真 恋姫無双 もう一人の大剣 6話
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庭では金属音。

 

鍛錬している二つの影があった。

 

「ふっ!」

 

「おお!」

 

「くっ、これならどうだ。はあ!」

 

「うわ!あぶな!」

 

「流石は炎。その大剣で私の攻めを全てさばくとは」

 

「思春もなかなか速いじゃないか。今のは本当に危なかった。初めて会った時に比べて強くなったな」

 

「世辞はいらん。それにあの時、貴様はその剣を抜くことさえしなかった」

 

「俺はお世辞は言わねえよ。炎蓮の身内に怪我させるわけにはいかねえからな。悪かったな、甘興覇としては誇りを汚してしまったろう」

 

武官としての誇りはあまり炎にはない。

 

だが同じ武に自信を持っている者として、気持ちは理解できる。

 

炎は思春に向かい頭を下げた。

 

「よせ、頭を上げろ。貴様の人の様は最近理解できたつもりだ。それに今私はお前に教わる立場の人間だ。責めるつもりはない」

 

「そう言うならこの頭、上げさせてもらう。だが強くなったというのは本当だ。教える者としては生徒が成長していくのは嬉しい限りだ」

 

「・・・褒め言葉として受け取っておこう」

 

思春が顔を赤らめ、視線をそらす。

 

炎がその表情を見逃すはずもなく。

 

「お?珍しい、その表情は・・・・お前もしかして照れてるのか?」

 

「なっ!気のせいだ」

 

「おやおや、今度は焦りだ・・・ごまかそうとしてるのかな?」

 

「そんなことより鍛錬の再開だ」

 

「話を逸らそうとしたのが答えだな。よく分かった」

 

「はあ!」

 

思春の一撃を今度はさばくのではなく、剣で受け止めた。

 

「ずっとお前の攻めをさばくばかりだったからな。たまには真っ向から受け止めてやる」

 

鍔迫り合いの状態で均衡を保っている。

 

「(受け止めるだと。くっ、重い。今にも押し負けそうだ)」

 

外から見ると均衡を保っているように見えるが、思春がギリギリのところで耐えている状態だった。

 

徐々に思春が後ろへ退がる。

 

炎は力を込め、押し続けている。

 

「なんだ?お前の攻めはもう終わりか?」

 

「こ・・・の、言わせておけば」

 

だが、動けない。

 

ずっとこの状態が続くと思っていたが、炎がとっさに剣を引く。

 

力を込め続けた思春は体が前に流れた。

 

炎は思春の手首を掴み、自分へ引き寄せ、首元へ剣を添えた。

 

「はい。一回死に」

 

たった一瞬、その一言を発した炎から恐ろしい殺気を思春は感じた。

 

初めてだった。

 

思春との差が大きい者は大勢見てきた。

 

事実、炎蓮や雪蓮がいた。

 

だがそこまで差がある者にこれほどの殺気を向けられたことは初めてだった。

 

炎に殺気を向けられた瞬間だけ、思春は自分をまな板の上の魚の気分だった。

 

そこでは自分は無力で後は相手の好きなように料理される。

 

「おい!思春!」

 

「はっ!・・・なんだ炎か」

 

声を掛けられ現実に引き戻される。

 

炎が先程よりも恐ろしく見える。

 

「殺気を少しだけ出したが逆効果だったな。恐怖の表情が拭えない。いいか思春。相手の殺気をお前がどんなに恐ろしいと感じても、それ自体がお前と相手の実力差とは限らない。覚えとけ」

 

「・・・・・・・」

 

「(まじかよ、思ったより恐怖が深いぞ)」

 

思春は首を縦に振り続けるだけ。

 

徐々に炎との距離を置こうともしている。

 

これはまずい。

 

炎はそう思った。

 

「思春!もう一度言うぞ!お前は強い!」

 

「ふん・・き、貴様に言われてもな。あんな、恐ろしい・・・殺気を」

 

「戦う前から実力の差が分かってたまるかよ。それならお前と初めて会った時だって寒気がしたくらいだ。小便チビリそうだった」

 

「ほ、本当か?」

 

「ああ、それにお前は一度俺の本気の殺気を受けているはずだ。その時お前は逆に蓮華の為と俺に挑んだはず。そんな奴がちょっとだけ出した殺気に恐れをなす?馬鹿馬鹿しい。だとしたら俺は甘寧という武将を過大評価していたようだな」

 

「なんだと?」

 

「おう。直球で言ってやろう」

 

炎は思春の顔を見て、とても喜んでいる。

 

無意識にでた最高の笑顔でこう言った。

 

「思春は弱っちい脳筋野郎」

 

「言いたいことはそれだけか。曹螢」

 

構え直す思春。

 

いい顔になってきた。

 

「おう。もう言い残すことは無いぞ」

 

「殺す」

 

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冥琳に無理矢理政務を手伝わされた。

 

「うお?、無理。もー嫌。やりたくない。めんどくさい」

 

机の上に突っ伏す。

 

「炎、面倒なのは皆も同じだ」

 

「嘘つけ、冥琳は事務仕事を進んで引き受ける変わり者だ。こんなことは好きでないとやってられない」

 

「私とて楽しいわけではない。第一、お前は嘘を見抜く才を持つのだろう?私の顔をしっかり見て発言してほしいものだ」

 

再び机に突っ伏して唸り声を上げている。

 

「やはり炎様も武官なのですね。そんなに政務を嫌がるなんて」

 

「元武官が何を偉そうに」

 

「う?、すみません」

 

「あー、炎さん。亜紗ちゃんを泣かせちゃいましたね」

 

「おい隠。デタラメ言うな。亜紗がそんなことで泣くわけが・・・」

 

亜紗の顔には悲しみの表情が。

 

「え、うそ!待って待って!亜紗、ごめん!ごめんなさい!」

 

「哀れだな」

 

「炎さん、すごく焦ってますね。いじめたくなっちゃいます」

 

「お前ら助けろよ!」

 

ひと騒動あり、今は静かに政務に集中している時。

 

「そういえば・・炎さんと炎蓮様って知り合いなんですか?会った時からとても親しそうに見えましたけど?」

 

「親しい・・・ね。炎蓮とは何度か戦場でやりあったこともあったからな。そのうち酒を飲む仲にもなったよ」

 

「ええ!?今まで殺し合いをしていた間柄ですよ!?」

 

「亜紗甘いぞ。炎蓮様はあの雪蓮の母君だぞ。容易に想像がつく」

 

「それに元敵国の俺を受け入れている時点でお前らもそうとうおかしい」

 

「ご心配には及びませんよ。炎さんが曹操さんではなく曹騰さんに忠誠を誓っていたのは誰でも知っていますし、その曹騰さんが隠居なされて、炎さんが曹操さんの元を離れた時点で明白ですよ」

 

「・・・・は?」

 

「へ?わかりませんか?」

 

「隠、言葉が足りん。こいつは自分のことに関しては無知、しかもバカなのだ」

 

「おい」

 

「いいか炎、今お前の風評が大きく広まっている」

 

「風評?」

 

「そうだ。しかも良い方のな。お前が曹騰の命により、曹操を守ってきた。そうだろう?」

 

「ああ、そうだ」

 

「その忠誠心と曹操を今まで守り抜いた実績は当然周知の事実。そこまで信義に重きをおき、能力もある奴が裏切りなど考えられん。曹操の配下になるという周辺諸国の唯一の懸念はお前自ら無くしてくれた」

 

「はぁー、買い被ってくれちゃって。ん?周辺諸国?」

 

「お前と曹操の対立は耳にしていた。諸国も我らと同様の情報は握っているだろうな。お前がどこかの国へ行くたびに諸国へ自分の情報を流してると思え。お前はもはや唯の一介の将ではないと自覚しろ」

 

「はーい。冥琳先生」

 

「勿論、雪蓮がお前の眼鏡にかなうならば、我らは大歓迎だ。その暁にはしっかり働いてもらう」

 

「げっ、俺もう呉を出て行こうかな」

 

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「ふふふふふふふ」

 

「・・・・」

 

「明命みーつけた!」

 

「はわ!」

 

絶賛かくれんぼ開催中。

 

参加者は炎、明命だけ。

 

「どうだ?明命。得意の分野で負ける気分は??」

 

明命を上から見下ろし挑発的に言う。

 

「ずるいですよ炎様。人に聞きまわってるじゃないですか」

 

「誰もおしえてくれなかったよ?ん」

 

確かに炎は周辺の人に明命の居場所を聞いていたが、返してくれるものは誰もいない。

 

というよりも、返される前に炎が立ち去るから返せない。

 

「炎様には人の表情を見抜けるじゃないですか」

 

「負け犬がどー言おうが、言い訳にしか聞こえないね?」

 

「う?、炎様は鬼です」

 

「おっとお褒めの言葉ありがとう。はーはっはっはっは・・・・はぁー、飽きたな」

 

「えっ!」

 

「そうだ、明命、お前確かこの後賊討伐だよな?俺もついて行っていいか?」

 

「私は構わないですが、冥琳様から仕事を任されたのでは?」

 

「あんなの帰ってからちょちょちょーいと終わらせればいいんだよ。お前さえ黙ってくれればいいんだからさ」

 

「・・・はぁ、わかりました」

 

「よし!」

 

明命の出立の時まで冥琳から身を隠し、やり過ごした。

 

一度明命のところまで来たらしいが、約束通り炎の事は話さない。

 

「はっはっは!周公勤、敗れたり!」

 

馬に乗り、行軍中に高らかに笑う。

 

その声に周りの兵たちにも動揺が広がる。

 

「炎様。兵に動揺が広がりますから」

 

「あの冥琳の困り果てた顔見たか?傑作だ。これが笑わずにいられるかよ。あ、そうだ。明命」

 

「はい」

 

「こいつらはお前の兵なんだ。当然俺も兵の一人として動かしてくれよ」

 

「ええ!?そんな恐れ多いこと!」

 

「何言ってんだ。こいつらはお前の部隊なんだ。俺が指揮したらダメだろ」

 

「しかし・・・わかりました」

 

「おう。頼むぜ」

 

炎は一人にあたる時間が極端に短いので他の兵の仕事まで奪ってしまい、賊の兵数の3割ほどは炎が一人で片付けていたと思われる。

 

明命は意外だった。

 

炎の武としての力は大陸に広まっていることと同様、知才のなさも有名だ。

 

それなのに一人で突出するどころか素直に私の言う事に耳を傾け、兵と同じ様に動いている。

 

何故突出しないのか。

 

炎の活躍ぶりのおかげで予定よりも早く帰れた帰路の途中、炎にその理由を聞いてみた。

 

「おお!?なかなか失礼な質問だな」

 

「はう!すみません」

 

「いやいや、皆俺のことをどう思ってるかわかったよ。えっとな、何故突出しないかというとそれじゃあ勝てないってことを身に染みて知ってるんだよ。一度俺は部隊を連れて突出して死にかけてな。それ以来、軍師達の言う事はなるべく聞く様にしてるんだよ」

 

「なるほど。納得です」

 

「だろ?バカなりに考えてるってことだ」

 

その後にも他愛ない話をしながら帰った。

 

炎は冥琳に見つかり、倍の量の仕事を用意され、監視の下仕事をさせられた。

 

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 思春 冥琳 亞莎 恋姫†無双 明命  

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