年越し短編 in 九番目の熾天使・外伝 |
狭間の世界「アヴァロン」の東部。
東の果てにあるその街は、ある者たちから言わせればこう呼べる光景だ。
和の町。
これは年の瀬となった時、和の町「カムイ」であった小さな幕間の話―――
蒼崎夜深はこの町、カムイを嫌う。
というのも別に町そのものを嫌うのではなく、町のもう一つの顔を彼は嫌っているのだ。
歴史に影あり。それはどんな所にもある「当たり前」のこと。
だからこそ、彼はそれを嫌う。影だからと言って切り捨てるその真実を。
「…ふぅ」
小さく冷たい息を吐くと、空気の寒さからか吐息が白くなって現れる。
それほど寒いのか、と思うが一瞬のことで冷めて空気へと還っていく。
時折ここに来て、決まった場所に座って彼は思う。
こんな息のように自分のこの嫌だと思う感覚も冷めて消えて行ってもくれないだろうか、と。
「おーい、式ぃ!」
「ん…」
何処かから本当の名を呼ばれた蒼崎は声のするほうへと振り向く。
自分の事を「式」と呼ぶ人間は数少ない。そして、この町カムイで呼ぶとなれば、もうそれはたった一人だけだ。
「よっ。待たせたな」
「―――いや。俺も少しまえに来たところだ」
銀色の髪をサイドテールで纏めた少女は動きやすい様に仕立て直された和服とジャンバーを着こなし、軽い下駄の音を鳴らす。
ただ動きやすくするためではない、いざという時に戦いやすくするように独自にアレンジされているもので、更には服の中に色々と武器などを隠せるようにしているのだ。
「ホントか?にしちゃあ随分と早く食べたんだな」
「ん…」
にやけながら指さす所には年越しのためか餅と醤油のが残っており、更に隣にはほとんど残っていない緑茶の湯呑が置かれていた。
小さなことだが、ちょっとした失態に黙り込んでしまう蒼崎を見て少女は笑う。
一本取ったな。と勝ち誇った笑顔を見せる。
「今年も年の瀬だっていうのに、大丈夫か?」
「お前の所よかマシだよ。レイナ」
「…まぁ、そうかもしれねーな………おばちゃーん!アタシも白餅と赤いのの二つー!」
あいよー、と奥の厨房から聞こえる元気な壮年の女性の声を聞き、((春覬|ときね))レイナは蒼崎夜深と同じ長椅子に腰下ろす。
ジャンバーの中に着物という異風な服装は流石に目立つようで時折道行く人が彼女の服装を見て不思議がる。
しかし当人もそうすることでしか肌寒さをしのげず、持ち合わせの生地の厚い服もそれしか持っていなかった。
「寒い寒い…今年は良い年越しを過ごせそうだ」
「お前…他に服買っとけって言っただろ」
「しゃーねーだろ。アタシゃファッションに興味ぎごぜぇませんので、ってな」
「女だから持つかと思ったが…俺のミスか」
何故か彼女に負けた気がする蒼崎は頭を抱えて自分のミスだと責める。
当人は言い合いに勝ったからか、してやったりと言う顔で両手を裾に入れると時々小刻みに体を震わせながら素足が見えるのを承知でぶらつかせる。
夜は深く、月も空を彩っている中、町は小さな明かりなどがそこら中に灯っており、まだまだ活気を見せている。新年まであと少しだからか、店内に居る客も酒を飲んで楽しんでいる様子だ。話し声ももうすぐ新年だったり今年の事を振り返ったりとありきたりな話で盛り上がっている。
しかしそんなよくある話で盛り上がるわけもないし、蒼崎自身あまりそういう事に気分が乗らない。
それでも空を見上げたレイナは不意に話を切り出す。
「今年ももう終わりだなぁ…」
「ああ。早いもんだよ。一年は」
「ジジイ臭いこと言うなよ。嫌われるぜ?」
「問題ない。嫌われるのは慣れてるよ」
意地の悪そうに答えるられるが、セリフの違和感に横顔を少しだけ眺めると彼の顔に気づき小さく口を開いた。
本当に。心の底から、嫌っているのだと。
「………。」
「…レイ?」
普段から名前を縮めて呼ぶ蒼崎だが、振り向くとつまんなさそうな顔で街並みを眺めるレイナの顔に失敗したと黙り込んでしまう。
蒼崎夜深は嫌われるのには慣れている。
だが、彼が嫌っているカムイは慣れもしないし慣れることもない。
ただそのあり方をありのまま見せているだけだというのに、彼はそれも同じだと言って吐き捨ててしまう。
そんな彼の顔を見たくなかったレイナは不機嫌そうな顔でぽつりと呟いた。
「…まだ嫌ってるのかよ」
「………。」
「いい加減、この町だけでもそれは止めて欲しいんだがな…」
「…それは…無理な話だ」
「―――なんでだよ」
「…嫌なんだよ。((あそこ|・・・))をひた隠しする、この町の連中が。
知ってて知らないフリして、見ているのに知らないフリしてよ。
腹が立つんだ。あんなのを平気でのさばらせてるこいつらが…」
拳を強く握り話す蒼崎にレイナは振り向かずただ話を聞き続けた。
気持ちが解らないわけでもない。嫌いだという気持ちも、それを隠す奴らへの想いも。
しかし。
しかしそれでは。と彼女は反論する。
「なら、式はいいのかよ」
「は………ッ」
「見て見ぬフリする奴が許せないってのは別にいいさ。けどよ。
みんなそうしたくてそうしてるワケじゃねぇんだよ」
冷めたような目で言うレイナは蒼崎とは目を合わせずにそう答える。
だが、その目は確かに彼に向いている。自分に向いているのだと、彼自身はそう感じてしまう。
「本当に知らない奴だっている。知ってても話せない奴もいる。一口で話せないって言っても、みんな理由は様々だ。
けどだからって、そんな理由知るかって言ってかなぐり捨てていいのか」
「それは―――」
「それがもし。アンタ自身だったらどうする。都合の悪いモンひたむきに隠して、隠したモンが「気に入らねぇ」の一言で壊されるの」
「ッ―――」
「―――いやだろ?みんな必死で隠してるのに、知られたらマズイって…本当はやっちゃいけねぇって分かってるのに…それしかないのに壊されるのは」
「………俺は」
「嫌いならそれでいいさ。アタシも止めはしない。けどな。だからって…それで壊そうっていうのだけは止めてくれ、式。
そうは思うけど…良い奴っていうのは絶対一人は居るからさ」
二人の間に沈黙が流れる。
ちょっとした話から始まった事だが、それでも、どうしてもこれだけは言いたかったとレイナは一人語った。
例えそれに納得できなくても、納得したくなくても。それだけは言いたいと彼女は言った。
もし、これで彼との関係が崩れても、だ。
「…湿っぽい話はここまでにしようぜ。そろそろアタシのも来るし」
一拍置いて口を開いたレイナは店員が運んできた餅と湯呑を見て微笑む。
そこには小さな焼かれた餅が二つ置かれ上から少し醤油が欠けられており、ほんのりと香りを漂わせる。
紅白の餅は表面を少しこんがりと焼き上げられ、外は硬くも中はやわらかくなっている。
おしぼりを貰い素手で餅を取ると醤油を付け直して食べ始める。出来たてだからかまだ少し熱く、しかし外の冷たさからか暖かくも感じるが食べなければ固まって上手くなくなってしまう。
「いっただきまーす!」
熱がりながらも餅を頬張るレイナは一口では熱くて食べられないからか半分に割ってかじりつく。
まだ熱を帯びている餅の中はやわらかく、口元から離せば一本の糸のように伸びる。
遊びながらも食べる彼女に蒼崎は微笑ましそうな顔でそれを眺める。食べている姿を見ればタダの少女だが、そろそろ彼女も「少女」という年頃を卒業する年齢だ。
「…もう十二年…いや、十三年か」
偶然の出会いから既にそれだけ経っているという事に半ば驚きのようなのを感じる彼は、時の流れがそんなにも早いのだというのに改めて驚かされる。
始め出会って間もないころは自分の足のあたりしかなかった背丈の少女が、今ではこうし座れば自分とあまり変わりのない背になり、綺麗な着物を身に着けている。あんなに泣き虫だった少女が今こうして自分のとなりで笑顔で餅を食べている。
時間が経つのは早いものだ。
「お次は…」
「………。」
今でも思う所あるのは事実だが、それでも彼女が元気に過ごしている姿を見て時折ほっと胸をなでおろす。
今居る所が訳アリな場所で、場合によっては彼が壊してしまいそうな場所。
しかし今はそこの主たちと交わした契約によって彼女は生活している。嫌いであるという気持ちは確かに変わりないが、それでも渋々了承しなければ行けない所だ。
「…仕事のほうはどうだ?」
不意に口が動き、思ってはいたが喋ろうとは思ってなかった事が出てしまう。
しかし出てしまった事は仕方なく、蒼崎はその場の空気に任せレイナの返答を待つ。
「んお…?」
当人は唐突にそんな事を聞かれたので意外さを感じていたが、それでも素直に彼の質問に答える。
「…相変わらず。殆ど裏方の仕事だ。まぁ平和だからいいけどよ」
「…そっか」
「………。」
あっさりと答えられた事に残念がるが、それでも無事であるというのが本人の顔から分かって安堵する。彼女自身はどういう意味かさっぱりという顔だが、それがまさか唐突なことから始まった話だとは分からないだろう。
だが、そのお陰で、レイナはある事を思い出した。
「あ。そういや…」
餅を持っていない方の手で裾の中を探ると、一枚の((文|ふみ))が顔を出し曲がっていたりしていないかと確認すると、一言いって蒼崎へ差し出す。
「ホレ」
「あん…?」
「あの人からの手紙。いく時に渡されてたの忘れてた」
「ッ………」
差し出された文とその差出人を思い浮かべた瞬間、彼の表情は先ほどよりもより深く曇った顔になる。
複雑な心境といえば正しいのだろうが、それでもその一言では片づけられない。どう思えばいいのかと心から迷っていたのだ。
「―――。」
恐る恐る文を受け取ると、有無を言わず開き中の内容を読み始める。
彼女の知る限り、別にそこまで怯えたりするような内容か書かれていることはない。いや、そもそもそんな内容は書かれてはいない。
ただそこに書かれているのは何気ない日常会話のような内容。
「お元気ですか」で始まり「それではまた」で終わる普通の手紙。
問題はその差出人だった。
「…雪奈さん、なんて?」
「………ただの文通だ」
「…そっか」
それでも晴れない彼の顔に心配さを感じるレイナ。
文の差出人に悪意があるわけでもないし、蒼崎自身に悪気もあるわけがない。
ただ。運命が彼らを嘲笑って突きつけたのだ。
まるで二人のそれまでの人生を刹那の事と切り捨てるかのように。
「―――あ。除夜の鐘…」
「…もう新年か」
年明けの鐘が鳴り響く夜。二人はただ純粋に浮かぶ満月の夜空を見上げた。
その美しい月の光は何も知らず、なにも思わずただ何時もと変わらずに輝き続ける。
ただ当たり前のように。ただ知らないまま。
新年と共に一つの小さな風が吹く。
= タウンメリア Blaz一味自宅 =
新年があけた丁度の刻。
Blazたちは新年会と称しバカ騒ぎをして楽しんでいる真っ最中だった。
「アーチャーてんめ!そりゃ俺がとってた肉ッ!!」
「残念!肉は戦場、肉は極地!取られる方が悪い…ってぎゃあああああああ!?!?」
「ぶははははは!肉の恨み、思いしれい!!」
「そりゃねーですよ!?」
「だからと言ってアタシの肉取るなよ、Blaz」
「安心しろアルト。肉は取り合いだ」
「…で。なんで新年早々すき焼きパーティーかね…」
一人戦火の中から自分の分だけを取って退避したミィナは主食を取り合って戦う彼らの姿を見てため息をつく。
流石に肉は数が限られているので取り合い状態で中でもBlazやアーチャーたちは肉を多く食べたいと躍起になっていた。その内剣製だの魔導書だの起動しないかと言う風にいがみ合いながら。
「―――ま、いっか」
取りあえず自分の分があるので食べ始めるミィナだが、直ぐに近くに置いてあった電話が鳴り響き、直ぐに受話器を手に取る。
新年早々一体だれなのかと思っていたが、相手は彼女も知る人物からだった。
「はいもしもし…?」
『私だミィナ。新年、あけましておめでとう』
「あ、団長さん」
『率直に聞くがBlazは居るかね』
「ええ。今近くで」
『ふむ…なら、彼に伝えてほしい事がある』
「え…?」
『新年早々悪いが、君たちBlazチームにある事を任せたい。
単身で旅団と敵対する、猟奇的殺人鬼の捜索、並びに排除。
場所は…東の町「カムイ」だ』
九番目の熾天使・外伝 = 蒼の章 =
カムイ篇
多分。連載予定―――
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さて。今年も残すところあとわずか。というわけでまだ年越しには早いですが、ここで年越し風の短編を。 それと最後には新年からやろうかなと思う予告編もあったり… |
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Blaz::言い具合に話し方出来てるッスね。イヤーぶっきらぼうですな(蒼崎夜深) | ||
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OTAKU旅団 シリアスとカオスのごっちゃ混ぜ | ||
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