Free Trigger 第1話「囚われた吸血鬼」
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 ガルバ暦1184年、((闇黒月|あんこくげつ))12日、午後8時。

 ガルバ帝国と吸血鬼達の戦争は激化していた。

 その中で吸血鬼の司令官リィリイ・ツェペスは、将軍ルディンを討ち取るという功績を上げた。

 彼女によって吸血鬼側が徐々に押していき、人間側は窮地に陥ってしまった。

 

 しかし、人間側も手を拱いていたわけではない。

 もしも人間が吸血鬼に変異してしまえば、人間のみの帝国が成り立たなくなってしまう。

 そのため、人間側は代々吸血鬼を退治してきた家系の戦士を切り札として用意した。

 

 切り札たるノヴァの剣技「エヌマ・エリシュ」により、吸血鬼達は次々と切り伏せられていった。

 そして、リィリイ達も追い詰められてしまった。

 

「く……!」

「人間を舐めるなよ、ヴァンパイア」

「私達は、((醜|みにく))い……人間を……皆殺しに……!」

「……これでもか?」

 ノヴァに剣を向けられるリィリイ。

 彼女は即座に、それが吸血鬼を殺す武器だと判明。

 打つ手をなくしたリィリイ達はノヴァに降伏した。

「……そうか、貴様の答えはこれか。ふん、そこまでするならば殺さない。……だが、貴様らはここに来てもらうぞ」

「……」

 

 吸血鬼達は、ガルバ帝国の教会に幽閉された。

 聖なる力に弱い吸血鬼達は、この中では身体能力や魔力が低下してしまう。

 そのため、吸血鬼達にとっては非常に居心地の悪い場所なのだ。

 

 そして、その地下牢の中に、女性―ミロがいた。

 リィリイを姉のように慕い、共に戦ったが、彼女もノヴァに降伏し、この教会に幽閉された。

 また、ミロは「真祖」と呼ばれる、世界に4人しかいない最上位の吸血鬼である。

 強大な力を持つため、ガルバ帝国の者であっても彼女を幽閉するのは難しかったという。

 

「お姉ちゃん……どこにいるのかしら……」

 ミロは何とかして、この牢から出ようとしていた。

 しかしこの格子は吸血鬼が嫌う物質でできており、現在の彼女では触れる事すらできない。

 そうしている間にも、リィリイは死んでいるかもしれない。

 果たして、リィリイは無事なのだろうか。

 

―コツン、コツン

 足音が聞こえる。

 向こうから誰かが来ている。

 まさか、悪い人間ではないのか。

 ミロは、音のした方に歩いた。

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「いるか?」

 ミロの目の前には、長剣を携えた一人の男がいた。

 外見は人間に似ているが、血のように赤い瞳と、長い犬歯から、吸血鬼の血族であると分かった。

「あたしを助けに来てくれたのね」

「同族だからな」

「ふーん。ということはあなた、吸血鬼?」

「半分はな」

 どうやらこの男は((半吸血鬼|ダンピール))らしい。

「……でも、この格子は頑丈よ? あたし、触る事すらできなかったわ」

「下がっていろ」

「え?」

 男に言われ、ミロは後ろに下がった。

 そして、男は長剣を抜刀する。

 すると、格子はあっけなく切り裂かれた。

「格子が……!」

「まずは、ここから出る事に専念しろ。それと、この教会には、人間の武僧が多くいる。

 今のお前では、間違いなく殺されるだろう。だから、お前は俺の後ろにいろ」

「……むぅ」

 自分も戦いたいが、力の大半を封じられた今は彼に逆らう事ができない。

 ミロは渋々男についていくのであった。

 

 教会では、武装した神官達が見張っていた。

 見つからないよう、二人は慎重に進んでいく。

「あいつらの攻撃は、魔の者にとって致命傷となる。できるだけ傷つかないようにするんだぞ」

「ええ」

 神官達の目を逸らしつつ先に進む二人。

 ふと、ミロは向こうに宝箱があるのを見た。

「あ、宝箱があるわ!」

「待て! 罠があるかもしれな……」

 男の制止も聞かず、宝箱の方に向かうミロ。

 周囲に武僧達もいないため、彼女が安心してそれを開けると、

―ビーッ、ビーッ、ビーッ

「!?」

 突然、警報が鳴り響いた。

「いたぞ! 脱走者だ!!」

「すぐに捕えろ!!」

 すぐさま武僧達が二人のところに来る。

「やば! 見つかったわ!!」

「逃げろ!」

「ええ!!」

「逃がすか!!」

 

 何とか武僧達を振り切った二人。

「ここまでくれば、大丈夫でしょ」

「……まあ、な」

「それにしても人間って相当酷い奴ね。あたし達、善良な吸血鬼すらも排除するなんて」

「……そうだな」

「あなたも半分、人間なんでしょ? なのになんで、あたしを助けたの?」

「……吸血鬼として生きる道を選んだからだ」

「へえ」

 ダンピールは「吸血鬼キラー」と呼ばれるが、どうやらこの男は吸血鬼として生きているらしい。

 なので、ミロ達の味方をしているのだ。

「これからお前はどうするのだ?」

「もちろん、みんなを助けてここから脱出するの」

「脱出した後は、どうする?」

「あたし達を閉じ込めたあいつらを皆殺しにするわ……!」

「……いい心意気だ。俺も協力しよう」

「ホント!?」

「ああ」

 

 こうして、ミロとダンピールの男の、教会脱出計画は始まった。

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別のところで連載していた短編小説をこちらでも連載する事にしました。
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