とある男たちの話をしよう |
三人の男の話をしよう。唐突にトカゲはそう切り出した。
空は晴天、風はないが気温は少し低く、熱い緑茶が美味しい。突然の提案に真白が急にどうしたのか聞くと、この団子の礼ですわ。と宣った。いや、おごるだなんて誰も言ってないのだが。
「まぁまぁ、いいから聞けって。」
真白を無視し、トカゲはつまらない話だが、と前置きをしてから話し始めた。
最初の男だ。そいつはカマイタチっていう盗賊団……っというより強盗団だな。押し入って皆殺しにする類の輩だ。その頭領だった。聞いたことあるだろ?数年前に手下の裏切りで壊滅した盗賊団だ。そのイタチって男なんだが、これがケチな男でよ。手に入れた金や女は全部自分で管理して、部下には必要分だけ渡すっていう奴。特に、新しく入った部下には殆どおこぼれをやらないっていう徹底ぶり。
そんなある日、カマイタチ新入りがきた。他の部下が、見所があるからと拾ってきた。
その新入りは女みたいな外見のかわいらしい少年だ。手癖とすばしっこさを買われたのもそうだが……イタチへの愛玩用としてのご機嫌取り……の面もあったかもしれねぇな。その目論見は当たって、新入りを拾ってきた男は分け前を多く貰い、そりゃあすごい喜んだそうだ。
しかし、数日後妙な噂が一部の仲間に流れ始める。例の新入りが頭領から漏れ聞いたらしい。なんでも、近々強盗に入る予定だったお屋敷には同心が大勢潜ませてある。使えない手下をそいつらに引き渡して、面の割れてない新入りに報酬を受け取らせようとしているのだという。
「俺を拾ってくれたみんなが捕まるなんて我慢出来ねぇ、みんなを助けたいんだ。俺が頭領から色々聞き出してくる」
盗賊たちはイタチに知られないように暗殺の計画を練った。そしてその日は来た。
寝ていたイタチを殺した直後、別の仲間に切り付けられた。どうやらそいつらは、頭領を殺して財宝をガメようとしている奴らがいるって聞いてたらしい。もみ合いになり明りは消え、誰が味方かすらわからないまま混乱状態で殺し合った。
その結果。残ったのは新入りの男と貯めこまれた財宝だけだった……
「これが一人目の話。」
話す間も団子を食べる手は止めず、長椅子の日陰に陣取ったままトカゲは何本目かの団子を白い手でつまんだ。
団子をおごらされるのはもう確定なようだから、仕方ない。話を聞いてやろうと、真白も緑茶を頼んだ。
「お、聞いてくれる気になりましたの?企鵝っち」
「聞いていなくてもご馳走することになりそうなので、聞いていこうと思います」
真白の返答が気に入ったのか、トカゲは本の中身を語るようによどみなく話し始めた。
じゃぁ、二人目の男の話だ。百面屋、円天遼。そいつは化粧を施した面を使って、一人何役も演じる役者だった。。そいつは線が細く、女役も得意だったが、年と共に演じるのも難しくなってきた。そこでそいつは弟子を取った。
まだ幼いといってもいい年の少年だった。生まれは貧困街だというその弟子は賢く、すぐに変装術を身に着けていった。最初はぎこちなかった所作も、一つ言えば十を理解した。
すぐに自分を超える役者になるだろう。そう思った男は、少年を手元に置き、自分の持つ全ての技術を伝えた。いつか二人で何役もこなす、観客が目を疑わずにはいられないそんな芝居をやりたい。そう、同業者と酒を飲んでは語っていたそうだ。
しかし、
そこでトカゲの語りが一瞬止まった。続きでも思い出しているのだろうか。あぁ、思い出した。そう言って続ける。
しかし、そこで突然男の夢は終えた。売れっ子の役者ならたんまり持ってるだろうと狙われ、押し入りの強盗にその時使いに出てた奴以外は皆殺しとなった。もちろん、その男もな。
そして、一人で何役も演じ分ける役者が舞台に上がることは二度となかった。
さて、最後の男の話だ。
「トカゲ……それは私が聞いてもいい内容ですか?」
「あん?もっちろーん。こうしてご馳走になるわけですし?」
先ほどから手の付けられていない真白の団子にも手を伸ばし、トカゲは続ける。
最後の男は貧困街で生まれた男だ。
その街は特に治安も悪けりゃ野犬も出る。道端に死体を転がしときゃぁ身ぐるみもはがれて骨まで野犬に食べられたて後には血の跡しか残らない。住人が付けた通称が『緋辻』ってくらいだ。
そんな場所に物好きな男が来た。何でも道に迷って迷い込んだらしい。緋辻の連中がそんな鴨を見逃すはずもなく、あっという間に荒くれどもに追い掛け回される羽目になった。助けてくれと叫んでも、追ってに加われるばかり。逃げ惑いながら何度角を曲がったか、道端に倒れている子供を見つけた。
「おい、君、大丈夫か」
自分が追われてる身だって言うのにその男は子供に声をかけた。ボロボロで血にまみれ、およそ生きてるなんて微塵も思わない状態の子供に、だ。
しかし、そんな悠長にしていたもんだから男は追っ手に追いつかれた。後ずさり、背中に壁が当たる。死を覚悟しただろう。
突如、死んだと思った子供がゆらりと立ち上がった。
音もさせないで動き、追っ手の心の臓の辺りに鍔の無い短刀を突き立てた。震える男には目もくれずに小柄な体で追っ手たちを殺して回った。舞のように鮮やかだったそうだ。
十人近くいた追っ手は半分以下に減り、散り散りになって逃げていった。それには目もくれず、ボロをまとった少年は死体から財布などを抜き取っていた。
「っち、これっぽちか。少ねぇな」
その子供に、男はこう声をかけた。「助かった。ありがとう」ってな。ふざけてると思ったよ。それでも何かお礼がしたいから家に来てくれと頼み、身寄りのないその子供はその男の家で住み込みで働くことになった。
名前もなかったその子供に名前が付いた。姓は生まれた場所から緋辻、名は拾った男から一字取って遼。
派手に暴れすぎたといって、緋辻遼はもう生きてるうちには緋辻には立ち寄らなかった。
これで終わり、思ったより長い話になったな。
日は傾き始めており、影が長く伸びる。
「じゃ、俺はそろそろ行きますかねぇーごちそうさま、企鵝くん」
「えぇ、私もそろそろ帰ります。トカゲはどこに行くんです?」
問えば振り返ったが、逆光でわずかに口元が見えるのみだ。
「……ちょっと、遠くの町に行こうかなー。この辺はここのつものが多くてお仕事しづらいの」
にやりと笑ったようにも見える口元で、いつもと変わらぬ声で、トカゲはバイバイと言った。
数日後、トカゲが死んだといううわさが流れた。
説明 | ||
トカゲが真白さんに団子をおごらせる話です。でも、その代わりに何かつまらない話をするそうです。 これは、とある三人の男の話。そう。自分たちには何の関係もない、ただの話。 登場するここのつ者:企鵝真白 登場する偽り人:トカゲ |
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真白 小説 トカゲ ここのつ者 | ||
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