艦隊 真・恋姫無双 102話目
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【 暗転 の件 】

 

? 司隷 洛陽 都城内 予備室 にて ?

 

華琳達、他に記憶がある恋姫達はパニックに陥り、北郷に駆け寄る!

 

先程まで話し、笑っていた北郷が………刺客の凶弾に倒れたのだ! その直後まで居た華琳は元より、昔の記憶を思い出した秋蘭も駆けつけ、倒れている一刀に呼掛けた!

 

ーー

 

華琳「北郷っ! 北郷──っ!!」

 

秋蘭「か、華琳様っ! 今の音は───ほ、北郷!? 北郷っ!!」

 

春蘭「華琳しゃまぁぁぁ────!!」ゴクッ

 

ーー

 

冥琳「どうした!? ────これは、どういう事だっ!!」

 

詠「か、一刀! う………嘘………嘘でしょう…………?」

 

ねね「……………………!!」

 

桂花「華琳様、いったい何───か、一刀っ!? どうしたの! 誰が、誰が………こんな事をっ!?」

 

ーー

 

翠「何だぁ、何だぁ───ご、ご主人様!?」

 

月「ご主人様…………? ご主人様? ご主人様──っ!!」

 

ーー

 

記憶が無い恋姫達も状況には驚くが………対応は的確だった。

 

ーー

 

雪蓮「祭っ! 直ぐに出入り口を見張って!」

 

祭「うむ──任せられい!!」

 

雪蓮「まだ、誰も通したら駄目よ! 天の御遣いが死んだと分かれば、白波賊や蜂起したがる屑共が動きだすわ! 今は、皆の動揺を抑える僅かな刻が必要なの!」

 

祭「───委細承知じゃ!」

 

雪蓮「───陛下が来ても、通しちゃ駄目よっ!」

 

祭「うぐぅ、それは無理だというものだが………出来る限り誤魔化してみるわい!」

 

雪蓮「さて……思春、明命! 直ぐに刺客の後を追いなさい! このままでは、私達が犯人にされてしまう! 必ず捕まえるのよ!!」

 

思春「────雪蓮様、明命が一人で追跡に走りました! 『必ず捉えてみせます!』と言い残して!!」

 

雪蓮「ならば、直ぐに後を追いなさい! あの姿は、確か御遣いの一人! 明命だけじゃ勝てないわ!」

 

思春「────はっ!」

 

ーー

 

霞「…………ウチらは、部屋周辺を警護や。 ヘタやって………この混乱を逆手ぇに取り、他の者を殺るかもしれへん。 ウチは部屋内に、不審な奴が居ぃひんか見るでぇ………華雄は、諸侯の周辺警備を頼むわぁ!」

 

華雄「…………任せておけ! 二度も不覚などせん!」

 

ーー

 

通路を塞いで情報漏洩の阻止、第二の襲撃者の警戒、重要人物の護衛。

 

そして、憎き犯人の追跡!

 

さすがは、軍を纏める者達であり、また乱世で才を伸ばす武人である。 見事な采配で、次の襲撃に備え、自分達の防衛やらに力を注いだのだった!

 

 

◆◇◆

 

【 怒りと哀しみ の件 】

 

? 洛陽 都城内 予備室 にて ?

 

懸命に呼掛ける桂花達の元へ加賀が近付く。

 

ーー

 

華琳「北郷! しっかりなさい! 北郷──」

 

桂花「か、一刀……………………」

 

加賀「曹孟徳殿、提督の傍に付いて頂き………ありがとうございます。 後は、私達に任せて下さい。 提督の身を此方に………」

 

「「「「「 ─────!? 」」」」」

 

ーー

 

不意に一礼をし華琳に感謝の言葉を述べた。

 

その言葉は丁寧だが、要約すれば『北郷一刀の遺体を引き取る』となる。 

 

──確かに北郷一刀は、殺害された。 

 

それは近くで目撃した者なら、間違いない事実。 確かに、殺傷の道具事態は見たことも聞いたことも無い物。 刺客は、艦娘仲間の一人と同じ髪型の人物。 何となく似ているから、本人の可能性もある!

 

それなのに、自分達の主が討たれたのに関わらず、その動きは緩慢、遅延、無感情。 

 

具体的に言えば、誰一人も嘆き悲しまず、黙々と艤装を装着。 そして、準備が終われば……幾つかの集団に固まり待機。 

 

結局、一刀の傍に歩み寄ったのは、加賀一人だけという体たらく。 

 

更に、加賀の無表情、感情の籠らない事務的な言い方などで、記憶を持つ恋姫達の顔色に怒りの表情が浮かぶ!

 

ーー

 

翠「(あ、あいつ──ご主人様が殺されたっていうのにっ!!)」 

 

蒲公英「(駄目だよ、お姉さま! 問われているのは蒲公英達じゃない! 悔しいけど──蒲公英達が口出しする訳には行かないの!!)」

 

翠「(だけど──)」

 

蒲公英「(今の華琳は、蒲公英達とは面識は少ないんだよ! そんな覇王に余計な口出しして、西涼を攻める口実を与えてしまったら──どうするの!)」

 

翠「(──────!?)」

 

ーー

 

そう、今……加賀より尋ねられているのは、曹孟徳──華琳。 

 

部外者の者が口を挟む……つまり、越権行為になる。 そうなれば、ただでさえ覇王の名声を大事にする華琳が、自分を無視して反論したとなれば、どうなるか───容易に理解できる。 

 

(出来ない者が居る──などと突っこみをしてはいけない。 いいね?)

 

ーー

 

詠「──────!」

 

月「…………………詠ちゃん………」

 

───唇を噛み締め耐える者。

 

ーー

 

春蘭「〜〜〜〜〜〜〜!!」

 

 

ねね「恋殿っ! 離して下されぇ! 幾ら何でもヘボ主人が……無様過ぎます!!」

 

恋「ねね、殿中で………ござる」

 

ねね「……………ほぇ?」

 

恋「天の国………人を止める………方法。 ご主人様……教えてくれた」

 

ねね「……………れ、恋殿?」

 

ーー

 

───怒りで拳を握りしめ、殴り掛かろうとする自分を抑える者。 

 

ーー

 

秋蘭「…………………華琳様………」

 

 

冥琳「………………何か………何かある。 これには何か………」

 

───事態の推移を見守る者。

 

ーー

 

他の者も……必死に耐えた。 自分の現在の状況と、前の世界での関係との狭間で、必死に耐えた! 

 

─────だが

 

ーー

 

桂花「アンタ達は──馬鹿なのぉ!!?」

 

「「「「「 ───────!? 」」」」」

 

華琳「…………桂花?」

 

加賀「……………………」

 

ーー

 

一人だけ我慢せず、大粒の涙を流しながら………艦娘、主に加賀を糾弾する桂花の絶叫が響いたっ!

 

ーー

 

桂花「ハァッ、ハァハァハァ……………」

 

加賀「……………………」

 

桂花「アンタ達は、アンタはぁっ! 一刀が殺害されてぇ………悲しくないの? 後悔してないの? 苦しんでないのぉ!? ──どうなのよぉっ!?」

 

加賀「……………………」

 

桂花「アンタは知らないでしょうけどね……私達、この国の軍師達は、一刀を試したわ! 貴女達との絆を知る為に、あえて恫喝紛いの事を行った! だから、貴女の仲間は憤慨したわ。 だって、それが当然の反応だったからよ!」

 

加賀「……………………」

 

桂花「だけどねぇ……一刀は違った! 私達に謝罪しつつ、貴女達の中傷行為を止めるように申し出た! しかも、再び繰り返すのなら、私達より預かった真名を返すとまで宣言したのよ!? これが、どう意味だか理解できる!?」

 

加賀「……………………」

 

桂花「───アンタ達の事が! この国よりも……私達よりも………遥かに大事だった! 一刀は大事に思っていたのよっっっ!!!」 

 

加賀「……………………」ギュッ!

 

桂花「それなのに───長い間……待ち続けた私より、ずっと短い付き合いのアンタ達の方を心配したのにぃ! 何なのよ、その態度はぁ──っ!!」

 

加賀「……………………」

 

ーー

 

加賀は………ただ黙って、桂花からの罵声を受ける。 表情どころか、眉一つさえ動かさず………桂花の言葉を聞いていた。 

 

かの五航戦が見たら、『あぶぅ!?』と驚くほどの忍耐強さで耐えている。

 

ーー

 

桂花「アンタには──感情って物は無いの!? 一刀を失って……哀しむって感情は無いの!? ………良いわ! 黙っているのなら、黙っていなさい! だけど、私の前には現れないで! アンタの顔を見ると不愉快になるっ!!」

 

華琳「桂花………気持ちは分かるけど、今は止めなさい!」

 

ーー

 

桂花の悲しみの暴走を押さえたのは、当然ながら傍に居た、曹孟徳……華琳本人。 当の言われた本人が、自分の為に怒る臣下を止める……何とも滑稽な事になった……ように見える。

 

だが、日ノ本に伝わる──徳川家の謀臣『本多正信』の逸話には──

 

 

 

★☆★

 

とある事で、家康が激怒し、家臣を叱りつけた。

 

あまりの激怒に家臣が慄き(おののき)、附近の臣下達が止めようとするが、手が付けられない。 その時、横で控える正信が聞き付けて、家康の傍に寄る。 皆は、正信が止めてくれると思えば、一緒になって叱りつけ始める。

 

皆が驚き、唖然としていると……だんだん正信の怒る勢いが家康よりも上回り、臣下を剣幕激しく怒鳴りつけだした! それを聞いている内に、家康の方が冷静になり、正信を宥めて臣下を許したという。

 

つまり──主と同じように動き、それ以上に家臣を叱りつけたので、主の怒りが白けてしまい、怒る理由を無くしたという話である。

 

★☆★

 

 

 

では、桂花も同じ事を実行した──訳では無い。

 

華琳から制止の声が掛けられたのに、桂花は加賀を睨む事を止めない! 泣きながら、三白眼の強い眼差しを向けたまま!

 

───どうやら、本心だったようである。

 

だが、桂花は……同時に、華琳の記憶が蘇るのでないか………と期待したという。 左慈のショック療法が最大に発揮するのではないか──と。

 

 

 

 

 

たが──返ってきたのは、冷たい損得勘定に重きを置いた……あの華琳とは思えない……浅ましい言葉だった。

 

ーー

 

桂花「───しかし、華琳様っ!!」

 

華琳「だけど、北郷の配下である者が、遺体を引き取るのは当然よ?」 

 

加賀「……………………………」

 

華琳「───惜しい思える男だったわ。 命が長らえれば……私と覇を競う巨大な強敵になっていたのに……とっても……残念ね」

 

桂花「────な、何を?」 

 

華琳「聞こえなかったの? 死ねば、如何に天の御遣いと言えど、ただの人。 あの恐るべし智謀も、固い団結力を誇った艦娘を率いり、卓越した采配で戦場に轟いた勇名も、何も役に立たない。 早く消えてくれて良かったわ!」

 

桂花「────!?!?」

 

華琳「でも………フフフ、あの艦娘の中から、何名か引き抜き我が軍に参陣してくれれば、私の戦力は上回るわ! 特に、鳳翔や電と言う子が加入して貰えば………それから──加賀! 貴女も誘ってあげる! 私の方に付かない?」

 

加賀「……………お断りします」

 

華琳「そう………残念ね。 ならば、次に会うのは───戦場かしら?」

 

ーー

 

桂花は───華琳の言葉を聞いて、絶句したのだった。

 

 

◆◇◆

 

【 人の夢と書いて儚い の件 】

 

?  洛陽 都城内 予備室 にて ?

 

華琳は、一刀の身体を床に置くと、桂花に向き直る。

 

ーー

 

華琳「さて、天の御遣いの死は、国の極秘事項……とてもじゃないけど公には出来ないわ。 それくらい………貴女なら充分に判断できる筈よ、桂花? その影響力──計り知る事など不可能なのだから!」

 

桂花「華琳様! 一刀が……一刀が、殺されたのですよ!? それなのに………貴女は本当に思い出されないのですか? ………忘れてしまったのですかっ!? あんなに……心配され、夜空を見て泣いていた貴女が──!」

 

華琳「………知らない話ね。 私は、曹孟徳よ! 万民太平の世を創らんとする覇王! そのような、どこぞの町娘みたいな感情など持ち合せていない! 確かに諫言を許したけど、そのような妄想までとは──言っていないわ!」

 

桂花「───!! か、華琳様ぁぁ! ………貴女は…………」 

 

ーー

 

華琳の口から出た言葉に、声を失う桂花!

 

その顔は、驚愕の表情が映し出され…………そして、深い落胆へと移った。

 

自分の言葉は、確かに諫言とは程遠い………一人の男を巡る臣下を越えた女同士の絆である。 それは、桂花さえも──分からない程の過去の話。

 

───確かに、華琳の言い分は分かる。

 

一刀の影響は、様々な出来事を経て、不動の物となっているのだ。 その一刀の死は、一刀を慕う皇帝陛下、漢王朝の衰退、白波賊を勢い付かせる要因になろう。 まさに──大陸存亡の危機とも言える事態! 

 

だが、一刀の死により……蘇ると思った記憶も………変わらずのまま。

 

心の支えであった一刀と華琳の記憶復活……双方が絶望視となった今、桂花の望む未来は───全て絶たれた。

 

ーー

 

華琳「今は、この現状を如何に隠すかが優先の筈! そうではないの!? ───分かったのなら、早急に考えなさい! この北郷の死を偽装する策を────」

 

桂花「…………………………………せん!」

 

華琳「──聞こえないわ? もう一度、言いなさい!」

 

桂花「………貴女に………その資格など……ありません!」

 

華琳「───ど、どう言う意味っ!?」

 

桂花「………万民の幸せを願う者が、たった一人の死に対して………哀悼の意を表せない。 そのような事で、万民を幸せに出来るのでしょうか!?」

 

華琳「一人一人の要望を聞いては、政など成り立たないわ! 民の欲には限りは無い。 だから、私達が考えて実行し、万には万の幸福、全体的に満足するように、治世を収めなければならない! ───そうじゃなくて?」

 

桂花「確かに全体的に我らが収め、細かな事は民達の自主性に任せる。 これなら、国の運営はできます! しかし、華琳様──貴女は民達を人間として見ていない! 欲もありますが、情も恩誼も──恨みも知っています!!」

 

華琳「───────!?」

 

桂花「華琳様、貴女の仰る事は──立派です。 ですが、実際に行えば反乱の末、国が滅亡を迎える事でしょう。 民を人と思わない奢り、慢心、そして嘆きを聞き入れなかった、その代償として───」

 

華琳「何故、たった一人の命で、此処まで言われなくてはならないのよ!」

 

桂花「万人とは、一人が万まで集まって、初めてその数字に成り立つ物! それを一人を蔑ろにし、万人を一括りで平和にするなど……ただの暴論に過ぎません! そのような事も理解できない貴女に、覇王を名乗る資格は無い!!」

 

華琳「……………………!」

 

桂花「お別れです、華琳様! 貴女は、また……私を失望落胆させました。 貴女の中で………私の待っていた方は、居ないのですね?」

 

華琳「ま、待ちなさい!」

 

桂花「───これで、私の生きる望みは………全部消えました。 私も……………一刀の後を追います!」

 

ーー

 

華琳は驚きながら説得しようとするが、桂花に……迷いなど無い。

 

桂花は、華琳の問いに応えながらも後退し、扉の前へとたどり着く。

 

ーー

 

華琳「───待ちなさい、桂花」

 

桂花「………………さようなら、華琳様! 悲しき覇王! 貴女の理想は……既に地へ堕ちた! あの頃の魏の栄華は………もう、訪れないっ!!」ガチャ!

 

華琳「桂花───!!!」

 

ーー

 

桂花が扉を開けて飛び出し、華琳が呼び止めた瞬間!

 

目の前の景色が───瞬時に真っ白へと変化した!

 

ーー

 

華琳「桂花! ───えっ? な、何? 何が起きたのっ!?」

 

ーー

 

次の瞬間、華琳が見た物は────夢で見た……白い輝く服を着た少年との別れの場面だった。

 

それも、今度は───あの少年の名も──ハッキリと叫び、呼掛けている!

 

───『北郷 一刀』と!

 

 

★☆★

 

『……さようなら………誇り高き王』

 

『……さようなら……寂しがり屋の女の子』 

 

『……愛していたよ───華琳!』

 

 

─────────

 

華琳「出てきなさい、出てきなさいよ! ………正直に出て来れば、許してあげるから! …………か、かずと! …………かずと!? かずとぉぉぉっ!!」

 

─────────

 

華琳「───本当に、本当に………消えてしまったの? かずと、貴方が言ったのよ! 私が……寂しがりやだって……!! それなのに……私を置いて──どうして消えるのよぉ!! 馬鹿、馬鹿ぁ、馬鹿ぁぁぁぁぁっ!!!」

 

────────

 

華琳「───『北郷一刀』──の馬鹿ぁぁぁっ!!!!」

 

★☆★

 

 

??「────っ! 華琳様、しっかりして下さいっ! 華琳様!」

 

華琳「…………かず……と。 かず…………えっ?」

 

そこまで見た後、誰かに身体を強く揺さぶられ正気に戻った。 いや、過去の記憶と今までの記憶が合わさり、意識の混濁が見て取れる。 

 

現実が夢か、夢が現実か………正に『胡蝶の夢』のような状態だった。

 

ーー

 

華琳「ここは……? それに………私は?」

 

秋蘭「…………覚えておいででは……ないのですか!? 桂花を追い掛けたと思われたら、急に立ち止まり………そのまま私が、お声を掛けるまで………!」

 

華琳「ん…………そ、そうだわ! 一刀………と桂花は!? 二人はどうなったの!? 私は………悪い夢を見ていたような………」

 

秋蘭「…………残念ながら………現実です。 この通り───」

 

華琳「──────!?」

 

ーー

 

気が付けば……そこは先程、桂花を追い掛けた場所。 そして、そこには、胸を真っ赤に染めて倒れ伏している一刀! 

 

その風景を見て、華琳の記憶は、過去の記憶と先程までの記憶が合わさり、正気に戻る。 

 

ーー

 

華琳「か、一刀? もしかして──北郷………一刀?」

 

一刀「…………………………」

 

華琳「─────か、一刀っ!?」ガタッ?

 

ーー

 

床に一刀が横倒れているのに気付くと──急いで一刀の傍に近寄り、手を差しのべる! 小刻みに震える手で一刀の顔に添えると、華琳は顔を近付けた。

 

 

華琳「貴方……………だったのね? 天の御遣いって…………」

 

 

つい先程まで、何も知らずに語りあった天の御遣い。 艦娘を率い策を縦横に巡らす将かと思えば、人の心を常に気遣う心優しき青年。

 

あの時に別れた……思い出の姿と重なって見えた。

 

幾年待ったのかも……最早曖昧。 されど………あの別れより待ち続けた『北郷一刀』の姿は───忘れる事は無かった。 

 

 

華琳「…………一刀………ごめんなさい………!」

 

 

 

そして、一刀の顔に自分の頬を寄せ、涙を流しながら呟いた。

 

 

◆◇◆

 

【 意外な人物 の件 】

 

? 洛陽 都城内 予備室 にて ?

 

華琳は、他の恋姫達が見守る中、加賀……そして艦娘達に謝罪をした。

 

自分に記憶が無かったとはいえ、どれだけ酷い事を言ったのか、自覚している。 愛する者の不幸を嘲笑い、その仲間を切り離そうとした。 

 

自分に置き換えれば、一刀が……華琳の死を嘲笑い、『春蘭と秋蘭……どちらかを登用するから来ないか?』と誘うようなもの。 

 

華琳は少しだけ考えたが、その浅ましくも情けない行動に、怒りと哀しみが湧き上がる。 

 

───『自分は、覇王としての立場を……何処で間違えたのか?』

 

そう考えた故の行動。 幸いにして、加賀や艦娘達よりは……赦しを貰った。

 

そして、まだ………幾ら謝罪しても謝罪足りない一刀に対し、華琳は再度跪き……床に倒れたままの一刀の手を握りしめて、語り掛けた。

 

ーー

 

華琳「…………帰って来てくれたのに………気付かなくて、ごめんなさい。 本当に……ごめんなさい。 許してね……一刀! もっと……もっと早く、気付いて居れば………!!」

 

秋蘭「華琳様………桂花の後は……姉者が追い掛けています!」  

 

華琳「……………そう、解ったわ。 ならば、私が行ってくるから………一刀の事、お願いね? 桂花を傷付けたのは私、この曹孟徳の責! ならば、私が謝罪をして連れて帰るのが筋よ。 だから──迎えに行ってくるわっ!」

 

秋蘭「────華琳様」

 

ーー

 

華琳は、秋蘭に言葉を掛けた後……一刀の手を静かに床へ寝かせる。 

 

そして立ち上り、傍に居る秋蘭から桂花の様子を聞いて、自分自身が迎えに行く事を伝えた。

 

桂花が持っていた想いを………散々踏み躙った自分を思いだし、その罪を赦されるには、自分が直に桂花へ謝罪するしか無い事を、知っていたからだ。

 

そして、華琳は最後に……………もう一度、一刀に語り掛けた。 

 

今度は悲壮感の無い、まるで───普通の会話でもするかのような様子で。

 

ーー

 

華琳「……………一刀、桂花と帰って来たら……二人貴方の傍で泣かせて貰うわ。 勿論、気が済むまでね? 本当は………貴方が帰還できた喜びの涙を流したかったけど、それは無理。 これじゃ……悲しみの涙しか出て来ないもの……」

 

秋蘭「…………………………」

 

華琳「だって………私達を散々待たせたのだから、これくらい困らせたっていいでしょ? 私達だって………悲しいのよ! ………なんで、もっと早く思い出されなかったのかしら? そうすれば───」 

 

「「「「「 ………………… 」」」」」

 

ーー

 

周りの者には、気のせいか……少し拗ねているようにも聞こえる……華琳の言葉を聞き、静かだった周りの雰囲気が、更に重たくなった。

 

だが、そんな重苦しい雰囲気を、人垣の外から叫ぶ男の声で──破られた!

 

ーー

 

??「───野次馬共は、そこを退けぇえええっ!!」

 

「「「「「 ──────!? 」」」」」

 

 

華琳「───左慈っ!? 貴方、どこに───」

 

左慈「ふん! コイツらを捜すのに、少し手間取っただけだ!」 

 

 

華陀「───話は全部、左慈より聞いている! 俺の名は華陀! 一刀の親友であり、医者だ! ………直ぐに『診察』するから、そこを通してくれないかっ!?」

 

卑弥呼「わしの名は、謎の巫女兼だぁーりんの忠実なる助手──卑弥呼! ふむ、何とも………皆が皆、悲劇の『ひろいん』の顔をしておるわい……」

 

「「「「「 …………………? 」」」」」

 

ーー

 

今、現れた者の自己紹介など………最早、不要だろう。

 

驚く恋姫達を左右に移動させ現れたのは、華陀と卑弥呼! そして、その先頭に着いて導く者は───左慈。

 

そして──この場所に、前の世界でも有名だった『医者』が現れた事に、期待半分、恐れ半分で様子を窺う恋姫達!

 

ーー

 

秋蘭「……………あの名医『華陀』か? だか、如何に名医と言えど、命を失った者を蘇生する事など───」

 

左慈「………残念だったな? 北郷は生きてる! ………そうだな、加賀?」

 

加賀「………そうですね。 間違いありません!」

 

「「「「「 ───────!? 」」」」」

 

ーー

 

華琳「──────ど、どういう事なのっ!?!?」

 

左慈「………ショック療法さ……」 

 

秋蘭「それは……桂花の言っていた、華琳様の記憶の件──か?」

 

左慈「それもある………だが、他にも蠢く輩が居る。 だから、炙り出して様子を見た結果に過ぎん。 深海棲艦もそうだが、他の奴も………な?」

 

ーー

 

そう言って、左慈は──この一件は、『一刀と艦娘、管理者達が張り巡らした罠』である事を説明するのだった。

 

 

◆◇◆

 

【 怒りの艦隊出撃 の件 】

 

? 洛陽 都城内 予備室 にて ?

 

自分達の指揮官が倒れたというのに………艦娘達は、誰一隻たりとも一刀の側に行かない。 あの……一刀の身を心配していた磯風や川内でさえも……だ。

 

嘆き悲しんで立ち竦んでいるかと思えば、そうではない。

 

部屋の隅に隠していた艤装を取り出し、各々が点検を行う。 磯風は、既に艤装を着装し、部屋の窓を開けて何かを待っている。

 

そして、華陀が到着した時に、外より待っていた物が飛来した!

 

ーー

 

磯風「…………………むっ? 来たか!」

 

ーー

 

磯風の頭上からプロペラ機の音が響き、眩しそうに見上げれば………一機の『九六式艦戦』が飛び回っている。 その様子を確認して、急いで手を差し伸ばすと、艦戦が紙の依り代へと戻り、掌にフワリと落ちた。

 

磯風が、急いで確認すると───そこには。

 

 

『アブラムシ ミツケタ! ナカチャンダヨー!』

 

 

依り代に符丁が書いてある。 

 

いや、符丁と呼んでいいのか、符丁に対して失礼ではないか………と思えるが、それはこの際おいておこう。

 

とりあえず、そのような文が書いてあるのを見た磯風は………我が意を得たりとばかりに、顔に笑みを浮かばせた!

 

ーー

 

磯風「…………………よしっ! 敵艦が掛かった!」

 

「「「─────!」」」 

 

ーー

 

磯風の突然の声に──恋姫側が驚き、艦娘側に緊張が走るっ!

 

磯風は、周辺の様子を無視し、準備を整えた艦娘達に命令を与え、艦隊編成の準備を命じた! 

 

ーー

 

磯風「この磯風が旗艦となり、艦隊を率いる! 編成は第七駆逐隊、川内、神通、計七隻! 陣形は単縦陣! 異論は一切認めぬぞ!!」

 

 

朧「出撃ですね………提督、見ていて下さい!」

 

曙「いいわよ、蹴散らしてあげるっ!」

 

潮「───はいっ!」

 

漣「激おこプンプン丸の漣が通るよ〜! 触れたら火傷『私に……喧嘩でも?』……あぅ、加賀さんの事じゃないですぅ! もう、神経過剰なんだから……」

 

川内「夜戦じゃないけど、今の私は……殺る気満々だからね!」

 

神通「姉さん………字が。 いえ………私も同じですから……」

 

 

磯風「では──磯風艦隊、抜錨せよ! 敵捕捉地点は、頭上を飛ぶ『九七式艦爆』が案内してくれるぞ! 敵艦は一隻と言えど油断するな! 先に先行している艦隊と合流して、包囲せよ!」

 

「「「「─────おうっ!」」」」

 

磯風「後は任せたぞ、陸奥! 司令の蘇生処置を頼む! 磯風艦隊は、司令を射った不届き者を、必ず轟沈して思い知らせてやる!」

 

陸奥「気を付けなさい! 相手は狡智に長けた者よ……もしかしたら、これが伏兵の可能性があるわ。 まさかと思うけど、相手方に戦艦が居れば貴女達でも勝てない。 無理は絶対に止めなさい!」

 

磯風「…………司令を悲しませる顔などさせん! 吉報を待っていろ!!」

 

ーー

 

磯風は、陸奥と敬礼を交わすと、隊を率いて向かって行った。

 

 

ーーーーーーーー

 

あとがき

 

最後まで読んで頂き、ありがとうございます!

 

今回は話を作るのに、時間が掛かるわ、考えていた内容に、更なる捻りを加えるてみたりと………いろいろ試行錯誤した結果です。

 

実際に、原作の別れの名シーンから、こうして再会させる話というのは、本当に難しい物だと感じました。

 

納得されない方もいらっしゃると思いますが、今の作者が出来る……精一杯の華琳の様子です。 

 

これ以上は、無理ですので。

説明
まだ、話が続きます。
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コメント
雪風提督 コメントありがとうございます! 次回か、その次にでも……(いた)
ひとつ間違えば即失敗の策・・・。一刻でも早く桂花を・・(雪風)
スネーク提督 コメントありがとうございます! こんな桂花は、多分そうそう居ないと思いますw そろそろ御褒美の準備もしなくては。(いた)
なんだか、本当に桂花は変わったなぁ…( ▼ω?)シミジミ(スネーク)
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