真 恋姫無双 もう一人の大剣 7話 |
「祭さん。お久しぶりです」
そこまで長い付き合いというほどではないが声を聞くだけで分かる程度に交流はあった。
後ろから自分の名を呼ばれ後ろを振り向く。
「なんじゃ。儂が殺し損ねた小僧ではないか」
「・・・・申し訳ありません。あの頃は俺が愚かでした」
「はっはっは。あの頃と比べ良き男になった」
「あの一矢がなければ、今の俺はここにいませんよ。別の戦場で死んでたか、はたまたあの頃のまま戦場で貴方と再会して今度こそ殺されたか」
「運の良い奴じゃ。儂は確実に捉えたと思っておったが」
炎の左胸に手を当てて、そう吐き出す。
「俺ももうダメかと思っていました」
「だが、バカは変わらんようじゃの」
「人はそう簡単には変わらないということですな」
「・・・・ふう、懐かしの再会じゃ。儂が良い酒を飲ませてやろう」
「お手柔らかにお願いします」
深々と炎はお辞儀をして、先行く祭の後を追う。
連れてこられたのは一軒のお店。
「ここ・・・」
「見覚えがあるか?」
「城に侵入した日に一度立ち寄りました。確かその時、蓮華を見ました」
「堅殿がああいうお方だからな。蓮華にとってここが母の味といったところかの。」
炎蓮の作るものはそれはもう酷いものらしい。
母の才はない。
祭はきっぱりと言った。
それを聞くと、寒気とともに春蘭に食べさせられた料理の記憶が蘇る。
「ここの料理は美味しいですね」
「美味なのはなにも食物だけではないぞ」
「酒・・・ですか。好きですねえ」
横にいる炎に向け、歯を見せた笑顔をみせる。
前を向き、店の扉に手をかける。
すると、その前に扉が開き、祭の手は弾かれる。
「あら祭、それに炎も」
「蓮華様!?」
「(見たことのある光景)」
炎がこのやりとりをする二人を見てそう思った。
「貴方たちも食事へ?」
「はい。こやつに酒を振舞ってやろうと」
「蓮華は食べ終わって帰りってところだな」
「ええ・・・」
「?」
炎に相槌で返すと、蓮華は何やら考えている。
「あの、良かったら・・・私も相席してもいいかしら?」
「儂はかまいませぬぞ」
「同じく」
「じゃあ入りましょう」
「・・・・・うまい」
「美味かろう」
「酒は華琳も自作していたが、この酒は格別に美味い」
酒以外のものを注文せず、酒を一升注文。
腹自体はさほど減ってはいなかったので、酒とつまみを少々。
「蓮華様、貴方にとっておきの話をしてあげましょうぞ」
「話?何の?」
「それは俺も気になります」
「実はこの小僧の話でしてな」
「え、俺?」
「蓮華様、こやつは一度儂に殺されかけた時がございましてな」
「さ、祭さん。その話はいいでしょう」
「本当?」
「れ、蓮華」
「こやつが今よりも小童の頃、儂の部隊と戦闘になりましてな」
「・・・・・」
炎は止めることはもう無理だと理解し、口を出さなくなった。
蓮華は祭の言葉をさえぎることなく、祭の言葉に耳を傾ける。
「こやつは今よりも阿呆でして、突っ込むことしか頭にない。部隊は全滅。唯一残ったこやつと儂は一騎討ちをいたしました」
「さ、祭さん」
「黙っとれ」
「何故一騎打ちを?兵を炎に当てればいいんじゃないの?」
「昔のこやつは小僧ですが実力も今と同じく侮れない奴でしてな。兵への損害を考えると、儂が相手したほうが良かったのです」
「なるほど。結果は?」
「小童に負けるほど落ちぶれてはおりませぬ」
「勝ったのね」
たった一矢で炎の命を奪いかけた。
追いついた秋蘭達が殿を務め後退。
「それ以来こやつの突出は見たことがありません」
「もうやめてくれ?。」
「・・・・」
沈黙の蓮華。
「どうか致しましたか?蓮華様」
「炎」
蓮華は炎に体を向ける。
「まった」
「え?」
口を開いた瞬間、炎の制止がはいる。
「正直に答えろ。お前は俺を快くは思ってはいなかった」
「え?え?」
「いいから答えろ。俺みたいな怪しい奴がこの陣営にいることは決して気分のいいものじゃなかったはずだ」
「え、ええ。」
「次、雪蓮、炎蓮の娘・・・王の娘として毅然とした態度をとるべきだ。そうだろう」
「ええ。勿論よ」
クスリと笑う炎。
「だったら今まで俺に対してとってきた言動は気にする必要はない」
「な、なんで!?」
「お前の顔が全部教えてくれたぞ」
「か、顔って・・・」
「身元もわからない奴を疑って何が悪い。今回に関しては即決する雪蓮が悪い。まあ、あいつの場合勘が良すぎるってのがあるが・・・皆が皆そうってわけじゃない。お前はお前のやり方を貫けばそれでいいんだよ。何も自分を責めたり、蔑んだりする必要はない」
身を少し乗り出し、指を蓮華に指す。
「お前の信じた道を行け。それがお前を王としてより大きく成長する」
精一杯のドヤ顔で言い、椅子にもたれる。
「はあ。ここに残った理由は俺への謝罪だろ?だったらここには用はないはずだ。仕事があるだろ。さっさと帰れ」
「む」
炎の言葉が少し乱暴だったためか、蓮華は言葉を強め。
「そんなこと言われなくても帰るわよ!」
早足で出口まで歩く。
扉を開けたところで動きが止まる。
首を回し、横目に炎を見て頬を赤らめ。
「あ・・・ありがとう」
扉が閉まる。
祭が閉まった戸を見て、驚愕。
「さ、流石の儂もたまげたわ」
「全くです。最近の若い娘はあんなにもツンツンしてるんですかね」
今度は炎の発言に驚く。
「そういうことを言ってるわけではないわ!」
机に両手をつき、立ち上がる。
「な、何を怒ってるのですか?」
「く・・・貴様は。今のがわからんか!」
祭は炎の胸ぐらをつかみ、扉を指し言う。
「い、今のとは・・・」
「わ、わからんのか・・・はあ・・まあいい。」
掴んでいた手を離し、膝の力を抜き勢いよく椅子に座る。
「た、助かります」
「それはそうと、先程の貴様の言葉はまるで蓮華様が王であるかのような言い様だったのう」
「ええ、俺は蓮華のことを一国の王として話をしたつもりですよ。まあ言いたいことはまだありましたが」
「今の王は策殿じゃ。もちろんゆくゆくは蓮華様にも王位についていただくのじゃろうが」
それを聞いて炎は高笑い。
「黄蓋ともあろうお方がどうしたんです?」
炎は笑う。
「あれは凄いですよ。炎蓮や雪蓮が話にならないですよ。若い今のうちに蓮華には十二分に経験を積ませておくことをお勧めしますよ。あとあのツンツンはどうにかならないですかね?あと・・・・」
蓮華のことを心底楽しそうに笑う炎を、祭はただ茫然と見ていた。
「ああ・・・これいい」
「いいわね〜」
炎と雪蓮は二人で日向ぼっこ。
蓮華、冥琳の目から逃れた。
ちょうど茂みで見えない場所にいて、見つけるには困難だった。
「たまにはこうゆう一日もいいもんだ」
「ほんとよ」
二人同時に長く息を吐く。
完全に体の力を抜き、まるで地面から体の疲労を吸われているような錯覚。
「ねえ、炎」
「ん?」
首だけを炎の方向に向ける。
炎も雪蓮へ首の向きを変える。
「蓮華に何かしたでしょ。あの娘今まで以上にはりきって政務に励むようになったわ。おまけに貴方の名前を出すと顔を赤くして慌てちゃって」
「ああ・・・・お前や炎蓮よりも立派な王になれるから頑張れって言っただけだよ」
「それだけ?」
「だけ」
「愛の告白は?」
「・・・・・・・・・・・・・は!?」
間をおき、雪蓮の言った言葉の意味を理解して驚く。
「してないの?」
「するか!・・・・第一、年の差を考えてみろ。あんな若い娘に手を出すかよ」
「何言ってるの。貴方まだまだ若いじゃない」
「お褒めの言葉ありがとう。だか、それとこれとは話が別だ。俺は蓮華を愛せないし、愛さない」
「あらら、蓮華振られちゃった」
「なんとでも言え。俺は誰も愛するつもりはない」
「残念ね」
「何が残念だ。お前の独断で蓮華の人生が決まるなんてもってのほかだ」
「はいはい。わかりました」
再び日向ぼっこ。
「何気にさっき、私より蓮華の方が王として相応しいって言ってたわよね?」
「何だ?気に障ったか?発言したことに謝罪はするが、撤回するつもりはないぞ。俺は俺の見たまま、思ったままのことを言っただけだ」
「別に気にしてないわよ」
「・・・・・・・嘘じゃないみたいだな」
「当り前よ。私は蓮華の姉よ。蓮華のことはよくわかっているわ」
「だが少し悔しさはあると」
「本当、貴方に嘘はつけないわね。・・・・・・ちょっとだけね。王位に就いたばかりだもの、これから皆の上に立つんだと思って張り切ってるの。それなのに妹の方が王としての資質が上だなんて真正面で言われたらね」
炎は雪蓮から空に視線を移す。
視界の端には雪蓮が震えているように見えた。
視界に小さく映った雪蓮はその存在さえ小さく思えた。
炎は何も言わない。
雪蓮の震えが止まり、大きく息を吐く音が耳に入る。
「・・・・・・・さっきも言ったが、謝罪はするが撤回はしない」
「ふふっ、わかってるわよ」
炎が欠伸をする。
雪蓮にも欠伸が移る。
「眠たくなってきちゃった」
「寝ればいいさ」
「じゃあお言葉に甘えるわ」
仰向けに寝転がっていた雪蓮の体が横に向く。
少し時間が経つ。
「ねえ炎、私に仕えてよ」
「・・・・・・・」
雪蓮は体を起こし、返事がない炎を見た。
炎は仰向けで目をつむっていた。
納得いかないような顔をして再び横になる。
雪蓮は次の日だけ政務をさぼらず、冥琳達を驚かせた。
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