IS ゲッターを継ぐ者
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 訓練を終え格納庫から出ようとした僕は、制服の女子三人に呼び止められた。

 

 リボンの色は青。あれは一年生だ。

 

 

「アンタさあ、今日訓練機を借りたわよね」

 

「借りたけど、それが?」

 

 

 打鉄なら今戻した。何処か間違ってたのか?

 

 背後の打鉄に振り返る。多分、元通りに戻した筈だ。

 

 

「アンタのせいで、あたしら今日訓練出来なかったのよ。どうしてくれるワケ?」

 

 

 つまりまとめると。目の前の三人は前々から訓練を予定していた。だが入学したての一年生は優先度が低く簡単には訓練機を借りれない。先伸ばしになっていてやっと最近になり借りれるかと思いきや、僕が借りたのでオジャンになったとのこと、らしい。

 

 

「男で専用機持ってる癖に、そっち使ってればいいじゃない」

 

「こっちにだって事情があるんです」

 

「はぁ? 知らないわよそんなの」

 

「嫌味なワケ? あーやだやだ。これだから男は」

 

 

 勝手に呆れる女子ら。僕の方がはぁ?だよ。事情聞かないとかなに。男関係ないだろ。

 

 

「つーか、最近調子に乗ってじゃないの。アンタ」

 

「いっつも織斑先生を側につけてさ。気持ち悪い」

 

「気持ち悪いって……」

 

「急に訓練機も使ってさぁ、自分は出来るってアピールでもしてんの? ウザッ」

 

 

 んな訳あるか。こっちにも事情があると言っただろう。

 

 ……罵られる度、頭ん中にアイツラの言葉や姿がちらつく。

 

 

「大体、アンタみたいな男がいるだけでも嫌なのに、邪魔するとか最低だわ」

 

「邪魔なんかするか。そっちの勝手な言い分だ」

 

「うっわ生意気。男のクセに」

 

 

 ……うるさいな。男で何が悪い。

 

 

「もう一人のデュノア君とは大違いよねー。紳士的だし」

 

「アンタみたいなエコヒイキ野郎とは全然違うわ」

 

「エコヒイキ?」

 

「そうよ。織斑先生がベタベタしてるのも、何かしたに決まってる」

 

「アンタみたいな男に織斑先生が注目する訳ないもの」

 

 

 勝手な事を言いやがって……。僕の事はまだいいが他人を引き出されるのは腹が立つ。だが言い返せない。簡単に言ってはいけない事だ、先生の事は。

 

 しかし女子どもは、何も言わないのに漬け込み更に騒ぎたてる。

 

 

「どーせ、ISにもインチキしたんでしょ。でなきゃここにいる意味ないし」

 

 

 知るか、あの光に聞け。

 

 

「デュノア君だけで良いわよ、男は。ぶっちゃけアンタなんかより人気あるのよ」

 

 

 人気? 知らんわそんなん。

 

 

「分かる? アンタ、目障りな邪魔者だってこと」

 

 

 うるさい、うるさい、うるさい。

 

 なんでお前らにそこまで言われなきゃならない。ただ訓練機を借りただけで。

 

 邪魔だとか男のクセにとかエコヒイキとか、なんでこんな時に……。

 

 デュノア君やのほほんさん達が折角考えてくれてもしかしたらって思えたのに。

 

 なんでこの世界でも、こんな風に言われなきゃならないんだ……!

 

 

「……うるせぇよ」

 

 

 静かに言い放つ。女子どもの姿が、アイツラに重なって見え、それらを打ち消す様に。

 

 睨み付ける。汚く罵る女を。

 

 ただISが使えるだけで威張ってるだけの。その力の意味や、危険性を何一つ理解してない輩を。

 

 愚かな考えに取りつかれて、危機感の欠片もない奴等を。

 

 下手をすれば、また恐竜帝国が来るかもしれないのに。こいつらはなんでISを使うんだ。

 

 

『出てけ! とっとといなくなれ!』

 

『さっさと消えろよ、人殺し!』

 

 

 重なってしまう。アイツラと。

 

 思わず、拳を握りしめ……。

 

 

「はーい、そこまでッスよー」

 

 

 間の抜けた語尾の言葉。横槍を入れられハッとなった僕は思わず横を向く。

 

 語尾からも分かったがサファイア先輩、それにケイシー先輩がいつの間にかいて、歩いてくると僕の前に立つ。

 

 

「なんですか先輩。私達の話の邪魔しないで下さい」

 

「話、ねぇ。なんかお前らが、滝沢にいちゃもんつけてたみたいに聞こえてたけどな」

 

「そんな訳ないでしょう。ただ話してただけです」

 

 

 何を言うかコイツら。数秒前まで邪魔者だの言ってたろうが。

 

 

「お前らどの口が……」

 

「滝沢、抑えるッス」

 

「なら話ってのを聞かせてくれよ。アタシらもちゃんと聞いて判断してやるからよ」

 

「……結構です」

 

 

 遠慮すんなよ、と言うケイシー先輩にもう一回断り、女子三人は出入口に去っていく。

 

 

「チッ」

 

 

 その際に僕を忌々しげに睨み、舌打ちしてたが。

 

 ガシュン、と出入口の自動ドアが閉まると先輩二人が僕に話しかけてくる。

 

 

「大丈夫だったか、滝沢?」

 

「ああいう奴らいるんスよ。IS使えるからって。気にしない方がいいッス」

 

「……大丈夫です。ああいうの慣れてますから」

 

「ん?」

 

 

 最後にこぼした呟きが聞こえてたのか、先輩二人がこっちを向いてきたけどなんでもありません、と誤魔化しておいた。

 

 二人にお礼を言い、着替えてデュノア君達と合流。遅かった事を心配されたけど誤魔化しておいた。のほほんさん達の好意を無駄にしたくなかったし、僕が話したくなかったのが一番大きい。

 

 その日はあの女子達のことを忘れたい一心で、飯を食いシャワーを浴びて明日の準備してさっさとベッドに潜り込んだ。

 

 明日にひきずりたくない、忘れたい、そう思って。

 

 

 

 

 

 しかし。眠りの中で言い聞かせていた光牙の気持ちをぶち壊すかの様な出来事が、次の日から起きた。

 

 

「……なんだこりゃ」

 

 

 光牙の机の上に乗っている花が一本差してある花瓶。

 

 一応だが、教室に元から花瓶はない。どっから持ってきた、意味分かってるのかと光牙は呆れると同時に怒りを感じた。

 

 

「こーくん、おはよ?」

 

「どうしたの? ボーッとして……え」

 

「これは……」

 

 

 教室に入ってきた本音やシャルル、アヤが花瓶を見て固まる。クラスの皆も驚いていたが、もしかしたらただのいたずらか置き忘れただけと、それはそれでアレだが花瓶は真耶に場所を聞いて戻しておいた。

 

 ……なのに、だ。

 

 

「……なんなんだよ」

 

 

 それからというもの、朝になると机に聳える花瓶。更に剃刀が机の中にあったり、教科書が破れてたり、ゴミが机にかけられていたりとエスカレートしていく。

 

 

「これ、間違ってるから出し直しよ」

 

「ちょっと待って下さい、前はこれで」

 

「字が汚いし変なところで区切ってあるから読みにくいのよ。もっと分かるようにしなさい」

 

 

 更に光牙の訓練機申請や整備室の許可申請が突き返されたりと、ベーオの修理やIS訓練が難しくなってしまう。

 

 明らかにおかしい事態が続き、ある日光牙は楯無に呼ばれた。

 

 

「……じゃあ、その次の日から嫌がらせがあったのね?」

 

「はい」

 

 

 光牙が頷くと椅子に座る楯無は顎に手をあてる。

 

 

「多分だが、あん時の一年だろうなぁ」

 

「逆恨みッスね。訓練潰された」

 

 

 ダリル、フォルテが同じ場にいた人間としている。あとは担任の千冬や保険医のサキ。

 

 

「嫌がらせにしては度が過ぎてるわね。整備室のこととかを考えると、教師にも及んでる……」

 

「にしても酷い。このままだと光牙君が危ないわよ」

 

 

 サキが包帯を巻いた光牙の手をとる。仕込まれた剃刀で切ったものだ、結構深く。

 

 

「全く、ふざけた真似をしてくれる」

 

「こちらでも注意を呼びかけるわ。光牙君、貴方も周りに十分注意して。何かあったら、直ぐに言って頂戴」

 

「はい……」

 

「楯無、なんでそれだけなんだ? 相手分かってるようなもんだぞ」

 

 

 ダリルが平手に拳を打ち付ける。

 

 

「とっちめてやればいいだろ。一発ズガンと」

 

「こら、事を荒立ててどうするの。怪しいのは分かるけど、証拠がないわ」

 

 

 生徒会や代表候補生が解決に動いても、それが原因で光牙がひいきされているなどと言われ悪化しかねない。本末転倒だ。

 

 

「それにしたってよぉ」

 

「先輩の気持ちは分からなくもないッスけど、それじゃ滝沢がもっといじめられるッス」

 

「むぅぅ……」

 

「難しいわね。こういうのは」

 

 

 サキの言う通り、プラスにしようとしても必ずしもプラスになるとは限らない。マイナスにもなりかねないデリケートな問題。

 

 

「……私では余計にいかんな」

 

 

 千冬も同じ。ブリュンヒルデの肩書きがこうも忌々しいと、千冬は苦虫を噛み潰した表情を浮かべる。

 

 皆同じような感じで、考えるも良い案は思い浮かばず、今は光牙がより注意するというになったのだった。

 

 

「光牙君、その……」

 

「大丈夫です。こんなん慣れっこですから」

 

「そ、そうじゃなくて」

 

 

 楯無が心配しているのは、光牙が学校を更に嫌ってしまうのではないかということ。少しずつ慣れていったと思ったらこんなことになってしまったのだから。

 

 それを心配したのだが、返ってきたのは芳しくない内容。

 

 

(これじゃ入学する前の時と同じじゃない……)

 

 

 大丈夫と言い、部屋に戻った光牙だがそうは思えない。

 

 

「……クソが」

 

 

 その光牙は、皮が破れんばかりに拳を握り、心の中にどす黒い怒りの感情を燃やしていた。

 

 腕にあるベーオが、僅かに紫に輝いているのに気付かず……。

説明
第十九話です。ちょっと暗く、いじめ描写がありますのでご注意を。
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コメント
剣聖龍です。感想ありがとうございます。あ……確かにそういう風にもとれますね。(剣聖龍・零)
自分で殴って自分で治療する…色々な意味で光牙を独り占めした千冬さんでしたね。(mokiti1976-2010)
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