真・恋姫無双〜魏・外史伝21 |
第十章〜その心のままに・前編〜
「桃香様に逆らうというのなら、徹底的に叩き潰すのみ!いざ戦だ!」
宮殿の中央に置かれた軍議用の机を拳を叩きつける魏延こと、焔耶。
「待たんか、焔耶!何でも戦いで解決しようとするな!」
そんな興奮する焔耶をなだめる様に、叱って言い聞かせる桔梗。
ここは成都の城の宮殿の中、愛紗達が巴郡の火災事件の報告をしていた。
その正和党の行為に、桃香は動揺を隠せず、何も言わず、ただ黙って軍議を見ていた。
肝心の軍議の方は、正和党への対処について話し合われていたが、未だまとまった意見が
出ていない・・・。
「そうなのだ!おっちゃん達がそんなひどいことをするはずがないのだ!
きっと街が燃えているのを見て、それで街の人達を助けていたのだ、きっと!」
「でも、あいつら街の人達と兵達を殺していたよ・・・!」
「それは・・・、たんぽぽの勘違いなのだ!お前が勝手にそう思い込んでいるだけなのだ!」
「何ですってぇ!!」
「二人とも、こんな所で言い争っては駄目よ。」
口喧嘩で互いにいがみ合っていた二人の間に、黄忠こと、紫苑が割って入った。
「ですが桃香様、廖化殿はそういう人物であったと言う事です。あの男も元は黄巾党の人間。
このような蛮行を犯す事はある意味では、当然のことだと・・・。」
「愛紗!どうして廖化のおっちゃんの事をそんな悪く言うのだ!?おっちゃんはいい人なのだ!」
「私は客観的に意見を述べただけだ!」
「それのどこがきゃっかんてきなのだ!!鈴々には悪口にしか聞こえないのだ!」
「何だと!?」
「何を〜!?」
「止めんか、二人共!今ここでお前達がいがみ合った所で、仕様の無い事ではないか!」
口喧嘩で互いにいがみ合っていた二人の間に、桔梗が割って入った。
「うにゃあ・・・。」
「・・・・・・。」
二人は渋々ながらも、口喧嘩を止めた。
「おい、桃香。さっきから黙っているが、お前の意見を聞きかしてくれないか。」
先程から話に入って来ない桃香を見兼ね、白蓮が彼女に話を振る。
急に振られ、戸惑う桃香であったが、少し考えた後何かを決めた様に・・・。
「・・・私は、廖化さんともう一度話し合うべきだと思う。」
飽くまで交戦反対の意向は変わらなかった・・・。
「まずは、向こうの言い分を聞いてからの方がいいと思うんだけど・・・。朱里ちゃん、雛里ちゃん・・・。」
二人の軍師の意見を仰ごうと、桃香は朱里、雛里に話を振る。
「はい・・・、不確定な情報が錯綜する現状況で、こちらの元にある情報だけで全てを判断するのは
早計だと思います・・・。」
「・・・ですので、ここは当事者である正和党の皆さんと改めて接触するのもいいかと思います。」
と、雛里、朱里の順に二人の考えを提示した。
「ふむ・・・、確かにああだ、こうだと言うのはそれからでも遅くはないだろう。少なくとも、
この二人の姉妹(きょうだい)喧嘩を眺めているよりかは・・・。」
皮肉をたっぷり込めた星の言葉に、愛紗と鈴々は返す言葉もなかった。
「まぁまぁ・・・星ちゃん。姉妹喧嘩は仲の良い事の証なんですから。」
そこに助け船を出す紫苑。
「仲が良すぎるのも如何なものかと思うのだがな、紫苑よ?」
紫苑が出した船を沈める星であった・・・。
「まぁ、桃香様がそうしたいっていうんなら、あたしは別にいいぜ。」
「桃香様がそう仰るのなら、私は一向に構いません。」
「さっきまで戦だとか馬鹿の一つ覚えの様に言ってたくせに・・・。」
「何か言ったか?」
「べっつに〜・・・。」
「まぁ、何だ・・・。とりあえず桃香の考えに反対する奴はいないようだな。」
「ありがとう、皆・・・。じゃあ、朱里ちゃん、雛里ちゃん。廖化さん宛に書状を書く準備をしてくれるかな?」
「はい!じゃあ雛里ちゃん、行こう。」
「う、うん・・・。」
そして三人は書状を書くべく、桃香の執務室へと向かっていく
「まだ・・・間に合うよね。」
その時、桃香誰にも聞こえないようにそう・・・つぶやいた。既に手遅れであるという事も知らず・・・。
それから二日後・・・正和党は蜀に宣戦布告した。
彼女の思いは空しくも、彼等に届く事は無かったのであった・・・。
「正和党が蜀に反乱を起こしたらしいぞ。」
「あの正和党が?!どうしてそんな事に・・・。」
「何でも、巴郡の街を放火して、住民を殺したとかで劉備様が正和党と話し合いを
設けようとしたんだが・・・それを向こうが拒んだらしいな。」
「でも・・・、あの正義の正和党だろ?どうしてそんなひでぇ事を?」
「当の正和党は自分達の仕業では無く、蜀側の仕業だと言っているようだな・・・。」
「ええ?どうして劉備様の仕業なのよ・・・?」
「色々と情報がごったがえしたいるから、どっちがどっちなのか・・・。」
「なあ、今蜀内は戦状態ってことじゃねぇか?」
「ああ、正和党が南から蜀軍の防衛拠点を落としているらしいな。」
「確か昨日は建寧の拠点が正和党の奇襲で落ちたようだし・・・。」
「でもさ・・・、ここ最近急成長したからって戦力的に見れば、蜀軍の方が圧倒的なんだろ?
なのにどうして正和党の反乱を抑えられないんだろう?」
「民達を敵に回したくないんだろう?」
「どういう事よ?」
「話によると、地元住民達の多くが正和党の支援をしているようだでな・・・。
正和党の人達がそんなひどい事をするはずが無いっ、て具合に。
蜀の主張よりも正和党の主張の方が、住民には信憑性が高いのかもなぁ・・・。」
「下手に正和党を攻撃したら、民達から非難の嵐が来るから、それを恐れているって事か・・・。」
「軍も正和党は敵にしても、民達まで敵に回したくないってことか。」
「あまり蜀に近づかない方が良さそうねぇ・・・。」
「そうね・・・。」
陳留に向かう道中の町村で、正和党という非公式の傭兵集団が蜀に反乱を起こした
という話を耳にする。現代風に言えば、内戦みたいなものだろう・・・。
それ以前にも、常山の辺りで五胡と魏軍が衝突、それ以降国境付近の警戒は厳重になったそうだ。
おまけにあの呉の建業で起きた謎の大男の暴動・・・。
俺がこの世界に戻って来てから、まだ1か月も経っていないというのに、この世界は立て続けに
戦いが起こっている。
乱世終結からまだ2年(一刀視点ではまだ1年)しか経っていないというのに、一体これから
この世界はどうなってしまうのだろう・・・。
・・・待てよ。俺がこの世界に来てからそういう争い立て続けに起きている・・・。
俺が来る前までは大きな争いも無く、平和だったはずなのに・・・。
これじゃまるで・・・、俺がこの世界に戦いをもたらす厄病神みたいじゃないか。
・・・いや、確かにあの時もそうだ。初めてこの世界に来た時もそうだ、
俺がこの世界にやって来てから黄巾の乱、反董卓連合、そして乱世という長い戦が始まった。
そして、その長い戦いが終わると同時に、俺はこの世界から消滅した。そして今回もそうだ。
・・・じゃあ俺がいなければ、この世界は平和なままだったのか?
いや、そんなはずは無い。この世界は元々三国志のそれとよく似た、一種のパラレルワールド。
俺が居なくても、戦いは起こっていたはずだ。
・・・でも、それは前の話だ。今回は違う・・・、この世界はすでに俺達が知っているような
三国志のそれと全く違う歴史を歩んでいるんだ・・・。
じゃあ・・・、やっぱり俺は厄病神なのか?
俺はこの世界にもう一度戻りたいと願っていた、そしてそれがあの日どういうわけかそれが叶った。
俺はただ自分の願が叶い、心から喜んだが・・・それは単に自己満足なだけ。この世界の人達にとって
俺という存在はどうなのだろう・・・。
そして、俺に宿るこのよく分からない力・・・。この力はどうして俺に?こんな・・・誰かを不幸に
するかもしれないこの力が、どうして俺に・・・?
・・・俺はこの世界で何をすればいいんだろう?
1年前、俺はこの世界から消滅する事で、自分の役目を終えた・・・。
なら、今度は・・・? 俺が果たすべき役目は何だ・・・?
『北郷一刀、お前を・・・曹操に合わせるわけにはいかない。ここで死ね!!』
『それが貴様の運命だから!!』
『その必要はない。何故なら、貴様は今俺によって殺されるのだからな。』
ふと、あの男、左慈の言葉を思い出す・・・。
俺の今度の役目は・・・、死ぬ事・・・なのか?
「北郷・・・!!」
「ッ!?」
俺は露仁の呼びかけに、はっと我に返る。
ここは陳留へと続く一本道・・・、両側は深い森林で囲まれ、人の姿は無い。ここには俺と
ふさふさ眉をつり上げながら、こちらを見る謎の老人・露仁だけがいた。
「あ、ああ・・・ごめん。何だ?」
「何だ、ではなかろう?!さっきから呼んでおるというに・・・。一体どうしたんじゃ?」
止めた足を再び前へと進め、露仁の右横に並ぶ。
「いや・・・、別に・・・何でもないよ。」
「何でもないわけ無かろうに・・・、わしにも話せんような事なのか?」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。まぁお前さんのことじゃから?どうせロクでもない事を考えておったんじゃろう?」
「そ、そんな事は・・・。」
「ふん、やはりか・・・。まぁ、お前さんが何を考えていようがわしには関係の無い事か?」
そう言って、露仁は俺の方を向けていた顔を正面に戻す。
何でもお見通しのようだな、この爺さんは。年の功ってやつかな?
「だが、北郷・・・。あまり自分を追い詰めんじゃないぞ?」
「え・・・?」
話を終えたかと思った露仁がまた話し出す。
「どうもお前さんは、山陽の村の事と言い、その優しい性格のせいで色々と悩み過ぎる所がある。
優しいのは悪い事じゃないが、時としてそれがお前さん自身を追い詰めておる・・・。優しさは
時として自分を殺す・・・。そこは直したほうが良いかもしれんな。」
「・・・・・・。」
露仁の方を見ながら、黙って話を聞いていた・・・。言葉一つ一つが俺の体に染み込み、そして俺の心を貫く。
「と言っても、どうせ手遅れじゃろうがな!」
「おい、最後に言う事がそれかよ!」
露仁の投げやりな最後の発言に、思わずツッコミを入れる。
ガサガサッ・・・。
「ん?」
俺は足を止め、林の方を見る。
「どうした、北郷?」
いきなり立ち止まった俺に気が付き、何事かと露仁が尋ねて来る。
「今、林の方から音が聞こえたんだけど・・・。」
「音?動物か何かじゃないのか?」
「それは分からないけど・・・、確かこの辺りは熊や虎が出るってさっきの村で聞いたんだ。
もしかしたら・・・。」
「な、何じゃと!?」
露仁は慌てふためきながら、俺の後ろにしがみつく様に身を隠す。
「露仁、そんな風にしがみつかれたら俺が動けないだろうが!?」
「馬鹿もん、わしの護衛をしとるんだろ!だったらせめてこういう時ぐらいわしの壁にならんか!?」
やれやれと首を傾ける。
忘れがちだけど、俺が露仁と一緒に許昌に向かっているのは、露仁の付き人兼護衛という条件のもとに
俺が付いて来ていると言う事を・・・。
とはいえ、もし本当に熊や虎だったらさっさと逃げた方がいいかもしれないな。
そう思って逃げようとした、その瞬間・・・。
ガサガサッ!!
「ひぇえ!!??」
「うげッ!?」
突然の音に露仁が驚き、俺のを首にしがみつく。もろに腕が首筋に入り、チョークスリーパーが
完全に決まる。俺は思わず、潰れた蛙のような声を出す。
「な、何じゃ何じゃ今の!?北郷何とかせい!」
「そ、その前に・・・この首に完全に・・・決まっている腕を・・・緩めてくれ。」
どんどん首を絞めていくその腕に、タップしながら声を喉から出す俺。
ガサッ!
そして、草影の合間からぬっと影が出てきた。
「お?」
「ぐえ・・・?」
草影から出てきた影の正体、それはボロボロになった寝巻姿の若い女性であった。
俺の首を締めながら、露仁は目を大きく見開く。もういい加減緩めてくれないと俺、
そろそろ限界なんだけど・・・。
「た・・・、助けて・・・下さい。」
林から道へと出てきた女性は、力尽きるかのようにその道端で倒れる。
「だ、大丈夫かお嬢さん!?」
「ぐおあッ!?」
さっきまでとはまるで別人のような態度の切り替え。
ようやく首食い込んだ腕が緩んだかと思ったら、今度は乱暴にどけと言わんばかりに、露仁は俺を押しのける。
このくそジジイが・・・!後で覚えていろよ!
「お嬢さん、しっかりなさい!」
女性の側に駆け寄った露仁は倒れている彼女の肩を揺する。長い髪のせいで女性の顔が見えなかった。
「あ・・・、お、お助けください!」
「ぬほっ!」
そしてその女性はいきなり起き上がると、露仁に抱きついた。露仁は女性に抱きしめられて、至福の顔を
する。
「お、落ち着きんさい、お嬢さん。一体何があったか、この老体に聞、いて・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・露仁?」
露仁の様子が急におかしくなった。女性に抱きつかれ、その嬉しさのあまり昇天したのだろうか?
そう思った瞬間・・・。
ザシュッ!!!
「え・・・ッ?」
一瞬、何が起きたのか理解できなかった。後ろから何か衝撃を受ける。血液が全身一気に流れる感覚に襲われる。
視線を下に下ろすと、右腹部から刃が突き出ていた。
「な・・・あ・・・。」
そう、俺は後ろから刺されたのだった。
そして刃は引き抜かれ、そこから大量の血が飛び出す。
血が流れ出すたびに、体から力が抜けていくようだった・・・。
俺はそのまま足元から崩れさるように・・・、倒れた・・・。
「う・・・ぐ・・・!」
一体何が起きたのだろう・・・。
ふと露仁の方を見る。そこには露仁がうつ伏せに倒れ、腹の辺りには血の溜まり場ができ、
そしてあの女性の姿はなかった。
その女性の姿を首だけ動かし、探す。しかし何処にもいなかった・・・。
そんな俺の前にその女性が現れる。その手には、女には似つかわしくない小刀を持っていた。
その小刀の切っ先は鮮血が滴り落ちていた。
ようやく理解出来た・・・。この女だ。この女が・・・どんな理由かは知らないが、俺達を・・・その小刀で
刺したという事を。
「へ・・・、意外とあっけなかったな。ええ?北郷よ。」
その女の口から、似つかわしくない野太い男の声が出る。しかし、俺が驚いたのはそれだけでは無かった。
その女性らしい小さい体がみるみると筋肉質の男の体へと大きくなり、
その細い腕と足はみるみると太く長いものへとなり、
その長い黒髪はみるみると抜け落ち、短い白髪のものへと変わり、
身につけていた一枚の寝巻きは体が大きくなるたびに、ビリビリと音を立てながら
やぶけていく。
そしてついには、先程の女性の面影はなくなり、完全な別人、男へと変貌した。
「な・・・、ぁぁあ・・・。」
そのあまりに常識外れの現象に、俺はただ驚くばかりであった。
そんな俺を余所に、男は体にまとわりつく布切れとなった寝巻きを乱暴に剥ぎ取っていく。
「どうした・・・?あのいたいけな女がいきなりごつい男に変わっちまった事に、言葉も無いのか?」
倒れている俺を見下ろしながら、不敵な笑みをこぼす。
「まぁ・・・、そんな事はどうでもいいさ。」
そう言いながら、男は身をかがめる。
「北郷、お前には悪いんだが・・・ここで俺に殺されてくれ。俺達が先に見つけていれば、
曹操達に会わせてやってからでも良かったんだが・・・、あの老いぼれが余計な事をしたせいで
それも無理な話になっちまった。」
そう言い終えると、男は手に持っていた小刀を振り上げ、その切っ先を俺の頭に向ける。
「ま、そういう事なんで・・・恨むなよ。」
そして振り落とそうした、その時・・・。
「!!」
何かに気づいたように、男は俺の前から一瞬にして消える。
そして・・・俺の意識をそこで消えた・・・。
ガンッ!ガンッ!
一本の木に、二本の手裏剣のような物が突き刺さった。
「はぁ・・・、はぁ・・・、はぁ・・・。」
先程まで倒れていた老人・露仁が血が流れ出る腹を左手で押さえ、息を荒げながら足を震えさせながら
立っていた。そして露仁の前に、再びあの男が姿を現す。
「何だ・・・、まだ動けるのか?そのまま死んだ振りをしてた方が良かったんじゃないか、老いぼれ?」
「・・・だ、黙れ伏義!わしは・・・私はまだ死ぬわけにはいかない・・・!」
「お?何だ何だ・・・、さっきのスケベ爺キャラは何処にいっちまったんだ?・・・まぁ、それも
自分の正体がばれねぇようにするための演技だったんだろうけどよ。」
「・・・・・・。」
「だが、それも今日までだ・・・。お前はここで北郷と一緒に完全に殺してやるぜ!」
「そうは・・・させん!『現』!」
その一言によって、露仁の前の空間から突如薙刀状の武器が出現した。そしてそれを露仁は手に取った。
「・・・やる気、十分の様だな。でもよ、術で傷を塞いだからって俺に勝てると思ってんのか?」
「・・・・・・。」
露仁はその華奢な体から想像もつかないような俊敏な動きで、攻撃を仕掛ける。
「ふん・・・!」
ガキンッ!!
露仁の一撃を伏義は小刀で軽く受け止める。
「はッ!こんな一撃じゃあな!」
伏義は空いていた左手で塞がった傷口に拳を叩きこむ。
「ぐうぅ!?」
苦痛で露仁の顔が歪むと同時に、後ろに吹き飛ぶ。
露仁は空中で受け身を取るように、体勢を整え地を足に着ける。
「今度はこっちの番だ!」
伏義はその太い足で大地を蹴り、露仁が地に足を着ける前に仕掛ける。踏み込んだ地面には
伏義の足跡がくっきりと残っていた。
ガキンッ!!!
その強烈な一撃を、露仁は宙で受け止めた。そしてその位置から身を翻すように器用に受け流し、
その勢いに乗って伏義の右横へとさらに一撃を放った。しかしその不意を突いた一撃は、
伏義の右足の親指と人差し指で受け止められてしまう。
「おいおい・・・、何だよそれ?攻撃かよ?」
「ぐっ・・・!」
右足で刃先をはさんだまま、その不安定な体勢から薙刀ごと露仁を投げ飛ばす。
今度は受け身を取る事が出来ず、露仁の体はそのまま地面を叩きつけられる。
「ぐはっ・・・!?」
声にならない声が出る。地面に叩きつけられた衝撃が肺に至り、呼吸が出来ないのだ。
「・・・・・・っ。」
一刀の方を見る。うつ伏せに倒れた彼の腹の部分から大量の血が流れ出ていた。これ以上の出血は
命に関わる。それは誰もが見ても理解出来た。
仰向けになった状態から、露仁は伏義の方を睨む。そして左手の人差し指中指を伏義に向ける。
「『縛』!」
「!?」
その言葉と共に、伏義の体は金縛りにあった様に微動だしない。
その隙に、露仁は気を失っている一刀を抱き抱え、そのまま林の中へ入って行った。
その一部始終を伏義は黙って見ていた。だが、その顔に焦りは微塵も無かった。
「へ・・・、逃げるか?でも逃がしはしねぇよ。」
その顔には余裕の笑みに満ちていた・・・。
・・・俺は死んだのか?
・・・この世界で、何度も死にかけたが・・・それでも何とか切り抜けてきた。
・・・でも、今回ばかりは・・・無理そうだな。
・・・くそ、華琳達に会えないまま・・・俺はこんな所で死ぬのか・・・?
・・・・・・・・・。
・・・いや、それでいいのかもしれない。
・・・これが俺の役目だと・・・いうのなら・・・。
―――まだだ・・・―――
・・・・・・・・・。
―――まだ、お前は今ここで死んではいけない・・・―――
・・・・・・。
―――ここでお前が死ねば、この外史は奴等によって消滅するのだぞ・・・―――
・・・。
―――私がお前に託したその力で、奴等の暴走を止めるのだ・・・!―――
ッ!!!
「・・・気が付いたか?北郷。」
「・・・露仁?・・・お、俺は・・・一体?」
どうやら俺はまだ生きているようだ。俺の目の前には露仁が俺を心配そうに見ていた。
今、俺は木の根元に腰をかけた状態でいるようだ。
「傷の治療はすでに完了した。少し休めば、動けるようになる。」
いつもの年寄りの口調ではなく、若々しい力強い口調で言う露仁。
「ろ、露仁・・・、何だか喋り方がいつもと・・・?」
「北郷一刀。これから私が言う事を黙って聞くのだ!」
「え?露仁・・・?」
何だ、この人・・・。本当にあの露仁なのか?
今までにない露仁の態度に、俺は困惑するばかりだった。
「北郷、お前のその力は・・・!!」
ビュンッ!!!
「ぐおッ・・・!?」
「!?露仁!!」
何処からともなく飛んできた手裏剣二枚が露仁の背中に刺さる。
思わぬ奇襲に、露仁は急ぎ立ち上がる。そして俺を庇う様に俺に背中を向け、周囲を警戒する。
その背中には、先程の手裏剣が刺さった所から血がにじみ出し、白装束を赤く染めていく。
「鬼ごっこは・・・もうお終いか、南華老仙?」
「伏義!!・・・『現』!!」
突如、露仁の前の空間から突如薙刀状の武器が出現した。そしてそれを露仁は手に取った。
それと同時に、木と木の間からさっきの男が現れる。
「まぁ・・・、今のお前に・・・俺から逃げ切るだけの力は無いんだがな。」
「・・・・・・。」
「全く・・・、てめぇも馬鹿だよなぁ。一度俺達に負けて、かつ力のほとんどを奪われたっていうのに。
こそこそ隠れていれば良かったのによ・・・。」
「・・・隠れる?お前達を作ったのは他の誰でも無い・・・この私なのだ!」
「だから、自分でけじめをつけるってか?はっはっはっは・・・!そう言って、結局他人任せじゃ世話ないよな!?
ええッ?老仙・・・。」
「くッ・・・!」
「でも・・・、それもここで・・・全部終わりだ。」
伏義と呼ばれる男は、顎が地面すれすれの所までゆっくりと身を低くする。
その体勢から一体どう動くのだろう・・・?
「まずは・・・、てめぇが先だ!!!」
ブゥンッッッ!!!
まるで突風が吹き荒れるような速さ、俺の目では到底捉える事は出来ない。
「・・・!!」
露仁は、俺から離れるように前へと駆け出す。
先に仕掛けたのは、露仁だった。薙刀のような武器で突進してくる伏義に横薙ぎを放つ。
ビュンッ!!!
だが、伏義はその横薙ぎを下半身のみで飛び跳ねる事で避ける。
そしてまたその姿が横並行にすっと消える。
気が付いた時には露仁の左後方にいた。
「ぐ!」
露仁は空を切った横薙ぎからそのまま回転を加えた一撃を左後方にいる男に放つ。
「ぐぼはぁッ!?」
だが、それよりも先に伏義の左拳が露仁の顔面に入る。
体勢を崩した露仁に伏義は、これを逃す手はないと言わんばかりに打撃、斬撃を間髪入れず叩きこんでいく。
もはや、露仁はボロボロの雑巾のような姿へと変貌していった。
「ろ、露仁・・・!」
目を背けたかった・・・。でも、首が、体が・・・思い通りに動かない。俺はただその光景を見ているしかなかった。
俺の両目から涙が溢れる・・・。
露仁が無残な姿になって・・・。
何も出来ない自分が情けなくて・・・。
露仁とは青州で初めて出会った。
そこから俺達は許昌に向けて、二人珍道中を繰り広げてきた。
寝像の悪さに、何度頭を抱えたか・・・。
怪しい食材を食べて、その度に何度看病したか・・・。
その気の短さ・わがままに、何度困らされたか・・・。
でも、楽しかった・・・。
皆に会えない、その寂しさを感じなかった・・・。
皆に会いに行くんだって、そう前向きに考える事が出来た・・・。
ジュシュゥウウッ!!!!
「・・・ッ!?!?」
露仁の体から・・・天に向かって凄い勢いでおびただしい量の鮮血が飛び出す・・・。
そして、その体は・・・足元から崩れさるように・・・、力尽きるように・・・・、
全ての糸が切れた人形のように・・・、倒れた・・・。
「・・・うああああああああぁあぁあぁぁぁぁぁぁっぁあぁあああ!!!!!!」
そして、俺の叫びが、この林の中を駆け抜けていった。
説明 | ||
今日、珍しく朝9時前に起きました。日曜日はたいてい昼ごろまで寝てしまう僕にしては・・・本当に珍しい。はぁ・・・いつもこんな感じに早く起きられたらいいのに・・・。そうすれば、もっと早く作品を投稿できるのに・・・。皆さんはどうですか?日曜日は有意義に過ごしていますか? 今回から第十章!前回、長い話の上、正和党が蜀にクーデターを起こしました。一体この外史はどうなってしまうのでしょうか!?今回は一刀をメインに語られます・・・。 では真・恋姫無双 魏・外史伝〜その心のままに・前編〜をどうぞ。 |
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GONGを鳴らせ!!(ヒロ吉) 露仁が・・・・・一刀よ怒りを示せ。(いずむ) ここからの一刀の行動に期待ですね(Poussiere) なんか魏がずいぶんでてこね〜〜。しょうがないことだけど。(motomaru) |
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