紙の月 6話目
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「もっと下半身に力を入れろ」

「そんな事言われても、これ以上は無理だよ……」

「弱音を吐くな。よし、そのまま……出せ!」

 ウォルターの合図とともに、デーキスは手を突き出した。突き出したままの格好で数秒動きを止めるも、何かが起きる気配は一向にない。

「おかしいな、何で超能力が使えないんだ? デーキス、お前まじめにやってるのか?」

「ちゃんとやってるよ。でも、出ないものは出ないんだ」

 デーキスはウォルターの指導の下、セーヴァが使える超能力の練習を行っていた。けれども、スタークウェザーに襲われたあの時以来、デーキスは未だに自分の意志で超能力を使うことが出来なかった。

「あの電気を使う力があれば、きっと機械とか動かせるようになれるんだ。そうなれば、こんな場所でも少しは楽に生活できる」

 デーキスやウォルターのいる都市の外は、ゴミや瓦礫、廃墟が延々と続く酷い所だ。都市から放棄された食料を漁り、雨水で喉を潤す。そんな生活をデーキスたちは続けていた。

「浄水器とかヒーターがあっても、電源がなければ役立たずだ。でも、お前の能力があれば、そいつらを動かすことが出来る。上手くいけば、フライシュハッカーからも重用されるぜ」

「でも、機械を動かすくらいなら、ブルメって子がいるじゃないか。たしか、あの子の超能力は機械を動かすことなんだろ?」

 超能力者のセーヴァを統率するフライシュハッカーという少年、彼の部下にはブルメという可愛い子がいることをデーキスは知っている。その子は超能力で、どんな機械でも自分の思うままに動かせるそうだ。

 人によって使える超能力は異なるが、その能力が有益である者はフライシュハッカーに優遇して食料や服をわけてもらえるのだ。ブルメは機械を操る能力で、浄水器を操作出来るため、貴重な水の管理を任されている。

「ブルメの奴、フライシュハッカーに気に入られてるからっていつも偉そうなんだよ。他のセーヴァもあいつが水を管理してるから、仕方なく我慢しているだけさ」

 デーキスも初めてブルメに会った時、殆ど相手にされなかった。何故、わざわざそんな周りに嫌われるようにするんだろうと、デーキスは不思議に思った。

「さ、超能力を使う練習の続きだ。ハルに言われた通りにやれば必ず出来る。俺たちの生活が良くなるためにも超能力を使えるようになるんだ!」

 『俺たち』という言葉にどこか違和感を感じたが、デーキスは言われたとおりセーヴァの超能力についてハルに聞いたことを思い出した。

 

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 ハルはセーヴァではなく、ハッカーを生業とする大人の女性だが、ハッキングに使う機械の制作に必要なスクラップを、食料などと交換してくれる。都市の外でデーキスが唯一頼れる大人の人間だった。

「セーヴァがどうして、超能力を使えるのかだって? そんなのウォルの方が知ってるんじゃないの?」

「俺はやろうと思ったらできるとデーキスに言ってるけど、こいつ全然わかんないんだよ。ハルならセーヴァについて色々知ってるみたいだし、何か分かるんじゃないかってさ」

 超能力の使い方についてデーキスは最初、ウォルターに聞いてみた。彼は自分の周囲に風を起こすことが出来るのだが、『風が吹くように念じたら勝手に出来た』『自分がエアーボードで飛んでる姿を想像するだけで風が吹く』と言った具合で、初めて超能力に目覚めた時の事を聞いても、憶えていないと全然参考にならなかった。

「私が知ってるのは、セーヴァが超能力という現象を引き起こす原理だけだよ」

「何でもいいから教えるだけ教えてやってくれよ。こいつの超能力が使えるようになったら、きっと役に立つからさ」

「聞いた所、バッテリーの充電くらいは出来るかもね……じゃあ、教えてやろうか。まず、常識的な所でセーヴァの存在と研究の始まりについてだ」

 セーヴァという存在が確認されたのは五十年ほど前、政府と独立を始めた都市との間で戦争が起きた頃だ。子どもたちの間で突如セーヴァになる子が現れ始めた。そのくらいの知識はデーキスも学校で習っていたが、ウォルターは隣で初めて知ったような顔をしていた。

「セーヴァについての研究はその頃から、政府や各地の都市で行われていた……あまり禄でもない理由だけど、読心術や透視で敵の機密情報を得たりするためにね」

「もしかして、太陽都市でセーヴァを集めてるのは、研究のためなのか?」

「……まあそういう所さ。話を戻すけど、とりあえず基本知識として『セーヴァに変異するのは少年少女のみ』、『セーヴァは脳波で超能力を発生させていること』って事の二つだけ教えてあげるわ」

 ハルはそう言ってから、タバコを取り出す火を付けて一服する。

「んで、セーヴァに変異するのは少年少女のみって話から説明すると、これまで確認されたセーヴァの中で最年少は五歳、最年長は十五歳、だいたいこの年齢間でセーヴァになる子がいるわけ。共通点としてみんな第二次性徴以前の子のみってところね」

「でも、大人のアンチや犯罪者もセーヴァだって、太陽都市のテレビでは言ってたよ?」

「太陽都市でのセーヴァって意味は、実際の物とは意味が異なってるのさ。前に離したとおりにね……それで、セーヴァに変異した子はその兆候として、一時的に風邪をひいたみたいに発熱や倦怠感が引き起こされる」

 そういえば、デーキスもセーヴァになってしまった日、朝から頭がぼーっとしていて、その時は風邪をひいたと思っていた。それがまさか、こんなことになるとは、自分自身思いもしなかった。

「その理由が、もう一つの『セーヴァは脳波を利用して超能力を発生させる』に関係しているの」

「脳波って何だ?」

 ウォルターの疑問に、ハルは溜息をついた。

「あんたは教え甲斐があるよウォル……脳波ってのは、人間が何かを考えたりする時に、脳みそに流れる電気信号の事」

 こめかみの辺りを指で叩きながらハルが説明する。

「セーヴァになった人間は脳が変異して、通常の人間とは比べ物にならないほどの脳波が出せるようになるんだよ。変異する時、脳自体が凄く疲れるから、頭がぼーっとしてるのはそれが理由さね」

 脳の変異。それがセーヴァになった証なのだ。

「んで、その脳波が大気中に存在する『クオリア』と呼ばれる原子に作用して、様々な超能力を引き起こす。何故、人によってその作用が異なるのか、どうしてクオリアがセーヴァの脳波に反応するのか。そこはまだ解明されていないみたいだけど……」

 クオリアと言うデーキスの知らない言葉が出てきた。ウォルターはもう話についていけないという顔をしていたが、デーキスは少しでもセーヴァについて知識が欲しかった。たとえ、ついていけなくても、話だけでも憶えておきたかった。

「そのクオリアってのはどういう物?」

「クオリア自体は戦争が始まる少し前から、存在が知られていたけど、セーヴァの超能力との関係性はつい最近になって、ようやく分かってきた物なの。元々、いかなる場所にも存在しているけど、不安定な原子で消えたり現れたりするし、セーヴァの脳波で性質そのものが別物に変化するって言うんだから驚きね」

「うーん、要はそのクオリアって奴を操ればいいんだろ? そうと分かれば行くぞデーキス」

「わ、ちょっと待ってよ。まだ聞きたいことがあるんだ」

 

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 急かすウォルターを諌め、デーキスは再びハルに質問する。それはデーキスが一番気になっていたことだ。

「どうして、セーヴァは月が緑色に見えるの?」

「そんなどうでもいい事別に……」

「僕には大事なんだ!」

 普段と違うデーキスの頑なな態度に面食らったウォルターは無意識に手を離す。

「月が緑色に……? そういえば、セーヴァは月が緑青色に見えるって聞いたことあるけど、本当みたいね」

 ハルは感心するように頷くと、デーキスの目を覗き込んだ。

「虹色の瞳、緑青の月……偏在するクオリアは大気だけでなくあらゆる物質、生命の中にも存在し……」

 ハルはデーキスから離れると、ブツブツと考えこむようにつぶやきながら歩きまわる。少しの間、考え込んでいたハルは、突然足を止めるとデーキスたちに向き直った。

「恐らくこれはクオリアの影響ね。知ってるだろうけど、セーヴァの瞳は虹色に輝いてるわよね? これは体内のクオリアが、常に出ている脳波の影響を受けて変質し続けてるのが、瞳を通して見えるかららしいのよ」

「それで?」

「クオリアは何処にでも存在する。勿論、宇宙空間にもね。あくまで私の仮説だけど、何らかの理由で月の周囲だけクオリアが緑青色に見えるよう変質しているんじゃないかね」

 以上でハルのセーヴァに関する講義は終わった。聞けば聞くほど、デーキスは自分がやはり、人間ではない別のものに鳴ってしまったことを通関させられた。

「へっ、月が黄色だろうが虹色だろうが、オレにはどーでもいいね。今、重要なのはデーキスが超能力を使えるかどうかなんだからな。今度こそ行くぞデーキス!」

「う、うん……わかったよ」

 外に駆けていくウォルターの後を重い足取りでトボトボと追う。未だに自分がセーヴァだとは受け入れがたい。

 泣きわめく子ども、無理やり引きずっていく大人、檻のような連行用のトラック。まだ都市の中にいた頃に見た、自分と同じくらいの子がセーヴァとして連れて行かれる風景。次は自分が連れて行かれるかもしれない。あの時の恐怖が心の中を塗りつぶしていく。都市から逃げ出しても、未だにデーキスの中に残り続けている。

 ハルはそんなデーキスの後ろ姿を見て、背後から声を送った。

「ウォルじゃないけど、今は何をすればいいのかを考えな。少なくとも、あんたには他の奴らには出来ないことが一つできるんだからね!」

 

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 それから、デーキスは色々試してみた。空気中のクオリアを電気に変えるイメージをしたり、手の先から電気を出すイメージ、天から雷を落とすイメージ。結果は変わらず、一度も超能力は出せなかった。

「せっかくハルから色々教えてもらったのに、やってもやっても超能力使えねーな。期待して損したぜ」

 あれから、一向に進歩がないデーキスに、ウォルターは深い溜息をついた。

「あーあ、しょうもなくガラクタ集めするしかねーな。早く行くぞ」

 すっかり期待が外れて、どうでもよくなったのか、ウォルターはふらふらとガラクタ集めに向かい、デーキスも後を付いて行く。

「お前、本当にセーヴァなのか? それとも、超能力使う気がないんじゃねーのか?」

「まじめにやってるさ! でも、出来ないんだからしょうがないじゃないか……」

 しかし、デーキスは超能力を使うことを内心怖がっていた。既に二回も自分の超能力で人を傷つけているからだ。使おうとする度、その光景が頭の中をちらついていた。

「お前たち、こんなことをしていいと思っているのか!」

 ガラクタ集めに向かう途中で、デーキスは聞き覚えのある声を聞いた。その方へ行くと、三人の少年が争っているのを発見した。

「お前たちなんか、私がいなきゃ水だって飲めないくせに! よくもゴミをぶつけられるな!」

 怒鳴っているのはブルメだ。ヒステリックに喚きながら二人の少年を睨みつけている。その二人は、まるで鏡写しのようにそっくりの双子だった。

「僕らがゴミをぶつけたって? どこに証拠があるのさ」

「きっと、ブルメが嫌いだからゴミの方からぶつかってきたんだ」

 クスクスとお互いに顔を見合わせて笑う双子の少年。彼らもセーヴァなのだろう。双子の超能力者だ。

「あいつら、カフとクラウトだな。双子で、しかもセーヴァだから知っているぜ。能力は見たことないが……」

 物陰に隠れながら伺っていると、ウォルターがヒソヒソと教えてくれた。やはり、双子のセーヴァは珍しいのだろう。デーキスにとっては双子自体珍しい。

「私にこんなことをして、フライシュハッカーが黙ってると……!」

喚くブルメの足元のガラクタが突如動き出し、驚いたブルメは尻餅をついた。

「痛っ!」

「あはは、ガラクタもブルメが嫌いみたいだ。ブルメ、ブルメ、みんなの嫌われ者」

 双子はケラケラとブルメをあざ笑う。

「お前ら、いい加減に……」

「知っているぞ。フライシュハッカーのやつは大人たちに会いに行っていないって。いくら機械を操ると言っても、こんな場所じゃあ操るものなんかないぞ」

 都市の中なら警備ロボットや電気自動車があるが、外は廃墟とゴミとスクラップの山だ。ブルメの身を守ってくれそうな物は何一つない。

「それに、ぼくたちがフライシュハッカーを怖がると思っているの?」

「お前らがいなくても、僕らは水も食料にも困ることはないんだよ」

 双子の言葉にブルメだけでなく、隠れている二人も驚いた。セーヴァの子どもたちはフライシュハッカーの配布する食料と、ブルメの管理する水で命をつないでいる。それだけでも足りない時は、デーキスたちがハルとやっているような物々交換や、都市から廃棄されるゴミから探し出さなければならない。

 その中でも安定して得られるフライシュハッカーの食料と、ブルメの水が大部分を占めている。

「あいつら、どんな手を使ってるんだ? ブルメのやつにあんな事出来るほど余裕あるなんて……」

 疑問に思って独り言をつぶやいてるウォルターだったが、一方デーキスはブルメの方を心配そうに見ていた。

「そういうことで、ぼくたちはお前らがどうなろうと困ることはないんだよ」

 カフかクラウトかどっちか分からないが、双子の片割れが手をかざすと、手のひらサイズほどのコンクリート片が宙に浮かんだ。セーヴァとしての超能力だ。恐らくサイコキネシスの類であろうその力で、物体を動かすことが出来るのだ。

 

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「今度はきっと痛いぞ。頭にあたったら死んじゃうかもしれないぞ」

「そうしたらフライシュハッカーは悲しむかな? いや、きっとすぐに新しい奴を見つけるさ。ブルメの超能力は大事だけど、ブルメ自体の事なんかどうでもいいと思ってるはずさ」

 身の危険を感じたブルメは急いで起き上がると、双子に背を向けて走りだした。その背中に向かって、浮いたコンクリート片が真っ直ぐに飛んで行く。

「危ない!」

 すんでの所で、物陰から飛び出していたデーキスがブルメをかばった。コンクリート片はデーキスの腕に当たり、血が出るほどの傷を負わせた。

「あいつは……」

「最近入った新入りじゃないかな。前にスタークウェザーに目をつけられてた奴だ」

 突然の闖入者に双子とブルメは驚いた。

「いくらなんでもやり過ぎだぞ! もうやめるんだ!」

 思わず飛び出してしまっていたが、デーキスは内心とても後悔していた。経験上、いじめっ子というのは止めろと言われて止めることはないからだ。それに、スタークウェザーにやられた部分で受けてしまった。激しい痛みが後からやってくる。

 ちらりと、まだ隠れているウォルターを見やるが、「勝手に飛び出したお前が悪い」と言う顔をしてそっぽを向いた。助けもなく万事休すの状態だ。

「何だ新入り、ぼくたちに偉そうな口を叩くじゃないか」

「そいつを助けて取り入ろうと思ってるのか? それだったら、もっといいやつが他にいるのにな」

 双子が再び大声であざ笑った。

デーキスは背後のブルメを見ると、しゃがんだまま小さく震えていた。そうだ、セーヴァだって同じじゃないか。魂が汚れてようとそうでなかろうと、怖い時は怖いんだ。

「そんなんじゃない。ただ、そうやって人を傷つけるのが許せないだけだ! それでもやる気なら、こっちだって超能力を使うぞ!」

 双子が一瞬動揺する。スタークウェザーという少年は人殺しも平気で行うとセーヴァの中でも恐れられている。デーキスがそのスタークウェザーを超能力で追い払った事は、セーヴァの中で多く広まっている。

でも、まだ自分の意志で使えないことはバレてないようだ。上手くいけば、双子たちは引き下がってくれるかもしれないと、デーキスは思った。

「何だよ、ぼくたちとやるってのかよ。それなら……」

 デーキスの警告は却って双子を刺激してしまったようだ。慌ててデーキスは身構える。

「動くな! それ以上動くと本当に超能力を使うぞ! まだうまく制御出来ないんだからな! 手加減できないぞ!」

 突然、デーキスの頭に衝撃が走った。思わず、地面に倒れ込む。後ろからおもいっきり殴られたような痛みを感じる。

「どうした? 超能力を使ってみろよ」

「最も、どこから来るのか分からなかったら、防ぎようもないよな」

 デーキスは後頭部を押さえながら、背後を振り向く。いつの間にか、デーキスの背後に多数のゴミや瓦礫の欠片が無数に浮いていた。双子のどちらかが超能力を使っているのだ。

 

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 どうやら、離れた所にある物も念力で操ることが出来るようだ。アラナルドのそれに近い。

「こっちもちゃんと見なよ。どこから飛んで来るかわからないんだから」

 双子たちの方へ振り向く。瓦礫の欠片が独りでに宙に浮き始めている。双子はどちらも物体を念力で動かす力を持っているようだ。デーキスは双子の超能力に挟まれる形になってしまった。

「どうした? そんな驚いた顔をして……お前の超能力も見せてみなよ。ちゃんと使えるならな!」

 デーキスはブルメにかぶさるようにして身を守った。その直後に、頭や背中に痛みが走った。

「あはは、まるで亀みたいだ」

「こいつ、超能力を上手く扱えないんだ。スタークウェザーに会った時は運が良かっただけだ」

 四方八方から双子の超能力が襲いかかる。デーキス一人では防ぎきることは出来ず、防ぎきれなかった分がブルメを傷つける。

「うう……」

 ああ、なんてかっこ悪いんだろう。後先考えずに飛び出してしまったため、却って状況を悪くしてしまった。デーキスは心の中で後悔した。

 この子を守れるような何かがあれば、自分たちをすっぽりと覆えるドームの様な壁。それがあれば、あの双子の超能力だってへっちゃらなのに。

 デーキスはそう頭の中で思い描いた。一種の現実逃避であったが、時として思いもよらない結果を出すこともある。

 双子が動かす物体が、デーキスたちにぶつかる直前ではじけ飛んだのだ。

「なっ!?」

「新入りのやつ、超能力が使えなかったんじゃ……?」

 双子の手が止んだ事にデーキスは気づいた。だが、まだ何が起こったのか、自分が何をしたのかは理解していなかった。

「ただのマグレさ。もっと傷めつけてやらなくちゃ」

 双子が再び念力を使いはじめる。

「デーキス、さっきみたいにしてみろ! さっきの感覚で超能力を使え!」

 今まで隠れていたウォルターが叫んだ。ウォルターの言葉で、デーキスは何が起こったのかを理解した。目を閉じて先ほど思ったことを思い出してみる。

「ちぇっ、誰だ? 余計なこと言いやがって……」

「カフ、そんな奴よりこっちだ!」

 双子の片割れ、恐らくクラウトが念力でデーキスに物を飛ばす。目を閉じたままのデーキスに向かって、一直線に飛んで来る。

 壁を作るイメージ。何かを放出させるのではなく、空間に突然壁が出現するような発生するようなイメージ。記憶を頼りにデーキスは頭の中で思い描く。

 激しい炸裂音とともに、クラウトが飛ばした瓦礫の塊が空中ではじけ飛んだ。

「あいつ、また超能力を使ったぞ」

「ふん、生意気な……」

 小さな無数の石つぶてがデーキスの背後から襲いかかった。

「ちょっと、後ろ……!」

 

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 気づいたブルメがデーキスに伝えるが、デーキスは目を閉じたまま反応しなかった。ブルメが身構えると、石つぶても先ほどと同じように空中ではじけ飛ぶ。

 自分の周囲に壁を作るイメージ。そのイメージの通りにデーキスの周囲に電磁波の壁が発生しているのだ。デーキスは自身の超能力の使い方を僅かながら理解した。

 ゆっくりと、デーキスは目を開く。

「何となくだけどやっと分かった。セーヴァの力をどうやって使うか……何のために使うかをはっきりさせる……そうすれば、超能力が使えるんだ……」

 デーキスは双子に向かって叫んだ。

「今の僕は超能力をちゃんと使えるぞ! まだやるって言うのなら、今度は本当に容赦しないぞ!」

「新入りのくせに何を偉そうに……」

「カフ、ちょっと落ち着け」

 デーキスの挑発に乗りかけたカフをクラウトが止めた。クラウトが無言のままデーキス、次にウォルターへと目を向ける。

 電磁障壁を使えるデーキスだけでなく、さらにもう一人いる。このままやっても痛い目を見るだけだ。クラウトはそう考えている。彼らの持つ念動力とは別の、双子特有のテレパシー能力で、カフは理解した。

「ちぇ、あーあ……馬鹿らしくて相手なんかしてられないや」

「行こうぜ」

 捨て台詞を残して双子はその場を後にした。彼らがいなくなった後、デーキスは緊張の糸が切れ、その場に座り込んだ。

「ふう、怖かった……」

 いくら超能力を使えるようになっても、デーキスは流石にそれで双子を傷つけるつもりはなかった。ただ、双子が諦めるまで身を守るだけにしか使わないつもりだったが、すぐに引いてくれたのは幸運だった。

「よおデーキス、お前ちゃんと超能力使えるじゃねーか! これでバッチリだろ!」

 駆けてきたウォルターはそのままデーキスの首をぐいと締め、軽く頭を叩く。

「ウォル……苦しい……」

 デーキスとウォルターがじゃれあってるのを尻目に、ブルメは一人で立ち上がると、そのまま去ろうとする。

「おい、お前。デーキスに助けてもらって礼の一言もないのか?」

 気づいたウォルターが声をかけると、ブルメは無言で睨みつける。次にデーキスの方へ目を向けたが、少しの間デーキスを睨むと、そのまま振り返って行ってしまった。結局、礼を言われることはなかった。

「けっ、お高くとまりやがって。助けて損したな」

「うーん、別に礼を言われたくて助けたつもりじゃないけど……痛っ!」

 腕がまた痛みだした。双子たちのせいで、傷ついていた腕だけでなく全身に傷をつけられた。衣服も破れ全身傷だらけだ。

「こりゃあまたハルの所で治してもらわねえとな。でも、お前の能力があればハルも気前よくしてくれるはずだぜ。楽しみだな!」

 すっかりごきげんなウォルターに肩を貸してもらいながら、デーキスはハルの家へ向かった。

 

説明
久々の更新。既にタイトルがネタ切れのSF6話目。

やっと主人公が超能力を使えるようになります
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タグ
超能力 少年 小説 オリジナル SF 

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