リリカルST 第12話 |
「はぁ?めんどくせぇよ他当たれ!」
「いーだろ?お前は全力で力を使える。俺は目的を果たせる。どっちにも損は無いはずだ」
「大有りだバカやろう。お前、その間父様と離れ離れになるんだぞ?んな戦争に首突っ込んで貴重な父様のお時間を…」
「あ、父さんにも手伝ってもらうから」
「………」
「それに、そろそろ借りは返せ。テメェが俺に借りた金、一億なんて端た金で済むと思うなよ?これに協力するなら、チャラにしてやってもいいが…」
「チッ…クソが…」
「作戦はシンプルだ。咲希が市内で大暴れして、その間に俺とユキで内通者と接触、その後官邸の制圧だ。簡単だろ?」
「余裕だな」
「全くだ、アクビが出ちまう」
咲希とユキがそれぞれ武器を点検しながら、なんて事無い様に答える。誤解の無い様に言うが、これが俺たちにとって簡単と言うだけで、普通に考えれば頭のおかしい作戦だという事は自覚している。
武装した敵軍、約3万人がいる中心地に、たった三人で潜り込む。それがどれ程無謀な事なのかは子どもでもわかるだろう。それを、咲希は一人で相手にする。銃弾飛び交う戦場の中をたった一人で。だが、咲希にとってその程度のことは朝飯前なのだ。
正面で咲希が派手に陽動している間に、俺とユキで官邸に浸入する。俺の転移魔法を使って内部協力者が用意してくれたポイントに転移し、その後は協力者と共に官邸を掌握。掌握後は、協力者と共に反政府勢力と交渉しこの戦争を終結させるという流れだ。
さて、ここでいう協力者は、ビリー・ブースと言う現オルセア首相の一人息子だ。何故息子の彼が親を裏切る様な事をするのか?それは一重に、幼少期から今までにかけた親からによる虐待が理由なのだろう。
彼はオルセア首相の一人息子でありながら、その後継者として見てもらえず、さらには毎日の様に続く暴力に耐える日々だった。
そんなある日、彼はオルセアの街へと降り、現在のオルセアが内戦下にあった事を知る。親からの暴力、そして親の命令で殺される市民、それら二つが彼の中でイコールとなり、彼は怒りを覚え、密かにオルセア首相を裏切り始めた。
NGO団体で負傷した市民の救護に関わり、官邸内にいたオルセア首相派でない人を集め、着々と影で打倒オルセアの算段をしていた。
そして、俺がオルセアに武器を密輸している組織を潰し回っていると言う噂を聞き付け、彼は俺にコンタクトを取ってきた。あいつは涙ながらに言った「恥を承知で頼む。オルセアを救って欲しい」と。
その瞬間確信した。こいつなら、オルセアを良い方向に導けると。仮にも貴族の息子が、一般人である俺に頭を下げる。それもただ下げるのではなく、地面に頭を着けて。それがどれ程の事なのか、どれ程の覚悟なのか。自らの弱さを理解し、他者に助けを求める。それがどれ程難しい事なのか。それでも、彼はやった。その姿を笑う者もいるだろう。無様と蔑む者もいるだろう。だけど、俺にはその姿がとてもかっこ良く見えた。彼には、人としての魅力が確かにあった。
元々俺の目的もオルセア内戦を止める事だった事もあり、俺は彼と協力体制を取った。もちろん、彼の言う事に偽りが無い事を調べてからだったが。その辺の情報は既にユキが調べていた事もあり、信頼するのに時間はかからなかった。
この作戦は、いろんな人の想いや未来が掛かっている。俺たちにとっては簡単なミッションでも、重要である事には変わり無い。気は十分に引き締めよう。
「準備はいいな?」
「いつでも」
「問題ねぇ」
俺が二人に語り掛けると、二人は落ち着いた様子で静かに応えた。俺はそれを見て頷き、転移魔法を展開させる。
「行くぞ、まずは咲希、しっかり暴れてくれ」
「りょーかい」
転移…
目の前の風景が一瞬で切り替わり、背後にはデカい門、目の前には銃を構えた屈強な軍人が立っていた。まだ、こちらには気付いていない。
その間に、俺は再び転移魔法を展開し、その場を離脱した。
「な、なんだお前!?」
「いつからいやがった、このアマ!?」
「ハァイ、クソ野郎共。神への祈りは済ませたかぁ?悪いが、テメェらに未来はねぇ。あるのは、クソッタレな地獄だけだ!」
咲希を正面に置いていき、直ぐさま転移する。そこには…
「おい士希、これはどういうことだ?」
「……作戦が漏れてやがったか?」
銃をこちらに構えた軍人が立っていやがった。
「お前達が侵略者だな?まさか管理局が動くとは思っていなかったがな」
この場を指揮する指揮官風の男が口を開く。その間も、俺は思考を全力で巡らせていた。
この際、作戦が何故漏れたのかなんて関係無い。今はいかにしてこの状況を脱するかだ。
敵は全員で15人。室内の一辺が約10mで、扉を塞ぐように立ち塞がっている。即座に転移して離脱するのもありだが…
「おいおい、そこでグッタリしてるのは、あんたらん所の王子様なんじゃねぇのかよ?」
ユキの指摘通り、ビリーが敵に捕まっているのだ。しかも、相当痛めつけられている。拷問にでもあったか?
「否、この者は反逆者だ。例え当主のご子息であろうと、その当主を裏切る者は確実に罰せなければならない」
成る程、こいつらは現オルセア首相を心酔しているのか。モラルなんて関係ない。甘い蜜吸えりゃ満足の、クソッタレな人種か。
「オーライ、銃を降ろせ。まずは話し合おう」
俺は両手を上げて無抵抗の意を示す。ユキもそれに合わせて渋々上げた。
《咲希、揺らせ》
念話を飛ばす。咲希からの返事はない。だが、間違いなく聞こえた筈だ
「話し合う気はさらさらない。お前達はここで死ぬのだ!」
指揮官が言うと、銃のセーフティが一斉に解除された音が響き渡る。
その直後…
ドォン!!?
とんでも無い爆音が外から聞こえ、地が大きく揺れた。そのあまりの衝撃に敵はバランスを崩し、混乱していた。
「右半分!」
「了解!」
俺はユキに指示し、一気に駆け出した。まずは指揮官の男に肉薄し、右ストレートを顔面に叩き込む。指揮官はその衝撃で体を倒していき、その倒れ行く男から拳銃を奪い取る。
ダァンダァンダァンダァン!
奪い取ってすぐ4発撃ち込む。その4発の弾丸はそれぞれ軍人の足を貫き、膝を着かせる。そこにそれぞれ蹴りを1発ずつ入れ、意識を刈り取った。
「こ、こいつら強え!?ぶべらっ!?」
「お前で最後だよクソッタレ」
俺が5人倒す間に、ユキは既に10人目を倒していたようだ。同じタイミングで動いた筈なのにこの差は何なのか。
「クリアだな。ビリー、無事か?」
倒れているビリーを抱き上げる。かなり痛めつけられていたらしく、至る所から血を流して入る。
「……シキ……すま…ない……おれ…は…お前…を……」
「わかってる。もういい。今治療するから、少し黙ってろ」
「わる…い…」
俺は鍼を取り出し、免疫力を活性化させるツボを押し、さらにそこへ氣を流し込む。五斗米道流の治療術だ。これで出血を抑えて、痛みも大分和らぐだろう。
「マズイぞ士希、多分さっきの銃声で衛兵が何人かこっちに来る」
ドアの陰から外の様子を伺っていたユキが静かに言った。その手には既に銃が握られていた。
「もうすぐ終わる……よし!とりあえずここまでだ。移動するぞ」
俺はビリーを担ぎ、ユキを先行させて部屋を出た
「見つけたぞ!反乱者だ!」
その直後に衛兵がアサルトライフル担いでやって来た。見つけるなり味方を呼んで撃ってくるあたり、全力で殺しにかかってきていやがる。
「チッ!」
ユキも敵から奪ったライフルで牽制するも、敵の数が多過ぎて減る気配がしない。
「おいおい、咲希の奴は何してやがる!?もっと敵引きつけとけよ!」
ユキに同感だ。ちょっと文句言ってやる
《おい咲希!こっちの攻撃が激しい!どうなってんだよこのバカ!》
《男が情けねぇ事言ってんじゃねぇ!こちとら、久々に暴れられて狂っちまいそうなんだ!これで勘弁してくれ!》
その数秒後、巨大な氣弾が通路に直撃し、大爆発を起こす。その辺り一帯にいた兵士は吹っ飛び、生きている人間は痛みにもがいていた
《サンキュー咲希!引き続き暴れてくれ!》
《言われなくてもな!》
支援攻撃は頼もしいが、ちょっと考えないと、これ、俺たちも巻き添え食らいそうだな
「う…すまない、大分楽になって来た」
担いでいたビリーも、喋れるくらいには回復したみたいだな。俺はビリーを下ろしてその辺に落ちていたライフルをビリーに渡した。
「すまなかった。少し大胆に動き過ぎたみたいで、勘付かれてしまった…」
ま、俺達もその辺は人の事言えないくらい派手に動いていたからな。流石に隠し通せなかったか。
「過程は気にするな。結果だけを見ようぜ。さぁ、オルセアの官邸室に行くぞ」
俺達はビリーの誘導で官邸室まで行く事になった。上手く人気のない道を使い、尚且つ咲希が派手に暴れているのもあり、道中はほとんど敵と遭遇する事はなかった。
そして…
「ここだ、シキ、ユキ、頼む」
俺とユキで扉の両サイドに陣取り、スリーカウントで一気に扉を蹴破り、室内に浸入した。
「な!?反逆者共が!?もうここまで来たのか!?」
中には小太りの男と、彼の護衛や部下らしき者、総勢10名程がいた。護衛共が慌てて銃を構えようとするが…
「おっと、動くなよ」
俺が銃で敵の銃を弾き飛ばし、ユキがその隙を突いて脳天に銃弾を叩き込んだ。その間、僅か3秒。たった3秒で、この室内は小太りの男のみとなった。
「まさか…そんな…」
「ここまでです、父上。あなたの負けです」
ビリーが小太りの男、オルセアのブース現首相にライフルを突き付ける。ブースの表情には明確な怒りの色が見てとられた。
「ふざけるなよ小童共が!負けだと?このワシが?たった3人でオルセアを乗っ取れると思うのか!?見ろ!外には三万にもなるワシの軍隊が……!?」
ブースは外の光景を見て絶句していた。それもそのはずだろう。そこには確かに三万にもなる人がいた。だが、そのことごとくが倒れ、血を流し、動いていなかった。立っているのは一人。三万の倒れている軍人に囲まれるように、ただ一人、女がこちらを見て歪んだ笑みを浮かべいた。その体を血に染め、とても無邪気に、とても楽しそうに、笑っていた。
「ヒィッ!!?」
ブースの目には、そいつの姿がどう映ったのだろう?少なくとも、人間には見えなかったのだろう。悪魔か化け物か。大量の汗をかき、目には涙も溜めて、ガクガクと震えていた。
「で?お前の自慢の軍隊も、武器も、部下もいないわけだが?まだ負けを認めないのか?」
俺が銃を突き付け、目の前の男に問いかける。もう、こいつに未来はない。
「ワシが築き上げた、ワシだけの国が…こんな小童共に…そうだ、これは悪夢、悪夢だ…そうだとも、このワシが堕ちるなどと…」
「いえ、あなたは終わりなんだ、父よ。あなたの国は負けたのです。それも、たった3人の力によって」
何事も、終わりなんて呆気ないモノ。特に独裁者の終わりは悲惨なものだ。全てを持っていた者が一瞬で全てを無くす。そんな者がこの先生きて行ける訳も無く、最期は決まって殺されるか自殺の道を選ぶ。
「くはは…クハハハハ!終わっておらん!終わらんさ!この先も永遠に、この国はワシのものだ!ワシの悦を満たす為の道具だ!それをお前らなんぞに渡してなるものか!!」
ブースは机から拳銃を取り出し、ビリーに突き付けた。ビリーは動じず、ただそれを見つめるだけだった。
「父よ、例え俺を殺せても、もうあなたに反政府軍を止める力はない。撃つなら撃つといい。あなたには恨みしかないが、それでも父なのだ。あなたと共に地獄までの旅路も付き添おう」
「なら死ねぇぇ!!」
ダァン
雄叫びと共に弾丸は発射された。その弾丸は肉を貫き、血飛沫を飛ばす。首相席や後ろの窓に付着した血がゆっくりと流れていき、男は静かに倒れていった。
「ビリー…」
死体となったビリーの父と、それを見下ろすビリー。ブースより速くビリーがライフルを撃ち、首相を殺したのだった。
「父よ、地獄への旅路は必ず共にしよう。だが、俺はまだ死ねない。このオルセアを、より良くするまでは、絶対に」
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Sサイド サブタイトル:オルセア内戦U |
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咲希が暴れてる……なんて恐ろしいんだ。止められる者はこの世に存在するのか……(ohatiyo) | ||
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