英雄伝説〜焔の軌跡〜 リメイク 改訂版 |
〜深夜・エルベ離宮〜
「本当に……申しわけありませんでした。私が不甲斐なかったばかりにこのような苦労をおかけして……。出来ることなら、至らぬ我が身をこの手で引き裂いてやりたかった……」
ユリア中尉はドレス姿のクローディア姫――――クローゼ・リンツに申し訳なさそうな表情で謝罪し
「そんなこと言わないでください。お互い、こうして無事に再会できただけでも嬉しいです。助けにきてくれて……本当にありがとうございました。」
ユリア中尉の働きを称するかのようにクローゼは微笑みながら答えた。
「殿下……」
「えっと、感動してるところをちょっと悪いんですけど……。なんでジークがここにいるの?」
「ピュイ?」
エステルの疑問を聞いたユリア中尉の肩に止まっている白隼―――ジークは首を傾げた。
「はは、ジークは殿下の護衛であると同時に、親衛隊の伝令係でもあるんだ。君たちのホテルにも手紙を届かせただろう?」
「あ……あの夜の!」
「やっぱりそうだったんですか。それでは、女王陛下の依頼をユリアさんが知っていたのも……」
「ああ、女王宮の陛下から直接、ジークを介して教えていただいた。だが、殿下がいたあの広間にはジークの侵入できる窓が無くてね。連絡できなくて本当に心配したよ。」
「へ〜、じゃあその鳥は伝書鳩役なのか。」
「うふふ、お兄様、この場合は”伝書隼”って言うべきでしょう?」
「前の職場に一羽でもいたら、滅茶苦茶便利だったろうな……」
ジークの説明を聞いていたルークは目を丸くし、レンは小悪魔な笑みを浮かべて羨望の眼差しのフレンと共にジークを見つめ
「うむ。賢く育てられているな。」
「それにその子から、その人とクローディア姫が”大好き”って気持ちが伝わってきます。」
バダックは感心した様子でジークを見つめ、アリエッタは微笑ましそうにジークを見つめた。
「ピュイ!」
そしてアリエッタの言葉に反応するかのようにジークは嬉しそうな表情で鳴き声を上げ
「ふふ、『ありがとう』って言ってます。」
ジークの感情を読み取ったかのようにクローゼはアリエッタに微笑んだ。
「そういえば気になっていたんだけど……その人って、誰?」
「見た所、七耀教会のシスターのようですが………」
アリエッタの素性がわからないエステルは首を傾げ、ヨシュアは不思議そうな表情で尋ねた。
「―――アリエッタ・タトリン。”星杯騎士”、です。」
「ふえ??」
「せ、”星杯騎士”……?」
「えっ!貴女があの”星杯騎士団”に所属する七耀教会の騎士なのですか……!?」
アリエッタが名乗るとはエステルとクローゼは戸惑い、ヨシュアは驚き
「確か古代遺物(アーティファクト)を秘密裏に回収している七耀教会の裏組織だったか?」
心当たりがあるジンは尋ねた。
「ええっ!?」
「古代遺物(アーティファクト)……!」
「し、七耀教会にそんな組織が………し、しかし、何故その”星杯騎士”の方が我々に力を貸してくださっているのですか?」
ジンの話を聞いたエステルとクローゼは驚き、ユリア中尉は信じられない表情になった後すぐに気を取り直して尋ねた。
「アリエッタ、任務でロレントに訪れた時にイオン様やルーク達と共に、特務兵と戦いました。その時に特務兵、古代遺物(アーティファクト)を利用しようとしている事、口にしましたから、アリエッタ、イオン様の代わりにルーク達を手伝っている、です。」
「ルーク兄達がロレントで特務兵と戦った!?」
「一体どうしてそんな事に?」
アリエッタの説明を聞いたエステルは驚き、ヨシュアは真剣な表情で尋ねた。
「うふふ、パパの動きを封じ込める為にママを人質にしようとカノーネ大尉率いる特務兵達がレン達のお家の近くまでやってきたから撃退したのよ。」
「あ、あんですって〜!?」
「確かに情報部にとってカシウス大佐は真っ先に封じ込めたい相手でしょうからね……」
「ええ………」
「それで母さんの身は?」
大好きな母親が狙われた事をレンが口にするとエステルは怒りの表情で声を上げ、ユリア中尉の推測にクローゼは静かに頷き、ヨシュアはレナの安否を尋ねた。
「ちゃんと守り切ったから大丈夫だぜ。」
「しかも今もカシウスさんの手配によって”暁”のアーシアがレナさんを守っているわ。」
「”暁のアーシア”??」
シェラザードの説明を聞いたエステルは首を傾げ
「数年前に現れた凄腕の遊撃士だ。確かあんた――――”不屈”のフレンがサポートしている女性遊撃士だよな?」
「ああ。俺はロレントを離れられないアーシアの代わりにお前達を手伝いに来たんだ。」
エステルに説明をしたジンに尋ねられたフレンは頷いた。
「そうなんだ………ところで、特務兵たちはもうほとんどやっつけたの?」
「離宮に詰めていた部隊はほとんど拘束することができた。しかし、グランセル城内にはまだ相当数が残っているはずだ。」
「各地の王国軍も、いまだに情報部のコントロール下にある。下手をしたら、反乱軍としてこの場所を鎮圧されかねないわ。」
「うわ……。そこまでは考えてなかったわね。」
「そうですね……。クローゼだけでも、別の場所に避難させた方がいいかもしれません。」
「………………………………」
未だ予断を許さない状況にエステルは驚き、ヨシュアの提案を聞いたクローゼは何も答えず考え込んでいた。
「ならば、エレボニア帝国か共和国の大使館に保護を求めてはどうかな?大使館内は治外法権……。簡単に手出しはできないからね。」
「さっきの作戦で鹵獲(ろかく)した飛行艇で亡命する手もあるな。根本的な解決にはならんが、時間を稼ぐにはちょうどいい。」
「王都の七耀教会に隠れる手もある、です。王都の教会なら、特務兵には見つからない部屋もあるです、から。アリエッタが、教会の責任者に口利き、します。」
「そうだな……。どうお逃がしするべきか……」
オリビエ、ジン、アリエッタの提案を聞いたユリア中尉はクローゼの身柄を今後どうするか考え込んでいた。
「……………………………。あの……みなさん。この状況で、私が遊撃士の皆さんに依頼をすることは可能でしょうか?」
その時黙っていたクローゼは決意の表情でその場にいる遊撃士達全員に尋ねた。
「え……」
「人質救出のミッションは完了したから大丈夫だと思うよ。もちろん、依頼内容にもよるけどね。」
「でしたら……無理を承知でお願いします。王城の解放と、陛下の救出を手伝っていただけないでしょうか?」
「で、殿下……」
クローゼの依頼を聞いたユリア中尉は驚いた。
「そっか……そうよね。今度は女王様を助けないと!」
「正直言って、その話にはなるんじゃないかと思ったぜ。だが、姫殿下……その依頼はかなりの難物だ。」
「そうね……。ここにいる戦力を全員集めても正面から落とすのは不可能だわ。」
「少数で城を落とす作戦等、愚の骨頂だからな。」
一方エステルは納得した様子で頷いたが、現状の戦力をジンとシェラザード、バダックはそれぞれ真剣な表情で考え込んでいた。
「あの飛行艇を使えば可能性はあると思いますが……ただ、よほど上手い仕掛けが必要になりそうですね。」
「ああ、しかも今回の件でむこうも奇襲を警戒しているから2度目は通じねえぜ。」
ヨシュアの推測を聞いたフレンは頷いた。
「……私に考えがあります。皆さん、これを見て頂けますか?」
その時、クロ―ゼは一枚の古い地図を出した。
「これって……どこの地図?」
「王都の地下水路の内部構造を記した古文書です。これに、王城地下に通じる隠し水路の存在が記されています。」
その後ルーク達はグランセル城解放と女王救出作戦の内容を話し合い始めた。
〜グランセル城内〜
「ど、どういう事ですの!?『エルベ離宮』との連絡が途絶えてしまっただなんて!」
一方その頃、カノーネ大尉はエルベ離宮と連絡できない事を自分に伝えたロランス少尉を問いただしていた。
「親衛隊か遊撃士……。どちらかに落とされた可能性があると言うことかな。」
「ぬ、ぬけぬけと……。連中を指揮していたのは少尉、あなたでしょうに!」
非があるにも関わらず、全く反省していない様子のロランス少尉に怒りを抱いたカノーネ大尉はロランス少尉を睨んだ。
「これは面目ない。だが、済んでしまったことはとやかく言っても詮(せん)無きことだ。この上、陛下まで奪われぬよう城の守りを固めるべきだろうな。」
「い、言われなくてもわかっていますわ!」
そしてロランス少尉に言われたカノーネ大尉は整列している特務兵達に指示をだした。
「城門を完全封鎖!誰が来ても入れないように!以後は、空からの襲撃にのみ備えることにしなさい!」
「了解しました!」
「それと、各地の部隊に連絡してエルベ離宮に向かわせること!名目は、王族を騙(かた)ったテロリスト集団の鎮圧です!」
「イエス・マム!」
「ふふ、見事なお手並みだ。」
「フン、当然でしょう。新参者のあなたとは違います。……閣下の留守はわたくしが絶対に守りますわ!」
特務兵達が行動を開始している中、ロランス少尉に感心されたカノーネ大尉は不愉快そうな表情で答えた。
そして翌朝、離宮内では作戦開始までの最後の確認の会議が行われていた。
〜翌朝・エルベ離宮〜
「これよりグランセル城解放と女王陛下の救出作戦を説明する。まずはヨシュア殿以下4名が地下水路よりグランセル城地下へと侵入。親衛隊の詰所へと急行し、城門の開閉装置を起動する。」
「了解しました。」
「ま、でかい花火の点火役ってところだな。」
「ま、俺達に任せておきな。」
「フフ………いずれにせよ第1章の最終幕の幕開けには違いない。」
ユリア中尉に視線を向けられたメンバー――ヨシュア、ジン、フレン、オリビエはそれぞれ頷いた。
「城門が開くのと同時に我々、親衛隊全員と遊撃士6名が市街から城内へ突入。なるべく派手に戦闘を行い、敵の動きを城内へと集中させる。」
「うむ。今こそ『獅子王』の力、存分に震わせてもらおう。」
「ああ、任せてもらおう。」
「襲って来る奴等全員、制圧してやろうぜ!」
「よっしゃ、腕がなるぜ!」
「ま、あたし達に任せな。」
「私はこの中では実力不足かもしれないけど……精一杯頑張らせてもらいます!」
次に視線を向けられた遊撃士達―――バダック、クルツ、ルーク、グラッツ、カルナ、アネラスはそれぞれ力強く頷いた。
「そして最後に………………殿下、やはり考え直して頂けませんか?」
守るべき主までもが危険な作戦に参加する事に賛成できないユリア中尉は辛そうな表情で学生服に着替え、ウィッグを外し、帯剣しているクローゼを見つめて尋ねた。
「ごめんなさい……お祖母様は私が助けたいんです。それに私は一応、飛行機の操縦ができますから………どうか作戦に役立てて下さい。」
「くっ………こんな事なら、操縦方法などお教えするのではなかったか………」
「まあまあ、ユリアさん。クロ―ゼのことならあたし達に任せておいて。」
「『銀閃』の名に賭けて必ずやお守りすることを誓うわ。」
「うふふ、レンも本気を出してお姫様を守るから大丈夫よ。」
「アリエッタも頑張りますから、安心して、下さい。」
守るべき主が参戦できる理由を作ってしまった自分の不甲斐なさに悔しがっているユリア中尉を慰めるかのように、クローゼに同行するメンバーであるエステル、シェラザード、レン、アリエッタはそれぞれ声をかけた。
「わかった………どうかお願いする。城内に敵戦力が集中した直後、エステル殿以下5名のチームが特務飛行艇で空中庭園に強行着陸。しかる後、女王宮に突入してアリシア女王陛下をお助けする。」
「了解ッ!!」
「作戦決行は正午の鐘と同時ーーそれまで待機位置についてくれ。それでは各員、行動開始せよ!」
「イエス・マム!!」
ユリア中尉の叱咤激励に全員は答えた後、各自装備の点検などを行った後、第一陣であるヨシュア達がエルベ離宮から去ろうとし、エステル達はヨシュア達を見送ろうとしていた。
「……ヨシュア、気を付けてよね。くれぐれも無理しちゃダメなんだから。」
「うん、気をつけるよ。だから、君の方もくれぐれも先走らないように。自分の力を過信しないでシェラさんたちと協力すること。」
「うん………分かってる。なんといっても例の約束だってあるもんね!お互い、元気な姿でグランセル城で会いましょ!!」
「うん………必ず!」
(あら♪エステルとヨシュア、もしかしてあれから進展したのかしら♪なんとなく雰囲気が前よりさらに仲良くなった気がするわ♪)
二人が無意識にさらけ出す雰囲気を感じ取ったレンは小悪魔な笑みを浮かべた。
「ヨシュアさん。隠された水路にはどんな魔獣がいるか判りません。どうか気を付けて下さいね。」
「わかった、ありがとう。くれぐれも気を付けるよ。」
「エステルの事は心配しなさんな。あんたと今まで旅して色々と成長したみたいだからね。遊撃士としてだけじゃなく女としても、みたいだけど♪」
「シェ、シェラ姉………」
シェラザードの言葉を聞いたエステルは顔を赤らめ
「クスクス、一体どんな事があってあのエステルがレディらしくなったのかしらね?」
「あ、あんですって〜!?」
からかいの表情で言ったレンの言葉に反応し、ジト目でレンを睨んだ。
「??なあ、レン。なんでエステルは照れているんだ?」
その時訳がわからないルークはレンに尋ねたが
「男であるお兄様はわからなくていいの。い・い・わ・ね!」
「お、おお………」
威圧を纏った微笑みを浮かべたレンに圧されて頷き
「やれやれ……やはりまだまだ小僧だな。」
「鈍感、です。」
その様子を見ていたバダックとアリエッタはそれぞれ呆れ
「ったく、この非常事態に何とも頼もしいガキどもだぜ。」
「はは、まったくだな。」
エステル達に頼まれて情報部の動きを探っていた為、特務兵に囚われ、クローゼや他の人質達と共にエルベ離宮に監禁されていた”リベール通信”の記者―――ナイアルの苦笑しながら言った言葉にジンは口元に笑みを浮かべて頷いた。
「さて、俺達はそろそろ行こうか。」
「また会おう、仔猫ちゃんたち♪」
「じゃあな。お前達も頑張れよ!」
「女神(エイドス)の加護を!」
そしてジンに促されたヨシュア達はそれぞれ応援の言葉をエステル達にかけた後、去って行った。
「さてと、俺達も先に向かったユリア中尉を追おうぜ、バダック。」
「ああ。―――ナイアルと言ったな?王都に帰るのならばついでに護衛していくが?」
「そりゃ助かるぜ。あの”焔”と”獅子王”が護衛にいたら怖いものなしだぜ。」
バダックの申し出を聞いたナイアルは口元に笑みを浮かべたが
「わかっているとは思いますが、アリエッタ―――”星杯騎士団”の事、くれぐれも記事にしないで、下さい。もし記事にしたら、わかっていますね?」
「あー、はいはい。”星杯騎士団”を公にしたら俺どころか”リベール通信”に働いている連中やその家族が七耀教会の庇護を今後一切受けられないなんて脅しにはさすがに屈するしかねえだろうが。ったく、聖職者が脅迫とか、七耀教会も一枚岩じゃねえな……」
アリエッタの忠告を聞いて不満そうな表情で答えた後呆れた表情でぼやきながらエルベ離宮から去り
「それじゃあ、そっちも頑張れよな!」
「武運を祈っているぞ。」
「うん!」
ルークとバダックはそれぞれエステル達に応援の言葉をかけた後ナイアルの後を追って行った。
そして数時間後、正午の鐘が鳴ると親衛隊と遊撃士達による反撃作戦が開始された………!
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