23話「セレブ盗賊・再び」
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リーラ神殿に向かう途中の孤島でガイ達はケインの師匠グレゴリオと出会い、彼の家で一泊後再度船で旅立つ。早朝に出て正午には神殿最短の海岸に船をつける事ができたのだが

「ん?何だありゃ?」

ガイは自分達の船のより離れた場所に止めてある小舟を発見する。よくよく見るとそれは普通の舟ではなかった。全体が金属製で後にはジェットのようなものが取り付けられている。

「珍しい…あれは火力船ね」

レイナが感心したようにその小舟を眺める。

「かりょくせん?何だそれ?」

ジェリーダが小舟を見ながら尋ねるとレイナもまた小舟―火力船を眺めながら説明を始めた。

「後に取り付けてあるジェットから魔力で炎を噴射して走る舟よ。一般の舟の数倍は速いわ」

「へぇ…」

「でも…何故あんな所に火力船があるんでしょうか…?」

ケインが不思議そうに、他のメンバーに誰となく尋ねる。

「簡単な話だ。先客がいるんだろう。最も…何の目的かは知らんがな」

そう言いながらもクルティスはあらゆる可能性を頭の中で思い描いていた。リーラ神殿にある何かが狙う盗賊か、周辺の魔物を研究している者か、あるいは単なる旅好きか。そして前者に重点を置き、ジェリーダを振り返る。

「リーラ神殿の事が外部に漏れる可能性は否定できるか?」

「どうだろ…でもそうだとしてもリーラ王家の人間なしに入る事はできないってあの本には書いてたし、そもそも何があるかなんて俺にもわかってねぇんだ。そんな何があるかわからない場所に魅力を感じるもんなのか?」

「わかんねぇからこそ見てみたいって奴もいるんじゃねぇの?」

ガイが2人の間に入り込む。

「どのみち、先に進んでみないとわからないわよ。行きましょう」

レイナが促すと、5人は上陸を始めた。この周辺はひたすら森に囲まれている。この森を北上すれば地図でリーラ神殿が記してある位置にたどり着くのだ。

「この隊列…ホントに有効なワケ?」

先頭を歩くガイが左後ろを歩くレイナを振り返る。

「ええ。寧ろあの時より人数も増えてるし、安定性はあると思うわ」

レイナが思い出すのはマルクからマルケス山へ行く時に戦う力を持たないジェリーダを前後から守るために組んだ隊列だった。あの時は先頭にガイ、後方に自分が位置していた。確かに前後からの守備は完璧だったが魔物は上から降ってきた。

今回は先頭のガイとそのすぐ後ろ、中央を歩くジェリーダ以外はレイナが左後ろに、クルティスが右前に、そしてケインが後方に位置している。

「また上から来たらどーすんの」

「それはジェリーダが気にする事よ。ガイ、貴方は前方に注意して」

前後左右、そして上。5人がそれぞれの立ち位置の方向に注意を向けるのが今回の隊列の意図となっていた。

「後ろから…魔物の気配を感じます」

ケインが目つきを鋭くして後方を振り返る。全員が身体を後ろに向けると木陰から金色のハサミと尻尾をもつ蠍が3体、こちらに向かって突進してきた。

「レイナ!!ジェリーダ!!下がってろ!!!クルティス!!ケイン!!一体ずつ仕留めるぞ!!?」

「おい待て!!」

クルティスの制止をものともせず、ガイは真ん中の蠍を迎え撃ちハサミによる斬撃を剣で受け止めたが…

「どああああああッ!!!」

蠍のハサミから電撃が走り刀身を通してガイの全身に迸った。

「ぎょえッ!!」

ガイはその場にうつ伏せに倒れ、勢い余った残り2匹にも踏まれてしまった。その間にクルティスがレイナを、ケインがジェリーダを抱きかかえて蠍の突進を回避していた。

「だから待てと言ったんだ…」

クルティスは抱きかかえていたレイナを下ろすと額に手を当て深いため息をついた。

「つまり、あの金色のハサミと尻尾には電撃が流れているのね?」

つまりあのハサミと尻尾に触れずに倒さなくてはならない、そういう事よね?とレイナは目で訴える。

「おーい!ガイー生きてるかー!?」

ジェリーダが駆け寄る事なく蠍から離れた場所から呼びかけると

「あのなぁ…ちったぁ心配しろっての!!!!」

仲間達のあまりにもぞんざいな扱いに対する怒りを原動力にガイは立ち上がった。所々に火傷を作ってはいるが打たれ強さが幸いしてそれ程重傷でもなかった。

「何言ってるの?ピンピンしてるじゃない」とレイナ。

「いっそこのままくたばってくれればいいと思ったからな」とクルティス。

「だって殺しても死なないかなーと思ってさあ」とジェリーダ。

「すみません一応これでも心配してましたー!!」とケイン。

4人共あまり心配はしていないようだった。

「ったく冷てぇ奴らだなぁオイ…グレてやろーか…?」

トホホと項垂れるガイの左右にクルティス、ケインが同時に立ち、その後ろにレイナとジェリーダが控える。5人共戦闘体勢に入った。

「あのハサミと尻尾に触れてはいけないとなると…魔法でも使わない限り厳しいかもしれませんね…」

ケインが額に汗を流しながらハサミに電撃を宿す蠍達を見据える。

「弱点はとても分かりやすそうなんだけど…魔力をためるのに時間がかかりそうなのよね…」

「という事だ。俺らは『お姫様』が魔法を唱えるための時間を稼げばいいらしいぞー?」

レイナの言う事を察したガイが仲間達を振り返る。

「又は足止めか…」

「わかりました!」

クルティスとケインは同時に自分が相手をする蠍を見据えた。

「1人1匹!!お姫様と王子様にゃ指一本触れさせるんじゃねーぞ!?」

ガイの合図で前衛に立つ3人はそれぞれ1匹ずつと対峙した。

「おおりゃああああッ!!!」

剣の刀身に電撃を宿したガイが同じく電撃の宿る蠍のハサミを受け流す。同じ属性を持つ事で電撃そのものを受け流している。

「ふん、馬鹿のくせに少しは考えたな…」

「んだとゴルア!!」

そんなガイを尻目にクルティスは氷魔法で蠍の足元を凍りつかせて動きを完封していた。以前の円陣『コキュートス』程の大技はもう使えないが魔物1匹程度を覆う範囲ならば問題なく封じられる魔力を元々持っているのだ。

そしてケインは蠍をギリギリまで引きつけて寸での所でハサミや尻尾による攻撃を回避していた。一歩間違えれば当たってしまう程の至近距離だ。三者三様の敵の押さえ方だがなるべき蠍3匹を分散させないように気をつけながら戦っている。

「すっげぇ…あの3人が揃うと前衛はほぼ鉄壁だな…」

ジェリーダが驚きと感心を半分ずつに3人の戦闘を見ている間にレイナがためた魔力は津波となってその前方に現れた。

「みんな、避けて!!!」

レイナの合図と同時に蠍と交戦していた3人はその場から離れ手近な木に飛び乗った。津波は3匹の蠍を飲み込み遠くへと消えて行った。

「ひえぇ…デタラメな威力だなおい…」

遠ざかる津波を飛び乗った木の上から眺め引きつった笑顔を見せるガイ。そんな事をしている間に他の4人は先を急ごうとしていた。

「あッ!!こら待て!!!」

慌ててガイも後を追うが、背後からの気配を察知し全員後ろを振り返る。

「あらあら、お久しぶりねぇ」

そこにいたのは以前マルケス山でガルーダの卵を奪おうとしていた自称セレブ盗賊の少女ミシュレとそのお供をさせられている2人の男だった。

「あーッ!!お前ら!!!」

ジェリーダが驚きながらミシュレ達を指差す。

「お知り合いですか?」

ケインが問うとガイは渋い顔をしながら声を唸らせた。

「知り合いっつーか…1度しか会った事なかったんだけどな…」

「もしかしてあの火力船は…」

レイナが目つきを鋭くするとミシュレは自信満々の表情を見せた。

「アレ、見てくれたの?そうよ。まぁセレブなんだからあのくらいは持ってなくちゃね」

「それより何でここにいるんだ?」

ガイがまさかリーラ神殿の事を知っているのか…?と考えながら問う。

「あら、アンタ達も同じ目的なんでしょう?でも行っても無駄足よ。あの神殿みたいな建物、どうやっても中に入れないんだから」

ため息をつきながら肩をすくめるミシュレ。

「ああ、ハンマーで壊そうとしても爆破しても開かねぇんだよあの扉…」

ふくよかな男が弱気に言うとガイ達5人は同時に目を丸くした。

「あーんもう!!きっとあの中にはすっごいお宝が眠っているのよ!?何としてもこじ開けてやるう〜!!!」

ミシュレが悔しそうに足をばたつかせている間にガイ達は先へ進みだした。

「ちょっと!!無駄だって言ってるデショ!?さっきの話聞いてなかったのー!?」

「いや、姫様…あいつら何か秘策でもあるんじゃないですかい?」

小柄な男がミシュレにそっと耳打ちする。

「秘策って?」

「詳しい事はわかりやせんが…姫様のありがた〜い助言を無視して進むってこたぁ何かあるとしか思えねぇ…」

「確かにねぇ……」

ガイ達の姿が見えなくなる頃、ミシュレ達は3人固まって何かひそひそ話を始めた。

 

やがて森を抜けると白く美しい大きな建物が見えた。

「こいつがリーラ神殿か?」

ガイが建物を指差しながらジェリーダに問う。

「こんな建物他にねぇし、そうだと思う」

「ねぇ…さっきの盗賊達、この扉をハンマーで叩いたり爆破しようとしたと言っていたわよね?」

レイナが神殿の扉を指差す。他の4人もそれをじっと見つめるが扉には一切の傷も焦げ跡もついてはいなかった。

「リーラ王家以外の者ではビクともさせられないという事でしょうかね…?」

苦笑するケインの前をジェリーダが通り過ぎ、扉にそっと手を触れると

「!!!」

扉が光りだし、ゆっくりと開きだした。

「この中に何があるのかは俺もわからねぇ。だからって事じゃないけど、気をつけた方がいいぜ」

ジェリーダの言う事に4人は同時に頷き、中に入ろうとしたが

「!?」

突如、クルティスが後ろを振り返る。しかしそこには先程自分達が出てきた深い森しかなかった。

「どうしました?」

「いや……」

ケインが問うも、クルティスは気配と感じ取ったつもりでいたが結局は錯覚だろうかと思い直し5人は神殿の中へ入って行った。

 

茂みからガサッと顔を出すのはミシュレ達だった。あのひそひそ話の結果、5人を尾行する事に決定したのだ。

「あの甲冑野郎…中々鋭いっすね…」

小柄な男が肝を冷やしながら結局見つからなかった事に安堵する。

「まーいいじゃない。それよりアタシ達も中に入るわよ!?」

3人は茂みから飛び出し、扉が開いたままの神殿へと突入して行った。

 

 

キリのいいところで終えたがいいがまたしても字数が余ってしまったので。しかしもうそろそろ紹介するものがなくなってきたので台本形式で完全パラレルな番外短編劇場をやらせて頂きますね。

<学パロ・ハデス学園!!>

キーンコーンカーンコーン。

ガイ@廊下を猛ダッシュ「遅刻だ遅刻だ遅刻だぁ〜!!!!」

ジェリーダ@廊下を普通にダッシュ「遅刻だ遅刻だ遅刻だぁ〜!!!!」

ズシャーッ!!!

レイナ「またあの2人ね…」

ケイン「また寝坊でしょうか…?」

クルティス「あの様子だと宿題はやっていそうにないな」

2人はぎりぎりセーフで教室までたどり着けたのでした。

レイナ「ねぇ2人共、宿題はやってきたの?」

ガイ「それなんだけどよ…レイナ、ノート見せてくれねぇ?」

レイナ「ダメよ。宿題は自分の力でおやりなさい?」

クルティス「レイナ、あまり酷な事を言ってやるな」

レイナ「えッ…?」

ガイ「クルティス…!!お前本当は俺の事…!!」

クルティス「自分の力で出来んからこう言っているのだろう?まぁ俺なら絶対見せてはやらんがな」

ガイ「少しでもお前に期待した俺がバカだった…」

ジェリーダ「でも確かに不自然だよ。ガイの頭でレイナレベルのノート写してもバレるんじゃね?」

クルティス「それは言えているな」

ガイ「お前ら後で便所来いや…!!」

ケイン「それに相手はあの自然王と呼ばれるエド先生ですからね…」

ジェリーダ「不自然なものはすぐ見抜かれるぜ?」

ガイ「不自然で悪かったな…。それよかジェリーダお前こそやってきたのかよ?」

ジェリーダ「俺が宿題なんて七面倒くさい事するわけねーだろ」

レイナ「何故威張るの?」

ケイン「怒られますよ?」

ジェリーダ「それなら大丈夫!俺は宿題をやらないのが自然な姿だからさあ。エド先もわかってくれるよ」

ガイ「宿題忘れを許す先生なんて聞いた事ねーぞ」

クルティス「貴様が言うな」

レイナ「そう言えば…エド先生言ってたわね。宿題を忘れて来た人は一日中自然と触れ合ってもらうとか…また農作業でもやらされるんじゃない?」

ガイ「え…そんな事言ってたっけ?」

ジェリーダ「聞いてねぇよ…」

ケイン「昨日言ってましたよ」

クルティス「こいつら居眠りしていたからな」

ガイ「うッ…農作業はねぇわ…ケイン!宿題見せてくれ!!」

ジェリーダ「俺も!!俺もー!!」

ケイン「構いませんが…俺、多分色々間違ってると思いますよ…?」

ジェリーダ「それでもいーよ!あんな炎天下の中で農作業なんてやってられっか!!(それに間違ってる所だけ直せばいーもんね♪)」

かくして…ガイとジェリーダはケインにノートを見せてもらう事で宿題を提出する事ができたのですが…。

昼休み。農作業に勤しむ彼らの姿がそこにあった。

ガイ「な…何で…!?」

ジェリーダ「くっそー!!お前のせいだぞガイ!!!」

ケイン「やっぱり…合ってる所と間違ってる所が一致しすぎてバレたのでしょうか…?」

レイナ「そうみたいね。まぁ確かにケインのノートには消しゴムをかけた跡がいくつかあったけどガイのノートにはそれが一切なかったからそれも決め手になったんじゃない?」

ジェリーダ「俺の計画は完璧だったのに…!!ケインの間違ってる所を自分のノートには正解を書いたから写したのはバレないと思ったのにガイがチクるんだもん!!」

ガイ「やり口が汚ぇんだよ…そんな奴が昼休みにのうのうと昼飯食ってる姿を想像したら何かこう、すっげームカついてきてな…」

ケイン「間違ってたなら教えてくれても良かったのに…」

レイナ「これに懲りたら今後宿題は自分でやる事ね」

ジェリーダ「そんなぁ〜!」

ガイ「今度は適度に消しゴムかけてわざと間違えれば…!!」

クルティス「…懲りてないな」

ケイン「そこまでするならご自分でやった方が早いと思うんですが…」

怠けるために真面目にやる以上に力注ぐ奴っているよね(笑)

説明
ズッコケ3人組、再登場!
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