12話「白き狩人」
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ドゥル城、謁見の間。その玉座に座るはガイ達との戦いで受けた傷がまだ癒えていないクルティスだった。刺突と火傷、両方による深い傷のため僧侶による治癒魔法でも完治に時間がかかっている。だが彼が気にしているのは別の事だった。

『貴方は現実から目を逸らして子供のように喚くだけなの?』

『端から100人の犠牲も助ける事を諦めてる時点でテメエは負けを認めてるんだぜ?』

レイナ、そしてガイの挑発がクルティスのプライドを痛く傷つけていたのだ。身体の傷など大した問題ではない程に。そんな様子をクローチェが傍らで見ている。

「ガイラルディア様の言葉が効いたようですな」

「黙れ!!!!俺は負けてなどいない…!!あんなヘラヘラした男に劣るわけなどないのだ!!!」

挑発的なクローチェの笑みがクルティスのますます逆鱗に触れている。クローチェはそれをわかっている節があった。しかしここで彼を怒鳴りつけても何かが変わるわけではないと無理矢理平静を取り戻す。

「…して、皇帝の様子は?」

「もう父とは呼びませんか…」

クルティスの目つきが険しくなる。抑えきれていなかった怒りがにじみ出ている。

「皇帝の様子はどうだと訊いている」

「相変わらずですよ。様子を見に行かれますか?」

「そうだな……」

痛む肩を押さえながら玉座から立ち上がるクルティス。クローチェを伴い謁見の間を後にした。

 

皇帝は地下牢の中でも一番奥の特別幽閉室に何年も前から監禁されていた。そのため、ドゥル全軍の実権は全てクルティスが握っている。実質既に皇帝になっているようなものだが皇帝なしで戴冠式を行う事ができず、この式なくして正式に皇帝を名乗る事は許されていない。

牢に閉じ込められている皇帝―ラインホルト。かつては名うての騎士として大変腕が立ったが老いと長年の監禁により力は大分衰えていた。1日1個のパンと1杯の水しか与えられないせいか今や外見もその頃の面影はなくすっかり痩せこけてしまっていた。

「父上…いや、陛下……」

「クルティス……!!!」

この親子が顔を合わせるのは数週間ぶりだった。

「まだ頭は冷えませんか…?」

「お前こそ頭を冷やしなさい!!そんな力に頼っていては国を滅ぼしてしまう…そしてお前自身も……!!!」

ラインホルトは格子を掴み必死に息子への説得を試みるがクルティスの冷徹な眼差しが変わる事はなかった。

「ならば今すぐ皇位をガイラルディアなどではなくこの私に継承し、戴冠式を行って頂きたい」

「そうか…ガイラルディアは生きているのか…」

安堵に旨を撫で下ろすラインホルト。この牢に監禁されてから一度も安堵など味わった事はなかった。

「ならば尚更お前に皇位は譲れん…」

「何故です、今のあの男に皇子だった頃の記憶などない…そんな無能に貴方は国を任せると仰るのですか?」

「クルティスよ…お前のやり方では民はいずれ離れて行くだろう…それだけではない……お前の身体も心配だ……」

「ふざけるな!!!!!!!!!!!!!!!!!」

クルティスの怒り、憎しみ、全ての負の感情が溢れんばかりの怒号は地下牢全体に響いた。

「病を患っている男に国は任せられないとはっきり言えばどうだ!?貴様のその偽善がどれだけ俺を…………」

突如言葉を止めてラインホルトから背を向け壁の前まで駆け寄るクルティス。

「くっ…かはっ……!!ゴホッゲホッ!!!」

そして口を押さえながら激しく咳き込む。数秒後、咳が治まった時口を押さえていた手は多量の血で汚れていた。そして口元からも一筋の血が垂れている。にも関わらず傍で全てを静観しているクローチェが顔色を変える事はなかった。

「クルティス…無茶をするんじゃない…お前には少しでも長く生きていて欲しいのだ…」

「なめるな…!『この力』さえあれば病など問題ではない…!!行くぞクローチェ」

「はッ」

地下牢を出る時、クルティスが父の方を振り返る事はなかった。

「待ちなさい…!!お前の病は進行しているのでは………!!!!」

ラインホルトの呼びかけも虚しく地下牢に響くだけだった。

 

ガイ達を乗せた船がプント港に到着するのには3日程かかった。マルク―ポンド間より遥かに長い距離を航海していたのだ。港に降りるや、

「ぎええええ!!!寒いいいいいい!!!!」

毛皮の防寒具を身につけているにも関わらず、あまりの寒さに絶叫を上げるのはやはりジェリーダだった。彼に至っては髪が短い事もあり毛糸の帽子までかぶっているのだが。

辺りは完全に雪景色だった。この国では1年中ずっと雪が積もっているのだ。

「バカ、寒い時こそ暑いって言えよ。寒い寒い言われると余計寒い!!」

「お前の言ってる事がまず寒いよ!!」

またバカな喧嘩を…レイナは下らない言い争いを繰り広げるガイとジェリーダを見て今この場が寒い事すら忘れてしまう程呆れていた。港を出ると決して都会と呼べる程ではないがそこそこに広い町だった。おそらくグルデより一回り広いくらいだろうか。

「鼻水出てんぞ?王子様…」

歯をガチガチ鳴らしながら横目に鼻水を垂らすジェリーダを一瞥するガイ。

「マジで?」

「ああ、絵に描いた鼻たれ小僧だ」

寒さを紛らわしているのか、とにかくガイもジェリーダも何かしら喋るよう努めていた。この後の予定としては東のクローナ王都を目指す事になるのだが、それには王都とこの町の間に塞がる『ストリームバレー』という年中嵐に見舞われている谷を通らなければならないと町の人間から情報を得ていた。

「え?現在ストリームバレーは通行禁止?」

町の出入り口で3人は意外な足止めを食う事となる。ストリームバレーへの通行禁止令、それを教えてくれたのは町の入口に立っていた少女だった。歳の頃はジェリーダと同じくらいか少し上か。

「うん。オーガが谷をうろついているって目撃情報があったの」

少女はオーガについて色々教えてくれた。棍棒に緑色の身体持った巨人型の魔物で知性が並の魔物より高い。

「でも変なのよね…本来オーガはこの時期なら冬眠している筈なのに…」

「雪原で冬眠って…どういうこった?」

それなら年中冬眠じゃないか、ガイは心の中でそう突っ込む。

「こんな雪原でも季節はあるのよ。他所から来た人は年中冬じゃないかって言うけどね。夏には雪がべちょべちょになって重くなるし近くの湖の氷も少し溶けるんだ。今は冬だから1年の中でも特に寒いけど雪はさらさらしてるから比較的軽くて歩きやすい筈だよ」

「成程…でも、困ったわね。ストリームバレーが通れないとなると…」

眉間に皺を寄せながら考え込むレイナ。流石にこればかりはどうしようもないという結論にしか達しない。

「でも大丈夫だよ。もうすぐ解除されると思うから」

「何でだ?」

ジェリーダが不思議そうに問う。

「自警団の人達が討伐に行ってるの。隊長以外は不真面目だけど腕は確かな人達だもん、きっとオーガが倒されるのは時間の問題だと思うな」

「じゃ、行くか」

ガイが町の外に向かって歩き出すとレイナも無言でその後をついて行く。

「ちょ、待てって!その自警団って奴らが倒してから行こうぜ!?」

しかしジェリーダは反対意見だったがガイもレイナも聞く耳を持っていなかった。

「そうだよ!やめた方がいいって!!」

少女も一緒になって2人を止めるが…

「わ…わかったよ!!行けばいいんだろ!!!」

ジェリーダまでもが腹を括り3人は町を出て行った。

「怒られても知らないよーッ!!!!」

叫ぶ少女の声が耳に入るのは渋々承知したジェリーダだけだった。聞く耳も持たされなかったが。

 

東へ進むにつれて次第に吹雪が強くなり視界も悪くなる。3人固まって動いていても大声を出さなければ互いの声が聞こえない程吹雪の空気を切り裂く音も強い。やがてストリームバレーに着いたのか、洞窟らしき入口を発見する。3人は急いで洞窟の中に入ると頭や防寒具にこびりついている雪を払い落とした。

「ひっでぇ雪だった…」

まだ吹雪き続けている外を見ながらうんざりと項垂れるジェリーダ。あの猛吹雪から逃れたためか洞窟内は少し暖かく感じた。

「ねぇ…これ、どういう事だと思う?」

突如レイナがあるものを指差して何かを問いかける。彼女の指差す先にあったのは血まみれなって無残に倒れている熊型の魔物だった。頭が殆ど潰れている。何か大きな鈍器で、それもかなり力を入れて殴らない限りこうはならないような潰れようだった。

「自警団じゃ…ねぇの?」

ジェリーダが苦笑いを更に引きつらせる。今にも悲鳴を上げてしまいそうだった。

「もしくは…オーガか?」

ガイは物言わぬ魔物の前に片膝でしゃがみ込み、一番考えたくない可能性を口にした。

「その可能性の方が高いかもね。人間の力でここまでやるのは無理だと思うわ」

レイナも一緒になって魔物の潰れた頭を凝視し始めた。

「うええ…そんなバカみたいな力持ってんのかよオーガって……」

魔物の死骸に完全に怯えるジェリーダだが、その前にガイが歩み寄り人懐こく笑う。

「ま、何とかなるだろ!自警団が先行してんなら3人だけで戦う必要もねぇしな!」

「あ、ああ…だといいけど」

死骸をそのままに先に進む3人。しばらく洞窟内を進むと遠くからかすかに人間のものと思われる悲鳴が聞こえてきた。

「今の…!!」

ジェリーダにも聞こえていたらしくこの先にあるものを想像して顔が青ざめる。

「思ったより厄介事かもねぇ…」

ガイも顔を引きつらせるが後には引けないと判断し、3人は悲鳴が聞こえた方へと走って行った。

 

洞窟内には広い場所があった。今そこに対峙している明らかに大きさに差がある影が2つ。1つは中背で焦げ茶色の髪に白い毛皮のマントを羽織り両手に金属製の爪をはめた女性のような顔立ちの少年、そしてもう1つは…緑色の5メートルはあるだろう巨体に人間くらいのその少年の身長くらいはある血のついた棍棒を持った魔物…オーガだった。そして少年の周りには数人の男性の無残な遺体が転がっている。

「くっ…!!」

少年もまた無傷ではなかった。こめかみと口元から血が垂れていてマントもぼろぼろに汚れている。足にも怪我をしているのかその足元にも血が滴り落ちている。

刹那、オーガが血まみれの棍棒を少年に向かって振る。

「……ぐっ……!!」

少年はそれを上に飛んで避けようとしたが飛び上がる軸になる左足に激しい痛みが走り回避が遅れた。

「ぐあっ……!!!」

オーガの棍棒をもろに鳩尾に喰らった少年な吹き飛ばされ背中から壁に激突し、そのままうつ伏せに倒れた。オーガの攻撃はそれだけにはとどまらなかった。どすどすと歩み寄り、少年の背中を思い切り踏みつけた。

「うあああああああっ!!!!!!!」

ミシミシと肋骨に罅が入る音と共に絶叫する少年。もう立ち上がる力は残っていなかった。

オーガが少年から足を離し、今度は頭をめがけて棍棒を振り下ろそうとした時、

「ッ…?」

オーガの真っ赤に染まった棍棒が少年の頭を潰す事はなかった。

「くそっ……なんて力だっ……!!」

間一髪の所でそこにガイが駆けつけ棍棒を剣で受け止めたのだ。その両腕はジェリーダの魔法により強化されている。レイナとジェリーダもその場に追いついた時、この少年は意識を失った。

次の瞬間、ピキピキと何かに罅が入る音が響く。ガイはその音の原因を見て我が目を疑った。剣の刀身の中央に罅が入っていたのだ。そして剣が折れるまでに時間はかからなかった。

何かを考えている暇はなかった。ガイは倒れる少年を脇に抱え折れた剣の事は諦めてオーガから離れた。

「ずらかるぞ!!!」

3人は少年を連れてオーガから辿って来た道へと逃げて行った。

 

無我夢中に走り続け、やがて洞窟の入口まで戻る。3人は先程の熊の魔物の死骸を見ないようにして意識を失った焦げ茶髪の少年を地面に仰向けに寝かせた。

「どう?」

「わかんねぇ…!!」

ジェリーダが少年の治療を始める。身体の所々に傷を作り肋骨も数本折れているだろう。

「けどここに長居はできねぇだろ…人1人担いで戦えねぇし、ガイも剣折られちまったし…」

「まぁ…な」

とりあえず少年の応急処置だけ終えて3人は彼を連れてプントの町へ戻って行った。途中の魔物は炎が弱点の敵ばかりなのでレイナの魔法で対処しきれた。

 

町に戻ると入口付近にいた人々が心配そうに3人のもとに駆け寄って来た。いや、正確にはガイが抱きかかえている少年を心配して。

「ケインくん!!!」

最初に声をかけたのは入口付近で3人に色々な事を教えてくれた少女だった。

「隊長〜!!!」

戦士や格闘家、狩人風の男性達―自警団員が数人駆け寄る。

ケインと呼ばれた少年はそのまま治療院に運ばれそこの僧侶たちによる治療を受けた。

「ふぅ…何とか一命は取り留めました。皆さんにお礼申し上げます」

細身の中年男性、この治療院の院長が3人に深々と頭を下げる。

「よかった…ふえええんケインくんが死んじゃったらどうじようがど思っだよおおお!!!」

先程の少女も同行していて、安心と共に号泣し始めた。

「あんたらには感謝の言葉が思いつかねえ!!俺らの隊長ちゃんが生きててよかった…!!」

自警団員達もまた3人に頭を下げるばかりだった。

「いや…助かってよかったけど…隊長って、この女の子みてぇな顔した兄ちゃんがかい?」

ガイが困惑した様子でまだ目が覚めない少年―ケインの顔を親指で指す。

「ええ。ケインくんはこのプントの町の自警団の隊長なのです」

代わって答えるのは院長だった。

「へぇ…」

世の中わからないものだ。今この場にいる他の自警団員は明らかにこのケインより体格が良く年上の男性ばかりだった。まぁ見た目以上の力を持っているのだろう、ガイはそう考えた。

「ん……」

ゆっくりと目を開くケイン。その瞬間を見た少女や隊員達、寺院の僧侶達が一斉に彼の周りに集まる。

「隊長ちゃあああん!!!」

隊員達が男性とは思えない程の号泣を始める。

「ここは……」

事態が飲み込めていないのか、ケインは今自分がどういう状況の置かれているのは把握できずにいた。

「皆さん落ち着いて下さい…」

院長がその場の全員を優しく諭すと少女や隊員達はひとまず泣き止んだ。

「ケインくん、君は瀕死の重傷を負っていたのです。ストリームバレーで何があったのはかまだ窺っていませんがこの方達が君を助けてくれたそうですよ」

と言ってガイ達3人の方を指し示す院長。

「助け……そうか…俺はオーガにやられて……」

ケインは身体を起こし、右手で額を覆いながら自分がオーガに殺されかけていた事を思い出した。とどめを刺されそうになったが間一髪の所で何者かに救われた、それが今目の前にいる3人なんだと理解するのにさして時間はかからなかった。

「まずはお礼ですよね…ありがとうございます…」

深々と頭を下げるケインだが、その表情には陰りがあった。それも仕方のない事だろう、オーガの討伐に一緒に出た仲間達は全員殺され生き残ったのは自分だけなのだ。

「自己紹介…まだでしたね…俺はケイン・クレイスと申します……」

「だ、大丈夫か?」

依然、暗い表情のままケインを心配するガイ。怪我も完治していないのもあり、見ていてかなり痛々しいのだ。

「行かなきゃ…オーガを…倒さなきゃ……」

ケインは思い詰めた表情でベッドから降りるが

「痛っ……!!!」

完治していない全身の傷の痛みにその場に片膝をついた。

「無茶したらダメだよ!!」

「そうだぜケインちゃん!そんな身体で……!!」

集まる人々の心配を制止し、ケインは尚も立ち上がろうとした。

「大丈夫です…彼らの仇は…俺が……っ!!」

「おやめ」

一言でケインを制止するのはレイナだった。

「今貴方がそんな怪我をしているのは何故?そのオーガに勝てなかったからでしょう?力、武器を振り回すスピード、そしてその身体の大きさ…全てにおいて貴方が勝るものはないわ。力の差は歴然よ。ましてやそんな重傷で勝てると思うの?」

「それは……」

「無謀な挑戦で周囲の人達をこれ以上悲しませるべきではないわ」

反論が思いつかないケイン。結局ベッドに戻されそんな彼にかける言葉が思いつかない町の人達もガイ達に一礼してから寺院を出て行った。

「…5年も経ったのに…結局俺は…!!」

ベッドに戻ったケインは身体を起こした状態で悔しそうに拳を震わせていた。

「5年?」

頭に疑問符を浮かべながらジェリーダが聞き返す。

「……すみません、こっちの事です」

「そう…か?」

そしてその場を支配するは沈黙のみ。結局ガイ達もケインにかける言葉を失い寺院から出て行った。

 

冬のは空が暗くなるのが早い。本来ならば夕方である筈の時間なのに空はすっかり星空となってしまっていた。3人は結局先へ進めないためこの日は宿に泊まる事となった。

その一室に3人は集まる。レイナだけは本来部屋は別だが今後の話し合いもあり男子2人の部屋に来ているのだ。

「あのオーガを何とかしねぇと先に進めねぇって事か…くっそ〜…」

椅子に腰かけているジェリーダが声を唸らせながらテーブルに突っ伏す。ため息も頻繁につきながら。

「そうね。自警団の力に頼れない今、私達で何とかしなくちゃならないわね」

ジェリーダの向かいに座るレイナもまた、ふぅと弱いため息をついた。

「なぁ…」

窓辺に立つガイが窓の外の吹雪を見つめながら声をかける。

「どうしたの?」

「あのケインって奴…気のせいかもしれねぇけどわけありって感じだったな」

「わけありって?」

ジェリーダは訪ねながら自分用に置かれているホットココアに口をつけ始めた。部屋を案内された時にスタッフからドリンクサービスとして受け取ったものだった。因みにガイはコーヒーを、レイナは紅茶を頼みそれも一緒にテーブルにある。

「確かにあの場であいつ以外の仲間は皆死んでた。オーガに殺された事は明白だしその仇討ちもしてぇんだろうけど…それだけじゃねぇ気がするんだよなぁ」

「ん〜……そういや5年がどうとか言ってたな」

「だろ?」

ようやく振り返るガイ。彼もまたケインの独り言を聞き逃していなかったのだ。

「そんで、これは俺にたぎる正義の心がやれって言ってる事なんだけどよ」

「あのさ、言ってる意味がわかんねぇんだけど…」

ガイの出す意味不明な口ぶりにジェリーダは訝しげな表情を見せる。

「これね。ガイが悪人面を気にしてるって事はもうジェリーダも知ってるでしょ?」

ああまたか…そんな顔しながらレイナが説明を始めてくれた。

「ああやって自分が悪人じゃない事を主張したいみたいよ。まぁ私達に主張しても仕方ないんだけどね」

確かに…ジェリーダは心の中で呟いた。自分達はもうこのガイという男が悪人ではない事を知っているため今更主張したところで何の意味もなさないのだ。

「おっと脱線しちまったな。お前明日寺院に行ってあいつの治療手伝ってやれ」

ガイは喋りながらテーブルの前まで歩み寄り椅子に座るジェリーダの肩に手を置いた。

「別にいいけど何でだ?」

「お節介かもしれねぇが、多分あいつはオーガを倒したい理由が何かある。そんで俺達も一刻も早く王都に行かなきゃだろ?」

「オーガを何とかするためにあの子と力を合わせるという事?」

レイナの言葉にガイは不敵に笑いながら頷いた。

「そういう事。町の人間があんだけ慕ってるんだ、あいつは悪い奴じゃねぇ。それに俺、何故かあいつとは気が合いそうな気がするんだよ」

「そうかぁ?あいつ何か暗そうじゃん」

「バッカジェリーダ、それがわけありなんじゃないかって話してんだよ…」

「何だって!?ガイにバカって言われたくねー!!!」

「やめなさい」

レイナの制止によりひとまず低レベルな喧嘩は治まった。話はまとまり、本日は散会となりレイナは自分の部屋へ戻った。

 

翌日、朝一で寺院に向かうと建物から出て来るケインの姿を見る。

「皆さん、おはようございます。ちょうど良かった…」

ケインは3人の姿を確認すると安堵に表情を緩めた。

「お前、怪我はいいのか?」

お早い退院ですこと…ガイはそう心の中で呟いた。

「完治はしていませんが激しい運動さえしなければ大丈夫です。それより俺、これから皆さんを探そうと思っていた所だったのでここでお会いできてよかったです」

「へ?何で?」

不思議そうに問うはジェリーダだった。

「皆さんがあの場にいらっしゃったのは…きっと谷を越えて王都に行こうと思っていたんですよね…」

「お前、人の心の中読めるのか!?」

ケインの言う事が的を射ていたためジェリーダは恐るべし!と後ずさりながらもどこか感心し出した。

「いえ…あの先にあるのは王都くらいですから…」

「ええ、それで足止めを食らって困っているのよ」

レイナが言うとケインはああ、やっぱり…と思いながら苦笑して見せた。

「そうでしょうね。自警団でも緊急会議を開く事になっているのですが恐らくあれを何とかするのには時間がかかってしまいます。俺もこんな身体じゃなければ……!」

と、悔しそうに俯くケインだったが、本題が逸れてしまった事に気づきすぐに顔を上げた。

「皆さんも、宿代とか大変じゃないんですか?」

「それも困り要素の1つだな。ただでさえ急いでるってのに金も減ってく一方じゃ…」

ガイがうんざり気味に自分の頭をくしゃくしゃをかき回す。

「ですから皆さん、この事件が解決するまで俺の家を使って下さい。まぁあまり広い家じゃないですけど…」

驚き目を丸くする3人。

「いいのかい?迷惑なんじゃあ…」

心配そうに言うガイだがケインはそんな様子は一切見せず優しく微笑んでみせた。まるで少女のような顔で。

「いえ、気にしないで下さい。俺も命を救われたのですからお礼がしたいんです」

「そう…?じゃあ、お言葉に甘えましょうか」

3人はケインの申し出を受け入れ、彼の家に事態が落ち着きストリームバレーの通行禁止が解除されるまで厄介になる事になった。

説明
最後の主要キャラ登場です
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