英雄伝説〜焔の軌跡〜 リメイク 改訂版 |
〜ロレント市〜
「怖いよ、お母さん!」
戦火に包まれた街の中心部にある時計塔の中に母親と共に隠れている栗色の髪をツインテールにし、紅い瞳を持つ幼き少女エステルは外から聞こえてくる阿鼻叫喚や轟音を聞いて恐怖の表情で身体を震わせ
「大丈夫……大丈夫だからね、エステル……」
エステルの母レナは娘を不安にさせないように、必死に恐怖の表情を隠しながらエステルの背中をさすっていた。するとその時雷鳴をも思わせる轟音が聞こえた後、時計塔が爆破され、天井から瓦礫の雨が降り注いだ!
「エステル――――――――!」
「きゃあぁ〜〜〜〜〜〜!」
爆破された事によって崩れ落ちる時計塔から脱出したレナはエステルだけでも絶対に助ける想いを持って力を振り絞り、エステルを突き飛ばした。そしてレナの想いは通じたのかエステルは地面に転がって瓦礫の雨から逃れ、命懸けの役目を果たしたレナは瓦礫に埋もれた!
「おかあさ〜ん!」
「に……げ……て……エ……ステル……私の……事は………いいから………」
「嫌だよ!お母さんも一緒だよ!お母さん!お願いだから起きてよ!お母さん―――――!」
「…………………」
瓦礫に埋もれ、血だまりの中に意識を失って倒れているレナをエステルは涙をポロポロ流しながら叫んだが、死に向かい始めているレナは娘の叫びに返事する事はできなかった。
「誰か〜、助けて――!お母さんが死んじゃう!」
そしてエステルは必死に助けを呼んだが、エステルの必死の叫びは阿鼻叫喚や轟音によってかき消され
「ヒック!このままだとお母さんが死んじゃうよ〜!うわあぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」
エステルは大声を上げて泣きはじめた。
「ん?この声は……まさか子供の泣き声か!?―――どこにいる!?」
戦火に包まれた街を駆け回りながら帝国兵達を殺して市民達を救っていた青年は風に乗って聞こえてきた少女の泣き声を聞いて駆け出し、瓦礫に埋もれて血だまりの中に倒れているレナと、その傍で泣きじゃくっているエステルを見つけた。
「これは!?おい、大丈夫か!?」
親娘を見つけた青年は血相を変えてエステルに駆け寄り
「お願い!お母さんを助けてっ!お母さんが死んじゃう!」
「わかった!少し待っていろ!」
涙を流しながら叫ぶエステルの願いに頷いた青年は瓦礫に埋もれたレナに近づいた。
「…………(超振動も問題なく使える。大丈夫だ、もうあの時の俺とは違う。今度はこの力で命を救って見せる!)」
青年は両手を見つめて決意の表情になった後両手を瓦礫へとかざし
「うおおおおおっ!!」
両手から周囲を照らすほどの光を発生させた。すると瓦礫は砂と化し、青年は砂の中に埋もれたレナを抱き上げて地面にゆっくりと降ろした。
「お母さん!!」
地面に降ろされたレナにエステルは駆け寄り
「お母さん、お母さん!お願いだから返事をして!」
意識を失っているレナに必死の表情で声をかけた。
(脈がどんどん弱っているし、血を流し過ぎている!――――クソ!!俺がティアやナタリアのように治癒魔法が使えたら間に合わせる事も可能なのに!レイズデッド……いや、ファーストエイドでも可能性は少しでもあるっていうのに!なにか………なにかないのか!!)
大量に出血しているレナの脈を計り、死に近づいているレナの状態に青年は焦りを感じて自分の荷物を必死にあさった。すると荷物の中にはどことなく聖なる気配を纏わせる深水のように深い青色の液体が入った瓶が2本と、透き通った水色の液体が入った瓶も数本見つかった。
(これは――――”エリクシール”!それに”ライフボトル”も!そう言えば師匠(せんせい)との戦いの為に持って行ったけど、いくつかは使わずに余ったんだ!よかった、これなら助けられる!)
万物の霊薬たる薬と言われる薬と生命(いのち)を蘇らせると言われる薬を見つけた青年は安堵の表情になった後迷わず深い青色の液体が入った瓶を荷物から取り出し、レナの口に少しずつ流し込んだ。万物の霊薬たる薬と言われる液体はレナの体内に入ると、失ったレナの血を戻すかのようにレナの体内の細胞に働きかけて液体を元に失った分の血を復活させ、更にはレナの頭部にできた瓦礫を受けた時の大きな傷口もまるで何もなかったかのように塞がり、表情を青褪めさせて意識を失っているレナの顔色は健康体に戻ったかのように赤みを帯び、顔色も良くなった。
「すー……すー………」
顔色が良くなったレナは規則正しい寝息を立て
「ハ〜、ギリギリ間に合った。もし、師匠(せんせい)との決戦で全部使い切っていたら間に合っていなかったぜ。」
眠っているレナの脈を確かめた青年は力を抜いて安堵の表情で溜息を吐いた。
「お母さん、助かったの!?」
青年が母が助かったような言葉を口にするとエステルは真剣な表情で青年を見つめて尋ね
「ああ、ギリギリだけど助かったぜ。」
エステルに尋ねられた青年は人の命を救った事や幼い娘が母親を失うという悲劇を回避できたという嬉しさを実感しながら口元に笑みを浮かべて答えた。
「ううっ………ヒック!よかった……よかったよ〜。」
青年から大好きな母が助かった事を聞いたエステルは安堵によって出てきた涙をポロポロ流しながら泣きじゃくっていた。
「安心するのはまだ早いぞ。安全な所はどこだ?そこまで運ぶよ。」
いつまでも戦場に親娘を置いておけない事を瞬時に判断した青年はレナを自らの背に乗せた後エステルを見つめて尋ねた。
「え、えっと、あたしの家なら街から離れて森の中にあるから大丈夫だと思う!」
「わかった。じゃあ、案内してくれ。」
「う、うん!」
そしてレナを背負った青年はエステルと共に戦火に包まれた街から脱出し、森の中にある一軒家に到着した。
〜ブライト家〜
「よいしょ……っと。」
エステルと共に家の中に入った青年はレナをベッドの上に乗せ、エステルが布団をレナにかけた。
「これで一安心だな。―――そう言えば親父さんはどこにいるんだ?」
規則正しい寝息を立てて眠っているレナの状況を見て安堵の溜息を吐いた青年はエステルに尋ね
「わかんない……お父さんはあたし達が住んでいる国からエレボニアを追いだす為に戦っているって、お母さんが言ってた。」
「そっか、親父さんはこの国の軍人か。ん?”エレボニア”??(そう言えばさっき殺した軍人共もそんな事を口にしたな。世界中を周ったけど、そんな国はなかったぞ??)えっと、一つ聞きたいんだけどよ、”キムラスカ”か”マルクト”って国は知っているか?」
「きむらすか?まるくと??この国は『リベール王国』だよ。」
聞き覚えのない国に首を傾げたエステルは青年にとって驚愕すべき事実を口にした。
「ハアッ!?ちょ、ちょっと待て!ま、まさかとは思うが”ローレライ教団”も知らないのか!?世界中で有名な宗教だぞ!?」
「??シュウキョウって、なんなの??」
「え、え〜と確か一般的には神様に祈る団体?だったと思うぜ。」
「神様って”空の女神(エイドス)”様の事?だったら違うわよ。”空の女神(エイドス)”様にお祈りしている神父さんやシスターさん達は”七耀教会”だから。」
「なっ!?オイオイオイ!?じゃあ俺は”オールドランド”とは全く違う世界に来たのか!?一体どうなってんだよ!?」
自分が知る常識とはかけ離れた世界にいる事に青年は混乱し
「知らない世界??お姉さん?ってヘンな事を言ってるわね。声や口調もなんか男の人っぽいし。」
エステルは首を傾げて尋ねた。
「誰が女だ!?俺は男だ!」
「ふえ?でも、髪がお母さんみたいにすっごく長いわよ?」
「え―――なっ!?」
エステルに指摘された青年は呆けた後自分の背にまでなびかせる炎が燃えているような赤い髪に気付いて驚いた。
「切ったはずの髪まで伸びてやがる……まさか俺がアッシュを吸収したのか?いや、でもアッシュの記憶は俺にはねえし。つーか、さっき戦っている時はよく確認していなかったけど、よく見たら”ローレライの鍵”まであるし……!あー、もう!どうなってんだよ!?」
次から次へと判明した驚愕の事実に青年は片手で頭をガシガシかいて混乱していた。すると青年の声に反応するかのようにレナは目覚めた。
「う……ん……?ここ……は……?」
「お母さん!」
目覚めたレナに気付いたエステルは嬉しそうな表情でレナが眠っているベッドに近づいた。
「お母さん、大丈夫!?どこも痛くない!?」
「え、ええ。でも一体どうして…………瓦礫に埋もれたのに、傷がどこにもないし……しかもここは私達の家??」
「あのね。あそこのお兄さんがお母さんを助けて、ここまで運んでくれたの。」
「お兄さん……?」
レナはエステルが指を刺す見覚えのない青年に気付いた。
「えっと私を貴方が?確か私はエステルを庇って、瓦礫に埋もれたのですが。」
「ああ。俺が瓦礫をどかした。」
「あのね。お兄さんが凄いケガをしていたお母さんにお薬を飲ませたの。そしたらお母さん、元気になったんだよ!」
「薬……?」
「ああ。滅多に手に入らないけど、効果は抜群な薬だからもう安心していいぜ。」
「……………そうですか。何はともあれ貴重な薬を使ってまで私の命を救って頂いた上、家まで運んで頂き、本当にありがとうございます。」
「ありがとう、お兄さん!」
青年の説明を聞いていくつか疑問があったレナだったがひとまず気にしないようにし、エステルと共に自分達を救った青年に笑顔を浮かべてお礼を言った。
「ハハ、どういたしまして。――――そんじゃ、俺はそろそろ出て行くよ。」
そして青年が部屋から出ようとしたその時
「待ってください。どこに行くつもりですか?」
「街に戻ってできるだけ多くの人を助けるつもりだ。」
「?もしかして遊撃士の方ですか?」
「いや、だからその遊撃士って何なんだっつーの。え〜と、エレボニア帝国?だったか。さっき何度か戦ったその国の軍人達もそんな事を言ってたけどよ。」
「ふえ?お兄さん、ユーゲキシを知らないの?みんなが知ってるジョーシキなのよ?」
「うぐっ。本当に知らねえんだから仕方ねえだろ……」
エステルに痛い所をつかれた青年は表情を歪めてエステルから視線を外して答えた。
「もしかして遊撃士協会もない遠く離れた田舎からロレントを観光しに来られたのですか?」
「へっ!?え、え〜と、そんな所だぜ、ハハ………」
レナに尋ねられた青年はおよそ”田舎”とは無縁の故郷を思い出しながら苦笑いをして答えを誤魔化した。
「―――でしたらしばらく家に泊まっていってください。助けて頂いたお礼や薬のお礼もまだですし……」
「い、いいって、お礼なんて!俺が勝手に助けただけだから!薬の事も気にすんなって!」
レナの申し出に青年は恐縮した様子で答えた。
「ですがこの戦争が起こっている今の状況でどうやって泊まる所を探すつもりですか?ロレントのホテルは使えませんよ?」
「いざとなれば野宿でもするさ。これでも長い間旅をしていたから、野宿にはなれてるし。」
「まあ!だったら、是非私達の家に泊まっていって下さい。命を救って頂いた方をこの危険な状況で野宿させる訳にはいきませんし。」
「え、でも迷惑じゃ……」
レナの提案に青年が戸惑いかけたその時
「エステルもいいでしょう?」
「うん!お兄さん、よろしくね!」
「フフ、決まりね。」
(な、何なんだよ、この親娘は!押しが強すぎねえか!?)
既に親娘の中では自分が親娘のお世話になる事が決定している事に青年は大量の冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「あ、そうだ。お兄さんの名前をまだ聞いていなかったよね?あたしはエステル。エステル・ブライトよ!」
「エステルか。そういや俺もまだ名乗っていなかったな。―――――ルーク・フォン・ファブレだ。」
こうして青年――――ルークはブライト家に滞在する事になった。
そして数カ月が立ち、のちに”百日戦役”と呼ばれる戦争が終結した……………
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