IS ?英雄束ねし者? 第二章 11話『思惑』 |
「……と言う訳です」
翌日、IS学園に登校した四季は一時間目の時間帯に千冬からの事情聴取を受けていた。
隠密ガンダムが聞いてきた一夏達の証言の内容と同じ事を挙げつつ、偶然幻夢界……千冬達の推測ではバリアの一種として考えているそれの中を飛び回っていたら、偶然にも獣騎士ベルガ・ダラス……シャッフルガンダムの|二次移行《セカンド・シフト》した姿と推測している相手と遭遇し、戦闘に突入。
相手が予想以上の強敵だった為に……その最中にぶっつけ本番で調整中のHi−νガンダム・ヴレイブの特種能力を使ったと証言する。
隠密ガンダムからの報告を元にある種の偽証を作ったのだが、上手く行った様子だ。
「では、もう1つ聞こう。あの二機目の不明機と戦った時のISとあのISの能力はなんだ?」
「あれは『ウイングガンダムゼロ炎』。オレに与えられたもう一機の専用機です。あのシステムは『炎システム』と言って一時的に機体の機能を上昇させるシステムです」
ウイングゼロ炎に試験的に搭載されたシステムの1つ……四季が所有者に選ばれた代物とリンクさせて想定以上のパワーを得る事に成功した一時的な能力の強化システム。
ワンオフ・アビィリティとは別系統のシステムとして搭載されている強化システムである。
「……何故そんな物を搭載しているんだ?」
「100%オレと開発者の趣味ですね。ほら、オレのISってパワードスーツと言うよりもロボットって感じじゃないですか?」
四季の言葉に思わず溜息を吐きながらそう問うが、即座に四季はそう答える。
ヴレイブとウイングゼロ炎、共にDEMで作られたシステムを試験的に搭載されている。ヴレイブのフォームチェンジにウイングゼロ炎の炎システムがそれに当たる。
量産型νにはHi−νガンダム・ヴレイブのデータを元に前身にあたるνガンダム・ヴレイブをベースに開発されている為に、特殊なシステムは排除されているが。
「……此処からが一番大事な所だが……単刀直入に言おう、お前のヴレイブを一度学園側で預かり、解析させて貰いたい」
「断る」
即答だった。
「前回の無人機の襲撃の際発生した空間……再び同じ事が起こった際の対策の為に、あの空間を突破できるお前の専用機のデータが必要なんだ」
「いや、秘匿技術を一パイロットの独断で渡せる訳無いでしょうが」
理由を言われるが当然ながら拒否。確かに他のシャッフルガンダムを四季が撃破しなければ、それらの機体もアリーナへと侵入……予想される被害は死者不明行方不明者多数、重傷者多数……継承者ゼロと言う所だろう。
アリーナに居た生徒の何割かは確実に遺体さえ残らず、幸運にも生きていた者達も二度とまともな生活は送れない事だろう。
そして、獣騎士ベルガ・ダラス……奴の発生させた幻夢界の中に取り込まれた一夏、鈴、セシリアの三人は間違いなく死んでいたと言う確信がある。
殆ど学園の生徒全員を見捨てたと言う事実を知られれば詩乃には怒られるかもしれないが、今回の事はDEMの利益と技術的な優位を失う事に繋がる危険性がある……しかも、四季の判断で、だ。
今回ばかりは詩乃に嫌われたくないと言う理由よりも、彼女を守れなくなると言う理由が僅かばかり勝ってしまう。
「それは分かっているが、お前は例外では無いのか?」
「……養子とは言えオレがDEMの後継者としての権利を持っているから、ですか?」
「ああ」
……パイロットであると同時に後継者である四季なら企業も説得できるだろうと言う考えの下にだ。
既に学園に提案してヴレイブが見せた機能に対するデータの開示の交渉をDEMへ学園側から行なっているが、それには色好い返事を得ていない。……相手への交渉材料が無い、と言うのが問題だが。契約変更に対する対価が殆ど用意できないのが学園側の現状だ。
「織斑先生、元々IS学園は日本政府が運営を行なっている場所ですよね?」
「ああ、だが……」
「建前はどうであれ、此処でのデータ開示は学園だけでなく、日本政府にも無償で秘匿技術を公表すると言う事に繋がります。建前をバカ正直に信じるなら……余計に状況は悪くなる」
この学園で得られた技術は建前上、協定参加国の共有財産となっているが、そもそも日本政府が決して安くは無い運営資金まで『日本人がISを発明したのだから』と他国からの圧力で払わされているのだから、態々入手できる他国の最新技術と秘匿技術の結晶である専用機のデータをバカ正直に共有財産にする訳は無いと言うのがDEM側の……と言うよりも四季の父の考えだ。
建前上、各国の共有財産になっているのだろうが、それを逸早く入手できる位置に居るのは矢張り運営している日本だ。
DEMはG−アームズからの技術提供、回収した機兵から得られた技術等、様々な他国を凌駕する技術を有している。一例としてはイギリスのBIT兵器よりも高性能なファンネル……その強化型であるフィン・ファンネルが挙げられる。
「あの時見せた能力は秘匿技術の中でも特に重要度の高い技術に当たります」
遠回しに『提供は出来ない』と告げる。
まあ、銀の円盤を渡した所でファンタジー世界の技術……特に魔法に近い技術に当たる銀の円盤を科学面だけの知識だけで解析できるとは思えない。また獣騎士ベルガ・ダラスが出てくるとは思わないが。
この学園の生徒との関係、兄である一夏との関係も大切な物だが……DEMコーポレーションと天秤にかければ確実に四季はDEMを取る。
簡単な話しだ……“|IS学園《ここ》には詩乃が居ない”。彼女を守る為にDEMを取ると言う選択肢は当然の結果であるといえる。
「その為の対価として此方は倉持で開発された最新鋭機を用意した」
ISコアを含めて、と言う言葉を付け加えるられるとちょっとは心が動く物が有る。が、問題は外側だ。
「……またこれか」
青く塗られた白式の兄弟機……何度も押し付けられていた代物を再び見る事になると思うと頭が痛くなる。
「私の暮桜後継機で一夏達の兄弟機の|蒼式《そうしき》……」
「縁起悪いな、その名前!?」
流石に葬式は無いと思う。百歩譲って総指揮をイメージできなくも無いが、やっぱり一番に連想するのは葬式だ。
少なくとも名前を一から考え直すべきだろう……色名+式等手抜きも良い所だ。
「大体、そんな悪ふざけで作ったとしか思えない欠陥機が秘匿技術と釣り合う訳無いだろうが」
「待て、何が不満なんだ!?」
「三機纏めて作りましたって言う手抜き感と、欠点も回収できていない欠陥機しか作れない、過去の栄光に縋っただけの三流の欠陥機と言う点」
インフラックスと言う兄弟機こそ存在するが、それはヴレイブは細部に至るまで四季の為に誂えられた代物……『ブリュンヒルデ』と言う過去の栄光に縋って欠点を改善する事もしないで仕上げた後継機等と言う欠陥機など、手に入れる価値など無い。
零落白夜ならばある程度DEMもデータを収集し、SEの消費と言う欠点を改善した上でウイングゼロ炎に搭載する事に成功しているのだから。
「そう言う訳ですので、オレはこれで失礼します」
手を振って部屋から出て行く四季……交渉を優先するあまり、不明機の事を口外しないようにと言う書類にサインさせる事を忘れていたが……
「え? その事ですか? もう全部話しちゃいましたけど……」
既に身内だけとは言え口外済みで有ったりする。……現在、隠密ガンダムがIS学園から回収した破片のデータを調べている最中だ。
現在も隠密ガンダムを初めとする忍軍にはIS学園の研究施設を監視してもらっているので、残ったコアに同じ事が起こっても直ぐに行動に移れるが……。
(一撃で機能停止に出来たから大丈夫だとは思うけど、一応は警戒しておこう……)
流石に過去にガンダム達が戦った相手とは言え、話に聞いているだけの四季では頭で分かっていても上手く対応できない危険が有る。寧ろ、今回は幻夢界を発生させる能力を持った獣騎士ベルガ・ダラスで良かったとさえ言える。
(……それに、対策した所で幻夢界がまた起きるとは思えないからな……)
そして、データを渡さない最大の理由はそれである。一度敗れた獣騎士ベルガ・ダラスをもう一度敵が送ってくるとは限らない、まったくの無駄に終る可能性がある。
(……隠密ガンダムが回収してくれた破片の解析……結果は同じか……)
残念ながら、隠密ガンダムが改修した破片から分かった情報は全部既存の情報のみだ。使われている金属も通常の金属……何処で作られたかと言う決定的な証拠は得られなかった。
何より、既に敵の本拠地の位置は分かっているのだ。
そこまで思考を巡らせると学園の窓から空を見上げる。……四季の目に映し出されているのは透き通るような青空……。
(……辿り着いてみせる……そこにな)
敵の本拠地と言える場所……月へと思いを馳せながら四季は心の中でそう呟くのだった。
夜、DEMのアリーナにあるミーティングルーム。
そこに居るのはキャプテンガンダムとコマンドガンダムの二人に武者頑駄無と騎士ガンダムの二人……更には『武者荒駆主』と『|皇騎士《クラウンナイト》ガンダム』の姿もある。四季を咥えた七人の人影が席に着く中、中央のモニターに一人の男性……四季の義父である『五峰 輝季』の姿が映し出されると、
「それじゃあ、キャプテン。先ずは此処までの調査結果を報告しろ」
議長役のコマンドガンダムがそう言ってキャプテンガンダムに発言を促す。
「はい。私達が調査した所、インフラックスの他にも国際IS委員会の本部に保管してある各国、各企業の最新鋭のISが盗まれていました」
DEMだけでなく各国、各企業にも新型機の提出の要請が出されていた。次の『モンド・グロッソ』に向けての規定を設定する為らしい。国際的に使用を禁止されているVTシステム等の危険なシステムを搭載の有無を確かめる為もあるらしい。また、搭載こそ許可されるが、大会中では使用禁止とされる武器の判定も行なわれるそうだが、其方は今まで設定された事は無い。
ヴレイブもゼロ炎にも従来のISには無い機能が搭載されているが、それは四季の専用機だけに搭載されている。
内心、ウイングガンダムゼロ炎のツインバスターライフルが記念すべき最初の使用禁止武器とされるかもしれないと思う。
「各国から、か?」
「いえ、正確にはフランスの『デュノア社』だけが被害にあっていない様子です」
『デュノア社か……』
その名前を聞いて嫌そうな表情を浮べる輝季だが、今は理由を追求すべきではないと考えて、騎士ガンダムが口を開く。
「その会社だけが被害を受けて居ないと言うのは何故でしょうか?」
「単純に第三世代機の開発が遅れている、と言う事です。今回はそれがプラス要因となり最新鋭機の強奪は免れたようですが……」
騎士ガンダムの言葉にキャプテンは一度言葉を切る。
「不自然に被害を受けていないと言う訳、ですか?」
「ええ」
四季の言葉にキャプテンが同意する。単なる技術不足ならば良いが、意図した物ならばデュノア社は強奪犯と繋がっているのではないかと邪推出来てしまう。そんな考えがミーティングルームの中に広がる中、
「ですが、今はチームを分断する危険性を考え、強奪犯として浮かび上がっている組織……其方を優先して調べるべき。そう判断しました」
『|亡国機業《ファントム・タスク》』と言う名が全員の頭に浮かび上がる。
現在、ガンダム達が戦ってきた敵……闇の化身との繋がりを追う意味でも、遊撃部隊に当たるキャプテンガンダム、武者荒駆主、皇騎士ガンダムの三人を中心としたチームで調査・殲滅に当たっているが、実働部隊を幾つか潰す程度に留まっている。
キャプテンガンダムをリーダーとした『ガンダムフォース』
武者荒駆主をリーダーとした『新生武者五人衆』
皇騎士ガンダムをリーダーとした『円卓の騎士』
以上の三つの部隊を1つに纏めた部隊として亡国機業についての調査と殲滅を行なっている。
本来G−アームズの司令官に当たるキャプテンが所属しているため、キャプテンがG−アームズとして活動する際には、彼が外れるので全体の指揮は皇騎士ガンダムが執っているのだが、母艦となる戦艦の運用はガンダムフォースのメンバーが中心となっている。
「チッ! そうなると連中の活動にインフラックスが使われるかも知れないって事か!」
「そうなります」
コマンドガンダムの言葉に同意するキャプテンだが、その場に居た全員の心の中に怒りの感情が渦巻いているのが分かる。流石にガンダムを元にしたISをそんなマネに使われると言う事実に全員が怒りを覚える。
「ですが、もう1つ……最近になって、奴等が直接関与していると思われる組織の存在も浮上して来ましたし」
此処最近、キャプテン達が掴んだもう1つの組織の存在。|亡国機業《ファントム・タスク》に闇の化身が関与しているとしたら、別の組織を直接組織したと言う事になる。
飽く迄、奴等の作り上げた組織はボスが闇の化身と言うだけで、最高幹部や実働部隊は人間であるのだろうが……
「オレ達人間を介して直接奴等が動き出した……そう言う事ですか?」
四季の言葉に頷きあう一同。
「では、キャプテン、荒駆主、皇騎士、お前達は補給を終えたら引き続き調査を続行してくれ。だが、最優先は情報を持ち帰り帰還する事だ。勝てないと判断したら必ず撤退しろ」
「了解!」
「心得ました」
「はい」
コマンドガンダムの言葉に各々の返事を返すガンダム達。そして、四季へと向き直り、
「四季.お前はIS学園での次の大きな催しには注意しろ。また何か有るかもしれない」
「はい」
「オレ達は何時でも救援のために、動けるようにしておこう。以上だ」
コマンドガンダムの言葉でミーティングルームでの会議は終了する。
さて、詩乃が友人達と一緒に遊びに出かけた事で、暇になった休日……四季も友人である『八神 太一』、『石田 ヤマト』、『桐ヶ谷 和人』の四人で集まって男子会……と言うよりも後半は殆ど四人の中で唯一彼女の居ない太一の愚痴を聞いていたが……。
その途中で一夏と出会って彼と一緒に四人揃って彼の友人の家に遊びに行ったわけだ……。何時の間にかDEMの施設が近所に出来てDEMの社員で繁盛している彼の実家に四季が言った時は、社員全員から注目を浴びてしまったが……。
その際、一夏の友人の『御手洗 数馬』と言う人物が去年の夏休みで一人旅に出てから『すみません、往人さん、オレ何も出来ませんでした』と言っていたそうだが、ユキトなる人物の事が分からず、彼に何が会ったか知らない一夏とその友人である『五反田 弾』の二人は頭を悩ませていたが……面識の無い四季達にとっては『何やってるんだよ、受験生!?』と言いたい所だろう。
さて、数馬氏ととある田舎町を舞台にした三人の少女達と一人の大道芸人の一夏の出会いと別れと長い年月を経た物語は語る事では無いので省略させて貰う……。
他にも、同じ時の冬にはとある雪の町を舞台とした八神太一の物語も有ったりするが、それはそれ……本筋ではない外伝の物語……。
さて、そんな事の有った翌日……
「やっぱり、ハヅキ社製のがいいなあ」
「そう? ハヅキのってデザインだけって感じしない?」
「そのデザインがいいのー!」
「私は性能的に見てミューレイのがいいなぁ、特にスムーズモデル」
「あー、あれねー。モノは良いけど高いじゃん」
クラスの女子数人が集まってそんな事を話していた。話題はISのスーツ。外見はアンダースーツなのだが、結構な高性能な代物でも有る。彼女達以外にも生徒の間ではISスーツのことが話題に上がっている。自分用のISスーツの注文の時期が近い故にそう言う事になっているのだろう。
なお、四季のスーツはDEM製で一般販売されていないもので四季の専用と言う代物では無いが、こんな所にもガンダム達提供の異世界の技術と束さんの技術が使われているので、従来の品を遥かに超える高性能のスーツで、その性能はとても一般販売できる品物ではない。
最近ではデジタルワールドにのみ存在している超金属『クロンデジゾイド』のリアルワールドでの精製にも手を出しているとか。奪われたインフラックスへの対策の為、最低でも武装強化の為にHi−νガンダム・ヴレイブのメインウェポンであるブレードやウイングガンダムゼロ炎のパッケージ用の武装を作る分だけでも精製したいと考えているが、其方は上手く行ってはいない様子だ。
(くそっ、あの女……)
さて、そんな話題で教室中が盛り上がっている中、一人秋八は苛立っていた。前回の休日……彼も一夏と一緒に外出許可を貰って家の様子を見に帰ったのだが……一夏が弾の家に遊びに行く中、秋八は別行動を取り……一人街を歩いていた。
その最中に出会った女の子のグループの一人に眼を奪われ声をかけたのだが、断られてしまった。その後も自分の才能や世界で僅か三人だけのISの男子操縦者や、世界最強の弟等色々と今まで女性の興味を引いてきた話題を挙げるも、
『私、|IS《それ》に興味ないから』と、手酷い断りを受けてしまった。
(くそっ! 四季の奴に再会してから碌な事が無い! 本当に疫病神だ、あいつは!!!)
休日に自分のハーレムに入れたがっていたセシリアと仲良くなろうと訓練に誘うも、断られる始末。最近では学園の他の生徒も何かと一夏や四季の事ばかり話題に上げている始末だ。
まるで二人のオマケの様に扱われる現状は彼の考えていたIS学園での理想から遠ざかっていた。
女尊男卑の思想を持った生徒からは『自称天才』『本当に織斑千冬の弟なのか』等と言われて陰で笑われている。表立って言われていないのは『ブリュンヒルデ』の姉の存在があってのことだろう。
逆にクラス代表決定戦で大きな活躍を見せ、アリーナでの不明機を一夏や鈴、セシリアとの協力で撃墜した上に、その前にも他にアリーナを襲撃した物とは別の不明機を撃墜したと言う活躍……すっかり、四季は学園の一年の専用機持ちの中で最強なのではと話題になっていた。
今まで見下していた相手の下と評価されている。……その事実は秋八の心に大きな苛立ちを与えていた。
一夏については専用機持ち最強と名高い四季とクラス代表決定戦での戦いや、対抗戦での不明機相手の戦闘……他に見下す対象が居る為に四季と同じくそう言った者達から向けられる悪感情も全部秋八に向かっているので、四季ほどではないが一夏の評価は四季の次に高い。いや、寧ろ実力以前に生徒からの人気では寮生活で接する事が多い為に四季よりも高い。
(なんであんな屑が! 原作の主人公の一夏は兎も角……なんであんな奴がっ! ぼくの方が優れているって言うのに……ぼくが、この世界の主人公のはずだろう!?)
そんな事を苛立ちと共に心の中で叫ぶ。怒りをぶつける対象は二つ。自身の栄光を横から奪っていった四季と、役立たずの専用機の黒式。
四季が居なければ……神様から貰える筈だった特典が有れば……そう苛立ちを覚える。前世でプレーしていたゲームの主人公機……あの強力な機体が有れば、一夏やセシリアも秒殺出来ていた、四季にだって負けなかった。
(……持っているのがHi−νガンダムじゃなければ……いや、ぼくがDEMのパイロットになっていれば!!!)
己にはブリュンヒルデと言う世界最強の姉と言う後ろ盾が有るが、倉持の技術力は四季の後ろ盾であるDEMの方が圧倒的に技術力では優れている。
(いや、考えろ……コアは兎も角、外側だけなら姉さんに頼めばDEMの物が手に入るかもしれない……)
姉と彼女の専用機を作った倉持の関係を完全に壊しかねない考えだが、自分では良い考えだと思う。ブリュンヒルデの弟の世界でも数少ない男性操縦者が姉の専用機を作った倉持ではなく、新参の企業であるDEMの物を望む。それは下手をしなくても今までの関係をぶち壊しにしてしまうだろう。
秋八は知らないことだが、日本政府がそれを知れば即座に倉持の持っているコアを全てDEMに譲り、倉持からISの開発の権利を剥奪し……打鉄から現状で唯一の量産型第三世代機である量産型νに大規模な機種編をする事だろう。それほどまでに同じ量産型でも第三世代機と第二世代機とはスペックに差が有る。
現に四季が量産型νを使いデモンストレーションで倉持のテストパイロットに公の場で勝利している事も有る。
……とまあ、そんな事を考えているが、四季が嫌悪している秋八の専用機など四季の後ろ盾であるDEMが作る訳が無い。仮に政府が圧力をかけたとしても……適当な物を見繕って終わりだろう……GMとか(当然ながらDEMにも独自開発の第二世代機は存在している)。
「そう言えば、五峰くんと織斑くんのISスーツって何処の奴なの? 見たこと無い型だけど」
「あー、オレと秋八のは特注品だって。男のスーツが無いから、どっかのラボが作ったらしいよ。ベースはイングリッド社のストレートアームモデルって聞いてる。四季のは?」
そんな問いかけに答える一夏……まあ、今まで女性しか操縦者が居なかったのだから、特注品なのは無理も無いだろう。
「オレはDEMの特別製。流石にヴレイブと違ってISスーツは個人用のカスタムって訳じゃないらしいけど」
今でこそ一般的なISスーツのデザインを男性用に変えた物を使っているが、将来的には宙空間での生存を可能にするパイロットスーツの様な形に変えていく予定だそうだ。
……DEM製のIS及びIS関連の製品は本来の目的……宇宙空間での活動が可能な事が前提である。流石にIS単機での大気圏突破は考えていないが、
「でも、不思議だよな。こんなアンダーウェア着るだけでISの能力も上がるなんて……」
「いや、一兄……このスーツは外見こそただのアンダーウェアだけど、かなり高性能なんだぞ」
疑問の声を上げる一夏に四季が説明しようとするが……四季自身もISスーツについて細かい事は知っていない。精々動きをダイレクトに伝える点と、耐久性に優れている点くらいだ。
「その通りです。ISスーツは肌表面の微弱な電位差を検知する事によって、操縦者の動きをダイレクトに各部位へと伝達し、ISはそこで必要な動作を行ないます。またこのスーツは耐久性にも優れ、一般的な小口径拳銃の銃弾程度なら完全に受け止めることが出来ます。あっ、衝撃は消えませんのであしからず」
真耶が四季に変わってISスーツについて説明してくれた。こうして改めて原理を知ると、薄いアンダースーツなのにその中身は高性能なのだと改めて思う。
……まあ防弾や防刃については頭や手足などが露出している一般的なデザインでは無防備になるとも思ったが、頭はあれで当たり難い……動く相手を狙うならば体を狙うのが銃撃戦の基本だとコマンドガンダムから教えられた。体にも急所は多く存在し、外れても足や腕に当たればそれだけで次の攻撃の際に有利になる、と。
まあ、衝撃の点では仕方ないと割り切っている。……衝撃まで殺せはしないのだから、なるべく銃が当たる状況を作るべきではない、と言う事だろう。
「流石は山田先生……説明も分かり易い」
まあ、ISスーツに対する四季の考える疑問点は……流石に重装備にしては態々平気ですとアピールしている様な物なので仕方ないと割り切る。飽く迄ISは軍事転用可能とは言え、『競技』だ。
そんな考えを脇に寄せて、素直に真耶の事を褒める四季。この学園にいる教師の中でも一番授業が分かり易いと感じているのは本当の事だ。
「山ちゃん、詳しいっ!」
「山ピー、見直した」
「一応、先生ですからっ……って」
四季の言葉に続く様に他の生徒も賞賛の声を上げるが、思いっきりあだ名で呼んでいる。完全に友達感覚だ。普通に教師として敬意を払っている四季の後なだけに余計に目立ってしまう。
「山ちゃん!? 山ピー!? あのー……先生をあだ名で呼ぶのはちょっと……」
「えー。いいじゃん、いいじゃん」
「まーやんは真面目っ子だなあ」
(いや、そう言う問題じゃないだろう)
尚も友達感覚の生徒達に頭を抱えたくなるが、真耶の態度もそれを助長させているのだろうと思う。……教師としての威厳が薄いのだ。
四季が助け舟を出す事は簡単だが、下手をすればそれで余計に彼女の教師としての威厳を損ねてしまう恐れがある。コレばかりは生徒と言う立場上、助けることが出来ない。
(こう言う時どうすれば良いんだ……? 教えてくれ、詩乃)
心の中で最愛の恋人に助けを求めるが、私に聞かないでと言われるのは間違いないだろうと思う。
「とっ、兎に角ですね! 五峰くんみたいに、ちゃんと先生とつけてください! 分かりましたか? 分かりましたね!?」
『ハーイ』
(ハーイって返事だけなんだろうな……。まあ、慕われているって事は間違いないからな)
後は真耶の教師としての成長に期待するしかない。と心の中で合掌しつつ、将来的には立派な先生になってくれる事を祈るのみだ。
まあ、ISへの適正も含めた狭き門を潜って入学した生徒は代表候補生や国家代表を除けば、一般生徒も十分にエリートと言える域に有るのは間違いない。そんな彼女達にとってはどうしても教師としての威厳の薄い真耶は友達感覚の域を出ることが出来ないのだろう。
それなりに眼に見えた実力を見せる事が出来れば話は別だが。
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小説二巻の内容に突入の第二章です。 この作品はpixivと自サイトでも連載しています。 |
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