双子物語68話
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双子物語68話

 

【叶】

 

 部活の帰りに生徒会に寄っていた私は後輩の子や名畑たちと何気ない話を

しながら時間を潰しているといきなり携帯から音が鳴って見てみると先輩からの

メールが着信していた。

 

「え、何だろう」

 

 いつもの報告以外での連絡は珍しいから、ちょっと冷や冷やしながらメールを

開いてみると、どうやら夏休みのお誘いらしい文章が並んでいた。

 

 私のため、少し厳しくしている先輩がこうして誘ってくることなんてあるのか

ちょっとの間、訝しく見ていると私の背後に名畑が回りこんでから覗き込むようにして

聞いてきた。

 

「どうした、難しい顔をして」

「いや、先輩から…」

 

「またフラれた?」

「んなことないわ!!」

 

「ははっ、冗談だから。本気にすんなよ」

「くそう…」

 

 先輩がいない今はルームメイトでもある名畑は周りが気を使うような雰囲気に

なっている中でも平気で冗談を言ってくるから困る。

 

 いや、でもそういう相棒だから気軽に相談できるというメリットもあるのか…。

 

「あのさ、夏休みのお誘いがきたんだけど」

「おっ、願ったり叶ったりじゃない。何で悩んでいるのさ」

 

「いや、卒業のことを思い出して。先輩ってこういう時にこういう話持ち出すかなって」

「まぁ、そういう気分なんじゃない。それか、何か大事な話があるか」

 

「大事な話…?」

「叶を完膚なきまでにフッちゃうとか?」

 

「や、やめろぉ…!」

「だから、冗談だって」

 

 フラれたときのことを思い出して少し視界が滲んできてしまうも名畑は何でも

なさそうに笑う。そりゃ、当人じゃないから気楽なのかもしれないけれど。

 

「気にしすぎだって。先輩が持ちかけた話なんだからそんな理不尽なことしないの

叶が一番知ってるはずでしょうに」

「うん…」

 

「だからせっかくのチャンスなんだからここは受けておけばいいの、わかる?」

「そうだね…」

 

「ほらっ、そんないじけた顔しないの!」

 

 バンッ!

 

 名畑がいきなり私の背中を強く叩いてきた。気合を入れるためなのだろうか

いきなり襲い掛かってきた衝撃にびっくりしつつも、つっかえていた気持ちが

少しスッキリしたような気がした。

 

「うん、私がんばるよ。ありがとう、名畑」

「ん、その意気だよ」

 

 私の言葉に嬉しそうに笑う名畑はどこかかっこよくなっていた。

今の名畑なら男女共にモテそうな気がする。元々見た目は良いのだから。

 

 先輩にメールを返信して一息吐くと、名畑は少し呆れたような顔と言い方をする。

 

「了解です。と」

「まったく、卒業してからもあんなに好き好きオーラ出していながら迷うなんて」

 

「え、私そんなの出してた!?」

「時々先輩の写真見てにやけてるのなら知ってるけどね」

 

「うー・・・」

「心配しなくても、あんたのがんばりはみんな知ってるんだから安心しなさいな」

 

「ありがとう、名畑。さすが私の親友!」

「あ・・・そうね」

 

 嬉しくなって私がそういうと名畑は少し歯切れの悪い返事をして視線を外した。

その理由は私にはわからなかったけれど、その後すぐに元の名畑に戻ったから

ホッと安心していた。

 

 そして気付くと周りにいた後輩ちゃんはいなく、その場は私と名畑だけに

なって外の色もすっかり変わってしまっていた。

 

「あれ、もうそんなに時間経ったの!?」

「うん、叶が時間かけて悩んでいたからね」

 

「名畑の仕事は?」

「もうとっくに終わってるから叶の相手してたんじゃない」

 

「あ〜、ごめんなさい」

「いや、「親友」の役に立ててよかったよ」

 

 ちょっと親友という部分だけ語気が強くなっていたけど、私はそれ以上に

先輩に返事をしたときの感覚が残っていてそっちの方が気になっていた。

今先輩は私のことどう思ってるのだろうって。

 

 後々になって心配してくれた名畑には悪かったなぁという気持ちが出たのだった。

 

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**

 

「あぁ、小鳥遊ちょっと待て」

「はい?」

 

 部活の後、顧問と話をして職員室から出ようとした途中で担任の先生に声を

かけられて進路のことについて聞かれた。

 

「この前言っていた大学のことなんだがな」

「はい!」

 

「小鳥遊の成績だと少し厳しいかもしれないな」

「ええ!?」

 

「いやな、悪くはないんだけど。もう少し良くしないとな」

「そんなぁ…」

 

 今の高校に入るだけでもがんばったのにまたあの地獄のような日々を過ごさなきゃ

いけないなんて…。がっくりと肩を落とすと他人事のように先生は笑いながら言った。

 

「ははは、部活に勉強に大変だなぁ、小鳥遊。がんばれよ!」

「もー!笑い事じゃないです!先生のいじわる!」

 

 少し涙目だったかもしれない。もやもやしていた気持ちを思い切り先生にぶちまけて

から職員室を出て、しばらく歩いてから壁に背を預けてズルズルと下へとずれおちていく。

ずっと恋愛に部活にってかまけてた代償が来てしまったか…。

 

 深く溜息を吐いてから、私は歩き出した。生徒会で名畑に相談するために今やるべき

ことをさっさと終わらせたいと思ったからだ。

 

「絶対に負けないんだから…」

 

 誰に言うわけでもなくボソッと私は小さくしかし力強く呟いて歩いていった。

 

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***

 

「順調かと思いきや、今度は勉強ねぇ…」

「うぅ…」

 

「まぁ、私もついてるし。少しがんばれば大丈夫じゃない?

そんな悲観しなくても」

「そうだけどさぁ…」

 

「わかるけどね。私もあんたと一緒にがんばったときは地獄のように感じたさ」

「でしょう!?」

 

「でもねぇ、それはそれ。これはこれだから。今がんばらないと後悔することになるよ」

「くそう、名畑のくせに正論をぅ・・・」

 

「見た目ちゃらいのに予想以上にできるのがそんなに悔しいか?」

「うぅ・・・」

 

 私の反応に愉快そうに名畑は笑っていると、ちょっとドヤ顔で私を見つめてきた。

 

「人は見た目によらないってこのことを言うんだねぇ」

「そうだね、今のは私が悪かったよ・・・。ごめん」

 

 見た目でそんなこと言うのは差別や偏見の部類だから。私はまさにそんな目で

見られる人間なのに相手にそういうことを言ってどうすると反省した。

 

「別に気にしてないよ。時間がある時にでも一緒に勉強するか」

「ありがとう、名畑」

 

「いいよ。私だって必要なことだろうから」

 

 そう言って名畑はちょっと俯いている私の頭をやや乱暴にわしわしと撫でてきた。

そんなに強くされて少し痛くても何だか親友の優しさが心に沁みた。

 

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***

 

【名畑】

 

 叶の大好きな先輩がいなくなってから私の叶に対する気持ちがすごく強くなっていって、

それから大した時間をかけずに私は叶に告白みたいなことをした。

 

 その結果、私は見事なまでにフラれた。本当に少しの望みもないくらいに

叶は雪乃先輩に対しての気持ちが揺らいではいなかった。

…へこんでいたけれどね。

 

 そんな健気な親友を見て私は自分の気持ちを諦めて親友を応援しようと決めた。

すぐに切り替えられるような器用な性格はしていないしおめでたくもない。

だからしばらくは苦痛だろう。私が叶を本当の意味で応援できるようになるまでは。

 

 私の気持ちを知るか知らないか、もしかしたら告白自体気付いてなかったのではないか

という可能性も出てくるほど叶は何度も何度も私の前に現れては疲れた〜って言って

抱きついて甘えてくるのだ。

 

 私はもう…煩悩が飛び出してきそうになって叶を襲ってしまいそうになるほどだった。

それも春過ぎて少しずつ暑くなる頃にはだいぶマシになってきた。

 

 そんな時に叶はまたも私にすごく近づいて相談してきた。進路に対してのことだ。

成績が少しだけ足りないから勉強を付き合って欲しいと泣きついてきたが普通だったら

そんなの知ったこっちゃねえ、である。

 

 だけど、いまだ残る好きという気持ちと悲しそうにする叶を見たくないという

気持ちから私は叶の勉強相手をすることにした。

 

 そんな叶に私はちょっとひねたことを言ってみた。

 

「あんたも生徒会入っていれば後々楽になったかもしれないのにねぇ」

 

 すると一瞬、その手があったかという目をしたけどすぐにその考えを消して

でれっとした顔をしながら言葉を返してきた。

 

「私不器用だし、恋と部活の両方ができなかった時点で無理だね〜。

それに私は柔道一筋で行こうって決めたから、中途半端にはもうしたくない」

「もう、真面目に答えちゃって。冗談に決まってるじゃない。叶がはいったら

生徒会は大打撃よ」

 

「どういう意味!? ひどい!」

 

 ちょっと頬を膨らませて本気じゃない怒り方をする叶が可愛かった。

ぽこぽこと叩いてくるけど全然痛くないし、そんなくすぐったい気持ちになる時間が

ずっと続けばいいとおもっていたけど、現実はそうじゃないから…。

 

 私はふざけている叶を軽く叱って勉強に戻そうとした。

 

 その時、私の脳裏に私から叶を奪っていった先輩の顔が浮かんできて、

あぁ、こういう時間を過ごしたんだろうか。とか、叶をコントロールするのは

大変だったろうなという気持ちが出てきた。

 

 少し余裕が出てきたということなのだろうか、何だか叶を見て微笑ましくて。

先輩の気持ちがわかったような気がした。当時、憎らしかったあの感情が今では

驚くほど弱くなっていることに気付いた。

 

 そして、それが私の新たな一歩を踏み出せたんだなと実感できた気がして

何だか不思議な気持ちになっていた。

 

 こんな気持ちになれるなら無理して付き合えるまでがんばらなくても

この親友というポジションを維持できた方がいいかもしれないと思ったのだ。

前まではこれはただの言い訳に過ぎなかったけど、今だったら本当にそれで

良いと思えるのだった…。

 

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***

 

【叶】

 

 夏休みに先輩に見てもらってもよかったけれど、一度失望されてそんな甘えを

見せたらマイナスになりかねないと後で思い直した私は時間がある時に名畑と一緒に

寮の部屋で勉強をしていた。

 

 お互いに苦手な教科がばらけていたから、教えあうのはそんなに大変ではなかった。

が、思った通りに休む時間があまり取れなくて精神的な疲れが溜まっていく。

これだったら体だけ動かしている方がだいぶ楽だった。

 

「なーに突っ伏してんの」

「きゅ、休憩を…」

 

「もう、情けないなぁ。部活してるときの顔と全然違う。別人みたい」

「しょうがないでしょ、勉強したくないんだから」

 

「そんな子供っぽい…。こんなの後輩たちに見せたらイメージ下がっちゃうね」

 

 のびてる私の頬をつんつんと突きながら名畑は呟いた。

 

「どういうこと?」

「知らないの? あんた後輩たちの間で随分人気なのよ。ちっこいけどその辺の

男より力強くてかっこよくて素敵って」

 

「うそだ〜〜」

 

 そんな話聞いたことすらない。名畑が私にやる気出させようとしてるなら

ハズレだよ。そういう風に切り出すならまず先輩の話でないととか頭の中で

想像していると。

 

「嘘なんて吐いたってしょうがないしょ。全部ほんと。ただ、本人に聞かれると

邪魔になるからってこっそりファンクラブ的を発足してるよ」

「それを何で名畑が知ってるの?」

 

「生徒会はあらゆる情報を収集して、いざという時の抑止力を保持しております」

「あ、なるほど」

 

 知らないことがあって何かあったら大変だろうからどんな小さいことでも情報は

持っていたかったのだろう。その中の一つがその話だったか〜。

 

「はい、がんばります」

「よろしい」

 

 先輩だって体が弱くて辛いことも多かっただろうに、健康的な私がこんな弱気で

どうするんだ。後輩にそんな素振りも見せなかったんだからって思い出して

私は自らを奮い立たせてやる気を出させた。

 

「名畑、もう少し付き合って!」

「最初からそのつもりよ…」

 

 やれやれと苦笑して私を見る名畑。

それからしばらく勉強を続けて、休憩の時にふと前のことを思い出していて

机の上にアゴを乗せながら目の前にいた何でも相談できる親友に聞いてみた。

 

「私があの時から部活に力入れて全国レベルまでいってたら先輩どう思ってくれたかな」

「そりゃ喜ぶでしょうよ」

 

「うん、今もそこに近い状況だけど。大学にいっても満足いくまでは柔道続けたいんだ」

「ふーん・・・」

 

「そして今度は先輩の前でしっかりした私を見せたいなぁって」

「そんな立派な目標あるならもっと早く気付きなさいよ」

 

「えへへ」

 

 私の言葉を聞いて嬉しそうに笑いながらも頭をちょっと強くポンポンと叩かれた。

ちょっと痛いけど、その態度や行動の暖かさに涙が出そうになった。

もう少しだけ甘えて、これからもっとがんばると心に誓うのだった。

 

 

説明
表紙左・雪乃 右・叶。
叶視点。雪乃が夏休みのお願いを叶にしたところからの続きです。変な距離を取ってしまったばかりにどう接していいかわからない雪乃と叶。しかしそれもそう長くはないでしょう。あと半年ですし、半年(話の中では)


元気さ明るさ可愛さ等が上手く表現できてれば良いと思います。
それにしても名畑もとても健気でだんだん可愛いからかっこよさまで出てきそうな勢いですね、ちょっと可哀想なこともしてしまいましたが彼女にも良い出会いがあることでしょう♪
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