しあわせなおうさま(同人誌から)
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王国の執務室。平たく言えばパタリロ王のプライベート・ルームから声が零れていた。

「だからだな、お前にいい話だと言っておるだろうが。少佐などとヒラにならんでもいいし、給料も倍額・・・・」

「美味い事を言って安月給でコキ使う気だろう!冗談じゃない。私はここでいいんだ!」

 電話口から出ているのはイギリス情報部のバンコラン少佐である。お馴染みと言ってしまえばそれまでだが、パタリロのいつものおちょくり話なのか、はたまた本気か。

「一生女王にかしづくわけか。ふん、それも良かろう。お前はいいだろうが歩合給でない限り上がりもせんぞ。位は」

10歳の王は子供らしからぬ笑みを浮かべた。多少は本気だったのだろうか。

「お前とこれ以上関わる位なら、テームズ川へ身を投げたいよ」

「ほお。では死ね。マライヒと子供、わが国とイギリスの外交が狂うくらいだがな」

パタリロの本気は見えない。黙ってしまった相手に、けろりとして続ける。

「今までのは前置きだった。実はなこの間ぼくを狙ったテロリストから救ってもらったが、あれは新興勢力の奴でな。アメリカやフランスでも散発的に閣僚を狙うらしい・・・しかし手口が幼稚でいずれも未遂で終わっている。その所為かかえって捕まえにくいらしい。−後はお前が良く知ってるな?」

 ああ、とバンコランは話を継いだ。

「最近わが国でも、爆破予告とかありがたくない贈り物をくれる組織のことだろう。過去にビョルンとかいう謎の男が何処かへ去って、しばらく静かだったんだがな・・・・」

「その線だ。カンがいいぞ、その謎のおっさんの話だ。バンコランお前の登場だ。鬱陶しいハエを消すチャンスだぞ。ビョルン程の値打ちもない死にたくない奴を処刑する」

 

 場面変わって、ここはパタリロの国の空港だ。基本的に常春の気候だが今日に限って初夏のような陽気に照らされていた。

(遅い・・・・)

空港にたたずむ17〜8歳のまだあどけなさの抜けない少年は、きょろきょろと激しい陽光と沢山の人に囲まれて落ち着かない様子だった。

「君がアンドレセン大使だな?この国と貿易の交渉に来た、ピンア国の」

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 いきなり話しかけられて、少年ーアンドレセンは慌てて振り向いた。そこにバンコランが立っていた。アンドレセンの心に動揺が走る。それほどまでにバンコランの目とは少年にとって魅力的なのだ。

「どうなんだ?君か?」

「は、はい!僕がそうです!行きましょう、貴方の名は・・・」

「付き合いたくはないが、此処の王の知り合いでな。バンコランだ」

「バン・・・コラン」

アンドレセンは繰り返し言葉を転がし、さっさと歩き始めた男の後を追った。

 

 さて此処はパタリロの宮殿の応接室である。アンドレセンを前に、パタリロの饒舌が始まった。

「君が大使殿か。ずいぶん若いようだな。こっちは王が出てきてると言うのにそちらの国では、子供の使いをよこすわけだな。面白い趣向だが・・・・まぁ人のことは言えぬがな」

 パタリロは笑ったが、アンドレセンはそうはいかなかった。もっとも同席していたバンコランにとってもこの発言は妙だった。どうしたんだ?パタリロ、お前はもう少し慎重じゃないのか?−これはバンコランの心の発言である。

 しかし言われてる方も黙っているわけにはいかなくなったらしい。

「お言葉ですが殿下。確かに私は若輩者ですが、わが国は貴方の国から依頼されて来たのですよ。別に此処で交渉を断ち切っても困りはしない。解かっておられないのは貴方の方ではないのですか」

「忠告有り難う。意見として承っておこうか。−しかし本当に君はうちの国言葉が上手いね。君の話どおりだと別にぼくの国言葉を練習する理由はないと思うのだがどうだろう?なんて親切な話だ。感動に値するが」

 そうだ。パタリロは、会ったときからずっと自分の国の言葉で喋り続けていたのだ。本来なら共通語の英語か、それこそ通訳つきでピンア国の言葉でも良かったはずなのに。何故彼はそうしなかったのか。この時、バンコランは外にいたのだ。情報を手に入れて。

「パタリロ!少年を借りるぞ!!さあ、来たまえ」

アンドレセンはバンコランに引きづられるように出て行った。残されたパタリロは少し笑った。

「解かったのか。やっと」

部下Wがおろおろしてやってきた。

「大丈夫なんでしょうか・・?殿下」

「かまわんさ。本当の大使は水に浮いていたとか。さっき報告があったんだ。−そうするとあいつは誰なんだろうなあ?」

 

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春がちょっと行くとこんな暑さになるのだろうか。庭に咲き乱れる花を見ても、サンルームにかかる日差しを計っても初夏のような暑さだ。

 そこにバンコランとアンドレセンは立っていた。少年の頬は少し赤らんでいる。上気しているのだ。

「僕は・・・・ただの大使ですよ・・・?貴方の話には・・・・」

「頼む!教えてくれないか。君は誰なんだ?本当の大使ではないことは知った」

バンコランは肩をつかんで怒鳴るように言った。アンドレセンがは、としている。

「君が大使でないことはさっき部下から聞いた。だが・・・。”アンドレセン”の名はもう長く我々か犯罪者の中でしか語り継がれていない。誰も、だ!どうして知っている?普通の人間は知らないはずだ!!」

 アンドレセンと名乗る少年は顔を見て、下を見て呟くように言う。

「この名前くらい世界中探せばあるんじゃないの?でもあんたの言うとおりだよ。僕が偽の大使だって事はね。殺して入れ替わったのさ。あの生意気なガキ王、感づいてたみたいだけど。ある人たちに仕込まれてーそしてこのヤマを乗り越えれば正式な人間になれる。誰にも邪魔はさせないよ。組織を裏切るくらいなら死を選ぶ!」

 銃声。それを今まで見ていたのは、パタリロで再び子供らしくなく笑った。

「ふ」

二人はどうなったか?

 

「そうか、ご苦労だった。休んでくれ」

再びパタリロの私室。バンコランに向かってパタリロはヤレヤレと手を広げた。

電話を切った彼は上目遣いに見た。

「・・何故殺さなかった?偽アンドレセンはそれを願っただろうに」

バンコランは座っていたがパタリロを見なかった。

「お前もなかなかだな!病院へ警官を配置だと?顔に怪我をさせたのは私がやったがな。治ったら法廷で証言させる?話すと思っているのか!?」

「喋るだろう。組織はアンドレセンに何の期待も持ってなかったのだしな。奴が失敗したら爆破するように出来ていたのだからな。・・・・もっとも虎の威を借りてしか物が言えぬ奴がどれほどの事実を知っているか、は知らんがな。・・・・」

バンコランははっきり音を立てて立ち上がった。椅子が倒れてしまった。

「お前は!知っていてシナリオを描いたのか?囮にでもなる気だったのか!!」

「馬鹿言え。怪我などしたくないぞ。ただあいつが何処までやれるか、そいつを知りたかっただけだ。結果か?糞つまらんな」

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パタリロの予言どおり、アンドレセンは(と本人が名乗る)惨めに生きながらえるか?それは、この時点では誰も知らない。情報は大して引き出せなかったそうだが。

 

テロ組織はしばらくなりを潜めた。バンコランはこの働きに対し、沢山の報酬を貰ったが、心は重い。一人の男の人生を歪めてしまった気がするからだ。だがもう元には戻せない。

 罠にはめたのは、パタリロかそれとも自分なのか。しかしバンコランはもう少し非常に徹するべきだった。意外な行動に出られたからだった。

 アンドレセンが自爆に出て、病院に多数の死者が出た。この時も本人は助かったが、何の罪もない犠牲者が出たのは、情報部の所為だったかも知れない。

 

 攻め立てる者は誰もいなかったが。

 

 この時、本当に珍しい話だがパタリロがバンコランに謝りの電話を入れてきた。被害者はパタリロの国の住人だったのに。自分の趣向に合わせて悪かった、と。ただそれだけだったが、バンコランはそれなりに納得した。あいつも人の心があったのだろうか、ただそれだけを考えて。

 

 ただ暫く後、情報部の彼宛に国際電話代が送られてこなければ、もっと良かったのにとつくづくバンコランは思ったのだった。

「パタリロめが・・・」

ーそしてまた、”しあわせなおうさま”こんなに人に思われて幸せな王様ーは小さな国に君臨する。国も小さければ、王様も小さい。そんな噂を今日も頂きながら日が昇っていく。

     終わり

 

  

説明
パタリロ!のシリアスパロディ。前にパタリロの命を狙ったテロリストの後日談です。バンコランが多く出てきます。
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パタリロ! バンコラン、パタリロ、 

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