ミロの危機? |
地下都市にて。
「ぶぇっくしゅい!」
「どうしたんですか? ミロさん」
ミロは、自宅で一際大きなくしゃみをした。
それを相棒のユミルに心配される。
「なんか、あたし風邪引いちゃったみたい」
「おかしいですね、いつもは健康なのに」
ミロとユミルは、人間ではなく吸血鬼である。
なので、病気や怪我になる事はほぼなく、そうなったとしても数日で完治するのだ。
「体の調子が悪くなったのはいつ頃からですか?」
「そうね……4日前だったかしら」
「4日!? ちょっと一緒に来てください」
「え?」
これはただの風邪ではないと判断したユミルは、すぐに貴族のガジェスのところに向かった。
「どうしたのかね? ユミル君」
「あの、ミロさんが……!」
「気分が、悪い……。助けて……」
ミロの顔は青くなっている。
右手で頭を抑え、かなり苦しそうな様子だ。
「ふむ……」
ガジェスは、ミロの状態をじっと見ている。
顔から、体から、足まで、全て観察している。
「……どうですか? 結果は……」
ユミルが心配そうにガジェスの顔を見る。
すると、彼はこう言った。
「どうやら、ある者がかけた呪術の影響で、彼女は大きく弱っているようだ」
「え……!?」
どうやらミロは、呪われてしまったようだ。
真祖のミロがここまで苦しんでいるという事は、犯人は余程力の強い呪術師であるだろう。
「私は呪術を解く方法を今から探しておく」
「はい!」
ガジェスは、呪術に関する本を取り出した。
そして、数分でその本を読み終わった後、ユミルにミロの治療方法を話した。
ミロの病気(呪い)を治療するためには、以下の材料を使った薬が必要らしい。
・空気を出す不思議な木の実『空気の実』
・大いなる生命力を宿した『優曇華の花』
・生命力に満ち溢れている雫『生命の雫』
「そして、被害者にとって最も大切な人の血だ」
「最も大切な人の、血……?」
「ああ。この呪術は魂に影響を与えるからな。だから、魂を癒すほどの材料が必要なんだ」
「……一体、誰が最も大切な人なのでしょうか」
「さあな。彼女しか分からないと思う。では、行ってきてくれ。薬の材料探しに」
「……分かりました。それで、制限時間は?」
「12時間だ。それまでに見つからなければ……」
「大変な事になる、のですね?」
ガジェスは頷いた。
早く材料を集めなければ、ミロは大変な事になる。
彼女を救うため、ユミルは材料を探しに向かった。
ガジェスは、それを見送った。
「……彼ならきっと上手くいくだろう。私は、そう信じて彼を見守っていくよ」
「まずは『空気の実』からですね」
地下都市を出たユミルは、4つの材料のうち、最も探すのが簡単な空気の実を探しに向かった。
空気の実はオーリ共和国の迷いの森にあるが、
迷いの森は徐々に形状が変わるため、一般人が行けば抜け出せないのも日常茶飯事だ。
だが、ユミルはそれなりの魔法は修得しており、迷わないよう自身に魔法をかけて森に入った。
迷いの森の中を、ユミルは駆けていく。
大切な者を、呪術から救うために。
「空気の実は、どこにあるのでしょうか……」
ユミルは、真っ直ぐに森の奥へと向かった。
魔法をかけているため、正しいルートが分かる。
しかし、魔法が解けると再び道に迷ってしまう。
そうなる前に、空気の実を探さなければ。
そんな思いが、ユミルの疲れを吹き飛ばした。
「あった……!」
ユミルは、空気の実を見つけた。
大急ぎでそれを袋の中に入れる。
そして、魔法が解ける直前に、森を脱出した。
「次は、優曇華の花ですね」
次に、ユミルは、優曇華の花を探しに向かった。
しかし、優曇華の花は非常に貴重である。
5000ゼニーほどの価値はあるだろう。
だが、ユミルはこれで諦める者ではなかった。
何故なら、大切なミロのために探しているからだ。
「ここにあると本で読みましたが……」
ユミルが次に向かった先は、ベルクエスト王国。
世界四大国家の一つで、魔法大国と呼ばれている。
その首都ギーシアに、ユミルは向かった。
「すみません、優曇華の花を知ってますか?」
「え? 優曇華の花? 知らないよ」
「そうですか……」
ユミルは様々な人に優曇華の花について聞いた。
しかし、知っている人はなかなか見つからない。
「残り時間は……あと8時間ですか」
そうこうしている間に残り時間は8時間になった。
早く、優曇華の花を探さなければ。
「分からないならば、自分で探すのみ! です」
ユミルは、優曇華の花を探し続けた。
だが、いくら探しても見つかる事はなかった。
「これだけ探しても見つからないなんて……。
しかも、残り時間は6時間ですよ?
だけど、諦めたらこれで終わり……どうしよう……」
ユミルは、泣き顔でただ歩き続けた。
すると、彼の目の前に、男が現れた。
「どうしたんだい? お嬢ちゃん」
「え? あ、あの、ボクは優曇華の花を……」
「そうか。ならば、やろう」
「え?」
男は、優曇華の花をユミルに差し出した。
その男は胡散臭そうな雰囲気をしていたが、とりあえずユミルはそれを受け取る。
「ありがとうございました」
「どうもどうも」
ユミルは、男にお礼を言った後、王国首都ギーシアを後にした。
その頃、ミロは……。
「うー、うー、助けて……」
「もう少しの辛抱だ、待っていてくれ」
ガジェスに看病されていた。
ミロは、かなり苦しそうな様子だ。
それは曇った表情からも見て取れる。
一方その頃、ユミルはというと……。
「うーん、一体どんな奴だったんでしょうか。
まあ、優曇華の花は手に入りましたし、次は生命の雫ですね……」
生命の雫は、優曇華の花以上に見つけにくいと言われているアイテムだ。
「早く見つけなきゃ」
それでも、ユミルは走る事をやめなかった。
走り続けて30分。
ようやく、ユミルは生命の雫を見つけた。
しかし、生命の雫は断崖絶壁の上にあり、もしも足を踏み外せば真っ逆様だろう。
勇気を出して、ユミルは崖を上った。
(……絶対に、ミロさんは助けます!)
30分後。
「よし……!」
ユミルが、生命の雫を取ろうとした、その時。
「!」
うっかり、下の足場を崩してしまう。
そのままユミルは、落下しようとしていた。
しかし、
「まだ、ですよ……!」
ユミルは意地で、崖を掴んだ。
「何とか、助けなければ……!」
必死で、ユミルは崖を登り続ける。
大切な人の命を、救うために。
(このくらい、ミロさんと比べれば……!)
ユミルの顔は苦しそうだったが、
大切な人の苦しみと比べれば小さかったため、彼は諦めずに崖を登り続けた。
「はぁ、はぁ、はぁ……やっと……」
そして、ようやく生命の雫を手に入れた。
ユミルは、慎重に、崖をゆっくりと降りた。
今度は崖が崩れることなく、降りられた。
「ミロさんにとって、最も大切な人は一体……」
しばらく休憩し、体力を回復させたユミルは、呪術を解く薬の最後の材料を探していた。
つまり、被害者にとって最も大切な人の血である。
「分からない。ミロさんの大切な人が分からない。
ボクはずっと、ミロさんに仕えているのに……。一体、ミロさんの大切な人って……」
ユミルは、その事をかなり悩んでいた。
彼はミロの気持ちをあまり考えておらず、彼女の大切な人が未だに分からないのだ。
悩みに悩んで、1時間が経過した。
「……やっぱり、家族が一番大事なんでしょうか。でも、ミロさんの家族って……」
ユミルがミロのところに戻ろうとした、その時。
「背後には気を付けるんだね」
「え……?」
優曇華の花を渡した男に、背中を刺された。
ユミルの背中から、血が流れ出す。
「ぐ……! な、何をしたのです……!」
「ふふふ、残り時間が1時間だからね。……呪術を掛けたのは、私なのだよ」
「そん、な……」
ユミルは、そのまま倒れてしまった。
その頃、ミロは……。
「11時間経っても、まだ来ない……」
「無理をするな、ミロ」
ユミルの帰りを、じっと待っていた。
だが、残り時間は1時間しかない。
このままでは、ミロの命が危ない。
「あたし、行か、なきゃ……」
「だから無理はするな!」
それでも、ミロはユミルのところに行こうとする。
ガジェスの制止を振り切ってでも。
「ユミ、ル、大丈夫……? 無事、で、いて……」
「ううっ、うううっ……」
残り時間は、45分。
ユミルは、抵抗もできず男に踏まれていた。
「さあさあ、残り時間も後僅か。どうなるかな?」
「助け、て、くだ、さい……」
「そう言って助けに来る人はいるのかな?」
「い、ます、よ……」
「何?」
だが、ユミルはミロを最期まで信じているため、男に屈服せず、ミロの助けを待っている。
「ミ、ロ、さ、ん……!」
残り時間が40分になった、その時。
「駄目……!」
ミロが、ユミルのところに来たのだ。
呪われた身でありながらも……。
「来たん、ですね……!」
「当たり前じゃ、ない。ユミ、ル、は、あた……」
「喋らない、で、くだ、さい、ミロ、さん」
「く……やはり絆というものは……不快だ……! 今回のところは、退散する事にしよう」
男はそう言って、姿を消した。
「すご、い、出血。早く、戻ら、なきゃ」
ミロは、ユミルのところに素早く近寄る。
ユミルの体は、大量の血で濡れていた。
「ミロ、さん、こそ……」
「だ、め。病気、治し、て……それ、で……」
「え?」
それ、とはユミルの血の事である。
「残り時間、あと、30分しか、ない、わ……。早く、その、血、を……」
「まさか、ミロさんの最も大切な人って……!」
そう、ミロにとって最も大切な人とは、ユミル・ハーシェル、彼の事だったのだ。
ユミルは、大急ぎで自分の血を瓶に入れる。
そして、ミロと共に地下都市へ向かった。
「残り時間はあと5分。帰って来るかな?」
ガジェスが、時計を見ながらそう言うと、
―バタン
「ただ、い、ま……」
「材料は、ここ、に、あり、ます」
ユミルとミロが、帰ってきた。
材料も全て、ちゃんと袋の中に入っている。
「おお、間に合ったか。じゃあ早速、作るぞ」
「はい……!」
「ふぅ……一時はどうなる事かと思ったわ」
ガジェスの作った薬で完治したミロ。
彼女は、あの時の苦しそうな顔ではなかった。
だが、ミロの隣には、大量に包帯が巻かれたユミルがいた。
「ユミル……」
「重傷だから、ここしばらくは一緒に行けない」
「あたしのためとはいえ、ここまでやるとはね」
ミロは、心配そうにユミルを見つめる。
しかし、ユミルの表情は曇っていなかった。
「大丈夫ですよ、ミロさん。ボクは平気です」
「本当に大丈夫なの? ユミル……」
「これくらい、ミロさんと比べれば……」
「はいはい、自己犠牲心が強すぎるわよ。少しは自分の事も考えなさいよね。
あなたが死んだら……あたしも、死にたいから」
ミロは厳しそうにそう言った。
だが、彼女の顔は、微笑んでいた。
その顔を見て、ユミルも微笑んだ。
(……ありがとうございます、ミロさん。
いつも助けられてばかりだったけど、今日、やっと、あなたを助けられました。
ボクはこの体験を、ずっと忘れません。でも、慢心は絶対にしませんよ。
あくまでボクは、あなたの従者ですから……)
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