真・恋姫無双〜魏・外史伝24
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第十一章〜青き龍は正義の一刃に討たれん・後編〜

 

 

 

  堤防が決壊し、浸水した樊城の防衛拠点を捨て、撤退した愛紗達。

 後方から追撃してくる正和党から逃げる様に・・・。船での移動から、陸での移動に変えると

 急ぎ、麦城に向かう・・・。そこで彼女達が見たモノは、彼女達にとってはあまりに残酷なものであった。

  「こ、これは・・・!?」

  麦城連絡拠点は、もぬけの空であったのだ。

 ただし、それは兵達が逃亡したためでは無い。

 拠点内には、そこに駐在していたであろう兵士達が無残な姿で地面に転がっていた。

 拠点内に血の匂い、人間の臓器特有の臭さと死臭が立ち込めていた・・・。

 その異臭に、愛紗も思わず手で鼻をつまんでしまう・・・。

 その光景にやられ、嘔吐する者がいれば、気を失う者もいた・・・。

  「何と言う事だ・・・。すでに麦城が陥落していたとは・・・。」

  一人の兵士が呟く・・・。

  「しかも、拠点としての機能が完全に死んでいる・・・。これでは、篭城は無理です!」

  もう一人の兵士が続いて言う。

  「・・・・・・・・・。」

  愛紗は思わず、下に俯いてしまった・・・。彼女の自慢の黒髪も元気を失い、垂れ下がっている。

 そんな彼女に追い打ちをかける様に、城壁に登っていた一人の兵士が

  「関羽将軍!後方、約六里に砂塵を確認!恐らく、正和党かと・・・!」

  その言葉に、兵達に動揺が走る。もうこれまでなのか、と誰もが思った時・・・。

  「ふ、ふふふふふふふ・・・。あははははははははははははははははは・・・・・・・!!」

  「か、関羽将軍?!」

  下に項垂れていた愛紗がそのままの体勢で笑い出した。と思ったならば、今度は顔をあげて大声で笑い出した。

 そんな愛紗を見て、兵士達は彼女が壊れてしまったのかと、ひどく不安になる・・・。

  「はははっはっは・・・。黄蓋殿も・・・。」

  「はい?」

  「あの時の黄蓋殿も・・・、こんな心情であったのだろうな・・・。」

  「しょ、将軍・・・?!し、しっかりして下さいって!」

  若い兵士がおかしくなった愛紗の心配をする・・・。

 すると、目を閉じてゆっくり肩で深呼吸をした・・・。

 そして何かを決したように、若い兵士を見る。その目に迷いなど無かった。

  「お前・・・名は?」

  「え・・・?あ・・・はい。自分、馬良と言います。」

  「そうか。では馬良。お前はこのまま白帝城に向かい、我々の事を桃香様に伝えて欲しい。」

  「え・・・?」

  「私の馬を貸す。」

  そう言って、自分の馬を連れて来る。

  「し、しかし・・・それでは将軍達は・・・?」

  「我々の事は気にするな!お前は役目を果たすのだ!!」

  「・・・!」

  愛紗の言葉が、若い兵士の胸に刺さる、自分の使命・・・白帝城に向かい、この事を劉備様に伝える事。

  「聞こえたか!?馬良!」

  「・・・御意!その任、しかと承りました!!」

  意を決した馬良は、愛紗の馬にまたがると、急ぎ白帝城への道を馬と共に駆けて行った。

 彼の姿を一通り見送った愛紗・・・。

  「関羽将軍!正和党は、およそ二里まで接近しています!!!」

  そして、この場に残った千にも満たない数の兵士達を一ヵ所に集める。

  「皆の者!聞け!!これより我々はここ麦城にて正和党の侵攻を食い止める!!!

  兵力差は火を見るより明らか!しかし、我々はあの乱世を生き抜いてきた!!

  それだけの力を持っているという紛れも無い事実!」

  兵士達に檄を飛ばす。正和党は目と鼻の先まで近づいてきた。愛紗は青龍偃月刀の切っ先を

 接近してくる正和党の方に向け、さらに続ける。

  「行くぞ!!これより修羅道に入る!全ての敵を打ち倒し、その血で勝利を祝おう!!」

  「「「「「応ーーーっ!!!!」」」」」

  愛紗の檄に呼応する兵士達。そして関羽隊約八百は四千の正和党の軍勢に突撃していった・・・。

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  「随分と愚かな判断をしますね・・・関羽雲長。」

  「それが武に生きる人間の性ってやつさ。」

  「ふうむ・・・。全くもって理解に苦しみますよ。もっと他に別の選択があったでしょうに・・・。

  これでは・・・、無駄死にというもの・・・。そうやって簡単に命を投げ出すのも人間の性というやつですか?」

  「・・・どうだっていいさ。俺達には関係の無い事だ。」

  「・・・ですね。・・・おや?、気が付けばもう数えるくらいにまで減ってしまいましたね。」

  「お?本当か・・・?もっと時間がかかっと思ったが・・・。」

  「背水の陣に立たされた人間は死に物狂いで躍起になって攻めるもの。どうやらこの廖化という人はそれを

  理解しているようですね。上手い事部下を使って、突撃して来る関羽の部隊を受け流し、そこから背後を

  攻める・・・。」

  「勢いよく突撃したはずが・・・見事肩透かしされ、その勢いを止める事も出来ず、そのまま背後を突かれるか。」

  「・・・もう哀れとしか、言いようがありませんね。」

  「そうだな。」

  「・・・もしかして、あなたはこうなる事まで仕組んだのですか?」

  「まさかまさか・・・、俺は神様じゃねぇぜ。・・・人間でもないけどな。」

  「・・・ですね。さて・・・、どうやらまだ関羽雲長が必死の抵抗を見せているようですね。」

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  「はああああああああーーーーーー!!!」

  ザシュッ!!!

  「ぐわぁっ!!!」

  「くっ・・・、はぁ・・・、はぁ・・・。」

  次々とかかって来る正和党の党員達を青龍偃月刀切り払っていく。辺りを見渡すが、もはや立っているのは

 自分のみであった。

  「・・・だとしても、全ては桃香様のため・・・この関羽雲長、ここで倒れる訳にはいかない!!!」

  「関羽、覚悟!!」

  「うおおおおっ!!」

  再び左右から正和党党員が襲いかかって来る。

  「でやああああっ!!」

  ザシュッ!!!ザシュッ!!

  「ぐはっ・・・!!」

  「ぐっ・・・!!」

  一人は足を、もう一人は肩を青龍偃月刀の刃先がかする。

  「桃香様のため・・・。悪く思うな!」

  「ぬうっ!?」

  愛紗は足を切られ、立てない党員に青龍偃月刀を突き立てようとした時・・・。

  「させるかぁ!せりゃあっ!!!」

  「っ!!!」

  ガキイィィィィンッ!!!

  横から襲いかかって来た斬撃を青龍偃月刀で受け止める。ぶつかった衝撃で愛紗は後ずさりする。

  「姜維!!!」

  止め刺されかけた党員は、自分を助けた仲間の名を呼ぶ。その名を聞いた愛紗は目の前の少年を見る。

  「姜維・・・。確かあの時の・・・。成程、まさかこのような形で再び会うことになろうとは。」

  「そうだな!・・・と言っても、別にこれと言って言葉を交わしたわけじゃなかったがな。」

  「確かに、あの時は目線を交わしたのみ・・・。そして今度は刃を交わしている!!

  はああああああああーーー!!!!」

  「姜維っ!気を付けろ!!」

  ガキイィイン!!!

  「ぐっ・・・!!」

  愛紗による青龍偃月刀の重い一撃を大剣で受け止め、今度は姜維が後ずさりする。実力は圧倒的であった。

  「く・・・、いかん!姜維一人で関羽に勝てるはずが・・・。」

  肩を切られた党員が二人の圧倒的な実力差を理解していた。

  「くそ!流石軍神・・・。たった一人になってもこの強さかよ・・・!」

  「無論だ!私は桃香様の矛、例え民達から忌み嫌われようとも、貴様達逆賊を討ち倒すまで倒れる訳には

  いかんのだ!」

  愛紗の口から『桃香』という言葉を出た瞬間、彼の中で何かが切れる音がした・・・。

  「・・・そうやって、自分達にとって都合の悪いものを全部葬るつもりかよ・・・。

  俺達正和党も!・・・そして、俺の村さえも!!!」

  彼の中の何かに火が付いたように、急に姜維の雰囲気が変わる。

  「村・・・だと?一体何を言って・・・!?」

  何を言い出すのだこやつはと、ぽかんとする愛紗。その態度が、さらに彼を刺激した。

  「・・・っ!!それを聞いて、なおさら許せねぇ!!!」

  姜維は再び立ち上がると、また愛紗に立ち向かっていく。その時・・・彼の上着の内ポケットに

 入っていた・・・あの時、仲間から手渡された飴玉のような水晶玉がうっすらと輝き出す・・・。

  ガキイィィィィイン!!!

  「くっ・・・?!」

  突然、姜維の剣の速さが増す。突然の事ではあったが辛うじて偃月刀受け流す。

 一体彼の何処にこれほどの力を隠していたのだろうか・・・。

  「覚えていないっていうなら、思い出させてやる!!俺は・・・俺の村は!」

 さっきよりも水晶玉が少しだけ輝きを増す・・・。

  ビュンッ!!!

  またさらに速くなった、彼の斬撃を体捌きで紙一重に避ける。

  「・・・二年前、お前達が見捨て、挙句にその存在を否定した!」

 そして水晶玉がまた一段と輝きを増す・・・。

  ビュンッ!!!

  一度振り下されたはずの剣が有りえない軌道を描いて、愛紗に向かってくる。

  「俺は八珂村出身だ!!」

  ガキイィィィィイン!!!

  彼の一撃を偃月刀の刃で受け止める。そして同時に彼の言葉も受け止めた。

  「な・・・っ!?何だと!?あの村の者達は確か・・・!」

  愛紗は彼の言葉を疑う。

  「何戦闘中にぼさっとしてんだよ!!」

  ドガッ!!

  「ぐっ・・・!」

  隙を見せた愛紗の腹に、姜維の蹴りがまとも入る。その衝撃に愛紗は後ろに後ずさる。苦痛に耐えながら

 何とか立ち続ける。すると、姜維は大剣の切先を愛紗に向ける。

  「関羽雲長!最後に俺の名を胸に刻め!これからお前を討ち倒すはこの俺、姜維!姜維伯約だ!!」 

  言い終えた姜維は大剣を右肩に乗せる形で剣を振り上げる。そして、その体勢から愛紗に突っ込んで行く。

 とても単純な動き・・・これなら、と思った瞬間であった。水晶玉の輝きは、ついに内ポケットの外にまで漏れる・・・。

  シュンッ・・・!!!

  「な、なに・・・消えた?!」

  突然、彼の姿が消える。急ぎ彼の姿を探す。次に彼の姿を捉えたのは・・・。

  「死いぃぃぃねぇぇえええっ!!!」

  「な・・・!?」

  自分の間合いの内側であった。姜維は既に剣を振り落とす体勢に入っていた。

 今からでは反撃は間に合わない、そう判断した愛紗は偃月刀の柄の中央で、彼の一撃を受け止める態勢を取った。

  ブゥウンッ!!!

  そして、彼の大剣が愛紗の青龍偃月刀の柄の中央部分に振り落とされた。

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  「な・・・!?!?」

  「・・・・・・・。」

 

 

  この時、初めて青き龍が地に墜ちた瞬間であった・・・。

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  同時刻・・・、魏領・陳留。

 ここもまた2年という月日が過ぎ、街の姿は大きく変貌していた・・・。

 そんな街の姿に、久方振りに訪れた一刀は、思わず面喰ってしまった。

  「ここが・・・陳留?あの頃より、随分と栄えているな・・・。」

  そんな事を考えながら、一刀は陳留の街へと入って行く。見た事も無い建造物が乱立し、

 道は多くの人が行き交い、道端では出店風の商店や旅商人達が品を広げ、大きな声で通行人に宣伝していた。

 他に歌を歌う者達や大道芸を披露している者達もいた。楽しそう歌っている少女達の姿が、天和達と被った。

 所々にて、警備隊と思しき姿の者を何度か見かけたが、一刀には全く見覚えの無い者達であった・・・。

  「まぁ・・・、2年も経てば街も変わる・・・か。」

  嬉しい様な、寂しい様な・・・。心中複雑な思いの中、一刀は一軒の店の前で足を止める。

  「ここは・・・。」

  変わり切ってしまった街の中で、唯一見覚えがあるこの店。

 ここは、あの時・・・一刀が華琳達に尋問された時に使った料理屋だった。

  「変わらないものも・・・確かにあるか。」

  そろそろ昼時もあって、店の中は多くの客で賑わっていた。

 それを見て、一刀の腹の虫が鳴く・・・。

  「少し早いけど、飯にしようかな。」

  一刀は店の中に入っていった。

  「すいません!炒飯1人前!奥の机に!」

  「あいよ!」

  一刀は厨房に、食べたい料理を注文するとそのまま店の奥の空いている席に向かう。

 来ていた外套を隣の椅子にかけ、鞘に収まった刃を壁にかけると自分も席に着く。

  「ふう・・・。」

  一息を着いた一刀はおもむろに、尻ポケットから折りたたまれた紙を机に広げる。

 そこには、小さく簡易的ではあったが、許昌までの道が描かれていた。

  「陳留が・・・、ここだから。許昌はここだな。」

  人差し指で、陳留の位置を指し示すと、そのまま流すように左の移動させ、許昌と書かれた場所で止まる。

  「あそこから陳留までで、だいたい4日だから、ここから許昌はその半分の2日で着く計算になるな。」

  そう言い終えると、一刀は手元の金銭を数える。

  「・・・・・・微妙だな。ここで飯を食べたら、ぎりぎりだな。後は野宿したりして経費を削っていくしかない。」

  露仁が居なくなってからちょうど4日が過ぎていた。たった1人でここまで来たが、まさか1人旅がこれほど寂しい

 ものとは、思ってもいなかった・・・。1人でいると、嫌な事を思い出してしまったりして、自己険悪になる。

  あの時・・・何とか伏義を追い払う事は出来たが、結局の所・・・、奴が何者で、この力が何なのか、露仁が何を

 伝えようとしていたのかは・・・未だに分からない。1人で考えても、答えが出るはずも無く・・・。

 

  『いいか・・・。・・・北郷、・・・ここから先は、お前一人だ・・・。お前に・・・全てを託し・・・

  済まない。だが・・・、お前でなくてはいけなかっ・・・た。・・・その力で、守れ・・・この外史・・・を!

  人の・・・想念・・・を!』

  

  「外史・・・。そう言えば、前にもそんな単語を聞いたような・・・。確か俺がこの世界に来る前に会った。

  ・・・あの白装束の男(?)もそんな事を言っていた気がする・・・。そう考えると、あいつは一体

  何者だったんだろう・・・?この世界の事を知っていた感じはするけど・・・。」

 

  『頼む・・・、北郷!!わた・・・しの・・・、私の・・・過ちを・・・、た、たの・・・ん・・・。』

 

  「過ち・・・。露仁は一体・・・何を過ったんだろう?」

  考える事はいくらでも浮かんでくるが、どれ一つ解決の兆しが見えずにいたのであった。

 そんな事を考えていると、

  「お客様ー!ご注文の炒飯、お待ちどう様で〜す!」

  と元気のいい店員さんの声が聞こえた。

  「あ、はい!店員さん、こっち、こっ・・・ちぃ・・・・・・。」

  おもむろに顔を上げた一刀は、店員さんの方を向く。彼女の手には値段の割にやけに山盛りの炒飯が

 目に入る。そして、当然店員の顔も目に入る・・・。

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  「!!」

  その瞬間、一刀の体から一気に血の気が引き、一瞬にして固まる。彼の顔がみるみると青ざめていき、開いた口が

 塞がらず、金魚のようにパクパクとさせていた・・・。

  「・・・どうかなさいましたか?お・きゃ・く・さ・ま♪」

  店員は清々しいほどの笑顔で一刀に接待をする・・・が、その笑顔が逆に一刀を恐怖のどん底に落としたのであった・・・。

 

  この時、一刀はこの世との決別の覚悟を、複雑な心境の中で決めた・・・。

説明
 こんばんわ、アンドレカンドレです。
今日は連続投稿です・・・。前編が長かったので、後編はやや短めです。愛紗ピンチという所で前編が終わり、この後どうなっていくのかが書かれています。愛紗の運命は、
 一方で、独りぼっちの一刀君は如何に!?最後の方で一刀が登場します。
 あちらこちらと錯綜する第十一章〜青き龍は正義の一刃に討たれん・後編〜をどうぞ!!
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コメント
混沌さん、考えておきますねwww!(アンドレカンドレ)
一刀ナムwそして出来るなら華琳の店員姿だけをうpして欲しいw(マテコラ(混沌)
……これは自分でも吃驚だbyデ〇ブ!!?(覇炎)
こ・・これは確かに・・・キツイなー(brid)
何故ここにいる?合掌・・・南〜無〜(遼)
パンッ・・・・・・<合掌>・・・・・(いずむ)
な!なんと!・・・一刀・・・南無(もっさん)
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