英雄伝説〜焔の軌跡〜 リメイク 改訂版
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〜遊撃士協会・ロレント支部〜

 

「アイナさん、おはよう!」

「おはようございます。」

「よう、アイナ。」

「あら、おはよう、エステル、ヨシュア、ルーク。」

ドアを開けて挨拶をしてきた3人に気付いた受付のアイナも挨拶をした。

 

「シェラ姉、もう来てる?」

「ええ、2階で待ってるわ。今日の研修が終われば晴れてブレイサーの仲間入りね。2人とも特別扱いされているレンにも負けないよう頑張って。」

「うん、ありがとう!」

「頑張ります。」

アイナの応援の言葉に頷いた新人の二人は2階へ上がって行った。

 

「さてと……俺に優先してやって欲しい依頼はないか、アイナ?」

「その事でちょうど話があったわ。悪いけど明日からまた出張に行ってくれないかしら?」

「またかよ?3週間前にルーアンに出張に行って、1週間ほど滞在したばかりだぞ……」

遊撃士は数が少なく、求められれば出張する必要がある事を理解していてもルークは思わずぼやいた。

「フフ、仕方ないわ。小国であるリベールに大陸中で20数名しかいないA級正遊撃士が3人も常駐している事に加えてS級であるカシウスさんも常駐している上、特にこのロレントにはカシウスさん、”銀閃”、”焔”である貴方、そして正式な遊撃士ではないけど、実質A級クラスの実力を持つ”剣姫”が常駐と、リベールの他の都市のギルドに常駐している遊撃士達と比べると正直ロレントみたいな田舎には、過剰戦力よ?」

ルークのボヤきにアイナは苦笑いをしながら答えた。

「そうか?俺はグランセルの方が戦力が集まっていると思うけどな。残りのA級正遊撃士である”方術使い”と”暁”に加え、”暁”の紹介でサポーターになった”不屈”が常駐しているじゃねえか。確か”不屈”は実力、事件解決能力共にA級クラスと言ってもおかしくないんだろ?」

「グランセルは王都だから仕方ないわ。むしろクロスベルのミシェルさんからは一人でもいいからよこして欲しいって言われているぐらいよ?」

「あー、クロスベルは色々とめんどくさい所だからな〜。つってもクロスベルの方も十分じゃね?”風の剣聖”に加えてB級ランク以上が4人も常駐しているじゃねえか。」

「まあ、それだけクロスベルが厄介な場所という証拠ね。―――さてと。今度の出張場所についてだけど……」

その後アイナと話し終えたルークはいくつかの依頼をこなして戻ってくると、エステルとヨシュア、そして”銀閃”の異名を持つ銀髪を一束に束ねて腰までなびかせている女性―――シェラザード・ハーヴェイがアイナと話し合っていた。

 

「お疲れ様、2人とも報告は完了よ。仕事によってミラが増減するから気をつけてね。後報告をすればBPというポイントも追加されるわ。BPはブレイサーとしての実績を表すものだわ。このポイントをある程度ためるとランクが上がり協会から特別な備品が支給されるわ。準遊撃士のランクは9級から1級までの9段階だわ。2人とも最高ランクを目指してがんばってね。」

アイナは研修を終えた二人にミラを手渡して詳細な説明をした。

「ねえねえ、アイナさん。ちなみにレンって今どれぐらいたまってるの?」

「レンのランクは今2級だわ。」

「2級ってことは上から2番目ってことよね。ふえ〜、相変わらずあの子ったら凄いわね。」

「あんたね……あの娘がどれだけ”規格外”なのか、まだわかっていないようね。闘技大会では親衛隊員どころか、軍のトップであるモルガン将軍まで降して優勝しているのよ?」

幼い妹の活躍を知ったエステルは目を丸くし、呑気そうな様子のエステルを見たシェラザードは呆れた様子で溜息を吐いた。

 

「……正直な所、あの娘の実力を良く知っている私達―――リベール支部の受付達の意見としてはあの娘が規定年齢に達した時準遊撃士のままだともったいないのよ。あの調子なら近い内に1級もとるでしょうしね。」

「なるほど、だからアイナさん達はレンが正遊撃士になることを本部に提案しているんですね?」

「ええ、これはリベール支部全ての考えよ。」

11歳という余りにも異例な速さで凄まじい実力を身につけているレンの才能は遊撃士協会のリベール各支部の受付達も注目しており、レンの実力からして準遊撃士の枠に収まり切れない事を理解していたリベールの各支部の受付達が”特例”としてレンが規定年齢に達した時正遊撃士に昇格する事を提案し、協会は前代未聞な出来事続きに上層部達の意見はわかれていた。

 

「よお〜し、レンに負けないようあたし達もがんばりましょヨシュア!」

「そうだね、エステル。」

「お、気合が入っていい感じだな2人とも。」

妹の活躍に気合いを入れ直したエステルとヨシュアにルークが近づいてきた。

「あ、兄さん。」

「あ、ルーク兄。依頼を終えて帰ってきたんだ?」

「悪かったわね。あたしの分まで請けてくれて。」

エステル達の教育の為にルークが自分が受け持つ依頼まで請けている事を知っていたシェラザードは申し訳なさそうな表情でルークを見つめたが

「別に気にすんなって。それにエステルの教育をする方が難しい依頼な気がするしな。」

「確かにそれは言えてるわね。これがレンだったら、どれだけ楽な事だったか……」

口元に笑みを浮かべて言ったルークの意見を聞き、エステルの物覚えの悪さを思い出し、疲れた表情で溜息を吐いた。

「ちょっと、ルーク兄、シェラ姉!それってどういう意味〜!?」

「まあまあ。」

二人の会話を聞いていたエステルは二人を睨み、ヨシュアはいつものように苦笑いをしながらエステルを諌めていた。

 

「さあ〜て、最後の仕上げにかかるわ。悪いけどアイナ、2人を借りていくわね。」

「ううん気にしないで。」

「俺もちょっと着いて行くよ。」

シェラザードは最後の仕上げにかかるべく2人を2階に連れて行き、何があるのかわかっていたルークもついて行った。

 

「これで全ての研修は終了したわ。後は実際の依頼で学んで行きなさい。さて……と」

シェラザードは懐からエステルとヨシュアにとって見覚えのある小箱を取り出した。

「あ、その箱はさっきの……」

「開けていいぜ、エステル。」

「ほんとにいいの、ルーク兄、シェラ姉。」

「ええ、開けてみなさい。」

エステルとルークに促された2人は小箱を開けた。すると箱の中には正遊撃士の紋章である”支える籠手”とは装飾が少ない”支える籠手”の紋章――――準遊撃士の紋章(エンブレム)が入っていた。

 

「このエンブレムは……」

「じゃあこれで僕達も?」

箱の中に入っている紋章を見た二人は期待の目でシェラザードとルークを見つめた。するとシェラザードは咳払いをして二人が期待する言葉を口にした。

「コホン。エステル・ブライト、ヨシュア・ブライト。本日15:00を持って両名を準遊撃士に任命する。以後は協会の一員として人々の暮らしと平和を守るため、そして正義を貫くために働くこと。」

「2人ともおめでとう。今日からお前らも俺達の仲間だ。」

「やったね。ヨシュア!これであたし達も晴れてギルドの一員ね!」

「そうか、僕がブレイサーか…………はは少し不思議な気分だよ。」

「ま、2人とも気持ちはわかるぜ。俺も準遊撃士になれた時はスッゲー嬉しかったからな。」

罪深く、人間でもない自分が人々の為に働く組織に所属する事を認められ、内心嬉しく思ったかつての自分をルークは懐かしそうな表情で思い出していた。

 

「ふふ、さてと……あたしはそろそろ行くわね。ルークに請け負ってもらった仕事以外にも溜まっていた仕事もあるし。」

「そっか。忙しい合間につき合ってくれたんだ。ありがとうシェラ姉。」

「お世話になりました。シェラさん。」

「ふふ、気にしないで。新人を育てるのもブレイサーの義務よ。」

「んじゃ、俺も行くぜ。早くレンに追いつけるように、がんばれよ、2人とも。」

「うん、ありがとうルーク兄!」

「ありがとうございます、兄さん。」

その日の夜、ブライト家ではエステルとヨシュアの合格祝いでささやかなパーティーが開かれた。

 

〜夜・ブライト家〜

 

「ゴクゴク……プハー、とうとう2人もブレイサーか。月日は流れるものですね。」

「ああ、そうだな。」

シェラザードの言葉にカシウスは頷き

「それだけ俺達も歳を取ったって証拠だな。(オールドランド出身の俺やイオン達の場合って、何歳になるんだ?オールドランドとゼムリア大陸の1年の日数が全然違うしな……オールドランドの年齢で換算すると俺達は5,6歳程度しか歳を取っていない事になるけど……)」

「ちょっと〜、あたしは四捨五入すれば30の貴方と違ってまだまだ若いわよ。ルークの場合はいい加減、恋人を見つけて、先生達を安心させるべきじゃないの?顔はいい上、稼ぎもいいんだから、その気になれば作れるんじゃないのかしら?」

「うっせ!余計なお世話だよ!」

自分の言葉にからかいの意味も込めて反論したシェラザードをルークは睨んだ。

 

「うふふ、頑なに恋人さんを作らないって事はやっぱりお兄様、あの写真に写っている3人の中の誰かさんが好きなようね♪ちなみにレンの予想ではアッシュブロンドの髪の美人さんね。あの3人の中で一番綺麗な人の上、スタイルも抜群だし。」

「いい”っ!?」

「あら。」

「ほう?」

「へ〜、それは初耳ね♪」

からかいの表情で口にしたレンの言葉を聞いて図星を突かれたルークは表情を引き攣らせ、今まで想い人がいるそぶりすら見せた事のないルークに想い人がいる可能性がある事に気付いたレナとカシウスは目を丸くし、シェラザードは興味深そうな表情をし

「あ!すっかり忘れてたわ!ねえねえルーク兄、レンの言っている事ってホント!?」

「そう言えばそうだね。」

声を上げたエステルに続くようにヨシュアは頷いた。

「だー!あいつらの事は仲間として信頼していただけだし、その話を蒸し返すんじゃねえ!」

その時ルークは慌てた様子で大声を上げてエステル達を睨んだ。

 

(あんな頑なに反応をするって事は絶対いるわね♪)

(うふふ、絶対いるでしょうね♪)

(ねえねえ、レン!後でその写真に写っていた人達の事を聞いてもいい!?)

「お、お前らなあ……!」

小声で会話し合っている女性達の様子を見たルークは顔に青筋を立て、身体を震わせていた。

 

「フフ……それより3人とも、明日も仕事があるんですからお酒はほどほどにしておきなさいね。」

その時レナが話を変えるかのようにルーク達のグラスに入っているお酒を見て忠告した。

「いいじゃないですか、せっかくのお祝いなんですから。」

大酒飲みのシェラザードはより多くのお酒を飲む為に笑顔でレナを宥めようとしたが

「シェ〜ラちゃ〜ん?」

「う……ハイ、わかりました。」

凄味のあるレナの笑顔にすごすごと引き下がった。

 

「あはは、やっぱりシェラ姉もお母さんにはかなわないか。」

「まあね、あたしにとっても母親のような存在だからどれだけ時間がたってもかなわないのよね……」

「ふふ、それは当り前よ。シェラちゃんも家の子のようなもんだし。ねえ、あなた?」

「まあ、そうだな。」

「ふふ、ありがとうございます。」

「うふふ、さすがはママとパパね。」

レナとカシウスの懐の深さにシェラザードは嬉しさの内心を顕すかのように笑顔を浮かべ、レンは微笑みながら大好きな両親を見つめていた。

「えへへ、これで明日からあたし達もルーク兄やシェラ姉達と一緒に仕事ができるわね!」

「あ〜、その事だけどさ。俺、明日から出張になったから。しばらく家を離れるよ。」

嬉しそうな表情で自分達と仕事をする事を望むエステルに申し訳ないと思ったルークは気まずそうな表情で早速エステルの希望を打ち砕いた。

 

「え〜、せっかくルーク兄達と仕事場がいっしょになったんだけどなぁ……」

「エステル、仕方ないよ。兄さんは正遊撃士の中でも数少ないA級なんだから。」

頬を膨らませているエステルをヨシュアは苦笑いをしながら諌め始めた。

「まあな、これもブレイサーの義務だ。ところで今度はどこに出張なんだ?」

「ツァイスだよ。」

「ツァイス!レンもついて行っていい!?」

リベールの工業都市の名を聞き、今でも文通を続けている工業都市でできた作業着を常に身につけ、工房見習いをしている親友の事を思い出したレンは身を乗り出してルークを見つめて尋ねた。

 

「レン、お行儀が悪いわよ。」

「ごめんなさい、ママ。でもティータに会えると思ってついはしゃいじゃった。」

レナに諌められたレンはペロリと舌を出して小悪魔な笑みを浮かべながら答え、椅子に座り直した。

「確かその子って向こうで仲好くなって文通している子よね。よくその子の名前の手紙を見かけるし。」

「ええ、ティータはレンの親友よ!」

自分が親友と認める少女の名前がエステルの口から出るとレンは自慢げに胸を張って答えた。

 

「ねえ、それよりもお兄様。レンもついていっていい?」

「ああ、キリカもお前も俺に一緒に付いてくることを最初からわかっているだろうしな。ティータと仲良くするのはいいが、しっかりと仕事をしろよ?」

「ええ!レン、いっぱいがんばるわ!」

「ふふ、レン。仕事をするのもいいけど友達は大切にしなさいね。」

「勿論よ、ママ!」

大好きな家族の言葉にレンは笑顔を浮かべて頷いた。

 

「じゃあ、そういう事だから2人とも後のことは頼むぜ。」

「ああ、こっちの事はいいから向こうでも頑張って来い。」

「先生の言う通り、こっちの事は心配する必要ないわ。ちょうど2人の新人も入って来たから、バリバリ働かせる気だし。」

「バリバリ……」

「覚悟したほうがよさそうだね、エステル。」

カシウスとシェラザードの言葉からこき使われる自分達を想像したエステルは表情を引き攣らせ、ヨシュアは苦笑いをしていた。

 

そしてその夜は2人の試験の事で盛り上がり夜は更け、翌日ルークとレンは飛行船の発着所で家族とシェラザードから見送られようとしていた。

 

〜ロレント発着所〜

 

「じゃあ、行ってくるぜ。」

「行ってらっしゃい兄さん、レン。」

「2人とも気をつけてね。」

「ええ、ママも健康に気をつけてね。」

「あたし達も推薦状をもらいにリベールを廻るつもりだから向こうで会うかもね。」

「うふふ、その時はティータを紹介するわ♪」

エステルの話を聞いたレンは笑顔を浮かべて答えた。

 

「ルーク、ラッセル博士によろしくな。」

「ああ、勿論わかっているよ、父さん。」

「レン、もう慣れているとは思うけど、油断したり手を抜いたりするんじゃないわよ?」

「勿論わかっているわよ、シェラお姉さん。」

カシウスやシェラザードからそれぞれ声をかけられた二人に早く飛行船に乗って欲しいかのように出発のアナウンスが聞こえてきた。

 

これより王都方面行セシリア号は出発します。まだ、乗船なさってない方は乗船して下さい。

 

「っとそろそろ時間か……行くか、レン。」

「はーい!」

そして二人は飛行船の中へと入り、二人を乗せたセシリア号は出発した……

 

説明
第6話
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