本編補足 |
専横
C1 玉座
C2 提案
C3 曲者
C4 国家論
C5 無いもの
C1 玉座
ゼウステス王国首都ウラヌス。オリンティア宮殿玉座の間。右に並ぶゼウステス領共同統治官で武官を束ねるフテネにダーレーモガー、サホテンカを筆頭に並ぶゼウステス領の武官達、左側にはゼウステス領共同統治官で文官を束ねるディライセン・クライガンにアンガーフィールドにダーダーヴァを筆頭に文官達が並ぶ。軍靴の音を響かせて現れるゼウステス領武断派部隊のキャンサーの女隊長カルキスを先頭に続く隊員達。彼らは赤絨毯を進み、玉座の前で跪く。蟹の装飾が施された兜を脱ぐカルキス。セミロングの金髪が、日の光を浴びて煌めく。一歩前に出るフテネ。
フテネ『よく戻った。して、首尾は?』
フテネの方を向いて頷くカルキス。
カルキス『はっ!上々であります。貴族連合はゼウステス領におけるフテネ様とディライセン様の共同統治を許すと。』
口角を上げるフテネ。顔を見合わせ笑顔になる一同。歓声が上がる。
ダーダーヴァ『これでこの国の置かれた危機的状況は回避できましたね。』
頷くゼウステス領の文官A。
ゼウステス領の文官A『まったくだ。これから…いや、今日からがこのゼウステス領の正念場だ。』
フテネは腰に手を当て、玉座に向けて歩く。
フテネ『流石は我がゼウステスの武官。』
フテネは玉座の肘当てに手を掛ける。
フテネ『この度の働き真に見事であった。』
フテネは玉座に座り、カルキスを見下ろす。
フテネ『カルキス。良くやった。』
眼を見開き、唖然とする文官達。頭を下げるカルキス。一歩前に出るゼウステス領の女文官コーリキー。
コーリキー『何をやっているのですか!フテネ様!』
頬杖をついてコーリキーを見るフテネ。
フテネ『何を言っている?この小娘は?』
コーリキーは握り拳を震わせてフテネを睨む。
コーリキー『そこは王の御座にございます!』
フテネを睨み付けるゼウステス領の文官達。立ち上がり、剣の柄に手をかけるカルキスとキャンサーの隊員達と
フテネの副官ダーレーモガーと女会計係のサホテンカを筆頭にするゼウステス領の武官達。フテネはコーリキーを向いた後、鼻で笑って立ち上がる。
フテネ『ああ、丁度良い所に椅子があったと思ったら、なんとまあ玉座だったか…。』
眉を顰めるゼウステス領の文官達。
フテネ『私はこの国を束ねる共同統治官の一人だ。なぜ、この玉座に座ってはならん!』
眼を見開き、眉を顰めるコーリキー。彼女は下を向く。
コーリキー『それは…。』
立ち上がるフテネ。
フテネ『王族の血が流れていないからか?王族の娘を娶っていないからか?確かにそうだ。』
マントを靡かせ一歩前に出るフテネ。
フテネ『だが、私とここにいるクライガンは…ゴホンッ。ディライセン・クライガン殿はこの国の共同統治官として貴族連合に認められた!どうしてこの椅子に座れぬことがあるか!』
フテネはディライセン・クライガンに目くばせする。
フテネ『のう、ディライセン殿。』
眉を顰め、頷くディライセン・クライガン。歯ぎしりするコーリキーを見下ろすフテネ。
フテネは2、3回頷くと玉座を蹴り飛ばす。
フテネ『座る者の居ない椅子など無用の長物だ!』
フテネは赤絨毯の上を転がる玉座を見下ろした後、ゼウステス領の文官達の方を向く。
フテネ『撤去しておけ!』
高笑いをしながら去って行くフテネ。続くゼウステス領の武官達。顔を見合わせるゼウステス領の文官達。
C1 玉座 END
C2 提案
朝。ゼウステス王国首都ウラヌス。壮麗な武具に着飾った武官達と兵が厳重に配置されているオリンティア宮殿を見上げ、眉を顰めるゼウステス領の文官達。
ゼウステス領の文官A『…なんという厳重な警護だ。』
ゼウステス領の文官B『それにあの装飾は王族にしか許されておらん。』
アンガーフィールド『まるで王様きどりだ…。』
顔を見合わせるゼウステス領の文官達。
ゼウステス領の文官C『…この国の基本方針をまとめるということだが、嫌な方向へ流れそうだな。暴君は排除したのに…。』
ゼウステス領の文官Cを見て頷くダーダーヴァ。
ダーダーヴァ『…ああ。しかし、ディライセン殿は大丈夫か?我々より早く出発したようだが…。』
頷くゼウステス領の文官C。
ゼウステス領の文官C『最悪な事態になってなければ良いが…。』
ドラの音。
オリンティア宮殿の門が開き、中へ入って行くゼウステス領の文官達。
ゼウステス王国首都ウラヌス。オリンティア宮殿玉座の間。扉が開き、現れるゼウステス領の文官達。壮麗な椅子に座るフテネ。その横に立つディライセン・クライガン。右にダーレーモガー、サホテンカを筆頭に並ぶゼウステス領の武官達。フテネを睨み付けるゼウステス領の文官達。一歩前に出るアンガーフィールド。立ち上がるフテネ。
フテネ『おいおい。何を怖い顔をしている。んっ?』
フテネは壮麗な椅子の方を向いた後、文官達の方を向く。
フテネ『ああ、この椅子か。これは我らが購入した椅子だ。お前らが言う王族の椅子は撤去したが、座るものが無ければ不便でな。玉座ではない。安心しろ。』
一歩前に出るゼウステス領の女文官コーリキー。
コーリキー『詭弁を!』
首を傾げるフテネ。
フテネ『これは武官である俺の私物だ。文句があるのか。それとも俺の私物に座ってはいけない法律があるとでも?』
コーリキー『そこに座れば王族に間違えられます。』
フテネ『確かにそうだが、誰が統治しているのかは分かりやすい方がいい。他国に迷惑だと思わんのか?』
椅子を叩くフテネ。
フテネ『ディライセン殿も座れるように長椅子だ。』
歯ぎしりするコーリキー。フテネは鼻で笑い、壮麗な椅子に腰かける。
フテネ『さて、どうでもいいことに時間を費やした。この国の基本方針を発表する。』
一歩前に出るゼウステス領の文官A。
ゼウステス領の文官A『待て!発表と言えど、我らは賛同していないぞ。』
眉を顰め、ディライセン・クライガンの方を向くフテネ。一歩前に出るディライセン・クライガン。
ディライセン・クライガン『我々は発表を聞いてから論議する。』
ゼウステス領の文官達を見つめるディライセン・クライガン。
ディライセン・クライガン『文官でありながら他人の意見を聞かぬ耳を持たないわけではあるまい。』
頷くゼウステス領の文官達。ディライセン・クライガンの方を向き、頷くフテネ。
フテネ『では、発表する。一つ目、技術革新。二つ目、医療の充実、三つ目、教会の再建。以上だ。』
眉を顰め、顔を見合わせるゼウステス領の文官達。
眉を顰めるフテネ。
フテネ『何だ?その狐につままれたような顔は…。』
一歩前に出るアンガーフィールド。
アンガーフィールド『いや、あまりにも真っ当だったので。』
立ち上がり、苦笑いするフテネ。
フテネ『フン、俺も国を憂う一人の人間だ。できる限りのことはする。』
アンガーフィールド『そういうことならば協力しましょう。』
C2 提案 END
C3 曲者
朝。ゼウステス王国首都ウラヌス。公道をスクーターで進むダーダーヴァ。街頭のテレビが映すグリーンアイス連邦書記長でグリア都市国家代表のバルコフ・スターリングとフテネが握手をする映像。ダーダーヴァはテレビに映る映像を見た後、正面を向く。
ゼウステス王国首都ウラヌス。駐輪場にスクーターを止めるダーダーヴァ。近づくゼウステス領の文官A。
ゼウステス領の文官A『ダーダーヴァどの。』
ゼウステス領の文官Aの方を向くダーダーヴァ。
ダーダーヴァ『おお、これはこれは。』
ゼウステス領の文官A『見ましたか。あの猜疑心の強いバルコフ・スターリングが技術士官をよこすとは…。』
眉を顰め、頷くダーダーヴァ。
ダーダーヴァ『まあ、そうですな。』
顎に手を当てるゼウステス領の文官A。
ゼウステス領の文官A『何か企んでいるのかもしれない…。』
頷くダーダーヴァ。二人はオリンティア宮殿に向かう。
ゼウステス王国首都ウラヌス。オリンティア宮殿玉座の間。壮麗な椅子に座るフテネ。横に立つディライセン・クライガンとクローン研究者で眼鏡をかけたキツネ人のクレイジ・イカレトールとその助手のクローンでキメラ少女のエキノコに
神官のトケルマーダー。右に並ぶダーレーモガー、にサホテンカを筆頭とする武官達。左にはアンガーフィールド、ダーダーヴァ等の文官達が並ぶ。文官達はトケルマーダーを見つめ、眉を顰める。立ち上がるフテネ。
フテネ『まずは俺からの報告だ。グリーンアイス連邦に行き、技術士官を借り入れることができた。』
一歩前に出るクレイジ・イカレトール。
クレイジ・イカレトール『グリーンアイス連邦グリア都市国家の技術士官クレイジ・イカレトールであります。以後お見知りおきを。』
クレイジ・イカレトールを見つめ、頷くフテネ。
フテネ『彼らには我が国の技術の向上の為に働いてもらう。』
拍手の音が鳴り響く。一歩前に出るコーリキー。
コーリキー『フテネどの。』
眉を顰めるフテネ。
フテネ『またお前か。何だ。』
コーリキー『この場に、なぜ神よりも金に仕える、金の走狗トケルマーダーがいるのですか。』
コーリキーを見た後、トケルマーダーの方を向くフテネ。一歩前に出るトケルマーダー。
トケルマーダー『あいっと。金の走狗とは随分な言われようですな。わしはこれでも、多くの教会を再建してきたのですぞ。』
一歩前に出るアンガーフィールド。
アンガーフィールド『箱物と建築業者はな…。だが、信仰はとりもどしていない。』
トケルマーダー『信仰する対象、いやはや心のよりどころである偶像がなければ、人は信仰すら忘れますぞ。それに、これは教国からの直属の命令であり、もし、不満がありゃ、教国に文句を言えばいいじゃろ。ほっほ。』
トケルマーダーを睨み付けるゼウステス領の文官達。
フテネ『さて。』
フテネはトケルマーダーとクレイジ・イカレトールに目くばせする。去って行くトケルマーダーにクレイジ・イカレトールとエキノコ。
フテネは座り、武官と文官達を見回す。
フテネ『これからがこのゼウステス領の再建の時である!まずは生活保護等の全ての支援金…ばらまきを廃止する!』
目を見開くゼウステス領の文官達。フテネを睨み付けるアンガーフィールド。
アンガーフィールド『廃止などできん!弱い立場に立った人間に人としての生活を送る権利を蹂躙することなど言語道断だ!』
鼻で笑うフテネ。
ステネ『…金をばら撒いたところで彼らの生活状態が改善されたという報等、今まで受けたことも無いが。』
立ち上がるフテネ。
フテネ『金をばらまけば子供がニョキニョキ生えて来るのか?ああ、金をばらまけば優秀な子が育成されるのか!そんな便利なものか?金は!!』
歯ぎしりして後ずさりするアンガーフィールド。
フテネ『国民に金を支払ったところで、問題は何一つとして解決しない!金を払うよりもしかるべき機関が必要だ!そうは思わんのか!!』
フテネを見つめるゼウステス領の文官達。
アンガーフィールド『…確かにフテネどのの言うとおりだ…。』
頷くフテネ。
フテネ『ふん。では、全ての支援金を廃止する。受け取っていた者のリストは我々が使う。』
眉を顰めるゼウステス領の文官達。
フテネ『どうしたその顔は、しかるべき機関は我々、武官が統治する。』
ダーダーヴァ『なっ…。』
一歩前に出るアンガーフィールドにコーリキーとゼウステス領の文官多数。
アンガーフィールド『そんな重要な機関を武官だけに統治させることはできません!』
眉を顰めるフテネ。彼は右へ歩く。
フテネ『ああ言えばこう言う。こう言えば、ああ言う。お前らはこの俺に賛同できんのか。』
コーリキー『賛同できないということではありません。もっと話し合うべきです!』
背を向けるフテネ。
フテネ『時は金なり…。』
フテネはため息をつき、ダーレーモガーに目くばせする。ダーレーモガーは頷き、武官達が剣を抜き、アンガーフィールドにコーリキーとゼウステス領の文官多数を取り囲む。口を開け、一歩前に出るディライセン・クライガン。
アンガーフィールド『フテネ!貴様!!』
ディライセン・クライガン『フテネ…。』
フテネ『こいつらは俺の意見に賛同できん。賛同できんということは頭がおかしいから賛同できないのだ!精神を病んでいる奴らには病院と教育が必要だ!』
ディライセン・クライガンの方に手を向けるフテネ。
フテネ『おい。他の文官共も抵抗するなら捕らえるぞ!』
後ずさりするディライセン・クライガンとゼウステス領の文官達。連行されていくアンガーフィールドにコーリキーとゼウステス領の文官多数。
C3 曲者 END
C4 国家論
朝。ゼウステス王国首都ウラヌス。街を歩くダーダーヴァ。血走った目でオリンティア宮殿に向かい万歳する民衆。
民衆A『へへ…へへへ。フテネ様万歳!フテネ様万歳!!』
民衆女A『ひ、ひひひ、ひひ。フテネ様万歳!フテネ様万歳!!』
眉を顰めるダーダーヴァ。彼はため息をつく。
民衆達『フテネ様万歳!!!フテネ様万歳!!』
町中の至る所から響く声。
昼。ゼウステス王国首都ウラヌス。オリンティア宮殿。玉座の間。壮麗な椅子に座るフテネ。隣には眉を顰めるディライセン・クライガン。右にはダーレーモガー、サホテンカを筆頭にしたゼウステス領の武官達。左に並ぶダーダーヴァ等のゼウステス領の文官達。フテネは文官達を見つめ満面の笑みを浮かべる。
フテネ『今日、お前らを呼んだのは他でもない。俺を糾弾した頭の狂った連中の矯正が終わった。』
眉を顰めるダーダーヴァ等のゼウステス領の文官達。
フテネ『連れて来い!』
頭を下げ、駆けていくゼウステス領の武官A。顔を見合わせるゼウステス領の文官達。靴音。扉が開き、現れる半笑いしたアンガーフィールドにコーリキーと捉えられたゼウステス領の文官多数。彼らはフテネを見ると目を血走らせて両手を上げる。
アンガーフィールドにコーリキーと捉えられたゼウステス領の文官多数『ひっひ、フテネ様万歳!フテネ様万歳!』
顎に手を当て、笑みを浮かべながら彼らを見下ろすフテネ。一歩前に出るディライセン・クライガン。
ディライセン・クライガン『彼らに何をした!』
ディライセン・クライガンの方を向くフテネ。
フテネ『何を?矯正だ。病院にぶち込んで、脳の不要な部分を除去して、教会で再教育してもらっているだけだが。』
フテネを睨み付けるディライセン・クライガンとダーダーヴァ等のゼウステス領の文官達。
ディライセン・クライガン『フテネ!お前という奴は…。』
ディライセン・クライガンを見据えるフテネ。
フテネ『おい。文官の癖にまだ状況が分かっていないらしいな。俺に逆らう奴は全員矯正する…。病院にぶち込んで脳をちょんぎってな!』
ディライセン・クライガンはフテネを睨み付けながら後ずさりする。正面を向くフテネ。扉が開き、現れるゼウステス領の武官B。
ゼウステス領の武官B『フテネ様!クレイジ・イカレトール殿が参っております。』
ゼウステス領の武官Bを見下ろすフテネ。
フテネ『そうか。すぐに通せ。』
ゼウステス領の武官B『はっ!』
駆けていくゼウステス領の武官B。顔を見合わせる文官達。扉が開き、現れるクレイジ・イカレトールとエキノコ。
彼らはフテネの前まで来て跪いた後、周りを見回す。
クレイジ・イカレトール『お取込み中のところ失礼します。』
フテネ『ほう。それでここへ来たということは…。』
頷くクレイジ・イカレトール。
クレイジ・イカレトール『フテネ様。クローン製造工場は完成いたしました。いつでも稼働できます。』
一歩前に出るディライセン・クライガン。
ディライセン・クライガン『クローン!そんな話は聞いていないぞ!』
フテネ『ふん。』
フテネはディライセン・クライガンを睨み付ける。
フテネ『何か文句があるのか?』
アンガーフィールドにコーリキーと捉えられたゼウステス領の文官多数を見つめ歯ぎしりするディライセン・クライガン。
フテネ『愛という気まぐれで優柔不断なもの等に国家を担う子供たちの出生を委ねることはできん!状況で燃え冷めする愛などで形成された欺瞞で不誠実な家庭などに国を背負う子供の育成は任せられん!欠陥品はいらん!国が富、栄える為には生産、医療、教化が必要だ!』
フテネを見つめた後、俯くダーダーヴァ。
C4 国家論 END
C5 無いもの
夜ゼウステス王国首都ウラヌス。黒いコートを被り、オリンティア宮殿を見上げるダーダーヴァ。
ダーダーヴァ『もはやこの国は…お終いだ。』
彼はオリンティア宮殿に背を向け去って行く。
夜ゼウステス王国国境付近を走るダーダーヴァ。茂みから出て、彼を取り押さえるアウトローA。ダーダーヴァはアウトローAの方を向く。口に人差し指を当てるアウトローA。馬に乗ったゼウステス領の武官達が駆け去る。顔を見合わせるダーダーヴァとアウトローA。
アウトローA『街道を行くんじゃ自殺行為だぜ。』
眉を顰めるダーダーヴァ。
アウトローA『今までも多くの奴らが国境を越えようとして…。』
前方を指さすアウトローA。
アウトローA『あのざまだ。』
前方に並ぶ首をくくられた人々の死体。
ダーダーヴァ『そんなに逃げているのか。』
頷くアウトローA。
アウトローA『ああ。もうフテネのやり方についていけないってよ。』
頷くダーダーヴァ。
アウトローA『あんたも国境を越えるのか。』
頷くダーダーヴァ。
アウトローA『そうか。いい道があるついてきな。』
立ち上がるダーダーヴァとアウトローA。
早朝。ゼウステス王国国境付近の森の中を進むアウトローAとダーダーヴァ。
アウトローA『ふう。ここまでくればいいだろう。連中も国境越えの数人の為に大事な鎧を汚しはしねえよ。』
ダーダーヴァ『そうか。ありがたい。』
アウトローA『いや、いいってことよ。俺もゼウステス領から出たかったからな。』
ダーダーヴァ『そうか。』
アウトローA『これからどうする?』
ダーダーヴァ『近隣の王国の街に行くか…。ともかく安全な所に一時身を隠す。』
首を横に振るアウトローA。
アウトローA『安全な場所なんぞねえぞ。何処もいつ戦火に巻き込まれてもおかしくない状況だ。偽王子が火種を落とし、ゼウステスの奴らがそれを煽った…。』
俯くダーダーヴァ。
アウトローA『まあいい。』
朝日が昇り、ダーダーヴァとアウトローAを照らす。
アウトローA『兎に角、一番初めの街に…。』
アウトローAはダーダーヴァの衣装を見回すと立ち上がり、ダーダーヴァを袈裟懸けに斬る。ダーダーヴァはアウトローAを見つめて斬られた場所から血をまき散らしながら倒れる。ダーダーヴァを見下ろすアウトローA。
アウトローA『あんたは実に運が悪い。金目のものを一人でそんなにもっているからこうなる。』
口から血を流し、を開閉するダーダーヴァ。
アウトローA『ああ、まだ生きているのか。すまんな旦那。俺はあんたに情を感じたがやはり無理だった。俺は、戦火で全財産失って、妻も子も流行病で死んだんだ。死のう、死のうと思って飢餓の淵を彷徨って、ある家の食い物を見た時に…それに必死にかぶりついていた。その時、ああ、俺は生きているんだ。生きるってなんてすばらしい事なんだって、死んだ妻と子のことも忘れて食い物を頬張っていたよ。…愛ってなんなんだろうな。情ってなんなんだろうな。本当は無いのにあると思い込まされているだけに過ぎないのかもな…。』
ダーダーヴァの瞳孔が開く。
C5 無いもの END
END
説明 | ||
・必要事項のみ記載。 ・グロテスクな描写がございますので18歳未満の方、もしくはそういったものが苦手な方は絶対に読まないで下さい。 ・心理的嫌悪感を現す描写が多々含まれておりますのでそれういったものが苦手な方は絶対に読まないで下さい。 |
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