英雄伝説〜焔の軌跡〜 リメイク 改訂版 |
〜遊撃士協会・ボース支部〜
その後ギルドに戻ったアガットとティータはラヴェンヌ村であった出来事を話した。
「そっか……。そんな事があったんだ。」
「”剣帝”レーヴェ。とんでもなく大胆な男ね。」
(やはり”剣帝”は”ハーメルの惨劇”の……)
(奴が”結社”にいる理由は”ハーメル”を見捨てた復讐か……?)
話を聞き終えたエステルは複雑そうな表情をし、シェラザードは気を引き締め、アーシアとフレンは真剣な表情で考え込んでいた。
「ああ、まったくだ。そんな訳で、みすみす敵を見逃しちまってな……。すまん、弁解の余地もねえ。」
「いや、その場合は見逃すのが正解じゃろう。墓地で騒ぎを起こすわけにもいかんからな。それにしても……その『ハーメル』という名は妙に気になるのう。」
「その名前、前に女王宮でロランス少尉と戦った時にも出てきた気がするのよね。クローゼ、レイスさん、何か知らない?」
「そう言えばあの時”ハーメル”の名を聞いた女王様、血相を変えていたわね。絶対知っているでしょう?」
アガットの謝罪をルグランが制し、エステルは事情を知っていそうなクローゼとレイスにレンと共に尋ねたが
「いえ……残念ながら。たぶんお祖母さまは何かご存じだと思うのですが……。国家間の問題と言うからには教えて下さらないかもしれません。」
「……すまないが、私もだ。お役に立てなくてすまないね。」
(国家間の問題か……まさかその村が戦争のきっかけになったとかじゃねえだろうな?)
(ありえない話ではないだろうな。俺達の時を考えれば、な。)
答えられない事に申し訳なさを感じるクローゼは辛そうな表情で答え、一瞬複雑そうな表情をしたレイスはすぐに表情を戻して答え、小声で尋ねられたルークの言葉にバダックは重々しく頷いた。
「そっか……。オリビエはどう?エレボニアの村なんでしょ?」
「ふむ……『ハーメル』か。それはまた奇妙な名前が出てきたものだね。」
エステルに尋ねられたオリビエは不思議そうな表情で答えた。
「奇妙?」
「『ハーメル』というのは帝国最南端にあった村だが……現在、その名前は帝国の地図には載ってないんだ。」
「ええっ!?」
「載ってないって……どーしてなんですか?」
オリビエの答えを聞いたエステルは驚き、ティータは尋ねた。
「何年か前に、山崩れがあって、かなりの死者を出したそうでね。今では廃村となっているらしい。」
「廃村……」
「……そうだったのか。」
「で、でも、かなりの死者が出たって……」
「軍が災害救助に出動したから詳しい話は知らないんだが……。一説では、全滅に近かったと言われているそうだよ。」
「ぜ、全滅……」
「確かに、ひどい山崩れだと村が丸ごと呑み込まれることもあるらしい。『山津波』と言うんだそうだ。」
「なるほど、言い得て妙ね。でも、それがどうしてリベールの女王様と将軍に関係してくるのかしら……」
「さて、今のところ全く見当も付かないねぇ。」
エステル達が話しあっている中、オリビエは疲れた表情で答えた。するとその時
「山崩れ……?とてもそんな事が起こったようには見えなかったよ?」
ソフィが首を傾げて答えた。
「え……」
「まさかソフィはその”ハーメル”って村に行った事があるのか?」
ソフィの答えを聞いたエステルは呆け、ルークは尋ねた。
「私とジューダス、そしてバルバトスがこの世界に現れた最初の場所がその”ハーメル”という廃村だったの。」
「そ、そうだったんだ……」
「ちなみに”とても山崩れが起こったようには見えない”ってどういう意味かしら?」
ソフィの話を聞いたエステルは驚き、レンは不思議そうな表情で尋ねた。
「私が見た光景は焼け焦げた廃屋と木だけの廃村で、見晴らしのいい場所にお墓の代わりの大きな岩があって、傍には花束が供えられていたよ。多分、ヨシュアが供えたんじゃないかな?ヨシュアは”ハーメル”の事を知っていたし。」
「ヨシュアが……」
「という事はヨシュアさんがその”ハーメル”という村の出身で、ご家族を亡くされたのでしょうか……?」
ソフィの説明にエステルは呆け、クローゼは不安そうな表情で呟いた。
「ヨシュアといえば……確か君達の話にあった仮面をつけたシスター―――ステラ・プレイスだったね。彼女は”剣帝”の幼馴染でヨシュアと顔見知りである可能性が高いとの話だったね。それらを考えると恐らく”剣帝”やそのシスターの出身も……」
「――――”ハーメル”という事になるな。」
「その”ハーメル”に一体何があるのかしら……?」
レイスの言葉に続くようにジンは静かな表情で答え、レンは考え込んでいた。
「………………………………。まあ、今は気にすることではないでしょう。」
「ふむ、わしの方から帝国のギルドに問い合わせてその辺りの事情を聞いておくか。まあ、『ハーメル』についてはそのくらいにしておくとして……。まずはお前さんたちに今回の報酬を渡すとしよう。」
エステルも少しの間考え込んだが答えは出ず、ルグランはエステル達にそれぞれ報酬を渡した。
「今回の竜騒ぎは本当にご苦労じゃったな。まさに遊撃士協会の面目躍如といった感じゃぞ。」
「えへへ……そっかな?」
「だが、『実験』そのものは阻止できなかったからな……。あんまり威張れやしねえさ。」
「それに、これで王都を含めた都市全てで『実験』が行われたことになるわ。次に”結社”がどう動くか、すぐに見極めないといけないわね。」
ルグランの賞賛の言葉にエステルは照れ、アガットやシェラザードは真剣な表情で答えた。
「それなんじゃが……。お前さんたち、ここらで少しばかり骨休みをせんか?」
「へ……」
「骨休みって……どういうことだ?」
ルグランの提案にエステルは驚き、ルークは尋ねた。
「そのままの言葉じゃよ。ルーアン地方から始まって立て続けに5つの事件じゃ。ここらで休んでおかんと身も心も疲れ果ててしまうぞ。」
「で、でも……」
「また連中が何か起こしたら俺たちが出向く必要がある。オチオチ休んでられねぇと思うんだがな……」
「今回の竜の一件で王国軍の警戒も厳しくなった。その分、こちらに余裕ができたと考えてもよかろう。それに……どうやらクルツたちが目星を付けたらしいのじゃ。」
「目星というと……”身喰らう蛇”の拠点!?」
ルグランの話を聞いたシェラザードは血相を変えて尋ねた。
「うむ、数日中に確かな情報が入りそうじゃ。もし、連中のアジトが判明すれば一気に忙しくなるに違いない。じゃから休めるうちに休んでおいて欲しいんじゃよ。」
「そっか……」
「ふむ、そういうことならお言葉に甘えさせてもらうべきだろう。コンディションの調整も遊撃士の仕事と言えるからな。」
「確かに……」
「ここいらで軽く一休みも悪くねえか。」
「ここんとこ、ずっと働きづめだったしな。」
「うむ。休める時に身体を休め、次の戦いに備えておくべきだな。」
ルグランの話を聞いたエステルは頷き、ジンは納得した表情で言い、シェラザードとアガット、ルークやバダックもジンの意見に同意した。
「うふふ、どうせなら今回の休みを機会に新しく仲間になった異世界からのお客様と交流するのもいいんじゃないかしら?」
「そうね。互いの事を良く知っておくべきだし。」
「ああ、チームワークを固める為にも良い提案だな。」
ソフィを見つめたレンの提案を聞いたアーシアとフレンはそれぞれ頷き
「みんなと休暇、私も楽しみ。」
(フフ、正確に言えば私も”異世界からのお客様”になるだろうね。)
ソフィは微笑み、レイスは心の中で苦笑していた。
「フッ、いい感じに話がまとまってきたじゃないか。しかし、ご老人。骨休みを勧めるということは何か心当たりがあるのかな?」
周りの休暇に賛成の様子の空気を読み取ったオリビエはルグランに視線を向けて尋ね
「ふぉふぉ。鋭いのう。実は、メイベル市長からいい物を貰っておるんじゃよ。竜事件の報酬とは別にな。」
オリビエの質問にルグランは笑いながら答えた。
「市長さんから……いい物?」
そしてルグランはエステルに何かのチケットを渡した。
「ずばり、南の湖畔にある”川蝉亭”の特別チケットじゃ。お前さんたち全員が3日ほどタダで泊まれるぞ。」
「ほ、ほんと!?」
「おお……。さすがは名高きボース市長だ。」
「ふふ……先輩らしい心遣いですね」
「えとえと、それって……。みんなでどこかに出かけてお泊まりするってことですか?」
ルグランの話を聞いたエステルは明るい表情で驚き、オリビエとクローゼは感心し、ティータは嬉しそうな表情で尋ねた。
「ふふ、そうよ。ヴァレリア湖畔にある眺めのいい宿屋さんでね。お酒も料理も美味しいし、舟遊びとかも出来ちゃうわよ?」
「わぁ……!」
「うふふ、一時の休暇を過ごす場所として最高の場所ね♪」
「ほう……そのような場所があるのか。」
「ふむ……そいつは中々良さそうだ。」
「ヘッ、確かにあそこならいい気分転換にはなるかもな。」
「フフ………楽しみですね。」
「疲れを癒すには最適でしょう。」
「うんうん!どうせだったら思いっきり羽根を伸ばしちゃおう!」
「―――失礼しますわ。」
エステル達が休暇について話し合っていたその時メイベル市長がマリアンを伴ってギルドに入ってきた。
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第57話 | ||
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