艦隊 真・恋姫無双 103話目 |
【 明命 対 軽巡棲鬼 の件 】
? 司隷 洛陽 都城 内城庭園 にて ?
軽巡棲鬼「アハハッ! アハハハハハ──ッ! 北郷一刀! ナント他愛モ無イ……相手ダ!」
ーー
軽巡棲鬼は、内城の池から繋がる水路を利用して、逃げようとしていた。
★☆★ ★☆★
《 軽巡棲鬼の考え 》
クククッ………今頃、城内では……北郷一刀の暗殺で大騒ぎ。
人の目は全て──そちらに注目され、このような四方を壁で囲まれた庭園に、敵が潜伏するなどと思わないだろう。
更に、都城内の通路を閉鎖して、犯人を捕らえようと検問を行う筈。 ならば、水路を利用して逃走すればいい。 水路まで検問する手間も、準備する時間も無いのだからな。
それにだ。 私の足は『二足歩行』になっているが、水路に浸かれば元の足に変わる。 そうなれば、地上より此処の方が早く移動でき、距離も通路より遥かに短い。
標的の殺害で任務完了したのだ、この不自由な足を変え、逃走するのみ──
★☆★ ★☆★
──そこまで計算しての犯行。
だが、その軽巡棲鬼の予測を上回り、追跡していた者が居た。
ーー
??「────貴女ですねっ!!」
軽巡棲鬼「…………? 誰ダ………貴様…………?」
明命「───応える理由なんかありません! 一刀様を手に掛けた──不快な愚か者! 大人しく縛されなさい!」
軽巡棲鬼「…………ナンダ……他カガ人間如キガ? ………身ノ程知ラズガァ!」
明命「────!?」
ーー
軽巡棲鬼は、声がした方角に6inch連装速射砲を向けて発射! 慌てて横転して回避すれば、すぐ後ろにあった樹木の幹が粉砕、音を立てて倒れて行く!
明命は、冷や汗を流しながら……その驚異的な攻撃力を確認、その正体に思い当たり問いかけた。
ーー
軽巡棲鬼「…………ドウシタ? 捕ラエルノジャ……ナカッタノ?」
明命「……………貴女は………深海棲艦!?」
軽巡棲鬼「…………軽巡棲鬼」
明命「────やはり!」
軽巡棲鬼「…………我ラノ恨ミ………思イ知レ! オ前達……人ハ……死ネ! 味方スル……艦娘共ハ……沈ンデシマエ!!」
ーー
再度の攻撃準備をする軽巡棲鬼に、?(手裏剣みたいな暗器)を数本投げつけて対抗するが、簡単に回避!
だが、明命は通じないと分かっている攻撃を、三回も続けて投げるので、三回目には軽巡棲鬼により、易々と叩き落とされた!
ーー
軽巡棲鬼「児戯ニ等シキ………『チカラ』デ……対抗デキル……トデモ………」
明命「ならば───これならどうですっ!?」
ーー
明命が四回目の?を両手で投げるが、その?は軽巡棲鬼より大きく外れ、後ろの木々に向かって行く! 呆れた様子で窺っていた軽巡棲鬼だが、攻撃が当たらない事を知ると……片手の艤装を明命に向けた!
ーー
軽巡棲鬼「マタ………ソレカ。 完全ニ外レダ……避ケルノモ無駄。 イイ加減ニ飽キタカラ……砲撃ヲ………ウグッ!?!? ナンダ……コレハ……!?」
明命「…………掛かりましたね? それは普通の?なんかじゃ……ありません!」
軽巡棲鬼「────!?」
明命「貴女の力……特に、その武器は脅威です! だから、それを使わせないように捕縛します! ───エイッ! ハッ! トオッ!!」
ーー
軽巡棲鬼は、後ろから襲い掛かって来た?に気付かず、 為す術も無く巻き付けられて、身動きが取れなくなった。 明命は、軽巡棲鬼への警戒を緩めず、更に紐を付けた?を投げつけて、雁字搦めに巻き付ける!
★☆★ ★☆★
これは、大陸に伝わる『縄?』と言われる暗器。 ?の後ろに紐や縄を付けて投擲し、捕縛や侵入等に利用する物である。 中には……縄?の紐を操り、標的の位置を移動させたりする事もできる……達人もいるらしい。
余談だが、例の紐に……何故かRJ氏がコメントを入れられた。
『紐を持て余す』…………この格言に何度も涙を誘われたか。 至極、後世に残る名言であろう!
《 新明命書房刊 『例の紐……その意味と考察、そして悲喜劇』より 》
★☆★ ★☆★
明命は、その縄?を使い……軽巡棲鬼の動きを止めた!
ーー
明命「これで、貴女は動けません! この紐は細いですが……春蘭さんでも引き千切る事は無理です! 私の髪の毛も編み込んでありますし、その強靱さは鎖より強いんですよ!!」
軽巡棲鬼「………………フッ」
明命「な、何が可笑しいのですか!? 念には念を入れて、何重も巻き付けましたから、逃走する事など不可能ですよ!!?」
ーー
得意げに説明する明命に、軽巡棲鬼は嗤う。
自分達の力を……少し垣間みたぐらいで理解した………人間を。
これで捕らえたと思う人間を………どう絶望させようかと考えていた。
ーー
軽巡棲鬼「……………コンナモノ………デ………カ? 人間トハ……カワイイ……ナ……」ブチン
明命「…………えっ?」
軽巡棲鬼「私ハ……束縛サレルナド………嫌イ………ナノサ!」ブチブチブチ?
明命「───そ、そんな………馬鹿な事がぁぁぁぁっ!?」
ーー
軽巡棲鬼が、両腕をユックリと左右に広げると、巻かれた紐が音を立ててブチブチと切れていく。 千切れた紐の中から、全体の白っぽい色より目立つ、黒色の糸らしいものが見える。 これが、明命の言っていた髪の毛だろう!
軽巡棲鬼は、易々と紐を千切った。 元々が船である、普段は秘めている力を全力で出せば、このくらいの事は簡単だったのだ!
驚きの表情で軽巡棲鬼を見詰める明命に、軽巡棲鬼は……もう片手に装備していた6inch連装速射砲を向けて、狙いを定める!
ーー
軽巡棲鬼「───コレデ……手妻ハ終ワリカ? 私達ノチカラ……人ヨリ遥カニ違ウ。 ソノ………自惚レガ………我々……深海棲艦ヲ……生ミ出シタノダ!」
明命「───!!」
軽巡棲鬼「今度ハ………外サナイ。 貴様モ………絶望シテ……沈メ!!」
◆◇◆
【 時事ネタ の件 】
? 洛陽 都城 内城庭園 にて ?
広大な庭園で軽巡棲鬼が明命と対峙! 軽巡棲鬼を捕縛した明命だが、軽巡棲鬼の力を過小評価してしまった為、逆に危機を迎えてしまう事態に!?
ーー
明命「……………くっ!」
軽巡棲鬼「…………ククク………貴様ノ動キハ………覚エタ! 次ハ……外サナイ!」
ーー
ニヤニヤと嗤う軽巡棲鬼!
そして……軽巡棲鬼の砲塔を注視する明命!
明命と軽巡棲鬼………二人の間に緊張感が高まる!!
……………………チャポン!
その時、池の中央部分の水が──盛り上がる!
ーー
イク「プハァーなのっ! あっ……… 目標発見、節分戦深度に浮上!」
「「 ────!? 」」
イク「……………えっと………節分なの! 」
「「 ────!?!? 」」
イク「イクたちの鬼役は……軽巡棲鬼なの! てぇー! 鬼は〜外! えい、えーい!!」
軽巡棲鬼「………………………」プルプルプルプル
明命「あわわわわわっ! だ、駄目です! 早く逃げて下さいっ!!」
ーー
───なんと、庭園の池より『イク』こと『巡潜乙型 3番艦 潜水艦 伊19(い19)』が浮上、豆を軽巡棲鬼に向けて放り投げた!
イクが嬉しそうに豆を投げる度、軽巡棲鬼の顔や身体へと当たり……その度に軽巡棲鬼の身体が怒りに震える!
明命が、慌ててイクに止めるように呼掛けるが、時すでに遅く………軽巡棲鬼の顔は、中破どころか小破もしていないのに、お怒りであったっ!
ーー
軽巡棲鬼「セ………セン………潜水艦! 潜水艦ッッッ!!」
イク「むふぅ〜! イクから目を逸らしちゃダメなのねぇ! ほらほらぁ〜、鬼さんコッチなの〜!!」
軽巡棲鬼「ウガァアアアア───ッッ!!!」
明命「ま、待ちなさ───『待て、明命!!』──し、思春殿!?」
ーー
イクは、軽巡棲鬼の追撃して来る様子を確認すると、池に繋がる水路から抜け出し、洛水へ向かう!
当然、軽巡棲鬼は追い掛ける!
正に名前へ鬼が付くだけあって、鬼の形相で。
だが………果たして、イクの挑発で怒ったのか? 鬼ゆえに豆が効いたのか? 軽巡棲鬼だから、潜水艦を集中攻撃しようとしたのか?
これは、如何なる理由で追い掛けたのか………全く分からない。
ただ、分かるのは………この御蔭で明命は難を逃れ、軽巡棲鬼はイクを追い掛けて、水路を通り抜ける結末になったのだった。
◆◇◆
【 鳳雛の策 の件 】
? 洛陽 都城 内城庭園 にて ?
思春「明命、無事で良かった! 雪蓮様が心配しておられたぞ!?」
明命「す、すいません! まさか、予想以上の強さだったので! で、でも、思春殿、どうしましょう!? あの子が──私の代わりにっ!?」
思春「心配するな。 これも、何かしら考えがあっての事だろう………あわわ軍師?」
雛里「……………あわわわわわっ! だ、だからぁ! その呼び方は止めて下さぁーいっ!!」
明命「あ、貴女は………ひ、雛里さまっ!?」
雛里「あわ、あわわわっ! お、お久しぶりでしゅっ! あわっ! か、噛んじゃいましたぁ〜! ふぇ〜ん、痛いですぅうううっ!!」
思春「………此方に向かう途中、雛里と出会ってな。 私達と同じく記憶を持ち、北郷側の軍師も務めていると言う話を聞いた。 ならば、明命を助ける一助を頼んだところ………」
雛里「………はい、間に合って良かったです! 丁度、明命さんから深海棲艦を引き離す所だったんですよ!」
明命「そうですか………ありがとうございます。 ですが………思春殿。 私は、個人的感情で………動き過ぎてしまいました。 本来なら、深海棲艦に単独で挑むなど……無謀に等しい行為……」
思春「…………そうだな。 北郷達にも敵わない者が、正面から立ち向かっても無謀と言うものだ………」
明命「だけど………私は…………我慢できませんでした! 華琳様と笑いながら話をされて、また……孫呉でも、あの光景が見れるのかと……眺めていた矢先に! あ、あのような───出来事っっ!!」
思春「………………………」
明命「私も……駆け寄りたかった! 一刀様の傍で……安否を確認したかった! だけど、私の役目は──刺客を捕らえる事。 それが、一刀様の為になり、私の………意義を表す事ができる行動だと………思ったんですよ」
思春「……………………」
明命「………………結局、任務は失敗。 しかも、私の未熟な行動で………雛里様の策を台無しにしてしまい、御遣いの皆様や身代りになってくれた子にも! 私は、何と御詫びすれば………いいのでしょうか!?」
思春「ああ………お前は、多くの御遣い達に自分の真名を……預けたそうだな?」
雛里「────!?」
明命「はい! 皆さんは全員、御立派な方々です! だから、私は自分の真名を預けました! 決して、あの方々に取り入る為、真名を預けた不埒な行為などでは無く────っ!!」
思春「明命……お前の孫呉への忠義、毛頭も疑う気は無い。 寧ろ、その純心な想いで預けた行為が……御遣い達を動かしたのだ」
明命「……………思春殿!」
雛里「なるほど───だから、皆さん一生懸命だったんですね?」
明命「…………………?」
雛里「イクさんが物凄く乗り気でしたし、扶桑さんや山城さん達が、明命さんが御一人で深海棲艦と対峙しているのを知ると、血相変えて『明命を助けて欲しい!』と──懇願までされたんですよ!」
思春「御遣い……いや、艦娘達は……お前を仲間として認め、深海棲艦を自分達に引き付けて救った。 ───後で、礼を述べておけ」
明命「そ、そんな───」
雛里「それに……大丈夫ですよ! あの深海棲艦の事は心配しないで下さい。 扶桑さん達が必ず………捕らえてくれます!」
明命「あの………深海棲艦をですか?」
雛里「はい、私の策は………破綻どころか、予想以上に上手く進行しています! ───明命さんの御蔭で!」
明命「………………えっ?」
思春「ああ………雛里の話によると、敵を誘き寄せて対峙させて、その背後より別働隊で襲い掛かる。 これも……天の軍略だったのか……?」
雛里「は、はい……天の国に伝わる──『鉄床戦術』といいます!」
明命「鉄床戦術…………ですか?」
雛里「鍛冶屋で行います鍛造を模した戦術だそうです。 相手を捕捉して、その背後から奇襲を仕掛ける方法なんですが……」
明命「…………………」
思春「穏さまが聞いたら………また悶え苦しみそうだな………」
雛里「そして………ご、ご主人様から教えて頂いた策を、私なりに少し手を加えました。 今回は、深海棲艦を釣り出し、扶桑さん達が居る本隊と対峙させます。 そうなれば、相手は前面に集中せざる得ません!」
明命「………………そ、そうですね!」
雛里「これが──『鉄床』になりましゅ! その背後から、他の艦娘の皆さんが別働隊を編成! この水路より神速の奇襲を仕掛ければ、『鎚』となり『鉄床』と挟まれた深海棲艦は───破壊されるか捕縛されます!!」
明命「じゃ、じゃあ…………」
雛里「深海棲艦を私達の所に誘い込むのは……最初から決めていた事。 残っていたのは……相手への挑発行為のみ。 理想的なのは、『我を忘れさせる行動』なんですが──丁度、今の怒っている状態が最適なんですよ!」
思春「それに………雛里はな。 私の話を聞いた時には、明命の救助も策の一部として既に含ませて実行していた。 つまり、雛里も……心配していたし、明命を助けたいと思っていた………そうだな?」
雛里「………あわわ……そ、それは………その………」
明命「雛里様ぁぁぁっ!!」ガバッ
雛里「あわわぁっ! あわわわわっ!!」
思春「……………フッ」
◆◇◆
【 桂花の運命 の件 】
? 洛陽 都城 内城 一階 にて ?
その頃、桂花は────
桂花「早く、早くっ! 下に向かわないと───!!」
部屋を飛び出した後、二階から一階へ向かっている。
何故なら、上の階に向かう程に、高貴な人物と出会す可能性がある為だ。
昔からの幼なじみである…………あの二人に。
★☆★
《 桂花 回想 》
『桂花………』
『桂花姉上───』
『ほらっ! あんた達、危ないじゃない! もう……急に抱きついてくるんだもの。 派手に遊ぶのは良いけど……護衛の目の届くとこに居なさいよ! あんた達は、大事な身体なんだから──』
『桂花姉上も、皆と同じ事を言うんだ………。 自分の身体なのに──何か貴重な置き物みたいな扱いされるの。 もっと……お外で遊びたいのに!!』
『…………………』コクコクッ
『馬鹿ね………あんた達が身体を怪我して、一番痛い思いをするのは誰だと思うの? ───あんた達でしょ?』
『『……………………』』
『いい? まず、怪我した本人は勿論、御父様、御母様、周りの人………そして、私。 これだけの人が心配するのよ? だから、皆が心配して世話を焼くじゃない! それに……残った姉妹まで……心配して泣かせる気なの?』
『────!』
『───さすが、桂花姉上! うん、桂花姉上も姉上も大好きだもん! 言う事ちゃんと聞くっ!! だから………遊んでぇ!!』
『…………ふぅ、本当に分かってるのかしらねぇ。 はいはい………それじゃ、何で遊ぶの? あやとり? 御手玉? それとも────』
★☆★
桂花「──駄目っ! あの子達に会えば、私の決意は鈍るわ! 今度こそ、今度こそ一刀の元に………………ハッ!?」
背後から聞こえる大音声、騒がしい足音が耳に届く。 その音に気付いた桂花は、直ぐ側の隙間に身を潜り込ませた。
ーー
桂花「………………」
春蘭「桂花、桂花っ!! どこだぁーっ! 何処に居るんだぁあああっ!!」
桂花「………………」
春蘭「くっそぉっ! 此処までの足取りは間違いないのに、何処へ行ったんだ!? この私に一言の相談も無く、姿を眩ますとは卑怯者めぇ!!」
桂花「 || ・-・)スゥ~ 」
季衣「───春蘭様っ!」
桂花「 ‖彡サッ! 」
季衣「ボク達も捜します! ───桂花様を、早く見つけ出さないとっ!」
春蘭「おおっ! お前達も来てくれたか! 有り難い、ここは広すぎて私一人では捜しきれん! お前達も来てくれれば──早く桂花を見つけだせる!!」
流琉「そ、それから……春蘭様、朗報ですっ! 秋蘭様と……華琳様の記憶が………蘇りましたぁ! 兄様の事を思い出してくれたんですよっ!!」
春蘭「な、何だとぉ!? それは………本当なのかぁっ!?」
桂花「‖ ゚ ロ゚)エッ? 」
季衣「ボクも聞きました! 華琳様も、それに……秋蘭様も! 無事に記憶が! 兄様の横で、記憶が戻ったと二人で話されていました!!」
春蘭「────そうか。 やっと………二人に…………!」
「「 …………………!?」 」
ーー
春蘭は、季衣達から事情を聞くと、目を閉じ顔を天井に向ける。 その双眸より……泪が一条……流れ落ちた。
何時もと違う春蘭の様子に……二人はあたふたし出す。
ーー
季衣「しゅ、春蘭様ぁぁぁっ?」
流琉「どうしたんですかぁっ!?」
春蘭「アイツが、桂花が聞いたら………………さぞ、喜んだろうに! そして、北郷が生きていればぁ……………っ!!」
季衣「で、でも………兄ちゃんですよ? もしかして………生き返ってくるかも知れないじゃないですか? だって、兄ちゃん………天の御遣いだもん!」
流琉「取り合えず、桂花様を捜しましょう! 今は直ぐにでも、桂花様の身柄を確保しなければ! それに、兄様の関係者の方々も、一緒に探して下さってくれています! 私達も早急に動かなければっ!!」
春蘭「…………そうだな。 桂花ばかりに苦労させて来たのは───私達の責任でもある! 急いで捜しに向かうぞ!!」
「「 ────はいっ!! 」」
ーー
こうして、春蘭達は………一階の周辺を捜す為に、他の空き部屋へ向かった!
ーーー
ーーー
三人が去った後、桂花は隙間から出て来た。
顔には、困惑の表情が浮き上がる。
これは、春蘭達の話により………桂花の固い決意へ亀裂を入れた事を意味していたのだった。
ーー
桂花「そう……………華琳様が…………」
ーー
だが、桂花は…………この話を鵜呑みにする事が出来なかった。
華琳の一言一言が、桂花の心に……刃物で切り刻むような、痛烈な痛みを与えた為である。 長年、大事にしていた宝物を………散々汚され無数の傷を付けられたような物だからだ。
それに、如何に思い出したとはいえ、華琳本人から真実を聞いていない。
人の間接的な噂より、桂花が直接確認しなければ──信用できない情報ゆえ。
良く言えば『軍師の性』、悪く言えば『臆病』………そんな桂花の慎重さが……皮肉な事に新たな真実を覆い隠す。
華琳の謝罪したい心、北郷一刀の偽りの死───その真相を知らないまま。
ーー
桂花「………………………」─スッ
ーー
桂花は、懐より護身用に所持していた短刀を取り出す。
桂花は軍師として主に智を捧げる身ゆえに、大きな武器など不要。 だが、桂花も女、しかも美少女と呼ばれる者の一人ゆえ、身を護る最後の牙は必要。
ーー
桂花「………………一刀……」
ーー
皮の鞘に入った、刃渡り10cmも満たない小型の刃を、桂花がじっと見詰めた。 刃は、相手に苦しみを与えない為、良い鋼で鍛練され鋭く研がれている。
ーー
桂花「…………………私…………」
ーー
こんな短い刃でも、桂花の胸を貫き──心の臓に届かせるには充分。
それに、実行すれば………苦痛も少なく天の国、あの世へ………愛しの男の傍に行く事は容易いだろう!
だが…………桂花の心は揺れる。
ーー
桂花「………………これを使えば、一刀の傍に何時でも行ける。 だけど………華琳様の記憶が。 私は、『信義』を取るべきなのだろうか? それとも………『礼義』を取るべきなのだろうか? どうすればいいのよ………」
ーー
桂花は、自分の心に問いかける。
私が望む願いは──どちらなのか──と!
◆◇◆
【 艦娘の頼み事 の件 】
? 洛陽 都城 内城 一階 にて ?
★☆★
《 信とは、自分の心を偽らない 》
《 礼とは、社会秩序を遵守する 》
《 義とは、正しい行い 》
★☆★
桂花の呟いた言葉の意味は、概ね上記の通り。 これらは儒教の五常(仁、義、礼、智、信)の教えである。
ーーー
ーーー
漢の時代…………儒教は大事な教えであり、政治にも数多くの影響を与えた事は、その遺物、思想、その後の歴史の流れを見れば、容易に理解できる。
この儒教の教えは、創始者『孔子』より始まるが、長い年月の内に教えを読み解き、独自の理解を示す者も現れた。
その内の一人である荀子(性悪説、礼の重要性を説いた思想家)の末裔にあたるのが、桂花の生家である『荀家』である。
桂花の祖父『荀淑』は、儒教を尊び清道を謳い、『神君』と呼ばれ、その子達は、八人居て全員俊英、『八龍』と称された。
その八龍の一人である次男『荀?』が、桂花の父である。
ーーー
ーーー
このような名家だからこそ、儒教の影響は桂花に深く影響を与え、あれほど固く思い詰めた決意も、春蘭達の言葉により動かされ………悩んでしまう。
前の世では、華琳一筋の排他的な性格だったのだが、その後の長い人生、この
世界の影響が、正史に近いのか儒教の影響が出ているようである。
そのため、重大な事には、五常の教えに背くのか、それとも準ずるのか──その言葉を物差しにて行動していた。
そして、今回、双方の大事な要を失った桂花に、現世の未練は完全に無く、自害の道を選ぶ事が出来たのだ。
ーー
桂花「華琳様………一刀…………」
ーー
春蘭達の言った事が本当であり、華琳の記憶が実際蘇ったのなら、再度この世界で華琳に仕えたい。 それは、桂花の願いでもあり、礼としても重なる。
だけど、待ち望んだ一刀は……居ない。
華琳と共に夜空を見上げ流星を待ち、二人で泣き笑い慰め合い──二人の死後に漸く実現した世界が………閉じたのだ。
これでは、桂花の心は満足しない。 『何の為に数十年も待ったのだ』という苦しみ。 愛する者に再び旅立たれた哀しみ。
桂花の心にある『信』が───納得しなかった!
ーー
桂花「………私……………どうすれば……………」
ーー
しかし、願いの両立は………既に絶たれた。
そのため、華琳や春蘭達の前にも出れず、自害する事も出来ないまま、悩み続ける事になる桂花。
ーー
??「あ、あの………………」
桂花「────誰っ!?」
ーー
そんな時───桂花の悩みを全く意に介さず、声を掛ける者が居た。
ーー
??「ご、ごめんなさい………驚かしちゃって! た、確か……貴女……曹孟徳殿の臣下の方ですよね?」
桂花「……………………」
赤城「わ、私は、北郷一刀に附属しています『赤城』と申します! 事情があり………この通り、あ、足が痺れて………立ち上がれないんですよ。 だから、恥を忍んでお願いします! 提督のとこまで……連れて行ってくれませんか?」
桂花「──────!?」
ーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー
あとがき
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
百話で区切りをつけて本腰入れて、黄巾の乱を描写するつもりが、幾つかの事前設定を説明して居なかったため、まだ続いております。
後、数話で終わる──筈。
他の義輝記や北斗の話も……出したいですし。
もう、しばらくお付き合い兼お待ちください。
下記のは、ボツになった話です…………
鉄床戦術を説明するために作りましたが……明命の対応が気に入らなくて。
◆◇◆
【 没案 の件 】
? 洛陽 都城 内城庭園 にて ?
明命「す、少し、解りにくいのですが、具体的には………」
雛里「では、一匹の猫さんが居たとします! 誰かが飼っていましたが、逃げ出してしまいました。 だけど、警戒心が強くて近寄ると逃げてしま──」
明命「か、可哀相じゃないですかっ! どこ、何処にいらっしゃるのですかっ!? ───その、お猫さまはぁっ!!」
雛里「た、例えですっ! 例え!!」
思春「……………………明命」
明命「あっ、はい! た、例え……例えですね? ええ………はい、了解しました………」
雛里「そこで、私が猫じゃらしを準備して、猫さんの前でフルフルと揺らして気を惹きます。 すると、片足を出て様子を窺ったり、首を左右に振ったり注目するでしょう? そうなれば……猫さんの背後が留守になりますよね?」
明命「───ふむ、ふむっ!」
雛里「そうなれば、後、思春さんや明命さんの様に、瞬発力に優れた方に捉えてもらえれば───」
明命「勿論、私がやりますっ! それで──お猫さまはぁ!? 保護する迷子のお猫さまは───『ゴンッ!』……痛っ!? 痛いじゃないですかぁ!!」
思春「いい加減にしろっ!! 雛里の話は理解できたのか!?」
明命「は、はい! この策を使えば───お猫さまが沢山集めれます! そうすれば、一刀様が居ない寂しい心を……慰められますからっ!」
思春「────雛里、離せ! もう一度、明命を叩かせろっ!」
雛里「───だ、駄目です〜〜〜!!!」
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後、数話……続きます。 次回の投稿は2月後半辺りになります。 | ||
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コメント | ||
雪風提督 コメントありがとうございます! この後の大食艦との遭遇は如何に!? 回想で出てきた二人の姉妹。 この建物の上に居るとなれば、正体は……自ずと。(いた) 妖怪食っちゃ寝が・・、桂花の運命のサイコロを変えた・・。桂花を姉上と・・まさか彼女は・・・。(雪風) スネーク提督 コメントありがとうございます! 『艦これ改』が出ると先程知った作者です。 次回、なるべく御期待を良い意味で裏切るような物を出したいなと思っています! ついでに……新たな深海棲艦も……。(いた) おー、昨日イベント海域でやっと着任してくれたイクちゃんがいい働きしてるww赤城と遭遇した桂花はいったいどのような決断に至るのか…北郷の偽りの死とは…次回が待ち遠しいですね。そして雛里よ、明命相手に猫で喩え話しちゃ逆効果ってもんよw(スネーク) |
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