東方放浪録〜輝夜とパチュリー |
東方放浪録〜輝夜とパチュリー
【輝夜】
朝起きて着替えやごはん、いつものことを済ませてから縁側で空を見ていると
背の高い竹林があっても眩しいくらいの光が差し込んでいた。
すごく天気の良い日だし、こういう時くらいはどこかに出かけてみたいものだ。
だけど漠然とそう思っていても目的がないとただの散歩になってしまうし…。
それも悪くないなと思った直後にこの前にしたことを思い出した。
人里に出た時にアリスが人形劇をしているのを見かけて手伝ったことがあったっけ。
その時に本がいっぱいある場所を教えてもらったんだった。
確か建物の名前はそう・・・。
思い出した私はいてもたってもいられなくて飛び出すようにして永琳に一声かけていく。
声をかけないと後で怒られてしまうからだ。
「永琳ちょっと出かけてくるね〜」
「あ、姫。勝手に・・・もう・・・!」
永琳は少し大きめな声で呼び止めるも追いかけてくる気配はなかったから
呆れながら私を見送ってくれたのだろう。帰ったら良いことして労ってあげよう。
*****
――――紅魔館――――
*****
【パチュリー】
蝋燭を立てて薄暗い部屋の中、私は無心に本のページを捲っているとうっすらと
ノックの音が聞こえた気がした。集中が途切れて耳を良く澄ますと今度ははっきりと
音が聞こえた。
一度や二度ではないだろう。おそらく咲夜だろうが、私が読書をしている時間と
わかっているからにはそれなりに大事な用事なのだろうと扉を開けさせると
咲夜の他にもう一人の気配を感じた。まったく覚えのない気配と匂いに私は神経を
尖らせて念のために周りに設置してある魔術の罠をいつでも発動させられるようにして
二人を通した。
「なによ・・・」
「すみません、パチュリー様。お客様がいらしていて」
「魔理沙でもアリスでもなさそうね・・・。誰?」
咲夜の後ろにいたお客様と言われた人物が薄暗い部屋のせいか私の近くまで来ないと
はっきりと姿を確認できなかった。その傍まで来ると珍しい人物が私の前に現れた。
「お邪魔しま〜す」
「帰って」
それは話に良く聞く蓬莱山輝夜の姿だった。薄暗い中でもその艶やかな黒髪に
高貴な雰囲気は感じ取れた。とはいえ余所者は余所者。さっさと帰ってもらおうと
思ったのに彼女はとんでもなく抜けた返しをしてくれた。
「お邪魔しますとは言っても本当に邪魔をするつもりじゃないのよ?」
「そんなことわかってるわよ…」
呆れたように私は手を額に当てながら溜息を吐くともう少し灯りが必要かと思い、
小悪魔にオイルランプを持たせてきた。
これで少し離れている咲夜の姿も確認できていいだろう。私には少し眩しいけれど。
「何で認識がない貴女とそんな馴れ馴れしいことしなくちゃいけないのってことよ」
「あら、手厳しいわ」
「当たり前のことだと思うけど?」
「ん〜・・・、アリスから教わったから来たとかじゃダメかしら?」
いきなり話の中にアリスの名前が入っていて私は胸の辺りがドキッと揺れるような
感覚を味わう。
「アリスが?」
「えぇ」
特に何か企んでいるような雰囲気を感じられず、純粋に楽しそうに話を持ちかけてきた。
私がアリスのことを想ってることを彼女は知っているのだろうか・・・?
拒むつもりがアリスの普段の生活が気になってしまったため、仕方なく輝夜を追い出す
ことを諦めた。
「それで?」
「どういう経緯でアリスがここを教えたの?」
「それはね〜」
私が座っていいと言う前に輝夜は自ら私の正面の席に座って軽く身を乗り出して
アリスの手伝いをするまでの話から始まった。その辺は全く興味ないけれど
聞いていて損はないだろうから黙って聞いておくか、と深く座って聞くことにした。
「それで永琳がね」
「さっさと先に進みなさいよ!」
出だしの話が30分以上続いていい加減いらついた私は輝夜に向かって吼えると
少し驚いた顔をした輝夜は再び微笑んでアリスの話のことを思い出したようだ。
「パチュリーはアリスのことが好きなのね」
「・・・」
「ふふっ、好きな人がいるって素敵よね」
言われてついダンマリを決めてしまう辺り、認めているようで少し悔しかった。
でもそのことを知っても輝夜は特に突っ込むことはせずに嬉しそうに呟いてから
話を再開する。
初めてこの場所で話すのに徐々に私の中で力が抜けていくのを感じていた。
どこか心を許していくような、友人のような、不思議な感覚。
「パチュリー?」
「貴女って・・・変よね」
「えぇ〜?」
「悪い意味じゃないわよ…でも、立場ある人物がこんなとこ一人で来ていいわけ?」
「あ、あんまりよくない。永琳に後で怒られちゃうかも」
「でしょ、だから…」
「でも、でもね。パチュリー。私ずっとこうやって自分の足で行きたい場所行って
誰かのお手伝いしたり、おしゃべりしたりするのずっと憧れてたの」
「え・・・?」
私の一言から途端に表情をころころ変える輝夜が面白くてジッと見てると
予想にしてなかった言葉が返ってきた。そんなことが憧れだとは思わなかったから。
「どうしてそう思ったの?」
私は輝夜に聞いてみると、輝夜は遠い目をして過去を思い返すようにしながら
呟いていた。
「昔の話よ」
そう言って軽く頭を横に振って笑みを浮かべていたのが少し痛々しく私には見えた。
その後少しだけ、今までできなかったことがやりたかっただけと言っていた。
「そう…アリスの紹介じゃあ仕方ないわね」
本当は気分を害さない分、ここの出入りを許可しようと思ったけれど私は素直に
言えない性質だから少し皮肉を含んで言うと、そっと私の隣に回り込んだ輝夜が
おもむろに私の頭を撫で始めた。
不意にやられたからなのか、それとも別の感情が働いたからなのかドキッと
強い鼓動を感じた。
「ふふ、パチュリーはいい子ね」
「ちょっ、やめ・・・」
更に私の傍まで来る輝夜から手から伝わる温もりと心地良くなるくらいの
撫で方、そして傍にいるせいか何だか良い匂いもしてくる気がした。
自分でも驚くくらい動揺して輝夜のなでなでを少し強めに断ると輝夜はうっかりと
ばかりに苦笑いをして私に謝ってきた。
「ごめんなさい。いつもイナバ達にやってる癖がついちゃっていて」
「私はウサギじゃないのよ…」
「本当にごめんなさい」
「どっちにしろ、上に立つものが気軽にうろうろするのはどうかと思うけど。
威厳とかそういうの、貴女たちも大切なものでしょう?」
「うーん、永琳はそういうの拘ってそうだけれど。私は特に…」
「そう・・・ほんとうに変わってるわね」
悟ったような顔しちゃって…。傲慢不遜なやつも嫌いだけれど、こういう自信が
ないのを諦めてるのも好きになれない。だけど・・・。
「何だか怒ってる…?」
私がしかめっ面で黙っているのを気にしているのか、私の顔を伺ってくる。
それを見ていると色々調子が狂ってきてしまうのだ。
本人に自覚はないかもしれないけど、人を惹き付ける力がすごい。
実力とかカリスマ性などとは別の位置にある魅力。妖怪も人もそれに寄せられる。
魔女である私でもあれだけ強く持っていた警戒心がどんどん解けていって怖くなる
くらいよ。
これがお姫様特有の空気を持つものなのかしら。そうかそうでないかはどっちにしろ
あまり長く一緒にいるといらないことまで起こりそうだから早めに帰したほうが
いいかもしれなかった。
「別に…。それよりも時間は大丈夫? かなり時間が経過しているみたいだけど」
手元にある懐中時計に目を配ると外はもう夜に差し掛かる頃だ。
それを私の時計で確認した輝夜は青ざめたような顔をして少し慌てていた。
仕草一つ一つが見ている者、関わっている者の目を離させない。
意図的にやっていないとするならこれはかなり…本人にとっては辛いのかもしれない。
「咲夜」
「お呼びでしょうか、パチュリー様」
「あれ!?いつの間に?」
話している時には私と輝夜だけだったのに私の一声で一瞬で来た咲夜に驚いた様子の
輝夜。どうやら時を止めてここまで来たことには気付いていないようだ。
「永遠亭の姫を人里辺りにまで送っていってあげなさい」
「え、でも・・・」
「いくら不老不死の貴女でも攻撃されたら、痛いのでしょう。咲夜に送ってもらいなさい」
「何で知って・・・?」
私の言葉に不思議そうな顔をしながら首を傾げる輝夜に。
「私の周りにはその場に留まり続けるのが苦手なのが二人ほどいてね。
その二人に色々情報もらってるのよ」
「あ、なるほど」
そう言って笑みを浮かべながら咲夜の方を見ると、咲夜は咄嗟に視線を逸らした。
それで終わりかと思って帰そうとすると。少し困ったような顔をしているから聞いてみた。
「他に何か?」
「あの・・・本読みに来たのに・・・お話に夢中になっちゃって」
「はぁ・・・」
「ごめんなさい。帰ります・・・」
私の溜息が気分が悪いのかと考えたのか、輝夜がしおらしくして帰ろうとした時。
私は去ろうとする二人を制止した。
「待ちなさい」
「え?」
「小悪魔・・・これとあれを」
「かしこまりました」
小悪魔を呼びつけているのをきょとんとして見る輝夜が数分待っていると
小悪魔が私の言った本を二冊抱えて輝夜に直接渡してきた。
「これ・・・」
「貴女でも読めそうな物語の本よ。外の世界から来たものだから貴重なの。
大切に読んでね。読み終えて返してくれればそれでいいわ」
「ありがとう、パチュリー…」
すごく大切にその二冊を抱きしめる輝夜が少し…愛おしく見えた。
そして私の前から去った二人を確認してから再び自分の読書を再開させた。
気付いただろうか。また遊びに来ても構わないという、私の意図に…。
「まぁ、どっちでもいいわね」
気付いたにしろ、気付かなかったにしろ…。
****
【輝夜】
「ふふっ」
「どうされました?」
パチュリーの図書館から出て、夜中の空を飛びながら咲夜に案内されている
私はつい笑みをこぼしてしまう。
あまりに嬉しくて貸してくれた本を少し強く握っていた。
「いい人たちね、紅魔館の人たちは」
「そうですね…」
「少し怖いとこだってアリスから聞いていたものだから」
「普通は怖がるものなんですよ、普通はね」
確かにここまで来るのに咲夜や門番さんに威嚇攻撃された時はびっくりして、
争うのは嫌だから能力を使って咲夜の前まで行ってお願いしたのを思い出した。
「確かにそうかも!」
「ほんと変わった方ですね」
「よく言われるわ」
褒められていないことはわかるけれど、何だか嬉しくてつい笑ってしまう。
狭い世界でしか生きていなかった私に少しずつでも世界が広がっていくのは
嬉しくて仕方がない。
やがて目的地まで辿り着くと夜中なのに人里まで送ってくれた咲夜にお礼を言う。
すると咲夜は私に頭を下げて…。
「私たちのことをそう言ってくれるのは貴女を含めて少ししかいません。
なので、ありがとうと言っておきます」
「うん」
「またいらしてください。特別な扱いなど、一切いたしませんから」
「えぇ、嬉しいわ」
真顔でそう私に言って頭を下げた後、咲夜はすごい速度で飛んでいって
すぐに見えなくなってしまった。
そしてその場にいても静けさしか残らず、寂しさを感じた私は永遠亭に向かって
ゆっくり飛んでいった。この本をゆっくり読みたくて少し早めに飛んで帰った。
まぁでも本を読む前に永琳の説教が待ってるのかと思うと少し憂鬱に思う私であった。
お終い
説明 | ||
人里行っていたらアリスとかとも仲良くなれそうな輝夜。 そこからの発展した話としてこうなりました。 輝夜は不器用だけど平和に楽しくやりたいタイプだと思いますね。 基本穏やかなイメージ。 そんな輝夜と同じく人相手だと不器用なパチュリーのそんなやりとりに少しでもニヤニヤかほのぼのしてもらえたら嬉しいです♪(ちなみに以前書いたパチェアリみたいに二人は親友か好きあってる辺りの設定です) |
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