16話「決戦!アレクサンダー」 |
プントを出航するグルデ・クルセイドの船。帆船でありながら大砲を搭載していて作戦に使えそうなものは大体揃っていた。
「………」
甲板の端に身体を預けながらケインは海を眺めていた。船は初めてだが決してそれに対して浮かれているわけではない。何か考え事をしているかのようにただただ水平線を眺めているだけだった。
「よう」
後ろからかかる声に振り返るとそこにいたのはガイで、両隣にレイナとジェリーダの姿もある。
「どうした?何か面白いもんでも見えるのか?」
ガイが身を乗り出し周囲を見回すがそこにはただ大海原が広がるだけだった。
「そういえばさぁ…あの王様、お前の姉貴がどうとか言ってたじゃん。アレって何なの?」
ジェリーダが一切躊躇わずに問うとケインはその場に俯き言葉を返さなかった。
「ひっひててて!!」
無言でジェリーダの頬をつねるのはレイナだった。
「ごめんなさい。色々気になる事はあるけど言いたくない事なら無理に聞くつもりはないわ」
レイナも気になっていた所だった。それはランスロットがケインの姉の話を持ち出す前の城内の入口でケインがランスロットとどういう関係なのかと疑問を持った事と同時に。
「ランスロット様と姉は…愛し合っていました」
「はいいいいいいい!?」
ケインの口から考えもしなかった言葉が出てきたのか、ガイとジェリーダは驚きのあまり一瞬飛び跳ねてしまった。レイナもそこまでオーバーなリアクションはとらなかったが目を丸くしている。
「しかし姉はただの民間人、身分違いの恋という事です。なので先代の王様と王妃様…ランスロット様のご両親はそれを当然快くは思っていませんでした。実際…姉はランスロット様の子供を身ごもっていたんです」
「えええっ!?」
今度はレイナも含め、3人同時に驚きの声を上げた。
「それを知った先代の王様は怒り狂い兵を使って姉に暴力を振るったんです。『死刑にしないだけ有り難く思え』と。そのせいでお腹の中の子供は死に、姉と俺は王都から追放されたんです」
「何だよそれー!!肝心のランスロットは何やってたんだよ!?」
怒りを露にするジェリーダ。ケインはそれを宥めつつ話を続けた。
「自室に鍵をかけられ閉じ込められていたと聞きます。解放された時既に姉と俺は追放された後でした。その1年後、先代と王妃様は病で亡くなりましたが、今でもランスロット様はお悔やみになっています。姉を守れなかった事を…」
「そいつぁ切ねぇ話だな…」
ガイが甲板の端の寄りその身体を預け水平線しか見えない海を眺める。
「その罪滅ぼしか…ランスロット様は弟の俺に色々よくしてくれているんです。俺はあの人を恨んでいるわけではないのに…」
ケインは思い詰めた表情で俯いた。オーガの件で自分を許したように、ランスロットにもこれ以上自分を苦しめないで欲しいと心から願っているのだ。
クローナ南の海域に勢力を集めるのには十日近くかかった。マルクとルピアに書簡で事情を報せ、各国が1隻ずつ船を用意し、ガイ達はグルデ・クルセイドの船に乗り込む。計3隻の船で海竜アレクサンダーに挑む事となる。作戦はマルク、ルピア船の援護のもと比較的頑丈で乗っている人間の能力が高いクルセイド船が白兵戦を引き受けるというものだった。
3隻の船がクローナ港に近づいた時か、海水が盛り上がり出す。
「出たか!!!」
クルセイド船の船首に立つガイが指差すと盛り上がった水が「それ」から流れ落ち青く巨大な竜「海竜」が姿を現した。色以外に通常の竜と違うのは羽がない代わりに背中に巨大な角が鶏冠のごとく連なっている事か。
「さて…どう出る?」
クローナの小さな港に1人佇むランスロットはその光景を見守っていた。
マルク船は西側、ルピア船は東側にそれぞれ動き出しアレクサンダーの横へ回るが
「今じゃ!!」
ルピア船が女王イザベラの指示により雷を纏った砲弾を発射させてしまったのだ。
「そんな…砲弾を撃つのは私達が海竜を引きつけてからの手筈よ!?そんなに早く撃ったら…」
レイナの表情に焦りの色が現れる。彼女の不安は的中、アレクサンダーはルピア船に標的を変えその巨体を東へ向けた。
「やばいぞ!!!ルピア船を救出だ!!!」
デューマの指示でクルセイド船は海竜の方を動き出した。
「エド様!!我々は如何致しましょう!?」
「確かに…一致団結というものを甘く見ていたようですな。しかしここで動いては海竜は今度は我々を標的に変えるでしょう。それでは状況は変わりません」
マルク船は王エドの指示によりそのまま待機を決め込んだ。
「生意気な奴…撃て!!もっと撃つのじゃ!!!!」
「お待ちをイザベラ様!!これでは我々がもっと狙われてしまいます!!そうなればクルセイド船が白兵戦を実行できなくなってしまいますぞ!?」
「倒せばいいのじゃ!!」
ルピア船で口論を続けるのは女王イザベラと前線基地長のブラスだった。
まるで統制の取れていない3隻の船。そこのは一致団結など一切存在しない、マルク、ルピア、グルデ・クルセイドがそれぞれバラバラに戦っている事を証明していた。
「レイナ…俺の剣に雷の魔力を注いでくれ」
ガイが項垂れ剣を掲げる。その刀身には自らの魔力で宿った雷が迸っていた。
「いいの?貴方にも負担がかかるわよ?」
「ああ。この一発でこの場の全員の目を覚まさせる」
レイナはため息混じりに頷き、杖を振り上げ雷の魔力を集めた。杖の先をガイの剣の切っ先に添えると電撃が刀身を伝うが、同時にガイ本人の全身へと移った。
「ぐああああああっ!!!!!!!」
全身を針で何度も突き刺すような痛みと熱にガイは絶叫を上げるが今は痛がっている場合ではない、とやがてそれを噛み砕き歯を食いしばり両手で柄を握るとその魔力の全てをアレクサンダーの身体に向けて斬りつけるように振り下ろした。
天に向かって悲鳴を上げるアレクサンダー。ガイ達の乗るクルセイド船に向き直った。
「おい!!!!!いい加減にしろよ!!!!!!!!」
全身に火傷を負ったガイが再度剣を掲げその場の全員に向かって叫ぶ。
「俺達の敵は何だ!?この海竜か!?違うだろ!!!?ここで団結できねぇなら俺らは何のために同盟を結んだんだ!!!!?個々の力じゃドゥルに対抗できねぇからじゃねぇのか!!!!!」
ガイの声を聞き届けたルピア船の面々は我に返った。
「そうじゃな…すまぬ」
「悪ぃ」
ルピア船からイザベラが、そしてクルセイド船からデューマがそれぞれ謝罪の言葉をかける。
「作戦は続行できます!!今からでも団結しましょう!!!」
「おー!!!」
マルク船からエドが呼びかけるとクルセイド船とルピア船の面々は大声でそれに応えた。
「ったく!!!無茶しやがって!!!」
ジェリーダが怒りながらガイの前に駆け寄り火傷の治癒を始めた。
「ホラ、野郎を引きつけるにゃルピアの砲弾以上の火力が必要だろ?それにしても喉潰れそうだ…」
「こらこら、談笑してる暇はねぇぞ?」
ガイとジェリーダの前に背を向けながらアレクサンダーと対峙するデューマの両手には短剣が握られていた。
「ええ、勝負はこれからですからね」
そしてその横にはレイピアを構えたリズの姿あり。
「アレクサンダーには知性があります。のであの目に刃を突きつければ負けを認める事でしょう」
更にその横に立つケインがアレクサンダーの目を指差す。
「つまり、怯ませた上で誰かがあの巨体に駆け上がって目にたどり着けばチェックメイトね?」
後ろに立つレイナがこちらに敵意を向けるアレクサンダーを見据える。
「その役割は……」
レイナ、ケイン、デューマ、リズの4人が同時に頷き、ガイに注目した。
「お、俺!?」
「先程の身体を張った演説、お見事でした。貴方以外に任せられる人はいない、それが私達の結論です」
リズが拍手しながら言うと、ガイはアレクサンダーを見上げながら強く頷いた。
「そこまで言われちゃあ『できません』なんて言えねぇでしょーが。ま、そんな事言うつもりは毛頭ねぇけどな!!」
「まーた無茶する気かこのバカ…おい!!」
ジェリーダがガイの腕を掴んで呼び止める。
「全部持ってけ!!嫌とは言わせねぇぞ!!!」
そして彼に腕力、防御力、敏捷性など全ての身体能力を一時的に上げる魔法を施した。
「へへ、サンキュー」
「ようし!!全員かかれ!!!このタレ目坊主を援護しろお!!!」
デューマが船内の全員に指示を出すとメンバーは各々の武器を手にアレクサンダーに斬りかかり、矢を放ち、攻撃を開始した。
「しっかしなぁ…どうやってあの頭に乗ればいいのやら…」
「俺に考えがあります…」
さてどうしようか、考え込むガイの前にケインが立ち、そっと何かを耳打ちした。
「そんな事…できるのか?」
「やった事はありませんが…そうも言っていられません。アレクサンダーがデューマさん達に気を取られている今しかない…」
ケインは右腕にはめられている方の爪を外しながらアレクサンダーを真剣な眼差しで見上げた。
「わかった。頼むわ」
ガイは数歩後ずさり、助走をつけて走り出し床を蹴って飛び上がった。
「思い切りいきます!!!」
ケインは宙に舞うガイの足の裏めがけて右の拳を打ち込んだ。
「うおおおおおおッ!!!!!」
ケインの拳をバネ代わりに自分の限界以上の跳躍力を得たガイはアレクサンダーの頭に着地、剣の切っ先を人間の頭程度の大きさの目に突きつけた。
「決着はついたわ!!!全員攻撃を止めて!!!!」
レイナの掛け声と共にクルセイド船のメンバーは全員武器を収め、動きを止めたアレクサンダーを確認したマルク船とルピア船もまた砲撃を止めた。
「勝っ…た…?」
時間が止まったように動かないアレクサンダーを見ながらガイが誰となく声をかける。やがてアレクサンダーはガイを信頼に値する存在と認識したのか、クルセイド船の甲板に頭を近づけ彼を船に下ろした。その瞳には魔物とは思えない優しさを湛えていた。
「俺達勝ったぞ!!!!!」
「海竜に勝ったんだ!!!!」
喜びはしゃぎ合うクルセイド船のメンバー達。同時にマルク船、ルピア船からも歓声が上がった。
「彼は不思議な可能性の持ち主のようだな……」
港から全てを見届けていたランスロットもそんなガイの姿を見てその青い瞳に安堵の色を宿すのだった。
クローナ城の謁見の間にガイ達とマルク王エドとその年老いた大臣、ルピア女王イザベラと基地長ブラス、そしてグルデ・クルセイドのデューマとリズが集まった。
「戦いは見させて貰った。私は…卑屈になりすぎていたのかもしれない…だが君達の団結を見ていると…不可能ではないと納得できたよ」
「それじゃあ…!」
ケインが表情を明るくしながら問うと、ランスロットは無言だが頷いた。その唇は孤を描いていた。ようやく三国で同盟を結ぶ事ができた瞬間だった。
しかしいつまでも喜びに浸っているわけにはいかない事を誰もが知っていたため次の作戦会議はすぐに行われた。2階にある広い会議室を使いそこに全員が集まる。
「これで我々はドゥルと互角にやりあえるだろう兵力となった、と考えます」
最初に口を開いたのはデューマだった。
「我々は力を合わせる事ができます。が、しかしまだ足りないものがあります。それは…この同盟をまとめ上げる者…要するに『リーダー』です」
三国同盟をまとめ上げるリーダー。作戦の全権を握り的確に指示する存在。それがいなければドゥルに対抗する事は難しい事だった。
「私は冷静に判断を下せるエド様が相応しいかと…」とマルクの大臣。
「世界一の美貌とカリスマを備え持つわらわがなってやっても良いがな!」とイザベラ(ブラスは苦笑するのみだった)。
「やはりここは騎士王であるランスロット様でしょうか…」とケイン。
「まさか国を潰された俺とか言わねぇだろーな?」とジェリーダ。
様々な意見が飛び交う中、デューマは首を軽く横に振りながらそれらを制止した。
「いえいえ。我々グルデ・クルセイドには推薦したい人物が1人います」
と言ってリズと共に1人の人物に目を向ける。
「へ…俺?」
何が起こっているのか、把握できていない。注目を浴びたのは3人の王ではなくガイだった。
「先の戦いではよりバラバラになりかけた我々を彼が説得した事により再度団結する事ができました。そしてあの海竜を従わせるばかりではなく手懐けた…そんな彼こそが相応しい、これが我々の結論です」
リズが締めると会議室中がざわめきだした。
「ガイが…リーダー……」
これには流石のレイナも驚きを隠せなかった。しかしどこか納得している所も同時にあった。今回の海戦だけではない。ガイはドゥルの第二皇子ガイラルディア、つまりあのクルティスと同じ血を引いているのだ。その事は仲間達は勿論、3人の王やデューマ、リズにも既に伝わっている。
「貴方は…どうしたいの?」
ガイの顔をじっと見つめるレイナ。そのワインレッドの瞳に彼の顔が映っている。
「俺は……バカだから自分が何者とかどんな可能性を持っているとか…そういうの、全然わかんねぇ。ただ…壊されたくねぇだけだ!!」
あれこれ考えるのは性に合わない、ただ前だけを向いて動いてきた。今回もその『前』に従う。それがガイの結論である。
「任せろと言う気はねぇ。皆、俺に力を貸してくれ!!!」
ガイは背中の剣を抜き、力強く掲げた。それと同時に歓声が巻き起こる。ドゥルに対抗する勢力が新たに生まれたのだ。
「さてと…それじゃ早速我々が考えた作戦をお伝えします」
ペースを戻したデューマはリズに指示し、セピア色の世界地図をテーブルに広げた。
「そんな難しい話じゃないですよ。要は4方向からドゥルを包囲するだけのものです」
「4方向から?」
ジェリーダが疑問符を頭に浮かべながら聞き返すとデューマは余裕の表情で頷いた。
「マルク軍が東から、クローナ軍が北から船で、ルピア軍が南から陸路で、でもって俺達クルセイドはリーダー一行を伴って西側から。こうすればドゥルは完全に包囲され身動きがとれなくなるわけだ」
ドゥルがこの三国に囲まれている場所に位置している事を生かした作戦だった。
「確かに…防壁のない海路は侵入もしやすいですな」
ふむふむ、と何度も頷くエド。
「おのれクルティスの若僧め…!!わらわを誘拐しようとした罪、しっかりと精算させてくれる!!」
何やら勘違いをしながら燃え上がるイザベラを誰も止める事はできなかった。
「私もこの作戦に賛同する。安泰とは言い難いが最善ではあるからな」
地図を見つめながらランスロットも頷いた。
「それでいいかい?リーダー?」
デューマがガイに向き直る。
「あ、ああ…俺はそういう作戦云々ってさっぱりだからな…いいと思うぜ」
全員一致でこの作戦は決行される事となった。そのためエドとイザベラ各々の国へ作戦の準備をするために一度帰還して行った。そしてクルセイドに同行するガイ達はクローナ港から出航しグルデへと戻る。
その船の船室にて、レイナは夢を見ていた。そこには幼かった頃の自分がいる。
「ここ…どこ?」
何もない。ただ真っ白なだけの世界。何故か過るは不安。
「あッ!」
右も左もわからないその世界に自分以外に1人。同じく幼き日のガイの後姿だ。
「ガイ!よかった…わたし1人でどうしようかと……」
しかしレイナの言葉が全く耳に入っていないのか、ガイは背を向けたまま遠くへ歩き去ろうとするばかりだった。
「待ってよ!!待ってったら!!!」
ガイの背中を必死に追いかけるレイナ。その背中を捕まえようとした瞬間、ガイはふっと姿を消した。
「!!!!!」
目が覚めるとそこは暗い船室。これが夢だと気付くのには少々時間を要してしまった。
「どうして…あんな夢……」
レイナの胸に過る不安は増すばかりだった。今はこんな事考えている場合ではない…そう自分に言い聞かせ続けた。
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