英雄伝説〜焔の軌跡〜 リメイク  改訂版
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事件終結から2週間後、故郷ロレントに戻ったルークは遊撃士協会支部の受付のアイナから意外な話を聞かされた。

 

〜遊撃士協会・ロレント支部〜

 

「ハ?あの事件で俺達が助けた子供が俺を呼んでるだって?何でまたそんな事に。」

「それがね。先日その娘が目覚めて家族関係を聞いたのだけど家族は”自分を迎えに来てくれたルークと呼ばれている赤い髪のお兄さん”って言ったのよ。」

「両親の事とかは何も話さねえのか?」

アイナから話を聞いたルークは眉を顰めて尋ねた。

 

「それがその”ルークと呼ばれている赤い髪のお兄さんが本当の家族”の一点張りで……ファミリーネームすら明かさないから正直、こちらとしても困っているのよ。だから悪いけどその娘に会いに行って事情を聞いてくれないかしら?」

「……わかった。確かクロスベル自治州の”ウルスラ病院”だっけ?」

「ええ。既にチケットは手配してあるわ。」

「そんじゃ今から会いに行って、事情を聞いてくるぜ。」

そしてルークは飛行船を乗り継いで”クロスベル自治州”に到着し、バスで自分を”家族”と言い張る謎の少女が入院する病院に向かい、少女が入院している病室を受付で聞いた後、病室に向かった。

 

〜クロスベル自治州・ウルスラ病院〜

 

「あ!お兄様、ようやく来たんだ!遅かったじゃない。レン、ずっと待っていたんだから!」

病室に入って来たルークに気付いた菫色の髪の少女はベッドから起き上がって嬉しそうな表情でルークを見つめた。

「お、お兄様!?え、え〜と確かレン……だったか?その”お兄様”っていうのはどういう意味なんだ??」

血縁者でもない赤の他人である少女―――レンから”兄”と呼ばれる事に戸惑ったルークはレンが口にした不可解な言葉の意味を尋ねた。

 

「お兄様はレンの家族だからお兄様なのよ?家族なんだからレンがお兄様って言うのも普通でしょう?―――それより本当のパパとママはどこ?レン、速く会いたいな。」

「ハ?”本当のパパとママ”?えっと、もしかしてレンって孤児か?」

「ううん。偽物のパパとママに誰かに預けられるまで偽物の妹――――ユウナと一緒に暮らしていたわ。」

「(”偽物のパパとママに妹”?どういう意味だ!?)………その”誰かに預けられる”までの詳しい経緯を聞いてもいいか?」

ルークは混乱している様子を必死に表情に出さないようにしながら尋ね

「レンの偽物の家族を知りたいの?嫌だけどお兄様の頼みだから話してあげる。」

尋ねられたレンは一瞬表情を顰めた後ルークにとって驚くべき事を説明した。

 

自分は双子の妹と一緒に両親にどこかに預けられたこと。その後、気付いたら知らない所にいて何度も他の子供達と一緒に酷い目に遭い続け、最後は一緒にいた妹もいなくなって自分しか残らなかった事。そのことから今までの”家族”は”偽物”で”本物の家族”はいつか迎えに来ることを信じて続けていたこと。そして気が付いたらルークの背中にいて自分を大事に運んでいたことからルークを自分の本当の家族と信じたこと。レンが口にした話はルークを驚かせ続けた。

 

「だから、お兄様がここに来た時レン、本当に嬉しかったのよ。だってここに来たということはレンがお兄様の”家族”で妹が心配だったから来たのでしょう?」

全てを話し終えたレンは心から幸せだという気持ちをみせるかのような穏やかな笑顔を浮かべてルークを見つめた。

「………………………(ど、どうすりゃいいんだよ!?ここで俺は違うっていうなんて、家族に捨てられたっぽいレンにはあまりにも可哀想な言葉だし……かと言って俺だけの判断で決める訳にはいかないし……!)」

一方予想外の出来事の連続にルークは内心混乱しながら表情を引き攣らせ

「ねえねえ、パパとママはいつ来てくれるの?レン、速く会いたいな。」

レンはルークの様子を気にせず首を傾げて尋ねた。

 

「え、えっと、二人とも仕事や用事の関係でレンが退院する日まで来られねえんだよ。」

「そうなんだ。じゃあレン、退院できる日を楽しみにして待っているわね♪レン、もう元気だからすぐに退院できるよね?」

「あ、ああ。俺もこの後用事があるから今日はこれで帰るけど……また明日も来るからな。良い子にして待ってろよ?」

問題を先延ばしにしたルークは大量の冷や汗をかきながら片手でレンの頭を優しく撫で

「(わぁ………気持ちいい………)はーい。」

”本当の家族”に頭を撫でられたレンは嬉しそうな表情で頷いた。

 

「っと、そうだ。最後にこれだけは聞いておきたいんだけどよ。レンの”偽物の家族”のファミリーネームとどこに住んでいたのかを教えてくれねえか?」

「何でそんな事を知りたいの??レン、あの人達の事は大嫌いよ。」

「ほら、アレだ。レンが嫌っているとはいえ、レンを今まで育ててくれたお礼を”レンの家族として”言っておくのが大人の礼儀だしな。」

「そうなんだ。大人って大変ね。―――――”ヘイワーズ”。レンと一緒に暮らしていた”偽物の家族”は確かそんな名前でクロスベル市に住んでいたはずよ。」

その後クロスベルの遊撃士協会支部にレンの両親の事について事情を話し、両親の事がわかったルークは協会支部の通信を借りてロレントにいるカシウスに事情を説明した。

 

〜遊撃士協会・クロスベル支部〜

 

「………………そうか。その娘にそんな事情が。その妹とやらは恐らく”教団”の”儀式”によって……」

「多分そうだろうな。それでレンから聞き出したその”ヘイワーズ”家だけどよ。クロスベル市に住んでいたみたいだから、調べるのも楽で助かったんだけどよ…………調べてみてわかったんだが、かなり厄介な状況のようだぜ?」

「何?一体どういう事だ?」

ルークはレンの家族―――ヘイワーズ家は危険な相場に手を出した結果多額の債務を負ってしまい、行方をくらましている事を説明した。

 

「借金苦による夜逃げか…………となるとその子達を知り合いに預けた理由は多分、借金取り達による追撃から娘達を守る為かもしれないな。しかしそこに運の悪いことに今回の事件に巻き込まれてしまったという訳か。」

「どうする?レンはマジで俺達の事を”家族”だって信じているようだけど。」

「―――わかった。レナ達にも事情を話してその娘を養子にしよう。恐らくその娘が今、心の支えにしているのは”俺達が家族である事”だろうからな。」

「何か迷惑をかけてしまったみたいで、本当にごめんな、父さん。」

「気にするな。エステルだって妹ができると知れば喜ぶだろうしな。」

数日後、レンは無事退院し、ルークと一緒にリベールのブライト家に戻った。

 

〜ブライト家〜

 

「ただいま。」

「「おかえり、ルーク、レン。」」

「おかえりなさ〜い、ルーク兄!それにえっと………あなたがレンでいいのよね?よろしくね!」

「ただいまパパ、ママ!それにエステル!(わぁ………!優しそうなママに強そうなパパ。それに明るいお姉さんのエステル。そして素敵なルークお兄様!ここがレンの本当の"家族"なんだわ!レンが思い描いた通りの!)」

ブライト家に笑顔で迎えられ、まさに思い描いた通りの”本当の家族”を見たレンは幸せな想いでいっぱいになった。

 

その後レンはブライト家の一員となり、幸せに暮らし始め、ブライト家の一員になったレンは家族の誰にも甘えたが、ルークとレナに特に甘えた。そしてある日ルークがエステルと武術の練習をしていると、その様子を見ていたレンはふと意外な事を口にした。

「ねぇ、お兄様。レンもお兄様のやっている剣をしたいわ。」

「ふえ?」

「ハ?剣を?なんでまた。」

少女の希望を聞いたエステルは自らの得物である棒を収めて首を傾げ、木刀でエステルと武術の練習をしていたルークは木刀を地面に置いて不思議そうな表情で尋ねた。

 

「あら、パパとお兄様は遊撃士だし、エステルも遊撃士を目指すんだからレンが目指してもおかしくないでしょ?」

「まぁそうだけどそれよりなんで剣を?父さんとエステルは棒術だから、武術を志すにしてもそっちが普通じゃねえか?」

「そうそう!あたしがお姉さんとしてちゃんと教えてあげるわ!」

レンの説明を聞いてもレンの考えが理解できなかったルークは首を傾げ、エステルは胸を張ってレンを見つめた。

 

「だって、そっちの方が面白いじゃない。美少女剣士ってとっても人気になると思わない?」

「お、面白いから剣にするって……」

「というか自分で美少女って言うかしら?」

予想斜めな答えを聞いたルークは表情を引き攣らせ、エステルはジト目でレンを見つめた。

 

「うふふ、だってレン、みんなから”可愛い”って言われているし、男の子達からは憧れの視線で見られているから美少女でしょう?」

「うわっ、何その自慢。」

「ハハ……(アニスあたりと話が合うかもしれねぇな。)」

「ねぇ、それより教えてくれるの?くれないの?」

「う”。その目は卑怯だろ………」

「絶対わざとしてやっているでしょ。こういうの”アクジョ”って言うんじゃなかったっけ?」

眼をうるうるさせるレンに見つめられたルークは断るに断れず、エステルは呆れた様子で見つめていた。

 

「一体どっからそんな言葉を知ったんだよ……って、シェラザードか。―――まあいい。それで?どっちの剣術をやりたいんだ?俺が元々使っている”アルバート流”の剣術と”八葉一刀流”があるが。」

「勿論どっちもよ!レンはルークお兄様の妹なんだから!」

「ハハ、わかったよ。まず剣の構えだけど……」

そうしてルークはレンに剣術の基礎などを教えた。レンはスポンジのように一度教えた事をすぐに覚え、僅か数時間で”技”すらも編み出せるようになった。

 

「魔神剣!!」

レンが樹の枝を振るうと、振るった樹の枝が反動によって真っ二つに折れると共に衝撃波が発生し、衝撃波は地面を走りながら一本の樹に命中し、樹を揺らした。

「ほえ〜。ホントにできた……」

「ハ、ハハ……どうやらレンには剣の才能があるみたいだな。(俺だって基礎を完璧に覚えるのに時間がかかったのに、何でこんなに速くできるんだよ!?)」

レンの成長の速さにエステルは呆け、ルークは大量の冷や汗をかいて表情を引き攣らせていた。

 

「クスクス、うかうかしていたらレンがあっという間に抜いちゃうわよ?お、ね、え、ちゃ、ん?」

「むっかー!だったらもっと強くなって姉としての威厳を見せつけてやるわ!」

そして二人はそれぞれの想いを抱えて鍛錬を再開した。

 

「これは一体……ルーク、どうしてレンが剣術の練習をしているんだ?」

二人の鍛錬をルークが見ていると仕事から帰って来たカシウスが目を丸くして尋ね

「実は――――」

事情を知らないカシウスにルークはレンが剣術の練習をする事になった経緯を説明した。

 

「……………………………ルーク、ちょっとこっちに来い。話がある。(二人には聞かせられない話だ。)」

「あ、ああ。」

真剣な表情のカシウスに小声で話しかけられたルークは鍛錬している2人から距離を取った。

 

(先程のレンの件だが、恐らくあの娘に投与された薬物が関係していると俺は睨んでいる。)

(へっ!?”D∴G教団”の!?)

(お前も報告書で読んでいるはずだ。奴等が開発した”グノーシス”と呼ばれる薬物で様々な”実験”を犠牲となった子供達に施し、更に俺達が襲撃した際、連中はそれを呑んで異形の存在になった事も。)

(!!じゃ、じゃあレンがあんな短時間ですぐに剣を振れるようになったのって……!)

忌まわしき事件の影響が未だにレンに残っている事に気付いたルークは顔色を変えた。

 

(恐らく投与された薬物の影響で身体能力や記憶能力も大幅に向上しているのだろうな。)

(………どうすんだ?)

(レン自身が戦う事を決めたのなら、俺達はどんな形であれ得てしまった”力”を間違った事に使わないように導くだけだ。)

(………わかった。)

こうして二人は人知れずレンが間違った方向に進まないように教えることを決意し、レンに剣術を教え始めた。

 

〜1年後・ロレント市〜

 

「ねえねえ、ママ!今日のディナーって何なの?卵をいっぱい買っていたから、もしかして卵を使った料理かしら?」

「あら、鋭いわね。今日の夕食はオムライスよ。」

「わーい!今日は2回もお母さんのオムレツを食べられるんだ!」

「もう、エステルったら、相変わらずそそっかしいわね?オムレツとオムライスは全然違うわよ。いつまで経ってもそんなんだから、レンはエステルの事を滅多に”お姉ちゃん”って言わないのよ?」

「むっかー!レンこそおかしな事を言っているじゃない!オムレツとオムライスは一緒でしょう!?」

「もう、この娘達ったら………はいはい、喧嘩をしないの。」

レンにからかわれ、頬を膨らませているエステルを見たレナは呆れた後、苦笑いをしながら二人を宥めていた。

 

「………………………」

レナやエステルと笑い合って歩いているレンをレンと全く同じ容姿で、唯一違うのは菫色の髪のレンとは違い、髪の色は夕焼けのような橙色の髪をサイドテールにした少女は愕然とした様子でレンと同じ琥珀色の瞳を震わせながら見つめていた。

「何で……何でおねえちゃんだけ、”幸せ”になっているのよ……!ユウナと同じ”穢れた子供”なのに……!」

やがて少女は何かに耐えるかのように唇を噛みしめて身体を震わせ、レナを真ん中にしてエステルと共にそれぞれの片方ずつの手とレナの手を繋いで共に笑い合っている自分と瓜二つの容姿をする菫色の髪の少女を見つめていた。

 

「………俺達に拾われた事、後悔しているのか?」

その時少女の傍にいる銀髪の青年は去って行くレン達を見つめながら尋ねた。

「………………………クスッ………うふふ、レーヴェったら、またおかしな事を言っているわね?”偽物”のお姉さんなんか、あの”偽物”のパパとママ同様、ユウナは知らないわ。」

「………………………………もうこれでここの用はすんだな?―――行くぞ。」

少女の答えを聞いた青年は目を伏せて考え込んだ後、やがて去って行くレン達に背を向け

「はーい。」

少女もレン達に背を向け、2度と振り向く事もなく青年と共に去って行った。

 

 

 

 

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外伝〜菫の少女との再会〜
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