戦国†恋姫 三人の天の御遣い 其ノ十六 |
戦国†恋姫 三人の天の御遣い
『聖刀・祉狼・昴の探検隊(戦国編)』
其ノ十六
春日山城城下町手前の街道で昴達スバル隊は武田家家臣武藤一二三昌幸と山本湖衣晴幸と対峙していた。
「まあ、そう警戒しないで♪と言っても無理だろうから、私達がここに居る理由からお話しよう。」
一二三は少し真面目な顔になって昴と向き合った。
「先ず、晴信さまの渾名に『足長』というのが有るのを知っているかい?」
「ええ、かなりの数の諜報集団が居て、情報収集能力の高さから付いた渾名だって聞いてるわ。」
「それなら話が早い♪私が君の姿を見て名前を言い当てたのもそのお陰さ♪」
「その情報収集能力で越後の現状を知って………」
昴は皆まで言わなかったが、武田が鬼を口実に越後を攻め落とす気ではないのかと言外に匂わせる。
その様子に一二三と湖衣は昴の事を『只の女装趣味で幼女趣味の変態猪少年武者』では無いと読んだ。
「それがそうじゃ無いんだなぁ♪私達の用が有るのはそちらの今川氏真公なのだよ。」
一二三はしっかりと鞠を見て、湖衣と共に深く頭を下げた。
「鞠にご用事って………駿府屋形の事なの?………」
頭の回転が早い鞠であある。自分がここに居るの知っている事から、武田信虎に駿府屋形を乗っ取られた事まで知られていると察した。
「はい………氏真公は今の駿府屋形がザビエルに乗っ取られて居る事をご存知ですか?」
「えっ!!駿府屋形は信虎おばさんが…」
「その信虎様が朝倉義景様と同じ事になっているのです。」
『『『ええっ!?』』』
これにはスバル隊全員が驚いた。
「昴くん、正直に言うと私達は京か若狭でこの情報を以て、武田が連合に参加する根回しの交渉をするつもりだったんだよ。しかし、いざ北陸道を目指してみれば加賀、越前は駿府より酷い有様。これも恩を売るつもりで飛騨と美濃には使いを出した。勿論、江北と京にも情報を伝えようとしたんだが鬼に阻まれて立ち往生してしまってね。その時に今度は春日山城の騒動が起きて、それにもザビエルが関わっている事を知った。更に鬼が小谷に攻め込んだと報告が入って来て、もう怒濤の展開だよ。これは拙い事になったと思っていたら、その直ぐ後に田楽狭間の天人衆が現れて小谷を救ったと報告が来て、度肝を抜かれたね♪その後で観音寺城と二条館の情報が私達の所に届いた。長尾景虎殿も田楽狭間の天人衆の情報は聞き及んでいたみたいだが、人質を取られているのに連合へ助けを求めるのを渋っていたから、それとなく最新情報を横流ししてあげたのさ♪予想通り景虎殿は人質救出を要請した。但し、予想外だったのは君が選ばれた事だね。てっきり私達は華?伯元くんが来る物と思っていたよ。」
一二三の話し振りから、美空も連合も一二三に踊らされているみたいにも感じるが、昴にとっては新たな幼女との出会いの切っ掛けを演出してくれた恩人と思えた。
「祉狼はザビエルに狙われている事が判明したから、私が志願したのよ。」
「ザビエルにとっては鬼を人に戻す英雄の存在は邪魔だろうからね。でも、今までだってそうじゃ無かったのかい?」
「狙われている理由に『御稚児さんとして』ってのが付いたから。」
「……………成程………やはりザビエルはそっちの趣味の男だったのか…………まあ、私達としては嬉しい誤算だ。こうして氏真公と予想よりも早く出会えたのだからね♪」
「鞠ちゃんに会う理由は駿府屋形の現状を伝える為?………それって武田は駿河を領地に加える気が無いって取っても良いのかしら?」
昴の推測を聞いても鞠の顔は晴れない。
戦国の世の習いを考えれば武田が駿河を手に入れても仕方が無い事だ。
何より今の鞠には家臣と呼べる者が居ないのだ。
そんな状態で駿府屋形に戻っても駿河一国を治めきれる筈が無いと鞠自身が一番理解している。
「ああ、その通り♪確かに我々武田は海を手に入れるのが悲願だが、御屋形様は今こそ義元公に恩義を返す時とお考えだ。現に武田家で駿府屋形の現状を知るのは御屋形様と私達、後は草が数名だけでね♪取り戻した後は氏真公が城主、君が家臣を連れて入城すれば問題は無いだろう♪」
昴は一二三が朝比奈泰能の残した手紙の内容を知っているのかと内心ドキリとしたが、そんな筈は無く、この流れが日の本では一般的なのだろうと納得した。
「ありがとうなのっ!一二三ちゃんっ♪湖衣ちゃんっ♪鞠は晴信ちゃんの期待に応えられるように頑張るのっ♪それから鞠のことは通称で呼んでほしいのっ♪」
鞠は晴信、一二三、湖衣の心遣いに感謝し、笑顔とガッツポーズを見せた。
「それでは鞠さま。実はもうひとつお伝えする事がございまして………」
「それって……氏康おばさんのこと?」
鞠が真面目な顔で聞き返すと、一二三も神妙に頷いた。
「はい。今の所は小田原城に動きは見られませんが、これは鬼が富士山の西、武田領にのみ侵入して来ているのと、恐らくザビエルのまやかしの術で騙されている為でしょう。しかし、いつまでも北条に真実を伝えないで黙っていては、今度は北条が越前と同じ道を辿ります。我々が鞠さまに急いで会おうとしていた理由は、正にこの為です。」
鞠は困った顔で昴に振り向く。
昴も鞠の気持ちを察して頷いた。
「あの、一二三さん。私達…」
「いやいや、別に今すぐ駿府に向かってくれとは言わないよ♪私達が越後で待っていたのは、人質救出の手伝いをして早急に越後の問題を片付ける為さ。」
「人質を救出した後もこっちに向かっている本隊の美空さまの所に向かいますけど………間に合いますか?」
「それは私にも判らないよ。今出来るのは間に合わせる為に事を急ぐだけだね♪」
昴と一二三の会話を後ろから見守っていたスバル隊の面々は顔を寄せ会う。
「(なあ、あの武藤って奴の話は信じられると思うか、雛?)」
「(そうだね〜、武藤さんはよく判んないけど、後ろの眼帯してる人は『片目の勘助』だと思うから、大丈夫じゃないかな?)」
「(犬子の鼻にも鬼の臭いは感じないよ。)」
「(でも、綾那にはあの武藤って人が味方か敵かよく判んないですよ………)」
「(確かにあいつは怪しいぜ。んでも、敵だと判ったらぶっ殺しちまえばいいだけだ。)」
「(それもそうなのです♪)」
小夜叉と綾那の物騒な会話を知ってか知らずか、一二三は昴との交渉を続けていた。
「さて、君達は人質が春日山城の何処に居て、どう潜入し、退路はどうするつもりだったのかな?少なくとも私は人質の居場所を掴んでいるよ♪」
「えっ!?どうやって調べたんです!?」
「私は武田の隠密『吾妻衆』を任されていてね。軒猿の居ない鬼だけの春日山城なら調べさせるのもそれ程難しくは無かったさ。」
昴は尾張美濃の周辺諸国の情報を勉強していたので、武田の隠密の名前も知っていた。
「そうですか………それで人質は何処に?」
「春日山城内の西に在る宇佐美屋敷だ。この屋敷は人質のひとり、宇佐美定満殿の屋敷だが、美空さまが毘沙門天の護法結界を張っているので鬼も中に入れない。まあ、結界と言っても屋敷の完成式でした安全祈願らしいからいつまで持つか判らないみたいだね。ああ、こちらで作った縄張り図が有るから見せてあげよう。」
そう言って一二三が懐から折り畳んだ紙を取り出し、広げて見せるとそこには春日山城の立派な縄張り図が描かれている。
秋子から事前に見せて貰っていた縄張り図と比べても遜色のない図面で、昴は内心舌を巻いた。
これはもう春日山城が武田に対して守備力が著しく低下したのと同じだ。
美空が春日山城を取り戻した時に大改造が必要だと昴は美空に同情する。
「ここが宇佐美屋敷だ。」
一二三の示した場所は本丸の西に有る谷を越えた少し低いもう一つの頂上。
「さて、侵入は君達ならばさして難しく無いだろう。問題は人質五人を連れて逃げ出す道だ。どうする?」
「そうですね、経路は幾つか思い付きます。どの経路を使うかは臨機応変でしょう。それよりも城外に出た後も重要ですよ。山の中を逃げるのは土地勘の無い私達は迷った所を鬼に囲まれて終わりでしょう。距離は伸びてもこの街道を全力で駆け抜ける方が逃げられると思います。」
「成程、良い判断だね。なら救い出した人たちの乗る馬や乗り換える馬も必要だろう。それは私が手配しておこう。」
「調達出来るんですか!?」
「ははは♪武田は騎馬の国だよ♪何か有った時の為に数頭は余裕を持って連れて来たさ。」
「それは助かります♪馬も全力で走らせるから大丈夫か心配だったんですよ。」
「後は乗り手の技量だが、大丈夫かな?」
「それはここまで来る間にみんな特訓できたから心配いらないわ♪」
「ふむ、そう言う君はどうなんだい?」
「この中じゃ昴が一番馬術上手いぜ。」
和奏の言葉にスバル隊の全員が誇らしげに頷いた。
「おやおや♪奥さん達が惚れ直すくらいの腕前かい♪それは是非とも見せて頂かないとね♪」
「ええ♪その為にも準備をお願いしますね。手配が終わり次第春日山城に潜入します。」
「それならもう向かっても大丈夫だ。側に隠れていた気配が消えたのは判ったろう♪あれが吾妻衆の者なのは気が付いていたとは思うけど、彼らなら万端抜かりなくやってくれる。」
「そう言う事なら♪」
昴は幼妻達に向かって笑顔を見せる。
「じゃあみんなっ!行くわよぉおおおおおおっ!!」
『『『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ』』』
こうしてスバル隊は一二三とその後ろで頷いていただけの湖衣という新たに加わった味方と共に、先ずは春日山の城下町へと入って行った。
「………………?」
「え?なに、お姉ちゃん?………あの二人がいつ味方になって、いつ一緒に行くことになったかわからなかったって?お姉ちゃんが判んないのに雀に判るわけないよ。おヌウちゃんが気にしてないからいいんじゃないの?」
「…………………」
烏は釈然としないままみんなと一緒に走るのだった。
春日山城下はまるで人の気配が無い。
その町中を十五人は駆け抜けて行った。
「村で聞いた通りなの………」
ここまで来る途中に春日山城下から疎開して来た人達を何百人と見て来た。
その鞠の呟きに湖衣が答える。
「町の者は美空さまからの指示で逃げ出しています。でも、晴景様に付いて残った者は鬼に………」
それは食われたのか、鬼にされたのか、連れ去られて鬼に犯されているのか。
恐らくその全てである事が鞠は判ってしまった。
駿府も同じになっているかと思うと胸を締め付けられる思いだった。
「心中お察し致します。あの駿府屋形が鬼の巣と成り果てているかと思うと、私も憤りを覚えます。」
「湖衣ちゃん…………駿府屋形を見た事あるの?」
「はい……………武田家に仕官する前は駿府で暮らしておりました………」
「そうだったの………あっ!」
鞠が突然足を止め、ほぼ同時に湖衣、一二三、昴、和奏、雛、犬子、小夜叉、綾那、夢、烏も立ち止まり、桃子、小百合、熊、雀の四人が飛び出しそうになったのを、腕を引いて強引に止めた
曲がり角の先には鬼が五匹、のそのそと徘徊している。
「こっちの道はやべぇ。あっちに行くぞ、熊。」
小夜叉に言われて熊は素直に従い付いて行く。
「はぁ、さすが姐さんや。わいもはよ精進せんと………」
「小百合達もだねぁ、桃子………」
「そうだねぁ、小百合………」
野生の勘の鋭い者が揃っている一行は、こうして鬼を見事に避けて春日山城へと接近して行った。
「なんだよ、結構隙だらけじゃないか。」
和奏が拍子抜けな感じで呟くと、一二三が笑って頷く。
「だから侵入は問題無いと言ったろう♪まあ、それも昼間の内だけだけどね。夜になれば鬼も動きが活発になるから、そう易々とはここまで来れないよ。」
大手門から東に在る天然の堀となっている対馬谷を越えて、一気に柘榴の屋敷の在る曲輪の城壁へと取り付いた。
「私が縄を持って城壁の向こうに行くから、みんなは合図したら縄を使って壁を登って。」
「ひとりで壁を越えるのかい?」
「この程度なら♪それっ!」
昴は垂直跳びの要領で、軽く城壁を越えて行った。
「これはこれは♪吾妻衆にもそこまで飛べるのは居ないよ♪これじゃあ塀なんて無いのも一緒だね♪」
一二三は楽しそうに、湖衣は目を丸くして昴の能力に感嘆する。
壁を越えて、曲輪の中を物陰伝いに移動し、遂に宇佐美屋敷の近くまでやって来た。
「あれか?」
「ええ、間違い無いわ。見知らぬ幼女の香りがしてるもの♪」
一二三と湖衣は、昴が気配を例えているのだろうと判断したが、本当に昴は匂いで嗅ぎ分けていたのだった。
「さあ、先ずは中に入って信用してもらわんがっ!!」
足音を立てない様に小走りで屋敷に向かった昴が、何も無い所で何かにぶつかった。
「罠っ!?…………って、何も無いよ?」
雛が御家流で、転がった昴の側に瞬時に移動したが、本当に何も無かった。
「そんな………確かに固い壁みたいな………」
不思議そうに起き上がる昴がゆっくりと腕を伸ばすと、見えない壁の感触が手の平に感じられた。
「ほら!やっぱり…」
「何やってんだよ?」
「ほら、昴さま♪早く行こうよ♪」
和奏と犬子が昴の横を素通りして行く。
「何してるですか、昴さま♪ほら、行くですよ♪」
ドンッ!
「ぐえっ!」
綾那が昴の背中を押して屋敷に向かおうとすると、やはり昴の身体が見えない壁にぶつかった。
「な、なんですっ!?」
「ザビエルの術っ!?………って、本当に何も無いけど………?」
一二三と湖衣も急いで駆け寄るが、昴がぶつかった所に手を伸ばしても何も無かった。
「昴さま、遊んでないで行くですよ!」
「ぎゅうぅう……ま、まって!綾那ちゃん!」
屋敷側から見ている者達は、昴が見えない壁のパントマイムをしているのでは無く、確かに何かに押し付けられているのが判った。
残りの者も昴の横を抜けてどうなっているのか確認しに来たが、昴以外は全員が見えない壁に阻まれる事は無かった。
「一体どうなってんだ?」
「横にズレようが何しようが全然駄目だな…………これってもしかして………」
「美空さまの張った毘沙門天の護法結界じゃ。お主に邪な気持ちが有るから通れないんじゃよ。」
屋敷の玄関が開き、中から沙綾が現れた。
「儂は長尾家家臣、宇佐美定満じゃ。」
沙綾の姿に昴は目を輝かせる。
その瞬間、昴の身体が結界に弾き飛ばされた。
飛ばされた昴は素早く身を起こして結界ギリギリまで戻って来る。
「私の名前は孟興子度よ♪通称は昴♪美空さまに頼まれて助けにきたわ♪」
「予想通りか………して、お主達は?」
沙綾の問い掛けに和奏達が応える。
「織田家黒母衣衆筆頭佐々和奏成政!」
「同じく、織田家赤母衣衆筆頭!前田犬子利家だわん!」
「同じく、織田家家臣、滝川雛一益で〜す♪」
「同じく、織田家ゴットヴェイドー隊、佐久間夢信実です!」
「織田家家臣!森小夜叉長可っ!森の小夜叉たぁあオレの事よっ!!」
「同じく、織田家ゴットヴェイドー隊、毛利桃子新介!」
「同じく、織田家ゴットヴェイドー隊、服部小百合小平太!」
「松平家家臣!織田家ゴットヴェイドー隊預り!本多綾那忠勝なのです!」
「……………」
「ええと、こっちが雑賀党八咫烏隊頭領の雑賀孫一烏重秀お姉ちゃんと、雀は雑賀孫三郎雀重朝ですっ!よろしくおねがいします!」
「ワイは三好熊義継やんけ!」
「織田家ゴットヴェイドー隊、今川鞠氏真なのっ♪」
熊の名を聞いて沙綾の眉がピクリと反応し、鞠の名前で目を剥いた。
「治部大輔さまが本当に居られるのか!?」
「鞠は治部大輔だけど、今はゴットヴェイドー隊でスバル隊の鞠なの♪」
「はぁ………噂を聞いた時は只の流言かと思うておったが………」
「沙綾どの♪私達も名乗った方がよろしいですかな♪」
「お主ら………一徳斎の娘に勘助か!何故お主らまで………」
「まあ、それは美空さまに恩を売る為でも有りますが、それ以上にザビエルの野望を阻む為ですよ♪」
「ふむ…………成程。中に貞子が居るからお主らが事情を説明してくれ。儂はそこの昴どのと話を着けておくでな♪」
「はい♪お手並みが拝見出来ないのは残念ですが、是非よろしくお願い致します♪」
沙綾の正体を知る一二三と湖衣は敢えてその事を口にしなかった。
一二三と湖衣の目的で、昴に明かしていない事がひとつある。
それは武田が連合に参加する時に、昴の魔の手から武田晴信の妹と家臣の幼女をどう守るかを見極める事だった。
沙綾がこれからするであろう事は予想が着いていたので、沙綾と良好な関係を結ぶ事が防衛の最善手として全面協力をしているのである。
「さて、昴どの♪儂の通称は沙綾じゃ♪暫し二人だけでじっくり話し合おうではないか?ちょっとそちらの離れでの♪かか♪」
沙綾が指差した先、昴の背後には小さな庵が建っていた。
「二人っきりで………」
「空さま達が逃げる準備も必要だしのぉ♪それを待っている間にの♪」
結界の外に出た沙綾が昴に寄り添い、屋敷から見えない様に昴のスカートの中に手を潜り込ませて流し目を送る。
「はうっ!」
「のぅ♪じっくりとお主の話を聴きたいのぅ♪」
肩を露出させた服装の沙綾がちょっと胸元に隙間の出来る姿勢を取れば、その中まで昴の視界に簡単に晒してしまう。
「一二三さん!湖衣さん!私は沙綾ちゃんと逃走の為の会議をするからそっちをよろしくお願いしますっ!そ、それじゃあ沙綾ちゃんっ♪行きましょうねぇ〜〜〜♪」
昴は沙綾を抱き上げ、庵へと飛び込む様に入って行った。
「おやおや♪こんな状況でそういう事が出来るなんで流石だねえ♪ねえ、湖衣♪」
「し、知りません!」
湖衣は顔を真っ赤にして屋敷に中へと逃げる様に入って行く。
「おい、一二三!こっちの説明はあんたがしてくれるんだろ?早く来てくれ!」
「おや?和奏ちゃん達は良いのかい?」
「あの沙綾さんの事は美空さまから聞いてるよ。むしろボク達も期待してんだ。沙綾さんを最後にこれ以上昴の嫁が増えない事をさ。」
「成程♪私達とその部分は一緒なんだね♪」
「でも、あの沙綾さんって本当に歳が………」
「ああ♪私の母が若い頃から散々知恵比べをしていたそうだよ♪」
「……………どうやったらあの姿を保てるのか後で教えてもらおう………」
「大変だねぇ、君達も…………」
一二三は苦笑しながらも、頭を切り替えて残る人質に自分達を信用して貰う文言を考えていた。
一方、庵に入った昴は、沙綾を抱いたまま履物を脱ぎ捨て三和土から室内に駆け上がった。
「さ、沙綾ちゃんったらいけない子なのね♪あんなに私を誘惑しちゃって♪」
「昴も未通女でなければ燃えぬ口では無いようじゃの♪」
「私はそんな了見が狭くないわよ♪でも、これって空さま達を私の目から逸らす為なんでしょ♪」
「ほほう♪それが判っていながら儂の誘いに乗ったか♪ではどうじゃ?ひとつ儂と勝負をせぬか♪」
「あら、どんな勝負?」
「どちらが先に相手をイかせるか♪」
「いいのかなぁ、そんな勝負を挑んじゃって♪」
「お主こそち○ぽをそんなにおっ立たせておって保つのかの♪」
「心配ご無用よ♪沙綾ちゃんが勝ったら空さま達には私から手を出さないって事でいい?」
「ふむ、妥当じゃな♪ではお主が勝ったら口説くのは目を瞑ろう。無理矢理するのは論外じゃぞ。その様な素振りを見せればお主のちんぽを問答無用で根切りにするでな。」
「私もそういうのは嫌いだから絶対にしないわ。それじゃあ早速始めちゃうわよ♪」
昴は沙綾の唇を奪い、畳の上にそっと横たえた。
その頃、加賀ではゴットヴェイドー隊を最前線に押し出して進軍していた。
「ゴットヴェイドォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!人にっ!なれぇえええええええええええっ!!」
祉狼の金鍼が光を放ち、打ち込まれた鬼が咆哮を上げると、次第に人の姿に戻って行く。
「よしっ!この人を早く後方へっ!次に行くぞっ!!」
『『『はいっ!お頭っ♪』』』
ゴットヴェイドー隊は正に神の御技を使う祉狼を誇りに思い、全力で自分達のお頭の指示に従う。
「メィストリァ!無理をなさらないで下さいっ!あまり氣を消耗しては命に関わりますっ!」
エーリカが心配して声を掛けるが、祉狼は笑顔で答える。
「大丈夫だ!エーリカ♪今の俺は氣が充実しているっ!これはエーリカのお陰でもあるんだ♪ありがとうっ♪」
「そ、そんな………メィストリァ……は、恥ずかしいです♪」
それはエーリカが祉狼とそれだけ身体を重ねている事と同じ意味なので、エーリカか顔を赤くする。
しかし嬉しさを隠そうともせず祉狼の傍らで戦える事を喜んでいた。
「金柑!惚けていないで鬼を捌かんかっ!」
「く、久遠さまっ!?そんなに前に出られては危のうございますっ!!」
「そう思うならさっさと来いっ!!」
久遠が母衣衆を引き連れて鬼の群れへと突っ込んで行く。
次の順番が来るまでもう数日有るので、完全にその欲求不満解消の為の突撃だった。
「はぁああああああああああああっ!私の身体が光って唸るっ!!」
「え?………な、なに?」
「幼女を愛せと輝き叫ぶっ!!泌擦っ!!((射入妊具|シャイニング))っ!!リンガァアアアアアアアアアアアアッ!!!」
昴の編み出し命名した御家流『射入妊具リンガ』、別名『光の剣』を発動させた。
「「あああぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁあっ???」」
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ………はぁぁぁああああぁ……………」
絶頂してあられもない姿で横たわる紗綾を呆然と眺めていると、紗綾がうっすらと目を開けた。
「この勝負………儂の負けじゃな…………」
身動きひとつせずにポツリと呟く。
「えっ!?引き分けでしょう?同時にイッちゃったんだから………」
「お主の様な儒子にイかされたのじゃ………しかも、まるで動けん程にな……」
「こ、儒子って…………え?もしかして紗綾ちゃんの歳って………」
ここで昴は初めて気が付き思い出した。
自分の母親の太白や音々、音々音の陳一家。
そして貧乳党の事を。
「儂の歳か?…………儂にも女の恥じらいが有るから詳しくは言えんが………」
昴は息を呑んで紗綾の言葉を待った。
「お主の三倍以上は生きておるぞ♪」
「さ………」
昴の年齢は十四である。
その三倍と聞いて血の気が引いた。
「そう落ち込むでないわ……考えようによってはお主にとって良いのではないか?何年経っても儂はこの姿のままじゃぞ♪」
「…………それってもしかして…………」
「んんっ?まさかお主……遣り逃げする気ではあるまいな。こうして子種を注いだからには我が良人となって貰うぞ!」
「で、でも勝負は……」
「賭けたのは空さま、名月さま、愛菜をの三人を口説く事を許すか否かじゃ。儂に玉を握られてしっかり聞いておらんかったのか♪」
「え?……………という事は…………紗綾……さんは初めから私を良人にするつもりだったって事?」
「そうじゃ。お主が美空さまから儂の事をどう聞いていたかは想像が着くわ。儂の愛弟子であり我が御大将なのじゃからの。我が身を賭して最後のご奉公と思っておった。つまり政略結婚じゃな♪」
「やっぱり…………」
「しかしな♪今の一戦で気が変わった♪儂の腰が抜けるくらいイかされたのは初めてじゃ♪惚れたぞ、昴♪」
「あ、あははははは………………あ、腰が抜けた?」
「儂を置いて逃げたらあの嫁共に有る事無い事吹き込んで離縁させるてやる。」
ジト目で睨む紗綾は歳を重ねた者にしか出せない凰羅を纏っていた。
「そ、そんな事しませんってば………」
返事をしながら昴は考える。
どうやってこの窮地を脱した物かと。
(私の歳の三倍っていったらお母さんより年上って事よ!幾ら見た目が幼女だからって、このままじゃ私は尻に敷かれて…………あれ?考えてみたらそれって私が和奏ちゃん達にしてもらってる事よね?それじゃあ年齢なんて関係無いわよね?そもそも私の好みの『幼さ』って何かしら?おっぱいが小さい?いえ、犬子ちゃんと夢ちゃんの他にも八咫烏隊にも幼女巨乳の子が居るし。身長も高い子は居るけど、それはそれで可愛いし、やっぱり年齢…………でも沙綾さんの身体はどう見ても幼女でしっかり萌えるし………そもそも何で私は沙綾さんをこんなに警戒している……………あ、朱里さまと雛里さまの事が有るからだ。)
「あの、沙綾さん。ひとつお伺いしたいんですけど………」
「ん?何じゃ?」
「沙綾さんは衆道画を収集する趣味が有りますか?」
「何じゃそれは?そんな物が京では流行っておるのか?まさかお主……」
「私はその手の物が苦手なんですっ!!」
「おお♪そうか♪そんなおなごの格好をしておるから、ちと心配になったわ。まあ、人それぞれじゃから男同士も女同士も強く否定はせんがな。儂はやはり男女で睦み合う方が良いのぅ………尤もお主がそんなおなごの格好をしておるから新たな趣味には目覚めてしまいそうじゃがな♪」
「そうですか………ふぅ、よかった………」
昴が胸を撫で下ろすのを見て、沙綾は心配そうな顔になる。
「何か余程嫌な想いをした事が在るのじゃな。ほれ、こっちに来い♪」
沙綾が両腕を広げて昴を招く。
その笑顔は慈愛に満ちており、幼女の姿で有りながら溢れ出る母性は人生経験の豊富さの表れだった。
昴は誘われるままに紗綾の胸に顔を沈める。
紗綾は昴の頭を優しく抱いて幼子をあやす様に撫で、背中をポンポンと軽く叩いた。
「沙綾……さん……」
「ほれ、怖く無かろう♪」
「……はい♪」
昴は心の底から癒されていく。
(あれ?この感覚………昔……お母さん以外の人にこうしてもらった事があった様な………)
「こうしておると((態|なり))は大きくともまだまだ子供じゃな……逸物もじゃが♪」
「さ、沙綾さんっ!」
「皮を被った姿が可愛らしいのぉ♪おっと、いつまでもこうしてはおられんのじゃった。昴、脱出の手筈はどうなっておる?」
「は、はい!城下の町の外れ、街道に馬を繋いであります。そこまで鬼を避けて…」
「成程、護身か。来る時もそれで鬼を避けたのじゃな………しかし脱出の時はそれが出来るかのぉ……」
「それはザビエルが私達の侵入に気付いていて脱出を阻んで来るって事ですか!?」
「いや、ザビエルもその配下の白い服を着た奴も今はこの春日山城には居らん。居れば禍々しい氣が嫌でも感じられるでな。」
「白装束の男もここに現れたんですね……でも居ないなら今が脱出の好機ですよね!」
「そう言う意味では正にその通りじゃが、子供達は気配を消す術を知らぬし足も遅いぞ。」
「それは私が三人とも抱えて行きますよ♪」
「阿呆たれ!お主に抱えさせたら美空さまの下に着いた時には三人の処女が散っておるわっ!そうなったら儂と貴様が腹を斬ったくらいでは治まらんぞ!お主に付いて来た嫁達も全員切腹物じゃっ!」
沙綾は固く握った両拳で昴のこめかみをグリグリと圧迫した。
「あだだだだだだっ!やめてーー!梅干しはやめてーーーーーーっ!」
沙綾は攻撃を止めたが、今度は頭を掴んで顔をグイッと上げさせた。
「ひとりはこちらの小島が背負うとして、あの娘達で子供を背負って走れる者が二人必要じゃ。戦力は落ちるが行けるか?」
「だ、大丈夫ですよ。私も戦いますから…」
「お主は駄目じゃ!儂を背負え。」
「へ?」
「腰が抜けたと言うたであろうがっ!貴様がした事じゃから責任取れっ!」
「は、はあ………まあ、私が戦わなくても城を抜け出すのに問題は無いですよ。」
「そうか。その言葉、信じるぞ。」
沙綾が真剣な顔で昴の目を見つめ、そのままそっとキスをする。
「んんっ………」
「ふぅ……ふふ♪続きがしたければ見事安全な所まで逃げ果せる事じゃな♪」
「あはは………がんばります………」
沙綾は手を昴の頭から首の後ろに回してしがみ付いた。
「このまま抱き上げて母屋に連れて行ってくれ。姫さま達と小島にお主を紹介して、即座にここから抜け出すぞ。」
「あの、その前に……」
「何じゃ?」
「下着を履きましょうよ、お互い。」
「ん?……………おお♪すっかり忘れておったわ♪男はお主しか居らんから儂は構わんが、お主のを姫様達に見せたと知れたら美空さまに引っこ抜かれるじゃろうな♪」
「勘弁してください……………」
時間は和奏達が宇佐美屋敷に入った所まで戻る。
「やあやあ!我こそは越後きっての義侠人!樋口愛菜兼続なるぞっ!どーーーん!」
『『『どーん?』』』
スバル隊の全員が愛菜の自己紹介に目を点にしていた。
しかし直ぐに我に返った者もいる。
「やあやあ!我こそは三河きっての((武士|もののふ))!本多綾那忠勝なのですっ♪どーーん♪」
「やあやあ♪鞠こそは今川鞠氏真なのっ♪どーーん♪」
「やあやあ♪雀は八咫烏隊の雑賀雀重朝でーーす♪パパーーーン♪」
どうやら愛菜の話し方が気に入ったらしく真似をし始めた様だ。
雀に至っては擬音が変わってしまっているが、それは八咫烏隊らしく鉄砲の音にアレンジをしたらしい。
「ほほう♪なかなかやりますな♪しかし!この樋口愛菜兼続は愛の守護者っ!遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ!空さまをお守りする愛菜は完全無欠!絶対無敵!どやっ!」
「綾那だって絶対無敵なのです♪どやっ♪」
「鞠も昴の為ならがんばるのっ♪どやあ♪」
「雀はそんな強くないけど、お姉ちゃんの鉄砲は無敵だよー♪どやっ♪」
四人の遣り取りに和奏達は頭を抱えた。
「秋子さんが言ってた『変な子』ってこいつの事か………」
「どうする、和奏ぁ……これじゃあ話が進まないよ?」
「でも何か面白い子だよね?♪雛、気に入っちゃったかも?♪」
「面倒くせぇだけじゃねえか。ぶん殴って黙らせちまおうぜ。」
バキ!
愛菜の脳天に手刀が振り下ろされた。
但し、その手刀は貞子の物だ。
「愛菜っ!お前は下がっていろっ!」
「お、おふぅ…………」
愛菜が目を回している隙に後へ追い遣り、貞子は改めて和奏達に向き直る。
「失礼いたした。我が名は小島貞子貞興……………こ、此度は越後へのご助力、感謝いたします。」
貞子は目の前に居るのが小兵ばかりなので、つい言葉に詰まった。
越後には小兵が殆ど居らず、沙綾が例外中の例外なのだ。
その沙綾と共に行動してきた貞子は、この目の前に居る和奏達も沙綾と同じで見た目と年齢が合致しないのではと、探りながら言葉を選んでいる。
(氏真公のお歳は聞き及んでいるから判るが、それにしてもこの身の熟し……鹿島新当流の皆伝だけはある。他にも相当な腕前の者も居て、歳が全く読めないぞ。明らかに子供だと判る者も居るが…………さて、困った……)
「ははは♪流石の鬼小島も姫様達を守りながらではこの鬼の巣窟を抜け出す事は適わなかったみたいだね♪」
「ん?お前はっ!武藤喜兵衛!何故貴様がっ!?って!後ろにいるのは片目の勘助ではないかっ!」
和奏達の後ろから現れた一二三と湖衣。
川中島で幾度も戦った仇敵にこんな弱り目の春日山城内を見られ、貞子は恥ずかしさと悔しさに歯?みする。
「まあまあ、そう尖らないでくれたまえ♪この騒動が単なるお家騒動なら遠慮無く利用する所だが、鬼が絡んでいるとなれば話は別さ。小島殿はここに幽閉状態だったから知らないのも無理は無いが、世の中は既に武田と長尾で争っていられない所にまで来てしまっている。過去の諍いを全て水に流せないという気持ちは判る。お互い様だからねぇ。今はそれでも手を握って鬼に立ち向かわねばならぬ時なのだよ。」
「なにっ!?ザビエルはそこまで勢力を拡大しているのかっ!?」
「歩き巫女の報告では、出羽も陸奥も鬼が出始め、四国と九州でも越後と同じ事が起きているそうだ。東海道では駿府が鬼の根城になり、我ら武田と北条には嫌な布石を打たれた。今越後に倒れられては我々が、いや、日の本その物が危うくなる。だから姫様達の救出に協力するのさ。」
「そうか………今はその言葉、信じよう。しかし、海津城には絶対に行かんからな!」
「私としては海津城の方が近くて安全なので、そちらで美空さまをお待ちしたいのが本音だが、決定権はこちらのお嬢さん達とその良人殿がお持ちだからね。協力者である私達は手助けをするだけさ♪」
貞子はその良人殿らしき人物の姿が見えず、沙綾も戻って来ない事から予め言われていた策を沙綾が実行しているのだと推測した。
ならば沙綾が戻るまでに脱出の準備を終わらせねばと気持ちを切り替える。
「空さま、名月さま、出て来ても大丈夫ですよ。以前お話ししたお味方が来て下さいました。
貞子が奥に向かって呼び掛けると、先ず名月が部屋から飛び出し、その後から空が怖ず怖ずと顔を覗かせた。
「わたくしが相模の獅子、北条左京大夫氏康が七女にして美空お姉さまから景虎の名をいただいた北条三郎名月景虎よ!おーーーほっほっほっほ♪」
高笑いをする姿にスバル隊の全員が梅を連想した。
「なあ、こいつがもちょろぎの親戚か?」
「蒲生家と相模北条家の関係なんてボクが知るわけないだろ!」
「相当昔のご先祖様までさかのぼれば、どっかでつながってても不思議じゃ無いけどね?」
「この子が名月さまならあっちで隠れてるのが空さまだね♪」
「なあ、愛菜も名月も空もワイらと被るのひとりもおらへんやんけ。拙いんとちゃうか?」
「熊の言う通りです………これは夢達が三人を昴さまから遠ざけねば非常にあぶないですよ………」
「(こくこくっ!)」
名月は自分を無視して勝手な事を話す目の前に並んだ少女達へ明から様に不機嫌な顔をした。
「ちょっと!この高貴な血筋のわたくしが挨拶をしてあげたんだから、あなたたちも名前を名乗りなさいよっ!」
「な、名月………助けに来てくれたのにそんな言い方は……」
空が名月の服の裾を遠慮がちに引っ張るが、その程度ではまるで効果が無く、名月は大きなつり目を更に吊り上げて小夜叉達を睨んでいる。
「ああっ!んだとコラァ!でけぇ口叩いてっと掠う前にぶっ殺すぞっ!」
「なっ!何て下賤なヤツなのっ!こんなヤツを美空お姉さまが寄越すハズありませんわっ!貞子っ!さっさと成敗してしまいなさいっ!」
「な、名月さまっ!気をお鎮めになって下さいっ!」
「小夜叉も話がややこしくなるから下がってろ!」
威嚇しあう二人を貞子と和奏が背中から掴んで引き離す。
この状況にふむと頷いた雛が熊と鞠を手招きした。
「熊ちゃん、鞠ちゃん、先に自己紹介してあげて?♪」
「ほえ?ええで。ワイは河内国主三好右京太夫義継。通称は熊や。よう覚えときや、ワレ♪」
「鞠は今川治部大輔鞠氏真なの♪小田原城では会えなかったから初めましてだね、名月ちゃん♪」
名月の吊り上がっていた目が驚きに見開かれた。
「う…右京太夫様に治部大輔様っ!?」
「…………………」
空も一緒に口をポカンと開けて動きが止まっている。
「おお♪効果てきめんだな、雛♪」
「まあねぇ?♪自分の身分を気にする子には効果が有るの和奏ちんで実証済みだからねぇ?♪」
「そうそう♪ボクなんか身分を聞くとビビっちゃう…って!今はもうそんな事ないぞっ!」
「綾那もそんなに気にしないですよ♪」
「綾那はもうちょっと気にした方がいいよ………公方様と話してるの横で聞いてると、犬子でもさすがにドキドキするから………」
「公方さまもあんまりそう言うの気にしないよ♪でも、雀がお話ししてるとお姉ちゃんに時々怒られるけど……所で、後ろの空さまが動かなくなっちゃったけど?」
雀の指摘に貞子が空の顔の前で手をヒラヒラさせる。
何の反応も無い。
「うわぁあああああああっ!く、空さまっ!お、お気を確かにっ!!」
立って目を開けたまま気絶している空に、貞子は気が動転して薬箱を探しに部屋の中へ駆け込んだのだった。
「私がスバル隊の隊長で孟興子度。通称は昴よ♪空ちゃん、名月ちゃん、愛菜ちゃん、初めまして♪」
満面の笑顔で挨拶をする昴に対し、三人は首を傾げていた。
男だと聞いていたのにどう見ても綺麗で優しそうなお姉さんだったと言うのも有るが、何故か不用意に近付いてはいけない気もしていた。
その背中に沙綾を背負っているのも疑問だったが、屋敷に近付こうとせず玄関からかなり離れた場所に立っているのだから不審な事この上無い。
「なんか私、警戒されてる?」
「空さまも名月さまも、次期越後国主、並びに次期関東管領候補じゃ。美空さまの後が継げる素養は当然持っておられる。愛菜のは野生の勘じゃろうな。」
昴と沙綾が話をしているのを見て取り敢えず近寄っても大丈夫そうだと判断した愛菜が先陣を切った。
「我こそは越後きっての義侠人!樋口愛菜兼続なり!直江与兵衛尉景綱の養子にして、空さまの無二の家臣!どや!」
「あなたが愛菜ちゃんね♪秋子さんから聞いてるわよ♪」
「お、おぅ………この愛菜をここまで警戒させるとはなかなかやりますな…………」
愛菜は昴に得体の知れないプレッシャーを感じ、珍しく尻込みしていた。
「こんなことでは空さまをお守りできぬっ!越後きっての義侠人、樋口愛菜兼続は空さまを美空さまに再びお会いさせるためならば!この身を賭して目の前の敵に天誅を下すのです!どやっ!」
「敵って………私の事?」
「そうですぞ!全ての人に愛を捧げ!空さまに恋の心をささげる、越後きっての義侠人!樋口愛菜とは愛菜のことですぞー!どーーんっ!」
「ええと………………」
昴が戸惑っているのを怯んだと見た愛菜はここぞとばかりに畳み掛ける。
「お前が妖しいのは誰が見ても明らか!愛宕にまします神々もご笑覧あれ!愛し恋しの我が主、空さまを我が身をもって盾とする所存!我が名は樋口愛菜兼続!愛に生き、愛に死す!どやぁ♪」
言ってる内に自分に酔い始めた愛菜はドヤ顔で昴を指差した。
「『ご笑覧』だと神さまを笑わせてるけどいいの?」
「ふっふっふっ。悪の倒れる姿に神々も喜び、抱腹絶倒!どや!」
勝ち誇る愛菜を見て、昴も対応の仕方を閃いた。
「ふっふっふっ♪残念ながら私は悪じゃないのよ♪愛菜ちゃんが愛の戦士なのは認めるわ。でも、それなら私は全ての幼女に愛を捧げ!全ての幼女に恋の心を捧げる!幼女愛の戦士ぎゅう………」
昴が背負っている沙綾に首を絞められた。
「おい。それ以上変な事を口走るなら、この場で絞め殺すぞ。」
「あ゛…あ゛い……わがりばぢだ………」
「(儂の尻を撫でて構わんから、暫くはそれで我慢せい!)」
沙綾は耳元で囁くと、首を絞めていた手を緩める。
「それじゃあ遠慮無く♪」
「早速かっ!」
「沙綾、どうしたの?」
「う、うささん……?」
名月と空は、昴が背後で沙綾の尻を撫でているとは夢にも思わず、沙綾を心配して声を掛けた。
「な、何でもございませんぞ♪空さまも名月さまも昴どのにご挨拶をなさいませ。ああ、但しそれ以上は近付かれませぬ様に。」
「「???」」
二人共沙綾が何故その様な事を言うのか疑問に思ったが、そこは沙綾を信頼している二人なので素直に従う。
「天の御遣いさま♪わたくしの名は北条名月景虎ですわ♪以後お見知りおきを♪」
「わ、わたしは長尾空景勝です…………よ、よろしくお願いします…………」
「こちらこそ色んな意味でよろしぐえっ!」
「じゃから、妙な考えを起こすなと言うておるじゃろうがっ!」
「沙綾?」
「うささん?」
「はっはっはっ。実を言いますと、儂はこの者の嫁に成りましてな。年甲斐も無く姫様方に嫉妬してしまいました。申し訳御座いませぬ。」
「「「ええっ!?」」」
突然の嫁発言に名月と空だけでは無く、貞子も驚きの声を上げた。
「ちょ、沙綾さまっ!?」
沙綾が神妙な顔で頷いたので、貞子はこれも策のひとつなのだと理解し頷き返す。
しかし、名月と空は笑顔になり、素直に沙綾を祝福した。
「おめでとう、沙綾♪いつも男運が無いってぼやいていたけど、これで安心ね♪」
「おめでとう、うささん♪」
「はっはっはっ♪ありがとうございます、名月さま、空さま。」
沙綾はスバル隊の面々に顔を向け会釈をする。
「事後承諾となるが、そういう事じゃ。これから宜しく頼みますぞ、嫁御殿♪」
「本当に『事後』承諾だけど?、まあ覚悟はしてたから別に良いですよ?♪」
「むしろ、ボク達の方が嫁として申し訳ないよな………」
「最近、犬子達昴さまに甘くなったよね………」
「八咫烏隊の五十人が加わったから、少しでも気を引こうとしちゃいますからねぇ………」
桃子のぼやきに沙綾が驚いて昴の首をまた絞めた。
「五十っ!?それはここに居る十二名以外にかっ!?」
「ええ、そうですけど…………昴さまっ言ってないんですかっ!?」
小百合も沙綾と一緒に昴の首を締め出した。
「く…くるし………で、でも……」
昴の顔に悦びが浮かんで来たので沙綾と小百合は同時に手を離す。
「もう、これですよ………」
「これは儂が手綱を締め直してやるしかなさそうじゃな。」
「出来ますか?」
「伊達にお主達の四倍近く生きておらんわ♪任せておけ。それよりもいい加減脱出せねば夜通し鬼から逃げる事になるぞ。」
沙綾の一言で遂に春日山城からの脱出が始まった。
沙綾はそのまま昴の背に、空を貞子が、名月を一二三が背負う。
愛菜は自分の足で大丈夫と言い張り、構うと長くなるのでいざとなったら気絶させて運ぶ事が暗黙の内にスバル隊の中で決定された。
小夜叉と鞠と綾那を先頭に、来た道を大胆とも言える素早さで走って行く
来る時同様、城壁で少々手間取ったが、鬼に見付からず春日山城からは出る事が出来た。
しかし、後少しで城下町という所で三人は足を止める。
「鬼が増えやがったな。」
「ここを使うと鬼に見つかっちゃうの。」
「どうするですか、昴さま?」
「ちょっと待って。みんな寄ってちょうだい。」
言われるままにスバル隊が昴を中心に押しくら饅頭の様に固まった。
幼女力を高める事で、昴は気配の探索範囲を広げたのだ。
「これは…………町中鬼だらけになってる………お城の中の鬼が少ない訳だわ……」
「どうすんだ、昴?城の鬼が少ないならもう一度城に戻って北の山から街道をめざすか?」
「それは愚策じゃぞ、和奏。」
昴の背中から沙綾が注意する。
「そうね。城の鬼がもう人質の居なくなった事に気付いてざわつき出しているわ。」
「かと言って町を迂回して街道に向かえば鬼に追い付かれるじゃろうしな。」
「そんじゃやる事はひとつだな♪」
小夜叉が嬉しそうに人間無骨を構える。
「鬼共を殺ってやるですか♪」
綾那も張り切って蜻蛉切りを構えた。
一二三と湖衣は敢えて何も言わない。
スバル隊の真の実力を測るチャンスだと考えているのだ。
「それじゃあ馬の所まで最短距離を突破するわよ。」
全員が無言で頷き、隠れていた林のギリギリまで静かに移動する。
「突撃ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!」
昴の合図で全員が鬼の跋扈する春日山の城下町に向かって走り出した。
「ひゃっはぁあああああああああああ♪やっとオレの出番だずぇええええええええっ!!」
「綾那もこの時を待っていたですよっ♪」
スバル隊の切り込み隊長二人が目の前の鬼を次々に斬り伏せて行く。
攻撃をしながらなのに速度は落ちず、入り組んだ城下町の道を的確に街道への最短距離で進んだ。
二人の攻撃が届かなかった鬼を鞠と犬子が引き受ける。
「槍の又左の出番だわんっ!」
「鞠だっていくよーーーー!疾風砕雷矢ぁあああああ!」
犬子の雲龍金蒔絵十文字槍が左手の鬼を斬り伏せ、鞠の御家流が右手の鬼を鎌鼬で切り裂く。
「お姉ちゃん!和奏さま!屋根の上っ!」
パパーーーーンッ!
雀の指摘に烏と和奏が素早く反応して屋根の上から襲おうとしていた鬼を愛山護砲と絡繰り鉄砲槍で撃ち抜いた。
和奏の絡繰り鉄砲槍は烏によって改良を加えられ、威力と命中精度が向上している。
更に烏に早込めを教わり鍛練したので、今の和奏は遠近双方で攻撃の隙が無くなっていた。
「スゴい………強いのは感じていたが、個人の武もさることながら連携が見事だ……」
「これも昴ちゃんを愛する女心の成せる技なのですよ?♪」
感心する貞子に、雛はいつもの気の抜けた口調で笑った。
「と、ちょっと失礼。」
雛が真剣な表情を見せた瞬間にその姿が掻き消える。
「えっ!?」
驚く声は貞子の背に居る空の物。
貞子は気配から雛が鬼の迎撃に行ったのが判っていた。
(身軽で動きの早い鬼を討ちに行ったな……)
「ただいま?♪」
「ひゃっ!」
「もう倒したのかっ!?」
「一匹しか居なかったからね?♪さすがにあれは和奏と烏ちゃんでも無理だし、集まられると厄介だもんね?」
貞子も以前に戦った事の有る種類の鬼だが、その素早さに苦労した苦手なタイプだった。
「その素早さは御家流か?」
「滝川家御家流『頑張って足を速く動かせば、速く動くことが出来るの術』っていうんだよ?♪」
「そのまんまじゃないかっ!」
「ぷっ…うふふっ♪」
「あ、空ちゃんやっと笑ってくれたね♪今は恐かったら目を瞑っててもいいけど、後でお話たくさんしようね?♪」
「あ……は、はい!」
捉え所の無い少女だと思っていたが、空を思いやってくれる気遣いに貞子は感謝した。
「熊さま、大丈夫ですか?何なら桃子が負ぶってあげますよ。」
「舐めんなや、ワレ!ワイかて白百合に鍛えられとるんや!こんなん余裕やんけ♪」
「雀ちゃんはどう?小百合が負ぶってあげようか?」
「お馬さんの所までは大丈夫だよー♪あ、でも、雀お馬さんに乗れないからその時はお願いしますっ♪」
「馬ならば、この越後きっての義侠人!樋口愛菜兼続が見事な手綱捌きをご覧に入れますぞ!どーーん!」
まだまだ余裕の有る少女達を見て、一二三と湖衣は素直に感心していた。
「(一二三ちゃん、この子達の強さは情報以上ですね。)」
「(そうだね。昴くんも湖衣の金神千里と同じ事が出来るのには驚かされたしね。武田に連れて行った時に典厩さまと兎々が餌食にされると警戒したが、これはむしろ昴くんの嫁となってその力を武田に取り込んで貰った方が良さそうだ♪)」
「(結局色仕掛けですか………不潔です……)」
「(湖衣は初心だねぇ♪世の中に男と女が居る限り無くならない策だよ♪ああ、そうだ。湖衣は薫さまが昴くんの守備範囲に入ると思うかい?)」
「(ふぇっ!?)」
「(典厩さまの妹なのに、光璃さまの影武者が務まる程の外見だ。私としては薫さまにはかの薬師如来殿に光璃さまと共に嫁いで頂きたいと思っているのだが、どう思う?)」
「(そ、それは………連合内部での発言権を得る為には…………)」
「(まあ、薬師如来殿の為人を確かめてからでも遅くは無いか♪相模の事も有るから出来る限り早急に、且つ正確に情報を集め判断しなくてはね。そうそう、相模と言えば、駿府を取り戻せば昴くん小田原城へ挨拶に向かわない訳には行かないだろう。その時はこの子達がまた頭を抱えるのだろうねぇ。)」
湖衣は一二三の背に居る名月を見る。
名月の実の母である北条氏康は美人で女らしい姿をしているのに、娘は皆幼い顔立ちをしているのを思い出した。
(もし空さまと名月さまも昴さんのお嫁さんになって、北条の姫も全て手に入れる事になれば、将来的に昴さんが日の本を掌握するのではっ!?)
湖衣がそう思い至った時に、昴の声が響いた。
「もう直ぐ町を抜けるわっ!夢ちゃん!お願いっ!」
「はいなのですっ!」
最後尾に居た夢が立ち止まって後方に振り返る。
「『退きの佐久間』の御家流っ!とくと味わわせてあげるのですっ!!」
夢が跪いて地面に両手を着いた。
「((宮簀媛|みやずひめ))に申し奉る!尾張は熱田大神宮に奉られし((草那芸剣|くさなぎのつるぎ))!((日本武尊|やまとたけるのみこと))を守りし剣の力を尾張を護りし者に今一時((能|あた))え賜え!」
顔を上げて迫り来る鬼の群れを睨む。
「((天叢雲|あめのむらくも))・((怨敵焼遣|おんてきやきづ))っ!!」
夢が叫ぶと突風が吹き荒れ辺りの枯草を巻き上げた。
巻き上げられた枯草は空中で燃え上がり、炎の竜巻となって鬼の群れを飲み込んだ。
しかもその範囲は一町。約100m四方が一面火の海となったのである。
それを見ていた全員が呆気に取られた。
「三種の神器である草薙剣の力を借りる御家流とは畏れ多いねぇ………」
一二三の呟きに和奏が返す。
「草薙剣って言うより熱田神宮の力を借りるらしいぞ。夢の家族は事あるごとにお参りと寄付をしてるって言ってた…………けど、佐久間家の御家流って初めて見た。」
「ん?同じ尾張の者なのにかい?」
「夢も言っただろ、『退きの佐久間』って。いつも((殿|しんがり))だからボクら見れないんだよ。」
「ああ、それもそうだね♪」
夢の御家流が時間を稼いでくれたので全員が馬を繋いだ場所までたどり着き、急いで手綱を握った。
昴が馬を連れて夢の所まで戻ると、夢は直ぐに馬へと飛び乗る。
「昴さま、ありがとうなのですっ♪」
「それは私の台詞よ♪ありがとう、夢ちゃん♪」
「ご褒美期待してるですよ♪さあ、早く逃げるですっ!」
昴の前に座る沙綾が夢にこえをかける。
「あの御家流、本当なら三十余町は焼き尽くすのでは無いのか?」
沙綾の言う三十余町(約3km四方)とは、平家物語で語られる草薙剣は日本武尊がひと振りで草を薙ぎ払ったと伝えている所から推測した数字である。
「そうなのです。夢はまだそこまで出来ませんけど、母上は三十余町焼いた上に矢を射かけるですよ。これを越えて追撃出来る敵はまず居ないのです♪」
昴、沙綾、夢が戻ると、全員が馬腹を蹴って北陸道を越中へ向けて走り出した。
右手に海を眺め、ひたすら街道を駆け抜ける。
「沙綾さん、間に合うと思う?」
「五分といった所じゃろう。夜ならば先ず間に合わんじゃろうな。」
昴と沙綾は鬼が春日山城から山を突っ切って北上し、谷浜付近まで出て来ると予想していた。
昴達は現代で言う国道8号線を使い岩殿山と湯殿山を大きく回り込まねばならない。
海と山に挟まれた狭い場所で鬼に行く手を阻まれれば、追っ手の鬼と挟み撃ちにされてしまう。
故に昴は替えの馬を一二三に頼んで全速力で駆けられる準備をしたのだ。
「一二三さん!替えの馬はどこに用意しましたっ?」
「名立だ!そこから能生まで行けば安全だ!」
昴は来る時に通り過ぎた村を思い出す。
(春日山城の城下から逃げて来た人達も、美空さまの配置した部隊も居るから、そこまで行けばみんなを休ませられるわ。)
緩やかなカーブを描く道を駆け、少しだけ視界が開けた。
「谷浜じゃっ!ここを抜ければ…」
その時左手の山側から黒い影が地滑りかと思わせる勢いで雪崩込んで来た。
「ちぃい!後少しと言う所でっ!」
歯噛みした沙綾。しかし、昴は諦めていない。
「沙綾さんっ!降ろしてる暇が無いからしっかり掴まっててっ!!」
昴は肩から下げた例の麻袋から新たな武器を引き抜いた。
「昴!?その武器は…」
「これは私が知る限り、最強の武将が手にしている物と同じ物よっ!」
手にした武器をその武将と同じに自然体で構える。
「この武器の名は方天画戟っ!武将の名は呂布奉先っ!!」
昴は、かつて恋が音々音と共に戦った様に、沙綾と共に鬼の群れへと突っ込んだ。
「昴!テメェひとりで楽しい事してんじゃねえぞっ!!」
「昴さまずるいのです!綾那も殺ってやるですよっ!」
「昴っ!ああもう鬼が邪魔なのっ!疾風烈風砕雷矢ぁああああああああっ!!」
「「昴っ!」」
「昴ちゃん!」
「「「「昴さまっ!」」」」
「!!!」
「おヌウちゃんっ!?」
昴が方天画戟を振るう姿は、正に嵐の様だった。
一振りすれば尽く鬼は血飛沫を上げて宙を舞う。
小夜叉、綾那、鞠が共に鬼の雪崩を切り捨てる。
「グズグズすんなっ!早く駆け抜けろっ!」
和奏の声に空を乗せた貞子、名月を乗せた一二三、愛菜を乗せた湖衣、烏を乗せた熊が北陸道をを駆け抜ける。
昴達の攻撃の範囲から僅かに逃れた鬼が数匹行く手を遮ろうとしたが、貞子が全て斬り伏せ塵に返した。
「桃子!小百合!先に行けっ!」
「「はいっ!」」
雀を乗せた小百合が先行し、その後ろを桃子が守って追い掛ける
和奏、雛、犬子の三人は夢を囲い守っていた。
「本日二回目のっ!天叢雲・怨敵焼遣っ!!汚物は消毒なのですっ!!」
湯殿山に火が点き、落ち葉の季節の山は一気に燃え広がって行く。これで鬼の後続は完全に遮る事が出来た。
「ボク達は先に行くぞっ!小夜叉!綾那!鞠!昴を頼むぞっ!」
「応っ!!」
三若と夢が名立を目指して西へ駆けて行く。
残る鬼も後僅か。
「一気にケリをつけるわよっ!」
「それでこそオレの良人だぜえっ♪」
「はいなのですっ♪」
「判ったのっ!」
四人の刃が瞬く間に残りの鬼を殲滅する。
方天画戟を振るう昴の姿を一番間近で見ていた沙綾は、その勇姿に見惚れていた。
「(ははは♪これは正に天の御遣いじゃ♪いかんの……年甲斐も無くときめいてしまうわ♪)」
完全に鬼の姿が見えなくなった谷浜で、昴、小夜叉、綾那、鞠は流石に肩で息をしていた。
「さあ、急ごうぜ♪今晩は能生で旨い飯を腹いっぱい食ってやる♪」
「綾那秋刀魚が食べたいのですっ♪」
「鞠は鱈ちりが食べたいのっ♪」
「はいはい♪じゃあ腕に寄りを掛けて作るわね♪」
昴が料理を作ると聞いて、沙綾は呆れて三人を見た。
「なんじゃ?料理は良人殿任せか?妻を名乗るなら料理くらい作れる様にせねばいかんぞ。これからは儂がその辺りを叩き込んでやろう♪」
「お、オレは食えるモン作れるから大丈夫だ!」
「小夜叉程度でいいなら綾那も作れる内に入るのです♪」
「えぇ?!?二人の作った物ってしょっぱすぎるか全然お塩が足りないかだもん、あれじゃあ出来るって言わないよ。」
「ははは♪そう言う鞠さまはどうなのですかな?」
「鞠は聖刀お兄ちゃんと結菜お姉ちゃんところに教えてもらってるの♪昴とも一緒にお料理してるの♪」
「ほほう♪では今晩は一緒に((厨|くりや))へ立ちますか♪良い秋刀魚と真鱈が揚がっておれば良いですな………サンマとマダラ…………もしかして三昧耶曼荼羅と掛けておるのか?」
「あはは………来る途中でそんな話題が出まして………」
「美空さまの前で言うでないぞ…………」
五人はそんな話をしながら名立を目指して馬を走らせたのだった。
房都城 蜀館 恋・音々音・音々居室
「昴ちゃんは元気にやっているみたいですねぇ♪」
夕食後のひと時を音々は音々音、恋と一緒にお茶を啜りながらまったりとしていた。
「………昴なら大丈夫。恋が鍛えてあげたし、方天画戟も作ってあげた♪」
「母上も恋殿も昴には甘いですな………何処をどう間違えてあんな風になってしまったのやら………」
「?………………ねね………昴は良い子だよ?」
「そうそう♪恋ちゃんの言う通りなのです♪己の分を弁え、常に聖刀くんを仕えて来たのです。聖刀くんや祉狼くんの様に特別な素質を持たない昴ちゃんはその分努力をしていたですよ。貂蝉ちゃんと卑弥呼ちゃんに弟子入りしたのも聖刀くんを支える力を欲した故なのです。」
その姿を蔭から見守っていた音々は、目を閉じて当時を思い出す。
「素質ですか…………((慇照|インテリ))から素質は充分受け継いでいると思うのです…………」
「その素質が開花するのを太白ちゃんと一刀さまたちが恐れて押さえ込もうとするし。」
「まあ当然ですな。あんなのが二人に増えるかと思うとねねだっておちおち寝ていられなかったのです。それに女の子の格好をさせたのは、慇照が赤ん坊の昴に興味を示さなかったから太白がしょうがなく始めたのが切っ掛けだったではないですか。」
「でも、その所為で朱里ちゃんと雛里ちゃんの標的にされて心に傷を負ったのです。」
「それについてはねねも同情するですよ………」
「こんな小さな頃にあの仕打ちはあんまりなのですよ………」
「…………ちょっと待つです。その指は何ですか?」
音々は親指と人差し指で数センチの小さな隙間を作っていた。
「お風呂ではよくわたくしに甘えていたですから♪」
「………恋が最後に見た時はこれくらいだった。」
「恋殿っ!?…………………太白にはとても言えないのです……………」
音々音は頭を抱えて卓に突っ伏した。
「太白ちゃんに言えない事ついでに白状すると、あの三人が向こうの外史に行く直前に昴ちゃんの筆下ろしの許可を一刀さまたちにお願いするつもりだったのですよ♪」
「なっ!……………何を言い出すですかこの母はっ!!」
「浮気では無いですよ。一刀さまたちに許可を頂き『教育』をしようとしていたのです♪……………ただ、吉祥ちゃんに見抜かれていたらしく、決行前に逃がされてしまいましたが…………ちっ!」
「舌打ちしやがったですよっ!このバカ母はっ!!」
「母に向かってバカとは何ですか!バカとはっ!」
突然恋が立ち上がった。
「ねねもおかあさんも喧嘩しちゃダメ。」
タメ無く放たれた言葉と全身から溢れる凰羅に音々音と音々は息を呑んで居住まいを正した。
「恋ちゃんの言う通り喧嘩はいけないですね………」
「ねねと母上は仲良しなのです…………」
二人が手を取り合うのを見て恋は椅子に座り直して嬉しそうに微笑んだ。
この場はそれで治まったのだが、後日に恋が霞と阿猫に『筆下ろし』の意味を質問してまた大騒ぎになったのだった。
あとがき
昴vs沙綾は沙綾が完全に落ちて昴の勝ち………と言って良いのでしょうか?
まあ、昴はドMなので尻に敷かれるのもご褒美なのでこれで良いのかも知れませんねw
空・名月・愛菜に対してはおあずけ状態ですが、連れ戻ってから美空との攻防戦が開始となりそうですw
《オリジナルキャラ&半オリジナルキャラ一覧》
・ 佐久間出羽介右衛門尉信盛 通称:半羽(なかわ)
・ 佐久間甚九郎信栄 通称:不干(ふえ)
・ 佐久間新十郎信実 通称:夢(ゆめ)
・ 各務兵庫介元正 通称:雹子(ひょうこ)
・ 森蘭丸
・ 森坊丸
・ 森力丸
・ 毛利新介 通称:桃子(ももこ)
・ 服部小平太 通称:小百合(さゆり)
・ 斎藤飛騨守 通称:狸狐(りこ)
・ 三宅左馬之助弥平次(明智秀満) 通称:春(はる)
・ 蒲生賢秀 通称:慶(ちか)
・ 蒲生氏春 通称:松(まつ)
・ 蒲生氏信 通称:竹(たけ)
・ 六角四郎承禎 通称:四鶴(しづる)
・ 三好右京大夫義継 通称:熊(くま)
・ 武田信虎
・ 朝比奈泰能
・ 松平康元
・ フランシスコ・デ・ザビエル
・ 白装束の男
・ 朝倉義景 通称:延子(のぶこ)
・ 孟獲(子孫) 真名:美以
・ 宝ャ
Hシーンを追加したR-18版はPixivに投降してありますので、気になる方そちらも確認してみて下さい。
[pixiv] http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6273831
さて、次回は春日山城奪還戦の予定です。
説明 | ||
これは【真・恋姫無双 三人の天の御遣い 第二章『三??†無双』】の外伝になります。 戦国†恋姫の主人公新田剣丞は登場せず、聖刀、祉狼、昴の三人がその代わりを務めます。 *ヒロイン達におねショタ補正が入っているキャラがいますのでご注意下さい。 戦国†恋姫オフィシャルサイト:登場人物ページ http://nexton-net.jp/sengoku-koihime/03_character.html 戦国†恋姫Xオフィシャルサイト:登場人物ページ http://baseson.nexton-net.jp/senkoi-x/character/index.html ちょっと遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。 今回は昴とロリっ子中心のお話です。 ロリBBAとお姉様数名も混じっていますがw |
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殴って退場さん>恋姫†無双では名前だけだった馬休馬鉄を始め多くのキャラが登場しましたし、戦国†恋姫でも沙綾や北条氏康が名前だけからXで登場となったのでいつか佐久間家が登場してくれる事を期待していますw 熊が舎弟になったのは其ノ十三でおしっこを漏らした後で小夜叉を「姐さん」と呼んだ時からですw(雷起) 殴って退場さん>昴は恋や他の将に鍛えられて死にそうになっても華佗が治して、サイヤ人の様に強くなって行ったんでしょうねw朱里と雛里の精神攻撃は幼女を見ることで癒していたと思いますw(雷起) 神木ヒカリさん>あけましておめでとうございます。 昴の才能の開花はある意味災害の発生とと同じですからねw(雷起) そして佐久間の御家流、本当に物語に佐久間家が出てきたら使って欲しい御家流だな。あと熊は何時から小夜叉の舎弟になったんだw。 (殴って退場) 昴も長い間化物揃いの将に鍛えられると強くなるわな。ただ朱里や雛里にはとんでもない教育を受けてしまったみたいでよくぐれなかったなw。 (殴って退場) あけましておめでとうございます。昴は確かに素質が開花したことでとんでもないことになってるな。(神木ヒカリ) |
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