英雄伝説〜焔の軌跡〜 リメイク 改訂版 |
〜1週間後・ラヴェンヌ村・墓地〜
ボースの復興が一通り落ち着いた後、アガットは花束を持ったティータと共に妹、ミーシャが眠る墓参りに来ていた。
「あ……」
「あんた……」
ティータとアガットはミーシャを含めた”百日戦役”で犠牲になった村人達の名前が彫られている慰霊碑の前にいるモルガン将軍に驚いた。
「おぬしらか……」
「まさかあんたがこんな所にいるとはな。どういう風の吹き回しだ?」
「なに……ただの気まぐれだ。妹御に供えるのであろう?わしはこれで失礼しよう。」
「おいおい。邪魔なんて言ってねえだろ。その花は……あんたかい?」
去ろうとしたモルガン将軍をアガットは引き止め、慰霊碑の前に置かれてある花束を見て尋ねた。
「……まあな。こんな事になるのであれば別の彩りを考えたのだが。」
「毎年、俺と同じ花を捧げているヤツがいるとは思ったが……。あんただったとは思わなかったぜ。」
「さて、どうかな……。わしもいいかげん歳だ。どうだったか忘れてしまった。」
「ヘッ、よく言うぜ。」
「クスクス……。あの、わたしもお花、供えていーですか?」
「おお……」
「ああ、頼む。」
そしてティータは花束を慰霊碑に供え、アガットと共に黙祷をささげた。
「ふう……。悪かったな、ティータ。わざわざ付き合わせちまって。」
「ううん、私も一度、ちゃんとミーシャさんに挨拶したかったですから……。ありがとう、アガットさん。」
お礼を言われたティータは優しい微笑みを見せてアガットに言った。
「おいおい。礼を言うのはこっちだろ。それに、仕事が一段落したら会わせるって約束だったしな。」
「えへへ……そーでしたね。」
「ふふ……。竜にも言われたそうだがおぬし、変わったようだな。落ち着きのようなものを感じさせるようになったぞ。」
どことなく落ち着きをみせているアガットの様子を微笑ましそうに見つめていたモルガン将軍は尋ねた。
「よせよ、まだまだ未熟さ。だが、てめぇの未熟さとまっすぐ向き合うだけの覚悟はできた気がするぜ。全てはここからだ。」
「ふむ……。……おぬしの言っていた軍という組織の弊害だが……。改めて考えたら、おぬしの言葉も一理あると思ってな。」
「あれはその……単なる八つ当たりだ。別に軍が間違ってるとかそんな風には思っちゃいないさ。」
モルガン将軍の話を聞き、かつてモルガン将軍に八つ当たりをしていた自分を思い出したアガットは気まずそうな表情をした。
「まあ、聞け。今回の顛末で分かったのが、人と組織は異なるという事だ。軍の組織力が役立つこともあれば、遊撃士のフットワークが良い結果を導き出すこともある。どちらが欠けても今回の事件は解決できなかったと思わぬか?」
「……まあな。あんたらの作戦があったから竜の居場所が分かったわけだし。」
「リシャールの言葉ではないが……オーブメントが発明されてから物と情報の流れは、早く大きくなった。それを効率的に処理するために組織というものは、巨大化しながら細分化されることを余儀なくされている。」
「……軍がその良い例だな。国境師団、飛行艦隊、王室親衛隊、王都警備隊、情報部……」
「うむ……。そしてそれは、時代の流れに対応するための進化と言えよう。そこから抜け落ちるものが少なくないとはいえ……もはや後戻りはできんのだ。」
「………………………………」
「だからおぬしは……おぬしたち遊撃士は我々とは違うやり方で守るべきものを守るといい。」
「……え…………」
モルガン将軍の口から出た意外な言葉にアガットは目を丸くした。
「互いの守るもののために時には対立し、時には協力し……そうすることで互いを補い、正しくあらんと確かめ合う。それが、わしらの関係の正しい在り方だとは思わぬか?」
「……ヘヘッ、違いない。ま、これからもせいぜい突っ込まさせてもらうからな。覚悟しとけよ?」
「フッ、それはこちらの台詞だ。軽はずみな事をしないよう日頃から心がけておくのだな。」
「クスクス……」
モルガン将軍とアガットのやり取りにティータが微笑んでいたその時
「フフ……。和やかな所を悪いが少し邪魔させてもらうぞ。」
後ろから声がし、アガット達が振り向くとそこには驚くべき人物が花束を持っていた。
「!!!」
「ふえっ……」
「おぬしは……」
花束を持っている人物―――レーヴェの登場にアガット達は驚いた。
「将軍閣下とはこれが初めてか。”身喰らう蛇”の”執行者”―――レオンハルトという者だ。以後、お見知りおきを願おう。」
「なにっ!?」
「……てめぇ……どういうつもりだ……」
レーヴェの名乗りを聞いたモルガン将軍は驚いた表情で大きな声で叫び、アガットはレーヴェを睨んで武器を構えた!
「ここは死者の眠る場所。するべきことは一つだろう。お前こそ、先日の続きをここで繰り広げるつもりか?」
「グッ……」
しかしレーヴェの言葉に言葉を詰まらせ、そして
「アガットさん……」
「……わかってる。」
心配そうな表情でティータに見られ、アガットは武器をしまった。それを見たレーヴェは慰霊碑の前に花束を供え、静かに黙祷した。
「………………………………」
「レオンハルト……”剣帝”レーヴェと言ったか。わしも死者の眠る場所を騒がしたくないのは同じだが……。ひとつ、聞かせてもらおうか。」
「ご随意に……」
モルガン将軍に問いかけられたレーヴェは目を閉じたまま促した。
「今回の事件で、おぬしは被害が大きくなりすぎないよう竜の暴走を抑えたそうだな。今も、死者を悼むためにそうして祈りを捧げている……。そんな者がどうして破壊と混沌を招こうとする?なにか……避けられぬ事情でもあるのか?」
「……フ…………竜の暴走を抑えたのは”実験”を正確に行うためだ。それ以外の意図はない。」
「だが……」
「……俺は俺の命ずるまま”結社”の手足として動いている。何者の意志にも左右されずにな。”ハーメル”の沈黙を強いられたあなた方と一緒にしないでもらおう。」
「!!!」
レーヴェが口にした自分達にとって禁句とも言える言葉を聞いたモルガン将軍は血相を変え、レーヴェを見つめた。
「”ハーメル”だと?どうしてその名前が……」
「さてと……。アガット・クロスナー。覚悟が固まったからといって実力が伴わなければ意味はない。今度は、剣が砕けるだけで済まされるとは思わないことだ。」
アガットの疑問にレーヴェは答えず、アガットに背中を見せたまま、不敵な笑みを浮かべて忠告した。
「ヘッ……上等だ。てめえこそ、いつまでも余裕ぶってられると思うなよ。すぐに追い上げてやるから覚悟してろや。」
「フッ……楽しみにしてるぞ。」
そしてレーヴェはアガット達から去って行った。
「……あのおにーさん。寂しそうな目をしてました。お祈りしている間、ずっと……」
「………………………………。おい……将軍。”ハーメル”ってのは国境を越えたところにある帝国側の村のことだよな?」
レーヴェが去った後、ティータは悲しそうな表情で呟き、アガットは厳しい表情で考え込んだ後、モルガン将軍に尋ねた。
「おぬし……その名を知っているのか。」
「戦争前は、ラヴェンヌ村とたまに交流があったはずだ。今じゃあ、まったく途絶えちまってるらしいが……。どうしてその名前が出てくる?」
「………………………………。……その事についてはわしの口から言うことはできん。国家間の問題に絡むのでな。」
「なに……!?」
「ただ、これだけは言える。もしも、わしの想像が当たっているのであれば……。……あのレーヴェという男、よほどの地獄を見たに違いない。」
自分の話を聞いたアガットが驚いている中、モルガン将軍は再び慰霊碑を見て、重々しい雰囲気を纏わせて呟いた………………
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第56話 | ||
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