18話「兄と弟」
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ドゥルの帝都の上空は薄暗い紫色に染まっていた。その毒々しい空の下、各々の武器を構える2人の皇子。ガイは己の命を、そしてクルティスはプライドの全てをその戦いに賭すのだった。

「くたばれガイラルディアッ!!!!!!」

先手必勝を狙うクルティスは槍を手にガイに向かって走り出す。

「くたばれって言われて…くたばるバカがどこにいるんだ!!?」

クルティスの槍を軽々と剣で受け止めるガイ。そのまま鍔迫り合いが続くかと思いきや、ガイは剣にかけられた力を逆手に刃の向きをずらしクルティスの攻撃を受け流した。

「!!!」

「おいおい…リーラとルピアで戦った時の力はどこ行ったんだ?」

「黙れえええッ!!!!」

今のクルティスに以前のような力がない事は1度の鍔迫り合いでガイにもはっきりとわかっていた。再度槍を手に攻撃に転じるクルティスだが、ガイにはその動きが見切れていた。

「なぁ…あいつ、何か弱くなってねぇか?」

ジェリーダが戦う2人を指差しながらレイナに意見を求める。

「そうね。あの時の円陣を使えばガイだけではなく私達全員をまとめて倒せる筈なのにそれをしようとしないし…何よりリーラで戦った時に比べて力もスピードも酷く劣っているように見える」

「俺、見た事ないんですが…ガイさんが強くなったから…という事は考えられませんか?」

ケインが問うとレイナは軽く首を横に振った。

「確かにそれもあるでしょうけどそれだけであそこまでの差はつかないわ。ルピアでは私達3人がかりでようやく傷を負わせる事ができたくらいですもの。どう考えてもクルティス皇子の力が何らかの理由で衰えたと考えるべきだわ」

「そうですか……」

再度ガイとクルティスの戦いを見守るレイナ達だった。しかしその力の差は歴然だった。

「おのれちょこまかと…!!殺す!!!!」

「もう聞き飽きたぜその台詞はよ!!!だから…今度はこっちから行くぜ」

ずっとクルティスの攻撃を受け流し続けていたガイが剣を両手に持ち直し、勢いよく振り下ろす。

「ぐ…ッ……!?」

クルティスはガイの斬撃を槍で受け止めるが同時に自分の身体にも痺れるような衝撃が走った。

「!!!!」

その隙を逃さなかったガイは一度素早く剣を引きまだ痺れがおさまらないクルティスの槍を持つ手元めがけて剣を突いた。

「なッ……!?」

クルティスの槍はその手を離れ空中で回転しながらやがて地面に突き刺さった。

「ケイン直伝!稲妻蹴り!!」

ガイは頑丈そうな鎧に守られているクルティスの鳩尾に突き刺すような蹴りを入れた。その時戦いを見守っていたケインの目が点になった事を知る者はいなかった。自分の蹴りにそんな技名がついていたなんて…全く身に覚えのない事である。

「がッ……はッ……!!」

鎧越しに受けた衝撃に耐える事なくクルティスは吹き飛ばされその身体は地面に叩きつけられた。それと同時に頬と額を守る兜が外れガランと音を立てて石造りの床に転がった。

「くッ…俺はまだ……!!」

素早く身体を起こすクルティスだがその瞬間自分の喉元にはガイの剣の切っ先が迫っていた。

「チェックメイトだ。お前は負けたんだよ」

敗北。クルティスにとって認めたくない事実だった。それもこの世で最も憎い相手に。しかしもうそんな体力は残されていないのか、ムキになってがなり立てる事もしなかった。

「これで俺は本当に全てを失ったという事か…」

クルティスは懐から短剣を取り出すと鞘に収まったままの状態でそれをガイの後ろに控えているジェリーダの足元に投げ転がした。

「殺せ。貴様は俺が憎い筈だ…」

恐る恐る短剣を拾い上げるジェリーダ。鞘から抜くべきか否か葛藤していた。

「待って。今は一刻を争う時なの。まずはこの状況を説明して頂戴」

レイナが先程まで戦っていた2人の間に歩み寄る。クルティスは目を伏せ、数秒沈黙を守った後口を開いた。

「全てはクローチェの思惑通りだった…」

「クローチェって確か…あのいつもアンタの傍にいた金髪の野郎か?」

ガイが問うも、クルティスは彼と目を合わせる事はしないまま話を続けた。

「あいつの正体は『悪魔』だ。人間ではない」

「!!!?」

4人同時に目を丸くする。この世界では『悪魔』という言葉は存在せず彼らのような魔物も本来は例がなかった。

「何だよその『アクマ』って……」

ジェリーダが恐る恐るクルティスに近寄りながら尋ねる。

「貴様らも見ただろう?あの黒い魔物を。あれは全てクローチェが『ハデス・ゲート』という扉を開いて呼び出したこの世界に招かれざる客…それが『悪魔』だ」

「じゃあこの状況は…その『アクマ』が大量にこの町に放たれたために…?」

ケインが周囲を見回しながら問う。

「そうだ。クローチェは最初からこれが目的だった…!俺に力と兵力を与える代わりにこのドゥルで俺の次に全権を握る存在としての地位を求めてきた。しかし奴が本当に欲しいのはそんなものではなく、この国だった。俺を用済みと見倣すとその力を返還され…このザマだ」

クルティスは悔しそうに拳を地に叩きつけた。

「悪魔の力を得てでも皇位は俺が継承すべきだと思った…あとはルピアで話した通りだ」

1000人の命を救うために100人の犠牲を覚悟し、世界から争いを無くすため。それができるのは自分だけ、以前クルティスが言っていた事をガイ、レイナ、ジェリーダの3人は思い出していた。

「どうしてそこまで…?」

レイナが思っていた事を口にする。

「この力がなければ俺はガイラルディアに遥かに劣る!!!元々身体が弱い上に病まで患っていては皇帝になどなれないのだからな!!!ガイラルディアよりも俺の方が上と父に知らしめなければならなかった…」

「そんな危険な力に手を出して…自分は無事でいられるとでも思ったのかよ?」

ガイが訝しげに発言するとクルティスは再度彼の顔を親の仇を見るような目で睨みつけた。

「そんな事は関係ない!!!!俺にも守りたいものはある!!!しかし…こんな身体では何の役にも立たないばかりか…第一皇子に生まれながら第二皇子に皇位を奪われた挙句お払い箱の中でただ死を待つだけなど…こんな惨めで滑稽な話があるというのか!!!?」

この人は悲しみを怒りや憎しみで覆い隠そうとしてるんだ…弱い自分を誰にも見られたくなかったのだろう、比較的冷静だったレイナとケインは怒鳴り散らすクルティスに対してそう考えていた。

「だが…結局俺がやっていたのは自分の首を締めるだけの無駄な行為だった。病だと思っていたものはその力を手にした代償…残ったのはその代償によって蝕まれた身体だけだった……もう俺は…生きる事にもプライドを守る事にも疲れた。その意味さえも失ったのだからな…ジェリーダ王子よ、その剣で俺にとどめを刺すがいい……」

クルティスは話し終えるとがっくりと項垂れた。鞘に収まったままの短剣を握り締め思い詰めた表情となるジェリーダ。これでこの男を刺せば全てが終わる。この短剣を抜けば…しかし彼がその答えを出す前にガイがクルティスの胸ぐらを掴み思い切りその頬を殴り飛ばした。

「テメエで種撒いといて何真っ先に諦めてんだバカが!!!!!!!!」

その光景をレイナ、ジェリーダ、ケインはただ目を丸くしながら見守っている。

「そんなモンは全部テメエの都合だろうが!!!俺らがここに来たのはなぁ、テメエを助けてやってくれって子供に泣きつかれたからなんだよ!!!」

ガイの言う事が何を意味しているのか、クルティスにはすぐ理解できた筈だが気持ちだけがついてきていないのか押し黙ったままだった。

「あんな目に遭っても帝都の奴らはまだアンタを信じてんだ!!!!だったらテメエの使命はそいつに応えてやる事だろうが!!!!!」

「俺は………俺が皇帝になりたかったのは……」

この手で国を守り永久の平和をもたらすため…そのためなら悪魔にでもなる覚悟さえあった。そしてまだ生きている民は大勢いる、まだ諦めるのは早いんだ。クルティスが見失った目的を思い出したその瞬間、カランという何か金属が床に落ちたような音が静かに響く。音のする方を振り返るとそこにいたのは右腕を横に伸ばしたジェリーダと、その足元に落ちている短剣だった。

「リーラ王家の僧侶を見損なうんじゃねえ!!!!こんなモンでお前と同類になってたまるかよ!!!!」

そして同時にレイナが座り込んだままのクルティスの前まで歩み寄り微笑みながら手を差し伸べる。

「クルティス皇子、貴方が求めた力は間違っているけれど…貴方の民を思う優しさは間違っていないわ。私達の敵は同じ、だから一緒に戦いましょう?」

このレイナの発言にはガイ、ジェリーダ、ケインの3人共が驚かされたが…一番驚いていたのはその誘いを持ちかけられたクルティスだった。

「な…!何を今更…俺は貴様らを散々苦しめて来たんだぞ…?そんな奴を仲間に引き入れようというのか?そいつが…許すとは思えんが」

と、クルティスはジェリーダを一瞥すると同時にガイとケインもまたジェリーダの方を振り返った。自分の家族を殺した男と共闘など普通に考えればできる筈はない事だったからだ。しかし…ジェリーダは無言でクルティスの前まで歩み寄りそこにしゃがみこんで彼の傷の治療を始めた。

「な…何故…貴様は俺が憎くないのか?」

「憎いに決まってんだろバカ。俺はアンタを一生許さない。……けど、今は1人でも多くの戦力が必要な時だし、こんな無駄に広い帝都とあんな無駄にでかい城をアンタの案内なしで歩くのだって危険だ…」

ジェリーダは一通りの治療を終えると立ち上がりクルティスに背を向けた。

「俺がわざわざ回復してやったんだから足引っ張るんじゃねぇぞ。それと……」

そして俯きながら声のトーンを落とす。

「ユーリスの事…助けてくれて……ありがとな」

そんなジェリーダの様子を見たガイ、レイナ、ケインはお互いに顔を見合わせながらくすくすと可笑しそうに笑い出した。

「こら!!お前ら笑ってんじゃねー!!!ここは敵地なんだぞ!!!?」

照れ隠しか、顔を真っ赤にしながら振り返り3人を指差し叱るジェリーダだったがそれがガイ達にとっては可笑しくて仕方なかった。

「あっはっは!悪ぃ悪ぃ。そんじゃどうする?あの親子の願いは叶えた事だし、一度シェケルに戻るか?」

「いや」

ガイの提案を無視し、クルティスは床に転がる自分の兜を顔につけ、弾き飛ばされた槍を手に立ち上がった。

「まだ1人、助けていない人物がいる」

「それは一体…?」

レイナが問うとクルティスは北にそびえ立つ巨大な城を見上げた。

「父…皇帝ラインホルトはまだ城の地下に幽閉されたままだ」

「……マジ?」

ガイが頬を引きつらせる。確かにシェケルに皇帝と思わしき人物はいなかったが幽閉されているとまでは考えもしなかった。

「ああ、地下牢には結界が貼られているから悪魔とてすぐには入って来れない筈だ。そして鍵は俺が持っている」

「そっか…それじゃあ行くしかないわね」

「そーね。記憶はねぇけどつまりその皇帝は俺の親父でもあるわけだろ?」

ガイがめんどくさそうに言うとクルティスは渋々頷いた。未だにこの男と同じ親を持つ兄弟と認めたくない部分はあるらしい。

「それにこのままあのゲートを放っておけば悪魔は増え続ける。一刻も早く破壊しなければならん」

「あの…」

ケインがおずおずと挙手する。

「皇子…先程までここの悪魔達と戦い続けていたんですよね?その…お疲れなのでは…」

「俺を皇子などと呼ぶな。今の俺にその資格はないのだからな」

「はぁ…」

「そうね。一緒に戦うのならそういうよそよそしい呼び方もやりづらいわね。じゃあ『クルティス』と呼ばせてもらおうかしら?」

「勝手にしろ」

皇子クルティスを仲間に引き入れ5人となったパーティーはひたすら北の居城を目指した。

「これさ…戻ったらデューマに大目玉喰らうやつじゃね?」

ドゥル城へ足を進める5人。ガイは自分達だけ先走っていた事を思い出しデューマが烈火の如く怒る姿を思い浮かべ苦笑していた。

「そうかもしれませんが…でも他の皆さんの到着を待っていたら悪魔が増えて攻略しにくくなりますよ?」

同じくケインも苦笑していた。

「貴様ら…いつもこうか?」

こんな敵地でしかも危機的な状況下で呑気に談笑しているガイとケインを尻目にクルティスはレイナに訪ねた。

「割とこんな感じよ。ついでに言っておこうかしら。ガイとジェリーダの喧嘩は結構レベル低いから軽く流してあげてね」

「おいレイナ!!お前俺の事そういう目で見てたのかよ!!」

ジェリーダがぷんぷんと怒り出す。

「俺だけは違う、みてえな言い方すんな!」

更に走りながら突っ込みを入れるガイ。もうそろそろ収拾がつかなくなる頃だろうか。

「確かに流すしかなさそうだな。馬鹿馬鹿しすぎてコメントが思いつかん」

「何だとテメエ!!!」

呆れるしかないクルティスに対しガイとジェリーダの怒りの声が綺麗にハモった瞬間だった。そんな会話をしながら走り続ける5人。その前に無数の蝙蝠のような羽が生えた小型の悪魔の大軍が現れた。

「インプだ。個々の力は大した事ないが群れをなして人間を襲う」

クルティスが説明と共に槍を構えるとガイも剣を、ケインも爪をそれぞれ構え戦闘を開始した。

「邪魔だっつーのッ!!!!」

剣を振り回し次々をインプを切り捨てるガイ。

「雑魚に構っている暇はない!!」

槍を横に薙払いインプを一掃するクルティス。

「はぁッ!!!」

インプの頭を確実に狙い次々と一撃で仕留めるケイン。それぞれ三者三様の戦い方を見せるが、次々とインプは際限なく現れる。

「そこをおどきなさい!!」

レイナが杖を掲げるとその先に竜巻が発生した。それをひと振りすると竜巻はインプ達を巻き込み四方八方へ吹き飛ばした。

「すげぇ…」

後方でレイナの背中に隠れていたジェリーダが顔を出す。周囲にいたインプ達はきれいに片付けられたのだった。

「あ〜あ、ここにどこからか流れてきた布団でもあれば『布団が吹っ飛んだ』とか言えたのによ」

ガイが冗談を言うと場が凍りついたのか、レイナ、クルティス、ジェリーダの表情が冷たくなった。

「そういう太古のオヤジギャグは控えて欲しいわね」

「やはりこの男だけは認めたくないものだ…」

「ここまでつまんねぇと逆に悪意を感じるんだけど」

何故皆そんなにリアクションが冷たいのかガイが理解できすにいる。

「ぶッ!!!あはははははははッ!!!ふ、布団が…吹っ飛んだ〜!!」

ケインだけは1人で大爆笑していた。

「おお〜!お前にはわかるか、この良さが!!」

「ちょ、勘弁して下さいよ〜!!こんな所でツボに入ってる場合じゃないのに…ぷーッ!!」

走りながら虚しい友情を深めるガイとケイン。

「俺、ケインがわからねぇ…」

そんな2人を尻目にジェリーダは2人に聞こえないように呟いた。

 

5人はやがてドゥル城の前までたどり着く。目の前で見ればリーラの5倍はありそうな程大きく荘厳な城なのだが今は悪魔が徘徊しているせいか荘厳ではなく不気味な雰囲気を漂わせていた。

「皇帝は地下牢に幽閉されている。入ってすぐ東に進めば地下への下り階段がある。ついて来い」

クルティスの先導で城内に入る。しかし城内は毒々しい紫色のガスが充満していて入った瞬間誰もが息苦しさを感じた。

「うぇっ…何だよこれ…」

真っ先に息苦しさを訴えたのはジェリーダだった。

「ゲートが完全に開かれた時に出てきたものだ。悪魔の瘴気とでも言うべきか…」

口を押さえながらクルティスが説明する。ここに長居する事は危険だという事を補足しながら。下り階段までの道は一方通行で道幅も狭くなっている。

「気をつけろ。こんな狭い場所で挟み撃ちにでもされればこの上なく不利だからな」

「あのよぉクルティス、そういう事はもっと早く言ってくれねぇ?」

通路を歩く5人の前方と後方に2匹ずつ現れる人型に大き野郎な翼を持つ悪魔。つまり時既に遅かったという事だ。

「貴様の対処が遅いんだ。もう少し機敏に動け」

「あぁ〜?クソも笑えねぇジョークかましてんじゃねーよこのスカし皇子!!」

「何だとこのタレ目悪人面がぁ!!!」

「悪そうなツラはお互い様だろうがゴルァ!!!」

「貴様のような下品面と一緒にするな!!!」

「んだと馬のケツみてぇな頭しやがって!!!」※ポニーテール

「今何て言った!?表に出ろォ!!!」

「上等じゃねーかもっかいボコしてやらぁ!!!」

次第にガイとクルティスの口喧嘩がエスカレートしてくる。それと同時に両側から悪魔が甲高い鳴き声と共に襲いかかって来た。

「邪魔するなぁ!!!!!!!」

かかってきた悪魔をガイ、クルティスが声をハモらせ同時に二匹ずつ仕留めた。

「この組み合わせ、一気にパーティーの名物喧嘩ナンバーワンに躍り出そうね」

「ああ、今までの中で一番壮絶だもんな」

レイナが冷静に突っ込むとジェリーダが頬を引きつらせながら賛同した。これまでにいくつかの組み合わせの口喧嘩はあった。ガイとジェリーダ然り、レイナとジェリーダ然り。しかしここまで激化した事は一度もなかったのだ。そのため一気に一位に躍り出る事はほぼ確定だった。

 

地下牢には結界が張ってあったため『悪魔の瘴気』も一切及んで来なかった。そのためか息苦しさは一気に解消された。牢に閉じ込められている皇帝ラインホルトは無事だった。長居幽閉生活で衰弱している事以外は。

「クルティス…!!お前無事だったのか…!!」

息子を心配する父の顔を直視する事ができないクルティスは懐から首に下げていた鍵を取り出し無言で牢屋を開錠した。

「父上…私は……」

今のクルティスを支配しているのは父への、そして国をここまでに追いやってしまった事への罪悪感だった。しかしその気持ちを察したラインホルトは優しく微笑んで見せた。

「もう何も言うんじゃない。私も母様もお前のやろうとしている事ばかりに目を向けて肝心なお前の心を知ろうとしなかったのだ…」

「『どんな邪悪な力を使っても己の正義を曲げさえしなければ失敗はしない』クローチェの口車に乗せられ私は国を破滅に追いやった…貴方や母上が私を理解しようがしなかろうがこの事実がなくなるわけではない……全ては私の責任です…!!」

その場に膝をついて項垂れるクルティスにラインホルトもかける言葉を失ってしまった。

「あの…さ……」

そんな親子にガイが声をかけると、ラインホルトは懐かしそうにその顔を見つめた。

「ガイラルディアだな…私にはわかる。よく生きていてくれた…!!」

この人が自分の実父である事、思い出したわけではないガイにとってはいまいちピンとはこなかった。しかし急に項の傷が疼き出す。

「…てっ……!!」

傷に右手で触れると手が首に下げているペンダントの鎖に当たる。ルーヴルを出た時に立ち寄った辺境の村で長老から託されたものだった。その事を思い出したガイはペンダントを外して見せた。

「それは…!!」

ラインホルトがそのペンダントを見て驚きの表情を見せる。

「そのペンダント…もっとよく見せてくれないか…!?」

「あ、ああ…いいけど」

ガイは手に取ったペンダントをラインホルトに手渡した。

「これは…やはり……」

ラインホルトがペンダントの蓋を開けてその中に描かれている色あせた肖像画を懐かしそうに見つめる。

「これはエルザの…お前達の母様の持ち物だ」

「!!!!」

思いもよらない言葉にガイは目を丸くする。たまたま道中にあったから立ち寄った村で渡されたものがまさか自分の母親の私物だとは想像もつかなかったのだ。そしてある事に気付く。

「って事はこの描かれてるガキって…」

「そうだ。小さい頃のお前達だよ」

「やっぱり……」

何はともあれ、親子が12年ぶりの再会を果たした瞬間だった。しかし母はすでに亡く、次男には家族の記憶がないのだが。

「お前の記憶がないのは母様が封印したためだ」

「そりゃ…どういう………」

ガイが戸惑いながら問うも、ラインホルトはそれを答えるべきか躊躇いを見せたが

「私は構いません。その馬鹿に全てを話してやって下さい」

膝をついて項垂れていたクルティスが立ち上がり2人の家族に背を向けた。

「わかった。ガイラルディア…12年前、クルティスはお前を殺そうとした」

「!!!」

驚いたのはガイだけではなかった。彼に傍らに控えていたレイナ、ジェリーダ、ケインまでもが目を丸くしている。

「以前貴様の項に古傷はあるかと訊いただろう?それは俺がその時につけたものだ」

代わって説明するクルティスがガイ達を振り返る事はなかった。

「その時より数日前か…身体の弱いクルティスに時期皇帝は荷が重すぎると判断しお前に皇位を継承させようと決めたのは。しかしそれがお前達を苦しめてしまったのだ。ガイラルディアは兄に殺意を抱かれるほど自分が憎まれていた事にショックを受け、クルティスは皇位を弟に奪われたとショックを受けてしまった。母様はガイラルディアからその辛い記憶を全て消し、クルティスから守るためにお前を遠くに逃がしたのだ…」

始まりの出来事、自分の知らない傷痕の理由、全てを聞いた後でもガイの記憶は戻らなかった。しかしここまで壮絶な過去だったとは…。

「だがな、今のお前はもうあの頃のガイラルディアとは違う。どうしたいかはお前がその心で決めなさい。だが1つだけ…頼みがある」

「頼み…?」

「この戦いが終わった後か、それよりもっと先かもしれない。いつか3人で酒を酌み交わそう」

ラインホルトは2人の息子の手を取った。

「まぁ…そのくらいなら付き合うぜ!」

「はい…必ず…!」

親子の感動的なシーンを微笑ましく見守るジェリーダとケイン。しかしレイナだけはどこか寂しそうだった。

「助けてくれた事には感謝しているが…私はここで待っていた方が良さそうだ」

助けに来たはいいが、その後の事は誰も全く考えていなかった。ここからラインホルトをシェケルに送って行けば往復する事になり更に時間がかかり悪魔が増え続ける。だからといって彼1人だけを逃がしても町にも既に多くの悪魔が徘徊している。この地下牢なら現段階では安全であるためこのままラインホルトをここに残して行くのが最善だった。

「ゲートは謁見の間にある。完全に開いてしまった今、閉じる事はできないが破壊してしまえばここの悪魔は消滅するだろう。奪還は可能だ」

「そんじゃ、行きますか?」

クルティスとガイが上への階段に目を向ける。そして5人はラインホルトに見送られ再度瘴気の充満する城内へと戻って行った。

説明
ツクールではこのシーンから通常戦闘曲が変わったとか。とりあえず書きたいシーンの続きでございます。
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