裕の笑みをこぼす小悪魔の少女が、
自分を見下ろすように立っていた。
「へ・・・、冗談じゃねぇよ・・・。お前みたいなちびっ子に・・・誰が捕まるかよ!」
「むっか〜・・・!またたんぽぽを馬鹿にしてー・・・!もう許さないんだから!!」
そして、二人は再び互いに構えた。
膠着状態が続く、互いに相手の隙を窺う・・・。
「ふっ!!!」
その膠着を先に解いたのは、姜維の方であった。大剣を右肩に乗せる様に剣を振りかぶったままで、
そのまま蒲公英に突っ込んで行く。そんな彼の姿を見て、
「ぷっ・・・!まるでどっかの脳筋馬鹿みたい。」
彼の行動を先読みする武将・馬岱。振りかぶった大剣を上から振り下ろす彼の姿を想像すると、
そこに自分の動きを加える。
(横にさっと避けて、蒲公英の槍であいつの延髄を叩いてやるんだから・・・!)
そして、姜維の攻撃範囲に自分が入ったのに気付く。その瞬間、彼に自分が想像した彼の姿が被る。
自分も姜維の方に向かって行き、間合いを調節する。そしてこの瞬間、姜維は、剣を振り下ろしてくる・・・はずだった。
「えっ!?」
自分が想像した彼の動きと現実の彼の動きにずれが生じた。
だが、ずれに気づいた時にはすでに横に避けた後であった。
ドガッ!!!
「うぐっ!」
最初の一撃は剣では無く、彼の左足であった。横に避けたせいでその一撃を横腹にもろにもらってしまった。
「剣を振り上げたからって、必ず剣撃が来るって事にはならないぜ!」
姜維が放った蹴りにより、その軽い体は浮き上がる。
そして、すかさず左足で地面を踏み、振り上げた剣をそのまま横薙ぎへと移した。
「っ!?」
蒲公英はその横薙ぎの一撃をくらうまいと、槍の柄の部分で受けとるべく浮足立った体勢で構えた。
「うおおおらああああーーーー!!!」
ガキイイィィィンッ!!!
姜維が放った第二撃は、彼女の槍の柄の真中部分によって遮られてしまったが、その衝撃まで遮る事は
出来なかった。その小さな体はその強烈な一撃に、後ろへと吹き飛ばされてしまった。
「きゃうっ・・・!!!」
幸いな事か、蒲公英は火があまり移っていなかった家の戸をぶち破り、家の中へと大きな音と共に
入っていった・・・。
「・・・へ、ざっとこんなもんよ!!って言いたいけど・・・、これはちょっとまずいな・・・。」
気付いた時には、姜維の周りを火が囲んでいたのでいた。
「ちくしょう・・・、俺はここでお終いかよ・・・。」
そう思った時であった。
「姜維!!」
「・・・大狼さん!?」
火の中から、勢いよく一頭の馬が飛び出してきた。そしてその上には、正和党・頭領こと廖化が乗っていた。
「姜維、その名で俺を呼ぶなと前に言っただろう・・・。」
「すいません・・・!」
廖化は馬の上から姜維に説教する。だが、姜維の顔は満面の笑みであふれていた。
「・・・まぁいい。さぁ早く乗れ!」
「はい!」
言われるがままに、姜維は相乗りする。
「あ・・・。そういえば、あの子供は!?」
姜維は先程、吹き飛ばした少女の事を思い出す。
「問題は無かろう・・・。見てみろ。」
そう言って、廖化は火の向こうに指をさす。その先には、主人である、気を失っている少女を
自分の背中に乗せたまま、こちらを睨むように見る一頭の馬がいた。
「・・・・・・。」
子憎たらしいとはいえ、少女の無事が確認できて内心安心する。
「さあ、姜維!しっかり捕まっていろ!」
「は、はい!」
姜維が自分の腰を、両手でしっかり持ったのを確認した廖化は手綱を巧み操る。
そして、再び馬は火の中へと勢いよく飛び込んでいった。
「廖化さん、どうしてここに?」
燃え盛る家々の合間を縫うように、馬を駆けていく廖化に尋ねる。
「皆からお前の事を聞いてな。」
「・・・すいません。廖化さんの手を煩わせてしまって・・・。」
申し訳なさそうな顔を廖化に見えないように、俯く姜維。それに気付いてか、廖化は
軽くため息をついて、こう言った。
「何を言っている。仲間を簡単に見捨てられる程、俺は人手なしではない。」
「・・・廖化さん。」
ああ、やっぱりこの人に付いて来て本当に良かった、心の中でそうつぶやいた姜維であった。
「あの、他の皆は?」
「何人かは一足先に、街の人達と共に村へ戻した。この街の火は・・・もう俺達の手には
負えないと判断した。今は、人命救助を中心に作業を展開している。お前にお手伝ってもらうぞ。」
「・・・分かりました。」
そして、馬の速度はさらに上がった。
シュンッ!シュンッ!シュンッ!
「な・・・、連中が去っていく!」
愛紗と星達を襲っていた謎の戦闘集団が、突然として撤退していく。
追撃しようにもこの暗闇、しかも深い林の中へと入って行ってしまったため、それは困難かつ危険があった。
「とりあえずこの場は何とかなったようだな、愛紗。」
「ああ、だが思わぬ所で時間を食ってしまった・・・。蒲公英達は大丈夫だろうか?」
そう言って、愛紗は未だ赤く染まる夜空の方を見る。街の鎮火がまだ出来ていない事が、それを見て分かった。
「大丈夫であろう。あの娘、まだ幼いが我等と同様、蜀を支える柱の一人。そうであろう?」
「・・・そうだな。皆の者!態勢を整え次第、すぐに街に向かうぞ!」
「ん、ん・・・。」
頬にくすぐったさを感じ、重い瞼を何とか開く。朦朧とする意識の中、目の前にいるものを確認する。
「黄鵬・・・?」
目の前のものに焦点が合っていく。そこには自分の身を案じる様に、頬を優しく舐める愛馬がいた。
主人が気が付いたのをが分かったのか、さらに舐め回す。それをくすぐったそうに、愛馬を両手で撫でる。
どうやらここは、街から少し離れた外側の城壁の傍のようだ。辺りを見渡すと、数人の兵達があっちこっちと
駆け回りながら、街の民達に食糧を配給したり、怪我の手当、事情聴取などをしていた。
「そっか・・・。たんぽぽ、あいつに負けちゃったのか・・・。」
先程の事を思い返す蒲公英。あの少年の一撃で吹き飛ばされた瞬間が彼女の頭に焼き付いて離れない。
「なんかさ・・・、勝てると思ったんだけどな〜・・・。」
自分の愛馬に話しかける様に、蒲公英はそうつぶやく。それが分かっているのか、黄鵬は鼻息で反応した。
「あーあ・・・。どう考えても、たんぽぽの油断が敗因だよね〜・・・?」
その通りだ、と言うように黄鵬は首を縦に振っていた。
そんな愛馬の反応に、蒲公英は頬を膨らませる。
そしてそれから間もなくして、蒲公英達は愛紗、星の部隊と合流する。街の大規模火災が発覚してから、
六刻が過ぎていた・・・。そして、街の火は如何な消火作業によっても、その勢いは衰える事は無く、
火が完全に鎮火したのは、それから数刻後・・・日が山々の合間から昇り始めた早朝の事であった・・・。
「何?!それは本当か!!」
消火だ、救助だ、配給だと徹夜明けの者達には堪えるような大声を出す愛紗。
「愛紗、もう少し周りに聞こえないよう、声量を調節してくれんか?」
「う、すまん・・・。」
星に突っ込まれ、周りの痛い視線を受けいるのに気が付いた愛紗の顔はみるみると赤面していった。
「だが、蒲公英。この街に、お前達のほかに正和党の者達がいたのは確かなのだな?」
「うん。たんぽぽ、その人達に直接会ったし、それに・・・。」
「それに?」
「う、ううん!何でもない何でもない・・・!」
「ふむ・・・、そうか。」
慌ててはぐらかす蒲公英に、気になりはしたがそれは後で追求すればいい事だろうと話を続ける星。
「この街に火を付け、挙句・・・この街の民達・兵達を殺した・・・か。先程、道中で我々を襲ったのは
もしや正和党の者達だったのか?」
顎を持ち、一人考える星。そこに愛紗が疑問を提示する。
「だが、もし仮にそうだとしても彼等がここを襲った理由は何だ?」
「・・・賊と同様、金銀財宝を略奪を目的としての事か?それとも別の理由が・・・?何にせよ、
この街の有り様では彼等の目的を断定するのは難しかろうな・・・。」
一晩中燃え続けた街は、もはや黒く燃えきった燃えカスとそこから昇る黒い煙、
そしてかつては人であっただろう、その人形の黒い塊が至る所に転がる・・・、地獄を絵に描いた
ような光景をその城壁から見ながら、星は答えた。
「でも・・・、ひどいよ。こんなの・・・。」
その光景を一緒に見ていた蒲公英。その表情はいつもの笑顔は無く、怒りがこもった口調でそう言った。
「・・・そうだな。これほどの所業・・・、理由はどうであれ見過ごす事は出来んな。」
そして蒲公英と同様、表情には出さないものの、その手は震える程力一杯に握りしめれられていた。
「くくッ・・・。いいぜいいぜ。こっちは正和党がやった事を前提に話が進んでんな・・・。
連中の正義感って奴が、上手い事働いて・・・他の可能性に目を向けていない。
後は放って置いても、問題は無いな。さて、あとは・・・。」
それから丸一日が経った頃・・・。
「廖化さん、俺・・・いろいろと考えたんですけど、結局蜀の奴等があの街を襲ったのか・・・
よく分からないんですけど・・・。」
街から連れて来た人達の世話を一通り終えた頃、姜維が廖化に自分の疑問をぶつけていた。
「姜維・・・、あの街を襲ったのは蜀軍であるとそう考えているのか?」
「え・・・?・・・もちろんですよ!だって、俺は見たんですよ!」
問いを問いで返す廖化。その彼の問いに、姜維は一瞬困惑したが、すぐに断言する。
「見た・・・か。果たして、それが事実と一致しているのだろうか?」
「どういう意味ですか?」
「一つの可能性だけを見るな、とそう言いたいのだ。一つの可能性だけに思考を取られていては
いざ別の可能性が出てきてもすぐに対応できず、結果取り返しの付かない事態に陥る事があるかも
しれない。」
「はぁ・・・。」
「今回の件もそうだ。まだ不確定な情報が錯綜した状況で、一つの結論に至るのは危険だ。」
「でも・・・、でも!蜀の連中が街の人を襲っていたのは間違いありません!!それは
そこにいた他の皆も見ているんです!それに、後から来た馬岱は俺達が火を付けたとか
言っていたし、それにこっちの話を聞こうともしなかったんですよ!」
姜維は廖化の言う事に一応の納得はしていたが、その目に焼きついたその光景が頭から離れず
その時の怒りがぶり返したかの様に、駄々っ子のように怒鳴ってしまう。
そんな姜維に、困り果てた顔をする廖化は頭を掻きながら、
「だからと言って、蜀軍の仕業と決めつけるのは、少し早いと思うが・・・。」
と言葉を濁してしまう。
「うぅ・・・、すいません。言っている事は分かっているんですけど・・・、俺・・・。」
そんな困った彼の姿を見て、姜維は自分が酷く恰好悪く思えた。そして、何かを思い出したか
のように、廖化が言う。
「しかし、事情がどうであれ・・・お前が馬岱殿を打ち負かしたとなれば、向こうから何かしら
言ってくるかもしれないな・・・。」
「いや、でもあれは向こうが襲って来たから、仕方なくて・・・。」
いきなり俺を蹴り飛ばしたし・・・、いきなり後ろから斬りかかって来たし・・・。
「まぁ・・・、せいぜい今のうちに言い訳を考えて置くんだな。」
「廖化さ〜ん・・・。」
やれやれと肩をすくめる廖化と、困った顔をしてながら言い訳を考える姜維の所に
一人の党員が駆け込んできた。
「廖化さん!」
「ん・・・、どうした?」
「さっき、劉備の遣いの奴が来て、こいつをあんたに渡すようにって・・・。」
そう言って、党員は手に持っていた竹簡の巻物を廖化に渡した。
「劉備殿からか・・・。思ったよりも早かったな。」
恐らく内容は、今回の件についてこちらの事情を聞きたいといったものだろうと、
その竹簡の巻物を広げ、そこに書かれた文字を目で追っていく。
「・・・・・・なっ!?ば、馬鹿な・・・!何だこれは!?!?」
黙って竹簡を読んでいた廖化が、いきなり声を荒げる。あの廖化がここまで動揺する姿は
姜維達も初めて見たため、思わずこちらも動揺してしまう。
「ど、どうしたんですか、いきなり!?一体、何が書いてあったんですか?」
そう言って、姜維は彼が持つ竹簡の中身を覗く。
そこに書かれていたのは・・・。
「何だよ、これ・・・。これじゃあ、まるで正和党が極悪な賊みたいじゃないか!?」
「・・・・・・。」
姜維は怒りを露わにし、廖化はもはや言葉は無かった。
その内容は、彼等にとってはあまりにも残酷な内容であった。
『汝達、正和党の巴郡での所業は遺憾極まりなき事。
我、劉備玄徳は正和党を蜀国の害となりし存在と認め、
正和党頭領、廖化元倹及びその配下に厳正な沙汰をすべく
廖化元倹は成都に来たれし。』
姜維は、廖化の両腕を掴む。それと同時に、彼が持っていた竹簡が地面に落ちる。
その衝撃で、竹簡の紐が切れ、バラバラになる。
「廖化さん!行っちゃ駄目だって!劉備は俺達を完全に悪者にする気だ!!
皆仲良くって言って置きながら、自分に従って来ない俺達を問答なしに
叩き潰す気なんだ!!!」
廖化の両腕を掴みながら、姜維は説得する様に彼に言う。
「・・・・・・。」
しかし、廖化は彼の言葉が聞こえていないのか。放心した様に、黙ったままであった。
「廖化さん!」
そんな彼の名を呼びながら、彼の体を揺する。
「・・・すまない。まさか、あの劉備殿から・・・このような書状を渡されるとは思っても
見なかったのでな・・・。」
冷静を装ってはいたが、ひどく動揺している事は姜維達にも理解できていた。
「・・・お前達、悪いがこの事はしばらくここだけの話にしておいてくれ。」
震えた口で、そう言う廖化。そんな彼を見て、二人は不安な顔をする。
「で、ですけど・・・!」
思わず、党員が言葉を出すが、
「頼む・・・!今は一人で考えさせてくれ!!」
「・・・!!」
廖化によって遮られ、それ以上言う事が出来なかった。
廖化はその場を去って行く。そしてその後ろ姿を見送る姜維達には、その背中がいつもよりも
・・・小さく見えたのであった。
小屋に戻った廖化は、そのまま椅子に座り、机の上に両肘を置き、両手で顔を隠す。
一体どうしたらいいのだ・・・、自分は何をすればいいのだ・・・、自問自答するが
ひどく動揺する彼の心境では、その答えは見いだせるはずも無かった。
それから数刻・・・、すでに日は落ち、辺りは暗くなり始めていた・・・。
未だ結論には至らず、自問自答を続けていた・・・。
そのせいで気付くのが遅れたのか。いつの間にからいただろうか、自分の机の前に誰かが立っていた。
「・・・何しに来た?」
その人物を、彼は知っていた。以前、突然自分の前に現れ、劉備に粛清しろと言った。白色短髪の
筋肉質の男であった。
「へへ・・・、連れない事いうじゃないか?そろそろ俺を頼りたくなってきた頃かと思ってな・・・。」
自分を見下ろしながら、男はにやけながら言った。
「・・・・・・。」
返す言葉も無かった・・・。奴の言う通り、自分は誰かの助けを求めていたのだから。
「図星か?まぁ、そうだよな・・・、今や正和党は完全な逆賊扱いだからな。
元々、周りからよく思われていなかったからな。これからそんな連中がここぞと言うばかりに、
お前等を潰しにかかるぜ・・・。」
「くっ・・・。」
奴の言葉に、思わず悔しさが口から零れてしまった・・・。
「悔しいよな。自分がつくった正和党が、濡れ衣を着せられたまま・・・なんて。」
「俺は・・・、一体どうしたら・・・。」
悔しかった・・・、身に覚えのない咎で正和党が潰される事もさながら、この男にすがってしまう
情けない自分が・・・、どうしようもなく悔しかった。
「簡単な事だ!自分の身は自分で守るんだよ、やられる前にやれ!!」
「それでは、自分達がやったと認めるも同じ事だろう!?」
何を言い出すんだこの男は・・・!自分の首を自分で絞めろと言うのか!?
俺は立ち上がると、奴の胸元を乱暴に掴み、自分の目の前に奴の顔を持っていった。
「何甘い事言っていやがんだ!!てめぇがそんなじゃ、他の連中はどうすんだよ?!
このまま蜀の思い通りになっていいのか!?」
「どういう・・・事だ?」
言っている意味が分からなかった。蜀の思い通り・・・だと?
「分からねぇのか?全ては蜀の一部の人間がお前等を嵌める為に仕組んだ事なんだよ!」
「なっ・・・!!」
突然の衝撃が体全身を駆け巡る。自分達を嵌める為に・・・だと?
「お前等を良く思っていない人間が、あの街の兵士達を金で買ってあんなひでぇ事をさせたんだよ!
お前等を嵌める為に、あの街は、そこに住んでいた民達はそのための犠牲になったんだ!」
「・・・・・・っ!」
自分達を嵌める為に・・・あの街が、住んでいた人達が・・・犠牲になった?
そんな事のために、自分達が守るべきものを切り捨てたというのか・・・・?!
「だから言ったじゃねぇか・・・。あんたはいいのかいって。俺はこうなる事を予期していたから
お前に忠告したんだ。劉備が愚かなせいで、いつしか一部の人間が自分の欲のために好き勝手
やり始めているんだよ。そして、この事は劉備、そしてその周りにいる奴等も分かっていない。
このままじゃあ、漢王朝の二の舞だぜ!」
「なんという・・・事だ・・・。」
奴の胸元をつかんでいた手を緩め、そのまま椅子に座ると、全身から力が抜けるような感覚に
襲われる。右手で自分の顔を隠すようにうなだれた。
「大徳仁義だの、優しい国だの・・・それを隠れ蓑にして、自分に従って来ない連中を
力でねじ伏せるのは、乱世が終わった今も変わらないのさ。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
長い沈黙が続く。その間に、俺は自分の気持ちを整理していく。先程までばらばらだった思考を
今一度全て拾い上げ、そして組み立てていく・・・。その組み立てられた思考を使って、改めて自問自答する。
俺は・・・一つの結論に辿り着いたのであった。
俺は、それを行動に移すべく席を立つと、奴の側を通り過ぎる。
すると、あの時同様に奴は俺に話かけてきた。
「答えは見つかったようだな?」
「ああ・・・。」
足を止め、奴の問いに迷う事無く答えた。
「俺に出来る事は・・・ないか?」
珍しく、奴は優しい声でそう言った。
「いや・・・、これは俺の、いや・・・俺達の戦いだ。お前の力を借りはしない。」
「・・・そうかい。なら、俺は勝手に手を貸してやるさ。」
そう言って、奴は不敵な笑みを俺に向ける。
「・・・勝手にすればいい。」
俺は、小屋から外に出ていった。今日は雲一つない快晴である事に今、初めて気が付いた。
数日後、大陸各地に散らばった、正和党の仲間の元にある一通の文が届く。
それは、廖化直筆の・・・檄文であった。
そしてその内容は・・・。
一方、廖化は近くにいる仲間を村から少し離れた森の中のとある一ヵ所に集め、彼等の前に立った。
彼等の目線が廖化に向く・・・。全員の目線を受ける廖化。その姿は、一つの決意を胸に秘め、彼等を
導く指導者の姿であった。
そして、彼の口が開いた。
「正和党諸君!今、我々は言われ無き咎によって、この大陸に害を為す存在として見なされてしまった。
だが、私は・・・そのような理不尽な行為に泣き寝入りする気は毛頭無い!!
私はこれより、蜀国に宣戦布告する事をここに宣言する!!!」
廖化の言葉に、仲間達の間に動揺が走る。しかし、それでもなお話す事を止めなかった。
「皆が困惑するのは仕方の事ないだと思う。だがこれは国への反逆では無い!今、この国はかつての
漢王朝と同じ運命を辿ろうしているのだ!先の巴郡火災事件は我々を陥れるための国の一部の人間
の仕業であったのだ!そんな理由のために、どれだけの不幸が生まれたか皆も承知の通りだ!!
そう、この宣戦布告はそのような腐った輩を排除し、そしてその事実を劉備玄徳に教える為、この手で
過ちを犯した蜀に正義の鉄槌を下す為なのだ!!!そのために、私は各地に散らばった仲間達に私自ら
檄を送った!そして皆にも力を貸して欲しい!!!この国を、そしてこの大陸に真の平和をもたらすために!!!」
仲間達から歓声が上がる。それは彼の意志に同調し、共に闘う事を意味していた。
この瞬間、蜀と正和党の戦いの幕が開けたのであった。
そこから少し離れた木の影からそれを声を殺して笑って見ている男がいた。
「くっあははは・・・・!これで後は勝手に向こうがやってくれるな。全く、世話を掛けやがって。
・・・さて、そんじゃあ北郷を探しに行くとしますか?」
そして男の姿は一瞬にして消えた・・・。
説明 | ||
投稿遅くなりました、アンドレカンドレです。この九章、かなり長くなってしまいました。七章よりも長い気がします・・・。とはいえ、この章は今後の展開として外せないものなので、何とか書きあげました。ここで、人間のもろさが露呈している感じがします。人間、傷ついている時、甘い言葉を掛けられると何故かその言葉に身を委ねてしまう・・・。そんな第九章〜悪意の矛先・後編〜をどうぞ! | ||
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ティリさん、まぁ・・・その辺は深く考えない方向でwwww(アンドレカンドレ) 蒲公英は18歳以上です(作品的に)(ティリ) |
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