とある不死鳥一家の四男坊 〜その婚姻をぶち壊せ〜 その3(終) |
「……ふ、効かない。効かないぞぉ!」
半人半魔と言えども、俺にだって半分はフェニックス家の血が流れている。
そのおかげで炎に関しては高い耐性を持っており、並大抵の炎では「少し暑いかな?」程度でしかない。
同じフェニックス家のライザーが相手ならば得意の炎魔法を使ってくるだろうことも考えて、アクセサリー等に炎耐性の魔法を事前に仕込んでおいたからそちらの方も無事だ。
……生憎とスーツは直近でようやく届いたもので、仕込む暇はなかったが。
「ライザー・フェニックスよ、確かにお前の炎は熱い。
しかし! 今俺の心は、お前の炎よりも熱い嫉妬の炎で燃えたぎっている!
……スゥ……ハッ!!!」
すっと息を吸った後に、気合とともに一喝。
瞬間的に魔力を放出し、周囲の炎がはじけ飛ぶ。
魔力が会場を突風となって吹き荒れ、火の粉が舞い散る。
「……で、でたらめな」
まるで堪えていないかの様子に、不気味なものを感じたのかライザーは一歩俺から遠ざかる。
(……とはいえ、全く聞かないわけではないけど)
周囲にもかろうじてわかる程度という、若干ではあるが俺の体にも火傷ができている。
大した痛みはないが、一瞬熱湯を触った後みたいに火傷を負った肌がヒリヒリする。
(流石はフェニックス家の炎魔法といった所か。耐性があっても地味に熱い)
しかし、それも通常の悪魔より高い自己回復能力のおかげですでに癒えている。
この様も周りに見えていたようで、絶句している。
「さぁ、今度はこちらの番だぞ? ライザー・フェニックスよ……歯を食いしばれぇい!!!」
「ッ! ぐぁ!?」
俺の言葉に反応して回避しようとしたライザーだが、瞬動を使い瞬時に近付き回避などさせる間もなく強化されたままの拳で顔面を殴打する。
殴られた勢いに耐えられずふっ飛ばされると、壁に叩きつけられ崩れ落ちる。
普通の悪魔ならば下手すれば死んでしまうかもしれない、そう周囲に思わせる程度の威力はあっただろう。
(まぁ、こんな程度で死ぬようなタマじゃないんだけど)
叩きつけられたライザーだが、何事もなかったかのようにスッと立ち上がる。
本来なら殴ったところが酷い痣になっているだろうが、あのイケメン面にはその痣すらない。
殴った勢いで切れたのか口から血が流れているが、傷自体はすでに治ってるのだろう。
これこそがフェニックスの不死性がなせる業なのだ。
並大抵の怪我ならば数秒もせず、四肢の欠損クラスであっても本気を出せば十秒にも満たない時間で復活させて立ち上がってくる。
レーティングゲームでこれをされて、さらに兄貴みたいな嫌味面までされたら、対戦相手は精神的に劣勢においやられてしまう者も多いのではないだろうか。
……とはいえ、別に痛みがないというわけではない。
回復力が高く瞬時に完治できると言えど、怪我を負った事実に変わらないのだから。
欠損クラスだと痛覚が麻痺して痛みが感じ難くなってしまうが、先程の一撃は体の芯に響くように、少し工夫して殴ってみた。
その痛みも今は収まっているだろうが、だからと言ってまた受けたいものでもないだろう。
ライザーは目を細めて俺に対しての警戒を強めていた。
「……貴様ぁ、本当に何者だ? あれだけの戦闘ができる上に、俺の炎でも対してダメージを受けていない。
一体どこの悪魔の差し金だ?」
「あんたの嫁さん(予定)のお兄さんです」と、そう言ってみたいけど自重する。
……個人的に、ライザーにこんな真剣な表情ができるということに吃驚だ。
いつもこんな表情をしていれば、もっと女の子にもてるだろうに。
「差し金も何も、私は私の意思でここにいる。
それにさっき自己紹介はしたはずだが? 私はしっとマスク!
世の中のモテない男たちの想いを背に、嫌がる婦女子を無理やり手籠めにしようとしている貴様に天罰を下さんとするものだ!」
「……」
もちろんそんなことを聞きたいわけでないのはわかっているが。
苛立った様子のライザーは無言でその身に宿る膨大な魔力を解放する。
どうやら今度こそ本気で俺を始末する気のようだ。その背中に炎の翼を広げて飛びあがり俺を見下ろす。
「……もういい、貴様がどこの誰であろうと関係ない。
貴様はこの俺が! 自らの手を持ってして消し炭にしてくれる!」
「……ふ、できるものならな」
戦いに巻き込まれたらただでは済まないとわかっているのか、ライザー眷属は俺達から離れて怪我で動けない者の介抱にむかっている。
やはりというか、先ほどまでは手加減していたようだ。現在のライザーから感じる力は、まさしく上級悪魔のそれだ。
ここからが本番といった所か。
いくら耐性があるといっても、流石に本気になったフェニックス家の炎魔法をまともにくらえば熱い程度では済まない。
俺は油断なく神経を研ぎ澄ませる。
(……ん?)
そこで、俺はこの会場に向かってくる魔力の動きを感知した。
(これは……もしかするか?)
「……ふ、どうやら私の出番もこれまでのようだ」
「……なに?」
「ここから先はお前の相手に相応しい、強く気高い嫉妬心を持った者が相手になるさ」
何を言っているのか、そう言いたげなライザーだが……。
「部長! ……って、な、なんだこりゃ!?」
新しくこの場にやってきた乱入者に、会場の視線が集まった。
彼は本来行われている式とは違うこの雰囲気に、戸惑っている様子だった。
「ッ! イッセー!?」
その乱入者の名前を呼ぶ妹さん。
(ようやく来たか、主人公)
兵藤一誠。
俺なんかと違い、真にこの場所に乱入するに相応しい人物だ。
俺がここにきてそれほど経っていないはずだが、精神的な疲労感からかなり長い時間ここにいたように感じる。
まぁ、それもこれで終わりだ。
後は彼にバトンを託せばいい。
「ふむ、中々いい嫉妬の心を感じる」
「へ!?」
いつの間にか解かれていた周りの結界。
それによる遮りもなくなったことで、すでに道はできている。
一誠の隣に一瞬で移動し言葉を紡ぐ。
「君が来るならば、私がわざわざ来る必要もなかったかもしれないな」
「え、裸? てか……え? あ、あんたは一体?」
「……ふ、私はしっとマスク。愛と正義と希望の戦士、しっとマスクだ。ここから先は君に任せよう」
「な! 貴様ぁ! 逃げるのか!?」
俺の行動に、いきり立つライザー。
あそこまで殺る気満々なところでバトンタッチするのも彼に申し訳ないが……まぁ、大丈夫だろう。
俺はライザーの言葉には反応せずゆっくりと扉に向かっていく。
「しかし少年よ、覚えておくといい。光あるところに影があるように、アベックあるところにこの私、しっとマスクは必ず存在している。
少年がいつか私の目に留まるようなアベックになってしまったその時こそ。
私の、世のモテない男たちの嫉妬の力が天罰となり、少年に降りかかるだろう」
「……え? は?」
「……ふっ。きっと、そう遠くない未来。また君と会うことになる、そんな予感がする」
「……お、おう?」
……いや、そんな予感するわけないし。
というか、もう金輪際しっとマスクなんてなるつもりないし!
言っていてまた気恥ずかしさが湧き上がってきたし、さっさとこの場から離れるとしよう。
俺はいかにもそれっぽく「……ふっ」と笑みをこぼし、もう何も言うことはないという雰囲気を残してその場を後にする。
「逃がすかぁ!」
「え、ちょ!?」
「おっと、危ない」
と、流石にそれで流せるライザーでもなかったようだ。
俺が立っていた場所に火球をぶち込んでくる。
さっきはパフォーマンスとしてわざと受けたけど、流石にさっきと違ってガチギレしてるライザーの炎は、そうやすやすと受けてやるつもりはない。
来るだろうなともわかっていたし余裕をもって避けてやると、床に当たり盛大に爆発する。
……何やら近くで一誠の悲鳴も聞こえたけど、きっと余波を受けた程度だろう。
爆発により巻き上がった煙に紛れて、全速力でその場を後にする。
「さらばだライザー・フェニックスよ! 私の分もそこの少年がお前に天罰を下すことだろう!」
「逃げるな! 俺と戦えっ! ……くそっ、覚えておけよ! 貴様は必ず……! ……ッ!!!」
そう言い残し、ライザーが何か言っているようだが無視して式場から離脱した。
後は一誠と、レッドさんに丸投げだ。
レッドさんの頼み通り、一誠が来るまで時間稼ぎをしたのだからもう十分だろう。
式場から出ると人気のないところに移動する。
バッグから着替えを取り出して着替え、ようやく一心地着くことができた。
ほぼ裸状態で出歩いていたら、いくら冥界だろうと変態扱いは免れない。
婚姻をぶち壊せば終了じゃない。しっとマスクから着替えて、誰にも気づかれずにオルトに戻ることができてようやく終了なのだ。
「……」
と、一心地着いた今だからこそ、さっきまでの自分を思い出してしまう。
(……今日は飲もう、飲んで忘れよう)
良いことがあった時もそうだが、嫌なことがあった時も酒に限る。
俺はトボトボとこの時間に開いている酒場を探して歩き出した。
こうして、俺のこの世界における黒歴史の一つが、ようやく幕を下ろしたのだ。
後からチャットで知ったことだが、あの後一誠はライザー相手に辛くも勝利することができたとか。
うろ覚えだけど、確か十字架とか使ったんだったか?
俺とは違って一誠は普通に悪魔で十字架とか聖なる力が籠った物は天敵だというのに、無茶するものだ。
少しだけだが戦ってみてライザーも決して弱くないということが分かっていただけに、それに勝つことができた一誠も流石主人公といった所だろうかと感心した。
また別の話だが、ライザーが独自にしっとマスクを探すように手配しているらしい。
よほどお怒りらしくライザー自ら捜索に乗り出しているようだ。
そのおかげというかなんというか、趣味の女遊びも最近はなりを潜めているという。
そのことは女性にとって、また家族にとっては喜ばしいことだろうけど、当人の俺からしたらたまった物じゃない。
なぜにわざわざ上級悪魔クラスの奴に狙われなければならないのかと。
まぁ、もうしっとマスクなんてやる気はないから、俺が襲われる心配もないだろうけど。
またまた別の話ではあるが、その式場に参加していた悪魔の中で、何人かがしっとマスクに脅えて自身の警備をより密にしだしたとか。
……しっとマスク怖がって警備増やすくらいなら、変なことやらなければいいのに。
もう現れないだろう相手のために、なんという金の無駄遣いだろうと呆れるばかりだ。
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3話目です。 |
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2015 | 1968 | 0 |
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