模型戦士ガンプラビルダーズI・B 第42話 |
――今日でお別れだね……――
――……アタシ、泣かねぇよ。今までお互い助け合ってきたけど、これからは一人で出来る様にならなくちゃいけねぇんだから……――
――うん……ノドカ、もっと皆に愛想よくしなきゃ駄目だよ――
――分かってる――
――ご飯、ちゃんと野菜も食べなよ――
――分かってるよ――
――私、山回町に行ってもガンプラ続けるよ。約束だもの――
――あぁ、約束は二つ、『お互い自立しよう』そして――
――『選手権の時になったら、私は新しいガンプラのチームを見せる』ってね。あ……もう行かなきゃ――
――あ!待ってアイ!このヘアゴム、片方やるよ――
――え?だってそれ、ノドカが欲しがった奴じゃない――
――アンタも欲しがってたのをアタシがごり押しで買った奴だぜ。アンタにだって持ってる権利はあるよ――
――ありがとう、ノドカ……元気でね……グスッ――
――何泣いてんだよ……もう会えないわけじゃないのに……泣きたいのはアタシだって同じなのに……そんな事されたら……アタシも……アタ……シも……――
「このハロ付ヘアゴムはね、ノドカから片方貰ったものなんだ」
アイは昔を思い出しながら自分のヘアゴムのいきさつを説明する。
イベントが終わった後、チームI・Bのメンバーとタカコとムツミを連れて近所の牛丼チェーン店『ローラの牛』に来ていた。
ツチヤ達もイベントを終えた後、昼食を取りに一つのボックス席に四人ずつが座る。二つのボックス席、グループ的には『アイ、ノドカ、ナナ、ソウイチ』『ツチヤ、ヒロ、タカコ、ムツミ』となっていた。
「昔っからアタシの方ががっついて、アイの欲しがってた物をとっちゃうってのが結構あったからな。そのヘアゴムもそうだったからさ。なんか申し訳なくなってとっさに渡しちまった」
バツが悪そうにお冷を飲むノドカ、その後ろのボックス席でタカコが「そうなんだ〜ありがと〜」と答えた。ヘアゴムのデザインが同じと気づいたタカコの質問だった。
「ま、この七人がアンタのガンプラチームってわけ?さっきのバトル見るに結構な人集めたじゃねぇか」
「うち二人は普通の友達なんだけどね。更に言うなら集めたんじゃなくて、複雑な経緯があった結果なんだ。皆信頼のおける仲間で友達だよ」
「ところでノドカだっけ?アンタ、小さい頃からアイと友達だったんでしょ?どんな風に付き合ってたか興味あるんだけど」
今度はナナが向かいのノドカに詰め寄る。
「いきなり呼び捨てかよ。あー、アイとの付き合いは気が付いたら仲良くなってたって感じだなぁ。何しろ生まれる前から親同士が仲良しで」
「生まれた病院も同じで誕生日も二日しか違わなかったよね私達、ノドカが先で」
「お互い対になる様に名前も『アイ』と『ノドカ』で愛と平和ってつけられたんだよ」
「もし仲悪かったらどうするつもりだったんだか」とアイが苦笑する。
「ま、付き合いは生まれた病院からだけど。アタシの方がアイを引っ張ってる感じだったな。アイは妹みてぇなもんだ」
「えー私が妹ぉ?ちょっと待ってよ。ノドカ考えなしに周りに突っかかってばっかだったじゃん。私が苦労してフォローしてばっかだったんだよ?むしろノドカの方が手のかかる妹みたいだって思ってたよ私」
「あ?何言ってんだよ。アタシの方が二日早く生まれてんだからアタシの方がお姉さんだろ?」
「いや双子じゃないんだから、おじさんとおばさんからも『アイちゃんはノドカのお姉さんみたいだねぇ』って言われてたよ私」
「それだったらアタシもアンタのおじさんとおばさんに『ノドカちゃんはアイのお姉ちゃんみたい』って同じ事言われてたぜ」
やいのやいのとどっちが姉かでもめる二人、だが険悪な雰囲気は無い。この言い争いすら楽しそうなアイとノドカだった。中が良かったというのはその場にいた六人全員が理解出来た。
と、そうこうしてるうちに「お待たせしました」と店員が注文した牛丼を次々と持ってきた。トッピングはそれぞれ違うが、ソウイチがカレーライスを頼んだ以外は全員大体同じだった。
皆揃って食べようとするが「ちょっと待てよ。注文間違えてる」と、ノドカが言い出す。
「アタシの注文したトッピングはチーズの奴だよ。これピーマン牛丼じゃねぇか」
「も!申し訳ございません!」と店員が慌てて取り替えようとする。が、それをアイが制止する。
「あー、大丈夫ですよ。チーズ牛丼だったら私も注文したから、私のと交換しようよノドカ」
「あ?でも……」
「いいからさ、私だったら何だって食べられるし」
ノドカは渋々ながらも承諾すると、次からは気を付けるよう店員に言った。
「ま、気を取り直していただきやスか」とソウイチ、
「それにしても、あの様子じゃまだピーマン食べられない?ノドカ」
イタズラっぽくアイが笑いながら聞いた。『ギクッ』と擬音が聞こえそうに震えたノドカ。
「?ノドカちゃんはピーマンが嫌いなのかい?」とそのリアクションを見たヒロが聞く。
「……別に嫌いな物あったって生きていけんだろ?」
「ヒロさん、実は偏食なんですよノドカって」アイはそう言いながらノドカの趣向、特に野菜が駄目で、昔は肉料理に混ぜ込んだりして食べるよう工夫していたのを思い出す。
「うー、余計な事言うんじゃねぇよー」と恥ずかしそうにノドカがアイを小突く。
「あーごめんごめん、でも好き嫌いが未だに激しいんじゃあ、やっぱり私の方がお姉さんかなー」
「お母さんみてぇな事言うなよー」
なおも二人はじゃれ合う。そんな様子をナナ達は珍しそうに見ていた。
「珍しいですね……ああいうラフなアイちゃん……」
「それ程までに気を許してる友達って事なんだろうな」
ツチヤは二人の様子を見ながら牛丼を口に運んだ。
昼食後もなんやかんやで納涼祭を楽しんだアイ達、そして夕方皆と別れるとノドカはアイの家に泊まる。今日はアイの両親は旅行に行ってる為、アイとノドカの二人だけだ。
二人はダイニングキッチンで、夕食を作るか外食するか出前取るかで話をしていた。
「外食だったら昼に食べたんだし、アタシはありもんでいいよアイ」
「といっても、余り残り物はないんだけどね……」
冷蔵庫の中をのぞきながらアイが呟く、こういった会話も二人が姉妹同然に育った故だった。
「アンタが作るもんだったらなんでもいいよ、アタシ」
「うーん、ブランクあるからあんま自信ないんだけどね。いいよ、その代わり昔みたいに手伝ってくれる?」
こう提案したのはアイが昔、両親が共働きだった為、ノドカと協力して夕食や家事をやっていた。それを懐かしんだからだった。
「アタシお客さんなんだけどな、でもいいよ。昔みたいに作りますか」
やや反論しながらも了承するノドカ、だが彼女もアイ同様、昔の思い出を懐かしんだからこその答えだった。エプロンを付けてキッチンに並ぶ二人。
「ちょうどひき肉と玉ねぎがあるからハンバーグ出来るね」
「アンタの事だからなんか混ぜるんだろ?」
「そうだねー……」と冷蔵庫の野菜室を調べながら答えるアイ、と、目についたのはレンコンだ。
「ノドカ的に受け良かったからレンコン摩り下ろして混ぜるかな?」
「?そんなリアクション取ったっけアタシ」
「少なくとも玄礼木市(くろれきし)の時は文句はほとんどなかったよ」
「じゃあアタシが前みたいにレンコン摩ればいいんだな」
「うん、おろし金はそこの棚の中だから」
大抵こういう事はアイが引っ張っていく。台所ではアイが指揮を取り、ノドカはアイの言う事を聞いてばかりだった。作り方自体はこねたハンバーグに摩り下ろしたレンコンを混ぜた以外はオーソドックスな物だ。そうしていながらも他愛もない会話が続く。
引っ越してお互いどうなったか、どんな学園生活を送っているのか、食生活はどうしているのか。そんな話をしながらアイは残すは焼くだけのハンバークをフライパンに入れ、蓋を置いた。
「そっか、アイの方はおばさんが仕事辞めたからおばさんが料理作ってくれてるってわけね」
「おかげで私の方はだらけちゃったけどね。そっちは相変わらず?」
「まぁな、父さんも母さんも仕事で忙しくて、アタシじゃうまく飯も作れないからやっぱ近所の『ローラの牛』で済ましてばっかだよ」
「まぁあそこならすぐ行けたからね。色んな所で食べたけどローラの牛が一番味が良かったかなやっぱ」
「きひひっ。アンタもそれで牛丼好きになったからねぇ」
その後の夕食時も、テレビを見てる時も、他愛無い世間話をしながら時間は過ぎていく。そして就寝時、風呂上がりに寝巻を着て、髪を下ろしたノドカがアイのベッドに座る。座る際に薄い寝巻越しにノドカの豊満な胸がポヨンと揺れる。
アイの部屋でベッドはノドカが、アイは床で布団を敷いて寝る所だ。
「悪ぃな。ベッドとっちゃって」
「いいって」
「それにしてもアンタのチームの友達、ナナっていったっけ、仲良いみたいじゃない」
「ナナちゃん。うん、私が引っ越してきて最初に出会った同い年の子、そして最初に出来た友達だよ。この街の事や勉強とか、色々教えてもらったりでお世話になりっぱなしだよ」
「……でもさ、ガンプラの実力はそうでもないみたいだろ?」
やや真剣な口調でノドカは言葉にする。
「え?そりゃまだガンプラ初めて半年位だからねナナちゃん。でもそれであれだけ戦えるんだから大したもんだよ。センスかなりいいよ」
「……でも選手権は来週だろ。荒削りの実力で満足できるのかよ?アンタ『イレイ・ハル』に会いたいって言ってたじゃねぇか」
イレイ・ハル、アイの憧れのガンプラマイスター、アイは彼と見る人を感動させる様な全力のガンプラバトルをするのが夢だった。選手権で全国で勝ち進めば彼に会えるかもしれないとアイは踏んでいた。ノドカの発言にアイは違和感を感じる。
「……ナナちゃんじゃ勝ち進めないって思ってる?」
「正直そう思うぜ。アイのチーム、他のメンバーだって結構な使い手だろうけど、必ずしも全国に勝ち進めるとは思えねぇ。……なぁアイ、やっぱりアタシとまた組まねぇか?」
真剣な口調は増し、真剣な表情でノドカはアイに詰め寄った。
「え?……ノドカ……?」
「アタシもアンタも、前と比べてずっとずっと強くなった。これでアタシ達が組めば怖い物なんてねぇよ」
「もしかして玄礼木の皆とうまくいってないの?部長のセクハラに耐えられなくなった?」
「いや、んな事ねぇよ。……でもさ」
「悪いけどそれは出来ないよ……」
「アイ……?」
「今のチームはさ、お世話になった人から預かったチームなの。その人だって全国に行きたくて切磋琢磨してきた人だよ。それが続けられなくて私にチームを預けてくれた。
今更その人を、うぅん、他の皆だって私を信じてくれた。チームの皆を裏切るなんてできないよ」
真剣な剣幕でアイは答える。強い意志が感じられた。ノドカもこれには駄目かと素直に思えた。
「そっか……分かってるよ。冗談だよ冗談。アタシだって今のチームにいる責任はあるよ。自分のチームじゃエースなんだからさ、悪かったよ。変な事言って……」
――アイ、自立出来たんだ。――そうノドカは自分の言葉を飲み込んだ。
「いいよ。ところで……」
アイはまじまじとノドカの胸を見る。圧倒的ボリューム差、彼女を山とするならアイのは平地だった。
「胸さ、また大きくなったみたいだけど……今何p……?」
それを聞くや否や、ニッとノドカの顔に笑みが生まれる。
「あ?もしかして今でも羨ましい?」
「はっ倒すよ」
「悪い悪い。こんなん持ってたって碌なもんじゃねぇよ。太って見られるわ肩幅デカいわ、部長にセクハラやられるわで」
「部長も黙ってれば美人なのに……あんま言いたかないけど、それでも羨ましいもんは羨ましいよ」
「まー確かに中学生の時、バストアップ体操やってあんな結果になったアンタとしては……」
「はっとばすよ……。一番言っちゃいけない事って知ってるでしょ。いいから答えてよ」アイの声にちょっと怒気がちょっと入る。彼女にとって一番言ってはいけない事の様だ。
「う……悪かったよ。ちょっと耳貸して、アタシのバストサイズは……」
恥ずかしそうにノドカはアイに耳打ちした。
「……う、嘘でしょっっ!!!!もうすぐ90じゃん!!!!」
そして一週間後、いよいよガンプラバトル選手権の地区予選が開催される。場所はアイの故郷『玄礼木市』の多目的ホール『ホワイトドーム』そのメインアリーナだ。
「ひゃ〜凄い広さだね〜。今までの市民体育館の比じゃないよ〜」
メインアリーナ(試合場)の観客席に座りながらタカコは周りを見回す。ホワイトドームはスポーツイベントやコンサートに講演会、様々な用途に対応している。
試合場のGポッドの数も、その上に吊るされた観客席の方向それぞれに向けられたスクリーンの大きさも、観客席の数、そして観客の数も今までの比ではない。大会規模も大きく、今日から毎週日曜日に3週間に分けて予選を選抜するらしい。
「この中から一つだけ全国に行くチームが選ばれるわけね」
タカコの隣、観客席のソウイチ……の母親、『アサダ・カナコ』が呟いた。今観客席に座ってるアイの身内はタカコ、ムツミ、ソウイチ、カナコ、そしてブスジマ・ミドリの五人だ。
「ていうかなんで母さんいるのさ」
「もうつれないわねソウイチー。可愛い息子の試合なんですもの。見に行かなきゃ失礼でしょ?」
「それもあるけど、今日はカナコさんは父さんのチームの応援も兼ねているのソウイチ君」ミドリがソウイチに告げ口する。
「なんでブスジマさんの応援に母さんが?」とソウイチ。
「だってブスジマさんのチームに私の上司のヤナギさんがいるんだから当然でしょ?」
「え?!ヤナギさんがブスジマさんのチームに?!」とソウイチは驚愕。ヤナギ・ユウジ、登場は25話、カナコにガンプラを教え、ソウイチとカナコを相手に激戦を繰り広げたベテランビルダーだ。
「そういう事。ところで、あれだけ試合場にGポッドがあるって事はサバイバル形式の試合になるって事かしら?」
「あいあ〜い。ちょっと待って下さいね〜」そういってタカコがパンフレットで調べる。
「まずはトーナメントの前にサバイバル戦やってある程度のチームを振るいにかけるらしいですよ。これである程度数が減ったらトーナメントに組み込むルールですって、ちなみに全部同じフィールド内じゃなくてフィールドは四つに分けてバトルするみたいです〜」
「なるほどね。ところでナナちゃんはいないの?今回アイちゃんのチームはツチヤさんとハガネさんの三人でしょ?」
「いや、ハジメさんもバトルには出るから今試合場にいるよ母さん。今回の機体は特別性なんだ」
「ん?どういう事よ」
そして選手控え室では……
「いい!?この予選を突破すれば県内予選のトーナメントに出られます!まずはここを突破しなければ始まりませんよ!」
アイがナナとツチヤとヒロにハッパをかけていた。
「分かってるよ。この予選にはフジミヤさんはいない。でも君達の為に戦わせてほしい!」
「俺達もヒロ君の為にも戦おう。そして俺達自身の為に!」
「ったく緊張するわね。アタシの実力でどこまで通用するか」
「今までやって来た事を信じようよ。それに今回は私達もついてるんだし」
緊張するナナをアイは励ます。「俺達もついてるぞ」とツチヤ達は頷いた。
「皆……お願い!!」
「じゃあ行くよ皆!!チーム『I・B』……」アイが突き出した手に全員が手を重ねる。
「ファイト!!」「オー!!」「ファイト!!」「オー!!」
スポーツの試合の様に気合を入れると全員が試合場へ向かっていった。
そして予選のサバイバルが始まる……。今回のフィールドは『熱帯のジャングル』見渡す限り森、森、森、隠れる所には不自由しないだろう。
『機動戦士Zガンダム』に登場した羽を広げた太った鳥の様な母艦『ガルダ』から三人の機体が飛び出す。遠くでも母艦から次々と機体が発進するのが見えた。
チームI・Bの機体は、ツチヤの『デコレーション・アッシマー』、ヒロの新作『ウイングガンダム・ノヴァ』そしてアイの、いやアイ達の新作『ガンダムAGE3E(エンハンスド)』だ。
三体共飛行可能な機体で当然飛んでいる。飛んでる眼下の密林に各々の影が見えた。
「今回の機体、ブスジマさんの家でエアブラシって奴を使わせてもらって塗装した奴だけど、どんな感じ?」
ナナがアイに問いかける。今AGE3Eにはアイとナナの二人乗りだ。『エアブラシ』とは希釈した塗料をコンプレッサーやエア缶といったエアーの圧力で、スプレーの様にパーツに吹き付けるツールだ。
これにより筆以上にムラのない塗装が可能になる。当然コンプレッサー含めると高額な為、アイ達は手が出せない。持っていたブスジマや、ツクイといった大人たちから使わせてもらい、レクチャーを受けて塗装した。
「軽いよ。塗装の精度が上がったおかげで今まで以上に動きが滑らかになった感じ」
「アタシも練習の時、操縦してみたけどやっぱそう感じるよね。……違法ビルダーに納得するわけじゃないけどさ。便利だけどなんかズルいよね。こういう高級な道具もってる人程有利になっちゃうんだもん」
「……うん」
ナナの言葉にアイは力無く答える。同時に違法ビルダーの事も頭に浮かぶ。お金が無くて道具も買えず、それでも勝ちたいという気持ちが違法ビルダーに手を出す理由となってしまうという事実を……。
「与太話は後にするんだ!!来るぞ!!」
ツチヤが二人の話を遮った。青空をバックに遠くから数体のガンプラがライフルを撃ってくる。
「そうだった!!皆!まずは私が撃つから!!」
アイは叫ぶと右手に構えたバスターライフルを最大出力で放った。エネルギーの濁流は数体の敵を飲み込む。そこからかわした数体の敵が散開しつつ、引き続き射撃をしてくる。
「なら漏れた敵はこっちも散会して叩くぞ!!」
「了解!油断しないでね!」
三体共散開、それぞれ分かれた敵に向かい突っ込んでいった。
「ん?アイちゃんのガンダムにはナナちゃんも乗ってるの?」
こちらは観客席、カナコがアイのAGE3Eを見ながら疑問を口にする。ソウイチがいち早くその疑問に答えた。
「その通り母さん、今回ヤタテさんのガンダムは二人乗りって事になってるんだ」
「何か理由があるの?二人で分割して操縦するとか」
「あれは分離形態があって、その時に二人で操縦するようになってるんだよ。一人でまかなう事もできるけど、それぞれ二人の方が細かい操作が出来るからね。その分分離状態でどっちかがやられた場合は連動して撃墜扱いになるっていうデメリットがあるんだよ」
「へーそういう仕様も出来るんだ」
以前分離機に乗っていたカナコは感心した声を上げた。
散開した敵機が飛びながらヒロを取り囲もうとする。ヒロのウイングガンダムノヴァは手に持ったツインバスターライフルを二丁拳銃に分割、左右に一丁ずつ向けるとすぐさま発射、そして回転し周りの敵を一掃する。
「一度やってみたかったんだよなこのシチュエーション!!」
遠くではアイのAGE3Eがバスターライフル下部のビームライフルで一機を撃ち抜く。そして左側の敵を左腕のガントレットに仕込んだバルカンで迎撃、
「重武装ってわりには本当コイツよく動くわねー」
「元々キャパシティに余裕ある機体だからね」
このAGE3Eの改造の狙いはズバリ『手数を増やす事』である。本来のAGE‐3はパワーとキャパシティに余裕が有るものの、武装がビームサーベルと『シグマシスライフル』というビームバズーカのみだ。それを補うため腕にバルカン、両肩に小型シールドブースター、足にGNソードUと重武装の機体と化していた。
その向こうでもアッシマーがトマホークで敵機を両断、こちらは派手さはないが堅実に相手を仕留めるスタイルの様だ。
「ツチヤさんも終わったみたい。一息はついたかな?」
「ンーフッフッフ、そうはいかないよ!!!」
「?!!」
突如声が響くと共に下の密林から何条ものビームが、そして更に上空からも何条も射撃が放たれてくる。アイ達はそれを難なく回避、ジャングルから撃ってきた機体が、空から撃ってきた機体が姿を現す。
「新手の三機?」
対峙する六機、新手の機体、一機目は『Gのレコンギスタ』に登場した『ダハック』という。後頭部が円盤の様になっており。掌からビームシールドを発生できる。しかも背中の四本のサブアームを展開させビームソードを発生出来る機体。改造としてサブアームの上部に、パワードアームズパワーダーのガトリングとミサイルが一部のアームごと追加されていた。
二機目は『ガンダムOO』の射撃機体『ケルディムガンダム』遠距離と近距離、どちらにも対応できる射撃の万能機だ。さらに『シールドビット』という、盾にも使用できる六角形のビットをいくつも装備しており防御にも隙がない。この機体の頭部は『ジムストライカー』という機体の頭部と、『ツインビームスピア』という槍状の武器を移植されており近距離にも対応していた。
三機目は『ガンダムW』に登場した『メリクリウス』という雷神様を模した機体だ。防御能力を高めた機体で、背中には雷神の小さな太鼓の様な円盤が左右に五つずつ装備されている。これは展開することによって電磁フィールドを発生出来る『プラネイトディフェンサー』という防御装備だ。メテオホッパーという支援機に乗っておりメテオホッパー自体にも左右のプロペラントタンクは『ウイングガンダムゼロ』の翼に変えられており。フロントの部分もウイングゼロのシールド(ツインバスターライフルを取り付けてある)に変えられていた。
「久しぶりだなぁ!ヤタテさんよ!!」
黒く塗装されたダハックのビルダーが叫ぶ。
「?前と戦ったビルダー?!」
「つれねぇなぁ!以前クロノスで戦った。『セキラン・ライタ(関蘭雷太)(第15・16話登場)』だぜ!!」
「!!」
「俺もいるぜ!!以前レースでサーペントとメテオホッパーに乗って戦った。『アマミヤ・ニワカ(雨宮丹羽可)(第14話登場)』だぜ!!」とメリクリウスから叫ぶ。
「ンフッ!そして僕は『ヒカワ・ミゾレ(斐川霙)(第16話登場)』さ!!」ジム頭のケルディムが叫ぶ。
全員が、アイ達と以前戦った経験のあるビルダーだった。アイも全員を思い出す。
「あなた達は!!それぞれのチームを持っていたのに共闘という事ですか?!!」
「その通りさ!だが俺達はチームを合併し、チーム『キマイラ』として生まれ変わった!!俺達はその中のエースの集まりなのさ!!」
「ンフフ!目的は二つ!煮え湯を飲まされた君達に復讐する事!そして県内予選を勝つ為さ!!」
「ミゾレはムツミちゃんにいい所見せるのが目的だろう?」とダハックに乗ったライタが笑いながら茶化す。「よ!余計な事を言わないでくれたまえ!」と返すミゾレ。
「ははっ!ま、あの時の俺達とは違うからなぁ!そういうわけだから大人しく復讐されなぁ!!」
ライタの叫びを号令に三機が一斉に撃ってくる。目的はアイのAGE−3E一機のみ、しかしAGE−3は難なくかわすとダハックの後ろに軽やかに回り込む。
「ダハックにもパテで重りを入れたみたいだけどね!!やっぱり挙動が遅くなってるよ!!」背後から撃ち抜こうと両手のバルカンを構えるアイ、
「ニワカ!!」
「おうさぁ!!」
ライタが叫ぶとニワカのメリクリウスがAGE‐3Eの前に出る。それもプラネイトディフェンサーを展開した状態で、それにより発生したフィールドはバルカンをも弾いた。
「!?」
「アイ!休まないで!!」
ナナの叫びにハッとし回避行動を取るアイ、さっきアイのいた地点にビームが走った。ニワカのケルディムが狙撃したのだ。
「惜しいねぇ。でも僕達も以前よりやるものだろう?」
いけると確信するニワカ、しかし彼のGポッドに警告音が走る。
「!?」
ケルディムもとっさに回避行動を取る。ツチヤのアッシマーがライフルを撃ってきたのだ。ヒロのウイングノヴァが、ツチヤのアッシマーが、AGE−3Eを守る様に集まる。
「敵はアイちゃんだけじゃない!俺達も相手してもらおうか!!」
「へっ!面白れぇ!俺はメリクリウスだから相手はあのウイングガンダムにするぜ!」ニワカがヒロ相手に突っ込む。
「いいだろう!来い!」
「ンフッ!ならツチヤさん!あなたも復讐の対象ですからお相手願いましょうか!!」ミゾレのケルディムはシールドビットを展開、ケルディムごとアッシマー目がけて撃ってくる。
「いいだろう!複数の操作という物の神髄を見せてやろう!!」
それぞれ二機は離れ、対戦へと持ち込む。残ったのはライタのダハックとアイのAGE3E、
「さて!残った俺達はすぐさま始めようか!!」
「上等!!ナナちゃん!しっかり捕まってて!!」
「OKアイ!ぶん回しちゃって!!」
そして二機もまた飛び交う。ダハックは両掌からビームシールドを発生させ前面をしっかりガード。しかしダハックの武装は、ほぼ背中に集中している為、防御しながら攻撃してくる。
アイも左手にGNソードU、ライフルモードを持ちながら撃とうとするが、ダハックのビームシールドは掌についてるだけあって器用に角度を変えて防御してくる。
そしてなおも背中の武装でこちらを迎撃しようと撃ってくるのだ。
「ならさっき同様!後ろを取る!」
AGE3Eはダハックの周りを大きく円を描きながら射撃を続ける。最初は対応しきれていたダハックだがそのうちAGE3Eの動きについてこれなくなってくる。そして後ろを取った。
そこだとAGE3Eは左手のGNソードUで背後から切りかかる。
「フッ!」
ライタは不敵に笑みを浮かべる。そして背中のサブアームを後ろに展開、ビームサーベルを四本纏めて後ろに向け、GNソードUを受け止めるダハック。
「何!!でも甘い!!」
アイはすぐさま右足を振り上げる。足にはもう一つのGNソードUがマウントされたままだ。足はダハックを切り裂き、ダハックはそのまま落ちていく。
「な!うおぉ?!」
密林の中にダハックが入ると、アイのAGE3Eはジャングルへ向けて最大出力でバスターライフルを撃った。起こる大爆発と出来上がるクレーター。
「やったの?」
「とりあえずは何も起きない……ひとまずはやったみたい」
そしてこちらはヒロの方、メリクリウスはウイングガンダムノヴァを追いかけながら、メテオホッパーのフロントに搭載されたツインバスターライフルを撃ちまくる。しかしノヴァは難なくかわす。飛行形態のバードモードになってないにも関わらずだ。
時折ノヴァは振り向きながらバスターライフルで撃ち返すが、すぐさまメリクリウスはプラネイトディフェンサーでメテオホッパーごと機体を防御、攻撃中にディフェンサーは展開できない為、ラグがあるがヒロの攻撃はうまくさばいていた。
「やはり硬いか!ならば!」
そういうとヒロは逃げていたノヴァを反転、メリクリウスに突っ込んでいく。
「来るかよ!だが!」
ニワカは叫ぶとツインバスターライフルで迎撃しようとする。しかしかわしながらヒロは突っ込んでくる。シールドの尖った先端部を突き出しながらノヴァは突っ込んできた。
「くっ!メリクリウス!間に合えぇ!!」
ヒロのシールドが届く直前、メリクリウスの防御フィールドが張られる。これで防げると思ったニワカ、だがノヴァのシールドはフィールドを貫通、メリクリウスのコクピットにめり込んだ。
「なっ!!なんで!!」
「甘いな!プラネイトディフェンサーは実弾には耐性が弱いんだ!!ましてや機体の重量をかけたこの一撃、貫通されて当然というわけだ!」
「お!おのれぇぇ!!」
グラッとメリクリウスはメテオホッパーから落ちるとジャングルへと落ちていった。メテオホッパーはそのままアイとライタが戦っていた所へ落ちていった。
「いける!このウイングガンダムノヴァなら!!」
ヒロは自分の自信作に強い手ごたえを感じていた。
そしてツチヤの方だ。天候は雲一つない快晴の筈が、いきなり曇ってきて徐々に雨が降ってきた。
「ん?雨か」
チームが減ってきた影響の仕様変更だろう。すぐに雨は土砂降りとなった。これだけの湿気と水分はビームの威力を大きく軽減するだろう。
「考え事とは余裕ですね!!」
ミゾレの声にツチヤはすぐケルディムに集中する。
「ンフフッ!いかに分離したかく乱戦闘が得意なツチヤさんでも、この数は防ぎきれないでしょう!!」
ミゾレが高笑いをしながらシールドビットを飛ばす。ビットはそれぞれ細いビームを撃ちながらアッシマーを追い詰めようとする。
「数を出せばいいという物じゃないさ!!」
アッシマーデコレーションは分離、アッシマーとライトニングブースターは逆方向へ飛んだ。
そして高速で飛びながら、ライトニングブースターとの連携でビットとケルディムのターゲットを分散させかく乱する。
ビットは追いかけながら追撃するが撃っても撃ってもアッシマーとライトニングブースターはその先を行く。分離した二機はビットをかわしながら距離を狭め、どんどんケルディムに迫ってくる。
「こ!この!来るな!」
焦りながらミゾレは残しておいたシールドビット同士を四つ合体させる。アサルトモードだ。こうする事によって高出力のビームを撃つ事が出来るのだ。
ちょうどアッシマーはケルディムの照準ど真ん中にいる。「今だ!」とミゾレは確信、チャージ不十分ながら、アサルトモードのシールドビットからビームを放つ。アッシマーに当たるビーム。閃光がミゾレのGポッドを覆う。勝ったとミゾレは確信する。だが次の瞬間、放たれたビームがケルディムを貫いた。
「なにぃ!!」
落ちていくケルディム、ミゾレは閃光が止んだGポッドからアッシマーを見る。アッシマーの前にはライトニングブースターが旋回していた。そして機首部分のシールドはビームを受けた後があり、そこで防御したのだろう。チャージ不十分で撃った上、土砂降りの中で撃った所為でアサルトモードの威力はミゾレの予想以下となってしまった。
「質よりも量とは言うが、質を共わなければ意味はないぜ!!」
「そ!そんなぁ!!」
そう叫びながらミゾレのケルディムは爆散。
「ふぅ、どうにかこのサバイバルも切り抜けられそうだ」
安堵するツチヤ……しかし
「へ、そんなうまくいくわけねぇだろ?サブロウタよぉ」
「?!!その声?!」
直後、アッシマーの目の前に、巨大なガンプラのシルエットが現れた。土砂降りの為姿は分かり辛い、そしてその声もツチヤは聞き覚えがあった。
続けてアイ達の方だ。遠くではまだ戦闘が続いてる。こちらも土砂降りだ。
「ありゃりゃ、さっきまで晴れてたのに」
「ある程度ガンプラの数が減ってきたから仕様が代わったんでしょ?これじゃ動きも悪くなっちゃうしビームの威力も下がっちゃうな。早くヒロさん達と合流しないと」
「へ!その前にアンタは倒されるのさ!!」
「?!」
いきなり入ってきた通信にアイは顔をしかめる。土砂降りの中で幾つもの機影が見えた。数は30近いだろう。そしてアイ達はその機影に見覚えがあり、声にも聞き覚えがあった。
「ネフィリムガンダムとマステマガンダム!」
違法ビルダー達のお出ましだった……。
※後半に続く。
あけましておめでとうございます。今回の前半のくだり必要だったかな…コマネチです。今年はもっと早いペース出来る様にならなければいかんなぁ…というわけで再登場の三人は手抜きになってしまいました。
とはいえ後半で彼らの雪辱は晴らすつもりです。今年もよろしくお願いします。
※今回登場の『ウイングガンダムノヴァ』は友達が作ってくれました。ありがとう!!
説明 | ||
第42話「開幕!!ガンプラバトル選手権!!(前編)」 ピンクの熊に乗っていたビルダーの正体、それはヤタテ・アイの幼馴染、ユミヒラ・ノドカだった。 |
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W-ネームレスさん こちらこそあけましておめでとうございます!そして今年もよろしくお願いします!もっとスピーディに、かつどんどん盛り上げていく予定です。期待に沿えるよう頑張ります!(コマネチ) あけましておめでとうございます 新作、どうなっていくのか楽しみですね!(W-ネームレス) mokiti1976-2010さん あけましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!アイは…そう先導してる違法ビルダーのブローカーがいるんですね。今は細かく言えませんが。(コマネチ) 明けましておめでとうございます。此処でも違法ビルダーか…すっかりアイ達も目をつけられたようで。(mokiti1976-2010) |
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