英雄伝説〜焔の軌跡〜 リメイク 改訂版 |
〜エレボニア帝国南部・廃村〜
「あ………」
「どうやら小僧達が勝ったみてえだな。」
「ったく、とんでもない戦いだったぜ……正直、どいつもこいつも”化物”みたいな強さじゃねえか。」
戦いを見守り、ヨシュア達の勝利を見届けたジョゼットとドルンは明るい表情をし、キールは疲れた表情で溜息を吐いた。
「クク……ハハ……ハハハハハハッ!次はこの傷を癒してもっと強くなってから、貴様ら全員を血祭りに上げてやろうっ!ハーッハッハッハッハ!!」
その時全身から血を流しているバルバトスは狂気の笑みを浮かべて笑いながら暗黒に包まれようとし
「逃がすかっ!魔神剣・双牙!!」
暗黒に包まれようとするバルバトスを見たジューダスは剣と小剣をそれぞれ振るって衝撃波が発生させてバルバトスに命中させようとしたが、一足遅くバルバトスは暗黒に包まれ、姿を消した!
「き、消えた………」
「な、何だったんだ一体……?」
「とりあえずは危機が去ったって事でいいんじゃねえか?」
バルバトスが消える様子をジョゼットとドルンは呆けた様子で見つめ、キールは安堵の表情で溜息を吐いた。
「…………………」
「チッ、仕留め損ねたか。逃げ足が速いのも相変わらずだな。」
(坊ちゃん。とりあえず今は一体どういう状況なのか確認すべきでは?)
一方ソフィとジューダスはそれぞれの武具を収め
「…………………」
その様子を黙って見続けていたヨシュアは先程の戦闘で二人の戦闘力が自分が知る強敵達とも渡り合えるレベルだと瞬時に判断し、自らの”目的”を達成する確率を上げる為に二人に話しかけた。
「ジューダスさんにソフィさん、でしたね?先程のバルバトスという名の男との戦いでは本当にありがとうございました。援護するつもりが逆に助けられてしまいましたね。」
「ううん、貴方の加勢もすごく助かった。ありがとう。」
ヨシュアの感謝の言葉を聞いたソフィは首を横に振って答えた後微笑み
「フン、バルバトスに挑む等無謀としか言いようがないぞ。」
(またそんな事を………手伝ってくれたのですから、お礼ぐらい言ったらどうですか、坊ちゃん。)
ジューダスは鼻を鳴らし、ジューダスの腰の鞘に収めてある剣はジューダスだけに聞こえる念話を送った。
「……さっきの男―――バルバトスの事、貴方は知っているようだけど……あの男は一体何なの?」
「そうだな………奴を一言で言い表すなら、”英雄”を憎み、強者との戦いを楽しむ”狂戦士”だ。色々と理由があり、僕は仲間達と共に何度も奴と剣を交えた。状況から考えて死んだと思っていたのだがな………まさか生きているとは。」
「”狂戦士”………(ヴァルターと同じタイプか………厄介だな。)」
ソフィの疑問に答えたジューダスの答えを聞いたヨシュアは考え込み、新たな強敵の登場に気を引き締め
「僕の方こそ聞きたい。一体どこで奴と会い、剣を交える事になった。」
「……あの男は突然私の故郷に現れて暴れて、私は故郷や家族を守るためにあの男と戦っていたんだけど……その時にあの男と一緒に光に包まれてこの場所に転移してきたの。」
ジューダスの疑問にソフィは答えた。
(坊ちゃん、とりあえず今はこの場所の事を誰かに聞いた方がいいのでは?あの黒髪の少年達は最初からこの場所にいましたから、ここの事も知っているでしょうし。)
「………おい、そこの黒髪のお前。ここは一体どこだ。」
その時ジューダスはヨシュアに視線を向けて尋ね
「………………………………。……『ハーメル』。かつてエレボニア帝国南部に存在する村で今は廃村となった村です。」
尋ねられたヨシュアは考え込んだ後静かな口調で答えた。
「エレボニア帝国だと?聞いた事もないぞ、そのような国名は。まさか僕が知っている時代よりも過去か未来の時代なのか……?」
聞き覚えのない国名を耳にしたジューダスは眉を顰めて考え込んでいた。その後ヨシュア達とジューダスとソフィは互いに軽い自己紹介をし合い、それぞれが知っている知識の国や世界の常識を言い合うとジューダスとソフィがいた世界はそれぞれ違う事が判明した。
「馬鹿な……異世界だと………?まさかフォルトゥナが蘇って歴史を改変―――いや、カイルが”アレ”を破壊し、フォルトゥナの分身であるリアラが消える瞬間もこの目で見たのだから奴が蘇っている事は”絶対にありえない”な。第一崇められている”神”の名前も違う上、世界の在り方を考えるとフォルトゥナやエルレインの性格からして、今の状況のような世界に改変する事自体、絶対にありえないな。しかしそうなると、一体何故僕やシャルが生き返ったんだ……?」
(理由はよくわかりませんけど、またこうして坊ちゃんと再会でき、坊ちゃんが生きているだけでも僕は嬉しいですよ!それに異世界ですから坊ちゃんの過去は全く知られていませんから、いいじゃありませんか!ここから坊ちゃんの人生をやり直しましょうよ!)
自分が今いる世界が全く異なる事を知ったジューダスは目を見開き、ジューダスの剣―――シャルティエは嬉しそう様子でジューダスに念話を送り
「2度も死んだ………いや、裏切者のこの僕が人生をやり直す……か……………」
シャルティエの念話を聞いたジューダスは複雑そうな表情で小声で呟いた後黙り込み
「エフィネアに……ラントに帰る方法を探さないと。」
ソフィは静かな表情で墓石の背後に見える景色を見つめて呟いた。
「い、異世界って……」
「あ、ありえねえ。俺達、夢でも見てんのか?」
「お、おいおい、どうなってんだよ、これは……?」
一方ジョゼット達は戸惑いや驚きの表情でジューダスとソフィを見つめ
「……………ジューダスさんにソフィさん。もしよければしばらく僕達と一緒に行動しませんか?」
「ヨ、ヨシュア!?」
「おい、一体何を考えてんだ?」
ヨシュアの提案を聞いたジョゼットは驚き、キールは眉を顰めて尋ねた。
「話に聞くところお二人とも、僕達がいるこの世界―――ゼムリア大陸で活動する際、色々と不都合が出てくると思います。ですので僕達にしばらく力を貸して頂く代わりに、僕が僕が知る裏ルートを使ってお二人の偽の戸籍等も作り上げます。―――どうですか?」
「つまり私達がこの世界で活動しやすくする為に少しの間だけ私達があなたに力を貸す、という事?」
「……………その前に一つ聞かせろ。僕達を利用して、一体何を企んでいる。」
ヨシュアの提案を聞いたソフィは訊ね返し、ジューダスは警戒の表情でヨシュアを睨んで訊ねた。
「……………――――僕が敵対している裏組織の『計画』の妨害や拠点に潜入する際の手伝いを少しだけして頂くだけです。勿論それまでに多くの危険が付きまとうでしょうが、お二人の腕なら大丈夫でしょうし、危険がつきまとう分こちらもその分の働きはさせてもらうつもりです。」
(坊ちゃん、とりあえずは申し出を請けておいた方がいいんじゃないですか?さすがに今まで知っていた世界とは勝手が違う訳ですし。ここは事情を知っている人達と一緒に行動すべきですよ。)
「………フン、いいだろう。とりあえず少しの間だけ力を貸してやる。」
「……私もいいよ。まずはどこに向かうの?」
「リベールへ―――見えざる影に覆われた大地へ。」
こうしてジューダスとソフィを仲間に加えたヨシュア達はそれぞれの目的の為に、リベールへ向かう事になった。
(一体どいつが何の為に僕を再び蘇らせたのかわからないが……僕は僕自身の信念で動く。蘇らせた事を盾にして僕を”駒”扱いして、自分の思い通りに動かせると思って蘇らせたのなら、大間違いだ。)
ヨシュア達と共に廃村を後にするジューダスは決意の表情で空を見上げた後歩き出した。
大丈夫………アはそんなつもりであなたを………ないから………貴方もいつか”幸せ”に………
そして廃村には謎の少女の声だけが響き渡った。
一方その頃、リベール王国の商業都市―――ボース市にてボース市長と共に市内を歩いている人物―――ジューダスにとってはゼムリア大陸に存在していること自体が”ありえない”人物にして、心の奥では再会を願っていた人物に突如頭痛が襲って来た。
〜リベール王国・ボース市内〜
「………!?(今の黒髪の人は一体……?)」
ボース市内で腰までなびかせる黒髪の若い女性のメイドは突如襲って来た頭痛と共に頭の中には黒髪の少年―――ジューダスの顔が浮かび上がり、立ち止まった。
「……マリアン?どうしたのかしら?」
その時女性ながらボース市長を務めるメイベルが心配そうな表情でメイドを見つめた。
「いえ、今何かを思い出しかけた気がしたんですけど……気のせいでした。」
「そう………失った貴女の過去の記憶が少しでも戻ったらよかったのにね。1年前、屋敷の前に倒れていた貴女は自分の名前―――”マリアン・フュステル”しか覚えていなかったし………」
「はい……私を拾って頂き、そのまま私を雇って頂いた事には今でも感謝しております。それよりメイベル様、早く屋敷に戻らないとリラさんにまた怒られますよ?」
「ふふっ、そうね。」
そしてメイド―――マリアンはメイベル市長と共にどこかに向かった。
更に数日後、ヨシュア達が去った廃村にイオンとアリエッタがシスター服を身に纏い、ヨシュアと同じ漆黒の髪を腰までなびかせ、琥珀の瞳の女性と共に訪れていた。
〜数日後・エレボニア帝国南部・廃村〜
「え……………」
花束を持つ女性は墓石の前に置かれた花束を見つけて呆け
「花束、ですね。」
「花は………”ライムの花”ですか。しかし一体誰がこの”祖国から抹消された”村の存在を知り、花束を………」
イオンは花束を置いた主の正体を考え込んでいた。
「もしかしてレーヴェかヨシュアが………?ハーメルに住んでいた人達の中で”ライムの花”が好きなのは私で、二人ともそれを知っていますし………」
「それは……………」
女性の言葉を聞いたイオンは真剣な表情で女性を見つめ
「確かに可能性は高い、です。特にヨシュア・ブライトは、エステル・ブライト達の目の前から、姿を消した、ですから。」
「全てを思い出した彼が貴女――――カリンの墓参りをしたという訳……ですか。」
アリエッタの推測を聞き、真剣な表情で考え込んでいた。
「ヨシュア…………………」
一方女性――――カリンは悲痛そうな表情になり
「―――すみません。いつか貴女の事を思い出したその時に会わせようと思っていたのですが……裏目に出てしまいました。」
イオンはカリンを見つめて頭を下げた。
「そんな!イオン様が謝る事はありません。あの子が記憶喪失でも幸せに過ごしているのなら、辛い記憶を蘇らせる”原因”になるかもしれない私がヨシュアの記憶が蘇るまで会わないと希望しましたし……何よりイオン様が起こした”奇蹟”―――”聖痕(スティグマ)”の力でこうしてこの世に蘇らせてもらったのですから、今でもとても感謝しています。」
「カリンの言う通り、です。”ハーメル”の事を知り、イオン様とアリエッタが、墓参りに来た時に、イオン様、カリンを蘇らせた、ですから。」
「フフ、あの時貴女を蘇らせる事ができたのはこの世に強い未練を持ちながらも清浄な魂を保ち、この場所に留まり続けた貴女自身だからできた事ですよ。あのような”奇蹟”は今後2度と起こせないでしょうね。」
恐縮するカリンの様子とアリエッタの言葉を聞いたイオンは微笑みながらカリンを見つめた。
「………姿を消したヨシュアや”結社”にいるレーヴェはこれからどこで何をするのでしょう………?」
「―――ケビンが手に入れた情報によると記憶が戻った彼は自分を操っていた人物――――”白面”の”計画”を阻止する為に姿を消したとの事ですから、恐らくリベールのどこかで活動しているのでしょう。」
「更に”剣帝”が情報部にいた所を考えると、”剣帝”も、再びリベールに姿を現す可能性は高い、です。」
「じゃあヨシュアとレーヴェは……!」
イオンとアリエッタの推測を聞いたカリンは真剣な表情で二人を見つめた。
「ええ、二人とも必ずリベールに現れるでしょう。―――行きましょう、”身喰らう蛇(ウロボロス)”の者達が集いし混迷の大地―――リベールへ。」
そしてイオン達もそれぞれの目的の為にリベールへと向かった。
〜王都グランセル・封印区画・最下層〜
かつてのクーデター事件の最終決戦となった封印区画。そこにクーデター事件解決の功労者の一人であり、クーデター事件解決を機に中尉から大尉に昇格したユリア大尉が先頭に立って、ケビンを案内していた。
「ふ〜、それにしてもほんまゴツイとこですねぇ。いい加減、足が疲れましたわ。」
「ふふ、安心するといい。ここが『封印区画』の最下層だ。」
「わお、ホンマですか!?は〜、あと半分とか言われたらどないしようかと思いましたよ。」
ユリア大尉の話を聞いたケビンは最下層に来るまでの道のりの長さを思い出し、それも終わる事に喜んだ。
「フッ、ご謙遜を。神父殿が、あのアリエッタ殿のように聖職者にしてはかなり鍛えてあるのはお見通しだ。そうでないと君達の役目はなかなか務まらないだろうからね。」
「あいた、かなわんなぁ。まーええですわ。と言ってもアリエッタさんみたいな大先輩と比べたら新米のオレなんて、まだまだですわ。リベール王家とウチのところは昔から縁が深いみたいですし。そや、大尉さん。例の市長さんのアレですけど……」
「ああ、『封じの宝杖』だね。………盟約に従い、指定された方法で厳重に保管させてもらっている。いつでも手渡せると思うよ。」
「おおきに、助かりますわ。。………それより、例のブツ、見せてもらえますか?」
「ああ―――こちらだ。」
そしてケビンとユリア大尉はクーデター事件の最優決戦場であった最深部に向かった。
〜封印区画・最深部〜
「こいつはまた……」
ケビンは最深部にあるバラバラになったトロイメライを見て呆けた。
「七耀教会もさぞかしこれらの扱いには困るだろう。超弩級(ちょうどきゅう)と言ってもいい古代遺物(アーティファクト)だろうからね。」
「………………………………。……ちょいと調べさせてもろてもええですか?」
「もちろんだ。陛下の許可も下りている。どうか我々に知恵を貸していただきたい。」
今まで目にした事もない古代遺物(アーティファクト)の登場に驚いたケビンはユリア大尉の許可をもらった後すぐに調べ始めた。
「こいつが報告書にあった『環の守護者』っちゅうヤツか。カルバードで出土した巨像に雰囲気は似とるが……。うー、動いているところをこの目で確認したかったわ〜。後でアリエッタさんに連絡してどんな風に動いていたのか確認しないとな………それと……」
トロイメライを調べていたケビンはゴスペルを設置した装置に目を付けて近付いた。
「古代ゼムリア文明末期……1200年前の代物やな……。装置としての機能は不明ながら遺跡全体の中枢であるらしい……」
「アーティファクトの解析は現代の技術では不可能らしいな。同じ導力として稼働しながらもオーブメントとは異なる機械体系……。そうラッセル博士が仰っていたよ。」
「『早すぎた女神の贈り物』―――そう教会では定義しとりますわ。それであっちが……」
ユリア大尉の言葉に頷いたケビンは支柱が収納されてある床に近付いた。
「『ゴスペル』っちゅう漆黒のオーブメントが使われた直後……ここにあった巨大な柱が床の中に格納されたそうですな?」
「ああ、ここを含めた四隅にある柱が格納されたそうだ。しかし、2ヶ月近く経つのに、その意味はいまだ掴めていない。」
「封じられた『輝く環』……。そして使われた漆黒の『福音』……。装置が喋った『第二結界』と『デバイスタワー』の起動……。なるほどなー……。微妙にカラクリが見えてきたわ。」
「カラクリが見えた……。そ、それは一体どういう……!?」
今までわからなかった真実がわかったことに驚いたユリア大尉は僅か数分で理解したケビンを見つめて尋ねた。
「いや〜、何ちゅうか直感みたいなモンですけど。恐らくこの場所は『門』やないかと思います。」
「『門』……?」
「ええ、そうです。女神の至宝に至るための『道』を塞いでいた『門』……。そして、それをこじ開けたのが『福音』と呼ばれた漆黒の鍵……。そう考えれば、ここに肝心の『輝く環』が無いのも肯けますわ。」
「だ、だが、『道』と言ってもここはすでに遺跡の最下層だ。博士の調査でも、他のエリアが存在しない事は判明しているが……」
ケビンの説明にユリア大尉は驚き、焦りながら尋ねた。
「多分、目に見える形での『道』とはちゃいますやろ。地下に流れる七耀脈……。あるいはもっと別の経路……。恐らく、それを越えたどこかに『環』の手がかりがあるはずですわ。」
そしてケビンは真剣な表情でユリア大尉の疑問に答えた…………………
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