いつかの夕方にどこかの密室で幼なじみの彼女と
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 さて、と。

 何で俺はこんな所にいるんだろうなと微妙に存在論的な科白を脳内で呟きつつ隣に座る女の子に目をやって、彼女が半裸に近い状態であることを再認識して、反射的に目を逸らした。

 いや待て、そんなチェリーな反応しなくても大丈夫だろう、考えてもみろ、いくら半裸に近いと言ってもアレとかソレとか重要な部分はちゃんと隠されているわけだし、その上、相手はアイツだぞ? 物心ついた頃から一緒に暮らしてきた、いわゆる幼なじみであるところの冬深冬(ふゆ=みふゆ)だぞ? 恐ろしく前の話だけど一緒に風呂に入ったことだってある。何の問題もない。そう、思う。

 だけど。

 どくん、と。耳の奥を震わせる胸の鼓動。

 しっとり、と。手のひらに浮かぶ汗。

 体と心が矛盾するのは、俺が心を偽っているからなのか、この部屋が暑いからなのか。すっかりと茹ってしまった頭ではそれすらも判然としない。

 いや、本当に。何で俺はこんな所にいるんだろうな。理由なんて判りきってるんだけど、そう思わずにはいられない。というか、そもそも―――

 

 二時間くらい前の話だ。

 今日の授業が終わり、帰って一眠りしようと欠伸をしながら教室の扉を開けるとそこに深冬が立っていて、出し抜けにいつも通りの無口無表情無感動な様子で二枚のチケットを差し出してきた。

 そして、何も言わない。

 まあ、言わんとしている事はだいたい判る。だが、一応は確かめておかねばなるまい。

「……マジでここに行く気なのか」

 間髪いれずに、こくん、と頷く深冬。

「どういう場所か判ってるのか」

 寸分の狂いもなく繰り返される光景。リプレイを見てるみたいだった。

「その時になって嫌だと言われても俺は―――」

「くどい」

 今度は違った。思いきり睨まれた上に胸倉を掴まれて(背伸びしながらというのが何とも笑えるが、実際に笑うと殴られる)俺は諾と言う他なかった。

 

 用意と着替えをしに一旦家まで戻り、それから自転車を転がして漸く目的地に到着。少し辺りを見回してから鍵を掛ける。屈めた腰を元に戻すと深冬は既に中に入るところだった。あのバカ一人で、と心の中で罵ったが、そうしていても仕方ないので、小走りに後を追いかけた。

 館内は薄暗かった。葉の大きい観葉植物を眺めながらフロントに近寄ると、深冬と話をしていたボーイが訝るような視線を向けてきた。チケットと俺と深冬を順番に睥睨する。

 成る程。しかし、この態度の悪さは聞きしに勝るな。

 その様子から何か言われるかと思ったが何事もなく奥へと通された。

 深冬は相変わらずで、特に口を開くこともなく、俺もまた同様に黙りこくっていた。

 奥の一室に辿り着く。

 広がる静寂。俺は覚悟を決めて、服を脱ぎ、軽くシャワーを浴びた。何も考える気にならなかった。現状を認識することで覚悟が鈍るのが嫌だったからだ。その為にも今までに得た知識は全てここで流して捨てる。後は出たとこ勝負。キュっと、栓を締めて、扉を開け、

 悲鳴を上げそうになった。

 深冬が立っていた。

「なっ、んだよ」

 俺の言葉を無視して手を握って強引に歩き出す深冬。

 ふと、

「お前、シャワーは」

「してない」

「そんなの見りゃ判る。浴びないのかって訊いてるんだ」

「浴びない」

 深冬は簡潔に胸の裡を述べて、目の前にある一枚の扉を、開けて、閉めた。

 完璧なまでの密室。

 二人きりだった。

 肩が触れるくらいの距離を空けて、俺たちは座った。

 やはり、というか、どちらも無言だった。

 

 ―――というわけで、腰を落ち着かせからというもの、特に何をするでもなく虚空を見つめていた。いやさ、胸をどきどきさせるとか汗を一生懸命に掻くとかはいくらかしたのだが、それ以上の事は何もしなかった。

 深冬を見れば、額にしっとりと汗を浮かべている。それとは比較にならない程の量の汗を垂れ流す俺。加えて何だか気分が悪くなってきたような気がして、

「一応、訊いておくが、暑いって思ってるよな」

「暑い」

「じゃあもう出ないか」

「うん、出る」

 

 外に出て涼を取る俺たちの目の前に現れたのは、変な形のオブジェを配置した幾つかのプールだった。しかし、そのどれもに湯気が上がっている。

 ―――北野々プールランド。

 最新のヒーリング理論(あのオブジェがそれらしい)と謂れのある湧き湯とを組み合わせてオープンしたこの夏期待のレジャープール、だったのだが、そのどこかズレたコンセプトとスタッフの態度の悪さで全く人気が出ず、起死回生のつもりか大型のサウナを導入してみたものの客足は戻らず、ジ・エンド。その最終営業に来てみたというわけなのだが。

「俺たち以外は誰もいねーな」

 応える声など無いと思いきや、

「二人きりで、良かった」

 耳朶を打つ深冬の声。

 内心の動揺を抑えつつ、首を折って視線を向けると、顔を赤く染める深冬がそこにいた。

 それが西日による物なのかどうなのか。

 俺は、深冬の手を握って確かめることにした。

説明
電撃の掌編に応募した奴です。何か御題があったと思いますがまるで覚えてないです。
ちなみに一次すら通過しませんでした。。。
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コメント
一次は編集員がぱーって見るだけだから、気にしないべき(du)
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