Fate / YATAI Night
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第二話「屋台エミヤ」

 

 

 

 

 

 

橋の上から通過する電車の振動と音が響く。

何両にも連結されて線路の接続部でガタガタと音が五月蠅く鳴り響く所為で時折話し声だったり小声がかき消されてしまう。

 

 

しかし、それが色として出ているのか不思議と雑音とは思わず一種の音として聞こえる人物だっている。

風情や味のあるものであれば尚の事だ。

そしてそこから香る出汁の匂いにつられ

 

 

今日も屋台ののれんを誰かが潜る。

 

 

 

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「…すみませーん…?」

 

 

少し垂れた目と黒目黒髪の青年。

赤いのれんを潜り姿を見せたのは整った顔の若者だった。

見た目が若いなと思うところもあるが、何処か優しさと愛嬌のある顔は警戒心を薄められてしまう。

人としてなのか、それとも外観としてなのか。いずれにしてもこの場所では意味のない要素だ。

 

「いらっしゃい……随分と若者が来てくれたものだ…」

 

「…?」

 

「いや。こちらの話だ、すまない。それで何にする?」

 

長椅子に腰かけ、天井にかけられたメニューかテーブルに置かれた品書きを見て考える青年。

だが、その前に彼はどうしても言わなければいけないと思う事がここにきて出来てしまい、それを言いたくて仕方なかった彼は座ってしばらくは閉じていた口を重く開いた。

 

「…ええっと…その前に…」

 

「何かね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ここって何屋さん?」

 

彼と店主の間にあるのは前回の焼き鳥などを焼く場所だけではない。

右に向けば無数のおでん。左を見れば煮えている四種類のスープ。

左はラーメン屋。右はおでん屋。そして中心で焼き鳥屋。

これが店主エミヤの趣味と考えが全開になった極地。

その名も―――

 

 

 

「無限の食製…とでも言うか」

 

「単に欲張りなだけですよね?」

 

「種類に富んでいると言ってくれたまえ。これなら様々なニーズに答えられるだろ?」

 

「いや、そうですけど…」

 

何か考えが間違っているように思える青年は反論しようとするも考えが纏まらず、結局は途中でもどかしい感じになってしまったので諦めてしまった。

頭を抱えて掻く青年の顔に勝ちを感じた店主は軽く笑い飛ばすと残念だったなと言う顔で水を出す。

 

「…で。注文は?」

 

「……取り合えず大根とがんも、あとたまごと餅巾着を」

 

「わかった。からしは要るか」

 

「ああ…お願いします」

 

 

味のしみた汁の海からそれぞれのおでんがすくい上げられる。

王道とした大根、がんも。そしてたまごと餅巾着。

特に大根は汁が染みやすいので店の味が出るネタとして知られている。

味が染みているか。硬さ柔らかさはどうか。

人気のあるネタである故にその理由も多いのだ。

 

「まずは四種。冷めないうちに食べてくれ」

 

「では…」

 

白い湯気の立つ四つのおでんが皿にのせられ青年の前に置かれる。まだ汁の中から出たばかりであるためか顔を近づけなくても僅かに熱気を感じられるほどだ。

皿を見て食欲が沸き手に橋を持ち、彼が真っ先に手を付けたのは大根。

それには予想通りだったのか、口元を釣り上げて食べる姿を眺める。

店主である彼も食というものには通じているので彼が最初に何に手を付けるのかは大体予想していた様だ。

 

静かに橋を落とし、中心に切れ目を入れるとそこから自然と大根が二つに割れていく。

柔らかい実の中は薄く白みのある色が姿を見せ、中に詰まっていた熱が一気に外へと飛び出していくその光景は見ただけでも食欲をそそる。

さぁ。まずは一口だ。

 

 

「んっ…」

 

四等分にされた大根のひとつが青年の口に入る。

中から暖かい汁が噛むほど染み出し味がよく通っているのを分からせる。更に、噛みごたえもよく少しつけたからしもよくアクセントになっていた。

 

「おお…」

 

「合格点かな?」

 

「…試してました?」

 

「まぁ、君がそれなりに舌のある人間とみてな」

 

「………。」

 

只者ではないなと思う青年は大根を噛みながら次に何を食べるかと目を流す。

残るはがんもとたまご、そして餅巾着。

ここは流れでがんもを取るか、それともたまごかと考えていたがどちらも捨てがたいと決められず、もう一つの割っていた大根を放り込んだ。

 

(にしても…ラーメン屋とおでん屋と焼き鳥屋の三つ合体とは…こんなの一人でどうにかなるもんじゃ…)

 

 

「…ところで」

 

「はい?」

 

「…君はどうしてここに来た?」

 

「…え?」

 

 

「ここはある理由から迷い込んだ者たちが来る場所。私はその場所で腹を空かした者たちに食べさせたいと思い…この屋台を開いた」

 

突然話し始めた店主に戸惑う。一体何の話だと思っていたが、直ぐに彼は察する。

 

―――どうしてココに来たんだ

 

と。

 

「…収益については…まぁご察しの通りだが。評価は良い方だ…」

 

「………。」

 

「ただ話に聞いたから来た…などという理由でここに来るハズがない。そういう場だからな、ココは」

 

「…………。」

 

「…聞かせてくれないか。君がここに来たワケを」

 

 

「―――――実は…」

 

 

 

 

青年ことディアーリーズは橋を置くと淡々と話し始めた。

自分がここに来た理由。その経緯。自分がどういう状況だったのか。

 

 

 

 

 

 

 

とある組織に属していた彼は、ある時研究開発を得意とする人物に呼ばれその研究室に足を踏み入れた。

なんでもその人物が言うからには、基本侵入が不可能な場所や次元へと入れる転移装置を作り上げたとのこと。

そこで。試しに乗ってほしいとのことで、完全に不安しかない彼は直ぐに拒否。しかし相手の口車に乗せられてしまい結局は乗ることとなった。

一応安全性は確保しているらしいが帰れるのには時間がかかるらしいので注意しろ、などと肝心な部分が抜けたような事を言われていたので半ばやけくそとなってしまい本当に肝心な部分を聞き逃してしまった。

 

 

 

―――ああ。これぶっつけ本番でテストしてないですから

 

 

 

その一言を最後に、ディアーリーズはその場から消え失せたのだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……要は、君は実験台にさせられてココに来た…ということだな」

 

「そうなります…」

 

「…残念だが、それではフォローのしようがない。帰りは自力で頑張りたまえ」

 

流石に呆れる他ない経緯に店主は情け容赦なく協力拒否を告げる。

それにはディアーリーズも唸り声と共に倒れるしかなく、その姿はまるでやさぐれた若いサラリーマンのような座り方だった。

 

「ううう…」

 

「幸い、ココは帰り方はある場所だ。後で教えるから、まずは食べて精をつけたまえ」

 

「はい…」

 

 

「店長、何気に酷い事をいいますね…」

 

「流石に弁護のしようもない。それに、簡単に言いくるめられた彼も悪い」

 

「まぁ、それもそうなんですが…」

 

店の奥から聞こえる少女の声に耳を傾けたディアーリーズはここにはもう一人店員がいるんだなと、どんな姿かを声から想像していた。

幼げな声ではあるが、しっかりと発声しているので歳は大体中学生か高校生か。

おそらく見た目も歳に反し若い姿だろう。

 

その大方の予想を脳裏に、ディアーリーズは声のする方へと目を向けた。

 

 

「うん…響。片づけは終わったか?」

 

「ふあ………んぐっ…はい!」

 

白い三角巾を被り、彼と同じ制服を着た少女は目の前に置かれた大盛りのラーメンと肉の山を食べ続けていたが、彼の問いにその一片を胃袋に入れるとそんな量はへでもないという顔と明るさで答えた。

そしてまた食べ始める姿に呆気にとられたディアーリーズは鉢に指をさして店主に問うた。

アレは一体なんなんだ。というかどうして彼女がああも平然と食べているんだ。

というか食べれるのか。

というより、彼女は誰だ。

様々な問いを一斉に投げた彼に店主は一拍を置いて答える。

 

 

「…彼女はウチのバイト、立花響。無銭飲食…というわけではないが。金銭的に足りないのでな。全額返済まで雇っている。今はまだ皿洗いや下ごしらえの手伝いをしているが…その内、客の前にも出させようと思っていてね」

 

「…アレは…」

 

「ああ…あれか。まぁこんな辺鄙な場所だからな。どうしてもネタが余ってしまう。だからと言って廃棄するのも勿体ないのでな。ああして残り物を合わせたまかないとして彼女に食べてもらっている。

名付けて「エミヤ特製ラーメン」だ」

 

鉢の上には大量の麺とネギともやし。しかもチャーシューもあるが、その隣には平然と焼き鳥の肉が乗せられておりぷつぷつと小さな泡を出している。

そして更にその下にはおでんの大根がトッピングされ、防波堤のようにも見えてしまう。

山のように乗った麺と肉とおでん。

あんなのが果たして美味いと言える食べ物なのだろうか。

 

「…や、焼き鳥とラーメンとか二つ合わさっては分かりますが流石に三つは…」

 

「言いたい事は分かるが、それだと効率が悪いのでね。

安心したまえ。別に悪魔合体させるつもりはないさ。あくまでラーメンと焼き鳥とに合うおでんを選んで乗せている。残りは普通に私たちが食べるさ」

 

店長エミヤの言葉に納得というより信頼ができないディアーリーズは再び響の方へと無線をずらす。

当の本人はおいしそうに麺をすすり、更にトッピングされている塩の味がついた焼き鳥をほおばる。食べる姿は微笑ましいがその食べているものを見れば吐き気だったり食欲が失せたりするのは絶対だろう。

 

「………。」

 

「…私もはじめは驚いたよ。まさか彼女があんなにも食欲多性だったとは…お陰で苦労していた賄いが殆ど彼女の胃の中だよ」

 

一体どこにそれだけの量を入れる場所があるのだろうか。

嬉しそうに食べ続ける彼女の姿がいつの間にか化け物じみた感じに思えたディアーリーズはその果てしない胃袋に吸い込まれていく麺とおでんをしばらく眺めていたのだった…

 

 

 

 

 

 

 

ゆっくりと時間をかけながら食べた彼の皿の上は僅かに残った汁とからしだけになり、その後いくつかのおでんを食べた彼の腹は十分に満たされた。

腹八分目というにはやや少ない目の量で、見続けていたエミヤもそれでいいのかと尋ねるほどだった。

だが本人はそれで充分動ける量であると答えたのでそれ以上の追及はせず、勘定を始めた。

 

 

「本当に大丈夫ですか?おでん七つだけって」

 

「うん。ちょっと食欲がね…」

 

「………?」

 

「…見れば慣れるものだ」

 

「だといいんですが…」

 

どうにも食欲のでない彼は腹をさすりながら勘定を頼む。

ズボンのポケットに一応十分な手持ち金があったので、真っ先に札束のほうを開ける姿に、小銭三枚だけだったという響は二人の見えない場所でげんなりとため息を吐いた。

 

 

「…待ち人がいるのか?」

 

「…?」

 

唐突に訊ねられたディアーリーズは頭を掻いてエミヤから目線をそらす。

食欲の事があったにせよどうやら彼のいう事は的を得ていたらしく、一人思い出すように話し始めた。

 

「いや。どうにも、満腹という顔ではなかったのでね。見たところ焦りもあった。

大方、誰か心配でならないという人間が少なくとも居る…そうだろ?」

 

「…ええ。一人…大切な人が」

 

「君の助けが必要な、か」

 

「…本当はもうって歳だと思うんですけど…僕のせいでもありますからね…それに…」

 

「………。」

 

「みんなと一緒で過ごしていると楽しいですから…彼女のために、僕はそういう時間を多く作ってあげたいんです」

 

 

脳裏に浮かぶ自分の大切な人たち。そして仲間たち。

自分が少し居ないだけで心配するという人間は知る中では少ないが、それでもその残りの心配するという者たちは居る。

またいつもの事。けど、やっぱり心配。

そうやって彼は何度泣かせてしまったりだろう心配させてしまったのだろうと、そうした小さな罪の塊。その根源たる少女の事を思うと、無意識に気持ちが急いてしまう。

今回はそんなところを店主に見抜かれたようだ。

 

が。

 

 

 

 

「まぁ…彼女たちが心配以上に怒りを覚えてそうで怖いっていうのもあるんですけど…」

 

 

「………彼女…たち…?」

 

「………。」

 

 

「ええ…その………十人以上は………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………響。最近、外貨が上がったというのは本当か?」

 

「ええ。なんでも円が安くなって全体的に値段があがっちゃったって親友が…」

 

「ふむ…それは大変だな」

 

 

「あ、あれ…二人とも…?」

 

 

勘定だ。

と無言の圧力で彼を黙らせたエミヤに対して同じく無言の響は電卓を取り出すと素早く、しかも彼が思うより多く打ち込み値段を計算する。

 

「ええっと…これとコレとアレと…」

 

「ああ。光熱費も…」

 

「ちょっとまって。光熱費?!」

 

いつの間にか勘定のはずが今月の家計簿の決算のようになっているのに気づいたディアーリーズは自分の立場が危ういと気づき、少しずつだが後ろに下がって逃げる体勢に入る。

どうやら彼らの前でまずいことを言ってしまったらしく、それが原因で自分に今までの光熱費やガス代を払わせる気だ。

そうなれば現在の彼の手持ちでは絶対に足りない。一応札は入っているがそれもここで払わされる値段によっては足りなくなる。そうなってしまっては彼も響同様に延々働かされてしまうかもしれない。

 

 

 

(無銭飲食はしたくないけど…)

 

流石にそれだけは勘弁したい彼は不本意ながら無銭飲食覚悟で逃げる用意を行う。

幸い、二人は負のオーラをまといながら勘定(払わせ)をしている最中なので一瞬を隙を突けば―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「((投影開始|トレース・オン))」

 

 

「い゛っ!?」

 

そんなことを正義の味方が許すはずがない。

彼の背中に無数の剣が突如現れて道を塞ぎ、更には周囲にも突き刺さって完全に動きを封じてしまう。

一瞬にして現れた剣の大群に思わず驚いたディアーリーズは背筋に悪寒が走り、一歩でも多く後ろに下がっていたら自分の背の肌は削り取られてしまっただろうと彼の容赦のなさに血の気を引かせた。

 

「………。」

 

 

「―――――――まさか。私の前で堂々と無銭飲食で逃げ切れる…

 

 

―――とでも思っていたか?」

 

 

「あ……いえ……その……」

 

逃げ場のない雰囲気に唯々押されるディアーリーズ。

目の前に立つ二人の姿は、彼にはなぜか魔物か何かに見えてしまいとてもではないが逃げれるという雰囲気ではなかった。

 

 

「―――別に君が羨ましいとか、憎いということではない。ただ」

 

「…ただ?」

 

「ただですね。物事には限度があるんですよ。ディアさん」

 

「………。」

 

「そう。物事には全て限度というものが存在し、人はそれを見て調整を行う。関係にしろ金にしろ。生き方にしろだ」

 

「ええ…そうですね…」

 

「ですがね。中には限度すっ飛ばして物事やってしまう人も居るんです。恥ずかしながら、私もそうでした」

 

「君のは正にそれだ。自分の限度、容量に合ったものではないのに平然と行ってしまう異端者。別にそれを非難するつもりはないが。だからと言ってやり過ぎるのもよくない」

 

「…………。」

 

 

 

 

 

「「だから…」」

 

 

「…だから?」

 

 

 

 

 

 

 

 

勘定はできた。

エミヤは響と共に振り返るとディアーリーズに((色々|・・))な料金を請求した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「理想を抱いて溺死しろ」

 

 

「嫌です」

 

 

刹那。電卓の桁数を見た直後、間髪入れずに逃げ出したディアーリーズにエミヤの剣とそれをもって走ってくる響の姿が後ろにあった。

響の顔は黒く染まり、目だけが赤く光る暴走状態のようなもの。

更に後方ではエミヤが黒い弓を構えて彼に「壊れた幻想」を放つ。

 

逃がすつもりはない。

女に埋もれた男よ。ここで滅べ。

 

 

二人の請求と攻撃は単なる嫉妬だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後。結局捕まったディアーリーズは請求が冗談であった事に魂が抜けてしまい、気を失ったらしく、その後いつの間にか元の研究室に戻っていたトカ…

 

 

 

 

 

 

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「…竜神丸さん。屋台って…怖いですね」

 

「…は?」

 

 

こうして、ディアーリーズは金輪際、彼の実験を手伝わない事と屋台に行かない事を決心したトカしてないトカ…

 

説明
さてさて。短い付き合いになると思いますが、そんな話の第二話。
今回から響ちゃんがバイトとして参加です。
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コメント
エミヤ特製ラーメンが異様に気になる……(−−;)(黒鉄 刃)
旅)?…彼が言ってる意味、分かりますか?  イーリス「さ、さぁ…」(←困惑顔)(竜神丸)
アギャギャギャギャwwwwww(蒼崎夜深)
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