リリカルなのはZ |
病院から退院して数日。
高町なのはは普通の女子中学生の様に学校に通っていた。
かつては『空のエース』になると期待されていた魔法少女だが、彼女の魔法の源になるリンカーコアは損傷し、魔法が使えない『普通の少女』になってしまった。
使徒という人類共通の脅威に立ちあがった親友達。そして、彼女達を守る鋼鉄の獅子に嫉妬にも似た感情を抱えていた。
私に力があれば。あの時の力があればと・・・。
だから、そんな自分に似ている彼女を昼休みの空き教室に呼び出した。
「・・・あ」
「どうも。直接顔を合わせるのは初めてでしたっけ?」
そんな時、彼女の存在を知った。
自分と瓜二つの容姿なのにリンカーコアを持たない普通の少女シュテルという少女の存在を。それだけではない。フェイトやはやてにそっくりな少女達。普通の少女である彼女達が『普通じゃない力』を持って戦っている姿を見た時、こう思った。私もあの力が欲しいと・・・。
「あの」
「『あの力が欲しい』というのなら話はしませんよ?」
「・・・あう」
「はぁ、図星ですか?まあ、あの人達に憧れてあんなことをしでかした私が言うのもなんですが。あれは『本来使ってはいけないもの』らしいので」
合併した学校で同じクラスになったなのはを含め、シュテル達にガンレオンや彼女達が使ったD・エクストラクターにチビット達と言ったこの世界にしてはオーバーテクノロジー過ぎるそれを知りたがるクラスメート達。
急に増えたイケメンな転校生たちや美少女なクラスメート。明らかに籠絡要員。彼等を振り切ってようやく静かな昼休みに入れたと思ったシュテルは疲れた顔を隠そうとせずになのはを無視して教室を出ようとするが、それを止められる。
「あ、あのね。私も、私もみんなの力になりたいんだ。だから・・・」
「戦い以外でならバイトとしてきますか?案内員としてパンフレットを笑顔で振りまきながら渡すだけの簡単なお仕事です。日給5千円。送迎車付きでシフト制。週三で私と一緒にちびっ子と一部の大きなお友達を対象にしていますが?」
「いや、そう言うのじゃなくて・・・」
「ちなみに私のスマイルは一回千円です」
「有料なの?!」
「私、軽い女じゃないので。貴女達みたいにあちこちに笑顔を振りまいては勘違いさせて告白させて振り、玉砕したところを見て嘲笑うような女でもないので」
「私達そんな風に見られていたの?!」
「ええ。少なくてフェイト・テスタロッサさんは有名ですよ」
「う、確かにフェイトちゃんなら勘違いされても仕方ないけど・・・。それでも嘲笑ったりするような女の子じゃないのっ」
千円という額は少ないような気がするが・・・。いや、お金を取るような笑顔って・・・。まあ、ほぼ無表情に近い彼女の笑顔なら価値はあるかな?と、考えているなのは。
「ちなみに私はあなたよりも体重が2キログラムほど軽いですが・・・」
「なんでそんなことが分かるの?!」
「こう見えてもグランツ研究所の手伝いをしているのである程度の物を見れば重さや身体の変化には敏感なんです。ちなみにあなたの体重はさ」
「にゃああああっ!わかったっ、わかったの!」
「ほう、バイトに来ますか?いいでしょう。履歴書を送付の上ご両親に許可を貰ってきてください。売り子は多い方がいいですからね」
「バイトじゃなくて私どうしても」
「貴方はトリガーハッピーですか?それとも常に刺激的な環境にいないといけない以上性癖の持ち主ですか?」
「違うの、私は、その、他の皆と違って、戦った経験があるから・・・」
「Just 廚二ですね」
「ち、違うのー」
「ちなみにあのガンレオンのパイロットさんは廚二が苦手だそうです。何でも命の危険を感じるとか」
「何があったのその人に?!」
「いろいろあるらしいんですよ?ですから最初は我等の王に会われた際は戸惑っていましたね」
ディアーチェちゃん。確かに少し廚二じみているしね。じゃなくて…。
「はあっ、はあっ」
「・・・そんな、私が可愛いからって息を荒げないでください」
「ツッコミ疲れだよっ」
なのはにそっくりな容姿を持つシュテルが言うとなおもツッコミがしたくなる。・・・シュテル。恐ろしい子。
「病み上がりのくせに無理するから」
「誰の所為なのっ」
「体力不足で息切れするあなたの体の弱さじゃないでしょうか?」
「っ」
「時空管理局からの差し金か、それとも自分の意志かは分かりません。だけど、私以上にあの人はあなたや私のような子どもに戦わせようとはしない。絶対に。それがあの人の誇りだから」
冷たく突き放す言葉。だが、自分を見るシュテルの目は優しかった。
「それが『大人』で『男』だからだそうです。…勝手ですよね。でもそんな彼だからこそ私は好きなんですよ」
「シュテルちゃん…。でも、その人ってアリシア先生の」
「略奪愛って燃えませんか?」
「え、ええ〜、ちょっと、それは・・・」
「貴方と違って出会った瞬間に『ぶっ殺す』と言わんばかりに力の限りフルボッコの末で芽生える愛なんて・・・。あら?意外といいかもしれませんね。あの人の周りにいる人は大体そんな感じの人が多いような?」
「逃げてぇええっ。あのロボットのパイロットさん、超にげてぇええええっ!というか、私とフェイトちゃんはそう言う関係じゃないのっ!」
「まあ、バイトじゃないというのならすべてに関してお断りですので・・・。あの人の本意でもないでしょう」
それは失礼しますと頭を下げてなのはの前から立ち去ろうとするシュテルになのはは最後の質問を投げかける。
「あ、あのね、シュテルちゃんは、その、あのロボットのパイロットさんの事が、好き、なの?」
歯切れ悪く質問するなのは。この辺りは思春期特有の恥ずかしさがあるのだろうか恐る恐るといった具合に声をかけた。
「・・・そうですね。私、自分でいうのもなんですが頭脳明晰、運動神経抜群で、結構美少女だと思います。研究所の手伝いをしているので、それなりの資格を入手するための知識もありますし、技術にも触れて、将来有望な人間になると思います」
「え、あ、うん。そうだね」
主席のディアーチェに続いて次席のシュテルとアリサ。運動神経だとフェイト、レヴィ、すずか。自分の知人たちはまさに僅差でその争っているわけではないが入れ替わりが激しい。ただ、自分で美少女と言い張るシュテルに戸惑いを覚えるなのは。
そんな彼女に構わず、シュテルは続ける。
「それに対して彼は学歴が小学校中退で、保有している資格はガンレオンだけのデバイスマイスター(笑)のなんちゃって作業員。おまけにイケメンとは言えないほどの風貌。むしろその真逆ともいえるべき暑苦しさ」
「・・・すごく非就労者っぽいね」
「おまけに話せる言葉は日本語のみといった具合にこの不景気の世の中、すこし人生終わりかけている彼を雇ってくれるのはグランツ研究所か、彼を食べさせていく紐女ぐらいでしょう」
この場に高志がいたなら確実に泣き崩れていただろう。
「そんな彼と私って、まさに凸凹コンビですよね?凄くお似合いだと思うんです」
「好きなら彼のいい所の一つや二つ言ってあげようよっ」
あまりの酷い評価になのはのツッコミをするがシュテルはすぐに切り返した。
「そんな何もない彼がたった一つしかない命を賭けて私達を助けてくれているんですよ。痛くて怖くて逃げだしたい。いつもそう言いながらも私達が危険だと思えば、その身を盾にして、守ってくれる。それだけで十分じゃないですか。そんな彼だからこそ私はあの人が好きであの人の為になることをしたいんですよ」
「あ、う・・・」
「そんな彼の行動と真逆に走ろうとする人を誰が手伝おうというんですか。少なくても私は反対です」
そう言い残してシュテルは今度こそなのはから離れて、教室を出て行った。
取り残されたなのははシュテルが言っていた言葉を噛みしめる。
何のために戦うのか?家族や友達を守る為?何の為に力を欲した?
シュテル達が使っていたあの力なら再び自分は空を飛べたんじゃないかと思わなかっただろうか。そう思うと悔しくて涙が出てきた。
あまりに自分はあのガンレオンのパイロットの心情とは真逆だった。
彼はあまり『戦いたくない』にもかかわらず世界がまるで否定するように彼を追いたてている『守る為に戦え』と。自分は『戦いたい』にも関わらず世界がそれを否定する。『お前が戦わなくても代わりがいる』と。それなのに彼の行動は誇らしく、自分の行動はあまりに卑しい。
「なのはちゃん、おるか?どや、少しはあっちの情報を聞きとれたって、何で泣いとるの?!」
シュテルが空き教室を出てしばらくしないうちにはやてが入ってきた。シュテルが言っていたようになのはとはやては時空管理局からグランツ研究所が保有しているガンレオンとD・エクストラクターに関する情報を探ってくるように言われた。それを抜きにしても自分はまた空を飛べるのではないかと考えていた。それを悟られて、丁寧に断られた。それなのに自分はまだそれに執着していると思い知らされて、悔しくて涙を押さえられなかった。
「・・・はやてちゃん。私、私ぃ。嫌な女の子だったよ」
「ちょ、ちょっと落ち着きなのはちゃん。何を言われたや。お願いだから泣き止んでぇええっ」
はやてはただ泣きじゃくるなのはをなだめるのに数十分の時間をかけた。そして、聞かされた話。『グランツ研究所の善意』を思い知ったはやては報告書に『D・エクストラクターの技術提供の申請は失敗』と明記し、時空管理局本部に提出することになるのであった。
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第二十一話 少女の意志と獅子の意志 | ||
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