Free Trigger 第6話「真祖の力」 |
「……さて、と」
「ん?」
「いい加減にお姉ちゃんを見つけないと、ね」
「お姉ちゃん? ああ……彼女ですね」
ミロが言う『お姉ちゃん』とは、戦争において吸血鬼側の司令官を務めたリィリイの事である。
彼女も人間に降伏した際、ここに幽閉された。
幸い、リィリイの戦闘能力はかなりのもので、恐らく幽閉されていても挫けていないだろう。
「人間に何かされてないか心配だわ。行きましょ!」
「え、ええ、分かりました」
ミロ達はリィリイを探す事にした。
「お姉ちゃーん! お姉ちゃーん!」
「いい年して『お姉ちゃん』は……」
「それは言うな」
「うぐっ」
ユミルの毒舌を注意する男。
その後も四人はリィリイを探すのだが、何分経ってもリィリイは見つからなかった。
「どこにいるのよ、ったく……!」
「落ち着いてください、主様」
「これが落ち着いていられる!?」
「主様、もう少し冷静に……」
「あー、ミロさんはこういう人なんですよ。家族が関わると熱くなっちゃうんです」
「……仕方ありませんね。私が探しましょう」
「え?」
クラウディアは、辺りを調べ始めた。
「まずはここらに落ちているものを調べたり、痕跡を調べたりして、推理しましょう」
「流石はクラウディア、頭が回るわね……」
「というわけで、情報を整理します」
クラウディアは(武僧に見つからないように)地下一階を調べた後、情報をまとめた。
〜地下一階の情報〜
A B C
● ○
D E F
●=現在地
○=出口へ続く階段
・BとEのドアが傷ついている
・AとEの間に血痕がある
「恐らく、誰かが争った跡だと思われます」
「へえ……」
「そして、こちら側には何の痕跡も残っていません」
そう言って、クラウディアはCとFの間を指した。
「それじゃ、お姉ちゃんがいるのはここなのね」
そう言って、ミロはBのドアを指した。
「私の推理が正しければ、ですが」
「へえ。じゃあ、準備してから行きましょう」
「珍しいな、お前がそんな事を言うとは」
「えっと、知ってるの?」
「お前の行動から推測しただけだ」
リィリイを救うため、ミロ達は準備を行った。
体操、武器の手入れ、気持ちの整理など……。
「落ち着かなきゃ、いけない……。落ち着かなきゃ、お姉ちゃんを助けられない……」
「そうですよミロさん、こういう時こそ冷静に」
「彼の言う通りだ」
「主様、気は抜かないように……」
数分後。
「さあ、お姉ちゃんを助けに行くわよ!」
「ああ」
「「はい!」」
そして、ミロはドアノブに手を掛け、捻った。
「いた! 今助けに行……」
リィリイはあっさり見つかった。
ミロは急いでリィリイのところに行く。
しかし、何かに弾き飛ばされてしまった。
「何よ、これ。バリア?」
「そうみたい……ですね」
ユミルが冷静にリィリイの方を見てそう言う。
「斬れないの?」
「やる価値はある」
男は長剣を抜いて、バリアの方に振るった。
だが、長剣は弾き返された。
「あなたの長剣も効かないなんて……」
「当然、私の細剣も効かないと思うわ」
クラウディアの剣もバリアを壊せない。
どうしようかと迷っていた、その時。
「その結界は真祖の貴様なら壊せるだろう?」
「あ、あたしが、真祖……!?」
リィリイを捕らえていた人間が姿を現し、ミロの種族について話す。
彼女は自分の種族を知らされて驚愕した。
強大な身体能力、どんな重傷も治癒する回復力、そして、魂を現世に縛りつける不死性……。
真祖はそれらを全て、併せ持っているのだ。
ショックを受けているミロに、その人間はさらに追い打ちをかけた。
「そして、私はジークフリード家の分家の1つ、ブリュンヒ家の現当主、セルア・ブリュンヒだ。
ジークフリードとその分家は吸血鬼を憎んでいる。故に真祖含め全ての吸血鬼は滅びなければならぬ」
「そんな……! うぐっ……!」
目の前の人間が言う言葉に挫けかけるミロ。
その影響で吸血衝動が目覚め始めている。
だが、彼女は決して人間の血は吸わない。
吸血衝動に呑まれれば暴走するからだ。
「嘘でしょ……!」
「戯言ではない、これが真実だ」
「だったら、あたし達が生き残るためには……」
「ジークフリードとその分家を滅ぼすしかない」
「…………」
その言葉を聞き、ミロの中で何かが弾けた。
同時に、彼女の目つきが変わる。
ミロの異変を察知するユミルは、彼女に近付くが、
「来ないで」
「うわ!」
ミロに弾き飛ばされた。
―ガシャァァァァァン
そして、ミロはバリアを簡単に破壊した。
「おお……やはり真祖の力は凄まじい……!」
彼女の力を見て喜ぶセルア。
やはり何か企んでいる様子だ。
「どうしたんでしょう、ミロさん……」
「分からん……だが、様子がおかしいのは確かだ。今は手を出さず、彼女を見守るしかない」
「主様……」
ミロとセルアの戦いが始まる。
「壊す」
「壊れるのは貴様の方だ」
セルアの剣が、ミロに向かって振り下ろす。
ミロは素早い動きでそれをかわし、爪を向けた。
「死ね」
ミロはそう言って、セルアを切り裂く。
セルアの身体から血が飛び散った。
「ぐっ……だが、私は負けぬよ」
セルアは身体を起こし、立ち上がる。
そしてミロに向かって剣を振り下ろす。
「邪魔だ」
「馬鹿な!」
ミロは素手で剣を受け止め、折った。
セルアは自分の剣を素手で折られた事に驚く。
何故ならば、その剣は魔導金属ルゴルトでできており、素手で折るのは困難だからだ。
「……私の剣を折るとは、流石真祖だな。だが、人間の力も舐めるなよ!」
剣を折られたセルアが呪文を唱える。
呪文と共に巨大なエネルギー弾が放たれた。
ミロはそれをまともに受けてしまう。
「ぐ……」
「ミロさん!」
「……まだだ、まだ終わらない」
「何っ!?」
あの呪文をまともに食らったにも関わらず、ミロは倒れていなかった。
そして、ミロがセルアに迫る。
「……消えろ」
「ぐああぁぁぁぁぁぁぁ……!」
ミロの爪がセルアの急所を貫く。
セルアの顔が苦痛に歪んだ。
ミロは逃がさずセルアを追い詰める。
「真祖と人間、強いのはどちらかな?」
「ひ……」
そして、ミロは歪んだ笑みを浮かべた。
それと同時に、セルアが恐怖する。
「……これで、終わりだな」
そして、ミロがセルアに向かって爪を振りかざそうとした、その時だった。
「ド・ゲイト・デ・テラ・マ・ギ!!」
ユミルが「エネルギーボルト」の呪文を唱えた。
ミロは呪文を避けようとしたが、突然、エネルギー弾が放たれたので避けきれず、
命中して気絶してしまった。
「ミロさん、自分を失っちゃ駄目です。
ボクは、ミロさんが吸血衝動に呑み込まれて、暴走するところを見たくはありません。
……暴走したミロさんは、ミロさんじゃない。
いつものミロさんが、ボクは好きです。優しくて、仲間思いな、ミロさんが。
なのに、暴走するなんて……そんなの嫌です!」
ユミルは必死で、ミロに呼びかけた。
自我を失ったミロを助けるために。
そんなユミルの顔には、涙が浮かんでいた。
その顔を見た男が驚く。
「……驚いたな。これが忠誠心というものか。吸血鬼には存在しないというのに……」
「……そんな事はありませんよ。ただ、ボクが思った事を言ってるだけです」
ユミルが笑顔で男でそう言う。
その顔を見て男の中でも何かが変わったのか、
「……ふ、確かにお前の言う通りだな」
男は、普段見せない、笑顔を見せた。
「……わあ……! 嬉しいです……!」
「そう……かな……?」
「はい! とっても! だって、あんな無愛想だったあの人が、笑顔を見せたんですよ?」
「……そうね。普段、無愛想な人ほど、笑顔は魅力的だし」
「えへへへへ……」
「……ん?」
しばらくして、ミロが起き上がる。
その顔は、いつもの彼女だった。
「やったぁ! ミロさん、元に戻ったんですね!」
「はわわわ……何よ何よ」
いきなりユミルに抱き付かれて驚くミロ。
だが、満更でもない様子だ。
「本当に、暴走し続けなくてよかった……。ボク、とっても心配したんですよ」
「ユミル……ねえ、その……」
「な、何ですか?」
「お姉ちゃん、助けてよ……」
「……は! そうでした!」
慌てて両手をミロから外すユミル。
ユミルは急いでリィリイの方に向かった。
「はい、これで大丈夫ですよ」
リィリイの鎖を外し、自由にしたユミル。
「ありがとう。妹の方は大丈夫?」
「ええ、もちろん、大丈夫ですよ。ほら」
「わわっ!」
ユミルはミロの背中を押した。
「……お姉ちゃん」
「何? ミロ」
「……生きててくれて、ありがとう」
「当然よ、妹のために頑張ったんだから」
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ここで主人公の正体が判明します。 | ||
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