14話「心から笑うその日」 |
雪国クローナ。その王都と西の港町プントを繋ぐ吹雪の絶えない谷「ストリームバレー」。本来冬眠中の筈のオーガが何故か目を覚ましこの谷をうろついて人々の通行ができなくなってしまっているのだ。それをガイ達とプントの自警団が力を合わせ討伐に挑む。
「これで何かが許されるわけじゃない…でも俺は…逃げる事だけはしたくない。だから…今日、自分の心に決着をつけます」
雪にまみれた岩場に隠れるケインとジェリーダ。他のいくつか転がっている岩にも他の自警団のメンバーが散り散りに隠れている。その場の全員がジェリーダの魔法により腕力を強化されていた。
「確かに俺達は先を急ぎたいからこの作戦を手伝ってる。でもガイはさ、お前を今の苦しみから解放してやりたいんだってさ。だから…頼むぜ」
ジェリーダが真剣な眼差しを向けるとケインは無言で頷いた。その漆黒の瞳は鋭く光り一切の曇りもなかった。
ガイ率いる部隊は敵に見つかりやすいよう、固まってその場―目標を誘い出す地点に立っていた。彼らは最も危険な役割「囮部隊」なのだ。
「しかしあの姉ちゃん、考えたもんだな」
「こんなクソ寒い場所で冷気魔法なんて考えもしなかったぜ」
「オーガもその辺は慣れてるだろうからな、この地に住む奴には思いつかねぇ事なのさ」
会話を始めるのは自警団のメンバーだった。
「おっと、お客様のお出ましだぜ?」
ガイが前方を指差すと、その先には大きな影が姿を現した。近づくにつれ、それがオーガである事が見えてくる。
「よし!魔術師部隊の所まで誘導だ!!!」
弓を持つ者が矢を撃ちながらガイ達はオーガを引きつけるよう走り出した。しかし次第に距離を縮められていく。
「とにかく矢を撃ちながら逃げる事だけに集中しろ!!!」
ガイの指示で隊員達はただただ走り続けた。
「追いつかれちまうぞ!!」
「いけるさ!!」
狭い通路を通過するとそこに隠れていたレイナが立ち上がった。
「今よ!!!」
その合図により3人の魔術師が立ち上がり、レイナを含む4人が一斉に魔法を唱えてオーガの足元を凍りつかせた。
「よし!!足を封じた!!!」
魔術師の1人がガッツポーズを取る。
「これは…クルティス皇子に感謝しなくちゃね」
オーガの足を封じる事に成功したレイナが安堵の息をつく。彼女の考えたこの作戦はルピアでクルティスと戦った時の彼の円陣「コキュートス」がヒントになっていたのだ。
「今だ!!!!!」
岩場に隠れていたケイン率いる「奇襲部隊」がオーガの背後に駆け寄り各々の武器で飛びかかる。
作戦は成功したかのように思えた。
「うがあああああっ!!!!」
しかしオーガが勢いよく暴れだし足元の氷にピキピキと罅が入り出す。
「げえええっ!?コイツ…どんだけ馬鹿力だよ!!!」
氷を破らんとするオーガを見て驚愕するのはジェリーダだった。オーガが足の氷を全て砕ききった時、その巨体で暴れすぎたせいか同時に足場も崩れてしまう
「おわああああっ!!!!」
足場の崩壊と共にオーガは谷底へ落下するが…近くにいたガイとケインも巻き込まれる。
「ガイ!!ケイン!!」
2人の身を案じたジェリーダもそこへ駆け寄り更に崩れる足場に巻き込まれてしまう。
「もう!!仕方ないわね…!!!」
レイナも3人を助けようとその場に駆け寄り、オーガは4人を巻き込んで奈落へと落下して行った。その場に残された隊員達はただそれを呆然と眺める事しかできなかった。
落ちた先は凍りついた川と雪がこびりついた岩の壁。
「うっ…!!」
ガイが全身の痛みを押さえながら立ち上がるとケイン、レイナ、ジェリーダと続いてゆっくり立ち上がった。
「俺達…よく生きていますね…」
自分の身体を見回すケイン。多少の擦り傷や痛みなどはあるものの骨折や出血などの大きな怪我を負っている者は1人もいなかった。
「雪がクッションになっていたせいかしらね」
レイナがあたり一面の雪を見回す。確かにこの場所は人が本来好んで足を踏み入れる場所ではないせいか雪が積もっても踏み固められる可能性はほぼゼロだった。
「俺らが無事って事はさ……」
ガイが口元を引きつらせながら仰向けに倒れているオーガを親指で差す。
「まさか……」
その意味をジェリーダが青ざめながら察するのと同時にオーガはその巨体を起こした。
「やっぱりいいいいいい!!!!」
ガイ、ジェリーダ、ケインの3人は同時に絶叫を上げた。先程までは大勢で大掛かりな作戦を遂行して戦っていたが今この場には4人しかいない。自警団のメンバーが自分達を探してくれるだろうがここまで落ちて来たのだからそれにも時間はかかるだろう。
「足止めは…まだ可能よ」
レイナが凍りついた川を指差す。ガイやジェリーダはその意味を理解できずにいたがケインだけは違った。
「そんな、無理ですよ!冬の川はかなり分厚く凍ってしまうんです。いくらオーガでもあれを破るなんて事できませんよ!!」
レイナの考えていた事は、あの上をオーガがどすどすとはしれば氷が割れて足止めを食らわせる事ができるのではないかという事だったが…
「とか言ってるうちに来やがったぞ〜!!!」
ガイがオーガの居る方を指差す。棍棒を失い深手を負ったオーガがこちらにめがけて走って来たのだ。考える暇さえ失った4人は凍った川の上を走って逃げ出す。
「くそっ…!!これじゃ追いつかれるのは時間の問題………」
「ぎゃっ!!」
ガイが舌打ちするのと同時にジェリーダがその場に転んでしまう。
「ジェリーダさん!!!!」
その身を案じるケインだが、オーガの巨大な拳がジェリーダめがけてふりあげられる。
「あ…!!」
刹那、レイナが杖から小さな炎の球を精製しオーガの目をめがけて撃った。一瞬オーガの隙ができる。その隙を逃す事なくケインが目にも止まらぬスピードで駆け寄りジェリーダを抱きかかえオーガから離れる。
「うおおおおおおっ!!!!!」
その後ろに控えていたガイが剣に炎を宿しオーガの足に数回の斬撃を加えた。オーガはバランスを失い低い悲鳴と共にその場にうつ伏せで倒れる。
「今だ!!!!ケイン!!!!!!」
ガイが大声で呼びかけると、ケインは抱きかかえていたジェリーダをそっと雪の上に下ろし鋭い眼差しで頷き、オーガの背中に飛び乗った。
「俺が憎んでいるのはお前じゃない…けれどこれはお前に殺された皆の痛みだ!!!!!」
ケインは拳に意識を集中させ、潰すようにオーガに頭に装備している爪を叩き込んだ。
数秒の断末魔と共にオーガは完全に動きを止めた。討伐に成功した瞬間だった。
「ふいぃ…やっぱ相性って大事だな…こいつじゃなきゃあの回数の攻撃は無理だったぜ…」
緊張の糸が切れたのか、ガイが自分の剣を見つめながらその場に尻餅をつく。
「姉さん…俺…やったよ………」
ケインが死骸となったオーガの背中に立ったまま俯き呟く。ガイ達にはそんな彼が少し寂しそうにしているように見えた。
「いたー!!こっちだー!!!」
「うおーいケインちゃあ〜ん!!!レイナちゃあ〜ん!!!」
遠くからわいわいやって来るのは自警団の面々だった。
「あの野郎共…俺らは完全無視かよ…」
呆れ半分、苛立ち半分のジェリーダだったがこれにて事件は解決した。
その翌日。ケインは姉レインの墓に花束を供えに来ていた。何か声をかけるでもなくただ墓前で無言で手を合わせるだけだったが
「!!!」
それは幻か、焦げ茶色の長い髪を持つ優しげな女性がケインの視界に映る。自分とよく似た顔の女性―
「姉さん……?」
女性は優しく微笑むと何か言葉を発する事なく溶けるように消えていった。都合のいい解釈かもしれない、そう思いつつもケインは姉が「もう自分を責めないで」と言っているようにさえ思えた。
「え!?クローナ王には会えない!!?」
ジェリーダはケインから聞かされた話に驚かされていた。
「そりゃどういう事だよ…」
ガイもまた戸惑いを隠せずにいる。
「クローナ王…『騎士王ランスロット』様はここ数年間の間、他所者の入城を禁止しているんです。詳しい事情はわかりませんが例えジェリーダさんがリーラの王子である事を信じてくれても、きっと断られると思います」
「参ったわね…せっかくストリームバレーの件が解決したっていうのに…」
レイナが目頭を押さえながらため息をつく。
「あ、でも大丈夫ですよ!俺が何とかしますから」
ガイ、レイナ、ジェリーダが3人同時に頭を傾げる。
「わけあって…俺、ランスロット様とは顔見知りなんです」
「マジ!?」
同時に驚きの声を上げたのはガイとジェリーダの2人だ。レイナも無言ではあるが目を丸くしていた。
「俺が門兵を説得します。ただ…ランスロット様を説得するのも決して簡単ではないと思いますが……」
ケインが俯くと、3人もさもありなん、と心の中で呟いた。
「それで、1つお願いがあるんですが…俺も皆さんの旅に連れて行ってくれませんか?」
「えっ!!!!!?」
またしても同時に驚く3人。
「そりゃ…お前が仲間になってくれたら俺らとしても助かるけど…自警団はいいのか?町の奴らだってお前の事頼ってるし…」
ガイが戸惑いながら言う。自分の気持ちと町の人々の気持ちを考えると複雑な心境だった。
「ストリームバレーで1番厄介だったオーガもいない事ですし、俺が一時期不在でも大丈夫だと思います。不真面目ですがやる時はやる人達なんで…」
ケインが苦笑しながら説明すると3人の誰もが彼らの野次の事を思い出した。
「それに、ドゥルはクローナも標的にするつもりなんでしょう?だったらそれを阻止する事が国を守る事に繋がりますから」
観念した3人を代表してガイがケインに手を差し伸べる。
「そこまで言われちゃお言葉に甘えるしかねえかな。改めて…よろしくな、ケイン!」
「…はい!!」
ケインは差し出されたガイの手を握り返し笑顔を見せた。完全にもやが消えた心からのものだった。
この話は瞬く間にプントの町中に広がり、泣き出す者も少なくはなかった。自警団の基地でも同じように泣く者あり、必ず帰って来てほしいと約束を求める者あり、結局は名残惜しみながらもケインを送り出す事になった。
「隊長ちゃん!!これを持って行ってくれ!!!」
「俺からはこれ!!」
「俺はこれを!!!」
大きな袋に次から次へと餞別を詰めてケインにそれを渡す自警団のメンバー。中には傷薬や解毒効果のある薬草など様々な回復薬が入っていたがケインはその中にあるものを見つけ一瞬表情が固まった。
「これ入れたの…誰ですか?」
そしてゴゴゴゴ…!という効果音が出そうな険しい表情で「それ」を引っ張り出し部下達の視界に入れる。引っ張り出された「それ」の正体は黒いワンピースに白いフリルのエプロンがついた…所謂「メイド服」だった。しかも袖は半袖でスカートの丈は一般のメイドが来ているものに比べて短い。
「お前じゃね?」
「いやいやお前だろ」
「何言ってんだよ!俺はお前がそれを入れるトコ見たぞ!!」
「は!?見間違いだろ!?」
下らない喧嘩を始める自警団のメンバー達。やっぱりこの人達に町を任せるのは間違いかもしれない、ケインは心の中でため息をつきながら憂いていた。
場所は砂漠のルピア女王国。相変わらず入城や女王イザベラへの謁見は自由だった。今、彼女の前に謁見に現れたのはグルデ・クルセイドのリーダーであるデューマと副リーダーのリズである。
「そなた達もわらわの美しさを拝みに参ったのか?」
「そーなんですwwwwいやぁお目にかかれて光栄の至り!!!!噂以上の美しさだ……」
馴れ馴れしくイザベラの玉座の前に近寄りその手を取るデューマ。その白い手の甲にキスをしようとしたがリズが笑顔でどこから持ってきたのかわからないハリセンでデューマの頭を叩いた。
「いちいち突っ込みを入れさせないで下さい?いい加減にしないと今度はこの剣で刺しますよ?」
笑顔を崩す事なく腰に差してあるレイピアを指差す。デューマも流石に命の危険を感じたのか玉座から少し離れた。
「すんません……。でぇ、是非俺達グルデ・クルセイドも混ぜて欲しいという話を麗しきレイナ嬢とその付き人共に…」
「逆でしょう?」
リズがレイピアを抜きデューマの首に突きつける。やはり笑顔のままだった。
「ゴホン!リーラのジェリーダ王子とその付き人の2人に話をつけて既に了解を得ているのです」
デューマが態度を改めるとイザベラも少し考え込んだ後口を開く。
「そうじゃな…彼らの名前を知っているのなら信用には値できようか。わかったぞ、デューマとやら!」
「ありがとう存じます、必ずや貴女様のご期待に添えますよう尽力いたします」
グルデ・クルセイドの加勢を正式なものとした女王イザベラ。彼らは三国間の連絡役として動く事が主な役割となった。
同盟の勧誘はクローナを残すのみとなるのだった。
何かまた字数余ったため、サブキャラ紹介ネタがなくなってきたので今度は登場した町の紹介でも。
<ルーヴル>
リーラ国所属の辺境の田舎町。サウスリーラなどの都会に比べると戒律はあまり厳しくない。魔術師名門ルーヴル家に因んだ町名だが決して魔術師の町というわけではない。至って平和な町で人情味溢れた人が多いため他所者であるガイを皆快く受け入れた。
<サウスリーラ>
リーラ城の南方に位置する国内一の都市。僧侶や聖職者も多く戒律に厳しい。不純な行為(軟派、援交など)や賭博などを堅く禁じ、法を破った者は厳しく罰せられる。町の所々にリーラ神を崇める教会が建っている。
<リーラ城>
リーラ王家の者達の居城。兵力は外からの魔物に対応できる程度のもの。宮廷僧侶が多数住んでいて負傷した兵の治療に困る事はまずない。地下には王族の霊安室がある。
<辺境の村>
ルーヴルからマルクへの国境大橋間に位置する田舎すぎて人々に忘れられている村。一応リーラ国所属という事になる。特に店も宿もないが人々は自給自足で生活している。今回はその存在を知られていない故ドゥルの占領を免れた。というか情報が入りにくくドゥルの戦争の事を知る人はいない可能性濃厚。
<マルク国境大橋>
リーラとマルクを繋ぐ国境の大橋。北方に宿屋と簡単な回復役の店があり行商人が露店を開く事も多い。南方にはマルクからの露天商が店を構えている事が多い。
<マルク>
大都市でありながら自然に囲まれているという珍しい城下町。農業や牧畜が盛んでどれもが自然の恵みによって育てられたため品質は世界随一。城内にも畑や庭園がある。マルク野菜を使った料理は野菜嫌いの子供達にも人気な程である。
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